ブレックファスト・クラブ(1985年 アメリカ)

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1984年3月24日土曜日午前7時、アメリカ・イリノイ州にあるシャーマー・ハイスクールの図書室に、5人の生徒が集まってきます。クレア(モリー・リングウォルド)は、「授業をサボって、買い物に出掛けただけなんだから。」と、学校の前まで送ってくれた父親に慰められています。数学部、ラテン語部、物理部を掛け持ちしていて多忙なブライアン(アンソニー・マイケル・ホール)は、またしても補習授業に出席する事になってしまったのをガミガミ責めてくる母親に「(補習授業は)今日こそが最後だ。」と、断言します。レスリング選手のアンドリュー(エミリオ・エステヴェス)は、「男は悪さをするものだ。運が悪かったんだ。」と言ったかと思うと、「(レスリングの名門の大学に入学しても)奨学金を借りられなくなるかもしれないぞ。」と脅してくる父親に嫌悪感を抱いています。ジョン(ジャド・ネルソン)は、筋金入りの問題児で、この日は、サングラスをかけて、たった一人で登校しました。同じくたった一人で登校したアリソン(アリ・シーディ)は、誰とも目を合わせたがらず、爪を噛む癖がかなり酷い様子です。5人は、学校から、この日に補習授業を受けるよう命じられていました。そして、5人が図書室にそろってすぐに、補習授業を担当するバーノン先生(ポール・グリーソン)がやって来ます。9時間にわたる長い補習授業の始まりです。

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補習授業で5人に課せられたのは、「自分とは何か」というテーマで、1000語以上の作文を書く事でした。5人が課題に取り組んでいる間、バーノン先生は、ドアが開いたままの隣室から監視をするといいます。しかし、5人は、それぞれ色々なやり方で抵抗します。クレアは、些細な理由で補習授業を受ける事に異議を唱え、ジョンは、両足を机の上に乗せたまま、バーノン先生を馬鹿にし、アリソンは、大きな音を立てて爪を噛み、ブライアンは、あれやこれやと御託を並べ、どの生徒も全くやる気が見られません。特に、ジョンは、バーノン先生が隣室へ行った後、トイレで用を足すふりをしたり、「クレアを孕ませる」と、冗談を口にしたり、「アンドリューとクレアはデキているのか?」と茶化したりと、とにかくやりたい放題。やがて、補習授業は、バーノン先生が図書室にいないのをいい事に、ジョンが仕切るおしゃべりタイムと化します。



さらに、ジョンは、隣室にいたバーノン先生が席を外した隙に、隣室の扉のねじを勝手に外し、扉を閉じてしまいます。これには、さすがの4人もジョンをたしなめます。やがて、バーノン先生が隣室に戻ると、異変に気付き、5人全員を問いただします。ところが、信じ難い事に、4人はなぜかジョンをかばいます。これを機に、5人の間には、友情が芽生えます。しかし、5人共、肝心の作文に取り組む気配はありませんでした。



その後もずっと、5人は、作文に目を向けようとしません。全員で熟睡したり、アリソンは絵を描いたり、ジョンはストレス発散に図書室の蔵書を破り続けたりと、5人の悪行は、エスカレートするばかりでした。ところが、一心同体であるかに思われた5人の心は、少しずつ、1対4の構造になっていきます。ジョンが、4人の事やそれぞれの親の事を容赦なく馬鹿にしたためでした。特に、クレアに対しては、勝手に処女だと思い込み、性行為の手順を事細かく説明して、面白がる始末。アンドリューは、次第にそれに耐えられなくなり、ジョンの体を抑え込みます。そして、二度とクレアに嫌がらせをしないよう、約束させるのでした。



午前11時30分、ランチの時間が近付いてきましたが、5人は相変わらず作文に手を付けません。時間を潰すアイデアは既に尽き果てており、誰もが退屈しています。ジョンは、この状態を脱すべく、映画「戦場にかける橋」で流れる曲「クワイ河マーチ」を口笛で吹き始めます。すると、他の4人も、ジョンにつられて、同じ曲を口笛で吹き始めます。しかし、その直後、バーノン先生が図書室に戻ってきます。30分間のランチの時間になったためです。5人は、バーノン先生の姿を見て、慌てて口笛を止めます。バーノン先生が図書室でランチを食べなければならない旨を告げると、5人は、「食堂でランチを食べるんじゃないんですか?」、「脱水症状が心配です。ミルクが欲しいです。」等、次々に文句をぶつけます。



「ああでもない。こうでもない。」とバーノン先生に文句を言い続けた5人でしたが、結局、最初に言われた通りに、図書室でランチを食べます。アンドリューとブライアンはサンドイッチとクッキーを、クレアは寿司を、アリソンは大量のグラニュー糖とスナック菓子を挟んだサンドイッチを机の上に置きます。因みに、飲み物は、皆が希望したミルクではなく、缶入りのコーラでした。しかし、ジョンだけは、なぜかランチを食べ始める気配がありません。さらに、家族の仲があまり良くない事を自ら一人芝居で説明すると、4人に信じてもらえず、ジョンは、その腹いせで図書室の備品を壊し始めます。4人は、さすがに「言い過ぎてしまった。」と、罪悪感を抱きます。



ランチの後、5人は、バーノン先生の姿が見えないのを確かめてから、図書室を出て行きます。そして、バーノン先生が職員室に入っていくのを確認した上で向かった先は、ジョンのロッカーでした。ジョンは、ロッカーの扉を開け、なんと、マリファナの入った包みを取り出します。5人は、ロッカーを離れ、図書室へ戻ろうとしますが、戻る途中で、バーノン先生に見つかりそうになります。こうして、図書室から一時的に離れている事がバレてはいけない5人と、そんな事に気付かず、のんびりと廊下を歩くバーノン先生による、スリル満点の駆け引きが始まるのです…。



ジョンのロッカーからマリファナが出て来て、空気が一段と悪い方向に変わってしまったかに思われますが、この空気は、まだまだ序の口です。この後、5人の悪行はますますグレードアップし、バーノン先生の怒りもまた、ますますグレードアップしていき、補習授業は、もはや崩壊状態となります。



監督は、1980年代にアメリカ映画界で青春映画の名手として活躍したジョン・ヒューズ。「すてきな片想い」(1984年)、「フェリスはある朝突然に」(1986年)等が有名です。



この映画を観て、「これは、なかなか興味深いなあ。」と思ったのは、最初の段階で、補習授業に出席する5人の生徒の名前が明らかにならない事でした。ジョンだけは、補習授業が始まる直前に明らかになりますが、アンドリュー、ブライアン、クレアの3人は、映画が始まって20分が過ぎた頃に、ようやく1人ずつ分かってきます。因みに、アリソンの名前が明らかになったのは、映画が始まって、1時間が経過した頃でした。この意図とは、何なのでしょうか?私は、5人の中で、ジョンが中心的な存在である事を強く印象付けるためではないかと思います。なぜなら、ジョンがバーノン先生に叱られる時は、必ず他の4人がかばっていますし、劇中で起こるトラブルのほとんどは、ジョンがきっかけを作っているからです。この映画は、彼の暴れっぷりなしでは、学園系エンターテイメントとして、成立しないのではないでしょうか。



しかし、この映画は、ただ5人が暴れ回るだけではありません。物語の後半になると、5人がそれぞれ抱える心の闇が次第に明らかになっていきます。その過程で、5人は、作文のテーマである「自分とは何か」を、淡々と、時には涙を流しながら、語っています。バーノン先生が掲げた理想とは別の形ですが、5人は、補習授業のスタート地点をきちんと覚えていたのです。この映画は、実は、学園系エンターテイメントでもあり、真面目な青春映画でもあります。ぜひ、ヒューズ監督が描いた見事な緩急と、生徒役を演じた俳優たち、女優たちのエネルギーを堪能していただきたいと思います。

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グラン・ブルー完全版~デジタル・レストア・バージョン~(1988年 フランス)

グラン・ブルー 完全版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]
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1965年、ギリシャ・キクラーデス諸島。8歳のフランス人少年・ジャックは、一人で地中海に飛び込み、海の生き物たちと戯れていました。しばらくして、海から上がったジャックは、近所に住む2人の少年たちから、「ジャック、海で何かが光ってる。早く来て。海の底に沈んでいるんだ。」と言われ、少年たちと一緒に海へ戻ります。しかし、ジャックが海を覘いてみると、生き物の姿が見当たらず、コインが海の底に沈んでいました。2人の少年たちは、どちらが先にコインを見つけたかで言い争いを始めてしまいます。ジャックは、2人をなだめ、自分を含めた3人でコインを分け合う事を提案します。しかし、2人が納得しなかったため、今度は、コインで何かを買い、買ったものを分け合う事を提案します。2人は、それを聞いて、ようやく納得してくれました。

ところが、ジャックたちがコインを取ろうとしたその時、イタリア人の少年エンゾが、弟のロベルトら大勢の仲間を引き連れて現れ、ほんのわずか6秒でコインを横取りしてしまいます。エンゾは、手に入れたコインをジャックに見せつけると、なんと、コインを海に戻してしまいます。そして、「6秒以内で拾えたら、これはお前のものだ。」と言って、ジャックにコインを取りに行かせようとします。しかし、ジャックはこれを頑なに拒みます。エンゾは、早々と諦め、仲間と一緒にその場を去るのでした。

エンゾたちが去った後、これまでのやり取りをすぐそばでずっと見守っていた神父が、ジャックに声を掛けます。「あれは、コインではないかね?」ジャックは、すぐに「コインです。」と答え、「拾いますか?」と神父に尋ねます。神父は、「貧しい人のためにな。」と、ジャックにコインを取りに行く事を勧めます。ジャックは、すぐに海に潜り、コインを見つけますが、神父はその間にいなくなってしまいました。そして、ジャックは、ふと目が覚めます。コインの話は、現実ではなく、ジャックが見た夢だったのです。

グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン- Blu-ray
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ジャックは、父親(クロード・ベッソン)、そして、伯父のルイ(ジャン・ブイズ)と一緒に、1艘の小さな船に乗り込みます。同じ頃、海の近くの岩場では、エンゾが1人で釣りをしていました。ジャックの父親は、既に、ジャックの母親と離婚し、ダイバーとして働いていました。ジャックの母親は、離婚を機に、アメリカに帰国してしまったため、残されたジャックの父親は、ダイバーのように命の危険と隣り合わせの仕事をする事で、多額の生活費を稼がざるを得なくなってしまいました。ジャックは、船の上で海に潜る準備を進める父親を、心配そうな顔で見つめています。父親は、それを見て、「心配するな。海では人魚が助けてくれる。」と言って、ジャックを安心させ、海に潜っていきました。その後も、海に潜る父親を見守るジャックに、ルイは驚くような話を聞かせます。なんと、ルイは、以前に人魚を見た事があって、見た場所も覚えているというのです。しかし、ジャックは、大人の期待通りに、人魚を見た場所を尋ねてはくれず、ルイはがっかりしてしまいます。その代わり、ジャックが尋ねたのは、自身の両親が離婚した理由でした。

その最中、海に潜っていた父親にアクシデントが起こります。父親が吸っていた大事な空気が、突然、水中に漏れ、息ができなくなってしまったのです。父親は、ジャックの名を何度も呼び、助けを求めます。ジャックは、父親の声に気付き、自身も海に潜ろうとします。しかし、自分で酸素を取り込めない状態で海に潜るのはあまりにも危険なため、ルイに止められてしまいます。ジャックの声は、次第に涙の混じった金切り声に変わっていきます。しかし、ルイも、近くで異変に気付いたエンゾも、父親を助けに行く事は出来ませんでした。



1988年、イタリア・シチリア島。一人の青年が、助けを求めて、街を走り回っています。しばらくすると、一人の男性が助けに応じてくれる事になりました。この男性は、幼い頃に、ジャックからコインを横取りしたエンゾ(ジャン・レノ)でした。エンゾは、ロベルト(マルク・ドゥレ)を呼び、一緒に海の近くまで行きます。すると、突然、スーツ姿の男性が、2人の前に現れます。街を走り回っていた男性は、このスーツ姿の男性から頼まれて、助けてくれる人を探していたのです。スーツ姿の男性は、会社の命令で難破船の遺留品、特にモーターを回収していました。ダイバーを潜らせたところ、波で船が傾き、ダイバーは船の中に閉じ込められてしまったのです。エンゾは、スーツ姿の男性に対して、報酬として1万ドルを貰う約束をした上で、依頼を引き受けます。エンゾは、潜水服に着替え、早速海に潜ります。そして、船の中に入り、慎重に探し回ったところ、ダイバーを見つけ、無事に救出。約束通り、1万ドルを手にしたエンゾは、ロベルトに、1万ドルを使って、自身の少年時代の親友・ジャックを探すよう、命じるのでした。



南米・ペルー、アンデス山脈の海抜4,319メートルのところにあるラ・ラーヤ駅。アメリカ・ニューヨークに住む保険会社の調査員・ジョアナ(ロザンナ・アークエット)は、大きな荷物を抱え、この駅に降り立ちます。ジョアナは、この地にある氷原で発生した事故について調査をするため、この駅から少し離れたところにあるローレンス博士(ポール・シュナール)の研究所を訪れる事になっていたのです。駅の前では、ローレンス博士の助手と名乗る男性がジョナアを迎えに来ていました。ジョナアは、男性が運転する雪上車に乗り、研究所に向かいます。その後、一面の銀世界と化した目的地に到着したジョアナは、ようやくローレンス博士と対面します。

そして、ジョアナが窓の外にふと目をやると、潜水服姿の男性が、分厚い氷が解けかけた湖に潜ろうとしていました。男性は、少年時代に父親を海でのアクシデントで亡くしたジャック(ジャン・マルク・バール)でした。ジャックは、潜水中の人間の体の状態を研究しているローレンス博士にこうして協力しているのです。ジャックは、これから湖に落ちたトラックから研究機材を回収するところでした。しかも、信じ難い事に、ジャックは素潜りをしようとしています。ジョアナは、ローレンス博士がジャックを命の危険に晒しているような気がしてなりませんでしたが、ジャックは、酸素ボンベがなくても冷水に耐えられる、ごくまれな身体能力の持ち主である事から、心配は無用でした。

その後、ジョアナは、湖から上がったジャックの元に、淹れたてのホットコーヒーを持っていきます。ジャックは、全く疲れておらず、ジョアナの顔を見て、「イルカ顔だね。」と冗談を言える程でした。ジョアナは、ジャックの目力が気になってしまい、何も言い返せませんでした。翌朝、ジャックがジョアナの元を訪ねてきます。目的は、ジョアナにプレゼントを渡す事でした。そのプレゼントとは、イルカが乗ったスノードームでした。ジャックは、スノードームを手渡すと、すぐにその場を去っていきます。



フランス南部・コートダジュール。久々にフランスに帰国したジャックは、クラウン、ダージリンら、ジャックとの再会を心待ちにしている数頭のイルカが泳いでいる施設に向かいます。そして、イルカたちとの再会を果たすと、ペルーで買ったお土産を1つずつ渡していきます。お土産を渡し終えると、ジャックは、イルカたちが泳いでいるプールに飛び込み、一緒に泳ぎを楽しみます。その後、施設を離れたジャックは、自身のトレーニングのため、あるトレーニング施設に向かいます。ジャックは、潜水服を着て、酸素ボンベを身に付け、トレーニング用のプールに飛び込みます。

しばらくして、水中から顔を出すと、プールサイドにエンゾが立っていました。エンゾが会いにやってきた理由は、ただ1つ。10日後に控えたイタリア・シチリア島のタオルミナで開催される無呼吸潜水の選手権にジャックを招待する旨を、直接伝えるためでした。しかし、ジャックは弱気になっていました。以前から、エンゾが世界チャンピオンである事を知っているためです。しかし、エンゾは、ジャックに精神的に強くなってほしいと願っていました。タオルミナでの選手権で一緒に戦い、自身を負かす事でジャックに自信を付けてほしかったのです…。



ジャックの少年時代がモノクロ映像で、現代がカラー映像で構成されているこの映画で監督を務めたのは、「レオン」(1994年)、「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」(2011年)、「マラヴィータ」(2013年)等を手掛けた、リュック・ベッソン監督。ベッソン監督は、10代からダイビングに親しみ、イルカに魅せられたダイバーの物語を作るのが長年の夢だったそうで、その夢を叶えるべく、主人公・ジャックのモデルである伝説のダイバー、ジャック・マイヨールの協力を得て、物語を作り上げました。



この映画のオリジナル版は、1988年に本国フランス及び日本で公開されました。劇場公開された当時、フランスでは、ハイティーンから絶大な支持を集め、特に、パリでは、187週連続上映という大記録を打ち立てました。年数でいえば、劇場公開から4年弱ぐらいの間、ずっと映画館で上映されていた事になるでしょうか。日本ではとても考えられない社会現象です。因みに、今回ご紹介している「完全版~デジタル・レストア・バージョン~」が日本で公開されたのは、それから22年後の2010年の事でした。



ジャン・マルク・バール演じるジャックは、女性の心を掴む術はよく知りませんが、イルカの気持ちや、海に潜る時の喜びならよく知っているピュアな心の持ち主。ロザンナ・アークエット演じるジョアナが目力の虜になってしまったように、女性を惹きつける目力の強さが印象的です。口で何か知的な事を語るよりも、目力の強さの方が、男性としての魅力が断然伝わりやすいと思います。そのため、ほとんど地味な衣装ばかり着ているのも、あまり気になりません。逆に、派手な衣装ばかりを着ていて、ドスの利いた物言いが印象的なのは、ジャン・レノ演じるエンゾです。因みに、エンゾにも実在のモデルがいます。イタリア人ダイバーのエンゾ・マイオルカです。この映画でジャン・レノが演じたエンゾは、何となく近寄り難いけれど、ジャックを心から心配する一面があり、どこか憎めません。また、母親の愛情にめっぽう弱いのも、観ていて面白いです。また、ロザンナ・アークエット演じるジョアナは、至って庶民的なキャラクターです。面白い時は豪快に笑い、食べ物を食べる時は、背中を少し丸めて一度に大量に口に運びます。しかし、物語の後半では、男性の心にグッと来るような優しい一面も見せます。観ていて、非常に親近感が湧く女性です。



ここで、ジャックがずっと愛し続けたイルカについて少し触れたいと思います。この映画では、イルカが何度も登場しますが、その中でも、私が特に気に入っているのは、ジャックがコートダジュールで再会した、クラウン、ダージリンをはじめとするイルカたちです。ジャックからお土産を貰う時に見せる笑顔がとにかくカワイイですし、ジャックからの呼びかけに、まるで人間のように絶妙な間で返事をしていて、イルカの賢さを改めて感じましたし、ジャックと一体となって泳いでいる時も、思わず同じ体験をしたくなってしまいました。



この後、エンゾからイタリア・シチリア島タオルミナでの無呼吸潜水の選手権に招待されたジャックは、戦いに挑む決意をします。しかし、物語はまだまだ終わりません。上映時間は2時間48分にも及びます。選手権が終わった後も、ジャック、エンゾ、それぞれの向上心は止まるところを知りません。また、ペルーでジャックと知り合ったジョアナも、ニューヨークに帰った後、あのジャックの目力がどうしても頭から離れません。3人は、良い方向へ向かっているように見えますが、実は、…。続きが気になる方はぜひチェックを。

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ワン・フロム・ザ・ハート(1982年 アメリカ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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ある年の7月3日、アメリカ・ラスベガス。アメリカ独立記念日を翌日に控えたこの日、旅行代理店「パラダイス」の前を、一獲千金を夢見る大人たちが大勢行き交っています。「パラダイス」のショーウィンドーの中では、女性社員・フラニー(テリー・ガー)がそんな大人たちに目を向ける事なく、展示物の入れ替え作業に気持ちを集中させていました。その後、作業が終わり、ショーウィンドーの中でニューヨークの町並みが出来上がると、フラニーは、抱え切れないくらいの数の荷物を抱え、車で帰宅の途に就きます。自宅に到着したフラニーは車を降り、一度にすべての荷物を運ぼうとしますが、玄関の扉に着く前に、幾つか落としてしまい、それに気付かぬまま、中に入っていきます。すると、そこへ1台の車が通りかかります。車を運転していたのは、一人の若い男性でした。男性は、フラニーが落とした荷物が風に吹かれて転がっているのを目にし、車から降りて、ざっと拾い集め、フラニーの自宅に持っていきます。この男性の名は、ハンク(フレデリック・フォレスト)。実は、ハンクは、フラニーの恋人であり、なんと、ここでフラニーと一緒に暮らしているのです。翌日の7月4日は、5年前に2人が出会った記念日。2人は、記念日の前に、お互いにプレゼントを渡します。フラニーはタヒチ・ボラボラ島旅行の往復航空券を、ハンクは自分たちが住む自宅の譲渡証書を、それぞれ渡します。

