5パーセントの奇跡~嘘から始まる素敵な人生~(2017年 ドイツ)

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ DVD
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ドイツのギムナジウム(※ヨーロッパの中等教育機関)に通う、真面目で成績優秀な学生サリヤ・カハヴァッテ(コスティア・ウルマン)は、学業の他に、ドイツの湖畔に建つレストランで実習生として働いています。その働きぶりは、実に優秀で、先輩の後についてではありますが、給仕を任される程でした。ところが、ある日、そんなサリヤの順風満帆な日々に暗雲が立ち込めます。休日に、自宅で、スリランカ人の父、ドイツ人の母・ダグマール(シルヴァナ・クラパチ)、妹・シーラ(ニラム・ファルーク)と一緒に食事をしている時に、突然、視界がかすんだのです。別の日に、学校の授業で黒板の前に立った時も、手元にあった自筆のメモが読めず、授業を見守っていた教師から「ウケ狙いか?」と茶化されてしまいます。

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ Blu-ray
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サリヤは、両親に付き添ってもらう形で、眼科を受診します。早速、医師が視力検査を行うのですが、どんなに大きな文字を示しても、どんなに大きなランドルト環(※視力検査で見かけるCのような形のもの)を示しても、サリヤは、全く見えません。検査の結果、サリヤは、先天性の疾患を抱えている事が分かります。先天性の疾患の合併症により、急激に網膜剥離が起こっていたのです。既に、視力の80%が失われ、視神経も損傷を受けているといいます。少しでも視力を残すには、手術が必要です。父は、あまりにも残酷な診断結果に耐えきれず、診察室を出ていってしまいます。ダグマールは、厳しい試練を課せられた息子を、ただただ抱きしめます。

数日後、サリヤは手術を受けます。手術の結果、サリヤは視力を5%だけ残す事ができました。しかし、サリヤは、これを機に、盲学校に転校する気はありませんでした。これまで通っていた学校に引き続き通い、卒業したら、ホテルで研修をしたいと考えていたからです。父は、サリヤに現実と向き合ってほしいと考え、自宅の本棚から本を1冊取り出し、適当にページを開いて、「声に出して、読んでみろ。」と要求します。サリヤは、全く読めず、悔しい想いをしますが、それでも盲学校に転校する気持ちにはなれませんでした。ダグマールは、そんなサリヤの姿を見て、改めて、彼の意思を尊重する決意をします。

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~(字幕版)
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学校でも、数学の教師や同級生たちがサリヤを支えてくれました。数学の教師は、「(口頭での説明が)速かったら、言ってくれ。」と気遣い、サリヤの隣の席の同級生も、サリヤが板書を書き移すのに苦労しているのを目にすると、サリヤのノートに文字を大きく書いてくれました。サリヤが自宅に帰ると、シーラが教科書を朗読してくれました。ダグマールも、サリヤやシーラの労を労うべく、お菓子や水を持ってきてくれました。やがて、サリヤは、卒業試験の時期を迎えます。試験を受けた結果は、2.7。サリヤは、ギムナジウムの卒業資格を取得する事ができたのです。学校から帰ったサリヤは、努力ぶりを父に褒めてもらいたくて、早速、父に報告します。しかし、父は無表情で、ただ「おめでとう」と言うだけでした。サリヤは、父の表情はよく見えなくても、自身に対する関心のなさは見抜き、目に涙を浮かべて、自室に籠ってしまいます。



自室に籠ってしまったサリヤは、パソコンを使って、研修生を募集するホテルの求人に応募します。サリヤがホテルで働きたいのには、理由があります。サリヤは、14歳の時に父の故郷・スリランカを訪れたのですが、おじの勤務するホテルに泊まった際、言語、文化、宗教、服装も異なる宿泊客たちに、尊敬の気持ちを持って接するスタッフたちの姿に感銘を受け、それ以来、ホテルで働くのがずっと夢だったのです。ギムナジウムの卒業資格を取得した事は勿論、視覚に障がいがある事も正直に入力し、努力をアピールするサリヤ。しかし、結果は不採用でした。不採用を通知する手紙には、「応募者多数のため」と理由が書いてありましたが、実際は、障がい者を雇用するのに慎重になっているだけでした。「5つ星ホテルなど、非現実的です。電話の受付係やマッサージ師が向いていますよ。」中には、こう言って、サリヤに理解を求める人もいましたが、サリヤは、「障がい者だから、夢を見てはいけないのか?」と憤ります。



