暗黒街のふたり(1973年 フランス・イタリア)

暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]
暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]

フランスには、ギロチンが2つ存在するといわれています。1つはパリにあるもの、もう1つはフランス国内の各地方を巡回するものです。フランスで保護司として働くカズヌーブ(ジャン・ギャバン)は、1946年から27年間、多くの不良少年を更生させてきました。そして、ずっと、法を信じて生きてきました。しかし、ある事件によって、法に裏切られてしまいました。まさか、こんな事が起こるなんて。

暗黒街のふたり ブルーレイ版 [Blu-ray]
暗黒街のふたり ブルーレイ版 [Blu-ray]

ある日、カズヌーブは、パリにある刑務所を訪れていました。10年前に銀行強盗の首謀者として逮捕され、ここで服役しているジーノ・ストラブリッジ(アラン・ドロン)の仮釈放を判事に求めるためでした。ジーノの刑期は、あと2年でした。しかし、判事や刑務所長は、「もう外に出す気かね。12年でも軽すぎる。」と反対します。ジーノは、非常に頭の切れる人物として知られ、判事たちは、ジーノがカズヌーブに取り入ったのではないかと心配しているのです。カズヌーブは、「恩赦の時期でもあり、ジーノを社会復帰させたい。」と、真っ向から反論します。カズヌーブは、社会を恨んでいるように思われているジーノにも、優しい一面があると分かっているのです。それに、既に職業訓練も受けており、妻・ソフィー(イラリア・オッキーニ)も、花屋を営む傍ら、毎週、面会に訪れ、家で夫の出所を待っています。しかし、どんなにカズヌーブが反論しても、判事たちの不安は払拭されません。カズヌーブは、27年間に及ぶ実績をアピールし、ジーノの社会復帰に責任を持つ事を宣言します。判事たちは、それでもまだ不安が残っていましたが、カズヌーブの言葉や実績を信じるしかありませんでした。

赦すことと罰すること―恩赦のフランス法制史―
赦すことと罰すること―恩赦のフランス法制史―

1週間後、ジーノは、カズヌーブの尽力で仮釈放されます。ジーノが刑務所の門を出ると、ソフィーが待っていました。ソフィーはジーノに駆け寄り、力いっぱい抱きしめ、キスをします。さらに、カズヌーブも車で迎えに来てくれていました。カズヌーブは、2人を車に乗せ、自宅に送り届けます。その背後には、ジーノの過去を知るマルセル(ビクトル・ラヌー)、ジャノらが車で後を付けていました。

保護観察とは何か: 実務の視点からとらえる
保護観察とは何か: 実務の視点からとらえる

ある日、マルセルは、ジーノに会うため、ソフィーが営む花屋を1人で訪れます。しかし、ソフィーは、ジーノに同じ過ちを繰り返してほしくなくて、マルセルを追い払おうとします。しかし、ジーノが建物の2階から降りてきて、マルセルに会います。そして、ジーノが外に出ると、マルセルの他に、ジャノ、そして、以前からジーノを尊敬していたという青年(ジェラール・ドパルドゥー)が待っていました。ジーノと一緒に銀行に押し入るのが夢だった青年は、早速、ジーノと手を組むべく、話を持ち掛けますが、ジーノは、毅然とした態度でこれを断ります。すると、青年は、ジーノをわざと刺激して、過去の考えを取り戻してもらう作戦に出ます。これには、さすがのマルセルも嫌悪感を抱き、青年を引き止めて、ジーノに謝るのでした。



そんな中、刑務所で、ある囚人が独房で首をつって亡くなっているのが見つかります。この囚人は、カズヌーブに仮釈放を求めていました。カズヌーブは、刑務所長と面会し、仮釈放すべきかどうかを話し合っていたところでした。彼の死を知った仲間たちは、刑務官たちを攻撃しようとします。刑務官たちは、銃を発砲して、事態の収拾に努めようとしますが、その場にいたカズヌーブに止められてしまいます。しかし、カズヌーブの制止もむなしく、囚人たちが暴徒化。彼らは、枕に火を付け、雄叫びを上げながら、刑務官たちに向かって投げ付けます。火は一気に燃え広がり、けが人が続出する騒ぎとなりました。



その日の夜、カズヌーブは、仕事が長引いてしまったため、遅い時間に帰宅します。家には、カズヌーブの妻、息子・フレデリック(ベルナール・ジロドー)、娘・イブリンの他に、ジーノとソフィーも来ていました。もともと、ここで夕食会が予定されていたのですが、カズヌーブの帰りが遅かったため、全員が先に夕食を食べていたのです。ジーノは、この日、刑務所で起きた事件について語り始めます。既に、新聞を通して、事件の一部始終を知っていたためです。カズヌーブは、定年まであと少しでしたが、この事件を機に、刑務所を辞める事を決意します。



その後、ジーノは、これ以上パリに住み続ける訳にはいかないと考え、パリから約45キロ離れた町・モーにある新聞の印刷工場で就職します。ある日、ジーノは、地元のレストランで、ソフィー、カズヌーブと一緒に食事をします。カズヌーブは、刑務所を辞める決意をしていましたが、フランスの南部にある町・モンペリエに転勤する事になりました。今度の勤務先は、刑務所ではないといいます。ジーノは、カズヌーブの決断を残念がりますが、「これからは、週末にモンペリエまで会いに行く。」と、カズヌーブに約束します。



次の週末、ジーノはソフィーと一緒に、車で、湖畔へピクニックに出掛けます。その帰り道、ジーノは、車を運転中に、事故に巻き込まれそうになります。ジーノの運転する車が、とてつもないスピードを出す対向車とぶつかりそうになったのです。ジーノはどうにか衝突を避ける事ができましたが、自身の運転する車がものすごい勢いで横転してしまいます。ジーノは横転した時の衝撃で重傷を負い、ソフィーは命を落としてしまいました。ジーノは、搬送先の病院の公衆電話からカズヌーブに電話を掛け、涙ながらに事故を報告します。数日後、ジーノは、ソフィーの葬儀を無事に済ませましたが、ソフィーの実家が事故の件でジーノを相手に裁判を起こしていたため、ここ数日、気持ちが落ち込んでいました。カズヌーブは、ジーノに、モンペリエへの移住を勧めます。カズヌーブは、最近、ぜひ自身の仕事をジーノに手伝ってもらいたいと考えていたのです。



ジーノは、モーの印刷工場を辞め、モンペリエに移住します。ジーノは、モンペリエでも印刷の仕事に就き、日曜日になると、家でレコードを大音量で聴いたり、イブリンの誘いでサイクリングに出掛けたりしていました。カズヌーブは、「ジーノはすっかり立ち直った。」と、安心していました。やがて、ジーノに、ルシー(ミムジー・ファーマー)という新しい恋人ができ、ジーノは同棲を考えるようになりました。しかし、ジーノは、自身の過去をいつ、どのようにルシーに話すべきか、悩んでいました。



そんなある日、ジーノは、毎月、給与明細を警察署に提示して、何も企んでいない事を証明しなければならなかったため、モンペリエの警察署を訪れていました。窓口の警察官が手続きを進めていると、ジーノは、かつて、自身を逮捕したゴワトロー刑事(ミシェル・ブーケ)と、偶然、再会します。あれから、ゴワトロー刑事は、警部に昇格していました。ジーノは、警察署に来た目的を正直に話し、給与明細も見せます。しかし、ゴワトロー警部は、仮釈放後、全く罪を犯していないジーノを、刑事ならでの長年の勘だけで、「何か悪い事を企んでいる。」と、勝手に思い込みます。そして、再び逮捕にむけて、動き出すのです…。



この映画では、フランスを代表する2人の俳優、アラン・ドロンとジャン・ギャバンが、「地下室のメロディー」(1963年)、「シシリアン」(1969年)に続く3度目の共演を果たしています。因みに、1976年にギャバンが亡くなったため、2人が共演したのは、この時が最後でした。監督及び脚本は、小説家、脚本家、映画監督と、多彩な顔を持つ、パリ生まれ、コルシカ島育ちのジョゼ・ジョバンニです。ジョバンニは、若かりし頃に、犯罪組織と関係し、フランスのファシズム政党・フランス人民党に所属していました。誘拐事件や窃盗事件、さらには、少なくとも3件の強盗殺人事件にも関与し、1度は死刑を宣告されるのですが、大統領恩赦により刑を免れ、出所したそうです。ジョバンニが、極めて珍しい人生経験をふんだんに活かして、この映画を作り上げた事がよく分かるエピソードです。



物語の前半は、ほぼ穏やかに時間が流れますが、後半になって、ゴワトロー警部が登場する事で、逃げ出したくなるような緊張感が突然生まれます。かつての犯罪者・ジーノに対する、ゴワトロー警部の思い込みの激しさがとにかく怖いです。「凶悪犯の性格は、一生治らない。凶悪犯全員に、それが当てはまる。」というゴワトロー警部の持論は、あくまで長年の経験で学んだ傾向に過ぎず、必ずしも全員に当てはまるとは限りません。傾向だけで物事を判断するゴワトロー警部は、危険人物です。ゴワトロー警部は、ジーノに近しい人物に次々と聞き込みを進め、ジーノを尾行するようになり、さらに、ジーノを刺激するためにルシーと肉体関係を結ぶ事を思い付き、いよいよ逮捕に踏み切るかに思われましたが…。続きは、DVDで。ドロン演じるジーノの孤独感、ギャバン演じるカズヌーブの正義感、そして、観る者に強烈な印象を与える、賛否両論真っ二つに分かれるであろうラストシーンを、ぜひご覧いただきたいと思います。

暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]
暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]


バチカンで逢いましょう(2012年 ドイツ)

バチカンで逢いましょう [DVD]
バチカンで逢いましょう [DVD]

カナダ・オンタリオ州。夫・ロイズルに先立たれたマルガレーテ(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は、ドイツ・バイエルン州から移り住んで以来、40年もの長い年月をロイズルと共に過ごしてきた家を離れる事になりました。娘のマリー(アネット・フィラー)が、「ママには、一人暮らしは無理。」と心配し、ロイズルとマルガレーテの思い出がたくさん詰まったこの大切な家を、あくまで親切のつもりで売り、自分たち一家が住むカナダ・ユーコン準州ホワイトホースの家に、マルガレーテを呼び寄せる事にしたのです。マルガレーテは、オンタリオ州で過ごす最後の日となったこの日、一人で山に登り、ロイズルに別れを告げました。マルガレーテは、マリー一家の家への引っ越しが終わったら、マリーたちと一緒にイタリア・ローマを旅行する事になっていました。その最大の目的は、マルガレーテが、バチカンでローマ法王・ベネディクト16世(トーマス・カイラウ)に謁見する事でした。マルガレーテがローマ法王に謁見すれば、マルガレーテは、長年背負ってきた心の重荷から解放されるのです。

翌日、マリーが、夫のジョー(ポール・バーレット)、2人の息子たち、そして、運送会社のドライバーと一緒に、マルガレーテを迎えにやって来ました。慈善団体に寄付する事になっていた荷物が次々にトラックに運び込まれていく間、マルガレーテは、庭で最後の水やりをし、マリーの息子たちは、トラックの幌の上に乗って遊び、マリーに叱られていました。やがて、荷物の運び出しが完了し、一行はいよいよホワイトホースへ向けて出発します。

しかし、一行がホワイトホースへ向かう途中、マリーの口から、あるとんでもない提案が飛び出します。なんと、マルガレーテが、老人ホームとは違うハイテク機能満載の「シニアの家」への入居をマリーから勧められたのです。もともと、マリー一家が住んでいる家はとても狭く、マリーは、新たに家族を受け入れる余裕がありませんでした。しかし、「ママに安全に暮らしてほしい」一心で、最初から強引に「シニアの家」に連れて行くと、きっと抵抗されてしまいます。そのため、マリーは、マルガレーテを刺激する事なく、マルガレーテに「シニアの家」に移ってもらえるよう、家の売却、「シニアの家」の手付金の支払い、引越しと、マリーなりに根回しをしてきたのです。マリーは、キャンセル待ちが多いこの施設に運良く入居できるチャンスが巡ってきた事、死亡者がまだ一人も出ていない部屋で過ごせる事、すでに手付金を支払っているので、すぐにでも入居できる事を、マルガレーテに喜んでほしいと思っていました。ジョーも、「新しい人生を楽しめますよ。」とマリーの援護射撃をします。マルガレーテは、マリー一家との同居が決まった時、マリーから「最初のうちは、一緒に暮らせるわ。」と聞かされていましたが、なぜ、マリーが「最初のうちは」と強調していたのか、この日になって、その理由がようやく分かったのです。

バチカンで逢いましょう [Blu-ray]
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その後、一行は、ホワイトホースにあるマリー一家の家に到着しました。マルガレーテは、与えられた自室でキリスト教の祭壇を作り、リビングルームへ向かいます。そこには、マリー一家の他に、息子のラインホルトが、恋人のシャンタルと一緒に来ていました。マルガレーテは、ラインホルトの恋人が、いつの間にか、ブレンダからシャンタルに変わっていた事に驚きの声を上げます。マリーは、その場の空気を察し、「そんな事を言ってはいけない」と、遠くから慌ててマルガレーテにサインを出します。しかし、時既に遅し。シャンタルは、ラインホルトが、自身と出会う前に別の女性と交際していた事実を知り、ラインホルトに詰め寄ります。しかし、2人はすぐに軌道修正します。ラインホルトは、既にシャンタルにプロポーズし、承諾をもらっている事をマルガレーテに打ち明けると、マルガレーテは、素直に祝福します。しかし、当の本人たちは、マルガレーテからの祝福よりもキスの方に夢中になっていました。

それにしても、なぜ、ラインホルトがシャンタルと一緒にこの場所に来ていたのでしょうか?実は、随分急な話ではありますが、2人は、間もなくここで、結婚式を挙げる事になっていました。マリーは、申し訳なさそうな表情で、マルガレーテに説明をし始めます。実は、マリーは、皆の予定が合わなくなって、ローマへの旅行を取り止めていたのです。ジョーは仕事で忙しく、2人の息子たちは旅行を理由に学校を休む訳にはいかず、それに、マルガレーテの誕生日にローマで予定していたラインホルトたちの結婚式も、旅行を取り止めてしまったがために、今からこの家で挙げなければなりません。マルガレーテは、かねてからの夢を奪われ、ショックを受けます。マリーは、マルガレーテの誕生日に渡す事にしていたプレゼントを一足早く渡して、マルガレーテの機嫌を取ろうとします。それは、ローマ法王からの祝福のメッセージが書かれた手紙でした。しかし、それは、マリーが便利なインターネットのサービス「バチカン・ドットコム」で手早く手に入れたもので、とても真心のこもったものではありませんでした。マルガレーテは、法王に直接会いたいと願いますが、マリーは、「それは、また今度の機会に」と、会話を一方的に打ち切るのでした。

バチカンで逢いましょう(字幕版)
バチカンで逢いましょう(字幕版)

翌朝、マリーたちの家に、マルガレーテの姿はありませんでした。「ローマへ行くわ。1週間で戻る。」マルガレーテは、置手紙を残し、たった1人でローマへ旅立ってしまったのです。最初に置手紙に気付いたのは、ジョーでした。ジョーは、すぐにマリーにその旨を知らせます。マリーは、慌てて、マルガレーテの部屋へ向かいますが、やはり姿はありませんでした。マルガレーテの飛行機のチケットは、マリーの2人の息子のうちの1人が、購入していました。支払いは、マリーのクレジットカードで済ませたといいます。息子たちは、なぜマリーが動揺しているのかが理解できません。マリーが家を購入した際、マルガレーテに金銭的な援助をしてもらっていたのを、息子たちはよく覚えているからです。それに、彼らは、「おばあちゃんは一人の立派な大人だから、一人で遠くへ旅行に行けるよ。」と、マルガレーテを信頼している様子。マリーは、「おばあちゃんは、大人じゃない。お年寄りなの。何にも分からないのよ。鳥の巣から出された、か弱いヒナみたいなものなのよ。」と、自身の母親を極端にお年寄り扱いします。ジョーや息子たちは、マリーが実の母親をヒナのようなか弱い生き物に例えるさまに、クスクスと笑います。マリーは、「笑い事じゃないわ。」と、憤るのでした。

一方、マルガレーテは、空港のトイレにいました。飛行機への搭乗を間近に控え、心臓の鼓動がいつもよりずっと大きくなっていました。マルガレーテは、心臓のあたりに右手を当て、気分を落ち着かせていました。そして、次第に気分が落ち着いてくると、いよいよ飛行機に搭乗し、一路、ローマへ向かいます。その頃、マリーは、携帯電話で電話を掛けながら車を運転していました。電話の相手は、マリーの娘・マルティナ(ミリアム・シュタイン)。マルティナは、ローマの厳格なカトリックの家庭で、子守として働いていました。しかし、マルティナはなかなか電話に出ません。なぜなら、恋人・シルヴィオ(ラズ・デガン)と2人きりでシャワーを浴びていたからです。そんな事など知る由もないマリーは、大至急、自身に連絡するよう伝言を残します。マルガレーテが迷子になったのではないか、或いは、お金を取られたのではないかと心配しているので、マルティナに無事を知らせてほしいのです。一方、マルガレーテは、無事にローマに到着し、市内をタクシーで移動していました。その表情は、とても晴れやかでした。マルガレーテは、タクシーの車内で法王の写真を見つけると、運転手に一言断ってから、写真を好きなだけもらいます。



こうして、マルガレーテは、これから滞在先となるマルティナのアパートに到着します。マルガレーテは、傾斜が急な階段をひたすら登り、マルティナの部屋の前にやって来ます。マルガレーテは、早速、ドアベルを鳴らします。しかし、玄関の扉を開けたのは、シルヴィオでした。シルヴィオは、マルガレーテに自分たちの邪魔をされたくなくて、一方的にドアを閉めます。ドアが閉まった後、マルティナはドアの外に誰がいるのかが知りたくて、ドアについている小さな窓をそっと覗き込みます。そこにいたのは、厳格なカトリック教徒であるマルガレーテでした。マルティナは、突然、頭の中が真っ白になります。今、マルティナの部屋の壁には、シルヴィオの趣味で、裸の女性のイラストがびっしりと描かれてあって、床も随分散らかっています。とても、マルガレーテに見せられない状態です。マルティナは、マルガレーテをがっかりさせないようにするため、ドアの外でマルガレーテに会います。そして、「お腹、空いていない?近くのレストランなんかどう?」とマルガレーテを食事に誘います。しかし、10時間もの長旅で疲れてしまったマルガレーテには、近くのレストランへ行く気力が残っていません。マルガレーテは、どうしても部屋の中で休ませてほしくて、強引にマルティナの部屋の中に入ります。そして、脇目も振らずに、奥の方にあるベッドルームへ向かい、ベッドの上に倒れ込んで、眠りにつくのでした。

その日の夜、マルガレーテは、冷蔵庫の中のものを物色していました。マルガレーテは、「空よりは、マシね。」と、1本の小さなペットボトルを持ち出します。この時、部屋では、電話のベルが鳴っていましたが、マルガレーテは電話に出ませんでした。また、マルティナは、仕事で外出中でした。実は、マルティナは、既に子守の仕事を辞めていました。仕事先のあまりの厳格な空気に耐えられなくなったのです。今、マルティナは、1軒の小さなライブバーでバーテンダーとして働いています。そのライブバーのステージに立つロックバンドのボーカルが、シルヴィオだったのです。その頃、マルガレーテは、部屋の中を探検していました。部屋中の壁という壁が白い布で覆われていたのが何となく気になったマルガレーテは、そのうちの1枚をそっとめくります。そこには、カトリック教徒が決して目にしてはいけないものが描かれていました。マルガレーテは、探検が終わると、今度は、部屋の掃除を始めます。掃除機の電源を入れ、無心に部屋の埃を取り除きます。そして、壁中に、法王の写真を貼っていくのでした。その後、マルガレーテは、マルティナの帰りを何時間も待ちました。しかし、マルティナは、いつまで経っても帰って来ません。マルティナは、結局、翌朝の6時に帰って来ました。マルティナの隣には、シルヴィオもいました。マルティナの事をずっと心配していたマルガレーテは、「一体、どこに行っていたの?」と、ただただ、その不安な気持ちをぶつけるのでした。



その後、マルガレーテは、マルティナと一緒に、近くのカフェで朝食を摂ります。マルティナは、ここで初めて、子守からバーテンダーに転身した事、バーテンダーに転身した後にシルヴィオと出会い、シルヴィオの部屋で同棲を始めた事を打ち明けます。そう、マルガレーテが滞在しているのは、シルヴィオとマルティナが同棲生活を送っている部屋なのです。マルガレーテは、シルヴィオはいつもベッドで寝ているのに、なぜ、マルティナはクローゼットの片隅で寝ているのかが分からず、マルティナの事を「かわいそうだ」と嘆きます。そうこうしているうちに、マルガレーテがバチカンへ向かう時間が訪れます。「会いに行くの、法皇さまに。これでやっと、ロイズルと仲直りができる。」マルガレーテは、胸をワクワクさせながら、カフェを後にします。

マルガレーテは、バチカンへ行くバスに乗り込みます。車内には、同じくバチカンに向かう途中の修道女が数多く乗っていました。マルガレーテは、修道女たちとの会話を心から楽しみました。そうこうしているうちに、バスは目的地に辿り着きます。マルガレーテがローマ法王庁の建物の中に入ると、自身と同じように法王からの祝福を望む人々の行列が長く続いていました。マルガレーテも列に並び、静かに順番を待ちました。そして、自身の順番がもう少しで来るという時になって、白杖をついていた視覚障がい者の男性・ロレンツォ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が、列の途中にある階段でつまづいてしまいます。マルガレーテは、ロレンツォの元に駆け寄り、なんと、自分の順番をロレンツォに譲ります。マルガレーテのすぐ後ろでずっと並んでいた若い父親は、まさかの展開に驚き、マルガレーテの順番が先なのか、それとも、ロレンツォの順番が先なのかがよく分からず、マルガレーテに怒りをぶつけます。マルガレーテは、そんな若い父親に、「恥を知りなさい。」と一喝し、最後列に並び直すのでした。

ところが、マルガレーテは、法王に会う事ができませんでした。カナダでマリーから贈られた法王からの手紙は、あくまで集団で謁見するためのもので、マルガレーテが長い列に並んでいたのは、政治家、教会の指導者、そして、いわゆるスーパースターと呼ばれる人たちに限られている個別謁見だったのです。しかし、だからと言って、マルガレーテががっかりする事はありません。毎週日曜日には法王が窓辺に立ちますし、毎週水曜日には一般向けの謁見もあります。マルガレーテは、次の水曜日に出直す事にしました。



バチカンを出て、ローマに戻ってきたマルガレーテは、ローマ法王庁で教えてもらったバイエルン料理の専門店「リセロッタ」で空腹を満たす事にします。道中、マルガレーテのすぐ横を、1台のベスパがかなりのスピードで通り過ぎていきます。そして、ベスパを運転していた男性は、その先に止めてあった乗用車の運転手とちょっとした言い合いになります。マルガレーテは、ベスパに乗っていた男性の顔に見覚えがありました。男性は、ローマ法王庁で順番を譲った、あのロレンツォでした。マルガレーテは、ロレンツォに声を掛けようとします。しかし、ロレンツォに近付いた瞬間、ロレンツォは前を向いて、どこかへ行ってしまいました。



やがて、マルガレーテは、「リセロッタ」に到着します。しかし、そこは、客が一人もおらず、バイエルン料理の知識に乏しい店主・ディノ(ジョバンニ・エスポジート)しかいません。しかも、注文した料理は、どれも焦げていて、とても食べられたものではありません。マルガレーテは、居ても立っても居られず、自ら厨房に入り、自ら注文した料理を自らの手で作り始めます。最初は、あまりの勝手な行動に怒り心頭だったディノでしたが、マルガレーテがローマに来て以来、ずっと馬鹿にされっ放しである事を聞かされた上に、「(焦げた料理を出して)私を毒殺するつもりなの?」と脅されると、何も言えなくなってしまいます。こうして、マルガレーテは、慣れた手つきで料理を作っていくのでした。その後、食事を終え、「リセロッタ」を出たマルガレーテは、ロレンツォが乗っていたベスパを偶然見つけ、タイヤの前輪を足で蹴ります。ロレンツォは、すぐそばでベスパの方を向いて立ち、その様子をしっかりと目に焼き付けていました。そう、実は、ロレンツォは健常者。視覚に障がいがあるというのは、真っ赤な嘘だったのです。



その後、ロレンツォは、「リセロッタ」の勝手口から厨房に入り、ディノに「何か食わせてくれ」と頼むと、ディノが持っていた、料理の残りが乗った皿をやや強引に奪い、それを食べ始めます。マルガレーテがディノの料理のまずさに耐え切れずに作ったものとは知らずに。ロレンツォは、ディノにこう尋ねます。「それで、店はいつ売るんだ?」ディノは、この店を売る気は全くありませんでした。幼い頃からずっと、ドイツ生まれの母親・リセロッタからこの店を継ぐよう言われ続け、大人になってから実際に継いだので、リセロッタの店に対する思いの深さを考えると、そんな気にはなれないのです。しかし、ロレンツォは、早くディノが店を売ってくれなければ、自身はおしまいだといいます。一体、ロレンツォは、何をどう困っているのでしょうか…。



この映画でメガホンを取ったのは、トミー・ヴィガント監督。代表作に、「飛ぶ教室」(2003年)があります。有名な少年合唱団を持つドイツのとある学校の寄宿舎を舞台に、過去に幾つもの寄宿舎で脱走を繰り返してきた少年が、優しい先生や寄宿生たちに恵まれるものの、やがて寄宿生と通学生との間に起こる抗争に巻き込まれていく映画です。



この映画の主人公・マルガレーテを演じたのは、マリアンネ・ゼーゲブレヒト。「バグダッド・カフェ」(1987年)で、アメリカ西部の砂漠を夫と共に訪れるドイツ人旅行者・ヤスミンを演じました。今回、ゼーゲブレヒトが演じたのは、「1に法皇さま、2に法皇さま、3に法皇さま。」といった感じの、敬虔なカトリック教徒。生真面目のさらに上を行くように見える女性ですが、物語の後半では、次第にお茶目な行動を取るシーンが増え、チャーミングの度合いが増したり、本性が見えるようになったりします。



この後、マルガレーテは、ひょんなことから、ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるロレンツォと不思議な間柄になります。そのきっかけとなるシーンでの、ジャンニーニの台詞回しは、絶品です。このシーンの時点で、観る者は、ロレンツォが詐欺師だと分かってはいるのですが、あまりにも弁が立つさまに、「お見事!」と言うしかありません。スーツの見事な着こなしやマルガレーテへの紳士的な接し方は、ちょいワル親父の正統派と呼べるものがありますが、それ以上に、台詞回しがとにかく凄かったです。さらに、「皆の予定が合わないから」と、ローマへ行く旅行を中止した張本人であるマリーも、いよいよ、ローマに乗り込みます。しかも、このシーンで、マリーが旅行を中止にした本当の理由が明らかになります。ヒントは、このシーンのジョーの台詞ですよ。そして、そして、マルガレーテがローマ法王、しかも、ベネディクト16世との謁見を望む本当の理由も、物語の終盤で明らかになります。なぜ、他の誰でもない、ベネディクト16世でなければならないのでしょうか。答えは、ぜひDVDで。

バチカンで逢いましょう [DVD]
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マネーモンスター(2016年 アメリカ)

マネーモンスター [AmazonDVDコレクション]
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リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)は、アメリカ・ニューヨークのテレビ局・FNNで生放送されている大人気の財テク番組「マネーモンスター」で司会を務める人物で、視聴者から「ウォール街の魔術師」と呼ばれていました。ある日、リーは、番組の生放送が始まる10分前になって、ディレクターのパティ・フェン(ジュリア・ロバーツ)から、ゲスト出演する予定だったアイビス・キャピタルのCEOウォルト・キャンビー(ドミニク・ウェスト)が、ある事情で出演できなくなってしまった事を聞かされます。キャンビーの代役として出演が決まったのは、同じ会社の広報担当役員ダイアン・レスター(カトリーナ・バルフ)で、ダイアンは中継で出演する事になりました。

マネーモンスター [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
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こうして、いつものように、「マネーモンスター」の生放送が始まります。なぜか、予め用意された台本には従わず、アドリブで話し続けるリー。その間、調整室でリーを見守っていたパティは、大きくて重たそうな段ボール箱を2箱抱えた青年カイル・バドウェル(ジャック・オコンネル)が、スタジオの後方で、リーの姿を覘き込んでいるのを見つけます。最初は、仕込みかと思っていたパティでしたが、実は、全然違いました。カイルは、突然、スタジオに侵入し、段ボール箱を置いて、「動くな!」と言い、銃を天井に向けて発砲したのです。

マネーモンスター (吹替版)
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パティは、カイルが銃を発砲してすぐに画面を切り、放送を中止しました。カイルはすぐにそれに気付き、パティに画面を元に戻すよう、要求します。パティは要求を拒みますが、彼女の判断は、かえってカイルを刺激してしまい、カイルはリーの首根っこを掴んで、「(リーを)撃ち殺す」と、パティを脅します。どうやら、カイルは、公共の電波を使って、社会にアピールしたい事があるようです。カイルは1人でカウントダウンを始め、カウントダウンが終わったタイミングで、リーを撃ち殺そうとします。しかし、もう少しでカウントダウンが終わるところで、パティは、画面を元に戻し、警備員を呼びます。こうして、リーは、命拾いをする事ができたのでした。

マネーモンスター (字幕版)
マネーモンスター (字幕版)

カイルの一連の行動は、いつの間にか、全米で生放送されるようになります。リーは、カイルの命令で、2箱の段ボール箱のうち、1箱を開封します。そこには、爆弾付きのベストが1着入っており、リーは、すぐにこのベストを着用させられます。一方、パティは、カメラ、音響を除くスタッフ全員、そして、調整室にいる人たちのうち、スタッフ以外の人たちをスタジオの外に出させます。リーは、危険極まりないベストを着用させられた事で、パニック発作を起こしますが、動揺が激しいあまり、自身に置かれた状況を正しく理解できず、自身は心臓発作だと強く思い込んでいました。パティは、調整室からマイクを通して、リーを落ち着かせようとします。その頃、ニューヨーク市警は、FNNから通報を受け、何台ものパトカーを現場に向かわせていました。