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しかし、そんな幸せな時間も束の間、2人は口論を始めてしまいます。付き合い始めたばかりの頃は、お互いにお互いの事でときめいていたものですが、出会いから5年も経つと、それぞれ自分磨きを面倒臭がってしまい、やがて、付き合っている事に飽きてしまうのです。この年の初め、フラニーはハンクの親友・モー(ハリー・ディーン・スタントン)と、ハンクはモーの恋人・ジャンと、キスをしていました。フラニーは、その頃から「ハンクとの恋はもう終わった。」と考えていましたが、この口論をきっかけに、「今度こそ、この恋は終わりよ。」と破局を確信し、車に乗って、出て行ってしまいます。

ワン・フロム・ザ・ハート(エクスパンディッド・ヴァージョン) - ARRAY(0x11210730)
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フラニーが出て行った後、ハンクが最初に取った行動は、モーの自宅を訪ねる事でした。目的は、勿論、フラニーがモーとキスをしてしまった理由を知る事でした。モーは、「あくまで、新年の挨拶として、キスをしただけだ。」と釈明しますが、ハンクは、全く信じようとはしません。しかし、ハンクも、モーの恋人・ジャンを相手に、同じ事をしているため、人の事をどうこう言える立場ではありません。ハンクは、逆に、ジャンとキスをしたいきさつについてモーから尋ねられると、何も言えなくなり、帰ろうとしますが、すぐに引き返して、モーに謝罪したのでした。同じ頃、フラニーは、「パラダイス」の同僚で親友のマギー(レイニー・カザン)の元に身を寄せていました。



フラニーは、マギーの元に身を寄せて間もなく、「パラダイス」のショーウィンドーで、再び展示物の入れ替えをしていました。今度は、タヒチの青空と海が広がる景色を作っていました。その途中、フラニーは、「パラダイス」の前を通りかかったタキシード姿の男性・レイ(ラウル・ジュリア)に声を掛けられます。フラニーは、タヒチに1度も行った事がありませんが、レイは、何度か行った事がありました。また、レイは、ショーウィンドーで作業に打ち込むフラニーを以前からよく見かけていました。レイは、「パラダイス」の近くにある店でピアノを弾き、歌を歌う事もあると言います。レイは、フラニーを店に招待しようとしますが、この日、フラニーはマギーと一緒にショッピングに出掛ける約束をしていました。しかし、レイの猛アタックには勝てず、店の連絡先が書かれたマッチ箱を受け取ってしまいます。フラニーは、レイと一旦別れ、マギーと一緒にショッピングに出掛けます。レイと別れた瞬間、フラニーは、横に並んで歩いていたハンク、モーと偶然すれ違います。しかし、お互いにすれ違った事に、4人共、気付いていませんでした。



その後、街を歩いていたハンクとモーは、街角で写真撮影に臨んでいたサーカス団のダンサー・ライラ(ナスターシャ・キンスキー)に一目惚れします。ライラも、2人をじっと見つめていましたが、ライラが2人のうちのどちらに関心があるのかはよく分かりませんでした。しかし、その後、ライラは、仕事のやり方を巡って、自身の父親と口論になってしまいます。ハンクは、ライラと父親の口論には全く関心がなく、ライラの美貌にますます惚れるばかり。そして、ライラが一人になったタイミングを見計らって、ライラに声を掛けます。そして、喫煙者であるライラに「ライターの火を貸してほしい。」と求められると、快くライターに火を付けて、差し出します。さらに、ライラの体の美しさを褒めたたえると、ライラの口から「9時にフリーモント・ホテルで」との言葉が。ハンクは、迷わず首を縦に振るのでした。



レイと一旦別れたフラニーは、マギーと一緒に、「パラダイス」の近くにあるショッピングモールを訪れ、後でレイと会う時に着るドレスを選んでいました。一方、ハンクも、後で「フリーモント・ホテル」でライラに会う時に着るスーツを買うため、モーと一緒に、同じショッピングモールに来ていました。両者がこのショッピングモールでバッタリ会う事はありませんでしたが、フラニーが、身支度のために、ハンクが一人で暮らす自宅に戻った時は、ハンクが背後から声を掛けてきました。フラニーは、手早く身支度をしますが、ハンクは、フラニーがこれからどこへ出掛け、何をするのかが、気になって仕方がありませんでした。そして、ハンクは、自宅を離れようとするフラニーを背後から抱きしめますが、フラニーは、ハンクの腕を力いっぱい振りほどき、出て行くのでした。



一路、レイの待つ店に向かうフラニー。ところが、その道中、「葉巻に火を付けたい」と声を掛けてきた高齢の男性に、うっかりして、マッチ箱を渡してしまいます。フラニーは、店の名前も住所もよく覚えておらず、ただラスベガスの街を彷徨うしかありませんでした。一方、ハンクは、ライラと約束した通り、「フリーモント・ホテル」に来ているのかと思いきや、そうではなく、同じくラスベガスの街を彷徨っていました。その後、フラニーは、レストラン「トロピカル」の前までやって来ます。すっかりヘトヘトになっていたフラニーは、店の中に入っていき、店のオーナー(アレン・ガーフィールド)に、空いているテーブルに案内されます。フラニーが着席して、しばらくすると、レイが通り掛かります。レイは、できたての料理で両手がふさがっている状態で店内を歩き回っていました。実は、フラニーがずっと探していた店は、この「トロピカル」だったのです。レイは、ここでピアノを弾いたり、歌を歌ったりしているのですが、実は、それらをさせてもらえる機会はあまりなく、勤務時間のほとんどをウェイターの仕事に費やさなければなりませんでした。レイは、仕事の手を休め、フラニーの隣の席の客が注文した料理をフラニーのテーブルに置き、フラニーの席の向かい側に座って、なんと、デートを始めてしまいます。レイの身勝手な行動は、当然、すぐにオーナーに見つかってしまい、レイは、「トロピカル」を解雇されてしまいます…。



この後も物語は続きますが、物語の後半の必見ポイントは、歌とダンスです。この後、レイとフラニーは、「トロピカル」にある、誰もいないラウンジへ行き、2人っきりの時間を楽しみます。レイは、ここで初めてピアノの弾き語りをします。レイのピアノの弾き語りは、とても味わい深いものがあり、オーナーがレイを解雇した事を後悔するのではないかと思うくらいでした。次に、レイはフラニーと一緒にタンゴを踊りますが、最初に2人が動き出した瞬間から最後までずっと引き込まれてしまい、時間が凄く短く感じました。そして、タンゴを踊り終えた2人は、ラスベガスの街に出て、町中の若者たちを巻き込んで、ダイナミックに踊ります。観ていて、私の心の中でテンションがグングン上がるのを感じました。また、ハンクが「フリーモント・ホテル」で会う事になったライラも、艶かしい表情でハンクを誘惑するように歌ったり、美脚を存分に活かしてダンスをしたりと、大活躍します。物語の後半は、まさに見せ場の連続で、観ていて凄く楽しくなります。



監督は、「地獄の黙示録」(1979年)、「ランブルフィッシュ」(1983年)のフランシス・フォード・コッポラ。「ワン・フロム・ザ・ハート」は、コッポラ監督の映画の中では大変珍しい、物腰の柔らかいタイプの映画です。コッポラ監督の通常のイメージがしっかり染みついている映画ファンにとって、この映画は、かなり実験的な造りに見えるかもしれません。



当時、この映画は、最初から最後まで、コッポラ監督が所有していたスタジオ「ゾーイトロープ・スタジオ」で撮影されました。屋内での撮影は天候に左右される心配がないとは思いますが、普段、スタジオでの撮影とロケの両方が上手く組み合わさっている映画を観る事に慣れている私としては、スタジオの中で、「建物の外」という設定でセットが組まれ、撮影が行われた事に、何となく違和感を感じました。



違和感といえば、この映画はミュージカル映画であるにもかかわらず、ハンク役のフレデリック・フォレストも、フラニー役のテリー・ガーも、劇中ではほとんど歌っていません。実際に劇中に登場する曲のほとんどを歌っていたのは、シンガーソングライターのトム・ウェイツと、カントリー歌手のクリスタル・ゲイルです。ウェイツがハンクの心情を、ゲイルがフラニーの心情を、それぞれ歌っています。私は、プロの歌手が役の気持ちを代弁している事に、戸惑いを覚えました。何事も、プロの歌手に任せれば良しという訳ではないと思います。この映画は、大変残念な事に、興行的に大失敗し、コッポラ監督は、「ゾーイトロープ・スタジオ」の売却を余儀なくされたそうです。ひょっとしたら、劇場公開当時に映画館に足を運んだ人たちも、私と同じ事、或いは、私とは別の視点で何かを感じたのかもしれません。もし、ご興味があれば、ぜひご覧いただけたらと思います。

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アルフィー(1966年 イギリス)


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パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2010-05-28

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イギリス・ロンドンのイースト・エンドにあるアパートで、整理整頓を全くせずに暮らすアルフィー(マイケル・ケイン)は、この日の夜も、そんな暮らしをしているとはとても思えないほど、スーツを見事に着こなし、「映画を観に行く」と夫に嘘をついてきたという若い人妻・シディ(ミリセント・マーティン)を助手席に乗せて、自身の愛車を運転していました。しばらくして、アルフィーは、誰もいない小道に愛車を停めると、窓ガラスが曇っているのをいい事に、恥ずかしがる彼女を押し倒します。シディは、アルフィーの強引さの虜になっていますが、アルフィーはというと、そこまでの感情を抱いていません。ただ、紳士のふりをして、シディの悩みに耳を傾けるのみ。アルフィーは、正真正銘のプレイボーイなのです。


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マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
1996-12-09
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アルフィーが次に訪ねたのは、こちらもアルフィーの虜になっている女性・ギルダ(ジュリア・フォスター)の住むアパート。アルフィーは、ギルダに「結婚の意志はない。」と伝えてあるのですが、ギルダは、そんなアルフィーの気持ちをよく理解していました。ギルダは、アパートの玄関の扉を叩く音が聞こえると、アルフィーが来てくれたと思い、扉を開けます。しかし、扉の向こうにいたのはアルフィーではなく、知人で、2階建てバスの車掌をしているハンフリー(グレアム・スターク)でした。ハンフリーは、この日、ちょうど仕事が終わったところで、寂しくてここに立ち寄ったのです。しかし、ギルダは、ハンフリーに構っている暇はありません。ハンフリーは、それを知ると、早々とギルダのアパートを後にします。すると、そこへアルフィーが到着します。アルフィーは、ハンフリーの姿を見逃しませんでした。なんと、自身がギルダのアパートに入った後、わざとギルダに対して嫉妬心を抱いてみせたのです。「ハンフリーと行き違った。デキてるのか?」と。普段、アルフィーは、このように、鋭い観察眼と巧みな話術で、数多くの女性たちを惹きつけているのです。そんなある日、ギルダは、アルフィーとの子どもを身籠っている事が分かります。それでも、アルフィーには結婚の意志がなく、ギルダはシングルマザーになる決意をします。やがて、ギルダは男の子を出産、男の子はマルコムと名付けられます。アルフィーは、「ギルダと深入りし過ぎてしまった」と反省するだけ。しかし、だからといって、ギルダと別れた訳ではありませんでした。



アルフィーは、シディ、ギルダの他にも、多くの女性と関係を持っていました。クリーニング店のマネージャー、フットケアサービスの治療医、ボディービルで留守がちな彼氏と付き合っているという女性と、次から次へと女性たちを惹きつけていました。しかし、ギルダとマルコムが住むアパートを訪ねる事を忘れてはいませんでした。ある日、ギルタとマルコムに会いに行ったアルフィー。アルフィーは、ずっと、ある事が気になっていました。ギルダは、妊娠中、マルコムを自分で育てるつもりがなく、大富豪の養子にしたがっていたのですが、実際に、マルコムが生まれてみると、マルコムの事が愛おしくなり、養子に出すのを嫌がるようになったのです。アルフィーは、ギルダの気持ちが変わってしまったのが許せませんでした。アルフィーは、ギルダの気持ちが元に戻るよう、言葉巧みにギルダを説得します。ギルダの経済力のなさを容赦なく責めたら、きっと大丈夫だと信じるアルフィー。しかし、アルフィーが立てた作戦は、ギルダの怒りを買ってしまいます。それでも、アルフィーは攻撃の手を緩めようとしませんでした。

結局、ギルダはマルコムを手放しませんでした。ギルダは、ビール工場で働き始め、働いている間は知人にマルコムを預けました。一方、アルフィーは、あれだけ言いたい放題言いながら、いつの間にか、父性に目覚めていました。週末になるとマルコムの良き遊び相手になったり、「自分の体は、自分一人だけのものではない。」と考えるようになって、ある日、健康診断を受けたりしました。そんなある日、ギルダは、仕事の休憩時間に、ハンフリーと会います。ハンフリーは、ギルダとの結婚をすでに決意しており、この日、ギルダに、亡き母の形見である結婚指輪を渡そうとします。しかし、ギルダは、ハンフリーとの結婚を躊躇していました。ハンフリーが、アルフィーの血を引くマルコムを心から愛してくれるかどうか、心配だったのです。

その日の夜、アパートでアイロンがけをしていたギルダは、マルコムを寝かしつけて、一休みしていたアルフィーに、「ハンフリーと今週2度、昼間に会ったの。」と告白します。アルフィーは、自分が気付かぬ間にギルダが別の男性と二人っきりになっていた事に、腹を立てます。そして、「話の内容を知りたくない。」と言ったかと思うと、急にハンフリーの狙いを知りたがります。ギルダは、ハンフリーが自分と結婚したいと考えている事、結婚するかどうかはアルフィーと相談してから決めようと考えている事を説明します。しかし、アルフィーは、なぜギルダが自分に相談する必要があるのか、不思議でした。しかし、ギルダは、週末だけとはいえ、アルフィーと家族のような関係を築いている以上は相談する必要があると考えていました。マルコムには、週末だけ会う実の父親ではなく、血の繋がりはなくても、毎日会える父親が必要だったのです。そのためには、愛してはいないが尊敬はしているハンフリーと結婚した方がいいのではないかと思ったのですが、なかなか、決断できずにいたのです。アルフィーは、怒りが収まらず、とにかく怒りに任せて、ギルダとハンフリーの結婚に賛成し、アパートを出て行ってしまいます。



ある日、アルフィーは、顧客であるパブの経営者一行と一緒に競馬場へ行く事になっていましたが、その前に呼吸器科のクリニックに立ち寄ります。健康診断でレントゲン写真を撮った際に、医師の診察の必要が生じたのです。診察の結果、アルフィーは、肺に影がある事が分かります。診察した医師(エレノア・ブロン)は、アルフィーに休養を勧めます。アルフィーは、「これから、競馬場へ行かなければならない。」と反抗しますが、医師はこれを一蹴します。因みに、この時、アルフィーの頭の中には、ギルダを愛する気持ちは微塵もありませんでした。というのも、ギルダから、ハンフリーとの結婚を報告する手紙が届いたからです。実は、アルフィーは、手紙を受け取った後、ギルダに会いに行っていました。ギルダは、アルフィーに会うのを拒みましたが、アルフィーの声に気付いたマルコムがアルフィーを呼び始めたため、仕方なく、マルコムをアルフィーに会わせたのです。しかし、ギルダは、アルフィーがマルコムに触れないよう、警戒していました。アルフィーは、ギルダの事をすっかり諦めているように見えますが、実は、全く違っていたのです。

最初は、医師からの入院の勧めに反抗していたアルフィーでしたが、結局、入院します。しかし、面会に訪れる人は全くいませんでした。ある日、看護師・カーラ(シャーリー・アン・フィールド)が、アルフィーの病室に入って来ます。カーラは、アルフィーの注射と称して、ベッドの周囲を衝立で囲むと、靴を脱ぎ始めます。実は、アルフィーは、入院後、カーラに惹かれ、見事に誘惑する事に成功していたのです。一方、アルフィーと同室の入院患者・ハリー(アルフィー・バス)は、妻・リリー(ヴィヴィアン・マーチャント)が、遅刻しがちではありましたが、週に1回、面会に来てくれていました。ハリーは、リリーが来るのが、いつも待ち遠しい様子でした。この日も、リリーは、少し遅刻してハリーに会いにやって来ます。2人の隣では、いつまでも衝立が立てられていて、2人は困惑するばかりでした。



翌月、アルフィーは退院します。入院生活は実に6か月に及びました。アルフィーは、迎えに来てくれた知人から、ロンドンの観光名所・タワーヒルで観光写真を撮影する仕事を紹介してもらいます。物欲しそうな女性がウヨウヨいるから、アルフィーにピッタリだというのです。実際に、アルフィーがこの仕事に就いてみると、なかなか簡単には写真を撮らせてもらえません。アルフィーが何となくカメラを構えると、夫と一緒にいた中年女性・ルビー(シェリー・ウィンタース)の姿が写っていました。夫は、写真に写るのを嫌がりますが、ルビーはまんざらでもない様子。アルフィーは、テムズ川の前でルビーに立ってもらい、彼女の服装を綺麗に整え、シャッターを切ります。その後、アルフィーは、ルビーに住所と電話番号を尋ね、ルビーはそれらが書かれたメモをそっと渡します。その後、アルフィーは、この仕事を辞めて、運転手の仕事に転職します。



ある日、アルフィーは、入院中であるハリーを見舞います。病院には、リリーの姿もありました。ハリーは、汽車で病院に来たというリリーに、「アルフィーに、車で家まで送ってもらったらどうか?」と提案します。リリーは、アルフィーに「申し訳ない。」と思いながらも、ハリーの提案を受け入れます。アルフィーは、リリーを車の助手席に乗せて、病院を後にします。道中、少々やつれた表情のリリーを見ていたアルフィーは、次第にリリーの美貌に惹かれていきます。気が付けば、2人は川に浮かぶボートに乗って、お互いに見つめ合っていました。そして、ボートを降りると、アルフィーはリリーと唇を重ねるのでした。



数日後、アルフィーは、仕事中に、20歳くらいとおぼしき少女・アニー(ジェーン・アッシャー)がヒッチハイクをしているのを見かけ、彼女の持つ初々しさに心を奪われます。アニーは、1台のトラックに乗せてもらい、アルフィーは後を追いかける事にします。やがて、トラックは道路沿いに建つ食堂に立ち寄ります。アルフィーも同じ食堂に立ち寄り、車から降りると、わざとトラックの荷台のひもを緩めます。そして、食堂の中に入ったアルフィーは、「トラックの荷台のひもが外れかけている。」と、トラックの運転手・フランク(シドニー・タフラー)に伝えます。すると、フランクは外へ様子を見に行き、その隙に、アルフィーは、アニーに近付きます。アニーが、ある事情で、何の当てもないロンドンで心機一転、人生をやり直そうとしているのを知ると、アルフィーは、なんと、アニーを自身のアパートまで連れて帰ってしまいます。アニーは、そのまま、アルフィーと同居する事になりました。アニーは、毎日、丁寧に床掃除をするような真面目な性格でした。ある日の晩、アルフィーは、そんなアニーの心の殻を破る目的で、彼女の処女を奪おうとします。しかし、彼女の脳裏に、別れた彼氏・トニーの事が浮かんでしまい、結局、失敗に終わってしまいます。アルフィーを拒んだアニーは、急に罪悪感に苛まれ、泣き出してしまいます。アルフィーは、アニーの姿に思わず胸が痛み、アニーにキスをするのでした。