その後、サリヤは、ミュンヘンにある5つ星の老舗ホテル「バイエリッシャー・ホーフ」の研修生の求人に応募します。サリヤは、今度も、視覚に障がいがある旨を正直にパソコンに入力します。「バイエリッシャー・ホーフ」は、1841年創立の老舗ホテルで、客室数は340。ナイトクラブをはじめとするエンターテイメントは伝説と言える評判ぶりで、5店のレストランと、6店のバーは、食通たちをうならせています。まさに、サリヤにとって、夢の空間です。サリヤは、早速、自宅で面接の練習を始めます。サリヤは、シーラに面接官役になってもらい、「どんなお客様にも、丁寧な対応ができるか?」と尋ねてもらうと、シーラの顔を見ながら、「声の調子で、ご要望も分かります。」と笑顔で答えるのでした。

いよいよ、面接当日。サリヤは、ダグマールの運転する車で、シーラと一緒にミュンヘンの「バイエリッシャー・ホーフ」を訪れます。サリヤは、ダグマールやシーラに励まされ、一人で回転ドアを通り抜けます。そして、大勢の宿泊客にぶつからないよう、気を付けながら、フロントの傍の椅子に座っていた人事部長のフリート(アレクサンダー・ヘルト)に近付きます。その後、お互いに挨拶を済ませると、フリートは館内を案内してくれました。すると、背後から一人の青年が近付いてきます。この日、面接に1時間も遅れてしまったマックス(ヤコブ・マッチェンツ)です。マックスは、「トラックが市電に突っ込み、足止めを喰らっていた。」と言い訳します。フリートは、マックスの言い訳に呆れながらも、サリヤとマックスを案内する事に決めます。



フリートは、テラスを案内しながら、サリヤに、求人に応募した理由を尋ねます。サリヤは、夢中になって質問に答えますが、自身の気づかぬ間に、フリートとマックスが歩く方向を変えてしまい、サリヤがハキハキと独り言を言っているような状態になってしまいます。サリヤの姿が見えなくなった事に気付いたフリートは、「こっちだ」と声を掛けます。サリヤは、慌ててフリートたちの方に向かって走りますが、途中でつまづき、転びそうになります。マックスは、転びそうになっているサリヤに早めに気付き、さりげなく手を差し伸べ、サリヤは事なきを得ます。

その後、サリヤとマックスは、スイートルームを案内してもらいます。もし、2人が採用されたら、最初にハウスキーピングを学ぶ事になります。この後、一同は厨房へ向かいます。サリヤは、厨房の活気に圧倒されます。そんな時、フリートは、料理長のクローン(ミヒャエル・A・グリム)を2人に紹介します。紹介が終わると、サリヤは真っ先にクローンに握手を求め、クローンはそれに応じるのでした。そして、一同は最後にレストランへ。テーブルは15卓で、ディナーの時間帯は常に満席状態です。フリートは、研修生を人一倍熱心に育てる事で知られるレストランの責任者・クラインシュミット(ヨハン・フォン・ビュロー)を紹介します。この時、マックスは、サリヤが視覚障がい者である事に何となく気付いていました。サリヤも、マックスが前夜に酒を飲んで、酒の臭いをミントでごまかそうとしている事、着ている服に煙草の臭いが染みついている事に気が付いていました。一同がレストランを出た後、ようやく面接が行われ、その結果、2人とも研修生として採用されます。



初めての出勤日、サリヤはシーラに通勤経路の歩き方を教わりながら、出勤します。サリヤとシーラが集合場所となっている通用口の前まで来ると、大勢の仲間たちが、研修生生活の始まりを、今か今かと待っていました。サリヤも、シーラと別れた後、マックスと再会し、胸を高鳴らせます。そして、いよいよ、研修生生活が始まります。研修生たちは、人数が多いため、いくつかの班に分かれる事になっていました。研修生への教育を担当するリーディンガーは、研修生たちの前で、誰がどの班に所属するのかを順番に発表します。因みに、サリヤは、リーディンガーが自ら訓練を担当する班に所属する事になりました。同じ班には、ハンナ、ティム、イリーナ、ヤラ、そして、マックスがいました。その後、一同は客室へ移動し、ハウスキーピングの研修が始まります。まず、研修生たちは、ベッドメイキングの練習をする事に。最初にリーディンガーがシーツの角の畳み方を丁寧に教え、それから研修生たちが同じ作業を繰り返します。しかし、サリヤは、どんなに目を凝らしても、リーディンガーが見せる動きがほとんど分かりませんでした。