カイルは、スタッフがほとんどいなくなったスタジオのドアに鍵をかけ、ようやくメッセージを発信します。「『マネーモンスター』は、俺から全てを奪った。知らん顔だ。誰も問いたださない。政府は何もしない。」と。さらに、カイルは、もう1つの段ボール箱に、リーが着用させられているのと同じベストが入っている事を明らかにします。これを着用するのは、アイビス・キャピタルだと言います。つまり、アイビス・キャピタルのCEOであるキャンビーが着なければならないのです。カイルは、今から4週間前に、「マネーモンスター」で、リーがおススメの銘柄としてアイビス・キャピタルの名を挙げた時、その安全性を自信たっぷりに語っているのを観て、リーの言う事をすっかり信じて株を投資したところ、アイビス・キャピタルの株が大幅に下落してしまい、なんと、自身の全財産である6万ドルも損をしてしまったのです。カイルは、パティに4週間前の番組の映像を探すよう、要求します。



一方、ニューヨーク市警の警察官たちが、FNNに到着します。それから間もなくして、緊急出動部隊も到着します。現場でニューヨーク市警の警察官たちを束ねるパウエル(ジャンカルロ・エスポジート)は、FNNの警備員に社屋の詳細な図面を用意するよう、協力を求めます。同じ頃、パティは、カイルが望んでいた映像を見つけます。パティも、スタジオに残っているリーも、まさか、あの放送の4週間後にこのような事件に巻き込まれるとは夢にも思わなかったため、今更ながら、少々大げさな演出を実行してしまった事を後悔するのでした。リーは、カイルに、「5分後に、(失ってしまった)6万ドルを用意する。」と、約束します。しかし、カイルは、自身が奪われたお金がそのまま戻ってくれば良い訳ではありません。カイルは、なんと、5分後に8億ドルを用意するよう、命じます。自身を含めた、被害者全員分の被害額を提示したのです。しかし、わずか5分で、そんな巨額のお金を用意する事はできません。リーは、ニューヨーク市警から交渉人が来るまでの間、どうにか時間を稼ぐしかありませんでした。



やがて、FNNに、ニューヨーク市警の交渉人・ネルソン(クリス・バウアー)が到着します。ネルソンは、リーとカイルがいるスタジオに声が聞こえるよう、手配をしてもらい、早速、交渉を始めます。しかし、カイルは、「警察に用はない。」と、再び発砲。パティは、反射的に音声を切ってしまいます。カイルが話したい相手は、あくまでキャンビーとリーの2人。しかし、キャンビーは出演を取り止めています。パティは、もう1度ダイアンに中継先から出演してもらうよう、スタッフに指示し、自身はアイビス・キャピタルに関する情報を集めます。



その頃、「マネーモンスター」への出演を取り止めたキャンビーは、実は、行方不明になっていました。アイビス・キャピタルは、キャンビーが出張先のスイスから帰りの飛行機に搭乗したところまでは把握していました。しかし、その後の足取りは、どの社員も全く知りませんでした。もともと、キャンビーが飛行機で移動している間は、社員たちは、本人と連絡が取れないようになっていました。この時、キャンビーが搭乗した飛行機は、とっくに、ニューヨークに着陸しているはずなのですが、なぜか、ずっと、飛行中のままになっていました。



最初、全米で報じられていたこの事件は、やがて、韓国・ソウル、アイスランド・レイキャビク、南アフリカ・ヨハネスブルクと、世界中で報じられるようにになります。そんな中、ニューヨーク市警の幹部たちは、FNNの外で作戦を練っていました。彼らは、時間をかけて話し合った結果、FNNの関係者全員を外に脱出させた上で、カイルを射殺する事を決めます。その頃、アイビス・キャピタルのCFO(最高財務責任者)・グッドロー(デニス・ボウトシカリス)は、スマートフォンで、ある人物と話をしていました。その相手とは、行方不明になっているはずのキャンビーでした…。



この映画でメガホンを取ったのは、「羊たちの沈黙」(1991年)や「フライトプラン」(2005年)で知られる女優ジョディ・フォスター。ストーリー展開の複雑さは、男性監督の作品に全く引けを取らないので、この映画の監督を女性が務めたと知った時は、本当に驚きました。これだけ複雑なストーリーを作り出せるのは、フォスターの女優としての長いキャリアや、彼女自身の頭の回転の速さ(※フォスターは、イェール大学を優秀な成績で卒業しています。)等、様々な要素があっての事ではないでしょうか。フォスターの監督作品は、この映画の他に、「リトルマン・テイト」(1991年)、「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ」(1995年)、「それでも、愛してる」(2011年)があります。



リー役は、「フィクサー」(2007年)、「マイレージ、マイライフ」(2009年)のジョージ・クルーニー。「マネーモンスター」の生放送中に、株を賢く増やす術を伝授するために、プロダンサーを従えてダンスをしたり、モニターに風刺的なイラストを積極的に映したりする姿は、リーが経済界での成功者である事をこれ見よがしにアピールしている印象が非常に強く、「株で大損をする人たちの怒りを買ってしまっても、仕方がない。」という説得力が十分にありました。パティ役は、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ノッティングヒルの恋人」(1999年)のジュリア・ロバーツ。リーを励まし続ける時の抑えた演技や、事件が早く解決しない焦りから来る瞬間的な怒りを見せる演技がとても印象に残りました。また、カイル役のジャック・オコンネルの鬼気迫る演技は、この映画が作り出す緊張感のほぼ100%を占めていました。相手が何を言ったら、激怒したり、銃を発砲したりするのかが、全く予想が付かないところに、無意識に震えがくるような怖さが感じられました。



カイルが、高圧的な物言い、いとも簡単に響かせる銃声で、スタジオという密室を支配する様子は、世界中で報じられますが、事件の解決の糸口は、なかなか見つかりません。リーは、あまりの物々しい雰囲気に、自分たちの様子がおそらく全米や海外で報じられているのではないかと考え、カイルの要望を叶えるべく、世界中の多くの視聴者を巻き込む、ある作戦を思い付きます。果たして、リーの賭けは、吉と出るか、それとも、凶と出るのか。答えが気になる方は、ぜひ、DVDで。

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ビッグ(1988年 アメリカ)

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12歳の少年・ジョッシュ(デイヴィッド・モスコウ)は、自宅の自室で、ジュースを片手に、パソコンゲームに夢中になっています。その途中、キッチンから「ジョッシュ」と、母親(マーセデス・ルール)の呼ぶ声が聞こえてきます。実は、この日、ジョッシュは、ゴミ出しを頼まれていたのですが、ジョッシュはすぐにそうしたくても、できませんでした。どうしてもキリの良いところまでゲームを続けたかったのです。ジョッシュは、何度も繰り返し自分の名を呼ぶ母親に、適当に返事をしながら、ゲームを続けていました。そして、ジョッシュがパソコンの画面から少し目を離した隙に、ついにゲームオーバーに。こうして、ジョッシュは、ゴミ出しを済ませたのでした。

ビッグ 製作25周年記念版 [Blu-ray]
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ゴミ出しを済ませたジョッシュは、自宅には戻らず、そのまま外へ出掛けます。そして、道中、親友のビリー(ジャレッド・ラッシュトン)と合流して、一緒に雑貨店へお菓子を買いに行き、たわいもない話をします。すると、そこへ、別の親友・フレディの姉・シンシア(キンバリー・M・デイヴィス)がやって来ます。シンシアは、フレディとは違い、美人と称されるような少女で、常に大勢の友達が後ろからついて来ていました。シンシアは、ジョッシュたちの方を向いてニッコリ微笑むと、大勢の友達と一緒に雑貨店へ入っていきます。「(シンシアは)絶対君が好きだ。確かめてみるよ。」シンシアの微笑みを勝手にそう解釈したビリーは、ジョッシュに対し、シンシアとジョッシュの愛のキューピットになる事を誓います。



ある日の夜、ジョッシュは、父親、母親、生まれたばかりの妹・レイチェルと一緒に、移動遊園地に足を運び、ジェットコースターの前に来ていました。一行の目の前を走るジェットコースターは、物凄いスピードでコースを一回転していました。今まで見た事のないスピードに、最初は足がすくむジョッシュでしたが、そこに、シンシアが偶然来ているのを見つけると、シンシアに男らしさをアピールしたくなり、一人でジェットコースターに乗ろうと考えます。父親は、ジョッシュの内心を察して、「無理に乗らなくていいぞ」と、ジョッシュに声を掛けますが、ジョッシュの意志は変わりませんでした。

ジョッシュは、家族を観覧車の前で待たせ、ジェットコースターの順番を待つ行列を夢中で掻き分けて、シンシアの隣に滑り込みます。そして、ちょうど滑り込んだタイミングで、シンシアに声を掛けられます。ジョッシュは、ジェットコースターは生まれて初めてだというのに、シンシアにいいところを見せたくて、ついジェットコースターに乗り慣れているふりをしてしまいます。母親はジョッシュが緊張している事に気付かずに、笑顔でカメラのシャッターを切ります。

すると、シンシアとジョッシュが並んでいる位置に、一人の少年が近付き、シンシアに声を掛けてきます。少年の名は、デレク。既に車の運転ができる年齢になっているデレクは、以前からシンシアととても親しくしていました。つまり、デレクは、シンシアのボーイフレンドなのです。ジョッシュは、デレクが何者なのか、すぐに勘づき、落ち込みます。さらに、いよいよジェットコースターに乗る順番が近付いてきたタイミングで、ジョッシュが移動遊園地側によって予め決められていた身長に届かず、乗られない事が発覚してしまいます。こればっかりは、ジョッシュ本人の力ではどうにもできません。ジョッシュは、ジェットコースターに乗るのを諦めるしかありませんでした。



ジョッシュは、ショックを受けたまま、一人で遊園地の中を歩いていました。すれ違う人たちにぶつかる度に、自身の背の低さが嫌になるジョッシュ。しばらくすると、自身の目の前に、占い師の人形・ゾルターが入った、電話ボックスのような機械を見つけます。ジョッシュは、機械に書いてある通りに、25セントを入れますが、機械はうんともすんとも言ってくれません。ジョッシュは、ついイライラして、機械を力いっぱい叩きます。すると、突然、ゾルターの目が真っ赤に光り、何度も口を大きく開けたり閉じたりします。機械をよく見ると、25セントを入れる事の他にも、説明書きが幾つかありました。まず、「ゾルターの口に狙いを定めて」という指示に従い、機械に取り付けてある小さなハンドルを回して、道具をゾルターの口の位置まで移動させます。そして、ジョッシュは、「願いを言え」という指示に従い、迷う事なく、あの切実な願いを口にします。「大きくなりたい。」そう口にすると、ジョッシュは、ついに機械のボタンを押します。すると、ゾルターは、ジョッシュに1枚のカードを渡しました。そこには、「願いをかなえる」と書いてありました。その時、ジョッシュは、コンセントが抜けていたにもかかわらず、機械が作動していた事に初めて気付きます。ジョッシュは、この現象を不思議に思いながら、その場を後にします。



翌朝、ジョッシュは、学校に遅刻する事を心配する母親の声に目を覚まし、歯を磨くために、いつものように洗面台へ向かいます。ジョッシュが何となく鏡を覘き込むと、今まで見た事のない大人の姿が映っていました。その人は、昨日とは全く違う外見になってしまった、ジョッシュ(トム・ハンクス)でした。ジョッシュは、昨夜眠っている間に、なんと、30歳の男性の体になってしまったのです。背が急激に伸び、体中に筋肉が付いていて、顔にはうっすらと髭が生えていました。ジョッシュは、自分の身に何が起きたのかがさっぱり分からず、動揺します。そして、もう一度鏡を覘き込み、今度は、昨日までなかった胸毛を軽くさすります。すると、ジョッシュが洗面台にいる間に、ジョッシュの部屋に着替えを持ってきた母親が、洗濯物を持ってくるよう、声を掛けます。ジョッシュは、いつものように、「分かった」と返事をしますが、その声は、変声期が突然訪れたが故に、昨日よりグッと低くなっていました。母親は、てっきりジョッシュが風邪をひいたものと勘違いし、キッチンへ向かいます。ジョッシュは、部屋に戻り、母親が持ってきた着替えを着ようとしますが、子ども服なので、当然、サイズが合いません。ジョッシュは、父親の服をこっそり借りて、朝食を摂らずに、慌てて子供用の自転車に乗って、登校します。しかし、途中でふと我に帰り、母親に事情を説明すべく、いったん自宅に戻ります。しかし、母親は、大きくなったジョッシュを見て、泥棒だと思い込み、家の中を逃げ回ったかと思うと、キッチンでナイフを手に取り、ジョッシュに立ち向かおうとします。ジョッシュが何回も何回も事情を説明しても、母親には息子の話を聞く心のゆとりが全くありませんでした。



結局、ジョッシュは学校に遅刻してしまいます。学校に到着した時、クラスメートたちは体育の授業中で、体育館でバスケットボールをしていました。ジョッシュは、授業が終わるまで、体育館の倉庫に隠れます。しばらくして、授業が終わると、ビリーが後片付けをしに、倉庫に入ってきます。ジョッシュは、ビリーに声を掛けますが、ビリーはジョッシュをバスケットボールのコーチだと勘違いします。ジョッシュは、自分がジョッシュである事を信じてもらおうと、必死になって事情を説明します。ビリーは、ジョッシュをよく見ずに、ただただ動揺するだけでしたが、ジョッシュがビリーをフルネームで呼ぶと、ようやくジョッシュの方にきちんと振り向きます。この時、ビリーは、動揺のあまり、泣き顔になっていました。ジョッシュが、日頃からビリーと一緒に歌っていた歌を、ダンスをしながら熱唱すると、ビリーは落ち着きを取り戻しました。

わずか一晩の間にジョッシュの身に起きた事を理解したビリーは、ジョッシュの体を大きくさせた、あの機械をもう一度探せば、ジョッシュは元の体に戻るのではないかと考え、ニューヨークへ機械を探しに行く事を提案します。肝心の交通費は、ビリーがこっそり持ち出した、自身の父親のへそくりを使う事にしました。こうして、ジョッシュは、早速、ビリーと一緒にニューヨークへ向かうのでした。



ニューヨークに到着したジョッシュとビリーは、タイムズスクエアの歩道を歩いていました。娼婦や物乞いが数多いるところを抜けると、目の前には、「セントジェームズ・ホテル」と書かれた看板が掛けられたホテルが見えました。二人は、何となくこの名前に惹かれ、ここに宿泊する事にします。実際にフロントに行ってみると、そこには、煙草を口に加えた、ファンキーな服装の若い男性スタッフが宿泊客に応対していました。宿泊費は1泊17ドル50セントで、さらに、シーツ代として、10ドルを支払わなければなりませんでした。二人は、すぐにその場で宿泊代とシーツ代を支払い、部屋に案内してもらいます。案内された部屋は、ベッドも、カーテンも、テレビも、洗面台も、全て年季が入っていました。他の部屋からは宿泊客同士が激しい口調で喧嘩する声が聞こえ、外からは、銃の発砲音が聞こえ、子どもが宿泊するには、あまりにも危険でした。ジョッシュは、今まで聞いた事のない声や音に怯え、次第に母親に会いたくなって、ベッドの上で泣き崩れてしまいます。



翌日、ジョッシュとビリーは、ゾルターの入った機械を探し始めます。最初はホテルの近くのゲームセンターで探しますが、残念ながら、見つける事はできませんでした。そこで、二人は、役所に向かいます。二人が受付に聞いてみると、探している機械があるかどうかを調べてもらう事にはなったのですが、結果が分かるまで6週間もかかる事が分かります。ジョッシュは、「ずっと、30歳のままなのだろうか。」と落ち込みます。ビリーは、6週間も学校を休む訳にはいかないので、ニューヨークを離れなければなりません。一方、ジョッシュは、30歳の体のままで学校に通う訳にはいかないため、ビリーから「働いてみたら?」と、提案されます。ビリーは、ジョッシュの職探しに協力します。しかし、当然のことながら、ジョッシュには運転免許がなく、学校で手に職をつけた訳でもありません。その結果、ジョッシュが行きついたのは、おもちゃのメーカーである「マクミラン・トイズ社」の求人広告でした。おもちゃのメーカーなら、一人の子どもとして、おもちゃで遊んできた日々の経験を存分に活かせます。ジョッシュは、早速、面接試験を受けに、ビリーと一緒に「マクミラン・トイズ社」へ足を運びます…。



メガホンを取ったのは、映画監督の他に、映画プロデューサー、女優としても活躍したペニー・マーシャル。2018年12月に他界したばかりです。ペニー・マーシャルは、1986年に、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」で、映画監督としてデビュー。この他、映画監督としての代表作に、「レナードの朝」(1990年)、「プリティ・リーグ」(1992年)があります。兄は、「フォーエバー・フレンズ」(1988年)、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ニューイヤーズ・イヴ」(2011年)で監督を務めたゲイリー・マーシャルで、2016年7月に他界しています。



30歳の体のジョッシュを見事に演じ切ったのは、「めぐり逢えたら」(1993年)、「フィラデルフィア」(1993年)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)のトム・ハンクス。子ども特有の仕種を完璧に再現しています。体格は立派でも、心はあくまで子どものままなので、音の強弱を考えずに歌を歌ったり、食べ物を食べながらふざけたりする姿を全力で演じているのが、とてもコミカルに見えます。また、怖い物音に怯える姿を全力で演じているのも、実に見事です。ハンクスは、1988年に、この映画で、第46回ゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)主演男優賞を受賞しました。



この後、ジョッシュは、面接試験で嘘を並べ立てた結果、見事、「マクミラン・トイズ社」に採用されます。しかし、実際にジョッシュが入社してみると、「マクミラン・トイズ社」は、あれやこれやと問題が山積していました。ジョッシュは、社長のマクミラン(ロバート・ロッジア)、やり手の重役のスーザン(エリザベス・パーキンス)が温かく見守る中、この会社で、子どもとしての人生経験をどれだけ活かせるのでしょうか?また、面接試験でついた嘘の数々がバレてしまいそうな子どもらしい振る舞いの数々も、この映画の見どころです。続きが気になる方は、ぜひDVDで。

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ブルーム・オブ・イエスタデイ(2016年 ドイツ・オーストリア)

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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ドイツ南部・バーデン=ヴュルテンベルク州の州都・シュトゥットガルトにある州司法行政中央研究所。オーガニックフードをこよなく愛するバルタザール(ヤン=ヨーゼフ・リーファース)は、パグのガンジーを優しくなでるノルクス教授(ロルフ・ホッペ)の前で、シリアルを食べようとしたその瞬間、トト(ラース・アイディンガー)から責められます、「研究所を催事に貸すなんて。」と。バルタザールは、「貸すぐらい、いいだろ。」と言い返しますが、トトも、簡単には引き下がりません。「金儲けか?」バルタザールは、「自然食品のフェアだ。出展料は安くしてある。」と、自分のした事を正当化しようとします。トトは、バルタザールの気持ちがまるで理解できません。この研究所には、反ファシズムの写真、つまり、アウシュヴィッツ収容所の写真が飾ってあるのですから。

ブルーム・オブ・イエスタディ Blu-ray
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また、トトは、2年前から地道に準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議の責任者がバルタザールである事も、納得していませんでした。ノルクス教授は、責任者は自制できる者でなければならないと考え、責任者をバルタザールに決めたのですが、トトは、自分が自制できない人間と判断されてしまった事を受け入れられず、「下準備は良かった。」と、ノルクス教授やバルタザールにフォローされても、ちっとも嬉しくありませんでした。ノルクス教授は、ガンジーと一緒に、自身の机の方へ向かい、バルタザールは、トトに対して、ひたすら意見を述べ続けます。トトは、バルタザールの意見を聞けば聞く程、嫌悪感が増し、とうとう暴力を振るってしまいます。自身の机に戻ったノルクス教授は、トトがバルタザールを力いっぱい殴っている間に、気を失い、そのまま息を引き取ります。ガンジーは、ノルクス教授に近付き、静かに寄り添うのでした。



シュトゥットガルトの空の玄関口、シュトゥットガルト空港。トトの暴力によって鼻骨を骨折し、歯が1本抜けてしまったバルタザールは、ガンジーをバッグに入れて連れてきたトトに一緒に、ある女性が来るのを待っていました。その女性とは、アウシュヴィッツ収容所が建てられたポーランドの近代史を研究するフランス人研修生で、フランス語とドイツ語のバイリンガルであるザジ(アデル・エネル)でした。しかし、バルタザールは、トトの隣にいる事に耐えられなくなって、空港を出ていってしまいます。その後、残されたトトは、ガンジーを脇に抱えた状態で、ザジと会います。ザジは、トトと会った瞬間、トトに会えた事に大感激します。実は、ザジは、以前に、トトの著書「バルト三国の親衛隊情報部」を読んだ事があり、ずっとトトに会いたいと願っていたのです。



しかし、ザジは、この日、トトが運転した車がベンツだと知ると、突然、「タクシーで研究所に行く」と、言い出します。トトがベンツに乗っているのは、自身に対する嫌がらせだというのです。ザジの口調は、時間が経つにつれて、厳しさを増していきます。しかし、ザジは、自身の考えが大人げないのをよく分かっていました。ザジは、トトがノルクス教授を尊敬している事を知ると、急に人が変わったように安心します。それにしても、なぜ、ベンツの存在がザジの癪に障るのでしょうか?理由は、ザジの祖母・レベッカの壮絶な最期にありました。実は、レベッカが亡くなったのは、今のザジの年齢とほぼ同じ頃、第2次世界大戦の最中でした。レベッカは、第2次世界大戦時に、ベンツのガス・トラックの荷台に押し込められ、毒ガスによって、命を落としたのです。勿論、現代を生きるトトは、戦争に加担している訳ではないですが、トトと同じく現代を生きるザジは、現代においてベンツに乗る人を、第2次世界大戦の加害者に等しいと勝手に判断していました。しかし、歴史家であるトトは知っていました。ガス・トラックを製造していたのは、ベンツではなく、オペルだと。レベッカは、オペルが製造したオペル・ブリッツかマギルス・Dのどちらかで殺害されたはずで、ベンツが製造した車は、安楽死で亡くなった遺体を乗せるのに使われただけでした。



トトは、帰宅後、リビングルームで、アウシュヴィッツ会議の準備に没頭していました。飼育しているヤギが目の前に来ている事を、妻で獣医のハンナ(ハンナ・ヘルツシュプルング)に教えてもらうまで、没頭していました。トトは、40歳になった自身がザジを押し付けられた事を、思わずハンナに愚痴るのですが、ハンナは、これまでトトの仕事に関する愚痴を嫌という程聞かれていたため、とうとうヤギを連れて、リビングルームを出ていってしまいます。トトは、ハンナの後を追いかけますが、双方のやり取りは、口喧嘩に発展してしまいます。まだ幼い養女・ザラは、両親の良からぬ光景を、キッチンから見つめていました。ハンナは、ザラの姿に気付き、ようやく我に帰ります。そして、ザラを、ガンジーと一緒に、トトの母親の元に行かせて、改めて、トトの悩みに耳を傾けるのでした。



トトとザジは、空港を離れた後、中央研究所の研修生が寝泊まりする古びたゲストハウスに移動しました。向かい側には、ノルクス教授が生前住んでいた家が建っています。ベンツに乗る事をあんなに避けたがっていたザジは、タクシーに乗るのかと思いきや、実際には、ドラッグのディーラーが運転する車に乗せてもらいました。トトも、ガンジーと一緒に、ベンツに乗り、同じ場所までついてきました。到着後、ザジは、トトに対し、ドラッグのディーラーにも良い一面がある事を熱心に語ります。この時の目の輝きは、ベンツに乗る事に抵抗していた時とは、雲泥の差でした。しかし、研修生が皆、このゲストハウスで寝泊まりしている事をトトから聞かされると、ザジの表情が一変します。ザジは、ノルクス教授が向かい側の家で暮らしていた事を知ると、「ノルクス教授は、家で亡くなったのか?」と、トトに尋ね、トトから「研究所で亡くなった」と、教えてもらうと、ノルクス教授の最期の様子を熱心に尋ねます。ザジは、レベッカの壮絶な最期だけでなく、他の人の最期にも深い関心があるようです。



ところが、次の瞬間、ザジは、突然、「祖母の最期の話で、気を引いてしまった」と、泣き出してしまいます。空港にいた時、トトが、自身を半人前扱いしたのだと思い込み、思わずあのような行動を取ってしまったというのです。トトは、ザジの気持ちを落ち着かせるため、「ホテルに滞在してはどうか?」と提案しますが、ザジは、「ノルクス教授の家に行きたい。」と言い出します。そこで、トトは、ノルクス教授の墓に行く事を提案しますが、ザジは、あくまでノルクス教授の家に行く事にこだわります。「ノルクス教授の家の中に入れば、ノルクス教授はきっと喜んでくれる。」と信じ、「(自身も家の中で)ノルクス教授の存在を感じていたい。」と、いうのです。



結局、ザジは、トトの反対を押し切って、ノルクス教授の家に入ります。ザジは、トトの声に全く耳を貸さず、ノルクス教授の私物を興味深そうに眺めます。トトは、ついに説得を諦め、ノルクス教授が生前に集めたユダヤ人の写真に見入ります。しばらくして、トトは、ザジに呼ばれます。ザジが、3年前に、研修旅行でイスラエル・エルサレムの記念館に行った時の写真を、偶然見つけたのです。ザジは、「ノルクス教授は独身だったの?」と、トトに尋ねますが、トトは答えを知りませんでした。すると、ザジは、いきなり自身の恋人の存在を打ち明けます。名前はバルティといい、なんと、既婚者でした。トトは、バルティと言う名前に、何となく聞き覚えがありました。トトは、バルティが誰の事なのかを思い出そうとしますが、どうしても思い出せません。ザジは、「(バルティとの不倫を)周囲には秘密にしてほしい。」と、トトに頼み、さらに、トトに、バルティの写真を見せようとします。トトは、その写真には興味がなく、その場を離れようとしますが、次の瞬間、思わずつまづいてしまいます。ザジは、タイミング良くトトに近付き、バルティの写真を強引に見せます。しかし、写真に写っていたのは、なぜか、3歳の時のバルティでした。ザジは、「写真は、子どもの頃のものに限る。」と、最愛の男性の幼かった頃の姿に見入るのでした。トトから話を一通り聞いたハンナは、トトがザジに散々振り回された苦しみをようやく理解したかと思うと、すぐにトト公認の愛人に会いに行ってしまいます。



翌日、研究所に出勤したトトは、廊下の掲示板の前でザジと会い、前日の振る舞いが良くなかった事を詫びます。両者の関係は修復されたかに見えましたが、ザジがパリから持参した食べ物を研究員たちに配る旨を口にすると、トトの逆鱗に触れてしまいます。近代史を専門とする歴史家にあるまじき行為に思えたからです。やがて、ランチの時間になり、研究員たちは、ワーキングランチを始めます。バルタザール、アニータら、研究所の研究員たちは、ザジが持参した食べ物を美味しそうに食べますが、トトだけは、皆の前で堂々と食べ物を元の皿に戻します。バルタザールらは、トトの大人げない行動に異議を唱えます。その後、今度は、アニータから、ダイムラー・ベンツがアウシュヴィッツ会議のスポンサーになる可能性が高い事が報告されます。すると、ザジがまたしても空港で見せたような嫌悪感を露わにします。トトも、ザジの肩を持ち、ワーキングランチは不穏な空気に包まれてしまうのでした。



そんなある日、ノルクス教授が生前、アウシュヴィッツ会議のスポンサーになってくれるよう依頼し、承諾をもらっていた大女優のルビンシュタインが、ノルクス教授の訃報を受けて、スポンサーの辞退を申し出ます。因みに、ノルクス教授は、アウシュヴィッツ収容所からの生還者の一人であるルビンシュタインに講演も依頼しており、ルビンシュタインはそれも承諾していましたが、講演の方も辞退すべきかどうか考えていました。トトはザジと一緒にルビンシュタインの住む豪邸を訪れ、説得にあたりますが、ルビンシュタインは、ドイツ語を話そうとせず、アウシュヴィッツ収容所にいた時代の話をするのもとかく嫌がり、自身の美容整形の自慢をしたり、トトに結婚生活が上手く行っているかどうか根掘り葉掘り聞き出したりして、懸命に話を逸らそうとします。このままでは、アウシュヴィッツ会議の開催自体が危ぶまれてしまいます。トトは、最悪の事態を避けるべく、熱心に説得を続けるのですが…。



この映画は、2016年、第29回東京国際映画祭で、東京グランプリとWOWOW賞を受賞しました。メガホンを取ったのは、クリス・クラウス監督。孤独な女囚と、彼女の才能を見抜いた年老いた女性ピアノ教師が、音楽を通じて共鳴していくドイツ映画「4分間のピアニスト」(2006年)が有名です。クラウス監督は、自身の家族に、第2次世界大戦にまつわるダークな過去があると知り、大変なショックを受け、自らホロコーストの調査を重ねました。その際、加害者と被害者の孫にあたる人たちが、その歴史をジョークにしながら楽しそうに話している姿に触れたそうです。その人たちは、家族の歴史自体を忘れた訳でもなく、そこから来る深い心の傷が癒えた訳でもないのですが、クラウス監督は、彼らの未来を感じさせる心の豊かさに感銘し、この映画のアイデアが浮かんだのだそうです。登場人物の台詞は、正直言ってあまり品が良くない言葉遣いが目立ちますが、クラウス監督のこのようなチャレンジ精神は非常に素晴らしいと思いました。