次の日曜日、アルフィーは、一人である場所へ向かいます。そこでアルフィーを待っていたのは、アルフィーが写真撮影の仕事で出会ったルビーでした。アルフィーから見て、ルビーは、他の若い女性たちと違い、「愛してる?」と尋ねてこないので、心が安らぐ存在でした。アルフィーは、いつの間にか、若い女性と一緒にいる事に疲れてしまっていたのです。そんなある日、アルフィーは、1軒のパブで、見覚えのある男性と再会します。男性は、アニーをトラックの助手席に乗せていた、フランクでした。フランクは、アニーを口説いたアルフィーに憤りを覚えていました。フランクがアルフィーに殴りかかったのをきっかけに、パブの中は大乱闘に発展。アルフィーは、隙を見て、パブから脱出するのでした。

帰宅後、アルフィーは、顔に青あざができている事をアニーに指摘され、逆上します。さらに、着たい服が洗濯されたのにまだ乾いていない事に怒り、自身が買った肉でアニーがステーキパイを作った事に怒り、そして、怒りに任せて、アニーがつけている日記を本人に内緒で読んでいる事を告白してしまいます。アニーは、勝手に禁断の園に踏み入ったアルフィーに対して激しい憤りを覚え、荷物をまとめて、出て行きます。アルフィーは、すぐに我に帰り、アニーを探しに行きますが、アニーを見つける事は出来ませんでした。



翌日、アルフィーの元をリリーが訪ねてきます。実は、この時、リリーは、アルフィーの子どもを身籠っていました。勿論、ハリーはこの事実を知らず、リリーは、ハリーにバレてしまう前に中絶しなければなりませんでした。しかし、イギリスでは、妊娠28日目以降に中絶の手術を受けると、懲役7年の刑に処せられます。リリーが刑を逃れるには、病院に頼らない方法を選択せざるを得ませんでした…。



マイケル・ケイン演じる主人公・アルフィーの、何ともだらしがないプレイボーイ像、そして、最初から最後まで非常にテンポ良く話す狂言回しとしての仕事ぶりが印象的なこの映画は、ビル・ノートン原作の舞台劇が映画化されたものです。1966年に、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞、歌曲賞にノミネートされています。メガホンを取ったのは、ルイス・ギルバート。007シリーズのうち、「007は二度死ぬ」(1967年)、「私を愛したスパイ」(1977年)、「ムーンレイカー」(1979年)と、計3作で監督を務めています。音楽を手掛けたのは、ジャズ・サックス奏者のソニー・ロリンズ。とんでもないプレイボーイの物語を、上品な大人の雰囲気にしています。また、2004年には、アメリカ・ニューヨークを舞台にした、ジュード・ロウ主演のリメイク版が制作されました。



主人公・アルフィーは、ありとあらゆる女性を口説き、肉体関係を結ぶ場合がほとんど。こんなにも多くの女性を口説き続けて、アルフィーは、最後にどうなりたいのか、私は観ていて、全く分かりませんでした。しかし、アルフィーがアニーと別れてしまったあたりから、アルフィーの人生は、音を立てて崩れていきます。アニーとの別れ、リリーの望まぬ妊娠、息子・マルコムとの再会、ルビーによるまさかの行動と、アルフィーがしてきた事の重大さが、ひしひしと伝わってきます。これらの展開を経て、アルフィーはどうなっていくのでしょうか。



最後に、エンドロールについて触れたいと思います。エンドロールには、アルフィーら登場人物のモノクロ写真が登場します。水色一色のレタリング(文字の形や色のアレンジの事)との相性がとても良く、本当にカッコいいです。エンドロールで使われている曲は、バート・バカラックが作曲し、シェールが歌ったテーマ曲「アルフィー」です。私は、1996年に日本のテレビドラマのテーマ曲として使われた、ヴァネッサ・ウィリアムスによるカヴァーしか知らなかったので、シェールによるものを聴くのは、今回が初めてでした。シェールの歌声は、ヴァネッサ・ウィリアムスに負けず劣らず大人っぽい雰囲気で、大人への階段をまた1歩上がった気にさせてくれます。ご興味のある方は、ぜひ両者の聴き比べをしてみてはいかがでしょうか。


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ハクソー・リッジ(2016年 アメリカ・オーストラリア)





物語は、1945年5月、第2次世界大戦末期の日本・沖縄で始まります。当時、沖縄では、アメリカ軍と日本軍による激しい地上戦・沖縄戦が続いていました。沖縄戦の激戦地ハクソー・リッジでは、尊い命を失った大勢の兵士たちが横たわったままの状態で、激しい銃撃戦が繰り広げられ、巨大な炎が方々で上がっていました。そんな悲惨な光景が広がるこの場所で、一人のアメリカ軍兵士が担架で運ばれていきます。彼は、アメリカ陸軍第77歩兵師団の衛生兵・デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)。担架を担ぐ同じ歩兵師団の兵士たちに励まされていたデズモンドは、ただ青空を見つめていました。





沖縄戦から遡る事16年前、1929年、アメリカ・ヴァージニア州ブルーリッジ山脈。まだ幼い少年だったデズモンドは、弟・ハルと一緒に、山道を歩いていました。デズモンドは、自分よりずっと後ろを歩いていたハルに追い付かれると、「頂上まで競争だ。」と勝負を持ちかけられ、それに乗ります。2人は、自分たちより背の高い草を掻き分け、小川を乗り越え、崖をよじ登っていきます。そして、崖を見事に登り切った2人は、嬉しさのあまり、雄叫びを上げますが、デズモンドとハルの父・トム(ヒューゴ・ウィーヴィング)をよく知る大人たちが偶然、崖の下を通りかかり、2人の姿を見つけると、2人をたしなめます。しかし、2人は簡単には大人たちの言う事を聞いてくれず、大人たちは、思わず「父親にそっくりだ。」と小声で皮肉を言うのでした。



その頃、トムは地元の墓地にいました。手には、まだ昼間だというのに、小さなウィスキーの瓶がありました。トムは、ある程度の量のウィスキーを飲むと、残りを墓石に振りかけます。その後、トムが帰宅すると、デズモンドとハルが庭で取っ組み合いの喧嘩をしていました。しかし、トムは、仲裁に入ろうとせず、なんと、殴られた時の防御の仕方をデズモンドにアドバイスします。すると、デズモンドとハルの母・バーサ(レイチェル・グリフィス)が、家の窓から顔を出し、喧嘩を止めようとします。しかし、2人が喧嘩を止める気配は全くありません。デズモンドは、たまたま庭に転がっていた煉瓦を手に取り、なんと、ハルの顔を思いっきり殴ってしまいます。ハルは、煉瓦が顔に当たった衝撃で血が流れ出し、意識を失います。これには、さすがのトムも、「やりすぎだ。」と呟きます。一方、加害者となってしまったデズモンドは、まさかの事態に驚き、体が固まっていました。

ハルは、トムとバーサによって急いで家の中に運ばれ、手当てを受けます。デズモンドも、ハルを心配して様子を見守ります。しばらくして、デズモンドは、その場を離れようとしますが、トムがムチを持って近付いて来ます。幸い、トムの行動に気付いたバーサがトムを制止したおかげで、デズモンドは罰を受けずに済みましたが、バーサは日頃から息子たちを甘やかしている事をトムから批判され、デズモンドも、自分のやってしまった事にまだ少しだけ怯えていました。バーサは、プロテスタント系の宗教組織であるセブンスデー・アドベンチスト教会の敬虔な信徒として、デズモンドをこう諭します。「殺人は最悪の罪。人の命を奪う事以上に重い罪はないのよ。」と。

その後、ハルは、意識を取り戻します。しかし、その日の夜、トムとバーサは大喧嘩を始めてしまいます。デズモンドとハルは、子ども部屋のベッドで横になりながら、両親の怒鳴り声を聞いていました。しばらくして、デズモンドは、バーサを心配して、リビングルームへ行き、ソファーに腰掛けていたバーサに声を掛けます。「父さんは、僕らが嫌いなの?」とバーサに問いかけるデズモンド。すると、バーサは、「そうじゃないの。父さんは、自分が嫌いなの。」と語り始めます。ウィスキーを煽り、乱暴な言葉遣いを止めようとしないのは、本来のトムの姿ではないのです。バーサは、「戦争前のトムの姿を、息子たちに見せてやりたい。」と、いつも思っていました。トムの性格をここまで悪化させたのは、戦争でした。第1次世界大戦の末期に、トムはフランスへ出征。その時、戦友のアーティが背後から銃撃され、無残な姿で命を落とした瞬間を目撃してしまったのです。この日以来、誰よりも戦争を憎むようになったトムは、帰国後、ウィスキーを煽ったり、乱暴な言葉遣いで家族に冷たい態度を取ったりする日々を送るようになったのです。



15年後の1944年。デズモンドは、地元の教会でステンドグラスの清掃作業をしていました。教会の中では、地元の女性たちがオルガンの音に合わせて、賛美歌の練習をしています。デズモンドは、賛美歌の練習が終わると、作業の手を止め、女性たちと一緒に賛美歌の歌い方の良し悪しについて話し始めます。ところが、デズモンドは、その途中、教会の前を通りかかった1台の車が、1人の若い男性・ギルバートを轢くところを目撃してしまいます。デズモンドは、急いで外に出て、ギルバートを助けます。デズモンドは、その場に居合わせた男性に「救急車を呼ぶべきだ。」とアドバイスされますが、デズモンドは、ギルバートの左の太ももから血が噴き出しているのを見て、「(救急車を呼ぶ)時間がない。」と、自身のベルトを外して、それをギルバートの太ももに巻き、止血させます。そして、ギルバートを地元の男性が運転する赤いトラックの荷台に乗せて、自身も荷台に乗り、近くにあるリンチバーグ病院へ向かいます。リンチバーグ病院に到着すると、治療にあたった医師が、ギルバートの左の太ももにベルトが巻かれているのを見て、「君が止血したのか?」とデズモンドに尋ねます。デズモンドが「はい。」と答えると、医師はデズモンドの機転に感心します。



その後、デズモンドは、院内でひたすら献身的に仕事をこなす医師や看護師の姿にじっと見入ってしまいます。そして、看護師の一人であるドロシー(テリーサ・パーマー)に声を掛けます。ドロシーが献血を担当している事を知ったデズモンドは、生まれて初めて献血を行います。献血を行っている間、デズモンドは、ドロシーとは初対面であるにもかかわらず、何の躊躇もなく、かつて医師を目指していた事、しかし、事情があって医学を学べる学校に行けなかった事、自身が住んでいる町・フォートヒルの事などをドロシーに打ち明けます。この時、デズモンドは、今まで感じた事のない居心地の良さを感じていました。翌日、デズモンドは、いつもとは違うお洒落な服に身を包み、ある場所へ出掛けて行きます。なんと、前日に出会ったばかりのドロシーに告白をしに、再びリンチバーグ病院へ向かったのです。告白をした結果、デズモンドは、まず、ドロシーと一緒に、映画館へ映画を観に行く事になりました。しかし、生まれて初めて恋人ができたデズモンドにとって、同年代の女性とコミュニケーションを取るのは、なかなか難しい事でした。デズモンドの口から出てくるのは、医学の質問ばかり。ドロシーとファーストキスをした時も、ドロシーがまだ心の準備ができていない時にやや強引にしてしまい、お互いの歯車がなかなか噛み合いませんでした。



その日の夜、デズモンドは映画館から帰宅し、トム、バーサと一緒に夕食を摂っていました。その時、ハル(ナサニエル・ブゾリック)が軍服に身を包んで帰宅し、皆を驚かせます。実は、ハルは、家族に黙って、アメリカ軍に入隊したのです。フォートヒルから大勢の若い男性たちが出征していくのを見て、「工場で働くだけの自分は、無力なのではないか。」と考えるようになり、ついに、こうして行動に出たのです。「殺人は、最悪の罪。」と、繰り返し息子たちに教えてきたバーサは、ハルの取った行動を責めてしまいます。

ある日の朝、デズモンドは、ドロシーをリンチバーグ病院へ送り届けます。病院に到着した時、デズモンドは、ある決意をドロシーに話します。アメリカ陸軍に入隊する、衛生兵として。カップルとしてお互いに絆を深め、いつ結婚しておかしくないと思っていたドロシーは、デズモンドのまさかの告白に動揺します。そして、「私にプロポーズしない気なの?」と正直に気持ちをぶつけます。勿論、デズモンドは、ドロシーの気持ちを無視するつもりはなく、その場でプロポーズします。こうして、2人は、デズモンドの出征後最初の休暇の時に挙式をする約束をしたのでした。数日後、デズモンドは、ドロシーに見送られ、フォートヒルを離れます。デズモンドは、ドロシーと離れる際に、片手ほどの大きさの聖書を渡されます。そこには、笑顔のドロシーが映った写真が挟んでありました。写真の裏には、「無事に私の元に帰って。愛してる。」とメッセージが書かれてありました。



デズモンドが向かったのは、ジャクソン基地。グローヴァー大尉(サム・ワーシントン)の部隊に配属され、ハウエル軍曹(ヴィンス・ヴォーン)から厳しい訓練を受ける日々が始まります。しかし、幼い頃に人を殺める事の悲惨さをバーサから叩きこまれ、自身も敬虔なセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒となっていたデズモンドは、銃器を手に持つ事を固く拒み、ハウエル軍曹や若い兵士たちから臆病者とみなされ、身体的な暴力や言葉の暴力を受ける日々を送るようになるだけでなく、最初の休暇も取らせてもらえず、軍法会議にかけられる事になってしまいます。

デズモンドは、最初、司法取引で、ハウエル軍曹の命令に背いたという罪を認め、フォートヒルに帰るはずでした。しかし、デズモンドは、あくまで自身の宗教観を守っただけであり、ハウエル軍曹の命令を端から否定した訳ではなかったため、軍法会議が始まる直前になって、無罪を主張します。軍法会議を取り仕切るマスグローヴ准将から、陸軍に志願した理由を問われたデズモンドは、こう答えます。「真珠湾攻撃に衝撃を受けたからです。」と。デズモンドは、地元に住んでいた2人の仲間と一緒に陸軍に志願しました。しかし、2人は、入隊検査で不合格になり、それぞれ自ら命を絶ちました。2人の死後、デズモンドは、兵役を免除され、軍需工場で働いていましたが、他の男性たちが戦死していく中で、アメリカに全く貢献できていない自分が嫌になっていきました。しかし、必要な事とは言え、戦争で人を殺める事は絶対にできません。そこで、デズモンドは、衛生兵になって、負傷した兵士たちを救おうと決意したのです。しかし、デズモンドの主張は通らず、有罪が言い渡されるのはほぼ間違いない状態となります。

ところが、判決が出ようとしていたその時に、ある軍服姿の男性が、2人の兵士たちの制止を振り切って、やって来ます。その人物とは、第1次世界大戦で、戦争の残酷さを嫌という程味わった、デズモンドの父・トムでした。トムの右手には、我が息子を救うためにしたためた1通の手紙がしっかりと握られていました。トムは、マスグローヴ准将に手紙を渡すと、その場を去ります。手紙には、デズモンドのような良心的兵役拒否の権利が議会法で守られている事について触れられていました。勿論、銃を含めた武器を取る命令を拒む権利もそこに含まれています。軍法会議に立ち会っていたステルザー大佐(リチャード・ロクスバーグ)は訴えを取り下げ、デズモンドは、ようやくドロシーと結婚する事ができたのでした。



1945年5月、デズモンドは、既に基本的な軍事訓練と衛生兵としての訓練を終え、第77歩兵師団の衛生兵として、日本の沖縄に出征していました。デズモンドらとすれ違うトラックの荷台には、頭から大量の血を流して戦死した兵士たちが、まるで物のような扱いで、山のように積まれていました。彼らは、先発の第96歩兵師団の兵士でした。第96歩兵師団は、沖縄戦の激戦地となった高さ150メートルの崖「ハクソー・リッジ」に6回登ったのですが、6回とも日本軍に撃退され、最後だった6回目では、壊滅状態に追い込まれていました。デズモンドたちは、兵士の数が大きく減った第96歩兵師団に合流するため、沖縄に来たのです。デズモンドは、第96歩兵師団の衛生兵・シェクター、ペイジと行動を共にする事になりました。シェクターは、「ハクソー・リッジ」での悲劇をデズモンドをはじめとする兵士たちに語り、デズモンドに赤十字の腕章を外す事を勧めます。衛生兵は白地に赤十字の印の腕章を身に付けるだけで、敵に狙われやすいのです。シェクターの口から語られた生の声は、デズモンドに過酷な現実を突きつけたのでした…。



ここで、沖縄戦について少し触れたいと思います。第2次世界大戦中、太平洋の島々を奪っていったアメリカ軍は、次に日本の本土を攻めようとしていました。そのためには、まず沖縄を占領する必要がありました。日本軍は、これに対し、アメリカ軍をなるべく沖縄に留まらせて、時間を稼ぐ持久戦を実行しようと考えました。沖縄が最初に大きな被害を受けたのは、1944年10月の「10・10空襲」です。軍人、民間人合わせて、668人が亡くなりました。1945年3月、アメリカ軍が空襲や海上からの砲撃に続き、沖縄本島の西に浮かぶ慶良間(けらま)諸島に上陸。同年4月1日には、沖縄本島中部の西海岸に上陸します。こうして、沖縄戦が始まりました。その後、アメリカ軍はわずか2週間で沖縄本島を占領。沖縄本島の中部では、アメリカ軍と日本軍による激しい戦いが約40日間続きました。沖縄本島の南部・浦添市にあった日本軍の陣地・前田高地(英語名:ハクソー・リッジ)でも激しい戦いが繰り広げられました。アメリカ軍の衛生兵・デズモンドが、この地でアメリカ軍と日本軍、両方の兵士たちを救った実話を描いたのが、この映画なのです。



この後、物語は、デズモンドたちが沖縄で攻撃に携わるシーンへと続いていくのですが、数多くの遺体のあまりの生々しい再現ぶりに目を覆いたくなりました。胴体から内臓の大部分が飛び出していたり、腐敗がかなり進んでいたり、遺体の周りを野ネズミが行ったり来たりしていたりと、メガホンを取ったメル・ギブソン監督が、戦争の悲惨さを正直に伝えるべく、表現の限界に懸命に挑んでいるという印象を受けました。兵士たちが戦争で命を落とす事は、戦争を知る人と知らない人の両者を、こんなにも悲しくさせるのですね。特に、沖縄戦の場合は、人間がいつ、地上で銃撃によって命を奪われ、体が原形をとどめない状態にされてしまうのかが分からなかったという意味では、恐ろし過ぎたのではないでしょうか。この映画を観ると、沖縄戦での悲劇が後世に語り継がれなければならない理由が、本当によく分かります。戦争映画の中には、ここまで正直に歴史を描いたものがあってもいいのではないかと思いました。



さらにこの後、デズモンドは、数え切れないほどの銃弾が飛び交う中、負傷した第77歩兵師団の兵士たちの救護にあたります。デズモンドは、時々、衛生兵のシェクターから「もう長くはもたない」と、重傷の兵士の救護を諦めるよう言われる事もありますが、兵士が少しでも息をしている事が分かると、救護に全力を注ぎます。最初は、第77歩兵師団の兵士たちを救護していたデズモンドでしたが、ある事がきっかけで、後に日本軍の兵士も救護します。デズモンドは、最終的にこの沖縄戦で75人の負傷兵を救います。そして、1945年10月、その功績が認められ、良心的兵役拒否者では初めて、アメリカ軍兵士最高の名誉である名誉勲章を授与されました。



沖縄戦が終結したのは、1945年6月23日の事でした。死者数は、推計ではありますが、アメリカ軍の兵士、日本軍の兵士、沖縄県民を合わせて、約20万人と言われており、当時の沖縄県民の4人に1人が亡くなった事になります。当時は、家族全員が亡くなったという沖縄県民のケースが多く、戸籍が焼けてしまっている事から、亡くなった人の中には、名前が今も不明のままの人たちがいます。一体誰が亡くなったのか、全く手掛かりが掴めないのは、胸が苦しくなるというか、亡くなった本人に対して大変申し訳ない気持ちになります。次の日曜日は、6月23日です。この映画をぜひご覧になって、沖縄戦で犠牲となった人たちの気持ちに少しでも寄り添っていただけたらと願っています。