さらに、サリヤは、客室のドレッサーの鏡を、自ら持参した分厚いルーペで汚れが残っていないかどうか確かめながら拭いていた時に、マックスに不意に声を掛けられ、ルーペを使っている理由を尋ねられます。サリヤは、マックスの前でこれ以上健常者のふりをし続けるのは無理だと判断し、とうとう網膜剥離で視力が5パーセントしかない事を打ち明けます。マックスの反応は、…。



視力が落ちている事をまず最初にマックスに打ち明けるサリヤ。サリヤは、マックスの反応がどうなるのか、全く予想が付かなくて、心臓が飛び出そうになるくらいに緊張しているのではないかと思います。「もし、マックスと絶交する事になったら、どうしよう。」、「もし、『バイエリッシャー・ホーフ』を辞めなければならなくなったら、自分の後に続く障がい者がいなくなってしまう。」と、様々な不安に襲われている事でしょう。



さて、少々話が変わりますが、物語の展開からして、フィクションのように思えるこの映画、なんと、実話です!マルク・ローテムント監督が、サリヤ本人の自伝を基に映画化しました。ローテムント監督は、ドイツ映画界のヒットメーカーで、映画祭での受賞経験も豊富です。代表作は、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」(2004年)で、2005年に第78回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、同年に第55回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています。



では、この映画が実話に基づいている事を皆さんに知っていただいた上で、サリヤ・カハヴァッテがどういう人物なのか、ここでもう少し情報を補足したいと思います。サリヤ本人が実際に失明したのは、15歳の時。それ以来、彼は、盲目である事をなんと15年間も秘密にしていたそうです。その間、ギムナジウムを卒業し、ホテルで見習いとして働き、接客業と美食調理法においてキャリアを積みました。現在は、ドイツ・ハンブルクに住み、ビジネスコーチ、ドイツ語圏内の国々での講演活動、仏教徒としての修業、アーユルヴェーダ料理作りと、多忙な日々を送っています。



この映画を観て、印象に残ったのは、ほぼ全てのシーンでサリヤの視界が再現されている事です。残りわずか5%となったサリヤの視界は、光は感じられ、人や物の色は分かるのですが、人の体型や物の形は全く分からず、形を理解できない事がいかに日常生活に支障をきたすのかがよく分かりました。この状態で、仕事に就けない怖さから逃れるために健常者のふりをし続けるのは、かなり無理があると思いました。因みに、サリヤを演じたコスティア・ウルマンも、サリヤの視界を理解するために、特注のコンタクトレンズと訓練用のゴーグルを使って、撮影に臨んだそうです。



物語の後半では、サリヤの不安とは裏腹に、料理長のクローン、厨房で皿洗いの仕事をしているアフガニスタンからの難民・ハミード(キダ・コドル・ラマダン)、5歳の息子・オスカーを女手一つで育てながら、両親の農場を手伝い、「バイエリッシャー・ホーフ」の厨房に農作物を納めているラウラ(アンナ・マリア・ミューエ)など、様々な人たちがサリヤを助けてくれます。サリヤが働きやすくなるよう、各々が親身になって考えてくれる様子は、とても心が温かくなります。しかし、サリヤは、スタッフを人一倍熱心に育てる事で知られるレストランの責任者・クラインシュミットには、視覚障がいの事をどうしても打ち明けられません。クラインシュミットは、サリヤにとって、大ピンチを与える存在とも言えますし、一人の障がい者として本当に大切な事を教えてくれる存在とも言えます。私は、この映画に登場する脇役の中で、クラインシュミットが最も印象に残りました。ところで、サリヤは、マックスとはどうなるのでしょうか?その答えは、ぜひDVDで!

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