この映画は、生真面目且つ人一倍短気なトトと、情緒不安定でいつ突拍子もない行動を取るのかが分からないザジの2人が映画全体を支配していますが、それをアコースティックギターのBGMが見事に和らげています。この映画は、音楽の力がなければ、ただただ奇妙なだけで、2時間余りに及ぶ上映時間が2倍にも3倍にも感じられたかもしれません。私は、この映画を通して、映画音楽の一つの役割を学ぶ事ができたように思います。



ところで、なぜ、トトは、こんなにも気が短いのでしょうか?その理由は、第2次世界大戦中にトトの祖父が取ってしまった、取り返しのつかない行動にありました。それは、どういう事なのでしょうか?また、トトの祖父がザジの祖母と面識があった事も、明らかになります。さらに、トトとザジの人間関係にまさかの変化が…。これらの詳細を知りたい方は、ぜひDVDをご覧いただけたらと思います。

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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デビルズ・バックボーン(2001年 スペイン)

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]

内戦が続く1930年代末のスペイン。12歳の少年・カルロス(フェルナンド・ティエルブ)は、1台の車に乗せられ、共和派の孤児院サンタ・ルチアにやって来ます。カルロスは、共和派の闘士だった父・リカルドを亡くした事をまだ聞かされておらず、リカルドの消息が分かるまでのほんの少しの間、ここに滞在する事になったのだと信じていました。着いて早々、カルロスは、敷地内に刺さったままの大型爆弾に、興味津々の様子。爆弾を触ったり、叩いたりする様子は、まさに怖いもの知らずです。この爆弾は、ここに落ちた後に、信管が人の手によって抜かれたため、カルロスのように、触ったり、叩いたりしても、爆発する心配は全くありませんでした。一方、サンタ・ルチアの教師たちは、カルロスが到着したのを知り、ガッカリを通り越して、呆れ返っていました。というのも、サンタ・ルチアは、人が予定通りに訪ねてこないのが日常茶飯事だからです。この場合は、本来であれば、アヤラとドミンゲスという2人の教師が来るはずだったのですが、アヤラは怪我で来られず、ドミンゲスも何らかの事情で来られなくなったようです。そんな時に、カルロスがやって来たのです。

デビルズ・バックボーン(字幕版)
デビルズ・バックボーン(字幕版)

しばらくの間、爆弾の傍で座って過ごすカルロス。ふと、建物の大きな扉に目をやると、一人の少年の幽霊が立っていました。しかし、幽霊はすぐに姿を消してしまいます。カルロスは建物の中がどうなっているのか、興味が湧き、建物に侵入します。すると、侵入してすぐに、背後から食べ物を乞う少年の声が聞こえてきます。声の主は、サンタ・ルチアで暮らす少年・ガルベスでした。ガルベスの隣には、彼の仲間である少年・フクロウもいました。皆がお互いに自己紹介をすると、カルロスは侵入していた建物を離れ、ガルベスたちと一緒にどこかへ向かうのでした。

スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)
スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)

サンタ・ルチアの院長・カルメン(マリサ・パレデス)は、カルロスを車で連れてきた男性に、抗議をしてました。今、サンタ・ルチアは、受け入れている子どもの数があまりにも多く、もうこれ以上の受け入れは無理なのです。男性は、カルロスの父・リカルドが共和派の闘士として立派に闘った事を話し始めて、逆にカルメンを説得しようとするのですが、カルメンは、「闘ったのは、私。リカルドは学究の人だわ。」と反論します。リカルドは、かつてこの施設にカルメンを遺し、信念を貫いたに過ぎなかったのです。彼女の使う義足は、内戦での闘いの壮絶さを如実に物語っていました。



しかし、カルメンには、カルロスの受け入れよりも、もっと心配な事がありました。もし、反乱軍がサンタ・ルチアについて調べたら、サンタ・ルチアが共和派の孤児院だと分かってしまうのではないかと心配していたのです。カルメンは、このような不安を抱えながら、子どもたちと向き合ってきましたが、とうとうサンタ・ルチアを離れる決意をし、武器代にと、男性に地金を10本渡すのでした。そんな時、アヤラが、予定より遅れて、サンタ・ルチアにやって来ます。敷地内で偶然、アヤラの姿を見つけたカルロスは、以前からアヤラを知っていたため、大喜びして、後を追いかけます。しかし、後を追って、門を開けると、残酷な事に、アヤラを乗せた車が遠くへ行ってしまいます。だんだん小さくなっていく車を、カルロスは泣きながら見つめていました。カルメンと、サンタ・ルチアの教師・カサレス(フェデリコ・ルッピ)は、小さく震えるカルロスの背中を見て、とうとうカルロスを受け入れる決意をします。



カルロスは、これから、孤児用の大部屋で寝起きする事になります。しかし、この大部屋は、利用されている形跡があまりありません。カルメン曰く、これまで多くの孤児たちがこの大部屋から逃げ出していったのが、その理由だとか。そんな大部屋でカルロスに与えられたベッドの番号は、12番。カルメンは、カルロスにロッカーの鍵を渡して、去っていくと、カルメンと入れ替わるように、大勢の孤児たちが入ってきます。一部の孤児たちは、カルロスの方を見ながら、ひそひそと話をします。これからカルロスが使う12番のベッドは、サンティ(フニオ・バルベルベ)が使っていたものだと。



サンタ・ルチアの敷地内に建つ1軒の家には、もともと孤児としてやって来た、管理人のハシント(エドゥアルド・ノリエガ)とコンチータ(イレネ・ビセド)の若いカップルが住んでいます。2人は、いつか結婚して、知り合いが全くいないグラナダで農場を始めたいと考えていました。ある日の晩、ハシントの仲間2人が訪ねて来ます。ハシントとコンチータは、彼らと夕食を共にします。夕食後、ハシントは、車で帰宅の途に就こうとする彼らを前に、「今夜、ひと仕事やってやる。」と宣言します。ハシントは、生活のために金塊を取りに来た人がいるとの情報を耳にしていて以来、何か危機感を覚えたのか、心が落ち着かずにいたのです。仲間たちは、「期待してるぜ。」とハシントを応援します。そのやり取りを見ていたコンチータは、ハシントの仲間たちに対し、嫌悪感を抱きます。ハシントは、少年時代、よく空を見上げて、こう思っていました。いつかこの地を出て行って、金持ちになり、この地の建物を買って、全部ぶち壊すのだと。その目的は、15年にも及ぶ自身の過去を消す事でした。



同じ頃、カルロスは、あの12番のベッドに横になっていました。しかし、カルロスは、なかなか眠れません。カルロスは、ベッドの側面に彫ってあった「サンティ」の文字を指でなぞりながら、「サンティ」と声に出して読んでいました。すると、どこかから、カルロスを呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスは、思わず上半身を起こし、身体全体を自身のベッドと隣のベッドとを遮るカーテンの方に向けます。そして、思い切ってカーテンを開けるのですが、そこには誰もいません。隣のベッドの寝具をどかしても、ベッドの下を覘いても、人の気配がありません。その時、水の入った瓶が倒れる音がしました。カルロスが立ち上がると、倒れた瓶から水がこぼれ、水で濡れた床には、人間の子どもの足跡がいつの間にかできていました。すると、そこへ物音に気付いた子どもたちが集まってきます。彼らは、カルロスが水をこぼしたのだと思い込み、カルロスに水を汲みに行かせようと考えます。カルロスは、自身を呼ぶ声の主を探ろうとしますが、それでも、彼らは、カルロスに水を汲みに行かせる事しか頭になく、なかなかその場を動こうとしないカルロスを臆病者扱いします。カルロスは、自身のやりたい事をいったん諦め、水を汲みに行く事にします。自身を「臆病者」と最初に呼んだ、リーダー格のハイメ(イニーゴ・ガルセス)と一緒に。



カルロスは、ハイメと一緒に井戸のある建物を目指します。各自、空になってしまった瓶を持ち、ゆっくりと歩を進めます。信管が抜いてある爆弾の前を通り、ハシントとコンチータが住む家の前も通り、井戸のある建物に辿り着きます。2人は、早速、水を汲みます。先にハイメが慣れた手つきで水を汲み、その後に、カルロスが慣れない手つきで水を汲みます。ところが、カルロスが水を汲んでいる途中で、井戸のすぐ傍にあったハサミが大きな音を立てて落ちてしまいます。ハシントとコンチータもハサミが落ちる音に気付き、ハシントが、一人で、井戸のある建物に向かいます。ハシントは、建物の出入り口にあるライフル銃を手に取り、人の気配がないかどうかを確かめると、壁面の一部を取り外します。そこには、見るからに重そうな扉がありました。ハシントは、手元にあった鍵を鍵穴に差し込むのですが、残念ながら、扉は開かず、まるで人が変わったかのように悔しさを爆発させます。その後、ハシントは外に出て、出入り口の扉と扉を太い鎖でつなぎ、さらに鍵をかけ、それまでずっと口に加えていた、火が付いたままの煙草を地面に投げ落とします。カルロスよりも先に水を汲んでいたハイメは、既に外に出ていて、爆弾の陰に隠れていたため、ハシントに見つからずに済みました。



一方、カルロスは、落ちてしまったハサミを慌てて片付け、水を汲んだ瓶を持って、建物からの脱出を試みます。ところが、再び、「カルロス」と呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスが、声の聞こえてくる方へ近付いていくと、そこには、茶色っぽく濁った水が今にも溢れそうになっている貯水槽がありました。さらに、突然、人の気配も。カルロスが人の気配のする場所へ恐る恐る近付くと、誰かがカルロスの肩にそっと手を置きます。カルロスが思わず振り向くと、その人は、「ギャアアア~~~~~ッ!!」と悲鳴を上げて、姿を消してしまいます。カルロスの手の指からは、不思議な事に血が滲み出てきました。さらに、同じ人の声で、「大勢死ぬぞ…。」という言葉も聞こえてきます。カルロスは、さすがに怖くなり、逃げ出そうとするのですが…。



この映画でメガホンを取ったのは、ギレルモ・デル・トロ監督。「パシフィック・リム」(2013年)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)と、最近、話題作を世に送り出している監督です。



この映画を観る前、私は、この映画の事をてっきりホラー映画だと思っていたので、「観ている途中で、怖さのあまり、ギブアップしないだろうか。」と、少し心配していました。しかし、実際に観てみると、全然違いました。この映画は、確かに、幽霊が登場しますが、悲鳴を上げたくなるシーンの連続ではないので、ホラー映画ではありませんでした。また、スペインの内戦の時代(1936年~1939年)の設定ではありますが、内戦の様子を描いたシーンはほとんどないので、戦争映画だと断定する事もできませんでした。



では、これは、どういうジャンルの映画なのでしょうか?私は、ミステリー映画だと思います。この映画には、ハシントとコンチータという若いカップルが登場します。ハシントは、15年にも及ぶ過去を消す事にこだわっていますが、実は、この映画のキーパーソンは、主人公のカルロスではなく、ハシントであると考えています。なぜなら、映画の後半で、ハシントの決して許されぬ心の闇が様々な形となって現れるからです。ハシント役のエドゥアルド・ノリエガの演技は、時間が経つにつれて、鬼気迫る演技がグレードアップしていくのが感じられ、カルロス役のフェルナンド・ティエルブよりも存在感が大きくなっていきます。ハシントの哀れな心の内に注目してみると、非常に見応えがある映画です。ご興味があれば、ぜひご覧いただきたいです。

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]


サイレント・ボイス 愛を虹にのせて(1987年 アメリカ)

※今回は、2019年5月12日に、BSの映画チャンネル・スターチャンネル1で放送されたものを鑑賞した上で、ご紹介しています。この映画のDVDやBlu-rayの販売情報を調べましたが、どちらも見つける事ができませんでした。何卒ご了承くださいますよう、お願い致します。


アメリカ・モンタナ州のとある片田舎に建つ家の庭で、12歳の野球少年・チャック(ジョシュア・ゼルキー)が、妹・キャロリンを相手に、キャッチボールをしています。キャロリンが、チャックの投げたボールを受けられず、走ってボールを取りに行くと、チャックは「もういいよ。」と声をかけ、キャッチボールを止めます。そして、キャロリンに、庭の木にぶら下がっている大きなタイヤを揺らすよう頼むと、真ん中の穴をめがけてボールを投げます。ボールは見事に穴を通過して、木の幹に当たります。チャックは、それが終わると、今度は、自身の野球仲間やキャロリンと一緒に、ある場所へ自転車で向かいます。一方、ある小さな飛行場では、戦闘機が着陸します。操縦席からパイロットのラッセル(ウィリアム・ピーターセン)が降りてくると、妻のパメラ(フランセス・コンロイ)が出迎えます。パメラは、ラッセルに「まだ、間に合うわ。」と言い、2人である場所へ向かいます。



チャックたち、そして、ラッセルとパメラが向かった先は、少年野球の試合が行われている野球場でした。ラッセルとパメラは、客席から試合を見守ります。2人が見つめるマウンドに立っていたのは、2人の息子であるチャックでした。チャックは、この試合にピッチャーとして出場するために、自転車で野球場にやってきたのです。両親やチームの期待に応えて、しっかりと打者を抑えたチャックは、チームメイトたちから祝福を受け、元気よくベンチに戻っていきます。ラッセルも、チャックに近付き、頑張りを褒めたたえます。



金曜日、チャックは家族、少年野球チームの仲間と一緒に、広い野原に来ていました。目的は、チャックが、自分で作った手作りロケットを仲間と一緒に発射させるためでした。チャックらが手作りロケットの発射の準備をしていると、一台の車が止まり、中から、ラッセルの知人で、アメリカ軍の予算の仕事に携わる国会議員のジョニー(デニス・リップスコーム)が降りてきます。ジョニーは、ラッセルやパメラとの再会を喜び、ラッセルやパメラも、ジョニーと久し振りに再会して、とても嬉しそうです。そして、いよいよ手作りロケット発射の時。手作りロケットは、カウントダウンの終わりと同時に勢いよく上昇し、パラシュートも無事に開きます。手作りロケットの発射は、こうして大成功に終わったのでした。



ジョニーは、チャックらの労を労うため、近くにある地下サイロを見せます。チャックらが最初に目にしたのは、「ミニットマンⅢ」と呼ばれるミサイルの発射装置でした。「ミニットマンⅢ」は、40トンもあるコンクリートのふたが閉まっており、中には、「バード」と呼ばれる長さ20メートルのミサイルが入っています。弾頭20メガトンの「バード」を発射する時は、固形燃料を用いて、32秒で吹き飛ばすのですが、その射程距離は11,000キロもあり、チャックは、ジョニーの説明を受けるだけで、その威力にショックを受けます。続いて、チャックらは、地下15メートルの場所にあるコントロール室のそばまで案内されます。この部屋にある制御装置を使うと、わずか20分でミサイルをソ連まで飛ばす事ができるといいます。しかし、ここは、巨大な命令系統の最終段階。大統領による命令でミサイルが発射されるのですが、実際には、そんな機会は滅多にありません。説明が終わると、一同は、コントロール室の傍を離れ、エレベーターに向かいます。



しかし、チャックだけは、じっと立ったままでいました。ジョニーは、チャックの異変に気付き、声をかけます。「パパの乗ってる戦闘機も、ミサイルを積んでる。核を積む時も、あるかもしれない。」チャックは、ミサイルや核兵器の恐ろしさをこの日、生まれて初めて知ったのです。ジョニーは、チャックの不安を和らげようとしますが、チャックは「(ジョニーから納得のいく説明が得られるまで)コントロール室の傍から離れたくない。」と言い出します。ジョニーは、12歳であるチャックが理解できるよう、かみ砕いて説明しますが、チャックには、単なる大人の言い訳にしか聞こえませんでした。



数日後、チャックは、野球の試合に出場するため、野球場に来ていました。チャックがベンチからマウンドを眺めていると、ラッセルが励ましにやってきます。ラッセルを見つめるチャックの目は、ジョニーからあの話を聞かされたばかりという事もあって、冷めていました。「老後(ラッセルが年を取ってからも)も仲良くしようね。」チャックは、一言だけ言って、マウンドに向かいます。しかし、チャックは、どうしても気力が湧いてきません。核兵器がこの世の中に存在しているかと思うと、悲し過ぎて、野球をやる気になれないのです。チャックの気力のなさに気付いたチームの監督は、なぜ、核兵器があるせいで、野球をやりたくなくなるのかが全く分かりません。ラッセルは、チャックと監督のやり取りを心配して近付き、チームメイトたちも心配になって集まってきます。監督は、ピッチャーをジェロームに交代しようとします。しかし、チームのエースであるチャックが投げないと、この試合で勝つ事ができないのをよく分かっているチームメイトたちは、「自分たちが恥をかくくらいなら、試合放棄をした方がいい。」と言い出し、監督はこれを受け入れます。チャックは、監督からも、チームメイトたちからも、信用を失い、さらに、その後、ラッセルを怒らせてしまいますが、自身としては、自力ではどうにもできない悲しみを、分かってほしかっただけなのです。



チャックの前代未聞の行動は、地元の新聞に掲載されます。その記事は、チャックの勇気ある行動を紹介している訳ではなく、あくまで風変わりな子どもの一人として紹介するもので、チャックの考えに共感する人は、少なくともチャックの身の回りにはなかなかいませんでした。しかし、中には、新聞社の意図とは逆に、チャックの行動を好意的に解釈する人もいました。プロバスケットボール選手のアメイジング(アレックス・イングリッシュ)です。この時、まだアメイジングの想いを知らなかったチャックは、下校中にスクールバスの車内で、同級生たちから「地球の終わりか?」と、からかわれていました。チャックが自宅に到着すると、上背があるアフリカ系アメリカ人の男性が庭でバスケットボールをしていました。その男性は、アメイジングでした。アメイジングは、あの新聞記事を読んで、居ても立っても居られず、忙しい合間を縫って、チャックに会いに来たのです。アメイジングは、どうしても野球をやりたいという気持ちになれないチャックに、バスケットボールのドリブルやシュートのコツを丁寧に教えます。チャックは、アメイジングのおかげで、少しだけ笑顔を取り戻す事ができました。



さらに、アメイジングは、ラッセルやパメラにも会い、清々しい笑顔である事を宣言します。なんと、チャックのように、自分もバスケットボールを一切止め、チャックの反核運動に協力するというのです。アメイジングは、もし、「核の全廃」が実現したら、また、バスケットボールをやりたいといいます。最近、ただでさえ、チャックの行動に戸惑っているラッセルは、チャックと行動を共にする仲間が突然、自身の目の前に現れ、さらに戸惑ってしまいます…。



この映画でメガホンを取ったのは、マイク・ニューウェル監督。代表作に、「フォー・ウェディング」(1994年)、「モナリザ・スマイル」(2004年)、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)があります。



一人の野球少年の穏やかな日々から始まったこの映画。しかし、少年が両親の知人からミサイルや核兵器について教わったのがきっかけで、突然、おとぎ話に豹変します。少年は、ミサイルや核兵器の恐ろしさのあまり、野球をやる気力を完全に失い、反核運動に力を注いでいきます。間もなく、彼に共感する仲間も現れ、彼らの行動は、順風満帆かに思われました。しかし、ある新聞記事をきっかけに、少年は、全米中から注目される事になり、少年の家族はひっきりなしに鳴る電話に出続けたり、玄関先までやってくる反核運動反対派の大人たちからの抗議行動に立ち向かったりする事で、次第に心が疲弊していきます。さらに、少年の仲間を襲う突然の悲劇がきっかけで、少年は、「格の全廃」を訴える手段として、自身の口を使って言葉を話す事を放棄し、筆談、または、自身の代わりに父親に話をしてもらう事で言葉を伝えるようになります。少年の沈黙の抗議は、一部の人間の怒りを買いますが、やがて、その努力が実る時が訪れます。具体的に何がどうなるのかは詳しく言えませんが、話が上手くでき過ぎている事だけは確かです。



途中から物語の展開がいかにもおとぎ話らしくなり、登場人物の行動や言動が極端にしか感じられなくなりますが、まだまだ反核運動に対して無理解な人が少なくなかったであろう1980年代のアメリカで、反核運動をテーマにした映画が作られたのは、日本人の一人として、とても嬉しかったです。また、「ローマの休日」(1953年)で知られるグレゴリー・ペックが物語の後半に出演しているのも、興味深かったです。DVDも、Blu-rayも、販売されていないのが非常に残念です。大事な販売情報をお伝えできず、本当に申し訳ございませんでした。





ハートビート(2015年 アメリカ・ルーマニア)

ハートビート [DVD]
ハートビート [DVD]

アメリカ・ニューヨークのアップタウンにある古いレンガ造りのアパートの4階の部屋で、一人の青年がバイオリンを弾いています。青年の名は、ジョニー(ニコラス・ガリツィン)。イギリス・ロンドンに住むチェリストのサイモンが所有するこの部屋で一人で暮らしている、イギリス人バイオリニストです。バイオリニストと言っても、経済的にまだまだ余裕がある訳ではなく、生活のために地下鉄で演奏をしています。一方、ハドソン橋を渡っている一台のタクシーには、プロのバレエダンサーを目指すルビー(キーナン・カンパ)が母親と一緒に乗っています。ニューヨークにあるマンハッタン芸術大学ダンス学科への入学を控えているルビーは、バレエダンサーとしての才能を認められ、奨学金を得て、通学する事になっていました。タクシーがハドソン橋を渡り切り、マンハッタン芸術大学の前に到着すると、母娘はタクシーを降ります。「電話するのよ。大した用事がなくてもいいから。」母親は、目に涙を浮かべながらそう話すと、再びタクシーに乗り、去っていきました。ルビーは、涙をこぼしながら、母親を見送るのでした。



その後、ルビーは大学の校舎に入り、学長のマルコバ(マヤ・モルゲンステルン)との面談に臨みます。ルビーは、ダンス学科のC2クラスに入る事になりました。大学では、コンテンポラリーダンスを除く全ての授業に服装の規定があり、遅刻は厳禁。早速、翌日の午前9時に最初の授業が始まる予定になっています。ルビーは、コンテンポラリーダンスの授業に何を着るべきか、マルコバにアドバイスを求めますが、「想像力を働かせて」と言われるだけでした。こうして、ルビーは面談を終え、これから新生活を過ごすアパートに向かうため、地下鉄に乗ります。



ルビーの乗った車両が発車し、もう少しで駅のプラットホームを離れるところで、ルビーの視界に、ある男性の姿が入ってきます。男性は、プラットホームで、電子音を流しながらリズミカルにバイオリンを弾いています。バイオリンを弾いていたのは、ニューヨークのアップタウンにあるアパートで暮らしているジョニーでした。ルビーにとってはほんの一瞬の出来事でしたが、この時、まさか、これが、ルビーにとっても、ジョニーにとっても、運命の出会いであるとは、双方とも思っていませんでした。しばらくして、ルビーは、アパートに到着します。ルビーを出迎えたのは、同じダンス学科の1年先輩で、これからルームメイトとしてルビーと一緒に過ごす事になるジャジー(ソノヤ・ミズノ)でした。2人は、すぐに枕でお互いを叩き合ってふざけ合えるほど、意気投合します。



一方、ジョニーは、地下鉄の駅を出て、弁護士のニールに会いに行きます。ジョニーは、ニールの姿を見つけると、地下鉄の駅での演奏中に得たチップを全額手渡し、数日後にニールから連絡を貰う約束をして、アパートに戻ります。ジョニーがアパートに着くと、階段の踊り場で、アフリカ系アメリカ人の青年に声を掛けられます。声を掛けたのは、同じアパートの3階に住むヘイワード(マルクス・エマニュエル・ミッチェル)でした。ヘイワードは、ジョニーに仲間を紹介しようとしたり、おいしい料理が食べられる店を紹介したりと、何かと世話好きな様子。ジョニーは、ヘイワードに誘われるがままに、3階の部屋に入っていきます。そこには、ヒップホップダンスチーム「スイッチ・ステップス」のメンバーが大勢集まっていました。型にこだわらない、まさに、フリースタイルでダンスをするリック(イアン・イーストウッド)、「スイッチ・ステップス」で女神のような存在のアフリカ系女性メンバー・ポップタート(コンフォート・フェドーク)、まだまだあどけなさが残るオリー、料理や掃除が得意なクリスピー、髪が赤いのが特徴の女性メンバー・ジェット、ヘイワードの弟・ティップトー、そして、全てのジャンルのダンスをこなせるジャクソンが、ダンスの練習に汗を流していました。クリスピーがジョニーの姿を見つけると、ジョニーに近付き、自分で調理したイカフライをおすそ分けします。ジョニーが少々戸惑いながらイカフライを口に運ぶと、今度は、メンバー全員でパフォーマンスを披露します。ジョニーは、「スイッチ・ステップス」なりの最高のもてなしに、ただただ圧倒されるばかりでした。



翌日の早朝、ルビーは、ジャジーと一緒に大学へ登校します。大学に着くと、ルビーは、ジャジーから、プロのバイオリニストを目指す学生・カイル(リチャード・サウスゲイト)を紹介されます。ルビーはカイルの風貌に一目惚れしてしまいますが、ジャジーは、そんなルビーに、「(カイルは)クズ男よ。」と、忠告します。それからすぐに、いよいよ授業が始まります。最初は、クラムロフスキー(ポール・フリーマン)が教えるクラッシックバレエの授業です。ルビーは、初めての授業を前に、緊張していました。一方、ジャジーは、同じ授業を受けるエイプリル(アナベル・クタイ)の姿を見つけると、「(エイプリルは)完璧だから、嫌い。」と、呟きます。この日のクラッシックバレエの授業で、クラムロフスキーが指示したのは、胴体を軸にして回転するピケでした。クラムロフスキーは、子どもの頃に戦争を体験したのですが、その際、強制収容所に収容され、体を壊したため、杖が欠かせない状態にありました。しかし、授業で教え子に声を掛ける時は、体の弱さを全く感じさせない、実に大きな声を出していました。バレエダンスの授業の次は、ルビーが苦手なコンテンポラリーダンスの授業です。ルビーがコンテンポラリーダンスを苦手としている理由は、至ってシンプルで、これまでコンテンポラリーダンスに挑戦した事がなかっただけでした。授業中、ルビーは、パートナーを務める男子学生とぶつかりそうになります。授業を担当するオクサナ(ジェーン・シーモア)は、それを目撃し、ルビーに近付きます。ルビーは、オクサナに向かって、あれやこれやと言い訳をするのですが、オクサナには全く通用しませんでした。



この日の帰り、ルビーとジャジーは、一緒に帰宅しませんでした。ジャジーが、足にできたマメを治すための薬を買いに、薬局に立ち寄ってから帰る事にしたのです。ルビーは、一人で帰宅の途に就きます。大学の最寄りの地下鉄の駅まで来たルビーは、プラットホームに続く階段を降り、バイオリンを弾いていたジョニーの傍を通りかかると、さりげなくチップを渡します。お互いに何となく無言で見つめ合うと、車両が到着し、車内から全身黒ずくめの若者の集団が降りて来ます。若者たちは、居合わせた乗客をわざと大声で脅し、プラットホームで作業をしていた工事会社の作業員たちに喧嘩を売ったかと思うと、なんと、作業員たちを相手に、ダンスバトルを始めます。ジョニーも、その場を盛り上げようと、バイオリンをリズミカルに弾きます。



ダンスバトルを見守る人の中には、当然、スマートフォンで動画を撮影して、インターネットにアップする人がいて、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、動画をしっかりとチェックしていました。しかし、この動画に映る乗客たちの間を、何人かのスリが通り抜けていました。若い女性のバッグを強引に奪い、ルビーやその隣にいた人たちを突き飛ばし、ジョニーがルビーの体を起こしている間に、床に置いたままにしてあったジョニーのバイオリンを盗んでいきました。ジョニーは、バイオリンがなくなっているのに気付いた時、相当なショックを受け、駅を出ます。ルビーは、そんなジョニーの事が心配になり、後を追いかけます。ルビーは、ジョニーに追い付くと、良かれと思って、懸命にジョニーを励ましますが、励ます度にジョニーを怒らせてしまいます。なぜなら、ジョニーのバイオリンは、亡き祖父の形見だからです。ルビーは、バイオリンが違法に質屋で売られたのではないかと心配し、ジョニーと一緒に、近くの質屋に向かいますが、ジョニーのものらしきバイオリンはありませんでした。ルビーは、念のために、自身の連絡先が書かれたメモを質屋の主人に手渡します。



ジョニーには、バイオリンを盗まれた事の他に、もう一つ、心配な事がありました。何日経っても、ニールから連絡が来ないのです。いつまで経っても連絡が来ないと、アメリカで市民権を得た事を証明するグリーンカードを手にする事ができません。ジョニーは、この日まで何日も待ち続けましたが、とうとう待ち切れなくなり、以前にニールから受け取っていた名刺を手に、ニールの法律事務所へ乗り込みます。しかし、実際に訪ねてみると、法律事務所自体が架空であった事が分かります。確かに、ジョニーは、3か月も前から、ニールにグリーンカードの取得の事で相談をしていましたが、法律事務所の中に入らせてもらえた事は一度もなく、必ず、外で会っていました。ジョニーは、悔しさのあまり、建物の外に出て、ゴミ箱を蹴っ飛ばします。



同じ頃、大学の構内にいたルビーは、学生が使う楽器の修理を受け付ける窓口で、バイオリンを借ります。あくまで、バイオリンを盗まれてしまったジョニーを喜ばせるのが目的だったのですが、窓口で対応した男性から、「弦楽器&ダンスコンクール」が近々開催される事を教えてもらいます。もし、自分がジョニーと一緒に出場し、優勝すれば、ジョニーは、賞金で新たにバイオリンを買う事ができ、大学から奨学金が出て、さらに、学生ビザも取得できて、ジョニーにとって、まさに良い事ずくめではないかと考えたのです。ルビーは、ジョニーを説得するため、ジョニーの住むアパートへ向かいます。一方、ジョニーは、グリーンカードを取得できない事で、アメリカにずっと不法滞在している状態にある事が分かり、住んでいるアパートの部屋を追い出されるかもしれないという危機に陥っていました。すると、そこへ、ルビーが大学で借りてきたバイオリンを持って、訪ねてきます。早速、コンクールへの出場を提案するルビーでしたが、ジョニーは、常日頃から富裕層を嫌っている事から、「学校の施しは、要らない。エリート主義の学校も、気に入らない。」と、殻に閉じ籠ってしまいます…。