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アメリカ中西部の都市・シカゴ。建築家のサム(トム・ハンクス)は、最愛の妻・マギー(キャリー・ローウェル)を病で亡くしたばかり。8歳の息子・ジョナ(ロス・マリンジャー)との2人暮らしになったサムを、友人や同僚は心配していました。ある友人は、料理を作り、レンジで温めるよう言ってくれました。サムの会社の同僚は、自身のかかりつけ医を紹介してくれました。しかし、当の本人は、心配してくれる人の数があまりにも多いがために、うんざりしていました。同僚は、サムに2~3週間、休暇を取る事を勧めます。しかし、サムは、「それだけでは自分は変わらない。思い切って遠くへ引っ越した方がいい。」と考えていました。サムが考えていた引っ越し先は、アメリカ北西部にある、太平洋に面した都市・シアトルでした。サムは、あえて、縁もゆかりもない土地へ行けば、マギーの事を思い出して、気分が落ち込むような事はないだろうと考えていたのです。


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1年半後、東海岸にあるメリーランド州の最大都市・ボルチモアはクリスマス一色です。新聞社「ボルチモア・サン」の記者・アニー(メグ・ライアン)は、同じ新聞社の出版局に勤める婚約者・ウォルター(ビル・プルマン)を連れて、車で実家へ帰省します。帰省して早々、アニーは家族に婚約を報告。父・クリフ(ケヴィン・オモリソン)も、母・バーバラ(ルクランシェ・デュラン)も、兄・デニス(デヴィッド・ハイド・ピアース)も、皆、アニーの婚約を心から祝福します。その後、アニーは、自身の部屋で、バーバラと二人きりになります。バーバラは、アニーに、1着のウェディングドレスを見せます。これは、アニーの祖母の形見。バーバラは、「いつかアニーの結婚が決まったら、アニーに着てほしい。」と考え、長年、大切に保管していたのです。アニーは、祖母の形見を大切に守ってくれた母の想いに感謝します。


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やがて、アニーは、1人で自宅へ戻ります。その途中、アニーは、ラジオから流れる「ジングルベル」のメロディーに気持ちが高ぶり、大きな声で「ジングルベル」を歌います。「ジングルベル」を歌い終えたアニーは、ラジオに手を伸ばし、適当に選局をします。「ジングルベル」の次にラジオから流れてきたのは、さっきとは打って変わって、何のBGMもない「心の相談室」という番組でした。この番組は、精神科医のマーシャ・フィールドストーン(声:キャロライン・アーロン)がDJを務める相談番組です。この日、番組に出演したのは、シアトルに住む一人の少年でした。少年の名前は、ジョナ。1年半前に、最愛の妻・マギーに先立たれた、あのサムの息子でした。ジョナの願いは、「パパに新しい奥さんがほしい」というもの。シカゴに住んでいたサムは、あれから、ジョナと一緒にシアトルに引っ越したものの、未だに元気を取り戻せずにいたのです。

マーシャは、ジョナよりも落ち込みが激しいサムを心配し、ジョナに電話を代わってもらうよう、頼みます。電話の声の主が誰なのかを知らないサムは、ジョナに言われるがままに電話を代わります。最初は、セールスの電話だと思い込んでいたサムでしたが、マーシャから事情を聞かされると、悩みを打ち明けるのを嫌がってしまいます。しかし、マーシャに「これは、ジョナのクリスマスの願いなのよ。」と背中を押され、渋々話し始めます。サムは、マギーを亡くした時の喪失感が凄かった事、今では、元気になっている事を話しますが、近くで話を聞いていたジョナが、「(サムが)夜、眠れていないよ。」と、マーシャに教えます。この日まで、自身が不眠症である事がジョナにバレていないと思い込んでいたサムは、ジョナが自身の事をきちんと理解していたという事実に驚きます。

しばらくの間、「心の相談室」に聞き入っていたアニーは、ダイナー(大衆食堂)に立ち寄ります。アニーがダイナーに入ってみると、ダイナーに置いてあるラジオからも、「心の相談室」が流れていました。ダイナーのスタッフの間でも、話題は「心の相談室」で持ち切りのようです。番組では、若い女性リスナーが、マーシャにサムの住所を教えてもらおうとしていましたが、サムのプライバシーを侵害してしまうため、当然、断られていました。アニーは、車に戻った後も、「心の相談室」を聞いていました。マーシャは、「奥様を愛したように、別の女性を愛する事もできるわ。」サムと励ましていましたが、サムのマギーを思う気持ちが変わる事はありませんでした。アニーは、マギーを思うサムの誠実さに心を打たれ、涙を流します。



こうして、クリスマスが終わり、あっという間に大晦日に。「ボルチモア・サン」の会議室では、企画会議が行われていました。会議の出席者の一人・ベッキー(ロージー・オドネル)は、サムが出演した「心の相談室」の特集を組みたがっていました。たまたま用事があって会議室に入ってきたアニーは、ベッキーの話が耳に入り、話の輪の中に入ります。しばらくの間、話が大いに盛り上がる一同。すると、ベッキーが、話の自然な流れで、突然、アニーに「実際に記事にしてみたら?」と提案します。同じ会議に出席していた男性は、「中年女性が、2000人も、番組に電話をかけてきたんだぞ。」と、でたらめを口にします。そんなでたらめが出るくらい、サムは全米からの注目度が高く、新聞で取り上げられる価値が大いにあったのです。

その日の夜、アニーは、ウォルターと一緒に、カウントダウンパーティーに出席します。BGMに合わせて、ダンスを楽しむ2人。その途中、アニーは、近々ボストンへ出張するというウォルターから、「今度、一緒にニューヨークで過ごさないか?」と誘われます。アニーは、一瞬、笑みを浮かべますが、すぐに、神妙な表情に変わります。アニーには、何か気がかりな事があるようです。そのニューヨークでは、新年の到来を告げる花火が打ち上げられていました。その様子をテレビで観ていたサムは、子ども部屋でジョナを寝かしつけ、家の外に出ます。サムが空に目を向けると、ニューヨークと同じように花火が打ち上げられていました。しばらくして、サムがリビングに戻ると、マギーの幻がサムに近付いてきます。サムは、リビングのソファに横になり、マギーと会話を楽しむのでした。



ある大雨の日、サムとジョナが買い物から帰ってくると、郵便配達の男性が2人を待っていました。「心の相談室」を聞いた大勢の女性リスナーから手紙が届いていたのです。実は、番組の放送後、サムの住所を尋ねる女性リスナーからの電話がラジオ局に殺到し、ラジオ局のスタッフが、ジョナから住所を教えてもらって、彼女たちに伝えたのです。サムは、何の躊躇もなく住所を教えてしまったジョナを叱ります。当然、サムは手紙に目を通すつもりはなく、運命の出会いというものを信じていました。数日後、サムが外出先から帰宅すると、ジョナが、恋人(?)のジェシカ(ギャビー・ホフマン)と一緒に、レコードを聴いて過ごしていました。サムは、ジョナの大人顔負けの行動ぶりに刺激を受け、最近、一度だけデートをしたヴィクトリア(バーバラ・ギャリック)に電話をかけて、食事に誘います。その結果、サムは、次の金曜日に、ヴィクトリアと一緒に、レストランで食事をする事になりました。



アニーは、「心の相談室」の記事の執筆のため、取材活動を続けていました。電話とパソコンを駆使して、サムの情報を集めようとするアニーでしたが、サムと同姓同名の男性はあまりにも多く、取材活動は困難を極めます。しかし、アニーは、粘り強く情報を絞り込み、ついに、あのサムの住所を見つけます。アニーは、早速、サムに手紙を送り、手紙は無事に届きます。しかし、手紙が届いたのは、金曜日。サムが、ヴィクトリアと一緒に、食事に出掛ける日でした。ジョナは、サムより先に、興味津々な様子で手紙を読みます。サムは手紙に見向きもせずに出掛けていこうとしましたが、ジョナに呼び留められ、仕方なくざっと目を通します。ジョナは、アニーの好きな野球選手がサムと同じである事を喜びますが、サムは急いでいて、それどころではありませんでした。



その後、レストランに先に着いたのは、サムでした。サムはテーブルにあった角砂糖をピラミッド型に積み上げて、時間を潰していました。しばらくすると、そこへヴィクトリアが姿を現します。サムが自分を誘ってくれるのをひたすら待っていたヴィクトリアは、この日、ついに夢が叶い、嬉しそうな顔をしていました。これから2人の話が盛り上がろうとしていたその時、レストランに一本の電話が入ります。電話を入れたのはジョナでした。急用ではないのですが、ジョナからサムに伝えたい事があったのです。ジョナは、嫌な顔をして受話器を取ったサムに、「バレンタインデーに、ニューヨークに行かない?」と言い出します。アニーが送ってきたサム宛ての手紙に、「バレンタインデーに、エンパイア・ステート・ビルのてっぺんで逢いたい。」と書いてあったというのです…。



急用ではないのに、サムのデートの現場に電話をかけたジョナ。しかし、ジョナの思惑とは裏腹に、サムはヴィクトリアと仲良くなります。ジョナは、サムを正しく導かなければならないという責任感で頭の中がいっぱいになり、なんと、「心の相談室」に再び助けを求めます。この映画は、ここからラブコメディーの色が濃くなっていきます。映画の後半では、暴走と言っても過言ではないジョナの奮闘ぶり、それに振り回されるサムとアニーのパニックぶりが注目ポイントとなります。



因みに、ジョナが読み上げたアニーの手紙の一節「バレンタインデーに、エンパイア・ステート・ビルのてっぺんで逢いたい。」ですが、これは、ケーリー・グラントとデボラ・カーが主演した映画「めぐり逢い」(1957年)の名シーンから来ています。「めぐり逢い」にも、やはり、エンパイア・ステート・ビルの展望台で2人が会う約束をするシーンがあるのですが、当日、グラント演じるプレイボーイの二流画家・ニッキーは無事に展望台に着きます。ところが、カー演じる歌手・テリーは、タクシーにはねられ、二度と歩く事が出来ない体になってしまいます。テリーにとてつもなく大きなアクシデントがあったのを誰にも知らされないニッキーは、ずっと展望台でテリーを待ち続けるのです。「めぐり逢えたら」では、メグ・ライアン演じるアニーが、自宅で「めぐり逢い」のビデオを観るシーンがあるのですが、アニーは、このシーンの何とも切ない展開に号泣するだけでなく、自身の生活においても大きく影響を受け、先に述べたような手紙を書きます。ご興味のある方は、ぜひ「めぐり逢い」も、チェックしてみてはいかがでしょうか?



さて、ここで、「めぐり逢えたら」の監督と主演にも少し触れたいと思います。監督は、「ジュリー&ジュリア」(2009年)のノーラ・エフロン。主演は、「フィラデルフィア」(1993年)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)、「プライベート・ライアン」(1998年)と、数多くの名作で活躍してきたトム・ハンクスと、「戦火の勇気」(1996年)、「シティ・オブ・エンジェル」(1998年)、「電話で抱きしめて」(2000年)と、こちらも幅広い活躍をしているメグ・ライアンです。「めぐり逢えたら」が大ヒットした後の1998年に、3人は再び「ユー・ガット・メール」でタッグを組み、こちらも大ヒットしました。



「めぐり逢えたら」の後半は、前半の「心の相談室」がもたらす感動とは正反対のドタバタ劇が展開されますが、ラストシーンは、そんな事を忘れさせてくれるくらい、非常にロマンティックな雰囲気が醸し出されています。まさに、笑いあり、涙ありの物語です。最近、個人的に、このようなラブコメディーを映画館で観る機会が少ないせいかもしれませんが、後世に語り継がれるべきラブコメディーだと、改めて感じました。皆さんも、このジューン・ブライドの季節に、この映画をご覧になってはいかがでしょうか。


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サム・ペキンパー 情熱と美学(2005年 ドイツ)


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今回は趣向を変えて、かなり久しぶりですが、ドキュメンタリー映画を取り上げます。タイトルは、「サム・ペキンパー 情熱と美学」です。制作国がドイツなので、カテゴリーを「ドイツ映画」とさせていただいていますが、この映画の舞台は、アメリカとメキシコです。主人公は、ドイツ系アメリカ人の映画監督サム・ペキンパーです。ペキンパーは、1925年にアメリカ・カリフォルニア州フレズノで生まれました。第2次世界大戦時に海兵隊員として従軍し、除隊後は、フレズノ州立大学に入学し、最初は歴史を専攻していましたが、途中で専攻を歴史から演劇に変え、演劇の基礎を学びます。さらに、バイオレンス映画を数多く手掛けた事で知られるドン・シーゲル監督の下で映画の勉強にも励み、映画の脚本の執筆や出演、テレビドラマの出演等をこなし、1961年、「荒野のガンマン」で映画監督デビューします。その後、「ワイルドバンチ」(1969年)、「わらの犬」(1971年)等、徹底的に現実性を追求したバイオレンス映画を次々に手掛け、「バイオレンス映画の巨匠」と呼ばれるようになりました。しかし、仕事のやり方へのこだわりが人一倍強いが故に、仕事のやり方を巡ってスタッフともめたり、私生活では、結婚と離婚を繰り返したり、アルコール依存症を患ったり、コカインに手を出したりと、波乱に満ちた日々を送り、1984年に、59歳の若さで亡くなりました。それでは、あらすじを見ていきましょう。


サム・ペキンパー
河出書房新社
ガーナー シモンズ

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「サム・ペキンパー 情熱と美学」は、1984年10月、アメリカのアップステートニューヨークで行われた、歌手ジュリアン・レノンの楽曲「ヴァロッテ」と「トゥー・レイト・フォー・グッドバイ」のビデオクリップのロケの映像で幕を開けます。ロケの現場の一角で椅子に座っているペキンパーは、スマートな体型で、髪も、口髭も白く、サングラスをかけています。物静かではありますが、話し掛けるのがとても怖いくらい、威厳に満ちています。

ペキンパーの妹のファーン・リア・ピーターは、兄の一人であるサム・ペキンパーのルーツを語っています。かつて、父方の一族は、製材所を所有していました。所有地の中にある山に、「ペキンパー山」と、一族の名を付ける程、家業は繁栄していました。一方、母方はというと、チャーチという、法律家から下院議員に転身した男性がいました。チャーチは、後にペキンパーの母方の祖父になります。ペキンパーは、幼い頃から山を愛していました。猟犬を連れ、大好きな兄のデンヴァーとよく狩りに出ていました。

ペキンパーの伝記の著者ガーナー・シモンズも、ペキンパーのルーツについて語っています。ペキンパーがまだ幼かった頃、ネイティブ・アメリカンの少女2人がペキンパー家の養女に迎えられました。ペキンパーは、当初、それを意識してか、自分で自分の事を「ネイティブ・アメリカンの血筋だ」と周囲に言っていました。しかし、ペキンパーは、オランダからドイツにかけて連なっているフリジア諸島にルーツを持つ、ドイツ系アメリカ人でした。彼の両親は結婚当初からずっと不仲だったようです。なぜなら、両親は、大恋愛の末に結婚したのではなく、チャーチの一存で結婚したからです。ペキンパーの母親は、ペキンパーを可愛がる反面、ペキンパーを抑圧し、支配しようとしました。



ペキンパーの妹・ピーター曰く、父親も、ペキンパーを厳しく躾ける必要性を感じ、ペキンパーをミリタリー・スクールに入学させました。しかし、父親の期待とは裏腹に、ペキンパーはミリタリー・スクールならではの厳しい教えを拒み続けました。受けた罰の数は、歴代トップでした。ペキンパーはミリタリー・スクールを卒業後、海兵隊に入隊します。ペキンパーにとって、海兵隊は、自分らしさと決断力を奪われる場所でした。ペキンパーが実際に海兵隊に入隊して学んだのは、ミリタリー・スクールでの厳しい教育が現場でそのまま役立つ事ではなく、現場での経験、つまり、戦争の悲惨さを目の当たりにする事が、人を確実に成長させるという事でした。



ペキンパーは、生前に、肉声をテープに収めていました。ペキンパーは、海兵隊を除隊した後、フレズノ州立大学に入学。最初は歴史を専攻していましたが、途中で、演劇に方向転換しました。ペキンパーの妹・ピーターは、彼に人生を大きく変えるほどの影響を与えたのは、大学で知り合った演劇学部の学生マリー・セランドだったと考えています。ペキンパーは、生前、こう語っていました。自身は、大学で演劇を学ぶだけでなく、「牛泥棒」、「七人の侍」等の映画をよく観に行き、劇団の夏期公演やテレビ局の裏方の仕事もこなし、ドン・シーゲル監督の下で映画の勉強もしていたと。さらに、ペキンパーは、テレビドラマ「ガンスモーク」の脚本を手掛けたり、テレビドラマ「折れた矢」シリーズに出演したりしました。さらに、「法律なき町」、「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」といった映画にも出演したり、「ライフルマン」、「遥かなる西部」、さらに、「銃にかけた手」と、テレビ西部劇3作で演出を手掛けたりしました。ペキンパーの父親は、「遥かなる西部」をテレビで見た時、とても喜んでくれました。当時の光景が忠実に再現されていたからです。しかし、当時、ペキンパーは、表現の規制と闘わなければならず、やりたい演出をさせてもらえない悔しさを度々味わっていました。こうして、ペキンパーは、映画界に活路を求める事にしたのです。

そんな中、ペキンパーに、ついに、映画監督デビューのチャンスが訪れます。ペキンパーと親交のある俳優ブライアン・キースが、ペキンパーを「荒野のガンマン」の監督に推薦し、それが通ったのです。しかし、「荒野のガンマン」は、脚本の出来映えが酷く、ペキンパーは、手直しをしたかったのですが、当時はそれが禁じられていたため、脚本をそのまま受け入れるしかありませんでした。その後、映画は、撮影が進められ、1961年に公開されました。


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その直後、ややマシな企画がペキンパーの元に舞い込んできます。今度は、脚本の手直しが許されていました。映画のタイトルは、「昼下りの決斗」。この映画を称賛するのは、俳優・作家のR・G・アームストロングです。アームストロングは、大ベテランのウェスタン俳優ジョエル・マクリーとランドルフ・スコットが楽し気に演じている様子が伝わってくると言います。アームストロング曰く、ペキンパーは、2人の引退の花道を見事にお膳立てしたと言っても過言ではないのです。


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俳優・監督・プロデューサーのL・Q・ジョーンズは、ペキンパーの仕事への情熱を語っています。ある時、ある映画がクランクインしてすぐに雪が降りました。しかし、ペキンパーは、一切妥協をしませんでした。天候が回復せず、いったん、ロケ地を撤退した時は、不満タラタラだったそうです。また、ペキンパーは、3時間掛けて撮影する予定だったシーンを、なんと、2日間かけて撮影した事もありました。彼なりに演出のこだわりがあり、誰が何と言おうと、己のやり方を曲げなかった結果、こうなってしまったのです。そのこだわりとは、スタッフ、出演者、スタントマン、それぞれ別々にシーンの趣旨を説明し、出演者同士が趣旨の話をする事を固く禁じるというものでした。このやり方は、当然、全員を混乱させます。そこで、ペキンパーが2~3日掛けて彼らをまとめ上げるのです。こうする事で、西部で暮らした先人たちの流儀が観客に伝わってくるのです。しかし、ペキンパーが実際に手掛けたこだわりの映像は、編集泣かせでした。編集の担当者達は、作業の途中でさじを投げてしまい、結局、ペキンパー自身が編集を行う事になってしまいました。また、この映画の撮影中に、ペキンパーにとって悲しい出来事がありました。ペキンパーの父親が亡くなったのです。ペキンパーは、父親に喜んでもらうべく、父親の言いそうな台詞を散りばめてみせました。しかし、完成した映画を観てもらうという夢は叶いませんでした。その後、映画は、2本立てのおまけとして劇場公開されます。映画は、前評判とは違い、観客や批評家から高く評価され、改めて華々しく再公開されたのでした。



その後、ペキンパーは、メキシコ出身の女優ベゴニア・パラシオスと恋に落ち、周囲の反対を押し切って、結婚します。周囲は、「あまり、長続きしないだろう。」と冷ややかな目で見ていました。案の定、2人は離婚するのですが、後に、ペキンパーがパラシオスに言い寄る形で復縁します。しかし、またしても、2人は離婚。2人は、今度こそ縁が切れてしまったかに思われましたが、その後、なんと、2度目の復縁をします。パラシオスは、「彼を深く愛していたから、3回結婚したの。」と、結婚、離婚、復縁を繰り返した時代を振り返っています。


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ペキンパーは、パラシオスとの結婚を機に、性格が丸くなるのかと思いきや、全くそんな事はなく、相変わらず、仕事の進め方を巡って、スタッフともめてばかりいました。しかし、このような流儀を貫いた事が、1969年公開の映画「ワイルドバンチ」の成功に繋がり、ペキンパーは、バイオレンス映画の巨匠という地位を確立する事になるのです。しかし、…。



ペキンパーと共に仕事をした多くの人々がインタビューに応じているこの映画。他には、女優・プロデューサーのセンタ・バーガー、俳優・作家のマリオ・アドルフ、俳優のジェームズ・コバーン(※コバーンは、2002年に亡くなっているので、生前に撮影されたインタビュー映像が使われています。)らが、ペキンパーの仕事への強いこだわりを熱く語っています。3人の話から、ペキンパーに歩調を合わせなければならなかったスタッフの苦労の大きさがひしひしと伝わってきます。そんなペキンパーとスタッフとの間に入って、交渉役を務めたのが、ペキンパーの仕事のやり方に理解を示していた俳優チャールトン・ヘストンだったそうです。



この映画の最大の注目ポイントは、ペキンパーが携わった映画の予告編や本編の映像、テレビドラマの撮影風景の写真がふんだんに使われている事です。テレビで西部劇を観て育った人達が観たら、きっと懐かしい気持ちになる事間違いなしです。また、個人的には、1971年にペキンパーが監督を務めた映画「わらの犬」で主演を務めた俳優ダスティン・ホフマンのインタビュー映像がとても興味深かったです。映画の後半に登場する映像なのですが、当時34歳だったホフマンは、インタビュアーから「若手俳優を代表する存在ですね。」と話を向けられ、「『卒業』(1967年)は青年役だから若い印象が強いんだろうけど、あれからキャリアを重ね、年を重ね、今や34歳だからね。」と、表情は穏やかでありながら、自分が、演技力ではなく、世間のイメージで見られている現状に怒りを覚え、それをはっきりと口に出していました。俳優を一生の仕事にするという強い決意が感じられる映像でした。



さて、私は、最初に、ペキンパーの私生活について、「私生活では、結婚と離婚を繰り返したり」とご紹介しましたが、私は、この映画を観て、ペキンパーの女性遍歴の凄さに驚かされました。まず、ペキンパーは、フレズノ州立大学で知り合ったマリー・セランドと1946年に結婚しましたが、残念ながら、1961年に離婚しています。その後、離婚と復縁を繰り返す事になる女優ベゴニア・パラシオスと再婚。1972年になると、別の女性と結婚しますが、パラシオスのエピソードを読んでお察しのように、離婚しています。また、結婚はしませんでしたが、1970年代に、秘書のケーティ・ヘイバーと交際していた時期もありました。当時のエンターテイメントの世界ではあまり驚かないような話かもしれませんが、毎日、平凡な人生を送る私には、遥か遠い世界の話にしか見えませんでした。



バイオレンス映画の巨匠として、数々の名作映画を世に送り出したペキンパー。そう言えば、なぜ、この映画の冒頭でビデオクリップの撮影を行っているのでしょうか。ペキンパーは、なぜ、映画とは全く違う仕事をしているのでしょうか。その答えは、この映画の終盤で分かります。気になる方は、ぜひぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。


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リバー・ランズ・スルー・イット(1992年 アメリカ)


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アメリカ・モンタナ州ミズーラ。年老いたスコットランド系アメリカ人の男性ノーマン・マクリーン(アーノルド・リチャードソン)は、山に囲まれたこの町を流れる川で「フライ・フィッシング」と呼ばれる釣りをしながら、若かりし頃の事を思い出していました。「フライ・フィッシング」とは、欧米式の毛針・フライを用いる、イギリス発祥の釣りで、ロッド(釣り竿)を独特のリズムで操るのが特徴です。ノーマンは、子どもの頃、長老派教会で牧師をしていた父親(トム・スケリット)から「フライ・フィッシング」の手ほどきを受けていました。ノーマンは、当時、父親から、こう尋ねられた事がありました。「物を書くのは好きか?」と。その時、ノーマンは、「はい。」と答えました。すると、父親は、ノーマンに次のように命じました。「いつか、家族の物語を書け。その時に初めて、何が起きたか分かる。」と。


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1912年、アメリカ・モンタナ州ミズーラ。当時、この町では、ネイティブ・アメリカンが酒場や売春宿に現れる事が珍しくはなく、町を流れる川には鱒が住んでいました。当時10歳だったノーマン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の家族には、宗教と「フライ・フィッシング」との間に垣根がありませんでした。「フライ・フィッシング」の名手だったノーマンの父親は、週に一度は教会で本業に専念していましたが、礼拝の時によく、「キリストの使徒は漁師だ」と説いており、「フライ・フィッシング」の事が父親の頭から離れた日は1日もありませんでした。ノーマンと8歳の弟・ポール(ヴァン・グラヴェイジ)は、それをよく父親から聞かされては、あれこれと想像を巡らせていました。同じ日の午後になると、父親が礼拝の合間を縫って、ノーマンたちを連れて、散歩に出掛けていました。目的地は、一家が「わが家の川」と呼んでいたブラックフット川沿いの小道でした。小道に辿り着くと、父親は石を幾つか手に取り、ノーマンたちの前で想像の翼を広げていました。また、父親は、この時間を使って、ノーマンたちによく「フライ・フィッシング」の手ほどきをしていました。父親は、いつも性悪説を信じていました。「神のリズムを得て、力と美を取り戻す。」父親にとって、鱒は、救いと同様、神の恩寵によりもたらされるもの。それを得るには、厳しい修練が欠かせないと信じていたのです。ノーマンとポールは、メトロノームを使い、「フライ・フィッシング」独特のリズムの取り方を自分たちの体に染み込ませようと努力を積み重ねていました。


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また、父親は、息子たちの教育に関しても厳しい姿勢を貫いていました。ノーマンは、幼い頃、小学校へ通う事が許されませんでした。父親が、「我が子に教育を施すのは、あくまで親の務めであって、学校の務めではない。」と考え、小学校にそれを委ねるのを酷く嫌がったのです。父親は、教会での説教の準備を進める平日に、ノーマンを書斎に呼び、1対1で、文字の読み書きを教え、「節約を重んじるのは、スコットランド人として大切な事だ。」と言い聞かせていました。ノーマンは、父親の許しが出るまで、何度も何度も文章の書き直しを命じられました。文章を書くのに使う紙を節約するために、短く且つ分かりやすい文章を書く事を求められたのです。そして、父親からようやく許しが出ると、ポールを連れて、川へ「フライ・フィッシング」をしに出掛け、「フライ・フィッシング」を通して、自然の摂理を学んだのです。しかし、2人は、父親による教育だけで育った訳ではありません。2人で町に出掛ける事もよくあり、同じ年頃の少年たちを相手に殴り合いをした事が何度もありました。





2人が帰宅すると、すぐに夕食の時間が始まります。父親、母親(ブレンダ・ブレッシン)、ノーマン、ポールの4人で囲む食卓は、いつも父親の威厳によって、とてつもない緊張感に包まれていました。用意された食べ物を残すのは、言語道断です。ある日、まだわずか8歳のポールが食事を残した時、ポールは父親から最後まで残さず食べるよう言われ、どうしても食べる気になれないポールは、家族が食事を終え、後片付けも終わり、食卓を離れてしまった後も、残した食事を前に座り続けていました。深夜になっても、ポールは席を離れることを全く許してもらえず、夜が明けて、家族が朝食のために食卓に集まっても、まだ座ったまま。ポールは、ついに徹夜をしてしまったのでした。



1917年、アメリカが第1次世界大戦に参戦。町では、働き手となる若い男性が次々と出征し、老人と子どもだけが残りました。ノーマン(クレイグ・シェファー)は16歳になり、森林局で働き始めました。一方、ポール(ブラッド・ピット)は、14歳になり、プールの監視員になっていました。兄弟は、それぞれ熱心に仕事に取り組んでいました。ある日の夜、2人は、車で迎えに来た友人たちと合流し、流れの速い川へ、ボートを漕ぎに出掛けます。しかし、夜が明けて、いざみんなで川の傍まで来ると、流れが激しいあまり、チャブ(マイケル・カドリッツ)をはじめ、誰もが足がすくんでしまいます。結局、ボートを漕ぐのは、ノーマンとポールのわずか2人に。ポールがボートの前方に座り、ノーマンが後方に座って、ボートを漕ぎ始めます。チャブたちは、川の傍の道を使い、走って追いかけます。最初は、激しい流れをものともしない2人。しかし、途中で滝に出たところで、一気に滑り落ちてしまいます。チャブたちは、慌てて2人を探し始めます。探し始めてすぐに、ボートが転覆しているのが見つかりますが、肝心の2人の姿が見えません。しばらくの間、チャブたちがボートの周囲を探していると、物陰からいきなりポールが飛び出し、冗談のつもりでチャブを川の中に突き落とします。チャブが体を起こして、ふと上を見ると、ノーマンが1人で座り込んでいました。2人は、泥だらけになっていましたが、無事だったのです。

2人が帰宅すると、父親が鬼の形相で立っていました。父親は、神様に許しを乞うよう命じ、さらに、家にあったボートが流れの速い川で転覆してしまった事を2人から聞かされると、今度は、働いて弁償するよう命じます。母親は、「2人が帰ってくるまで待たねば」と思い、一睡もせずにずっと待ち続け、2人がようやく帰宅した時には、疲労困憊の表情を浮かべていました。その後、2人は朝食を食べ始めますが、ノーマンの苦手な食べ物がサーディンである事をポールが話し始めた途端に、取っ組み合いの大喧嘩が始まってしまいます。途中で、母親が大喧嘩を目撃し、仲裁に入ります。しかし、2人の拳が母親に命中し、母親は倒れてしまいます。ポールは、ノーマンのせいだと言わんばかりにノーマンを殴り、ノーマンも、殴ったのはポールだと言わんばかりにポールを殴ります。母親は、それでも、「大喧嘩を辞めさせなければ。」と思い、「私が足を滑らせたのよ。」と言い出します。2人は、それぞれ頭上に挙げていた拳を下ろし、ようやく大喧嘩を止めたのでした。2人が取っ組み合いの大喧嘩をしたのは、この時が最初で最後でした。



1919年、ノーマンは、マサチューセッツ州にあるダートマス大学へ進学しました。在学中、ノーマンは、学位取得のために新入生にロマン派の詩を教えて、教える喜びを感じたり、寮でお堅い学友たちと一緒にポーカーを楽しんだりと、充実した日々を送っていました。しかし、大学生活は6年に伸びてしまい、6年間、親元に帰る事は一度もありませんでした。一方、ポールは、地元モンタナ州の大学に進学しました。地元を離れなかったのは、「フライ・フィッシング」への未練が断ち切れなかったためでした。その後、ポールは、大学卒業後に新聞社に記者として就職する事になり、それに伴って、モンタナ州の州都・ヘレナに引っ越します。ポールは、新聞記者になった後、多忙を極め、やがて、家族と疎遠になってしまいます。

1926年春、ノーマンがモンタナ州に帰郷します。ノーマンを乗せた汽車が地元の駅に着くと、両親が迎えに来ていました。その後、両親の暮らす家に着いたノーマンは、早速、父親に呼び出され、書斎へ向かいます。最初、父親の口からは、家族と疎遠になってしまったポールの悪口が飛び出します。そうかと思うと、今度は、大学を卒業したノーマンの進路の話になります。父親は、「牧師になってほしい。」、「教師になってほしい。」など、ノーマンに対して色々と要望があるようでしたが、ノーマンは、父親からの大き過ぎる期待に困惑するばかりでした。



ある日、ノーマンは、ポールに会いに、ヘレナにある新聞社を訪れます。ノーマンがポールと再会したのは、実に数年ぶりの事でした。2人は、再会してすぐに「フライ・フィッシング」の話で盛り上がり、ポールの提案でブラックフット川へ出掛けます。ノーマンは、数年ぶりとなる「フライ・フィッシング」をただ楽しめさえすればいいと考えていました。しかし、実際には、ポールの口から、次から次へと的確なアドバイスが飛び出し、ポールがいかに「フライ・フィッシング」と真剣に向き合っているのかを思い知らされます。ポールは、ノーマンがダートマス大学にいる間に、「フライ・フィッシング」に関する知識が増えていき、兄であるノーマンにあれやこれやとアドバイスができるまでになっていたのです。ポールは、ノーマンにあれこれとアドバイスをした後、1人でどこかへ行ってしまいます。ノーマンは、ポールの姿が見えなくなったのを確かめてから、ポールのアドバイスに従い、その結果、お目当ての魚を手に入れる事ができました。ポールの言った事は本当に間違っていなかったのです。その後、2人はチャブたちと再会します。誰もがすっかり大人っぽい風貌になっていましたが、お互いに思い出話をすると、皆、10代の頃に戻ったような感覚になっていました。



翌日の夜、ノーマンは、チャブと一緒に、独立記念日を祝うイベントに出掛けます。会場内のダンスホールで若者たちがダンスをしているのをチャブと一緒にじっと眺めていたノーマンでしたが、突然、ある女性に一目惚れします。彼女の名は、ジェシー・バーンズ(エミリー・ロイド)。雑貨店の娘であるジェシーには、ハリウッドで暮らす兄・ニール(スティーヴン・シェレン)がいました。ノーマンが女性を好きになったのは、これが生まれて初めてでした。また、同じ頃、ポールも、ネイティブ・アメリカンの女性・メイベル(ニコール・バーデット)と交際を始めていました。しかし、お互いに人種が違うポールとメイベルに注がれる周囲からの視線は、あまりにもひどいものでした…。



1993年に第65回アカデミー賞で撮影賞を受賞したこの映画の原作は、アメリカの作家・ノーマン・マクリーンの自伝的小説「マクリーンの川」です。メガホンを取ったのは、俳優、監督として長きにわたり活躍しているロバート・レッドフォード。俳優としては、「明日に向かって撃て!」(1969年)、「スティング」(1973年)、「大統領の陰謀」(1976年)などが、監督としては、「普通の人々」(1980年)、監督の他に出演もしている「モンタナの風に抱かれて」(1998年)などが有名です。2019年7月には、最新出演作「さらば愛しきアウトロー」が日本で公開予定で、レッドフォードは、この映画を最後に、俳優業を引退する事を明らかにしています。



さて、話は「リバー・ランズ・スルー・イット」に戻りますが、この映画のポイントは、何といっても、クレイグ・シェファー演じる主人公・ノーマンとブラッド・ピット演じる弟のポールです。ノーマンは、6年かけてダートマス大学を卒業しましたが、なかなか進路が決まらず、非常に迷える青年です。しかし、そんなそぶりを全く見せず、常に落ち着いているのが印象的です。一方、ポールは、非常に天真爛漫な笑顔が印象的な青年。ブラッド・ピットがポール役を演じたのは29歳の時ですが、高校生と見間違えてもちっともおかしくないくらいに若々しいです。ノーマンとポールの半生は、至って平凡に見えます。しかし、物語の後半に入ると、突然、2人の立場が逆転する瞬間が訪れます。少々無理のあるお願いなのを承知で申し上げますが、2人の立場が変わる瞬間が訪れるまで、とにかく辛抱強く待つ必要があります。しかし、それを乗り越えた瞬間は、2人の半生が初めて大きく動くのを感じられます。とても、見応えがありますよ。



また、この映画をご覧になって、「フライ・フィッシング」の存在が、(物語の)最初から最後まで、父子の絆を、兄弟の絆を、長年しっかりと繋いでいる事の素晴らしさを感じてほしいです。父親の半生に何があっても、ノーマンの半生に何があっても、さらに、ポールの半生に何があっても、彼らの傍らには、常に「フライ・フィッシング」が寄り添っています。彼らのように、「ライフワーク」と言えるものがあるのは、何とも素敵な事ですね。私も、「ライフワーク」と言える何かを、いつか見つけたいと思いました。


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緑の光線(1985年 フランス)


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ある年の7月2日月曜日、フランス・パリにある会社のオフィスで秘書として働くデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は、勤務時間中に、一本の電話を受けます。電話の声の主は、デルフィーヌの友人・カロリーヌでした。しばらくの間、カロリーヌの声に耳を傾けていたデルフィーヌでしたが、時間が経つにつれて、次第に表情が硬くなっていきます。デルフィーヌは、2週間後にカロリーヌら3人の友人たちと一緒にギリシャでバカンスを過ごす予定になっていましたが、ある事情で中止になってしまったのです。

7月3日火曜日、デルフィーヌは、ただ愚痴を聞いてほしくて、とある小さな公園で友人のマニュエラと待ち合わせます。デルフィーヌの提案で、2人で同じ公園の日陰に移動すると、デルフィーヌは早速愚痴をこぼし始めます。前日に、会社にいる自分の元にカロリーヌから電話があり、ギリシャでのバカンスが中止になってしまったと。マニュエラは、「誰か他の人とどこかへ出掛けては?」とアドバイスするのですが、今のデルフィーヌには、バカンスに出掛ける気力がなく、バカンスに付き合ってくれる仲間もいません。マニュエラは、「2週間あれば、誰かは見つかるよ。」と励まします。デルフィーヌから、「誰なの?」と唐突に訪ねられると、具体的な人物の名前をすぐに挙げられませんでしたが、しばらくして、大きな別荘を所有するラウルの名前を挙げます。デルフィーヌは、ラウルの事を冗談だと受け止めます。そこで、マニュエラは、デルフィーヌに一人旅を勧めます。しかし、本人はいまいちやる気が起きません。そもそも、どこへ旅に出たらいいのかが分からないからです。マニュエラは、スペインに住む自身の祖母の家を勧めます。家は海に面した小さな村にあり、村は観光客で溢れていますが、祖母の家を訪ねたら、部屋を貸してくれるかもしれないのです。それでも、デルフィーヌは、ハンサムな男性との火遊びを好まない事から、やる気が起きませんでした。



7月4日水曜日、デルフィーヌは、パリに住む自身の祖父の家を訪れ、祖父やその家族と食事をします。タクシーの運転手から年金生活者となった祖父の今年の夏の予定は、どこへも行かず、家で家事をこなすのみ。祖父は、昔の思い出や近況を語ります。フォシル峠とスイスとの国境の間にあるジュラ地方へ行った時の事、自分のようにタクシーの運転手が2か月に及ぶ休暇を取るのは不可能だった事、60歳の時に生まれて初めて海を見た事、ある年から友人が所有する田舎の家に行くようになり、2か月の間、動物の世話をしたり、庭仕事をして過ごしている事など、話は尽きませんでした。



7月5日木曜日、デルフィーヌは、淡い緑色の服に身を包み、姉夫婦に会いに行きます。目的は、もちろん、今年の夏のバカンスの過ごし方について相談する事です。因みに、姉夫婦の今年の夏の予定は、アイルランドでのキャンプ。夏の暑さが苦手な幼い息子・アラリックのために涼しい場所でバカンスを過ごそうと考えたのです。デルフィーヌは、あくまで失敗しないバカンスの過ごし方を求めているため、姉夫婦を質問攻めにします。姉夫婦は、嫌な顔一つせずに次々と質問に答えていきます。そして、「一緒にアイルランドへ行こう」とデルフィーヌを誘います。しかし、デルフィーヌは、アイルランドで心からバカンスを楽しめないような気がして、首を横に振ってしまいます。その日の帰り、デルフィーヌは、道端に1枚のトランプカードが落ちているのを見つけます。そのカードは、スペードのクイーンでした。デルフィーヌは、カードを何となく手に取り、裏返して置いていきます。裏返されたカードは、緑色に塗られていました。


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7月6日金曜日、デルフィーヌの元に、2年前まで付き合っていた元恋人のジャン・ピエールから電話が入ります。デルフィーヌは、前日に姉夫婦にバカンスの過ごし方について相談し、南仏にあるジャン・ピエールの別荘を貸してもらうよう頼むという結論に達していました。しかし、実際には、別荘を貸してもらう事はできませんでした。ジャン・ピエールは、しばらくの間、山で過ごす事から、山で一緒に過ごす事をデルフィーヌに提案します。デルフィーヌは、山でジャン・ピエールと一緒に過ごす事に関しては何の問題もないのですが、それ以前に、たった一人で山に向かう事に抵抗があり、どうしても提案を受け入れられませんでした。デルフィーヌは、何事においても、一人で行動するのが怖くてたまらないのです。