大学の授業でのクラッシックバレエやコンテンポラリーダンス、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルと、様々なジャンルの完成度の高いダンスを堪能できるこの映画。物語の後半では、アイリッシュダンスや社交ダンスも登場し、観る者としてはますますテンションが上がっていきます。ダンスの名シーンの数々を盛り上げるのは、ロンドン、パリ、ロサンゼルス、ニューヨークから集められた、世界最高峰に位置する62人のダンサーたちです。端役なのがあまりにももったいないくらいに、完成度の高いダンスで、観る者を魅了します。特に、印象に残ったのは、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルのシーンです。それぞれのチームが、4列から成る逆三角形のフォーメーションを作り、向き合うようにしてヒップホップダンスを披露するのですが、どちらのチームも圧巻の一言に尽きます。ダンスの様子を真正面から撮るカメラワークは、ダンサーたちの一糸乱れぬ動き、観る者に容赦なく迫ってくるような迫力が非常に伝わりやすく、見応えがあります。

ダンサーといえば、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、忘れてはいけません。あらすじにも触れたように、どのメンバーも非常に個性が強いのですが、ダンスをする時の団結力は実に見事で、集団のあるべき姿とは何なのかを、改めて考えさせられました。各々の個性を重んじる事は非常に大事ではありますが、たとえ、個性が全然違っていても、いざという時に団結する事は、もっと大事なんですよね。



そして、数多のダンサーたちの中心に立って、さらにグレードアップしたパフォーマンスを披露しているのが、3人のメインキャストです。まず、ルビーを演じたキーナン・カンパは、この映画が女優デビュー作です。カンパは、17歳の時に、ロシアのサンクトペテルブルクにある世界的に有名なバレエ学校、ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学し、ロシア人以外では初めてディプロマを取得しました。その後、アメリカ人で初めて、ロシアの名門マリインスキー・バレエに入団。「ドン・キホーテ」や「ジゼル」等で、メイン・キャストを務めました。

ジャジーを演じたソノヤ・ミズノは、11歳の時から20歳の時まで、イギリスのロイヤル・バレエ学校でバレエを学びました。その後、ドレスデン国立歌劇場バレエ団やスコテッィシュ・バレエ団に在籍し、2015年に、映画「エクス・マキナ」で女優デビューしました。その翌年には、「ラ・ラ・ランド」にも出演しています。そんなカンパが演じるルビー、ミズノが演じるジャジーの2人が、大学のクラッシックバレエの授業を受けるシーンは、必見です。あくまで、バレエの公演ではなく、バレエの授業のシーンだと分かって観ているのに、体の軸の美しさや腕や脚の絶妙なカーブが全くぶれる事なく、見事に踊っているのを観ていると、「凄い」以外の言葉が出てきません。

また、ジョニーを演じたニコラス・ガリツィンは、2014年に映画"The Best Beneath My Feet"で俳優デビュー。イギリスでは非常に注目度の高い若手俳優ですが、俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしても活躍しており、自ら作詞もしています。劇中でバイオリンを演奏している時に、かなり自信に満ちた表情をしているのは、ミュージシャンとしてのキャリアがあってこそなのかもしれません。特に、電子音を取り入れた演奏の時は、本当に楽しくリズムに乗っているので、そう感じました。



監督を務めたのは、マイケル・ダミアン。俳優、ミュージシャン、映画監督と、多彩な顔を持っています。俳優としての代表作に、テレビドラマ「ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス」(1980年~1998年に出演。)が、ミュージシャンとしての代表作に、"Rock On"(1989年)が、そして、映画監督としての代表作に、「マーリー2 世界一おバカな犬のはじまりの物語」(2011年)が、あります。



さて、ルビーの前で殻に閉じ籠ってしまったジョニーですが、すぐに我に帰り、ルビーに謝ろうと、ある方法でルビーに近付きます。しかし、それも失敗に終わり、ジョニーは、今度こそルビーに誠意を見せようと、ルビーと一緒にコンクールに出場する決意をします。ちなみに、コンクールには、カイルも出場します。しかも、カイルと組むのは、なんと、エイプリル。この勝負に負けたくないジョニーは、ルビーの他に、「スイッチ・ステップス」ともタッグを組みます。勝つためなら手段を選ばないジョニー。果たして、このやり方は、吉と出るのか、凶と出るのか。いや、その前に、ジョニーには、未解決のあの問題が…。この物語は、一体どうなってしまうのでしょうか。

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顔のない天使(1993年 アメリカ)

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1968年夏、アメリカ・メイン州の避暑地。雲一つない晴天となったこの日、ある競技場のトラックで、真っ白な軍服に身を包んだ12歳の少年・チャールズ(ニック・スタール)が、同じ格好の大人たちの肩の上に座り、手を大きく振っています。まさに、チャールズがかねてから抱いていた夢が叶った最高の瞬間です。客席では、母・キャサリン(マーガレット・ホイットン)が我が息子の姿を見て、号泣しています。異父妹・メグ(ギャビー・ホフマン)も、大声を上げて喜んでいます。しかし、異父姉・グロリア(フェイ・マスターソン)は、弟の方が優秀だと思い知り、ずっと妬いていました。

顔のない天使 [Blu-ray]
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やがて、チャールズの夢の時間はあっという間に終わりを迎えます。チャールズは、グロリアやメグと一緒に、キャサリンの運転する車の後部座席に座り、帰宅の途に就きます。その後、車が港の近くまで来ると、メグは、カーラジオから流れるお気に入りの曲を「もっと大きな音で聞きたい」と言い出します。しかし、グロリアは「くだらないわ。」と言い切り、キャサリンに「何とか言ってよ。」と、援護射撃を求めます。すると、キャサリンは、すぐにカーラジオの電源を落としてしまいます。メグはすぐに反発しますが、キャサリンにとって、それは痛くも痒くもありませんでした。こうして、一家が乗った車は、港に停泊しているカーフェリーの中へと入っていくのでした。



カーフェリーでの移動中、メグは、カーフェリーに近付いてくる鳥たちに餌をやり、チャールズはすぐそばで時折しかめっ面をしながら立っていました。メグは、すぐに兄のしかめっ面に気付いて、兄をたしなめ、それが済むと、今度は、すぐそばにいる中年の男性に声を掛け、愛嬌を振りまきます。その理由は、キャサリンの次の結婚に相応しい相手を自身の力で探し出すためでした。チャールズは、そんな妹の行動に眉をひそめます。キャサリンが、道楽のような感覚で、何度も結婚と離婚を繰り返しているのを、チャールズはよく理解しているのです。実は、チャールズは、キャサリンの3番目の夫にあたる、亡き父・エリックと同じように、アメリカ軍の士官になる事を夢見ていました。最近、士官学校の入学試験を受験し、残念ながら不合格になってしまいましたが、8月になったら再び受験し、合格したら、入学して、寮生活を送るつもりでいました。しかし、チャールズの学力の低さを理解しているつもりになっているキャサリンは「士官学校がファシストだから」と、チャールズが士官を目指すのを反対していました。



チャールズは、この日も、カーフェリーのデッキで、キャサリンから士官学校の入学試験の受験を改めて反対され、怒りのあまり、キャサリンが運転していた車のボンネットのふたを足で凹ませ、さらに、タイヤをパンクさせます。それが済むと、今度は、後方に止めてある1台の車に近付きます。車の中には、ジャーマン・シェパード・ドッグがいたのですが、ジャーマン・シェパード・ドッグは、チャールズが車の中を覘き込むのと同時に、牙をむいて大声で吠え始めます。しかし、車の後部座席から、「静かにしろ!」と飼い主らしき男性の声が聞こえてきます。男性の名は、マクラウド(メル・ギブソン)。マクラウドは、この町では滅多に姿を現さない事で有名な怪人として知られる男性でした。チャールズがマクラウドの方を見ると、マクラウドも、チャールズの気配に気付き、チャールズの顔を見つめます。マクラウドの顔には、右半分のほぼ全てを占めるほどの、大やけどの痕がありました。チャールズは、ジャーマン・シェパード・ドッグとマクラウドの両方の威圧感に怯えてしまい、震える声で謝って、その場を去ったのでした。



ある日、チャールズは、士官学校の入学試験の勉強に集中しようと思い、外出します。しかし、外に出てすぐに、メグが後ろから自転車に乗って追いかけてきます。「チャールズが入学試験に合格できないのでは。」と心配し、「私が勉強を教えてあげる。」と、チャールズに申し出たのです。目上の人間であるキャサリンやグロリアが学力を疑うのならともかく、そうではないメグまで同じように疑うなんて、チャールズにとっては屈辱でしかありません。チャールズは、足早に港へ向かう事で、メグからの申し出をかわすのでした。



チャールズが港に着くと、3人の仲間たちがボートに乗って近付いてきます。3人は、これから「バケモノ海岸」でいつものように泳ぐといいます。3人に泳ぎに誘われたチャールズは、どうすべきか少し迷いますが、結局、ボートに乗り込みます。ボートが出港してすぐに、メグが、「一緒にボートに乗りたい。」と、港から4人に訴えますが、「バケモノ海岸」が少年たちの大切な遊び場であるため、断られてしまいます。メグは、「女性差別だ!」と憤り、品格を疑われるような言葉を次々に4人にぶつけるのでした。



その後、ボートに乗った4人は、無事に「バケモノ海岸」に到着。そして、全員で岩場に座って、井戸端会議を始めます。4人は、女の子とは何か、「バケモノ海岸」を天国にする方法、そして、チャールズがカーフェリーの中でマクラウドを目撃した事などについて、語り合います。4人がマクラウドについて語り合っていた時、どこかから物音が聞こえてきます。皆で物音のする方へ向かってみると、突然、ジャーマン・シェパード・ドッグが目の前に現れます。とにかく勢いよく吠えるジャーマン・シェパード・ドッグに驚く一同。岩場の奥には一軒家があり、マクラウドと思しき男性が2階のバルコニーから外を眺めています。実は、このジャーマン・シェパード・ドッグは、マクラウドの飼い犬「ミッキー」だったのです。チャールズたちは、慌ててボートに乗り込み、「バケモノ海岸」を後にします。チャールズは、士官学校の入学試験の勉強にと、教科書を持ち込んでいましたが、うっかりして「バケモノ海岸」に置いてきてしまいます。チャールズは「バケモノ海岸」を出発してすぐにそれに気付きましたが、3人の仲間たちは、聞く耳を持ってくれませんでした。



結局、チャールズは、3人と別れ、1人で教科書を探しに「バケモノ海岸」へ戻ります。幸い、チャールズは、岩場で教科書を見つける事ができました。チャールズは、安堵感からか、岩場に座り込んでしまいます。しばらくの間、海を眺めていると、背後から男性の声が聞こえてきます。「何してるんだ。どうした?いつからここにいる?」チャールズが後ろを振り向くと、そこには、レインコートを着て、1頭の馬に乗った、マクラウドの姿がありました。マクラウドは、チャールズを、自身の家に連れていきます。



マクラウドの家には、興味深いものがたくさん飾ってありました。カラスやフクロウの剥製、人間の顔を彫った彫刻、そして、時計をかたどったディベート大会の優勝トロフィー等が大切に置かれていました。チャールズが優勝トロフィーに見入っていると、マクラウドが、温かい飲み物の入ったマグカップを持って、ミッキーと一緒に近付いてきます。チャールズは、勝手に優勝トロフィーに見入ってしまった事を謝り、優勝トロフィーのプレートに書いてあった内容について尋ねます。「バレット高校の教師だったんですか?」マクラウドは、突然、触れられたくない過去に触れられてしまい、動揺しますが、チャールズに飲み物を渡すと、ミッキーの名を呼び、どこかへ行ってしまいます。マクラウドが動揺してしまった事で、チャールズがマクラウドと会う事はもう二度とないかに思われました。しかし、マクラウドが元高校教師である事を知ったチャールズは、マクラウドが士官学校の入学試験の勉強を手伝ってくれるかもしれないと前向きに考え、再びマクラウドの家を訪ねます。しかし、実際にマクラウドがチャールズに行わせたのは、森の中で穴を掘らせたり、自身の家の中で作文の練習をさせたりと、入学試験に直接関係のない事ばかりでした。マクラウドがこうしたのには、れっきとした理由がありました…。



イザベル・ホランドの同名タイトルの小説が原作のこの映画は、「マッド・マックス」シリーズや「リーサル・ウェポン」シリーズで知られる俳優メル・ギブソンが友人でプロデューサーのブルース・デイヴィと共同で設立したプロダクション「アイコン・プロ」の、記念すべき第1作目の映画です。ギブソンは、この映画で監督デビューを果たしただけでなく、マクラウド役で出演もしています。因みに、この他にギブソンが監督を務めた映画は、「パッション」(2004年)、「ハクソー・リッジ」(2016年)等があります。



この映画のポイントは、2つあります。1つは、ギブソン演じるマクラウドの特殊メイクです。顔の右半分のほとんどが大やけどの痕になっているのですが、色は肌色一色で、マクラウドとすれ違う人々が皆、無意識に見入ってしまう、小さめにごつごつした表面は、マクラウドが体験した暗い過去の凄まじさを見事に表現していて、とても印象に残りました。



そして、もう1つは、主人公・チャールズとその家族の持つ野暮ったさです。全ての根源は、何度も何度も結婚を繰り返し、言葉遣いもかなり酷い母・キャサリンにあります。もし、キャサリンの言葉遣いが酷くなければ、メグが何の悪気もなく言葉遣いを真似る事はなかったと思いますし、もし、キャサリンが、学力の足りなさを理由に、仕官を目指すチャールズを馬鹿にしなければ、グロリアがキャサリンに同調する事はなかったと思います。チャールズも、最初は、母譲りの言葉遣いが印象的で、キャサリンから学力のなさをしつこく指摘されますが、ある日、マクラウドと出会い、カオスと評されても仕方がない家庭環境から脱しようと、マクラウドの協力を得ながら懸命に仕官を目指します。そんなチャールズに、グロリアは、物語の終盤で、ある衝撃的な告白をし、チャールズをはじめとする家族だけでなく、町中の人々をも大混乱させます。この大混乱を、チャールズはどう乗り越えていくのでしょうか。結末が知りたくなった方は、ぜひこの映画をチェックしてみてはいかがでしょうか?

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ブレックファスト・クラブ(1985年 アメリカ)

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1984年3月24日土曜日午前7時、アメリカ・イリノイ州にあるシャーマー・ハイスクールの図書室に、5人の生徒が集まってきます。クレア(モリー・リングウォルド)は、「授業をサボって、買い物に出掛けただけなんだから。」と、学校の前まで送ってくれた父親に慰められています。数学部、ラテン語部、物理部を掛け持ちしていて多忙なブライアン(アンソニー・マイケル・ホール)は、またしても補習授業に出席する事になってしまったのをガミガミ責めてくる母親に「(補習授業は)今日こそが最後だ。」と、断言します。レスリング選手のアンドリュー(エミリオ・エステヴェス)は、「男は悪さをするものだ。運が悪かったんだ。」と言ったかと思うと、「(レスリングの名門の大学に入学しても)奨学金を借りられなくなるかもしれないぞ。」と脅してくる父親に嫌悪感を抱いています。ジョン(ジャド・ネルソン)は、筋金入りの問題児で、この日は、サングラスをかけて、たった一人で登校しました。同じくたった一人で登校したアリソン(アリ・シーディ)は、誰とも目を合わせたがらず、爪を噛む癖がかなり酷い様子です。5人は、学校から、この日に補習授業を受けるよう命じられていました。そして、5人が図書室にそろってすぐに、補習授業を担当するバーノン先生(ポール・グリーソン)がやって来ます。9時間にわたる長い補習授業の始まりです。

ブレックファスト・クラブ 30周年アニバーサリー・エディション ニュー・デジタル・リマスター版 [Blu-ray]
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補習授業で5人に課せられたのは、「自分とは何か」というテーマで、1000語以上の作文を書く事でした。5人が課題に取り組んでいる間、バーノン先生は、ドアが開いたままの隣室から監視をするといいます。しかし、5人は、それぞれ色々なやり方で抵抗します。クレアは、些細な理由で補習授業を受ける事に異議を唱え、ジョンは、両足を机の上に乗せたまま、バーノン先生を馬鹿にし、アリソンは、大きな音を立てて爪を噛み、ブライアンは、あれやこれやと御託を並べ、どの生徒も全くやる気が見られません。特に、ジョンは、バーノン先生が隣室へ行った後、トイレで用を足すふりをしたり、「クレアを孕ませる」と、冗談を口にしたり、「アンドリューとクレアはデキているのか?」と茶化したりと、とにかくやりたい放題。やがて、補習授業は、バーノン先生が図書室にいないのをいい事に、ジョンが仕切るおしゃべりタイムと化します。



さらに、ジョンは、隣室にいたバーノン先生が席を外した隙に、隣室の扉のねじを勝手に外し、扉を閉じてしまいます。これには、さすがの4人もジョンをたしなめます。やがて、バーノン先生が隣室に戻ると、異変に気付き、5人全員を問いただします。ところが、信じ難い事に、4人はなぜかジョンをかばいます。これを機に、5人の間には、友情が芽生えます。しかし、5人共、肝心の作文に取り組む気配はありませんでした。



その後もずっと、5人は、作文に目を向けようとしません。全員で熟睡したり、アリソンは絵を描いたり、ジョンはストレス発散に図書室の蔵書を破り続けたりと、5人の悪行は、エスカレートするばかりでした。ところが、一心同体であるかに思われた5人の心は、少しずつ、1対4の構造になっていきます。ジョンが、4人の事やそれぞれの親の事を容赦なく馬鹿にしたためでした。特に、クレアに対しては、勝手に処女だと思い込み、性行為の手順を事細かく説明して、面白がる始末。アンドリューは、次第にそれに耐えられなくなり、ジョンの体を抑え込みます。そして、二度とクレアに嫌がらせをしないよう、約束させるのでした。



午前11時30分、ランチの時間が近付いてきましたが、5人は相変わらず作文に手を付けません。時間を潰すアイデアは既に尽き果てており、誰もが退屈しています。ジョンは、この状態を脱すべく、映画「戦場にかける橋」で流れる曲「クワイ河マーチ」を口笛で吹き始めます。すると、他の4人も、ジョンにつられて、同じ曲を口笛で吹き始めます。しかし、その直後、バーノン先生が図書室に戻ってきます。30分間のランチの時間になったためです。5人は、バーノン先生の姿を見て、慌てて口笛を止めます。バーノン先生が図書室でランチを食べなければならない旨を告げると、5人は、「食堂でランチを食べるんじゃないんですか?」、「脱水症状が心配です。ミルクが欲しいです。」等、次々に文句をぶつけます。



「ああでもない。こうでもない。」とバーノン先生に文句を言い続けた5人でしたが、結局、最初に言われた通りに、図書室でランチを食べます。アンドリューとブライアンはサンドイッチとクッキーを、クレアは寿司を、アリソンは大量のグラニュー糖とスナック菓子を挟んだサンドイッチを机の上に置きます。因みに、飲み物は、皆が希望したミルクではなく、缶入りのコーラでした。しかし、ジョンだけは、なぜかランチを食べ始める気配がありません。さらに、家族の仲があまり良くない事を自ら一人芝居で説明すると、4人に信じてもらえず、ジョンは、その腹いせで図書室の備品を壊し始めます。4人は、さすがに「言い過ぎてしまった。」と、罪悪感を抱きます。



ランチの後、5人は、バーノン先生の姿が見えないのを確かめてから、図書室を出て行きます。そして、バーノン先生が職員室に入っていくのを確認した上で向かった先は、ジョンのロッカーでした。ジョンは、ロッカーの扉を開け、なんと、マリファナの入った包みを取り出します。5人は、ロッカーを離れ、図書室へ戻ろうとしますが、戻る途中で、バーノン先生に見つかりそうになります。こうして、図書室から一時的に離れている事がバレてはいけない5人と、そんな事に気付かず、のんびりと廊下を歩くバーノン先生による、スリル満点の駆け引きが始まるのです…。



ジョンのロッカーからマリファナが出て来て、空気が一段と悪い方向に変わってしまったかに思われますが、この空気は、まだまだ序の口です。この後、5人の悪行はますますグレードアップし、バーノン先生の怒りもまた、ますますグレードアップしていき、補習授業は、もはや崩壊状態となります。



監督は、1980年代にアメリカ映画界で青春映画の名手として活躍したジョン・ヒューズ。「すてきな片想い」(1984年)、「フェリスはある朝突然に」(1986年)等が有名です。



この映画を観て、「これは、なかなか興味深いなあ。」と思ったのは、最初の段階で、補習授業に出席する5人の生徒の名前が明らかにならない事でした。ジョンだけは、補習授業が始まる直前に明らかになりますが、アンドリュー、ブライアン、クレアの3人は、映画が始まって20分が過ぎた頃に、ようやく1人ずつ分かってきます。因みに、アリソンの名前が明らかになったのは、映画が始まって、1時間が経過した頃でした。この意図とは、何なのでしょうか?私は、5人の中で、ジョンが中心的な存在である事を強く印象付けるためではないかと思います。なぜなら、ジョンがバーノン先生に叱られる時は、必ず他の4人がかばっていますし、劇中で起こるトラブルのほとんどは、ジョンがきっかけを作っているからです。この映画は、彼の暴れっぷりなしでは、学園系エンターテイメントとして、成立しないのではないでしょうか。



しかし、この映画は、ただ5人が暴れ回るだけではありません。物語の後半になると、5人がそれぞれ抱える心の闇が次第に明らかになっていきます。その過程で、5人は、作文のテーマである「自分とは何か」を、淡々と、時には涙を流しながら、語っています。バーノン先生が掲げた理想とは別の形ですが、5人は、補習授業のスタート地点をきちんと覚えていたのです。この映画は、実は、学園系エンターテイメントでもあり、真面目な青春映画でもあります。ぜひ、ヒューズ監督が描いた見事な緩急と、生徒役を演じた俳優たち、女優たちのエネルギーを堪能していただきたいと思います。

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グラン・ブルー完全版~デジタル・レストア・バージョン~(1988年 フランス)

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1965年、ギリシャ・キクラーデス諸島。8歳のフランス人少年・ジャックは、一人で地中海に飛び込み、海の生き物たちと戯れていました。しばらくして、海から上がったジャックは、近所に住む2人の少年たちから、「ジャック、海で何かが光ってる。早く来て。海の底に沈んでいるんだ。」と言われ、少年たちと一緒に海へ戻ります。しかし、ジャックが海を覘いてみると、生き物の姿が見当たらず、コインが海の底に沈んでいました。2人の少年たちは、どちらが先にコインを見つけたかで言い争いを始めてしまいます。ジャックは、2人をなだめ、自分を含めた3人でコインを分け合う事を提案します。しかし、2人が納得しなかったため、今度は、コインで何かを買い、買ったものを分け合う事を提案します。2人は、それを聞いて、ようやく納得してくれました。

ところが、ジャックたちがコインを取ろうとしたその時、イタリア人の少年エンゾが、弟のロベルトら大勢の仲間を引き連れて現れ、ほんのわずか6秒でコインを横取りしてしまいます。エンゾは、手に入れたコインをジャックに見せつけると、なんと、コインを海に戻してしまいます。そして、「6秒以内で拾えたら、これはお前のものだ。」と言って、ジャックにコインを取りに行かせようとします。しかし、ジャックはこれを頑なに拒みます。エンゾは、早々と諦め、仲間と一緒にその場を去るのでした。

エンゾたちが去った後、これまでのやり取りをすぐそばでずっと見守っていた神父が、ジャックに声を掛けます。「あれは、コインではないかね?」ジャックは、すぐに「コインです。」と答え、「拾いますか?」と神父に尋ねます。神父は、「貧しい人のためにな。」と、ジャックにコインを取りに行く事を勧めます。ジャックは、すぐに海に潜り、コインを見つけますが、神父はその間にいなくなってしまいました。そして、ジャックは、ふと目が覚めます。コインの話は、現実ではなく、ジャックが見た夢だったのです。

グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン- Blu-ray
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ジャックは、父親(クロード・ベッソン)、そして、伯父のルイ(ジャン・ブイズ)と一緒に、1艘の小さな船に乗り込みます。同じ頃、海の近くの岩場では、エンゾが1人で釣りをしていました。ジャックの父親は、既に、ジャックの母親と離婚し、ダイバーとして働いていました。ジャックの母親は、離婚を機に、アメリカに帰国してしまったため、残されたジャックの父親は、ダイバーのように命の危険と隣り合わせの仕事をする事で、多額の生活費を稼がざるを得なくなってしまいました。ジャックは、船の上で海に潜る準備を進める父親を、心配そうな顔で見つめています。父親は、それを見て、「心配するな。海では人魚が助けてくれる。」と言って、ジャックを安心させ、海に潜っていきました。その後も、海に潜る父親を見守るジャックに、ルイは驚くような話を聞かせます。なんと、ルイは、以前に人魚を見た事があって、見た場所も覚えているというのです。しかし、ジャックは、大人の期待通りに、人魚を見た場所を尋ねてはくれず、ルイはがっかりしてしまいます。その代わり、ジャックが尋ねたのは、自身の両親が離婚した理由でした。

その最中、海に潜っていた父親にアクシデントが起こります。父親が吸っていた大事な空気が、突然、水中に漏れ、息ができなくなってしまったのです。父親は、ジャックの名を何度も呼び、助けを求めます。ジャックは、父親の声に気付き、自身も海に潜ろうとします。しかし、自分で酸素を取り込めない状態で海に潜るのはあまりにも危険なため、ルイに止められてしまいます。ジャックの声は、次第に涙の混じった金切り声に変わっていきます。しかし、ルイも、近くで異変に気付いたエンゾも、父親を助けに行く事は出来ませんでした。



1988年、イタリア・シチリア島。一人の青年が、助けを求めて、街を走り回っています。しばらくすると、一人の男性が助けに応じてくれる事になりました。この男性は、幼い頃に、ジャックからコインを横取りしたエンゾ(ジャン・レノ)でした。エンゾは、ロベルト(マルク・ドゥレ)を呼び、一緒に海の近くまで行きます。すると、突然、スーツ姿の男性が、2人の前に現れます。街を走り回っていた男性は、このスーツ姿の男性から頼まれて、助けてくれる人を探していたのです。スーツ姿の男性は、会社の命令で難破船の遺留品、特にモーターを回収していました。ダイバーを潜らせたところ、波で船が傾き、ダイバーは船の中に閉じ込められてしまったのです。エンゾは、スーツ姿の男性に対して、報酬として1万ドルを貰う約束をした上で、依頼を引き受けます。エンゾは、潜水服に着替え、早速海に潜ります。そして、船の中に入り、慎重に探し回ったところ、ダイバーを見つけ、無事に救出。約束通り、1万ドルを手にしたエンゾは、ロベルトに、1万ドルを使って、自身の少年時代の親友・ジャックを探すよう、命じるのでした。



南米・ペルー、アンデス山脈の海抜4,319メートルのところにあるラ・ラーヤ駅。アメリカ・ニューヨークに住む保険会社の調査員・ジョアナ(ロザンナ・アークエット)は、大きな荷物を抱え、この駅に降り立ちます。ジョアナは、この地にある氷原で発生した事故について調査をするため、この駅から少し離れたところにあるローレンス博士(ポール・シュナール)の研究所を訪れる事になっていたのです。駅の前では、ローレンス博士の助手と名乗る男性がジョナアを迎えに来ていました。ジョナアは、男性が運転する雪上車に乗り、研究所に向かいます。その後、一面の銀世界と化した目的地に到着したジョアナは、ようやくローレンス博士と対面します。

そして、ジョアナが窓の外にふと目をやると、潜水服姿の男性が、分厚い氷が解けかけた湖に潜ろうとしていました。男性は、少年時代に父親を海でのアクシデントで亡くしたジャック(ジャン・マルク・バール)でした。ジャックは、潜水中の人間の体の状態を研究しているローレンス博士にこうして協力しているのです。ジャックは、これから湖に落ちたトラックから研究機材を回収するところでした。しかも、信じ難い事に、ジャックは素潜りをしようとしています。ジョアナは、ローレンス博士がジャックを命の危険に晒しているような気がしてなりませんでしたが、ジャックは、酸素ボンベがなくても冷水に耐えられる、ごくまれな身体能力の持ち主である事から、心配は無用でした。

その後、ジョアナは、湖から上がったジャックの元に、淹れたてのホットコーヒーを持っていきます。ジャックは、全く疲れておらず、ジョアナの顔を見て、「イルカ顔だね。」と冗談を言える程でした。ジョアナは、ジャックの目力が気になってしまい、何も言い返せませんでした。翌朝、ジャックがジョアナの元を訪ねてきます。目的は、ジョアナにプレゼントを渡す事でした。そのプレゼントとは、イルカが乗ったスノードームでした。ジャックは、スノードームを手渡すと、すぐにその場を去っていきます。



フランス南部・コートダジュール。久々にフランスに帰国したジャックは、クラウン、ダージリンら、ジャックとの再会を心待ちにしている数頭のイルカが泳いでいる施設に向かいます。そして、イルカたちとの再会を果たすと、ペルーで買ったお土産を1つずつ渡していきます。お土産を渡し終えると、ジャックは、イルカたちが泳いでいるプールに飛び込み、一緒に泳ぎを楽しみます。その後、施設を離れたジャックは、自身のトレーニングのため、あるトレーニング施設に向かいます。ジャックは、潜水服を着て、酸素ボンベを身に付け、トレーニング用のプールに飛び込みます。

しばらくして、水中から顔を出すと、プールサイドにエンゾが立っていました。エンゾが会いにやってきた理由は、ただ1つ。10日後に控えたイタリア・シチリア島のタオルミナで開催される無呼吸潜水の選手権にジャックを招待する旨を、直接伝えるためでした。しかし、ジャックは弱気になっていました。以前から、エンゾが世界チャンピオンである事を知っているためです。しかし、エンゾは、ジャックに精神的に強くなってほしいと願っていました。タオルミナでの選手権で一緒に戦い、自身を負かす事でジャックに自信を付けてほしかったのです…。