7月8日日曜日、この日、住宅街の歩道を歩いていたデルフィーヌは、電信柱に緑色の小さなポスターが貼られているのを見つけます。ポスターには、「自分自身や他人との触れ合いを取り戻そう」と書いてありました。デルフィーヌは、メッセージをざっと読み、その場を去ります。その後、デルフィーヌは、友人のベアトリス、フランソワーズらに会い、お茶を飲みながら色々と語り合います。ベアトリスは、一人旅に抵抗があるというデルフィーヌに団体旅行への参加を勧めます。ベアトリスは、デルフィーヌ自身が旅先で男性と出会う事を夢見ているのを分かっていましたし、デルフィーヌが生涯独身のままでいるのは、寂しくて辛いのではないかと考えていたのです。しかし、デルフィーヌは、団体旅行にも抵抗がありました。ベアトリスは、デルフィーヌには荒療治が必要と感じ、「(悩みを)解決したいなら、行動して!」と厳しい言葉をぶつけます。

しばらくして、デルフィーヌたちの話題は、トランプカードの事に。デルフィーヌは、3日前にスペードのクイーンが落ちているのを見ましたが、それ以前にも、トランプカードが道端に落ちているのを何度も見た事がありました。デルフィーヌは、迷信だろうと思いつつも、何度もトランプカードを見るのには、何らかの意味があるのではないだろうかと考えていました。以前、霊能力のある友人は、今年のデルフィーヌの色は緑色だと教えてくれました。それ以来、デルフィーヌは、緑色のポスターを見かけたり、裏側が緑色に塗られたスペードのクイーンを見たりしました。因みに、緑色のポスターや緑色のトランプカードを見た時、デルフィーヌが着ていたのは、淡い緑色の服でした。デルフィーヌたちの話は、盛り上がっていたかに思われました。

しかし、突然、デルフィーヌが人気のない場所に移って、泣き出してしまいます。フランソワーズが心配して、デルフィーヌに近付き、理由を尋ねてみると、デルフィーヌは、こう打ち明けます。2年前のジャン・ピエールとの破局を未だに引きずっていると。そこで、フランソワーズは、デルフィーヌに、一緒にシェルブールにある自身の実家へ行く事を提案します。



7月18日水曜日、デルフィーヌは、フランソワーズと一緒に、シェルブールを一望できる場所にいました。フランソワーズにシェルブールの名所を色々と教えてもらうデルフィーヌ。しばらくすると、デルフィーヌは、同じ場所に一人の若い男性が立っているのを見ます。フランソワーズは、心の中では新しい恋人との出会いを求めているデルフィーヌを気遣い、デルフィーヌに代わって、男性に声を掛けます。男性の名は、エドワール。エドワールは、シェルブールで暮らす船員で、翌日にアイルランドへ行く予定になっていました。3人は、初対面ながら、話が盛り上がります。しかし、デルフィーヌは、新たな失恋を恐れ、エドワールとの心の距離を縮める勇気が出ません…。



「緑の光線」は、1986年に、第43回ベネチア国際映画祭で、最高賞にあたる金獅子賞を受賞しました。監督・脚本は、エリック・ロメール。ロメールは、1920年に、フランス・コレーズ県チュールで生まれました。高校の教員、フリージャーナリストを経て、1950年に映画批評誌「ラ・ガゼット・デュ・シネマ」を創刊。1951年から映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」で執筆活動を行い、1959年に長編映画「獅子座」で監督デビューを果たしました。ロメールは、キャストやスタッフに女性を数多く起用して、映画を製作するのが特徴です。「緑の光線」も例に漏れず、女性のスタッフが、撮影、録音、製作管理担当と、3人起用されており、男性のスタッフはロメールのみでした。ロメールは、「緑の光線」の他に、「O公爵夫人」(1976年)、「飛行士の妻」(1980年)、「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(1993年)、「グレースと公爵」(2001年)などを世に送り出し、2010年に89歳で亡くなりました。

今回、あらすじを読んでいただいて、お気付きかと思いますが、この映画で、キャスティングが明らかになっている登場人物は、1人しかいません。主人公・デルフィーヌ役のマリー・リヴィエールのみです。今回、私は、他の登場人物のキャスティングが一体どうなっているのか、たっぷりと時間をかけて調べましたが、全く分かりませんでした。大変申し訳ございません。しかし、これには、れっきとした理由がありました。エリック・ロメールが、デルフィーヌ役のキャスティングと映画全体の大まかなあらすじを決めて撮影を始めたため、デルフィーヌ役以外のキャスティングの詳しい記録がないのです。因みに、台詞については、撮影現場において即興的に作られていたそうです。ロメールの仕事のやり方がいかに独自性が強いものなのかが、本当によく伝わってくるエピソードです。



マリー・リヴィエール演じる主人公・デルフィーヌは、失恋のショックを2年間も引きずっています。さすがに、自分を励ましてくれる友人たちや姉夫婦の気持ちを少しは考え、立ち直ってほしいものなのですが…。さらに、デルフィーヌは、エドワールと出会った後、シェルブールにあるフランソワーズの実家で夕食をごちそうになるシーンがあるのですが、ビーガンであるデルフィーヌは、フランソワーズの家族が腕によりをかけて作ったポークソテーを目の前にして、人間に食べられてしまう動物たちの気持ちを延々と代弁します。私自身はビーガンではありませんが、ビーガンの人たちの動物に対する考え方を尊重する事は常識だと考えています。絶対に端から否定してはいけないですし、できる限り尊重すべきだと思います。しかし、デルフィーヌには、ポークソテーを作った本人を追い詰める資格はありません。本人が傷付かないようにというか、お互いに傷付かないような行動の取り方を考えるべきです。例えば、ポークソテーをもっと食べたい人に自分の分を譲るとか、夕食をごちそうになる前に自分がビーガンである事を正確に伝えて、動物性の食品を避けるよう配慮してもらうなどという発想は、デルフィーヌにはなかったのでしょうか。ポークソテーが目の前に出てからあれこれ御託を並べるのは、いかがなものでしょうか。また、デルフィーヌは、シェルブールの子どもたちが自生していた花を摘んでリースを編んで持ってきたのを見て、「自然を破壊したのね。」と正直に意見をぶつけてしまいます。さらに、デルフィーヌは、ヨットに乗る事やブランコに乗る事について、「どちらも酔ってしまうから苦手だ」と告白しています。とにかく、誰に対しても配慮の足りなさが否めない大人です。



この後、デルフィーヌは、自分の殻を破る事ができず、フランソワーズと一緒にパリへ帰ってしまいます。シェルブールの人たちは、「自分たちに不満があったのだろうか。」と残念がります。しかし、デルフィーヌは、フランソワーズが仕事の都合で先にパリへ帰ると知り、「そうなると、私は一人きりになるのと同じだ。寂しくなる。」と考え、フランソワーズについて行く事にしただけだったのです。パリへ戻ったデルフィーヌは、相変わらず過去に翻弄される日々を送りますが、ある日、スコットランドを舞台にしたジュール・ヴェルヌの小説の存在を知ります。その小説のタイトルが、「緑の光線」です。「緑の光線」は、デルフィーヌにどう影響を与えてくれるのでしょうか。この映画のラスト13分間に、その答えが隠されていますよ!


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シンデレラマン(2005年 アメリカ)


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1928年11月30日。この日、ライト・ヘビー級のプロボクサーのジムこと、ジェームズ・J・ブラドック(ラッセル・クロウ)は、アメリカの文化・スポーツの聖地として有名なマディソン・スクエア・ガーデンで、グリフィス(トーマス・カジドロウスキー)との対戦に臨み、わずか2ラウンド1分46秒で、見事にKO勝ちを収めました。ニュージャージー州バーゲン郡出身のジムは、右強打が武器。これまで、一度もKO負けした事がなく、「バーゲン郡のブルドッグ」の異名を持っていました。ジムは、既に体力面での全盛期を過ぎたベテランですが、一部の関係者からは、ヘビー級への転向を求める声が出ていました。この日の対戦で、ジムは、連続KO勝ちの記録を10まで伸ばしました。

対戦を終え、外に出たジムを、サインを求める大勢のファンが待ち構えていました。ジムは、サインを求めるファンの数が多過ぎる事に困惑しながらも、順番に且つ丁寧にサインに応じます。その後、ジムが帰宅すると、妻・メイ(レニー・ゼルウィガー)が出迎えてくれました。さらに、妹のアリス(アリシア・ジョンストン)も、ジムの子どもたちと一緒にジムを出迎えます。ジムは、メイがいつか対戦を観に来てくれる事を願っていました。しかし、メイは、夫が対戦相手に容赦なく殴られる姿を観るのが怖くて、どうしても観に行けませんでした。それでも、メイは、プロボクサーである夫を誇りに思っていました。


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時は流れ、1933年9月25日。世界恐慌が始まって4年目に入っていたある日、ジムは、まだ子どもたちが眠っている間に身支度をしていました。ジムは、夜にフェルドマンとの対戦を控えていました。メイは、ジムのために朝食としてパンケーキを焼いていました。その途中、長女のロージー(アリエル・ウォーラー)が目を覚まし、「私も食べたい」とパンケーキをねだります。メイは、「後でね。」とロージーを諭しますが、ロージーは、結局、長男・ジェイ(コナー・プライス)、次男・ハワード(パトリック・ルイス)よりも先にパンケーキを食べ始めてしまいます。さらに、ロージーは、パンケーキを食べ終わると、ジムの厚意で、ジムが食べるはずだった分を貰い、美味しそうに頬張ります。ジムは、それを見て微笑み、ある場所へ出掛けて行くのでした。

実は、ジムが向かったのは、日雇いの仕事を斡旋してもらうための場所でした。ジムが実際に足を運んでみると、大勢の男たちが「何としても、家族を養わなければ」との想いを抱いて、集まっていました。しかし、この日、仕事を貰う事が出来たのは、わずか9人。ジムは、残念ながら仕事を斡旋してもらえませんでした。当時は、アメリカだけで失業者が1500万人に達していた時代。ジムのような一家の大黒柱が毎日確実に食料を確保するには、毎日、日雇いで働く事で、食費を稼ぐ必要があったのです。


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ジムが帰宅すると、ハワードとロージーが出迎えてくれました。ジムは、ロージーから、ジェイが何かを盗んできた事を聞かされます。ジムがロージーと一緒にキッチンに行ってみると、テーブルに大きなサラミが置いてあり、ジェイとメイが、テーブルを挟んで、ほぼ向かい合うようにして立ち、2人共ずっと黙っていました。ジェイが盗んだのは、近くの肉屋で売られていたこのサラミだったのです。ジムはジェイを説得し、サラミを返しに、父子2人で肉屋へ行きます。そして、肉屋でサラミを返した後、ジェイは、「友達の一人が、貧しさから、伯父さんの家に引っ越す事になった」とジムに告白します。ジェイは、「いつか、我が家も同じ事になるのでは?」とずっと不安になっていたのです。ジェイは、ジムから「物を盗んではいけない。」と注意されます。そして、「二度と物を盗まない」とジムに誓い、涙をこぼすのでした。



やがて、夜になり、ジムの試合の開始時間が近付いてきます。準備万端であるように見えるジムでしたが、実は、最近になって、右の手首を骨折していました。マネージャーのジョー(ポール・ジアマッティ)は、本人から骨折の事実を早く知らせてもらえなかった事に憤りを感じます。ジョーの見立てでは、完治まであと数週間はかかります。それなのに、ジムは、なぜこの試合への出場にこだわるのでしょうか。ジムには、この試合を絶対に放棄してはいけない、れっきとした理由がありました。実は、ジムは、大勢の人たちから借金をしており、少しでも早く返さなければならないのです。ジョーは、骨折した箇所の悪化を防ぐため、違反行為と知りながら、患部をテープで二重に巻きます。

こうして、いよいよ試合のゴングが鳴ります。試合は、5ラウンドの途中まで大きな進展がなく、客席はブーイングの嵐でした。しかし、対戦相手・フェルドマンが突然、左ジャブを繰り出します。ジムの武器は右強打なので、フェルドマンが左ジャブをひたすら続けたら、フェルドマンの勝利は間違いありません。ジムは、時折、得意の右強打で抵抗しますが、フェルドマンの威力にはどうしても勝てません。その後、試合は最終ラウンドを迎えますが、両者による激しい攻撃が再び見られなくなり、結局、レフェリーが試合の中止を宣言。客席からは、食べかけのポップコーンやピーナツが投げられ、あちらこちらで怒号が飛び交います。ジムは、プロモーターのジョンストン(ブルース・マクギル)の命令により、この試合で不甲斐ない戦いぶりを見せてしまった責任を取る形で、ライセンスを剥奪されてしまいます。



ジムは、帰宅後、ライセンスを剥奪された事をメイに打ち明けます。メイは、ジムから事実を聞かされた瞬間、頭の中が不安な気持ちでいっぱいになってしまいます。電気代や暖房代が払えなくなるのではないか。今まで食料品の購入もツケで済ませてきたが、いよいよそれができなくなるのではないか。子どもたちを養えなくなって、子どもたちと離れ離れになってしまうのではないか…。ジムは、「今までの2倍は働く」と言って、メイを安心させようとします。メイは、最初、ジムの言葉に耳を傾ける心のゆとりがなかったのですが、途中でふと我に帰り、「謝らなくていいの。」と、ジムの心の中の罪悪感を和らげようとするのでした。



翌日、ジムは日雇いの仕事を貰う事ができました。この日、ジムが携わった仕事は、港で船に積む重い麻袋を運ぶ仕事でした。しばらくの間、仕事仲間のマイク(パディ・コンシダイン)と一緒に、仕事を進めるジムでしたが、次第に右の手首に痛みが走るようになります。マイクは、ジムの事を、「とっくにピークを過ぎている、あのプロボクサーと同じ名前だ。」とは思っていましたが、まさか、今、自分の目の前にいるのが、本人だとは夢にも思っていませんでした。しかし、マイクは、「ひょっとしたら、この人は本当にプロボクサーかもしれない」と思ったのか、周りにいる人たちがジムの存在に気付かないよう、敢えて黙々と仕事を続けました。ジムは、マイクの気遣いにただただ感謝します。

仕事が終わった後、2人は港の近くのバーに立ち寄ります。マイクは、ジムを相手に、自身の身の上話を始めます。マイクは、かつて株取引だけで生計を立てていましたが、世界恐慌の影響で全財産を失ってしまいました。マイクは、この時ほど、政治家たちの力の無さを痛感した事はありませんでした。「労働組合を作って、政府と戦うんだ!」と、ジムに行動を促すマイク。しかし、ジムは、マイクの考えにあまり共感できませんでした。



1933年12月、人々の貧困ぶりはさらに悪化していました。ジム一家も例に漏れず、経済的に非常に厳しい生活を強いられていました。ロージーは、学費が払えなくなったのを理由に、学校に通えなくなっていました。メイは、電気代が払えなくなり、電気を止められてしまいました。ジムは、一日中、仕事に励んでいましたが、給料は雀の涙ほどしかありませんでした。ジムとメイは、家財道具を次々に売りに出していましたが、いよいよ売りに出しても差し障りがないものが、なくなってしまいました。さらに、ハワードが体調を崩してしまい、メイはハワードを病院へ連れて行きたいと思ったのですが、治療費に回せるお金がなく、何もしてあげられません。ジムは、ボクシングのライセンスを取り戻す方法を考える心の余裕がすっかりなくなり、今日一日を無事に生きるのに精一杯の状態になっていました…。



ジムこと、ジェームズ・J・ブラドックは、実在のプロボクサー(1905年~1974年)。この映画のタイトルになっている「シンデレラマン」は、本人のニックネームです。そんな「シンデレラマン」と呼ばれる程の劇的な人生を歩んだジムの物語を作り上げたのは、ロン・ハワード監督。「バックドラフト」(1991年)、「ビューティフル・マインド」(2001年)など、数々の名作を世に送り出しています。



ボクシングのライセンスを剥奪された後のジム一家の生活ぶりの描写を観ていると、世界恐慌によって人々の日常生活の全てが脅かされてしまう事がいかに恐ろしいのかが、ひしひしと伝わってきます。町の誰もが皆、切羽詰まった状況にあり、誰の生活を先に助けるべきかという優先順位を考えるのは、明らかに無理なのです。皆さんは、中学時代に社会の授業で、そして、高校時代に世界史の授業で、世界恐慌について勉強した事を、どのくらい記憶しているでしょうか。私も、もちろん、世界恐慌について勉強した人間の一人です。当時、私は自分なりに真剣に授業を受けていたつもりですが、それでも、教科書に載っていた文章を読んだり、先生による説明を聞くだけでは、この映画のような、具体的なイメージがなかなかできませんでした。大人になった今、悔やんでも仕方がないのですが、あの時、当事者たちの気持ちを完璧に理解できなくて、今は申し訳ない気持ちでいっぱいです。そして、この映画の製作陣の調査力の高さや正確性の高い描写に感謝しています。



さて、この映画は、ボクシングもテーマの一つなので、ここで、ボクシングの試合のシーンに触れたいと思います。この映画を観るまで、1920年代から1930年代にかけてのボクシングの試合の風景がどういうふうなのか、全く想像ができませんでしたが、実際に試合のシーンを観ると、クラシカルな感じの風景がとても新鮮で、大変興味深く感じられました。リングや、ボクシングトランクス、グローブに使われている色が、今の時代のように眩しい赤や青などではなく、濃い緑、濃い青、赤茶色と、とても落ち着いた色が使われている事、客席のほとんどを男性客が占めている事、リングの傍で、フラッシュをたきながら写真を撮る新聞社のカメラマンの姿、試合の様子をひたすらタイプライターで綴っていく新聞社の記者の姿、ラジオの実況中継に熱が入るキャスターの姿と、昔の時代の日常の風景を観る楽しさが、この映画にはありました。



この映画の前半では、ジムのプロボクサーとしての活躍ぶりや世界恐慌が世の中に与えた影響が描かれました。あらすじを追うのが次第に苦しくなった方も多いかと思います。しかし、後半では、ある事がきっかけで、ジムに希望の光が差し込みます。ジムは、次々に起こる奇跡の連続のおかげで、まるでシンデレラのように輝きを取り戻していきます。メイは、そんなジムの心と体を心配しますが、実は、ジムの身に起こる奇跡にはメイが心配するような要素はなく、奇跡の一つ一つは、ある人物が大切な財産を手放す覚悟をする事によって成り立っていました。後半でジムを待ち受けている奇跡の連続とは、一体何なのでしょうか。気になる方は、ぜひチェックを。


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アイアン・ソルジャー(2014年 アメリカ)





アフガニスタン南部・ヘルマンド州。戦車に乗って移動するアメリカ陸軍の兵士たちの中に、1人だけ女性兵士がいます。彼女は、衛生兵で軍曹のマギー・スワン(ミシェル・モナハン)。移動中、マギーは、一人の男性兵士から、真面目に留守を守ってくれていたはずの彼の妻が親友と浮気をしていた事を聞かされ、同情していました。戦車は、順調に目的地に向かっていたかに思われました。ところが、戦車は、突然、前方から攻撃を受けます。攻撃は、射撃後に光を発しながら飛ぶ事で弾道が分かるようになっている曳光弾(えいこうだん)によるものと思われましたが、実際は、あり合わせの爆発物と起爆装置で作られた手製の爆弾・IED(既製爆弾)が使われていました。マギーは、誰かが衛生兵を呼ぶ声を聞き、戦車の外に出て、激しく飛び交うIEDを避けながら、急いで声の聞こえる方へと向かいます。

マギーを待っていたのは、足に感覚を失う程の重傷を負った兵士・クックでした。マギーは、クックを温かく励まし、救護ヘリを呼びます。救護ヘリが到着するまでの間、マギーはクックを安全な場所に移動させ、応急処置をします。クックの足には、なんと、IEDの一部が刺さっていました。下手に触ると、爆発して、クックだけではなく、マギーも命を落としてしまう事になりかねません。クックは、アメリカを出発する前、「生きて帰る」と、息子と約束をしていました。マギーは、近くにいた兵士に爆発物処理班を呼ぶよう勧められますが、すぐに自ら手術を始める事を決意します。マギーは、爆弾が爆発する音や銃声が聞こえる中、真剣な表情でゆっくりとIEDを引っ張ります。そして、無事にそれを引き抜き、手術は成功に終わります。翌日、戦車に付いた真っ赤な血を、兵士たちが淡々と洗い流しています。マギーは、それを遠くからじっと見つめていました。すると、そこへマギーの上官が現れます。前夜、マギーが手術を執刀した事を耳にしていた上官は、マギーに対し、労を労うのでした。



こうして、マギーは、アフガニスタンでの任務を終え、帰還する事に。アメリカ・テキサス州エルパソにあるフォート・ブリス基地に到着したマギーたちを、大勢の家族が歓声を挙げながら出迎えます。そして、どの兵士も、家族の姿を見つけ、ハグをして、お互いに再会を喜び合います。しかし、マギーは、なかなか家族の姿を見つけられません。仕方なく、1人で帰宅の途に就こうと思い、歩き始めると、ようやく元夫・リチャード(ロン・リビングストン)の姿を見つけます。しかし、リチャードは、5歳になる息子・ポール(オークス・フェグリー)を連れて来ていませんでした。リチャードは、あれやこれやと言い訳をしますが、マギーは、リチャードの言い訳を全て嘘だと見抜いたような気になっていました。「リチャードは、きっと、ポールを自分に会わせたくないだけなんだ。」と思い込んでいました。しかし、リチャードは、「ポールの意思なんだ。説得したけど、来るのを嫌がったんだ。」と説明します。

マギーがアフガニスタンに派遣されたのは、15か月も前の事。その間、ポールは、いつまで経ってもアメリカに帰ってこないマギーの事がすっかり嫌いになり、マギーを自分の母親だと思うのを止めてしまいました。ポールにとって、15か月間はあまりにも長かったのです。また、リチャードも、交際中だったアルマ(エマニュエル・シュリーキー)と1か月前に婚約していました。アルマがリチャードの子どもを身籠ったのが、婚約のきっかけでした。それは、奇しくも、マギーと結婚した時と同じ状況でした。マギーは長い間乗っていなかった愛車に乗り、リチャードが運転する車に誘導してもらう形で、リチャードの自宅へ向かいます。



その頃、リチャードの自宅では、ポールが、夕食を食べていました。どの料理も、アルマが心を込めて作ってくれたものばかりで、ポールは本当に美味しそうに食べていました。アルマは、そんなポールを優しいまなざしで見つめていました。ポールとアルマは、まるで血の繋がった母子のように仲良くしていました。しばらくして、リチャードがマギーを連れて帰宅します。マギーは、ポールの顔を見た瞬間、顔をほころばせますが、ポールは、さっきとは全く違い、無表情に。母子の温度差は、あまりにも大きかったのです。その後、マギーの姿を見たアルマは、「やっとお目に掛かれた。」と、マギーを歓迎します。マギーもアルマの気持ちを受け止めますが、マギーにとっての最優先事項は、あくまでポールと意思疎通を図る事でした。マギーは、ポールに近付き、以前、ポールに寂しい思いをさせないよう、アフガニスタンからテレビ電話をかけた時の思い出を語り始めます。しかし、マギーの気持ちとは裏腹に、ポールは目に涙を浮かべ、アルマにしがみついてしまいます。

マギーは、ポールとの意思疎通を諦め、フォートブリス基地にある仮住まいへ向かう事にします。マギーが、リチャードの手を借りながら、車に荷物を詰めている時、アルマがポールの手を引いて、見送りに来ます。アルマは、たとえポールがマギーを嫌いでも、ポールはマギーに「バイバイ」と挨拶すべきだと思ったのです。しかし、ポールは、マギーやリチャードの目の前で、マギーの事を「ママじゃない」と言い切ってしまいます。リチャードやアルマは、そんなポールを懸命にたしなめます。マギーは、しばらくその光景を見つめていましたが、突然、何を思ったのか、なんと、ポールを抱きかかえます。ポールは、金切り声を立てて、力一杯抵抗しますが、マギーは、全く意に介しません。マギーは、ポールを車の後部座席に座らせ、そのままを仮住まいへ連れて行ってしまいます。



マギーは、全く罪悪感がなかった訳ではありませんでした。しかし、自分がアメリカにいる間は、母親として罪滅ぼしをしなければならないと考えていました。ポールに母親らしい事をしてあげられない自分を、何が何でも許せないのです。マギーは、その日の晩、ポールが眠ったのを確かめて、近くのスーパーへ買い物に出掛けます。マギーは、ただ、ポールに喜んでほしくて、お菓子を大量に購入します。しかし、その間、ポールは、目を覚まして、マギーがいないのに気付き、しばらくの間、「マギー!」と泣き叫びます。泣き叫び始めてから20分後、同じ建物に住む兵士たちがポールの声に気付き、急いで助けに向かいます。そして、ポールのいる部屋の玄関のドアを蹴破ろうとしたその時、マギーがようやく帰宅します。マギーは兵士たちをドアから遠ざけ、鍵を開けて、中に入ります。ポールは、マギーに会いたがっていたのではありません。どうしてもアルマに会いたくて、ずっと泣いていたのです。マギーは、「週末に(アルマに)会えるから。」と言って、ポールを落ち着かせようとするのでした。



翌朝、マギーとポールは、朝食を食べていました。朝食と言っても、シリアルだけという、実に簡素なものでした。朝食の途中、マギーは、ポールにプレゼントを渡します。それは、マギーが「アヒルのアフガニスタン冒険記」とタイトルを付けた、手作りのフォトアルバムでした。フォトアルバムには、マギーがアフガニスタンに派遣される前にポールが大事にしていたお風呂用のアヒルのおもちゃが映った写真や、マギーがアフガニスタンにいた時の写真が数多く収められていました。しかし、ポールにはアヒルのおもちゃの記憶が全然なく、5歳となった今は、アヒルのおもちゃで遊ぶ年齢ではありません。それでもマギーは諦めず、アルバムのページを1枚ずつめくっていき、ポールの心を掴もうとしますが、無駄に終わります。



マギーは、ポールとの関係の修復を断念し、その日のうちに、ポールをリチャードとアルマの暮らす家に連れて行きます。ポールは、ようやくアルマとの再会が叶い、大喜びします。マギーは、キッチンにいたリチャードに声を掛け、ポールに対する不満をリチャードにぶつけます。「ポールが懐いてくれない。」、「ポールは、あの女を母親だと思っている。」と。リチャードは、「あの子の年齢で、15か月は長い。」と、ポールの気持ちを代弁するだけでなく、ポールが夢遊病である事も告白します。マギーがアフガニスタンに向かった後、ポールは、マギーを毎日恋しがり、食事も寝るのも嫌がり、夢遊病になってしまったのです。そんなポールの心の支えになってくれたのが、アルマでした。アルマのおかげで、ポールは明るさを取り戻し、それ以来、ポールは、アルマを自身の母親だと思っているのです。リチャードは、ポールの幸せを守るために、「自分たちがポールを育てた方がいい。」と断言します。マギーは、母親としてのプライドを傷付けられ、ただただ悔しくて、ポールを再び連れて帰ります。



その日の晩、マギーは、自身の父親に電話を掛けます。電話に出てくれた父親は、久々に娘の声を聴き、とても喜んでいました。父親は、マギーがいつ帰還するのかを6週間も前から陸軍に問い合わせていました。「ポールは、(マギーが帰還して)大興奮だっただろう?」と父親が尋ねると、マギーは「大興奮だったわ」と嘘をつきます。さらに、リチャードの近況を尋ねられると、「相変わらずよ」とまた嘘をついてしまいます。父親は、かつて、マギーと同じくアメリカ軍に所属していました。そのため、兵士が戦地から帰還した時の精神的な辛さをよく理解していましたし、マギーが2つも嘘をついている事も見抜いていました。父親は、「耐えるしかない。」とマギーにアドバイスします。マギーは、ポールとの関係を修復するのではなく、もう一度最初から関係を築く決意をするのでした。



翌日、マギーとポールは、お互いに自己紹介する所から始めます。そして、マギーの提案で、郊外の一軒家に引っ越す事に。さらに、マギーは、C中隊第2小隊に再入隊する事になりました。小隊側は、イラク戦争を生き抜いた小隊付軍曹のスティーブンスが事故死したため、一刻も早く後任が必要で、マギーも、「ポールとの関係をもう一度築きたい。」と基地内勤務を希望していたため、両者の思惑が一致したのです。しかし、この小隊には問題がありました。「上官が嫌な奴」との噂が陸軍の中で広まっていたのです。しかし、マギーの中では、上官の噂より、個人的に感じる虚しさの方が大きくなっていました。アフガニスタンにいた時はあんなに帰還を望んでいたのに、実際に帰還してみると、毎日何をして過ごせばいいのか分からなくなってしまったのです。



やがて、マギーは、C中隊第2小隊に再入隊して最初の日を迎えます。マギーは、ポールをシッターに預け、フォート・ブリス基地に向かいます。基地に着いたマギーは、早速、「嫌な奴」と噂されていた上官で大尉のガーヴァー(フレディ・ロドリゲス)と対面します。ガーヴァーは、マギーの活躍ぶりを知っており、「青銅星章(※作戦において英雄的、かつ名誉ある奉仕を行い、成果を挙げたアメリカ軍の兵士に授与される勲章)候補だ」と、マギーを称えます。そして、今から9か月後に、この小隊が海外に派遣される予定である事を打ち明けます。さらに、ガーヴァーは、「なかなか衛生兵に適した兵士が見つからないので、見つかるまでの間、スティーブンスの代わりに小隊付軍曹を務めてほしい」とマギーに頼み、「(この小隊の兵士は)問題児だらけだ。」と、小隊の内情も付け加えるのでした。



マギーとポールの一軒家での生活は、常に順調とは限りません。食事中にポールが食べ物を粗末にすれば、マギーは、仕事の癖で、つい大人も怯えてしまいそうな怒鳴り声で叱ります。車が故障し、修理工のルイス(マノロ・カルドナ)に「修理代が400ドルかかる」と言われた時は、ぼったくりだと思い込み、「30ドルで、40分で修理できる。」と、抗議します。ポールの目の前で、自分があれこれ失敗すると、つい「クソッ!」と言ってしまいます。それでも、マギーは、ポールのために、懸命に生きていました。



ある日、C中隊第2小隊の訓練中、一人の兵士がミスをして、軍曹のブッチャー(ベンガ・アキナベ)から「腕立て伏せを吐くまでやれ。その後、さらに200回だ。」と罰を命じられます。その様子を偶然目撃したマギーは、その兵士の母親が末期がんである事を聞かされていたため、ブッチャーに近付き、腕立て伏せを止めさせるよう、頼みます。しかし、ブッチャーは「厳しく指導しないと、部下にナメられてしまいます。」と抵抗します。マギーは、軍曹としての威厳を見せ、ブッチャーを粘り強く説得。普段から上下関係を重んじるブッチャーは、これ以上、何も言えませんでした。



そんなある日、マギーはガーヴァーから呼び出されます。大隊のアフガニスタンへの派遣が予定より早まり、C中隊第2小隊も、60日以内に出発しなければならなくなったのです。出発は9か月後だと信じていたマギーは、驚きの色を隠せません。しかも、正式な発表があるまでは、この事を内密にしなければなりません。ガーヴァーは、マギーの抱える事情をよく理解しているだけに、心苦しくてたまりませんでした。マギーは、2児の父であるガーヴァーの親心に訴えたら、早過ぎる派遣を考え直してくれるかもしれないと思い、ガーヴァーに父親としての考えを問いかけますが、それでも、ガーヴァーは、マギーの訴えにただただ耳を傾けるしかありませんでした。マギーは、母子の絆を取り戻しかけたポールの前で、どう振る舞えばいいのでしょうか…。



この映画の邦題「アイアン・ソルジャー」とは、「鉄の如く」という意味です。女性、しかも、小さな子どもを持つ母親が主人公の映画というより、体を鍛え抜いた男性が主人公のアクション大作をイメージしてしまいそうになりますが、主人公・マギーがC中隊第2小隊の大尉・ガーヴァーと初めて対面するシーンで、まさに、この言葉そのままの挨拶をする光景を観る事が出来ます。マギーは、ガーヴァーの部屋に向かう途中、兵士たちとすれ違う度に敬礼して、「アイアン・ソルジャー(鉄の如く)」と挨拶をし、相手も敬礼して同じ挨拶をしています。私自身、アメリカ軍にあまり詳しくなくて大変申し訳ないのですが、アメリカ軍では、兵士同士が当たり前のようにこの挨拶をしているものと思われます。



監督・脚本・製作は、クローディア・マイヤーズ。2016年に、シャーリー・マクレーンが夫を亡くした元教師を演じたコメディー映画「素敵な遺産相続」で、ゲイリー・カニューと共同で脚本を執筆しています。



劇中に登場する基地のシーンは、全て、アメリカ軍の全面協力を得て、フォート・ブリス基地で撮影が行われており、どの基地のシーンも、大変見応えのある景色が広がっています。因みに、この映画の原題は、"FORT BLISS"(フォート・ブリス)。まさに、基地の名称そのものです。



マギーを演じたのは、ミシェル・モナハン。モナハンは、「ミッション:インポッシブルⅢ」(2006年)で、トム・クルーズ演じる主人公イーサン・ハントの婚約者ジュリアを演じています。また、「パトリオット・デイ」(2016年)では、マーク・ウォールバーグ演じる主人公トミー・サンダースの妻キャロルを演じています。モナハンは、2008年にプライベートで出産を経験していますが、「アイアン・ソルジャー」では、母親の本能を現実味たっぷりに演じていました。特に、15か月も会えなかった息子・ポールを振り向かせようと、元夫・リチャードや婚約者・アルマの目の前で、ポールを無理矢理抱きかかえるシーンには、「ここまで強引にやるのか?」と驚きましたが、母親の本能を見事に形にしているとも言え、とても印象に残りました。ポールを演じたオークス・フェグリーも、モナハンの熱演に負けないくらいの立派な演技がとても印象に残りました。



この後、マギーは、ポールに、アフガニスタンへ派遣される旨を伝える時を迎えます。ポールはマギーの言葉を冷静に受け止めているように見えましたが、この後、ポールの身に異変が起きます。マギーは、ポールを残してアフガニスタンへ行くべきか、それとも止めるべきか、心が揺れ動きます。マギーは、一人の母親として、最終的にどういう結論を出すのでしょうか。母の日に観る事をぜひお勧めしたい映画です。





E.T.(1982年 アメリカ)


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アメリカのある町の郊外の森に、球形の大きな宇宙船が眩しい光を放ちながら降り立ちます。宇宙船の大きな扉が開くと、宇宙人が次から次へと出て来て、周囲を歩き始めます。そこへ、何台もの車がやって来ます。そして、車の中から、人間の若者たちが降りてきて、懐中電灯を手に、歩き始めます。宇宙人たちは、何が起こったのかがよく分からず、しばらくの間、ビクビクしながら若者たちの様子を見守ります。しばらくして、若者たちが宇宙人たちの気配に気付き、ゆっくりと近付こうとします。宇宙人の一人は、驚き、逃げ出しますが、若者たちは、懸命に後を追いかけてきます。宇宙人は息を切らして走り続けます。そして、ついに宇宙船が見えてきて、宇宙人は安堵の気持ちを抱くのですが、その瞬間、宇宙船がゆっくりと浮き始め、どこかへ行ってしまいます。


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一方、森の近くにある一軒の家では、少年たちがお菓子やジュースを口にしながら、ゲームをして遊んでいました。ある少年は、「注文したピザが、まだ届かない」と愚痴り、ある少年は生放送中のラジオ番組に好きな曲をリクエストすべく、繋がるまで何度も何度も電話をかけていました。そんな彼らの様子を見ていた幼い少年・エリオット(ヘンリー・トーマス)は、「自分も仲間に入れてほしい」と何度も彼らに頼んでいました。


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しばらくして、ようやくピザが彼らの元に届きます。ピザを受け取ったのは、仲間外れにされていた、あのエリオットでした。野球のボールとグローブを持って外に出たエリオットは、ピザを受け取ると、何らかの気配に気付きます。エリオットは、気配のする小さな物置へ近付き、持っていたピザを庭の芝生の上に置いて、野球のボールを投げてみます。すると、すぐにボールが返ってくるではありませんか。エリオットは、思わず驚き、ピザを足で踏んでしまったのに気付かずに、大急ぎで、母・メアリー(ディー・ウォーレス)を呼びに行きます。


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エリオットは、メアリーを呼びに行く前に、少年たちに、物置に誰かがいた事を知らせて、彼らに「(物置に)近付いちゃだめだ。」と警告し、メアリーにも同じように知らせます。しかし、エリオットから話を一通り聞いた彼らは、物置にいるのが誰なのかについて興味を抱き、ナイフを持って、観に行ってしまいます。メアリーが止めようとしても、彼らは聞く耳を持ちませんでした。結局、物置へは、エリオット、メアリー、少年たちと、全員で向かったのでした。



物置に着くと、戸が開いていました。人影はありませんでしたが、地面には動物の足跡のようなものがありました。少年の一人は、それを見て、コヨーテの足跡ではないかと疑います。しかし、一同は、何も見つけられず、物置を後にします。一同が物置を後にすると、物置の戸の奥から指らしきものが出てきます。実は、物置には誰もいなかったわけではありません。物置にいたのは、宇宙船に乗る事ができなかった、あの宇宙人でした。



エリオットは、家に戻った後も、物置の事が気になって仕方がありませんでした。エリオットは、もう一度、今度は一人で、物置へ向かいます。懐中電灯で周囲を照らしながら、「今度こそは。」と思い、歩き続けるエリオット。しばらくして、家の庭の草むらに差し掛かり、懐中電灯で前方を照らしながら歩いていると、突然、何者かと鉢合わせに。鉢合わせになった相手は、あの宇宙人でした。エリオットも、宇宙人も、ただただ驚き、叫ぶだけでした。



翌日、エリオットは、自転車に乗って、近くの森へ出掛けます。前日の夜に鉢合わせになった宇宙人がいるのではと思い、探しに出掛けたのです。森に着いたエリオットは、持ってきたお菓子を撒きながら、「どこにいるの?」と声を掛け続けます。しかし、宇宙人は現れそうにありません。森には、一人の大人の男性も来ていました。エリオットは、男性の姿を見つけると、足早に森を去っていきます。帰宅後、エリオットは、家族と一緒に夕食を摂っていました。エリオットは、前日に宇宙人を見た時の様子を一生懸命説明します。しかし、メアリーも、兄・マイケル(ロバート・マクノートン)も、妹・ガーティ(ドリュー・バリモア)も、宇宙人の存在を信じてくれません。エリオットは、「(メキシコで愛人と一緒に暮らしている)父親なら信じてくれるのに。」と思うのでした。



夕食後、エリオットは、庭に出て、椅子に座っていました。エリオットは、家族の誰もが、自分の言った事を信じてくれず、孤独を感じていました。すると、そこへ宇宙人が静かに近付いてきます。エリオットは、驚きのあまり、体が固まってしまいます。宇宙人は、途中で何度も止まりながら、エリオットに近付いてきます。そして、とうとうエリオットの元に辿り着くと、持っていたお菓子をプレゼントします。



エリオットは、家の中に戻り、宇宙人をおびき寄せようと、宇宙人からもらったお菓子を少しずつ廊下に落としながら、自身の部屋に向かって歩きます。その結果、宇宙人は、エリオットの思惑通り、お菓子をつまみながら、後をついて来て、とうとう、エリオットの部屋に入ってきます。宇宙人の姿を見たエリオットは、宇宙人の前で鼻を引っ掻きます。すると、宇宙人も同じように鼻を引っ掻きます。エリオットがこめかみに人差し指を当てると、宇宙人もこめかみに人差し指を当てます。エリオットが左手を見せ、人差し指を立てると、宇宙人も、左手を見せ、人差し指を立てます。その後、エリオットは、次第に眠くなり、部屋の椅子に腰掛けて、眠るのでした。一方、宇宙船が降り立っていた森では、大勢の大人たちが宇宙船の痕跡を求め、懐中電灯で辺りを照らしながら、歩き回っていました。