ジャックの少年時代がモノクロ映像で、現代がカラー映像で構成されているこの映画で監督を務めたのは、「レオン」(1994年)、「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」(2011年)、「マラヴィータ」(2013年)等を手掛けた、リュック・ベッソン監督。ベッソン監督は、10代からダイビングに親しみ、イルカに魅せられたダイバーの物語を作るのが長年の夢だったそうで、その夢を叶えるべく、主人公・ジャックのモデルである伝説のダイバー、ジャック・マイヨールの協力を得て、物語を作り上げました。



この映画のオリジナル版は、1988年に本国フランス及び日本で公開されました。劇場公開された当時、フランスでは、ハイティーンから絶大な支持を集め、特に、パリでは、187週連続上映という大記録を打ち立てました。年数でいえば、劇場公開から4年弱ぐらいの間、ずっと映画館で上映されていた事になるでしょうか。日本ではとても考えられない社会現象です。因みに、今回ご紹介している「完全版~デジタル・レストア・バージョン~」が日本で公開されたのは、それから22年後の2010年の事でした。



ジャン・マルク・バール演じるジャックは、女性の心を掴む術はよく知りませんが、イルカの気持ちや、海に潜る時の喜びならよく知っているピュアな心の持ち主。ロザンナ・アークエット演じるジョアナが目力の虜になってしまったように、女性を惹きつける目力の強さが印象的です。口で何か知的な事を語るよりも、目力の強さの方が、男性としての魅力が断然伝わりやすいと思います。そのため、ほとんど地味な衣装ばかり着ているのも、あまり気になりません。逆に、派手な衣装ばかりを着ていて、ドスの利いた物言いが印象的なのは、ジャン・レノ演じるエンゾです。因みに、エンゾにも実在のモデルがいます。イタリア人ダイバーのエンゾ・マイオルカです。この映画でジャン・レノが演じたエンゾは、何となく近寄り難いけれど、ジャックを心から心配する一面があり、どこか憎めません。また、母親の愛情にめっぽう弱いのも、観ていて面白いです。また、ロザンナ・アークエット演じるジョアナは、至って庶民的なキャラクターです。面白い時は豪快に笑い、食べ物を食べる時は、背中を少し丸めて一度に大量に口に運びます。しかし、物語の後半では、男性の心にグッと来るような優しい一面も見せます。観ていて、非常に親近感が湧く女性です。



ここで、ジャックがずっと愛し続けたイルカについて少し触れたいと思います。この映画では、イルカが何度も登場しますが、その中でも、私が特に気に入っているのは、ジャックがコートダジュールで再会した、クラウン、ダージリンをはじめとするイルカたちです。ジャックからお土産を貰う時に見せる笑顔がとにかくカワイイですし、ジャックからの呼びかけに、まるで人間のように絶妙な間で返事をしていて、イルカの賢さを改めて感じましたし、ジャックと一体となって泳いでいる時も、思わず同じ体験をしたくなってしまいました。



この後、エンゾからイタリア・シチリア島タオルミナでの無呼吸潜水の選手権に招待されたジャックは、戦いに挑む決意をします。しかし、物語はまだまだ終わりません。上映時間は2時間48分にも及びます。選手権が終わった後も、ジャック、エンゾ、それぞれの向上心は止まるところを知りません。また、ペルーでジャックと知り合ったジョアナも、ニューヨークに帰った後、あのジャックの目力がどうしても頭から離れません。3人は、良い方向へ向かっているように見えますが、実は、…。続きが気になる方はぜひチェックを。

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ワン・フロム・ザ・ハート(1982年 アメリカ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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ある年の7月3日、アメリカ・ラスベガス。アメリカ独立記念日を翌日に控えたこの日、旅行代理店「パラダイス」の前を、一獲千金を夢見る大人たちが大勢行き交っています。「パラダイス」のショーウィンドーの中では、女性社員・フラニー(テリー・ガー)がそんな大人たちに目を向ける事なく、展示物の入れ替え作業に気持ちを集中させていました。その後、作業が終わり、ショーウィンドーの中でニューヨークの町並みが出来上がると、フラニーは、抱え切れないくらいの数の荷物を抱え、車で帰宅の途に就きます。自宅に到着したフラニーは車を降り、一度にすべての荷物を運ぼうとしますが、玄関の扉に着く前に、幾つか落としてしまい、それに気付かぬまま、中に入っていきます。すると、そこへ1台の車が通りかかります。車を運転していたのは、一人の若い男性でした。男性は、フラニーが落とした荷物が風に吹かれて転がっているのを目にし、車から降りて、ざっと拾い集め、フラニーの自宅に持っていきます。この男性の名は、ハンク(フレデリック・フォレスト)。実は、ハンクは、フラニーの恋人であり、なんと、ここでフラニーと一緒に暮らしているのです。翌日の7月4日は、5年前に2人が出会った記念日。2人は、記念日の前に、お互いにプレゼントを渡します。フラニーはタヒチ・ボラボラ島旅行の往復航空券を、ハンクは自分たちが住む自宅の譲渡証書を、それぞれ渡します。

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しかし、そんな幸せな時間も束の間、2人は口論を始めてしまいます。付き合い始めたばかりの頃は、お互いにお互いの事でときめいていたものですが、出会いから5年も経つと、それぞれ自分磨きを面倒臭がってしまい、やがて、付き合っている事に飽きてしまうのです。この年の初め、フラニーはハンクの親友・モー(ハリー・ディーン・スタントン)と、ハンクはモーの恋人・ジャンと、キスをしていました。フラニーは、その頃から「ハンクとの恋はもう終わった。」と考えていましたが、この口論をきっかけに、「今度こそ、この恋は終わりよ。」と破局を確信し、車に乗って、出て行ってしまいます。

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ワン・フロム・ザ・ハート(エクスパンディッド・ヴァージョン) - ARRAY(0x11210730)

フラニーが出て行った後、ハンクが最初に取った行動は、モーの自宅を訪ねる事でした。目的は、勿論、フラニーがモーとキスをしてしまった理由を知る事でした。モーは、「あくまで、新年の挨拶として、キスをしただけだ。」と釈明しますが、ハンクは、全く信じようとはしません。しかし、ハンクも、モーの恋人・ジャンを相手に、同じ事をしているため、人の事をどうこう言える立場ではありません。ハンクは、逆に、ジャンとキスをしたいきさつについてモーから尋ねられると、何も言えなくなり、帰ろうとしますが、すぐに引き返して、モーに謝罪したのでした。同じ頃、フラニーは、「パラダイス」の同僚で親友のマギー(レイニー・カザン)の元に身を寄せていました。



フラニーは、マギーの元に身を寄せて間もなく、「パラダイス」のショーウィンドーで、再び展示物の入れ替えをしていました。今度は、タヒチの青空と海が広がる景色を作っていました。その途中、フラニーは、「パラダイス」の前を通りかかったタキシード姿の男性・レイ(ラウル・ジュリア)に声を掛けられます。フラニーは、タヒチに1度も行った事がありませんが、レイは、何度か行った事がありました。また、レイは、ショーウィンドーで作業に打ち込むフラニーを以前からよく見かけていました。レイは、「パラダイス」の近くにある店でピアノを弾き、歌を歌う事もあると言います。レイは、フラニーを店に招待しようとしますが、この日、フラニーはマギーと一緒にショッピングに出掛ける約束をしていました。しかし、レイの猛アタックには勝てず、店の連絡先が書かれたマッチ箱を受け取ってしまいます。フラニーは、レイと一旦別れ、マギーと一緒にショッピングに出掛けます。レイと別れた瞬間、フラニーは、横に並んで歩いていたハンク、モーと偶然すれ違います。しかし、お互いにすれ違った事に、4人共、気付いていませんでした。



その後、街を歩いていたハンクとモーは、街角で写真撮影に臨んでいたサーカス団のダンサー・ライラ(ナスターシャ・キンスキー)に一目惚れします。ライラも、2人をじっと見つめていましたが、ライラが2人のうちのどちらに関心があるのかはよく分かりませんでした。しかし、その後、ライラは、仕事のやり方を巡って、自身の父親と口論になってしまいます。ハンクは、ライラと父親の口論には全く関心がなく、ライラの美貌にますます惚れるばかり。そして、ライラが一人になったタイミングを見計らって、ライラに声を掛けます。そして、喫煙者であるライラに「ライターの火を貸してほしい。」と求められると、快くライターに火を付けて、差し出します。さらに、ライラの体の美しさを褒めたたえると、ライラの口から「9時にフリーモント・ホテルで」との言葉が。ハンクは、迷わず首を縦に振るのでした。



レイと一旦別れたフラニーは、マギーと一緒に、「パラダイス」の近くにあるショッピングモールを訪れ、後でレイと会う時に着るドレスを選んでいました。一方、ハンクも、後で「フリーモント・ホテル」でライラに会う時に着るスーツを買うため、モーと一緒に、同じショッピングモールに来ていました。両者がこのショッピングモールでバッタリ会う事はありませんでしたが、フラニーが、身支度のために、ハンクが一人で暮らす自宅に戻った時は、ハンクが背後から声を掛けてきました。フラニーは、手早く身支度をしますが、ハンクは、フラニーがこれからどこへ出掛け、何をするのかが、気になって仕方がありませんでした。そして、ハンクは、自宅を離れようとするフラニーを背後から抱きしめますが、フラニーは、ハンクの腕を力いっぱい振りほどき、出て行くのでした。



一路、レイの待つ店に向かうフラニー。ところが、その道中、「葉巻に火を付けたい」と声を掛けてきた高齢の男性に、うっかりして、マッチ箱を渡してしまいます。フラニーは、店の名前も住所もよく覚えておらず、ただラスベガスの街を彷徨うしかありませんでした。一方、ハンクは、ライラと約束した通り、「フリーモント・ホテル」に来ているのかと思いきや、そうではなく、同じくラスベガスの街を彷徨っていました。その後、フラニーは、レストラン「トロピカル」の前までやって来ます。すっかりヘトヘトになっていたフラニーは、店の中に入っていき、店のオーナー(アレン・ガーフィールド)に、空いているテーブルに案内されます。フラニーが着席して、しばらくすると、レイが通り掛かります。レイは、できたての料理で両手がふさがっている状態で店内を歩き回っていました。実は、フラニーがずっと探していた店は、この「トロピカル」だったのです。レイは、ここでピアノを弾いたり、歌を歌ったりしているのですが、実は、それらをさせてもらえる機会はあまりなく、勤務時間のほとんどをウェイターの仕事に費やさなければなりませんでした。レイは、仕事の手を休め、フラニーの隣の席の客が注文した料理をフラニーのテーブルに置き、フラニーの席の向かい側に座って、なんと、デートを始めてしまいます。レイの身勝手な行動は、当然、すぐにオーナーに見つかってしまい、レイは、「トロピカル」を解雇されてしまいます…。



この後も物語は続きますが、物語の後半の必見ポイントは、歌とダンスです。この後、レイとフラニーは、「トロピカル」にある、誰もいないラウンジへ行き、2人っきりの時間を楽しみます。レイは、ここで初めてピアノの弾き語りをします。レイのピアノの弾き語りは、とても味わい深いものがあり、オーナーがレイを解雇した事を後悔するのではないかと思うくらいでした。次に、レイはフラニーと一緒にタンゴを踊りますが、最初に2人が動き出した瞬間から最後までずっと引き込まれてしまい、時間が凄く短く感じました。そして、タンゴを踊り終えた2人は、ラスベガスの街に出て、町中の若者たちを巻き込んで、ダイナミックに踊ります。観ていて、私の心の中でテンションがグングン上がるのを感じました。また、ハンクが「フリーモント・ホテル」で会う事になったライラも、艶かしい表情でハンクを誘惑するように歌ったり、美脚を存分に活かしてダンスをしたりと、大活躍します。物語の後半は、まさに見せ場の連続で、観ていて凄く楽しくなります。



監督は、「地獄の黙示録」(1979年)、「ランブルフィッシュ」(1983年)のフランシス・フォード・コッポラ。「ワン・フロム・ザ・ハート」は、コッポラ監督の映画の中では大変珍しい、物腰の柔らかいタイプの映画です。コッポラ監督の通常のイメージがしっかり染みついている映画ファンにとって、この映画は、かなり実験的な造りに見えるかもしれません。



当時、この映画は、最初から最後まで、コッポラ監督が所有していたスタジオ「ゾーイトロープ・スタジオ」で撮影されました。屋内での撮影は天候に左右される心配がないとは思いますが、普段、スタジオでの撮影とロケの両方が上手く組み合わさっている映画を観る事に慣れている私としては、スタジオの中で、「建物の外」という設定でセットが組まれ、撮影が行われた事に、何となく違和感を感じました。



違和感といえば、この映画はミュージカル映画であるにもかかわらず、ハンク役のフレデリック・フォレストも、フラニー役のテリー・ガーも、劇中ではほとんど歌っていません。実際に劇中に登場する曲のほとんどを歌っていたのは、シンガーソングライターのトム・ウェイツと、カントリー歌手のクリスタル・ゲイルです。ウェイツがハンクの心情を、ゲイルがフラニーの心情を、それぞれ歌っています。私は、プロの歌手が役の気持ちを代弁している事に、戸惑いを覚えました。何事も、プロの歌手に任せれば良しという訳ではないと思います。この映画は、大変残念な事に、興行的に大失敗し、コッポラ監督は、「ゾーイトロープ・スタジオ」の売却を余儀なくされたそうです。ひょっとしたら、劇場公開当時に映画館に足を運んだ人たちも、私と同じ事、或いは、私とは別の視点で何かを感じたのかもしれません。もし、ご興味があれば、ぜひご覧いただけたらと思います。

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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アルフィー(1966年 イギリス)


アルフィー (1966) [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2010-05-28

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イギリス・ロンドンのイースト・エンドにあるアパートで、整理整頓を全くせずに暮らすアルフィー(マイケル・ケイン)は、この日の夜も、そんな暮らしをしているとはとても思えないほど、スーツを見事に着こなし、「映画を観に行く」と夫に嘘をついてきたという若い人妻・シディ(ミリセント・マーティン)を助手席に乗せて、自身の愛車を運転していました。しばらくして、アルフィーは、誰もいない小道に愛車を停めると、窓ガラスが曇っているのをいい事に、恥ずかしがる彼女を押し倒します。シディは、アルフィーの強引さの虜になっていますが、アルフィーはというと、そこまでの感情を抱いていません。ただ、紳士のふりをして、シディの悩みに耳を傾けるのみ。アルフィーは、正真正銘のプレイボーイなのです。


アルフィー~ベスト・オブ・ヴァネッサ・ウィリアムス
マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
1996-12-09
ヴァネッサ・ウィリアムス

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アルフィーが次に訪ねたのは、こちらもアルフィーの虜になっている女性・ギルダ(ジュリア・フォスター)の住むアパート。アルフィーは、ギルダに「結婚の意志はない。」と伝えてあるのですが、ギルダは、そんなアルフィーの気持ちをよく理解していました。ギルダは、アパートの玄関の扉を叩く音が聞こえると、アルフィーが来てくれたと思い、扉を開けます。しかし、扉の向こうにいたのはアルフィーではなく、知人で、2階建てバスの車掌をしているハンフリー(グレアム・スターク)でした。ハンフリーは、この日、ちょうど仕事が終わったところで、寂しくてここに立ち寄ったのです。しかし、ギルダは、ハンフリーに構っている暇はありません。ハンフリーは、それを知ると、早々とギルダのアパートを後にします。すると、そこへアルフィーが到着します。アルフィーは、ハンフリーの姿を見逃しませんでした。なんと、自身がギルダのアパートに入った後、わざとギルダに対して嫉妬心を抱いてみせたのです。「ハンフリーと行き違った。デキてるのか?」と。普段、アルフィーは、このように、鋭い観察眼と巧みな話術で、数多くの女性たちを惹きつけているのです。そんなある日、ギルダは、アルフィーとの子どもを身籠っている事が分かります。それでも、アルフィーには結婚の意志がなく、ギルダはシングルマザーになる決意をします。やがて、ギルダは男の子を出産、男の子はマルコムと名付けられます。アルフィーは、「ギルダと深入りし過ぎてしまった」と反省するだけ。しかし、だからといって、ギルダと別れた訳ではありませんでした。



アルフィーは、シディ、ギルダの他にも、多くの女性と関係を持っていました。クリーニング店のマネージャー、フットケアサービスの治療医、ボディービルで留守がちな彼氏と付き合っているという女性と、次から次へと女性たちを惹きつけていました。しかし、ギルダとマルコムが住むアパートを訪ねる事を忘れてはいませんでした。ある日、ギルタとマルコムに会いに行ったアルフィー。アルフィーは、ずっと、ある事が気になっていました。ギルダは、妊娠中、マルコムを自分で育てるつもりがなく、大富豪の養子にしたがっていたのですが、実際に、マルコムが生まれてみると、マルコムの事が愛おしくなり、養子に出すのを嫌がるようになったのです。アルフィーは、ギルダの気持ちが変わってしまったのが許せませんでした。アルフィーは、ギルダの気持ちが元に戻るよう、言葉巧みにギルダを説得します。ギルダの経済力のなさを容赦なく責めたら、きっと大丈夫だと信じるアルフィー。しかし、アルフィーが立てた作戦は、ギルダの怒りを買ってしまいます。それでも、アルフィーは攻撃の手を緩めようとしませんでした。

結局、ギルダはマルコムを手放しませんでした。ギルダは、ビール工場で働き始め、働いている間は知人にマルコムを預けました。一方、アルフィーは、あれだけ言いたい放題言いながら、いつの間にか、父性に目覚めていました。週末になるとマルコムの良き遊び相手になったり、「自分の体は、自分一人だけのものではない。」と考えるようになって、ある日、健康診断を受けたりしました。そんなある日、ギルダは、仕事の休憩時間に、ハンフリーと会います。ハンフリーは、ギルダとの結婚をすでに決意しており、この日、ギルダに、亡き母の形見である結婚指輪を渡そうとします。しかし、ギルダは、ハンフリーとの結婚を躊躇していました。ハンフリーが、アルフィーの血を引くマルコムを心から愛してくれるかどうか、心配だったのです。

その日の夜、アパートでアイロンがけをしていたギルダは、マルコムを寝かしつけて、一休みしていたアルフィーに、「ハンフリーと今週2度、昼間に会ったの。」と告白します。アルフィーは、自分が気付かぬ間にギルダが別の男性と二人っきりになっていた事に、腹を立てます。そして、「話の内容を知りたくない。」と言ったかと思うと、急にハンフリーの狙いを知りたがります。ギルダは、ハンフリーが自分と結婚したいと考えている事、結婚するかどうかはアルフィーと相談してから決めようと考えている事を説明します。しかし、アルフィーは、なぜギルダが自分に相談する必要があるのか、不思議でした。しかし、ギルダは、週末だけとはいえ、アルフィーと家族のような関係を築いている以上は相談する必要があると考えていました。マルコムには、週末だけ会う実の父親ではなく、血の繋がりはなくても、毎日会える父親が必要だったのです。そのためには、愛してはいないが尊敬はしているハンフリーと結婚した方がいいのではないかと思ったのですが、なかなか、決断できずにいたのです。アルフィーは、怒りが収まらず、とにかく怒りに任せて、ギルダとハンフリーの結婚に賛成し、アパートを出て行ってしまいます。



ある日、アルフィーは、顧客であるパブの経営者一行と一緒に競馬場へ行く事になっていましたが、その前に呼吸器科のクリニックに立ち寄ります。健康診断でレントゲン写真を撮った際に、医師の診察の必要が生じたのです。診察の結果、アルフィーは、肺に影がある事が分かります。診察した医師(エレノア・ブロン)は、アルフィーに休養を勧めます。アルフィーは、「これから、競馬場へ行かなければならない。」と反抗しますが、医師はこれを一蹴します。因みに、この時、アルフィーの頭の中には、ギルダを愛する気持ちは微塵もありませんでした。というのも、ギルダから、ハンフリーとの結婚を報告する手紙が届いたからです。実は、アルフィーは、手紙を受け取った後、ギルダに会いに行っていました。ギルダは、アルフィーに会うのを拒みましたが、アルフィーの声に気付いたマルコムがアルフィーを呼び始めたため、仕方なく、マルコムをアルフィーに会わせたのです。しかし、ギルダは、アルフィーがマルコムに触れないよう、警戒していました。アルフィーは、ギルダの事をすっかり諦めているように見えますが、実は、全く違っていたのです。

最初は、医師からの入院の勧めに反抗していたアルフィーでしたが、結局、入院します。しかし、面会に訪れる人は全くいませんでした。ある日、看護師・カーラ(シャーリー・アン・フィールド)が、アルフィーの病室に入って来ます。カーラは、アルフィーの注射と称して、ベッドの周囲を衝立で囲むと、靴を脱ぎ始めます。実は、アルフィーは、入院後、カーラに惹かれ、見事に誘惑する事に成功していたのです。一方、アルフィーと同室の入院患者・ハリー(アルフィー・バス)は、妻・リリー(ヴィヴィアン・マーチャント)が、遅刻しがちではありましたが、週に1回、面会に来てくれていました。ハリーは、リリーが来るのが、いつも待ち遠しい様子でした。この日も、リリーは、少し遅刻してハリーに会いにやって来ます。2人の隣では、いつまでも衝立が立てられていて、2人は困惑するばかりでした。



翌月、アルフィーは退院します。入院生活は実に6か月に及びました。アルフィーは、迎えに来てくれた知人から、ロンドンの観光名所・タワーヒルで観光写真を撮影する仕事を紹介してもらいます。物欲しそうな女性がウヨウヨいるから、アルフィーにピッタリだというのです。実際に、アルフィーがこの仕事に就いてみると、なかなか簡単には写真を撮らせてもらえません。アルフィーが何となくカメラを構えると、夫と一緒にいた中年女性・ルビー(シェリー・ウィンタース)の姿が写っていました。夫は、写真に写るのを嫌がりますが、ルビーはまんざらでもない様子。アルフィーは、テムズ川の前でルビーに立ってもらい、彼女の服装を綺麗に整え、シャッターを切ります。その後、アルフィーは、ルビーに住所と電話番号を尋ね、ルビーはそれらが書かれたメモをそっと渡します。その後、アルフィーは、この仕事を辞めて、運転手の仕事に転職します。



ある日、アルフィーは、入院中であるハリーを見舞います。病院には、リリーの姿もありました。ハリーは、汽車で病院に来たというリリーに、「アルフィーに、車で家まで送ってもらったらどうか?」と提案します。リリーは、アルフィーに「申し訳ない。」と思いながらも、ハリーの提案を受け入れます。アルフィーは、リリーを車の助手席に乗せて、病院を後にします。道中、少々やつれた表情のリリーを見ていたアルフィーは、次第にリリーの美貌に惹かれていきます。気が付けば、2人は川に浮かぶボートに乗って、お互いに見つめ合っていました。そして、ボートを降りると、アルフィーはリリーと唇を重ねるのでした。



数日後、アルフィーは、仕事中に、20歳くらいとおぼしき少女・アニー(ジェーン・アッシャー)がヒッチハイクをしているのを見かけ、彼女の持つ初々しさに心を奪われます。アニーは、1台のトラックに乗せてもらい、アルフィーは後を追いかける事にします。やがて、トラックは道路沿いに建つ食堂に立ち寄ります。アルフィーも同じ食堂に立ち寄り、車から降りると、わざとトラックの荷台のひもを緩めます。そして、食堂の中に入ったアルフィーは、「トラックの荷台のひもが外れかけている。」と、トラックの運転手・フランク(シドニー・タフラー)に伝えます。すると、フランクは外へ様子を見に行き、その隙に、アルフィーは、アニーに近付きます。アニーが、ある事情で、何の当てもないロンドンで心機一転、人生をやり直そうとしているのを知ると、アルフィーは、なんと、アニーを自身のアパートまで連れて帰ってしまいます。アニーは、そのまま、アルフィーと同居する事になりました。アニーは、毎日、丁寧に床掃除をするような真面目な性格でした。ある日の晩、アルフィーは、そんなアニーの心の殻を破る目的で、彼女の処女を奪おうとします。しかし、彼女の脳裏に、別れた彼氏・トニーの事が浮かんでしまい、結局、失敗に終わってしまいます。アルフィーを拒んだアニーは、急に罪悪感に苛まれ、泣き出してしまいます。アルフィーは、アニーの姿に思わず胸が痛み、アニーにキスをするのでした。



次の日曜日、アルフィーは、一人である場所へ向かいます。そこでアルフィーを待っていたのは、アルフィーが写真撮影の仕事で出会ったルビーでした。アルフィーから見て、ルビーは、他の若い女性たちと違い、「愛してる?」と尋ねてこないので、心が安らぐ存在でした。アルフィーは、いつの間にか、若い女性と一緒にいる事に疲れてしまっていたのです。そんなある日、アルフィーは、1軒のパブで、見覚えのある男性と再会します。男性は、アニーをトラックの助手席に乗せていた、フランクでした。フランクは、アニーを口説いたアルフィーに憤りを覚えていました。フランクがアルフィーに殴りかかったのをきっかけに、パブの中は大乱闘に発展。アルフィーは、隙を見て、パブから脱出するのでした。

帰宅後、アルフィーは、顔に青あざができている事をアニーに指摘され、逆上します。さらに、着たい服が洗濯されたのにまだ乾いていない事に怒り、自身が買った肉でアニーがステーキパイを作った事に怒り、そして、怒りに任せて、アニーがつけている日記を本人に内緒で読んでいる事を告白してしまいます。アニーは、勝手に禁断の園に踏み入ったアルフィーに対して激しい憤りを覚え、荷物をまとめて、出て行きます。アルフィーは、すぐに我に帰り、アニーを探しに行きますが、アニーを見つける事は出来ませんでした。



翌日、アルフィーの元をリリーが訪ねてきます。実は、この時、リリーは、アルフィーの子どもを身籠っていました。勿論、ハリーはこの事実を知らず、リリーは、ハリーにバレてしまう前に中絶しなければなりませんでした。しかし、イギリスでは、妊娠28日目以降に中絶の手術を受けると、懲役7年の刑に処せられます。リリーが刑を逃れるには、病院に頼らない方法を選択せざるを得ませんでした…。



マイケル・ケイン演じる主人公・アルフィーの、何ともだらしがないプレイボーイ像、そして、最初から最後まで非常にテンポ良く話す狂言回しとしての仕事ぶりが印象的なこの映画は、ビル・ノートン原作の舞台劇が映画化されたものです。1966年に、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞、歌曲賞にノミネートされています。メガホンを取ったのは、ルイス・ギルバート。007シリーズのうち、「007は二度死ぬ」(1967年)、「私を愛したスパイ」(1977年)、「ムーンレイカー」(1979年)と、計3作で監督を務めています。音楽を手掛けたのは、ジャズ・サックス奏者のソニー・ロリンズ。とんでもないプレイボーイの物語を、上品な大人の雰囲気にしています。また、2004年には、アメリカ・ニューヨークを舞台にした、ジュード・ロウ主演のリメイク版が制作されました。



主人公・アルフィーは、ありとあらゆる女性を口説き、肉体関係を結ぶ場合がほとんど。こんなにも多くの女性を口説き続けて、アルフィーは、最後にどうなりたいのか、私は観ていて、全く分かりませんでした。しかし、アルフィーがアニーと別れてしまったあたりから、アルフィーの人生は、音を立てて崩れていきます。アニーとの別れ、リリーの望まぬ妊娠、息子・マルコムとの再会、ルビーによるまさかの行動と、アルフィーがしてきた事の重大さが、ひしひしと伝わってきます。これらの展開を経て、アルフィーはどうなっていくのでしょうか。



最後に、エンドロールについて触れたいと思います。エンドロールには、アルフィーら登場人物のモノクロ写真が登場します。水色一色のレタリング(文字の形や色のアレンジの事)との相性がとても良く、本当にカッコいいです。エンドロールで使われている曲は、バート・バカラックが作曲し、シェールが歌ったテーマ曲「アルフィー」です。私は、1996年に日本のテレビドラマのテーマ曲として使われた、ヴァネッサ・ウィリアムスによるカヴァーしか知らなかったので、シェールによるものを聴くのは、今回が初めてでした。シェールの歌声は、ヴァネッサ・ウィリアムスに負けず劣らず大人っぽい雰囲気で、大人への階段をまた1歩上がった気にさせてくれます。ご興味のある方は、ぜひ両者の聴き比べをしてみてはいかがでしょうか。


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ハクソー・リッジ(2016年 アメリカ・オーストラリア)





物語は、1945年5月、第2次世界大戦末期の日本・沖縄で始まります。当時、沖縄では、アメリカ軍と日本軍による激しい地上戦・沖縄戦が続いていました。沖縄戦の激戦地ハクソー・リッジでは、尊い命を失った大勢の兵士たちが横たわったままの状態で、激しい銃撃戦が繰り広げられ、巨大な炎が方々で上がっていました。そんな悲惨な光景が広がるこの場所で、一人のアメリカ軍兵士が担架で運ばれていきます。彼は、アメリカ陸軍第77歩兵師団の衛生兵・デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)。担架を担ぐ同じ歩兵師団の兵士たちに励まされていたデズモンドは、ただ青空を見つめていました。





沖縄戦から遡る事16年前、1929年、アメリカ・ヴァージニア州ブルーリッジ山脈。まだ幼い少年だったデズモンドは、弟・ハルと一緒に、山道を歩いていました。デズモンドは、自分よりずっと後ろを歩いていたハルに追い付かれると、「頂上まで競争だ。」と勝負を持ちかけられ、それに乗ります。2人は、自分たちより背の高い草を掻き分け、小川を乗り越え、崖をよじ登っていきます。そして、崖を見事に登り切った2人は、嬉しさのあまり、雄叫びを上げますが、デズモンドとハルの父・トム(ヒューゴ・ウィーヴィング)をよく知る大人たちが偶然、崖の下を通りかかり、2人の姿を見つけると、2人をたしなめます。しかし、2人は簡単には大人たちの言う事を聞いてくれず、大人たちは、思わず「父親にそっくりだ。」と小声で皮肉を言うのでした。



その頃、トムは地元の墓地にいました。手には、まだ昼間だというのに、小さなウィスキーの瓶がありました。トムは、ある程度の量のウィスキーを飲むと、残りを墓石に振りかけます。その後、トムが帰宅すると、デズモンドとハルが庭で取っ組み合いの喧嘩をしていました。しかし、トムは、仲裁に入ろうとせず、なんと、殴られた時の防御の仕方をデズモンドにアドバイスします。すると、デズモンドとハルの母・バーサ(レイチェル・グリフィス)が、家の窓から顔を出し、喧嘩を止めようとします。しかし、2人が喧嘩を止める気配は全くありません。デズモンドは、たまたま庭に転がっていた煉瓦を手に取り、なんと、ハルの顔を思いっきり殴ってしまいます。ハルは、煉瓦が顔に当たった衝撃で血が流れ出し、意識を失います。これには、さすがのトムも、「やりすぎだ。」と呟きます。一方、加害者となってしまったデズモンドは、まさかの事態に驚き、体が固まっていました。

ハルは、トムとバーサによって急いで家の中に運ばれ、手当てを受けます。デズモンドも、ハルを心配して様子を見守ります。しばらくして、デズモンドは、その場を離れようとしますが、トムがムチを持って近付いて来ます。幸い、トムの行動に気付いたバーサがトムを制止したおかげで、デズモンドは罰を受けずに済みましたが、バーサは日頃から息子たちを甘やかしている事をトムから批判され、デズモンドも、自分のやってしまった事にまだ少しだけ怯えていました。バーサは、プロテスタント系の宗教組織であるセブンスデー・アドベンチスト教会の敬虔な信徒として、デズモンドをこう諭します。「殺人は最悪の罪。人の命を奪う事以上に重い罪はないのよ。」と。

その後、ハルは、意識を取り戻します。しかし、その日の夜、トムとバーサは大喧嘩を始めてしまいます。デズモンドとハルは、子ども部屋のベッドで横になりながら、両親の怒鳴り声を聞いていました。しばらくして、デズモンドは、バーサを心配して、リビングルームへ行き、ソファーに腰掛けていたバーサに声を掛けます。「父さんは、僕らが嫌いなの?」とバーサに問いかけるデズモンド。すると、バーサは、「そうじゃないの。父さんは、自分が嫌いなの。」と語り始めます。ウィスキーを煽り、乱暴な言葉遣いを止めようとしないのは、本来のトムの姿ではないのです。バーサは、「戦争前のトムの姿を、息子たちに見せてやりたい。」と、いつも思っていました。トムの性格をここまで悪化させたのは、戦争でした。第1次世界大戦の末期に、トムはフランスへ出征。その時、戦友のアーティが背後から銃撃され、無残な姿で命を落とした瞬間を目撃してしまったのです。この日以来、誰よりも戦争を憎むようになったトムは、帰国後、ウィスキーを煽ったり、乱暴な言葉遣いで家族に冷たい態度を取ったりする日々を送るようになったのです。



15年後の1944年。デズモンドは、地元の教会でステンドグラスの清掃作業をしていました。教会の中では、地元の女性たちがオルガンの音に合わせて、賛美歌の練習をしています。デズモンドは、賛美歌の練習が終わると、作業の手を止め、女性たちと一緒に賛美歌の歌い方の良し悪しについて話し始めます。ところが、デズモンドは、その途中、教会の前を通りかかった1台の車が、1人の若い男性・ギルバートを轢くところを目撃してしまいます。デズモンドは、急いで外に出て、ギルバートを助けます。デズモンドは、その場に居合わせた男性に「救急車を呼ぶべきだ。」とアドバイスされますが、デズモンドは、ギルバートの左の太ももから血が噴き出しているのを見て、「(救急車を呼ぶ)時間がない。」と、自身のベルトを外して、それをギルバートの太ももに巻き、止血させます。そして、ギルバートを地元の男性が運転する赤いトラックの荷台に乗せて、自身も荷台に乗り、近くにあるリンチバーグ病院へ向かいます。リンチバーグ病院に到着すると、治療にあたった医師が、ギルバートの左の太ももにベルトが巻かれているのを見て、「君が止血したのか?」とデズモンドに尋ねます。デズモンドが「はい。」と答えると、医師はデズモンドの機転に感心します。



その後、デズモンドは、院内でひたすら献身的に仕事をこなす医師や看護師の姿にじっと見入ってしまいます。そして、看護師の一人であるドロシー(テリーサ・パーマー)に声を掛けます。ドロシーが献血を担当している事を知ったデズモンドは、生まれて初めて献血を行います。献血を行っている間、デズモンドは、ドロシーとは初対面であるにもかかわらず、何の躊躇もなく、かつて医師を目指していた事、しかし、事情があって医学を学べる学校に行けなかった事、自身が住んでいる町・フォートヒルの事などをドロシーに打ち明けます。この時、デズモンドは、今まで感じた事のない居心地の良さを感じていました。翌日、デズモンドは、いつもとは違うお洒落な服に身を包み、ある場所へ出掛けて行きます。なんと、前日に出会ったばかりのドロシーに告白をしに、再びリンチバーグ病院へ向かったのです。告白をした結果、デズモンドは、まず、ドロシーと一緒に、映画館へ映画を観に行く事になりました。しかし、生まれて初めて恋人ができたデズモンドにとって、同年代の女性とコミュニケーションを取るのは、なかなか難しい事でした。デズモンドの口から出てくるのは、医学の質問ばかり。ドロシーとファーストキスをした時も、ドロシーがまだ心の準備ができていない時にやや強引にしてしまい、お互いの歯車がなかなか噛み合いませんでした。



その日の夜、デズモンドは映画館から帰宅し、トム、バーサと一緒に夕食を摂っていました。その時、ハル(ナサニエル・ブゾリック)が軍服に身を包んで帰宅し、皆を驚かせます。実は、ハルは、家族に黙って、アメリカ軍に入隊したのです。フォートヒルから大勢の若い男性たちが出征していくのを見て、「工場で働くだけの自分は、無力なのではないか。」と考えるようになり、ついに、こうして行動に出たのです。「殺人は、最悪の罪。」と、繰り返し息子たちに教えてきたバーサは、ハルの取った行動を責めてしまいます。

ある日の朝、デズモンドは、ドロシーをリンチバーグ病院へ送り届けます。病院に到着した時、デズモンドは、ある決意をドロシーに話します。アメリカ陸軍に入隊する、衛生兵として。カップルとしてお互いに絆を深め、いつ結婚しておかしくないと思っていたドロシーは、デズモンドのまさかの告白に動揺します。そして、「私にプロポーズしない気なの?」と正直に気持ちをぶつけます。勿論、デズモンドは、ドロシーの気持ちを無視するつもりはなく、その場でプロポーズします。こうして、2人は、デズモンドの出征後最初の休暇の時に挙式をする約束をしたのでした。数日後、デズモンドは、ドロシーに見送られ、フォートヒルを離れます。デズモンドは、ドロシーと離れる際に、片手ほどの大きさの聖書を渡されます。そこには、笑顔のドロシーが映った写真が挟んでありました。写真の裏には、「無事に私の元に帰って。愛してる。」とメッセージが書かれてありました。



デズモンドが向かったのは、ジャクソン基地。グローヴァー大尉(サム・ワーシントン)の部隊に配属され、ハウエル軍曹(ヴィンス・ヴォーン)から厳しい訓練を受ける日々が始まります。しかし、幼い頃に人を殺める事の悲惨さをバーサから叩きこまれ、自身も敬虔なセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒となっていたデズモンドは、銃器を手に持つ事を固く拒み、ハウエル軍曹や若い兵士たちから臆病者とみなされ、身体的な暴力や言葉の暴力を受ける日々を送るようになるだけでなく、最初の休暇も取らせてもらえず、軍法会議にかけられる事になってしまいます。

デズモンドは、最初、司法取引で、ハウエル軍曹の命令に背いたという罪を認め、フォートヒルに帰るはずでした。しかし、デズモンドは、あくまで自身の宗教観を守っただけであり、ハウエル軍曹の命令を端から否定した訳ではなかったため、軍法会議が始まる直前になって、無罪を主張します。軍法会議を取り仕切るマスグローヴ准将から、陸軍に志願した理由を問われたデズモンドは、こう答えます。「真珠湾攻撃に衝撃を受けたからです。」と。デズモンドは、地元に住んでいた2人の仲間と一緒に陸軍に志願しました。しかし、2人は、入隊検査で不合格になり、それぞれ自ら命を絶ちました。2人の死後、デズモンドは、兵役を免除され、軍需工場で働いていましたが、他の男性たちが戦死していく中で、アメリカに全く貢献できていない自分が嫌になっていきました。しかし、必要な事とは言え、戦争で人を殺める事は絶対にできません。そこで、デズモンドは、衛生兵になって、負傷した兵士たちを救おうと決意したのです。しかし、デズモンドの主張は通らず、有罪が言い渡されるのはほぼ間違いない状態となります。

ところが、判決が出ようとしていたその時に、ある軍服姿の男性が、2人の兵士たちの制止を振り切って、やって来ます。その人物とは、第1次世界大戦で、戦争の残酷さを嫌という程味わった、デズモンドの父・トムでした。トムの右手には、我が息子を救うためにしたためた1通の手紙がしっかりと握られていました。トムは、マスグローヴ准将に手紙を渡すと、その場を去ります。手紙には、デズモンドのような良心的兵役拒否の権利が議会法で守られている事について触れられていました。勿論、銃を含めた武器を取る命令を拒む権利もそこに含まれています。軍法会議に立ち会っていたステルザー大佐(リチャード・ロクスバーグ)は訴えを取り下げ、デズモンドは、ようやくドロシーと結婚する事ができたのでした。



1945年5月、デズモンドは、既に基本的な軍事訓練と衛生兵としての訓練を終え、第77歩兵師団の衛生兵として、日本の沖縄に出征していました。デズモンドらとすれ違うトラックの荷台には、頭から大量の血を流して戦死した兵士たちが、まるで物のような扱いで、山のように積まれていました。彼らは、先発の第96歩兵師団の兵士でした。第96歩兵師団は、沖縄戦の激戦地となった高さ150メートルの崖「ハクソー・リッジ」に6回登ったのですが、6回とも日本軍に撃退され、最後だった6回目では、壊滅状態に追い込まれていました。デズモンドたちは、兵士の数が大きく減った第96歩兵師団に合流するため、沖縄に来たのです。デズモンドは、第96歩兵師団の衛生兵・シェクター、ペイジと行動を共にする事になりました。シェクターは、「ハクソー・リッジ」での悲劇をデズモンドをはじめとする兵士たちに語り、デズモンドに赤十字の腕章を外す事を勧めます。衛生兵は白地に赤十字の印の腕章を身に付けるだけで、敵に狙われやすいのです。シェクターの口から語られた生の声は、デズモンドに過酷な現実を突きつけたのでした…。



ここで、沖縄戦について少し触れたいと思います。第2次世界大戦中、太平洋の島々を奪っていったアメリカ軍は、次に日本の本土を攻めようとしていました。そのためには、まず沖縄を占領する必要がありました。日本軍は、これに対し、アメリカ軍をなるべく沖縄に留まらせて、時間を稼ぐ持久戦を実行しようと考えました。沖縄が最初に大きな被害を受けたのは、1944年10月の「10・10空襲」です。軍人、民間人合わせて、668人が亡くなりました。1945年3月、アメリカ軍が空襲や海上からの砲撃に続き、沖縄本島の西に浮かぶ慶良間(けらま)諸島に上陸。同年4月1日には、沖縄本島中部の西海岸に上陸します。こうして、沖縄戦が始まりました。その後、アメリカ軍はわずか2週間で沖縄本島を占領。沖縄本島の中部では、アメリカ軍と日本軍による激しい戦いが約40日間続きました。沖縄本島の南部・浦添市にあった日本軍の陣地・前田高地(英語名:ハクソー・リッジ)でも激しい戦いが繰り広げられました。アメリカ軍の衛生兵・デズモンドが、この地でアメリカ軍と日本軍、両方の兵士たちを救った実話を描いたのが、この映画なのです。



この後、物語は、デズモンドたちが沖縄で攻撃に携わるシーンへと続いていくのですが、数多くの遺体のあまりの生々しい再現ぶりに目を覆いたくなりました。胴体から内臓の大部分が飛び出していたり、腐敗がかなり進んでいたり、遺体の周りを野ネズミが行ったり来たりしていたりと、メガホンを取ったメル・ギブソン監督が、戦争の悲惨さを正直に伝えるべく、表現の限界に懸命に挑んでいるという印象を受けました。兵士たちが戦争で命を落とす事は、戦争を知る人と知らない人の両者を、こんなにも悲しくさせるのですね。特に、沖縄戦の場合は、人間がいつ、地上で銃撃によって命を奪われ、体が原形をとどめない状態にされてしまうのかが分からなかったという意味では、恐ろし過ぎたのではないでしょうか。この映画を観ると、沖縄戦での悲劇が後世に語り継がれなければならない理由が、本当によく分かります。戦争映画の中には、ここまで正直に歴史を描いたものがあってもいいのではないかと思いました。



さらにこの後、デズモンドは、数え切れないほどの銃弾が飛び交う中、負傷した第77歩兵師団の兵士たちの救護にあたります。デズモンドは、時々、衛生兵のシェクターから「もう長くはもたない」と、重傷の兵士の救護を諦めるよう言われる事もありますが、兵士が少しでも息をしている事が分かると、救護に全力を注ぎます。最初は、第77歩兵師団の兵士たちを救護していたデズモンドでしたが、ある事がきっかけで、後に日本軍の兵士も救護します。デズモンドは、最終的にこの沖縄戦で75人の負傷兵を救います。そして、1945年10月、その功績が認められ、良心的兵役拒否者では初めて、アメリカ軍兵士最高の名誉である名誉勲章を授与されました。



沖縄戦が終結したのは、1945年6月23日の事でした。死者数は、推計ではありますが、アメリカ軍の兵士、日本軍の兵士、沖縄県民を合わせて、約20万人と言われており、当時の沖縄県民の4人に1人が亡くなった事になります。当時は、家族全員が亡くなったという沖縄県民のケースが多く、戸籍が焼けてしまっている事から、亡くなった人の中には、名前が今も不明のままの人たちがいます。一体誰が亡くなったのか、全く手掛かりが掴めないのは、胸が苦しくなるというか、亡くなった本人に対して大変申し訳ない気持ちになります。次の日曜日は、6月23日です。この映画をぜひご覧になって、沖縄戦で犠牲となった人たちの気持ちに少しでも寄り添っていただけたらと願っています。





めぐり逢えたら(1993年 アメリカ)


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アメリカ中西部の都市・シカゴ。建築家のサム(トム・ハンクス)は、最愛の妻・マギー(キャリー・ローウェル)を病で亡くしたばかり。8歳の息子・ジョナ(ロス・マリンジャー)との2人暮らしになったサムを、友人や同僚は心配していました。ある友人は、料理を作り、レンジで温めるよう言ってくれました。サムの会社の同僚は、自身のかかりつけ医を紹介してくれました。しかし、当の本人は、心配してくれる人の数があまりにも多いがために、うんざりしていました。同僚は、サムに2~3週間、休暇を取る事を勧めます。しかし、サムは、「それだけでは自分は変わらない。思い切って遠くへ引っ越した方がいい。」と考えていました。サムが考えていた引っ越し先は、アメリカ北西部にある、太平洋に面した都市・シアトルでした。サムは、あえて、縁もゆかりもない土地へ行けば、マギーの事を思い出して、気分が落ち込むような事はないだろうと考えていたのです。


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1年半後、東海岸にあるメリーランド州の最大都市・ボルチモアはクリスマス一色です。新聞社「ボルチモア・サン」の記者・アニー(メグ・ライアン)は、同じ新聞社の出版局に勤める婚約者・ウォルター(ビル・プルマン)を連れて、車で実家へ帰省します。帰省して早々、アニーは家族に婚約を報告。父・クリフ(ケヴィン・オモリソン)も、母・バーバラ(ルクランシェ・デュラン)も、兄・デニス(デヴィッド・ハイド・ピアース)も、皆、アニーの婚約を心から祝福します。その後、アニーは、自身の部屋で、バーバラと二人きりになります。バーバラは、アニーに、1着のウェディングドレスを見せます。これは、アニーの祖母の形見。バーバラは、「いつかアニーの結婚が決まったら、アニーに着てほしい。」と考え、長年、大切に保管していたのです。アニーは、祖母の形見を大切に守ってくれた母の想いに感謝します。


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やがて、アニーは、1人で自宅へ戻ります。その途中、アニーは、ラジオから流れる「ジングルベル」のメロディーに気持ちが高ぶり、大きな声で「ジングルベル」を歌います。「ジングルベル」を歌い終えたアニーは、ラジオに手を伸ばし、適当に選局をします。「ジングルベル」の次にラジオから流れてきたのは、さっきとは打って変わって、何のBGMもない「心の相談室」という番組でした。この番組は、精神科医のマーシャ・フィールドストーン(声:キャロライン・アーロン)がDJを務める相談番組です。この日、番組に出演したのは、シアトルに住む一人の少年でした。少年の名前は、ジョナ。1年半前に、最愛の妻・マギーに先立たれた、あのサムの息子でした。ジョナの願いは、「パパに新しい奥さんがほしい」というもの。シカゴに住んでいたサムは、あれから、ジョナと一緒にシアトルに引っ越したものの、未だに元気を取り戻せずにいたのです。

マーシャは、ジョナよりも落ち込みが激しいサムを心配し、ジョナに電話を代わってもらうよう、頼みます。電話の声の主が誰なのかを知らないサムは、ジョナに言われるがままに電話を代わります。最初は、セールスの電話だと思い込んでいたサムでしたが、マーシャから事情を聞かされると、悩みを打ち明けるのを嫌がってしまいます。しかし、マーシャに「これは、ジョナのクリスマスの願いなのよ。」と背中を押され、渋々話し始めます。サムは、マギーを亡くした時の喪失感が凄かった事、今では、元気になっている事を話しますが、近くで話を聞いていたジョナが、「(サムが)夜、眠れていないよ。」と、マーシャに教えます。この日まで、自身が不眠症である事がジョナにバレていないと思い込んでいたサムは、ジョナが自身の事をきちんと理解していたという事実に驚きます。

しばらくの間、「心の相談室」に聞き入っていたアニーは、ダイナー(大衆食堂)に立ち寄ります。アニーがダイナーに入ってみると、ダイナーに置いてあるラジオからも、「心の相談室」が流れていました。ダイナーのスタッフの間でも、話題は「心の相談室」で持ち切りのようです。番組では、若い女性リスナーが、マーシャにサムの住所を教えてもらおうとしていましたが、サムのプライバシーを侵害してしまうため、当然、断られていました。アニーは、車に戻った後も、「心の相談室」を聞いていました。マーシャは、「奥様を愛したように、別の女性を愛する事もできるわ。」サムと励ましていましたが、サムのマギーを思う気持ちが変わる事はありませんでした。アニーは、マギーを思うサムの誠実さに心を打たれ、涙を流します。



こうして、クリスマスが終わり、あっという間に大晦日に。「ボルチモア・サン」の会議室では、企画会議が行われていました。会議の出席者の一人・ベッキー(ロージー・オドネル)は、サムが出演した「心の相談室」の特集を組みたがっていました。たまたま用事があって会議室に入ってきたアニーは、ベッキーの話が耳に入り、話の輪の中に入ります。しばらくの間、話が大いに盛り上がる一同。すると、ベッキーが、話の自然な流れで、突然、アニーに「実際に記事にしてみたら?」と提案します。同じ会議に出席していた男性は、「中年女性が、2000人も、番組に電話をかけてきたんだぞ。」と、でたらめを口にします。そんなでたらめが出るくらい、サムは全米からの注目度が高く、新聞で取り上げられる価値が大いにあったのです。

その日の夜、アニーは、ウォルターと一緒に、カウントダウンパーティーに出席します。BGMに合わせて、ダンスを楽しむ2人。その途中、アニーは、近々ボストンへ出張するというウォルターから、「今度、一緒にニューヨークで過ごさないか?」と誘われます。アニーは、一瞬、笑みを浮かべますが、すぐに、神妙な表情に変わります。アニーには、何か気がかりな事があるようです。そのニューヨークでは、新年の到来を告げる花火が打ち上げられていました。その様子をテレビで観ていたサムは、子ども部屋でジョナを寝かしつけ、家の外に出ます。サムが空に目を向けると、ニューヨークと同じように花火が打ち上げられていました。しばらくして、サムがリビングに戻ると、マギーの幻がサムに近付いてきます。サムは、リビングのソファに横になり、マギーと会話を楽しむのでした。



ある大雨の日、サムとジョナが買い物から帰ってくると、郵便配達の男性が2人を待っていました。「心の相談室」を聞いた大勢の女性リスナーから手紙が届いていたのです。実は、番組の放送後、サムの住所を尋ねる女性リスナーからの電話がラジオ局に殺到し、ラジオ局のスタッフが、ジョナから住所を教えてもらって、彼女たちに伝えたのです。サムは、何の躊躇もなく住所を教えてしまったジョナを叱ります。当然、サムは手紙に目を通すつもりはなく、運命の出会いというものを信じていました。数日後、サムが外出先から帰宅すると、ジョナが、恋人(?)のジェシカ(ギャビー・ホフマン)と一緒に、レコードを聴いて過ごしていました。サムは、ジョナの大人顔負けの行動ぶりに刺激を受け、最近、一度だけデートをしたヴィクトリア(バーバラ・ギャリック)に電話をかけて、食事に誘います。その結果、サムは、次の金曜日に、ヴィクトリアと一緒に、レストランで食事をする事になりました。



アニーは、「心の相談室」の記事の執筆のため、取材活動を続けていました。電話とパソコンを駆使して、サムの情報を集めようとするアニーでしたが、サムと同姓同名の男性はあまりにも多く、取材活動は困難を極めます。しかし、アニーは、粘り強く情報を絞り込み、ついに、あのサムの住所を見つけます。アニーは、早速、サムに手紙を送り、手紙は無事に届きます。しかし、手紙が届いたのは、金曜日。サムが、ヴィクトリアと一緒に、食事に出掛ける日でした。ジョナは、サムより先に、興味津々な様子で手紙を読みます。サムは手紙に見向きもせずに出掛けていこうとしましたが、ジョナに呼び留められ、仕方なくざっと目を通します。ジョナは、アニーの好きな野球選手がサムと同じである事を喜びますが、サムは急いでいて、それどころではありませんでした。



その後、レストランに先に着いたのは、サムでした。サムはテーブルにあった角砂糖をピラミッド型に積み上げて、時間を潰していました。しばらくすると、そこへヴィクトリアが姿を現します。サムが自分を誘ってくれるのをひたすら待っていたヴィクトリアは、この日、ついに夢が叶い、嬉しそうな顔をしていました。これから2人の話が盛り上がろうとしていたその時、レストランに一本の電話が入ります。電話を入れたのはジョナでした。急用ではないのですが、ジョナからサムに伝えたい事があったのです。ジョナは、嫌な顔をして受話器を取ったサムに、「バレンタインデーに、ニューヨークに行かない?」と言い出します。アニーが送ってきたサム宛ての手紙に、「バレンタインデーに、エンパイア・ステート・ビルのてっぺんで逢いたい。」と書いてあったというのです…。



急用ではないのに、サムのデートの現場に電話をかけたジョナ。しかし、ジョナの思惑とは裏腹に、サムはヴィクトリアと仲良くなります。ジョナは、サムを正しく導かなければならないという責任感で頭の中がいっぱいになり、なんと、「心の相談室」に再び助けを求めます。この映画は、ここからラブコメディーの色が濃くなっていきます。映画の後半では、暴走と言っても過言ではないジョナの奮闘ぶり、それに振り回されるサムとアニーのパニックぶりが注目ポイントとなります。



因みに、ジョナが読み上げたアニーの手紙の一節「バレンタインデーに、エンパイア・ステート・ビルのてっぺんで逢いたい。」ですが、これは、ケーリー・グラントとデボラ・カーが主演した映画「めぐり逢い」(1957年)の名シーンから来ています。「めぐり逢い」にも、やはり、エンパイア・ステート・ビルの展望台で2人が会う約束をするシーンがあるのですが、当日、グラント演じるプレイボーイの二流画家・ニッキーは無事に展望台に着きます。ところが、カー演じる歌手・テリーは、タクシーにはねられ、二度と歩く事が出来ない体になってしまいます。テリーにとてつもなく大きなアクシデントがあったのを誰にも知らされないニッキーは、ずっと展望台でテリーを待ち続けるのです。「めぐり逢えたら」では、メグ・ライアン演じるアニーが、自宅で「めぐり逢い」のビデオを観るシーンがあるのですが、アニーは、このシーンの何とも切ない展開に号泣するだけでなく、自身の生活においても大きく影響を受け、先に述べたような手紙を書きます。ご興味のある方は、ぜひ「めぐり逢い」も、チェックしてみてはいかがでしょうか?



さて、ここで、「めぐり逢えたら」の監督と主演にも少し触れたいと思います。監督は、「ジュリー&ジュリア」(2009年)のノーラ・エフロン。主演は、「フィラデルフィア」(1993年)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)、「プライベート・ライアン」(1998年)と、数多くの名作で活躍してきたトム・ハンクスと、「戦火の勇気」(1996年)、「シティ・オブ・エンジェル」(1998年)、「電話で抱きしめて」(2000年)と、こちらも幅広い活躍をしているメグ・ライアンです。「めぐり逢えたら」が大ヒットした後の1998年に、3人は再び「ユー・ガット・メール」でタッグを組み、こちらも大ヒットしました。



「めぐり逢えたら」の後半は、前半の「心の相談室」がもたらす感動とは正反対のドタバタ劇が展開されますが、ラストシーンは、そんな事を忘れさせてくれるくらい、非常にロマンティックな雰囲気が醸し出されています。まさに、笑いあり、涙ありの物語です。最近、個人的に、このようなラブコメディーを映画館で観る機会が少ないせいかもしれませんが、後世に語り継がれるべきラブコメディーだと、改めて感じました。皆さんも、このジューン・ブライドの季節に、この映画をご覧になってはいかがでしょうか。


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サム・ペキンパー 情熱と美学(2005年 ドイツ)


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今回は趣向を変えて、かなり久しぶりですが、ドキュメンタリー映画を取り上げます。タイトルは、「サム・ペキンパー 情熱と美学」です。制作国がドイツなので、カテゴリーを「ドイツ映画」とさせていただいていますが、この映画の舞台は、アメリカとメキシコです。主人公は、ドイツ系アメリカ人の映画監督サム・ペキンパーです。ペキンパーは、1925年にアメリカ・カリフォルニア州フレズノで生まれました。第2次世界大戦時に海兵隊員として従軍し、除隊後は、フレズノ州立大学に入学し、最初は歴史を専攻していましたが、途中で専攻を歴史から演劇に変え、演劇の基礎を学びます。さらに、バイオレンス映画を数多く手掛けた事で知られるドン・シーゲル監督の下で映画の勉強にも励み、映画の脚本の執筆や出演、テレビドラマの出演等をこなし、1961年、「荒野のガンマン」で映画監督デビューします。その後、「ワイルドバンチ」(1969年)、「わらの犬」(1971年)等、徹底的に現実性を追求したバイオレンス映画を次々に手掛け、「バイオレンス映画の巨匠」と呼ばれるようになりました。しかし、仕事のやり方へのこだわりが人一倍強いが故に、仕事のやり方を巡ってスタッフともめたり、私生活では、結婚と離婚を繰り返したり、アルコール依存症を患ったり、コカインに手を出したりと、波乱に満ちた日々を送り、1984年に、59歳の若さで亡くなりました。それでは、あらすじを見ていきましょう。


サム・ペキンパー
河出書房新社
ガーナー シモンズ

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「サム・ペキンパー 情熱と美学」は、1984年10月、アメリカのアップステートニューヨークで行われた、歌手ジュリアン・レノンの楽曲「ヴァロッテ」と「トゥー・レイト・フォー・グッドバイ」のビデオクリップのロケの映像で幕を開けます。ロケの現場の一角で椅子に座っているペキンパーは、スマートな体型で、髪も、口髭も白く、サングラスをかけています。物静かではありますが、話し掛けるのがとても怖いくらい、威厳に満ちています。

ペキンパーの妹のファーン・リア・ピーターは、兄の一人であるサム・ペキンパーのルーツを語っています。かつて、父方の一族は、製材所を所有していました。所有地の中にある山に、「ペキンパー山」と、一族の名を付ける程、家業は繁栄していました。一方、母方はというと、チャーチという、法律家から下院議員に転身した男性がいました。チャーチは、後にペキンパーの母方の祖父になります。ペキンパーは、幼い頃から山を愛していました。猟犬を連れ、大好きな兄のデンヴァーとよく狩りに出ていました。

ペキンパーの伝記の著者ガーナー・シモンズも、ペキンパーのルーツについて語っています。ペキンパーがまだ幼かった頃、ネイティブ・アメリカンの少女2人がペキンパー家の養女に迎えられました。ペキンパーは、当初、それを意識してか、自分で自分の事を「ネイティブ・アメリカンの血筋だ」と周囲に言っていました。しかし、ペキンパーは、オランダからドイツにかけて連なっているフリジア諸島にルーツを持つ、ドイツ系アメリカ人でした。彼の両親は結婚当初からずっと不仲だったようです。なぜなら、両親は、大恋愛の末に結婚したのではなく、チャーチの一存で結婚したからです。ペキンパーの母親は、ペキンパーを可愛がる反面、ペキンパーを抑圧し、支配しようとしました。



ペキンパーの妹・ピーター曰く、父親も、ペキンパーを厳しく躾ける必要性を感じ、ペキンパーをミリタリー・スクールに入学させました。しかし、父親の期待とは裏腹に、ペキンパーはミリタリー・スクールならではの厳しい教えを拒み続けました。受けた罰の数は、歴代トップでした。ペキンパーはミリタリー・スクールを卒業後、海兵隊に入隊します。ペキンパーにとって、海兵隊は、自分らしさと決断力を奪われる場所でした。ペキンパーが実際に海兵隊に入隊して学んだのは、ミリタリー・スクールでの厳しい教育が現場でそのまま役立つ事ではなく、現場での経験、つまり、戦争の悲惨さを目の当たりにする事が、人を確実に成長させるという事でした。



ペキンパーは、生前に、肉声をテープに収めていました。ペキンパーは、海兵隊を除隊した後、フレズノ州立大学に入学。最初は歴史を専攻していましたが、途中で、演劇に方向転換しました。ペキンパーの妹・ピーターは、彼に人生を大きく変えるほどの影響を与えたのは、大学で知り合った演劇学部の学生マリー・セランドだったと考えています。ペキンパーは、生前、こう語っていました。自身は、大学で演劇を学ぶだけでなく、「牛泥棒」、「七人の侍」等の映画をよく観に行き、劇団の夏期公演やテレビ局の裏方の仕事もこなし、ドン・シーゲル監督の下で映画の勉強もしていたと。さらに、ペキンパーは、テレビドラマ「ガンスモーク」の脚本を手掛けたり、テレビドラマ「折れた矢」シリーズに出演したりしました。さらに、「法律なき町」、「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」といった映画にも出演したり、「ライフルマン」、「遥かなる西部」、さらに、「銃にかけた手」と、テレビ西部劇3作で演出を手掛けたりしました。ペキンパーの父親は、「遥かなる西部」をテレビで見た時、とても喜んでくれました。当時の光景が忠実に再現されていたからです。しかし、当時、ペキンパーは、表現の規制と闘わなければならず、やりたい演出をさせてもらえない悔しさを度々味わっていました。こうして、ペキンパーは、映画界に活路を求める事にしたのです。

そんな中、ペキンパーに、ついに、映画監督デビューのチャンスが訪れます。ペキンパーと親交のある俳優ブライアン・キースが、ペキンパーを「荒野のガンマン」の監督に推薦し、それが通ったのです。しかし、「荒野のガンマン」は、脚本の出来映えが酷く、ペキンパーは、手直しをしたかったのですが、当時はそれが禁じられていたため、脚本をそのまま受け入れるしかありませんでした。その後、映画は、撮影が進められ、1961年に公開されました。


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その直後、ややマシな企画がペキンパーの元に舞い込んできます。今度は、脚本の手直しが許されていました。映画のタイトルは、「昼下りの決斗」。この映画を称賛するのは、俳優・作家のR・G・アームストロングです。アームストロングは、大ベテランのウェスタン俳優ジョエル・マクリーとランドルフ・スコットが楽し気に演じている様子が伝わってくると言います。アームストロング曰く、ペキンパーは、2人の引退の花道を見事にお膳立てしたと言っても過言ではないのです。


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俳優・監督・プロデューサーのL・Q・ジョーンズは、ペキンパーの仕事への情熱を語っています。ある時、ある映画がクランクインしてすぐに雪が降りました。しかし、ペキンパーは、一切妥協をしませんでした。天候が回復せず、いったん、ロケ地を撤退した時は、不満タラタラだったそうです。また、ペキンパーは、3時間掛けて撮影する予定だったシーンを、なんと、2日間かけて撮影した事もありました。彼なりに演出のこだわりがあり、誰が何と言おうと、己のやり方を曲げなかった結果、こうなってしまったのです。そのこだわりとは、スタッフ、出演者、スタントマン、それぞれ別々にシーンの趣旨を説明し、出演者同士が趣旨の話をする事を固く禁じるというものでした。このやり方は、当然、全員を混乱させます。そこで、ペキンパーが2~3日掛けて彼らをまとめ上げるのです。こうする事で、西部で暮らした先人たちの流儀が観客に伝わってくるのです。しかし、ペキンパーが実際に手掛けたこだわりの映像は、編集泣かせでした。編集の担当者達は、作業の途中でさじを投げてしまい、結局、ペキンパー自身が編集を行う事になってしまいました。また、この映画の撮影中に、ペキンパーにとって悲しい出来事がありました。ペキンパーの父親が亡くなったのです。ペキンパーは、父親に喜んでもらうべく、父親の言いそうな台詞を散りばめてみせました。しかし、完成した映画を観てもらうという夢は叶いませんでした。その後、映画は、2本立てのおまけとして劇場公開されます。映画は、前評判とは違い、観客や批評家から高く評価され、改めて華々しく再公開されたのでした。



その後、ペキンパーは、メキシコ出身の女優ベゴニア・パラシオスと恋に落ち、周囲の反対を押し切って、結婚します。周囲は、「あまり、長続きしないだろう。」と冷ややかな目で見ていました。案の定、2人は離婚するのですが、後に、ペキンパーがパラシオスに言い寄る形で復縁します。しかし、またしても、2人は離婚。2人は、今度こそ縁が切れてしまったかに思われましたが、その後、なんと、2度目の復縁をします。パラシオスは、「彼を深く愛していたから、3回結婚したの。」と、結婚、離婚、復縁を繰り返した時代を振り返っています。


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ペキンパーは、パラシオスとの結婚を機に、性格が丸くなるのかと思いきや、全くそんな事はなく、相変わらず、仕事の進め方を巡って、スタッフともめてばかりいました。しかし、このような流儀を貫いた事が、1969年公開の映画「ワイルドバンチ」の成功に繋がり、ペキンパーは、バイオレンス映画の巨匠という地位を確立する事になるのです。しかし、…。



ペキンパーと共に仕事をした多くの人々がインタビューに応じているこの映画。他には、女優・プロデューサーのセンタ・バーガー、俳優・作家のマリオ・アドルフ、俳優のジェームズ・コバーン(※コバーンは、2002年に亡くなっているので、生前に撮影されたインタビュー映像が使われています。)らが、ペキンパーの仕事への強いこだわりを熱く語っています。3人の話から、ペキンパーに歩調を合わせなければならなかったスタッフの苦労の大きさがひしひしと伝わってきます。そんなペキンパーとスタッフとの間に入って、交渉役を務めたのが、ペキンパーの仕事のやり方に理解を示していた俳優チャールトン・ヘストンだったそうです。



この映画の最大の注目ポイントは、ペキンパーが携わった映画の予告編や本編の映像、テレビドラマの撮影風景の写真がふんだんに使われている事です。テレビで西部劇を観て育った人達が観たら、きっと懐かしい気持ちになる事間違いなしです。また、個人的には、1971年にペキンパーが監督を務めた映画「わらの犬」で主演を務めた俳優ダスティン・ホフマンのインタビュー映像がとても興味深かったです。映画の後半に登場する映像なのですが、当時34歳だったホフマンは、インタビュアーから「若手俳優を代表する存在ですね。」と話を向けられ、「『卒業』(1967年)は青年役だから若い印象が強いんだろうけど、あれからキャリアを重ね、年を重ね、今や34歳だからね。」と、表情は穏やかでありながら、自分が、演技力ではなく、世間のイメージで見られている現状に怒りを覚え、それをはっきりと口に出していました。俳優を一生の仕事にするという強い決意が感じられる映像でした。



さて、私は、最初に、ペキンパーの私生活について、「私生活では、結婚と離婚を繰り返したり」とご紹介しましたが、私は、この映画を観て、ペキンパーの女性遍歴の凄さに驚かされました。まず、ペキンパーは、フレズノ州立大学で知り合ったマリー・セランドと1946年に結婚しましたが、残念ながら、1961年に離婚しています。その後、離婚と復縁を繰り返す事になる女優ベゴニア・パラシオスと再婚。1972年になると、別の女性と結婚しますが、パラシオスのエピソードを読んでお察しのように、離婚しています。また、結婚はしませんでしたが、1970年代に、秘書のケーティ・ヘイバーと交際していた時期もありました。当時のエンターテイメントの世界ではあまり驚かないような話かもしれませんが、毎日、平凡な人生を送る私には、遥か遠い世界の話にしか見えませんでした。



バイオレンス映画の巨匠として、数々の名作映画を世に送り出したペキンパー。そう言えば、なぜ、この映画の冒頭でビデオクリップの撮影を行っているのでしょうか。ペキンパーは、なぜ、映画とは全く違う仕事をしているのでしょうか。その答えは、この映画の終盤で分かります。気になる方は、ぜひぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。


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リバー・ランズ・スルー・イット(1992年 アメリカ)


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アメリカ・モンタナ州ミズーラ。年老いたスコットランド系アメリカ人の男性ノーマン・マクリーン(アーノルド・リチャードソン)は、山に囲まれたこの町を流れる川で「フライ・フィッシング」と呼ばれる釣りをしながら、若かりし頃の事を思い出していました。「フライ・フィッシング」とは、欧米式の毛針・フライを用いる、イギリス発祥の釣りで、ロッド(釣り竿)を独特のリズムで操るのが特徴です。ノーマンは、子どもの頃、長老派教会で牧師をしていた父親(トム・スケリット)から「フライ・フィッシング」の手ほどきを受けていました。ノーマンは、当時、父親から、こう尋ねられた事がありました。「物を書くのは好きか?」と。その時、ノーマンは、「はい。」と答えました。すると、父親は、ノーマンに次のように命じました。「いつか、家族の物語を書け。その時に初めて、何が起きたか分かる。」と。


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1912年、アメリカ・モンタナ州ミズーラ。当時、この町では、ネイティブ・アメリカンが酒場や売春宿に現れる事が珍しくはなく、町を流れる川には鱒が住んでいました。当時10歳だったノーマン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の家族には、宗教と「フライ・フィッシング」との間に垣根がありませんでした。「フライ・フィッシング」の名手だったノーマンの父親は、週に一度は教会で本業に専念していましたが、礼拝の時によく、「キリストの使徒は漁師だ」と説いており、「フライ・フィッシング」の事が父親の頭から離れた日は1日もありませんでした。ノーマンと8歳の弟・ポール(ヴァン・グラヴェイジ)は、それをよく父親から聞かされては、あれこれと想像を巡らせていました。同じ日の午後になると、父親が礼拝の合間を縫って、ノーマンたちを連れて、散歩に出掛けていました。目的地は、一家が「わが家の川」と呼んでいたブラックフット川沿いの小道でした。小道に辿り着くと、父親は石を幾つか手に取り、ノーマンたちの前で想像の翼を広げていました。また、父親は、この時間を使って、ノーマンたちによく「フライ・フィッシング」の手ほどきをしていました。父親は、いつも性悪説を信じていました。「神のリズムを得て、力と美を取り戻す。」父親にとって、鱒は、救いと同様、神の恩寵によりもたらされるもの。それを得るには、厳しい修練が欠かせないと信じていたのです。ノーマンとポールは、メトロノームを使い、「フライ・フィッシング」独特のリズムの取り方を自分たちの体に染み込ませようと努力を積み重ねていました。


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また、父親は、息子たちの教育に関しても厳しい姿勢を貫いていました。ノーマンは、幼い頃、小学校へ通う事が許されませんでした。父親が、「我が子に教育を施すのは、あくまで親の務めであって、学校の務めではない。」と考え、小学校にそれを委ねるのを酷く嫌がったのです。父親は、教会での説教の準備を進める平日に、ノーマンを書斎に呼び、1対1で、文字の読み書きを教え、「節約を重んじるのは、スコットランド人として大切な事だ。」と言い聞かせていました。ノーマンは、父親の許しが出るまで、何度も何度も文章の書き直しを命じられました。文章を書くのに使う紙を節約するために、短く且つ分かりやすい文章を書く事を求められたのです。そして、父親からようやく許しが出ると、ポールを連れて、川へ「フライ・フィッシング」をしに出掛け、「フライ・フィッシング」を通して、自然の摂理を学んだのです。しかし、2人は、父親による教育だけで育った訳ではありません。2人で町に出掛ける事もよくあり、同じ年頃の少年たちを相手に殴り合いをした事が何度もありました。





2人が帰宅すると、すぐに夕食の時間が始まります。父親、母親(ブレンダ・ブレッシン)、ノーマン、ポールの4人で囲む食卓は、いつも父親の威厳によって、とてつもない緊張感に包まれていました。用意された食べ物を残すのは、言語道断です。ある日、まだわずか8歳のポールが食事を残した時、ポールは父親から最後まで残さず食べるよう言われ、どうしても食べる気になれないポールは、家族が食事を終え、後片付けも終わり、食卓を離れてしまった後も、残した食事を前に座り続けていました。深夜になっても、ポールは席を離れることを全く許してもらえず、夜が明けて、家族が朝食のために食卓に集まっても、まだ座ったまま。ポールは、ついに徹夜をしてしまったのでした。



1917年、アメリカが第1次世界大戦に参戦。町では、働き手となる若い男性が次々と出征し、老人と子どもだけが残りました。ノーマン(クレイグ・シェファー)は16歳になり、森林局で働き始めました。一方、ポール(ブラッド・ピット)は、14歳になり、プールの監視員になっていました。兄弟は、それぞれ熱心に仕事に取り組んでいました。ある日の夜、2人は、車で迎えに来た友人たちと合流し、流れの速い川へ、ボートを漕ぎに出掛けます。しかし、夜が明けて、いざみんなで川の傍まで来ると、流れが激しいあまり、チャブ(マイケル・カドリッツ)をはじめ、誰もが足がすくんでしまいます。結局、ボートを漕ぐのは、ノーマンとポールのわずか2人に。ポールがボートの前方に座り、ノーマンが後方に座って、ボートを漕ぎ始めます。チャブたちは、川の傍の道を使い、走って追いかけます。最初は、激しい流れをものともしない2人。しかし、途中で滝に出たところで、一気に滑り落ちてしまいます。チャブたちは、慌てて2人を探し始めます。探し始めてすぐに、ボートが転覆しているのが見つかりますが、肝心の2人の姿が見えません。しばらくの間、チャブたちがボートの周囲を探していると、物陰からいきなりポールが飛び出し、冗談のつもりでチャブを川の中に突き落とします。チャブが体を起こして、ふと上を見ると、ノーマンが1人で座り込んでいました。2人は、泥だらけになっていましたが、無事だったのです。

2人が帰宅すると、父親が鬼の形相で立っていました。父親は、神様に許しを乞うよう命じ、さらに、家にあったボートが流れの速い川で転覆してしまった事を2人から聞かされると、今度は、働いて弁償するよう命じます。母親は、「2人が帰ってくるまで待たねば」と思い、一睡もせずにずっと待ち続け、2人がようやく帰宅した時には、疲労困憊の表情を浮かべていました。その後、2人は朝食を食べ始めますが、ノーマンの苦手な食べ物がサーディンである事をポールが話し始めた途端に、取っ組み合いの大喧嘩が始まってしまいます。途中で、母親が大喧嘩を目撃し、仲裁に入ります。しかし、2人の拳が母親に命中し、母親は倒れてしまいます。ポールは、ノーマンのせいだと言わんばかりにノーマンを殴り、ノーマンも、殴ったのはポールだと言わんばかりにポールを殴ります。母親は、それでも、「大喧嘩を辞めさせなければ。」と思い、「私が足を滑らせたのよ。」と言い出します。2人は、それぞれ頭上に挙げていた拳を下ろし、ようやく大喧嘩を止めたのでした。2人が取っ組み合いの大喧嘩をしたのは、この時が最初で最後でした。



1919年、ノーマンは、マサチューセッツ州にあるダートマス大学へ進学しました。在学中、ノーマンは、学位取得のために新入生にロマン派の詩を教えて、教える喜びを感じたり、寮でお堅い学友たちと一緒にポーカーを楽しんだりと、充実した日々を送っていました。しかし、大学生活は6年に伸びてしまい、6年間、親元に帰る事は一度もありませんでした。一方、ポールは、地元モンタナ州の大学に進学しました。地元を離れなかったのは、「フライ・フィッシング」への未練が断ち切れなかったためでした。その後、ポールは、大学卒業後に新聞社に記者として就職する事になり、それに伴って、モンタナ州の州都・ヘレナに引っ越します。ポールは、新聞記者になった後、多忙を極め、やがて、家族と疎遠になってしまいます。

1926年春、ノーマンがモンタナ州に帰郷します。ノーマンを乗せた汽車が地元の駅に着くと、両親が迎えに来ていました。その後、両親の暮らす家に着いたノーマンは、早速、父親に呼び出され、書斎へ向かいます。最初、父親の口からは、家族と疎遠になってしまったポールの悪口が飛び出します。そうかと思うと、今度は、大学を卒業したノーマンの進路の話になります。父親は、「牧師になってほしい。」、「教師になってほしい。」など、ノーマンに対して色々と要望があるようでしたが、ノーマンは、父親からの大き過ぎる期待に困惑するばかりでした。



ある日、ノーマンは、ポールに会いに、ヘレナにある新聞社を訪れます。ノーマンがポールと再会したのは、実に数年ぶりの事でした。2人は、再会してすぐに「フライ・フィッシング」の話で盛り上がり、ポールの提案でブラックフット川へ出掛けます。ノーマンは、数年ぶりとなる「フライ・フィッシング」をただ楽しめさえすればいいと考えていました。しかし、実際には、ポールの口から、次から次へと的確なアドバイスが飛び出し、ポールがいかに「フライ・フィッシング」と真剣に向き合っているのかを思い知らされます。ポールは、ノーマンがダートマス大学にいる間に、「フライ・フィッシング」に関する知識が増えていき、兄であるノーマンにあれやこれやとアドバイスができるまでになっていたのです。ポールは、ノーマンにあれこれとアドバイスをした後、1人でどこかへ行ってしまいます。ノーマンは、ポールの姿が見えなくなったのを確かめてから、ポールのアドバイスに従い、その結果、お目当ての魚を手に入れる事ができました。ポールの言った事は本当に間違っていなかったのです。その後、2人はチャブたちと再会します。誰もがすっかり大人っぽい風貌になっていましたが、お互いに思い出話をすると、皆、10代の頃に戻ったような感覚になっていました。



翌日の夜、ノーマンは、チャブと一緒に、独立記念日を祝うイベントに出掛けます。会場内のダンスホールで若者たちがダンスをしているのをチャブと一緒にじっと眺めていたノーマンでしたが、突然、ある女性に一目惚れします。彼女の名は、ジェシー・バーンズ(エミリー・ロイド)。雑貨店の娘であるジェシーには、ハリウッドで暮らす兄・ニール(スティーヴン・シェレン)がいました。ノーマンが女性を好きになったのは、これが生まれて初めてでした。また、同じ頃、ポールも、ネイティブ・アメリカンの女性・メイベル(ニコール・バーデット)と交際を始めていました。しかし、お互いに人種が違うポールとメイベルに注がれる周囲からの視線は、あまりにもひどいものでした…。



1993年に第65回アカデミー賞で撮影賞を受賞したこの映画の原作は、アメリカの作家・ノーマン・マクリーンの自伝的小説「マクリーンの川」です。メガホンを取ったのは、俳優、監督として長きにわたり活躍しているロバート・レッドフォード。俳優としては、「明日に向かって撃て!」(1969年)、「スティング」(1973年)、「大統領の陰謀」(1976年)などが、監督としては、「普通の人々」(1980年)、監督の他に出演もしている「モンタナの風に抱かれて」(1998年)などが有名です。2019年7月には、最新出演作「さらば愛しきアウトロー」が日本で公開予定で、レッドフォードは、この映画を最後に、俳優業を引退する事を明らかにしています。



さて、話は「リバー・ランズ・スルー・イット」に戻りますが、この映画のポイントは、何といっても、クレイグ・シェファー演じる主人公・ノーマンとブラッド・ピット演じる弟のポールです。ノーマンは、6年かけてダートマス大学を卒業しましたが、なかなか進路が決まらず、非常に迷える青年です。しかし、そんなそぶりを全く見せず、常に落ち着いているのが印象的です。一方、ポールは、非常に天真爛漫な笑顔が印象的な青年。ブラッド・ピットがポール役を演じたのは29歳の時ですが、高校生と見間違えてもちっともおかしくないくらいに若々しいです。ノーマンとポールの半生は、至って平凡に見えます。しかし、物語の後半に入ると、突然、2人の立場が逆転する瞬間が訪れます。少々無理のあるお願いなのを承知で申し上げますが、2人の立場が変わる瞬間が訪れるまで、とにかく辛抱強く待つ必要があります。しかし、それを乗り越えた瞬間は、2人の半生が初めて大きく動くのを感じられます。とても、見応えがありますよ。



また、この映画をご覧になって、「フライ・フィッシング」の存在が、(物語の)最初から最後まで、父子の絆を、兄弟の絆を、長年しっかりと繋いでいる事の素晴らしさを感じてほしいです。父親の半生に何があっても、ノーマンの半生に何があっても、さらに、ポールの半生に何があっても、彼らの傍らには、常に「フライ・フィッシング」が寄り添っています。彼らのように、「ライフワーク」と言えるものがあるのは、何とも素敵な事ですね。私も、「ライフワーク」と言える何かを、いつか見つけたいと思いました。


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緑の光線(1985年 フランス)


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ある年の7月2日月曜日、フランス・パリにある会社のオフィスで秘書として働くデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は、勤務時間中に、一本の電話を受けます。電話の声の主は、デルフィーヌの友人・カロリーヌでした。しばらくの間、カロリーヌの声に耳を傾けていたデルフィーヌでしたが、時間が経つにつれて、次第に表情が硬くなっていきます。デルフィーヌは、2週間後にカロリーヌら3人の友人たちと一緒にギリシャでバカンスを過ごす予定になっていましたが、ある事情で中止になってしまったのです。

7月3日火曜日、デルフィーヌは、ただ愚痴を聞いてほしくて、とある小さな公園で友人のマニュエラと待ち合わせます。デルフィーヌの提案で、2人で同じ公園の日陰に移動すると、デルフィーヌは早速愚痴をこぼし始めます。前日に、会社にいる自分の元にカロリーヌから電話があり、ギリシャでのバカンスが中止になってしまったと。マニュエラは、「誰か他の人とどこかへ出掛けては?」とアドバイスするのですが、今のデルフィーヌには、バカンスに出掛ける気力がなく、バカンスに付き合ってくれる仲間もいません。マニュエラは、「2週間あれば、誰かは見つかるよ。」と励まします。デルフィーヌから、「誰なの?」と唐突に訪ねられると、具体的な人物の名前をすぐに挙げられませんでしたが、しばらくして、大きな別荘を所有するラウルの名前を挙げます。デルフィーヌは、ラウルの事を冗談だと受け止めます。そこで、マニュエラは、デルフィーヌに一人旅を勧めます。しかし、本人はいまいちやる気が起きません。そもそも、どこへ旅に出たらいいのかが分からないからです。マニュエラは、スペインに住む自身の祖母の家を勧めます。家は海に面した小さな村にあり、村は観光客で溢れていますが、祖母の家を訪ねたら、部屋を貸してくれるかもしれないのです。それでも、デルフィーヌは、ハンサムな男性との火遊びを好まない事から、やる気が起きませんでした。



7月4日水曜日、デルフィーヌは、パリに住む自身の祖父の家を訪れ、祖父やその家族と食事をします。タクシーの運転手から年金生活者となった祖父の今年の夏の予定は、どこへも行かず、家で家事をこなすのみ。祖父は、昔の思い出や近況を語ります。フォシル峠とスイスとの国境の間にあるジュラ地方へ行った時の事、自分のようにタクシーの運転手が2か月に及ぶ休暇を取るのは不可能だった事、60歳の時に生まれて初めて海を見た事、ある年から友人が所有する田舎の家に行くようになり、2か月の間、動物の世話をしたり、庭仕事をして過ごしている事など、話は尽きませんでした。



7月5日木曜日、デルフィーヌは、淡い緑色の服に身を包み、姉夫婦に会いに行きます。目的は、もちろん、今年の夏のバカンスの過ごし方について相談する事です。因みに、姉夫婦の今年の夏の予定は、アイルランドでのキャンプ。夏の暑さが苦手な幼い息子・アラリックのために涼しい場所でバカンスを過ごそうと考えたのです。デルフィーヌは、あくまで失敗しないバカンスの過ごし方を求めているため、姉夫婦を質問攻めにします。姉夫婦は、嫌な顔一つせずに次々と質問に答えていきます。そして、「一緒にアイルランドへ行こう」とデルフィーヌを誘います。しかし、デルフィーヌは、アイルランドで心からバカンスを楽しめないような気がして、首を横に振ってしまいます。その日の帰り、デルフィーヌは、道端に1枚のトランプカードが落ちているのを見つけます。そのカードは、スペードのクイーンでした。デルフィーヌは、カードを何となく手に取り、裏返して置いていきます。裏返されたカードは、緑色に塗られていました。


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7月6日金曜日、デルフィーヌの元に、2年前まで付き合っていた元恋人のジャン・ピエールから電話が入ります。デルフィーヌは、前日に姉夫婦にバカンスの過ごし方について相談し、南仏にあるジャン・ピエールの別荘を貸してもらうよう頼むという結論に達していました。しかし、実際には、別荘を貸してもらう事はできませんでした。ジャン・ピエールは、しばらくの間、山で過ごす事から、山で一緒に過ごす事をデルフィーヌに提案します。デルフィーヌは、山でジャン・ピエールと一緒に過ごす事に関しては何の問題もないのですが、それ以前に、たった一人で山に向かう事に抵抗があり、どうしても提案を受け入れられませんでした。デルフィーヌは、何事においても、一人で行動するのが怖くてたまらないのです。



7月8日日曜日、この日、住宅街の歩道を歩いていたデルフィーヌは、電信柱に緑色の小さなポスターが貼られているのを見つけます。ポスターには、「自分自身や他人との触れ合いを取り戻そう」と書いてありました。デルフィーヌは、メッセージをざっと読み、その場を去ります。その後、デルフィーヌは、友人のベアトリス、フランソワーズらに会い、お茶を飲みながら色々と語り合います。ベアトリスは、一人旅に抵抗があるというデルフィーヌに団体旅行への参加を勧めます。ベアトリスは、デルフィーヌ自身が旅先で男性と出会う事を夢見ているのを分かっていましたし、デルフィーヌが生涯独身のままでいるのは、寂しくて辛いのではないかと考えていたのです。しかし、デルフィーヌは、団体旅行にも抵抗がありました。ベアトリスは、デルフィーヌには荒療治が必要と感じ、「(悩みを)解決したいなら、行動して!」と厳しい言葉をぶつけます。

しばらくして、デルフィーヌたちの話題は、トランプカードの事に。デルフィーヌは、3日前にスペードのクイーンが落ちているのを見ましたが、それ以前にも、トランプカードが道端に落ちているのを何度も見た事がありました。デルフィーヌは、迷信だろうと思いつつも、何度もトランプカードを見るのには、何らかの意味があるのではないだろうかと考えていました。以前、霊能力のある友人は、今年のデルフィーヌの色は緑色だと教えてくれました。それ以来、デルフィーヌは、緑色のポスターを見かけたり、裏側が緑色に塗られたスペードのクイーンを見たりしました。因みに、緑色のポスターや緑色のトランプカードを見た時、デルフィーヌが着ていたのは、淡い緑色の服でした。デルフィーヌたちの話は、盛り上がっていたかに思われました。

しかし、突然、デルフィーヌが人気のない場所に移って、泣き出してしまいます。フランソワーズが心配して、デルフィーヌに近付き、理由を尋ねてみると、デルフィーヌは、こう打ち明けます。2年前のジャン・ピエールとの破局を未だに引きずっていると。そこで、フランソワーズは、デルフィーヌに、一緒にシェルブールにある自身の実家へ行く事を提案します。



7月18日水曜日、デルフィーヌは、フランソワーズと一緒に、シェルブールを一望できる場所にいました。フランソワーズにシェルブールの名所を色々と教えてもらうデルフィーヌ。しばらくすると、デルフィーヌは、同じ場所に一人の若い男性が立っているのを見ます。フランソワーズは、心の中では新しい恋人との出会いを求めているデルフィーヌを気遣い、デルフィーヌに代わって、男性に声を掛けます。男性の名は、エドワール。エドワールは、シェルブールで暮らす船員で、翌日にアイルランドへ行く予定になっていました。3人は、初対面ながら、話が盛り上がります。しかし、デルフィーヌは、新たな失恋を恐れ、エドワールとの心の距離を縮める勇気が出ません…。



「緑の光線」は、1986年に、第43回ベネチア国際映画祭で、最高賞にあたる金獅子賞を受賞しました。監督・脚本は、エリック・ロメール。ロメールは、1920年に、フランス・コレーズ県チュールで生まれました。高校の教員、フリージャーナリストを経て、1950年に映画批評誌「ラ・ガゼット・デュ・シネマ」を創刊。1951年から映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」で執筆活動を行い、1959年に長編映画「獅子座」で監督デビューを果たしました。ロメールは、キャストやスタッフに女性を数多く起用して、映画を製作するのが特徴です。「緑の光線」も例に漏れず、女性のスタッフが、撮影、録音、製作管理担当と、3人起用されており、男性のスタッフはロメールのみでした。ロメールは、「緑の光線」の他に、「O公爵夫人」(1976年)、「飛行士の妻」(1980年)、「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(1993年)、「グレースと公爵」(2001年)などを世に送り出し、2010年に89歳で亡くなりました。

今回、あらすじを読んでいただいて、お気付きかと思いますが、この映画で、キャスティングが明らかになっている登場人物は、1人しかいません。主人公・デルフィーヌ役のマリー・リヴィエールのみです。今回、私は、他の登場人物のキャスティングが一体どうなっているのか、たっぷりと時間をかけて調べましたが、全く分かりませんでした。大変申し訳ございません。しかし、これには、れっきとした理由がありました。エリック・ロメールが、デルフィーヌ役のキャスティングと映画全体の大まかなあらすじを決めて撮影を始めたため、デルフィーヌ役以外のキャスティングの詳しい記録がないのです。因みに、台詞については、撮影現場において即興的に作られていたそうです。ロメールの仕事のやり方がいかに独自性が強いものなのかが、本当によく伝わってくるエピソードです。



マリー・リヴィエール演じる主人公・デルフィーヌは、失恋のショックを2年間も引きずっています。さすがに、自分を励ましてくれる友人たちや姉夫婦の気持ちを少しは考え、立ち直ってほしいものなのですが…。さらに、デルフィーヌは、エドワールと出会った後、シェルブールにあるフランソワーズの実家で夕食をごちそうになるシーンがあるのですが、ビーガンであるデルフィーヌは、フランソワーズの家族が腕によりをかけて作ったポークソテーを目の前にして、人間に食べられてしまう動物たちの気持ちを延々と代弁します。私自身はビーガンではありませんが、ビーガンの人たちの動物に対する考え方を尊重する事は常識だと考えています。絶対に端から否定してはいけないですし、できる限り尊重すべきだと思います。しかし、デルフィーヌには、ポークソテーを作った本人を追い詰める資格はありません。本人が傷付かないようにというか、お互いに傷付かないような行動の取り方を考えるべきです。例えば、ポークソテーをもっと食べたい人に自分の分を譲るとか、夕食をごちそうになる前に自分がビーガンである事を正確に伝えて、動物性の食品を避けるよう配慮してもらうなどという発想は、デルフィーヌにはなかったのでしょうか。ポークソテーが目の前に出てからあれこれ御託を並べるのは、いかがなものでしょうか。また、デルフィーヌは、シェルブールの子どもたちが自生していた花を摘んでリースを編んで持ってきたのを見て、「自然を破壊したのね。」と正直に意見をぶつけてしまいます。さらに、デルフィーヌは、ヨットに乗る事やブランコに乗る事について、「どちらも酔ってしまうから苦手だ」と告白しています。とにかく、誰に対しても配慮の足りなさが否めない大人です。



この後、デルフィーヌは、自分の殻を破る事ができず、フランソワーズと一緒にパリへ帰ってしまいます。シェルブールの人たちは、「自分たちに不満があったのだろうか。」と残念がります。しかし、デルフィーヌは、フランソワーズが仕事の都合で先にパリへ帰ると知り、「そうなると、私は一人きりになるのと同じだ。寂しくなる。」と考え、フランソワーズについて行く事にしただけだったのです。パリへ戻ったデルフィーヌは、相変わらず過去に翻弄される日々を送りますが、ある日、スコットランドを舞台にしたジュール・ヴェルヌの小説の存在を知ります。その小説のタイトルが、「緑の光線」です。「緑の光線」は、デルフィーヌにどう影響を与えてくれるのでしょうか。この映画のラスト13分間に、その答えが隠されていますよ!


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シンデレラマン(2005年 アメリカ)


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1928年11月30日。この日、ライト・ヘビー級のプロボクサーのジムこと、ジェームズ・J・ブラドック(ラッセル・クロウ)は、アメリカの文化・スポーツの聖地として有名なマディソン・スクエア・ガーデンで、グリフィス(トーマス・カジドロウスキー)との対戦に臨み、わずか2ラウンド1分46秒で、見事にKO勝ちを収めました。ニュージャージー州バーゲン郡出身のジムは、右強打が武器。これまで、一度もKO負けした事がなく、「バーゲン郡のブルドッグ」の異名を持っていました。ジムは、既に体力面での全盛期を過ぎたベテランですが、一部の関係者からは、ヘビー級への転向を求める声が出ていました。この日の対戦で、ジムは、連続KO勝ちの記録を10まで伸ばしました。

対戦を終え、外に出たジムを、サインを求める大勢のファンが待ち構えていました。ジムは、サインを求めるファンの数が多過ぎる事に困惑しながらも、順番に且つ丁寧にサインに応じます。その後、ジムが帰宅すると、妻・メイ(レニー・ゼルウィガー)が出迎えてくれました。さらに、妹のアリス(アリシア・ジョンストン)も、ジムの子どもたちと一緒にジムを出迎えます。ジムは、メイがいつか対戦を観に来てくれる事を願っていました。しかし、メイは、夫が対戦相手に容赦なく殴られる姿を観るのが怖くて、どうしても観に行けませんでした。それでも、メイは、プロボクサーである夫を誇りに思っていました。


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時は流れ、1933年9月25日。世界恐慌が始まって4年目に入っていたある日、ジムは、まだ子どもたちが眠っている間に身支度をしていました。ジムは、夜にフェルドマンとの対戦を控えていました。メイは、ジムのために朝食としてパンケーキを焼いていました。その途中、長女のロージー(アリエル・ウォーラー)が目を覚まし、「私も食べたい」とパンケーキをねだります。メイは、「後でね。」とロージーを諭しますが、ロージーは、結局、長男・ジェイ(コナー・プライス)、次男・ハワード(パトリック・ルイス)よりも先にパンケーキを食べ始めてしまいます。さらに、ロージーは、パンケーキを食べ終わると、ジムの厚意で、ジムが食べるはずだった分を貰い、美味しそうに頬張ります。ジムは、それを見て微笑み、ある場所へ出掛けて行くのでした。

実は、ジムが向かったのは、日雇いの仕事を斡旋してもらうための場所でした。ジムが実際に足を運んでみると、大勢の男たちが「何としても、家族を養わなければ」との想いを抱いて、集まっていました。しかし、この日、仕事を貰う事が出来たのは、わずか9人。ジムは、残念ながら仕事を斡旋してもらえませんでした。当時は、アメリカだけで失業者が1500万人に達していた時代。ジムのような一家の大黒柱が毎日確実に食料を確保するには、毎日、日雇いで働く事で、食費を稼ぐ必要があったのです。


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ジムが帰宅すると、ハワードとロージーが出迎えてくれました。ジムは、ロージーから、ジェイが何かを盗んできた事を聞かされます。ジムがロージーと一緒にキッチンに行ってみると、テーブルに大きなサラミが置いてあり、ジェイとメイが、テーブルを挟んで、ほぼ向かい合うようにして立ち、2人共ずっと黙っていました。ジェイが盗んだのは、近くの肉屋で売られていたこのサラミだったのです。ジムはジェイを説得し、サラミを返しに、父子2人で肉屋へ行きます。そして、肉屋でサラミを返した後、ジェイは、「友達の一人が、貧しさから、伯父さんの家に引っ越す事になった」とジムに告白します。ジェイは、「いつか、我が家も同じ事になるのでは?」とずっと不安になっていたのです。ジェイは、ジムから「物を盗んではいけない。」と注意されます。そして、「二度と物を盗まない」とジムに誓い、涙をこぼすのでした。



やがて、夜になり、ジムの試合の開始時間が近付いてきます。準備万端であるように見えるジムでしたが、実は、最近になって、右の手首を骨折していました。マネージャーのジョー(ポール・ジアマッティ)は、本人から骨折の事実を早く知らせてもらえなかった事に憤りを感じます。ジョーの見立てでは、完治まであと数週間はかかります。それなのに、ジムは、なぜこの試合への出場にこだわるのでしょうか。ジムには、この試合を絶対に放棄してはいけない、れっきとした理由がありました。実は、ジムは、大勢の人たちから借金をしており、少しでも早く返さなければならないのです。ジョーは、骨折した箇所の悪化を防ぐため、違反行為と知りながら、患部をテープで二重に巻きます。

こうして、いよいよ試合のゴングが鳴ります。試合は、5ラウンドの途中まで大きな進展がなく、客席はブーイングの嵐でした。しかし、対戦相手・フェルドマンが突然、左ジャブを繰り出します。ジムの武器は右強打なので、フェルドマンが左ジャブをひたすら続けたら、フェルドマンの勝利は間違いありません。ジムは、時折、得意の右強打で抵抗しますが、フェルドマンの威力にはどうしても勝てません。その後、試合は最終ラウンドを迎えますが、両者による激しい攻撃が再び見られなくなり、結局、レフェリーが試合の中止を宣言。客席からは、食べかけのポップコーンやピーナツが投げられ、あちらこちらで怒号が飛び交います。ジムは、プロモーターのジョンストン(ブルース・マクギル)の命令により、この試合で不甲斐ない戦いぶりを見せてしまった責任を取る形で、ライセンスを剥奪されてしまいます。



ジムは、帰宅後、ライセンスを剥奪された事をメイに打ち明けます。メイは、ジムから事実を聞かされた瞬間、頭の中が不安な気持ちでいっぱいになってしまいます。電気代や暖房代が払えなくなるのではないか。今まで食料品の購入もツケで済ませてきたが、いよいよそれができなくなるのではないか。子どもたちを養えなくなって、子どもたちと離れ離れになってしまうのではないか…。ジムは、「今までの2倍は働く」と言って、メイを安心させようとします。メイは、最初、ジムの言葉に耳を傾ける心のゆとりがなかったのですが、途中でふと我に帰り、「謝らなくていいの。」と、ジムの心の中の罪悪感を和らげようとするのでした。



翌日、ジムは日雇いの仕事を貰う事ができました。この日、ジムが携わった仕事は、港で船に積む重い麻袋を運ぶ仕事でした。しばらくの間、仕事仲間のマイク(パディ・コンシダイン)と一緒に、仕事を進めるジムでしたが、次第に右の手首に痛みが走るようになります。マイクは、ジムの事を、「とっくにピークを過ぎている、あのプロボクサーと同じ名前だ。」とは思っていましたが、まさか、今、自分の目の前にいるのが、本人だとは夢にも思っていませんでした。しかし、マイクは、「ひょっとしたら、この人は本当にプロボクサーかもしれない」と思ったのか、周りにいる人たちがジムの存在に気付かないよう、敢えて黙々と仕事を続けました。ジムは、マイクの気遣いにただただ感謝します。

仕事が終わった後、2人は港の近くのバーに立ち寄ります。マイクは、ジムを相手に、自身の身の上話を始めます。マイクは、かつて株取引だけで生計を立てていましたが、世界恐慌の影響で全財産を失ってしまいました。マイクは、この時ほど、政治家たちの力の無さを痛感した事はありませんでした。「労働組合を作って、政府と戦うんだ!」と、ジムに行動を促すマイク。しかし、ジムは、マイクの考えにあまり共感できませんでした。



1933年12月、人々の貧困ぶりはさらに悪化していました。ジム一家も例に漏れず、経済的に非常に厳しい生活を強いられていました。ロージーは、学費が払えなくなったのを理由に、学校に通えなくなっていました。メイは、電気代が払えなくなり、電気を止められてしまいました。ジムは、一日中、仕事に励んでいましたが、給料は雀の涙ほどしかありませんでした。ジムとメイは、家財道具を次々に売りに出していましたが、いよいよ売りに出しても差し障りがないものが、なくなってしまいました。さらに、ハワードが体調を崩してしまい、メイはハワードを病院へ連れて行きたいと思ったのですが、治療費に回せるお金がなく、何もしてあげられません。ジムは、ボクシングのライセンスを取り戻す方法を考える心の余裕がすっかりなくなり、今日一日を無事に生きるのに精一杯の状態になっていました…。



ジムこと、ジェームズ・J・ブラドックは、実在のプロボクサー(1905年~1974年)。この映画のタイトルになっている「シンデレラマン」は、本人のニックネームです。そんな「シンデレラマン」と呼ばれる程の劇的な人生を歩んだジムの物語を作り上げたのは、ロン・ハワード監督。「バックドラフト」(1991年)、「ビューティフル・マインド」(2001年)など、数々の名作を世に送り出しています。



ボクシングのライセンスを剥奪された後のジム一家の生活ぶりの描写を観ていると、世界恐慌によって人々の日常生活の全てが脅かされてしまう事がいかに恐ろしいのかが、ひしひしと伝わってきます。町の誰もが皆、切羽詰まった状況にあり、誰の生活を先に助けるべきかという優先順位を考えるのは、明らかに無理なのです。皆さんは、中学時代に社会の授業で、そして、高校時代に世界史の授業で、世界恐慌について勉強した事を、どのくらい記憶しているでしょうか。私も、もちろん、世界恐慌について勉強した人間の一人です。当時、私は自分なりに真剣に授業を受けていたつもりですが、それでも、教科書に載っていた文章を読んだり、先生による説明を聞くだけでは、この映画のような、具体的なイメージがなかなかできませんでした。大人になった今、悔やんでも仕方がないのですが、あの時、当事者たちの気持ちを完璧に理解できなくて、今は申し訳ない気持ちでいっぱいです。そして、この映画の製作陣の調査力の高さや正確性の高い描写に感謝しています。



さて、この映画は、ボクシングもテーマの一つなので、ここで、ボクシングの試合のシーンに触れたいと思います。この映画を観るまで、1920年代から1930年代にかけてのボクシングの試合の風景がどういうふうなのか、全く想像ができませんでしたが、実際に試合のシーンを観ると、クラシカルな感じの風景がとても新鮮で、大変興味深く感じられました。リングや、ボクシングトランクス、グローブに使われている色が、今の時代のように眩しい赤や青などではなく、濃い緑、濃い青、赤茶色と、とても落ち着いた色が使われている事、客席のほとんどを男性客が占めている事、リングの傍で、フラッシュをたきながら写真を撮る新聞社のカメラマンの姿、試合の様子をひたすらタイプライターで綴っていく新聞社の記者の姿、ラジオの実況中継に熱が入るキャスターの姿と、昔の時代の日常の風景を観る楽しさが、この映画にはありました。



この映画の前半では、ジムのプロボクサーとしての活躍ぶりや世界恐慌が世の中に与えた影響が描かれました。あらすじを追うのが次第に苦しくなった方も多いかと思います。しかし、後半では、ある事がきっかけで、ジムに希望の光が差し込みます。ジムは、次々に起こる奇跡の連続のおかげで、まるでシンデレラのように輝きを取り戻していきます。メイは、そんなジムの心と体を心配しますが、実は、ジムの身に起こる奇跡にはメイが心配するような要素はなく、奇跡の一つ一つは、ある人物が大切な財産を手放す覚悟をする事によって成り立っていました。後半でジムを待ち受けている奇跡の連続とは、一体何なのでしょうか。気になる方は、ぜひチェックを。


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アイアン・ソルジャー(2014年 アメリカ)





アフガニスタン南部・ヘルマンド州。戦車に乗って移動するアメリカ陸軍の兵士たちの中に、1人だけ女性兵士がいます。彼女は、衛生兵で軍曹のマギー・スワン(ミシェル・モナハン)。移動中、マギーは、一人の男性兵士から、真面目に留守を守ってくれていたはずの彼の妻が親友と浮気をしていた事を聞かされ、同情していました。戦車は、順調に目的地に向かっていたかに思われました。ところが、戦車は、突然、前方から攻撃を受けます。攻撃は、射撃後に光を発しながら飛ぶ事で弾道が分かるようになっている曳光弾(えいこうだん)によるものと思われましたが、実際は、あり合わせの爆発物と起爆装置で作られた手製の爆弾・IED(既製爆弾)が使われていました。マギーは、誰かが衛生兵を呼ぶ声を聞き、戦車の外に出て、激しく飛び交うIEDを避けながら、急いで声の聞こえる方へと向かいます。

マギーを待っていたのは、足に感覚を失う程の重傷を負った兵士・クックでした。マギーは、クックを温かく励まし、救護ヘリを呼びます。救護ヘリが到着するまでの間、マギーはクックを安全な場所に移動させ、応急処置をします。クックの足には、なんと、IEDの一部が刺さっていました。下手に触ると、爆発して、クックだけではなく、マギーも命を落としてしまう事になりかねません。クックは、アメリカを出発する前、「生きて帰る」と、息子と約束をしていました。マギーは、近くにいた兵士に爆発物処理班を呼ぶよう勧められますが、すぐに自ら手術を始める事を決意します。マギーは、爆弾が爆発する音や銃声が聞こえる中、真剣な表情でゆっくりとIEDを引っ張ります。そして、無事にそれを引き抜き、手術は成功に終わります。翌日、戦車に付いた真っ赤な血を、兵士たちが淡々と洗い流しています。マギーは、それを遠くからじっと見つめていました。すると、そこへマギーの上官が現れます。前夜、マギーが手術を執刀した事を耳にしていた上官は、マギーに対し、労を労うのでした。



こうして、マギーは、アフガニスタンでの任務を終え、帰還する事に。アメリカ・テキサス州エルパソにあるフォート・ブリス基地に到着したマギーたちを、大勢の家族が歓声を挙げながら出迎えます。そして、どの兵士も、家族の姿を見つけ、ハグをして、お互いに再会を喜び合います。しかし、マギーは、なかなか家族の姿を見つけられません。仕方なく、1人で帰宅の途に就こうと思い、歩き始めると、ようやく元夫・リチャード(ロン・リビングストン)の姿を見つけます。しかし、リチャードは、5歳になる息子・ポール(オークス・フェグリー)を連れて来ていませんでした。リチャードは、あれやこれやと言い訳をしますが、マギーは、リチャードの言い訳を全て嘘だと見抜いたような気になっていました。「リチャードは、きっと、ポールを自分に会わせたくないだけなんだ。」と思い込んでいました。しかし、リチャードは、「ポールの意思なんだ。説得したけど、来るのを嫌がったんだ。」と説明します。

マギーがアフガニスタンに派遣されたのは、15か月も前の事。その間、ポールは、いつまで経ってもアメリカに帰ってこないマギーの事がすっかり嫌いになり、マギーを自分の母親だと思うのを止めてしまいました。ポールにとって、15か月間はあまりにも長かったのです。また、リチャードも、交際中だったアルマ(エマニュエル・シュリーキー)と1か月前に婚約していました。アルマがリチャードの子どもを身籠ったのが、婚約のきっかけでした。それは、奇しくも、マギーと結婚した時と同じ状況でした。マギーは長い間乗っていなかった愛車に乗り、リチャードが運転する車に誘導してもらう形で、リチャードの自宅へ向かいます。



その頃、リチャードの自宅では、ポールが、夕食を食べていました。どの料理も、アルマが心を込めて作ってくれたものばかりで、ポールは本当に美味しそうに食べていました。アルマは、そんなポールを優しいまなざしで見つめていました。ポールとアルマは、まるで血の繋がった母子のように仲良くしていました。しばらくして、リチャードがマギーを連れて帰宅します。マギーは、ポールの顔を見た瞬間、顔をほころばせますが、ポールは、さっきとは全く違い、無表情に。母子の温度差は、あまりにも大きかったのです。その後、マギーの姿を見たアルマは、「やっとお目に掛かれた。」と、マギーを歓迎します。マギーもアルマの気持ちを受け止めますが、マギーにとっての最優先事項は、あくまでポールと意思疎通を図る事でした。マギーは、ポールに近付き、以前、ポールに寂しい思いをさせないよう、アフガニスタンからテレビ電話をかけた時の思い出を語り始めます。しかし、マギーの気持ちとは裏腹に、ポールは目に涙を浮かべ、アルマにしがみついてしまいます。

マギーは、ポールとの意思疎通を諦め、フォートブリス基地にある仮住まいへ向かう事にします。マギーが、リチャードの手を借りながら、車に荷物を詰めている時、アルマがポールの手を引いて、見送りに来ます。アルマは、たとえポールがマギーを嫌いでも、ポールはマギーに「バイバイ」と挨拶すべきだと思ったのです。しかし、ポールは、マギーやリチャードの目の前で、マギーの事を「ママじゃない」と言い切ってしまいます。リチャードやアルマは、そんなポールを懸命にたしなめます。マギーは、しばらくその光景を見つめていましたが、突然、何を思ったのか、なんと、ポールを抱きかかえます。ポールは、金切り声を立てて、力一杯抵抗しますが、マギーは、全く意に介しません。マギーは、ポールを車の後部座席に座らせ、そのままを仮住まいへ連れて行ってしまいます。



マギーは、全く罪悪感がなかった訳ではありませんでした。しかし、自分がアメリカにいる間は、母親として罪滅ぼしをしなければならないと考えていました。ポールに母親らしい事をしてあげられない自分を、何が何でも許せないのです。マギーは、その日の晩、ポールが眠ったのを確かめて、近くのスーパーへ買い物に出掛けます。マギーは、ただ、ポールに喜んでほしくて、お菓子を大量に購入します。しかし、その間、ポールは、目を覚まして、マギーがいないのに気付き、しばらくの間、「マギー!」と泣き叫びます。泣き叫び始めてから20分後、同じ建物に住む兵士たちがポールの声に気付き、急いで助けに向かいます。そして、ポールのいる部屋の玄関のドアを蹴破ろうとしたその時、マギーがようやく帰宅します。マギーは兵士たちをドアから遠ざけ、鍵を開けて、中に入ります。ポールは、マギーに会いたがっていたのではありません。どうしてもアルマに会いたくて、ずっと泣いていたのです。マギーは、「週末に(アルマに)会えるから。」と言って、ポールを落ち着かせようとするのでした。



翌朝、マギーとポールは、朝食を食べていました。朝食と言っても、シリアルだけという、実に簡素なものでした。朝食の途中、マギーは、ポールにプレゼントを渡します。それは、マギーが「アヒルのアフガニスタン冒険記」とタイトルを付けた、手作りのフォトアルバムでした。フォトアルバムには、マギーがアフガニスタンに派遣される前にポールが大事にしていたお風呂用のアヒルのおもちゃが映った写真や、マギーがアフガニスタンにいた時の写真が数多く収められていました。しかし、ポールにはアヒルのおもちゃの記憶が全然なく、5歳となった今は、アヒルのおもちゃで遊ぶ年齢ではありません。それでもマギーは諦めず、アルバムのページを1枚ずつめくっていき、ポールの心を掴もうとしますが、無駄に終わります。



マギーは、ポールとの関係の修復を断念し、その日のうちに、ポールをリチャードとアルマの暮らす家に連れて行きます。ポールは、ようやくアルマとの再会が叶い、大喜びします。マギーは、キッチンにいたリチャードに声を掛け、ポールに対する不満をリチャードにぶつけます。「ポールが懐いてくれない。」、「ポールは、あの女を母親だと思っている。」と。リチャードは、「あの子の年齢で、15か月は長い。」と、ポールの気持ちを代弁するだけでなく、ポールが夢遊病である事も告白します。マギーがアフガニスタンに向かった後、ポールは、マギーを毎日恋しがり、食事も寝るのも嫌がり、夢遊病になってしまったのです。そんなポールの心の支えになってくれたのが、アルマでした。アルマのおかげで、ポールは明るさを取り戻し、それ以来、ポールは、アルマを自身の母親だと思っているのです。リチャードは、ポールの幸せを守るために、「自分たちがポールを育てた方がいい。」と断言します。マギーは、母親としてのプライドを傷付けられ、ただただ悔しくて、ポールを再び連れて帰ります。



その日の晩、マギーは、自身の父親に電話を掛けます。電話に出てくれた父親は、久々に娘の声を聴き、とても喜んでいました。父親は、マギーがいつ帰還するのかを6週間も前から陸軍に問い合わせていました。「ポールは、(マギーが帰還して)大興奮だっただろう?」と父親が尋ねると、マギーは「大興奮だったわ」と嘘をつきます。さらに、リチャードの近況を尋ねられると、「相変わらずよ」とまた嘘をついてしまいます。父親は、かつて、マギーと同じくアメリカ軍に所属していました。そのため、兵士が戦地から帰還した時の精神的な辛さをよく理解していましたし、マギーが2つも嘘をついている事も見抜いていました。父親は、「耐えるしかない。」とマギーにアドバイスします。マギーは、ポールとの関係を修復するのではなく、もう一度最初から関係を築く決意をするのでした。



翌日、マギーとポールは、お互いに自己紹介する所から始めます。そして、マギーの提案で、郊外の一軒家に引っ越す事に。さらに、マギーは、C中隊第2小隊に再入隊する事になりました。小隊側は、イラク戦争を生き抜いた小隊付軍曹のスティーブンスが事故死したため、一刻も早く後任が必要で、マギーも、「ポールとの関係をもう一度築きたい。」と基地内勤務を希望していたため、両者の思惑が一致したのです。しかし、この小隊には問題がありました。「上官が嫌な奴」との噂が陸軍の中で広まっていたのです。しかし、マギーの中では、上官の噂より、個人的に感じる虚しさの方が大きくなっていました。アフガニスタンにいた時はあんなに帰還を望んでいたのに、実際に帰還してみると、毎日何をして過ごせばいいのか分からなくなってしまったのです。



やがて、マギーは、C中隊第2小隊に再入隊して最初の日を迎えます。マギーは、ポールをシッターに預け、フォート・ブリス基地に向かいます。基地に着いたマギーは、早速、「嫌な奴」と噂されていた上官で大尉のガーヴァー(フレディ・ロドリゲス)と対面します。ガーヴァーは、マギーの活躍ぶりを知っており、「青銅星章(※作戦において英雄的、かつ名誉ある奉仕を行い、成果を挙げたアメリカ軍の兵士に授与される勲章)候補だ」と、マギーを称えます。そして、今から9か月後に、この小隊が海外に派遣される予定である事を打ち明けます。さらに、ガーヴァーは、「なかなか衛生兵に適した兵士が見つからないので、見つかるまでの間、スティーブンスの代わりに小隊付軍曹を務めてほしい」とマギーに頼み、「(この小隊の兵士は)問題児だらけだ。」と、小隊の内情も付け加えるのでした。



マギーとポールの一軒家での生活は、常に順調とは限りません。食事中にポールが食べ物を粗末にすれば、マギーは、仕事の癖で、つい大人も怯えてしまいそうな怒鳴り声で叱ります。車が故障し、修理工のルイス(マノロ・カルドナ)に「修理代が400ドルかかる」と言われた時は、ぼったくりだと思い込み、「30ドルで、40分で修理できる。」と、抗議します。ポールの目の前で、自分があれこれ失敗すると、つい「クソッ!」と言ってしまいます。それでも、マギーは、ポールのために、懸命に生きていました。



ある日、C中隊第2小隊の訓練中、一人の兵士がミスをして、軍曹のブッチャー(ベンガ・アキナベ)から「腕立て伏せを吐くまでやれ。その後、さらに200回だ。」と罰を命じられます。その様子を偶然目撃したマギーは、その兵士の母親が末期がんである事を聞かされていたため、ブッチャーに近付き、腕立て伏せを止めさせるよう、頼みます。しかし、ブッチャーは「厳しく指導しないと、部下にナメられてしまいます。」と抵抗します。マギーは、軍曹としての威厳を見せ、ブッチャーを粘り強く説得。普段から上下関係を重んじるブッチャーは、これ以上、何も言えませんでした。



そんなある日、マギーはガーヴァーから呼び出されます。大隊のアフガニスタンへの派遣が予定より早まり、C中隊第2小隊も、60日以内に出発しなければならなくなったのです。出発は9か月後だと信じていたマギーは、驚きの色を隠せません。しかも、正式な発表があるまでは、この事を内密にしなければなりません。ガーヴァーは、マギーの抱える事情をよく理解しているだけに、心苦しくてたまりませんでした。マギーは、2児の父であるガーヴァーの親心に訴えたら、早過ぎる派遣を考え直してくれるかもしれないと思い、ガーヴァーに父親としての考えを問いかけますが、それでも、ガーヴァーは、マギーの訴えにただただ耳を傾けるしかありませんでした。マギーは、母子の絆を取り戻しかけたポールの前で、どう振る舞えばいいのでしょうか…。



この映画の邦題「アイアン・ソルジャー」とは、「鉄の如く」という意味です。女性、しかも、小さな子どもを持つ母親が主人公の映画というより、体を鍛え抜いた男性が主人公のアクション大作をイメージしてしまいそうになりますが、主人公・マギーがC中隊第2小隊の大尉・ガーヴァーと初めて対面するシーンで、まさに、この言葉そのままの挨拶をする光景を観る事が出来ます。マギーは、ガーヴァーの部屋に向かう途中、兵士たちとすれ違う度に敬礼して、「アイアン・ソルジャー(鉄の如く)」と挨拶をし、相手も敬礼して同じ挨拶をしています。私自身、アメリカ軍にあまり詳しくなくて大変申し訳ないのですが、アメリカ軍では、兵士同士が当たり前のようにこの挨拶をしているものと思われます。



監督・脚本・製作は、クローディア・マイヤーズ。2016年に、シャーリー・マクレーンが夫を亡くした元教師を演じたコメディー映画「素敵な遺産相続」で、ゲイリー・カニューと共同で脚本を執筆しています。



劇中に登場する基地のシーンは、全て、アメリカ軍の全面協力を得て、フォート・ブリス基地で撮影が行われており、どの基地のシーンも、大変見応えのある景色が広がっています。因みに、この映画の原題は、"FORT BLISS"(フォート・ブリス)。まさに、基地の名称そのものです。



マギーを演じたのは、ミシェル・モナハン。モナハンは、「ミッション:インポッシブルⅢ」(2006年)で、トム・クルーズ演じる主人公イーサン・ハントの婚約者ジュリアを演じています。また、「パトリオット・デイ」(2016年)では、マーク・ウォールバーグ演じる主人公トミー・サンダースの妻キャロルを演じています。モナハンは、2008年にプライベートで出産を経験していますが、「アイアン・ソルジャー」では、母親の本能を現実味たっぷりに演じていました。特に、15か月も会えなかった息子・ポールを振り向かせようと、元夫・リチャードや婚約者・アルマの目の前で、ポールを無理矢理抱きかかえるシーンには、「ここまで強引にやるのか?」と驚きましたが、母親の本能を見事に形にしているとも言え、とても印象に残りました。ポールを演じたオークス・フェグリーも、モナハンの熱演に負けないくらいの立派な演技がとても印象に残りました。



この後、マギーは、ポールに、アフガニスタンへ派遣される旨を伝える時を迎えます。ポールはマギーの言葉を冷静に受け止めているように見えましたが、この後、ポールの身に異変が起きます。マギーは、ポールを残してアフガニスタンへ行くべきか、それとも止めるべきか、心が揺れ動きます。マギーは、一人の母親として、最終的にどういう結論を出すのでしょうか。母の日に観る事をぜひお勧めしたい映画です。