翌日、エリオットは、高熱を出したふりをして、学校をサボります。その目的は、自身の部屋で一夜を過ごした宇宙人と一緒に遊ぶ事でした。エリオットは、まず、宇宙人に言葉を教える事から始めます。エリオットは、「僕は、人間。エリオット。男の子。」と自己紹介し、「これは、コーラ。」、「これは、おもちゃ。」と、部屋に置いてあるものを一つずつ説明していきます。宇宙人は、しばらくの間、エリオットの言葉に耳を傾けていましたが、説明の途中で、一つのおもちゃを食べようとします。エリオットは、慌ててそれを止めて、宇宙人の空腹を満たしてあげようと思い、食べ物を取りに冷蔵庫へ向かいます。その間、宇宙人は、愛犬・ハービィに吠えられたり、部屋にあった傘を開いてみたりと、色々な事を経験します。エリオットが部屋に戻ってくると、宇宙人はハービィを警戒してか、部屋にあった縫いぐるみを高く積み上げ、その後ろに隠れていました。



しばらくすると、マイケルが帰宅します。エリオットは、「今度こそは、宇宙人の存在を信じてもらおう。」と思い、マイケルに部屋に来てもらう事にします。マイケルは、まだ宇宙人の存在を信じていませんでしたが、エリオットの熱意に負け、部屋へ向かう事にします。マイケルがエリオットの部屋に入ると、そこには、エリオットの言う通り、宇宙人の姿が。その姿を見た瞬間、マイケルの表情は硬くなってしまいます。すると、そこへガーティもやって来ます。宇宙人は、ガーティを見た瞬間、首をキリンのようにまっすぐ上に長く伸ばします。ガーティは、生まれて初めて見る光景に思わず奇声を上げ、宇宙人も、ガーティの反応に驚き、同じように奇声を上げます。その後、さらに、メアリーも部屋にやって来ます。マイケルやガーティは、自分たちよりもっと宇宙人の存在を信じないメアリーに見つからないよう、慌てて宇宙人をクローゼットに連れて行き、エリオットはメアリーの前で冷静を装います。メアリーは、部屋が散らかっていたため、エリオットが何かを隠している事をすぐに見抜いたかに思われましたが、あまり詮索せずに部屋を出ていきます。この日以来、宇宙人がこの家にいる事は、兄弟3人の秘密となったのです…。



"E.T."は、「ジョーズ」(1975年)と並ぶ、スティーヴン・スピルバーグ監督の代表作です。"E.T."といえば、物語の中盤に登場する、あの自転車で空を飛ぶシーンが、あまりにも有名ですよね。私事で恐縮ですが、実は、私の高校時代の英語の教科書の表紙に、そのシーンの写真が採用されていたり、今から十数年前にUSJを訪れた時に、E.T.のアトラクションで、そのシーンを体験させていただいたりと、以前から、そのシーンだけはなぜかご縁があったのですが、映画自体を観る機会にはなかなか恵まれませんでした。しかし、今回、当ブログの更新のためとはいえ、観る機会が得られて、本当に嬉しいです。ガーティ役を演じた、子役時代のドリュー・バリモアを目にする事ができたのも、本当に嬉しかったです。



ところで、皆さんは、"E.T."の意味をご存知でしょうか。"E.T."とは、"The Extra Terrestrial"を省略したもので、「宇宙人」という意味です。この映画でエリオットたちと出会った宇宙人は、物語の後半で、"E.T."と呼ばれるようになります。今回、"E.T."の意味を知る事ができたのも、嬉しかったです。



今回、この映画を観て、自転車のシーンの他に印象に残ったのは、E.T.が見せる微笑ましい一面でした。エリオットやガーティと鉢合わせになった時の反応や、エリオットの身振り手振りを忠実に真似する真面目さ、さらに、(物語の後半に登場しますが、)エリオットの部屋にあった服を勝手に借りて、着こなす姿など、E.T.が見せる可愛らしさが、とにかく印象に残りました。



しかし、E.T.は、単に可愛らしいだけではありません。エリオットが持っていた図鑑にある太陽系の惑星のイラストから、惑星の部分を立体化させて、エリオットの部屋の床に落としてみたり、しおれていた鉢植えの花を見事に蘇らせたり、人差し指の先を光らせて、エリオットの人差し指の切り傷を治したり、言葉を習得したりと、思わず目を見開いてしまう一面もあります。



そんなE.T.に、やがて、大人たちの魔の手が忍び寄ってきます。私には、大人の人間の都合で、生物の命が危険に晒される事に対して、スピルバーグ監督が警鐘を鳴らしているのではないかと思えました。しかし、この映画は、あくまでSFファンタジー映画です。スピルバーグ監督は、クライマックスで、まさかの展開を用意しています。果たして、E.T.の運命はどうなってしまうのでしょうか。


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ジョイ・ラック・クラブ(1993年 アメリカ)・後編


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※この記事は、「ジョイ・ラック・クラブ(1983年 アメリカ)・前編」の続きです。
前編は、https://watch-movie.at.webry.info/201904/article_4.html





アンメイは、幼い頃から、誰にも内緒で、ある悩みを抱えていました。実は、アンメイは、4歳の時に母親(ヴィヴィアン・ウー)と生き別れていました。母親は、アンメイの父親を亡くしたばかりの頃に、父親のお墓詣りをしたのですが、その時に、通りがかりの大富豪の男性に見初められ、犯されてしまったのです。その事を家族に話すと、家族は皆、激怒し、母親は家を追い出されてしまいました。母親はアンメイと一緒に家を出たがっていましたが、アンメイの祖母から「お前は(家族を裏切ったから)他人だ。」と言われ、アンメイを置いていかざるを得ませんでした。アンメイの首には、あれから数十年が経った今でも、火傷の痕があります。祖母が母親を大声で罵った時、熱いスープが置いてあった食卓を祖母が力の限り叩き、スープがアンメイの首にかかってしまったのです。アンメイが母親と生き別れた後、祖母や伯父、伯母は、アンメイに母親を憎むよう教えました。一方、母親は、大富豪の男性の第4夫人となり、男性の子どもを身籠っていました。その後、母親は無事に男の子を出産しましたが、男性は、母親から男の子を強引に取り上げ、第2夫人に男の子をプレゼントしてしまいました。それ以来、男の子は、第2夫人が産んだ事になったのです。



数年後、アンメイは、母親と再会します。祖母が死の床にあると聞き、見舞いに訪れたのです。伯父や伯母は「恥知らずが戻ってきた!」と罵りますが、毛皮のコートを着て、大きなつばの帽子を被った母親は下を向かず、堂々と前を向いて歩いていました。母親の顔は、アンメイに驚く程似ていました。母親はコートを脱ぐと、左の二の腕をナイフで深く切り、流れ出てきた血をスープに混ぜ、祖母に飲ませました。アンメイが住んでいた土地の古くからの習慣で、親思いの娘は、母親の命を救うために自身の血をスープに混ぜて飲ませるのです。祖母は、力を振り絞り、スープを一口飲みます。母親は涙を流して喜ぶと、家を出ていきます。しかし、伯父や伯母は、まだ母親の過去を恥じていました。「アンメイを母親のような女性にはさせない」と改めて心に誓うだけでした。アンメイは、母親と離れたくありませんでした。そして、必死に制止する伯父や伯母の腕を振りほどいて、母親について行きます。アンメイは、やっと母親と暮らす事ができたのです。



今、アンメイの娘・ローズ(ロザリンド・チャオ)は、夫・テッド(アンドリュー・マッカーシー)との仲がこじれ、娘・ジェニファーを連れて別居しており、離婚を成立させるべく話し合いを進めています。今は、財産分与について話し合いをしようとしている段階です。アンメイは、ローズに問います。「自分の価値をどう思うの?」と。ローズは母からの思わぬ質問に上手く答えられませんでした。ローズがテッドと知り合ったのは、大学時代でした。大学のキャンパスで、テッドから「ノートを貸して」と声を掛けられたのが、きっかけです。その後、ローズは、テッドの両親が開いたパーティーに招待されるのですが、ローズは、テッドの母(ダイアン・ベイカー)に呼ばれ、衝撃的な言葉を耳にします。「我が家はリベラルだけど、将来、息子が夫の会社を継いだら、保守的な人たちと仕事をしなければならないの。」アメリカでは、中国系を含むアジア系に対する差別が、まだまだ根強かったのです。テッドは、その様子を目撃していました。母親が差別的な発言をしているのを生まれて初めて見て、ショックを受けていました。テッドは、ローズたちの元に近付き、ローズを母親から遠ざけます。ローズは、テッドに対して誠意を感じます。この事がきっかけで、テッドとローズは半年後に結婚します。



結婚後、ローズは懸命にテッドに尽くしていました。家事を見事にこなし、テッドが開くパーティーを懸命に支えていました。しかし、テッドは、なぜか、次第にローズへの愛情が冷めていきました。ローズは、テッドを繋ぎ止めるためだけに子どもを欲しがるようになり、やがて、妊娠。娘・ジェニファーを出産します。テッドは、ジェニファーを溺愛しました。しかし、ローズに愛情を注ぐ気力は失ったままでした。理由は、ローズの献身ぶりにありました。テッドは、毎日のように尽くす事だけを考え、自分の意見を全く主張しようとしないローズが嫌だったのです。さらに、テッドの不倫が発覚したり、住み慣れた豪邸を手放さなければならなくなったりと、様々な要因が2人を追い詰めていきました。こうして、2人は別居を始めたのです。



テッドとの財産分与の話し合いを控えていたローズは、テッドの大好物であるピーナツ・バターを使ったパイを作ろうとしていました。パイを作る理由を尋ねるアンメイに、ローズは「悲劇の人でいたいの。ママからの遺伝よ。」と答えます。しかし、アンメイはローズの思惑に気付いていました。ローズは「テッドに大好物のパイを目にすれば、テッドは自分の愚かさに気付き、ローズの献身ぶりに感謝するに決まっている。」と思っているのではないか。アンメイは、ローズの浅はかな考えを見抜いていたのです。アンメイは、ローズに向かって「あんたが愚かだわ。」と正直に意見をぶつけ、娘に自身の母親の姿を重ねるのでした。



アンメイは、母親との同居を始めた頃、母親が自分を大事にしてくれるのではと期待していました。しかし、現実は違いました。母親は、再婚相手・ウーチンやその家族が別荘から帰ってくると、使用人たちの横に立ち、玄関で出迎えなければならないのです。アンメイも母親の横に立っていなければなりませんでした。まず、車から降りてくるのは、ウーチンでした。その後、ウーチンに続いて、正妻が、娘たちに両脇を抱えられてゆっくりと歩いてきました。その次に、第3夫人が娘たちと一緒に歩いてきました。第3夫人は、男の子を授かる事ができず、「ウーチンから離縁を言い渡されるのではないか。」と、ビクビクしていました。そして、最後に歩いてきたのは、第2夫人でした。彼女の横には、あの男の子がいました。第2夫人は、4人の夫人の中で、唯一男の子を授かった事になっていましたが、本当は、ウーチンが4人の夫人の中で一番かわいがっているので、女帝と目されているだけなのです。第2夫人は、アンメイの姿を見つけると、自身が身に付けていた真珠のネックレスをプレゼントします。母親は、「娘には相応しくない」と言って、ネックレスを返そうとするのですが、「相応しいかどうかを決めるのは、私よ。」と言って、受け取りませんでした。アンメイは、お礼の言葉を口にしますが、母親は、第2夫人の行動に納得がいきませんでした。第2夫人と別れた後、母親はアンメイにネックレスを返すよう、説得します。しかし、アンメイの意志は変わりませんでした。母親は、「娘を安売りするような事は、許されない。」と思い、アンメイからネックレスを強引に奪い、花瓶で粉々にしてしまいます。ネックレスの材料は真珠ではなく、なんと、ガラス玉でした。母親の取った行動は、間違っていなかったのです。



しかし、その日の夜、アンメイと一緒に寝ていた母親は何者かにたたき起こされます。たたき起こしたのは、ウーチンでした。ウーチンは、「アンメイを部屋から追い出すか、自分たちの姿を見学させるか決めろ」と母親に命じ、アンメイは使用人の部屋へ移動させられてしまいます。アンメイは、母親との暮らしを実現し、幸せになるはずだったのに、現実は全く違っていました。夫人同士による争い事に巻き込まれ、夜になれば、ウーチンが部屋に入ってきて、邪魔者扱いされてしまう。これでは、わざわざ伯父や伯母と離れた意味がありません。実は、アンメイは、使用人の部屋にいる間、ばあやから、母親がウーチンと再婚したいきさつや、第2夫人が連れていた男の子の出生の秘密を聞かされていました。アンメイから真実を確かめられた母親は、それらを全て素直に認めます。そして、アンメイのいない所で、アヘンの入った餅をたくさん食べ、自ら命を絶ってしまったのです。



母親の死後、アンメイは心を強く持つようになりました。それは、何よりも母親のおかげでした。母親は、わざわざ、ウーチンや夫人たちに仕返しができる日の3日前を選んで、命を絶ったのです。アンメイは、ウーチンたちに向かって、こう言い放ちました。「太陽暦の元日までに悔い改めないと、災いが起きる。」と。ウーチンは、母親を唯一の妻として供養する事、アンメイと男の子を大事に育てる事を約束しました。また、第2夫人は、その日から髪が白くなっていきました。



ジューンは、自宅で、ローズと一緒に、思い出を語り合っていました。そして、スーユアンが亡くなる数か月前に、リンド一家を自宅に招待した時の事を思い出していました。あの時、スーユアンは、得意のカニ料理を振る舞っていました。しかし、楽しいはずの食卓は、次第に険悪なムードが漂うになりました。ジューンがウェバリーからの依頼で手掛け、完璧と称賛されたはずの仕事が、実は手直しをする必要があったのです。ウェバリーは、あくまで忖度のつもりで「完璧ね。」と称賛していたのですが、完璧主義者に育ったジューンは、完璧主義を貫けなかった悔しさを爆発させます。さらに、ジューンは、キッチンで後片付けをしていた時に、スーユアンがカニを食べずに残していたのを見つけたのがきっかけで、スーユアンにも辛く当たります。ジューンは、スーユアンの期待通りの人間になれなかったという罪悪感から、次から次へと色々な言葉を口にします。学校の成績も、就職先もスーユアンの期待通りにならなかった事、スーユアンの望み通りの年齢で結婚できなかった事を、ジューンは涙ながらに口にします。スーユアンはこれらを全て否定し、「あくまで願っていただけだ。」と話します。それでも、ジューンの辛い気持ちに変わりはありませんでした。そこで、スーユアンは、…。



まず、当ブログ史上最も長い、あらすじの紹介文を読んでくださり、ありがとうございます。いや、非常に申し訳ない気持ちです。誠に申し訳ございませんでした。まさか、1作の映画を、全編と後編に分けてご紹介する時が来るとは夢にも思いませんでした。しかも、平成最後の更新で、こうなるとは。次回以降は、もう少しコンパクトにまとめられるよう、努力しますので、令和の時代に変わっても、当ブログをどうぞよろしくお願い致します。



さて、話は、「ジョイ・ラック・クラブ」に戻りますが、あらすじの紹介文がここまで長くなったのは、あらすじのあまりの奥深さにあります。スーユアンとジューンの母娘も、リンドとウェバリーの母娘も、インインとリーナの母娘も、そして、アンメイとローズの母娘も、非常に中身の濃い半生を送っていて、大まかに話しをまとめるのが本当に難しかったです。因みに、上映時間は2時間20分です。私は、この上映時間を非常に短く感じました。原作者のエイミー・タン、メガホンを取ったウェイン・ワン監督、製作総指揮を務めたオリヴァー・ストーン監督とプロデューサーのジャネット・ヤンに、ただただ感謝です。こんなに見応えのある超大作を作ってくださって、ありがとうございました。



皆さんもぜひ、この映画をご覧になって、親の世代の生き方、子の世代の生き方から、時代の流れを感じてみてはいかがでしょうか。平成から令和への時代の移り変わりに、おススメしたい映画です。


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ジョイ・ラック・クラブ(1993年 アメリカ)・前編


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中国系アメリカ人女性・ジューン(ミンナ・ウェン)は、近々、ある人物に会いに、中国を訪れる予定になっていました。ジューンの自宅には、家族、親戚、友人などがジューンの旅の無事を祈るために集まってくれていました。自宅の中は、絶えず英語や中国語が飛び交っていて、とても賑やかです。ジューンがキッチンを覘くと、ジューンの3人の幼なじみの母親たちが、手を動かしながら、料理の仕方を巡って、喧嘩をしていました。その傍らでは、ジューンの父親が料理を手伝っていました。すると、そこへジューンの幼なじみ・ウェバリー(タムリン・トミタ)がジューンの父親にカメラを渡し、写真を撮るよう頼むと、母親たちの方へ小走りします。母親たちの周りには、いつの間にか、それぞれの娘たちが集まっていました。ジューンも、「あなたも、いらっしゃい」と、母親たちに誘われますが、ジューンは4か月前に母・スーユアン(キュウ・チン)を亡くしたばかりだったため、遠慮します。しかし、父親がそんなジューンの背中を押します。ジューンは、一同の輪の中に入っていき、写真に納まるのでした。

写真を撮った後、母親たちは麻雀を始めます。ジューンはスーユアンに代わり、母親たちの輪の中に入っていきます。30年前、スーユアンは、教会仲間のアンメイ(リサ・ルー)、リンド(ツァイ・チン)、インイン(フランス・ニューエン)と一緒に、「ジョイ・ラック・クラブ」を起ち上げました。「ジョイ」は「喜び」、「ラック」は「運」を意味します。彼女たちの普段の活動は、仲間同士で麻雀卓を囲み、食べ物を食べたり、おしゃべりに花を咲かせたりする事でした。毎週、麻雀で「運」を願う。それが彼女たちにとって、唯一の「喜び」でした。彼女たちは、30年間、夢で結ばれていたのです。



ジューンは、麻雀卓のそばにあった1台のピアノの鍵盤に触れます。ジューンは、幼い頃、ピアノを習っていました。ジューンが9歳の時、スーユアンは、ジューンの将来の可能性を固く信じていました。ジューンがピアノ演奏を器用にこなすのを見て、「世界一のピアニストになれる」と信じていたのです。ある日、ジューンは、初めての発表会に向けて、ピアノの練習に励んでいました。しかし、ジューンは、これまで、練習が嫌でサボった事が度々ありました。練習をしない分、演奏が上手くいかないのは当然なのですが、ジューンにピアノを教えていた講師は耳が遠く、ジューンは、練習不足がバレていないと思っていました。ところが、現実はそう甘くはありませんでした。

いよいよ、発表会当日。ジューンは、いよいよステージに立ちます。しかし、ジューンは、客席で見守るスーユアン、リンド、ウェバリーの前で、スーユアンの期待を裏切る演奏をしてしまいます。本番前に、スーユアンの過度な期待から逃れたかったジューンにとっては、望み通りの展開となったのですが、スーユアンは、まさかの展開に、険しい表情を浮かべます。スーユアンは、更なるスパルタ教育が必要と感じ、帰宅後、テレビを観ていたジューンを無理やりピアノの前に座らせます。ジューンは、「私は、ママの夢を叶える道具じゃない」と激しく抵抗しますが、スーユアンは聞く耳を持とうとしません。それでも、ジューンは、スーユアンによる束縛から解放されたくて、「死にたい。ママが中国で殺した赤ん坊みたいに。」と、禁句を口にしてしまいます。実は、スーユアンには、中国からアメリカに移住する前に、双子の娘たちを断腸の思いで手放した過去がありました。



スーユアンの死後、「ジョイ・ラック・クラブ」の仲間たちは、奇跡的に双子の娘たちを見つけ、手紙を送っていました。そして、中国から返事が届いていました。彼女たちは、ジューンの存在を知り、喜んでいました。そして、「一度、中国でジューンに会いたい」と願っていました。「ジョイ・ラック・クラブ」の仲間たちから手紙の存在を教えてもらったジューンは、自分が中国語を全く話せない事もあってか、姉たちに何を話せばいいのかが分からず戸惑ってしまいます。母親の事をよく知る「ジョイ・ラック・クラブ」の仲間たちは、ジューンの無知に驚き、つい叱ってしまいます。ジューンは、母親の人となりを色々教えてもらい、中国に向かう決意をします。しかし、ジューンは、スーユアンが双子の娘たちと生き別れた詳しい経緯をまだ知りませんでした。「ジョイ・ラック・クラブ」の仲間たちは、それをよく知っているだけに、姉たちと会うのを心待ちにしているジューンの姿を見るのが辛くて仕方がありませんでした。



かつて、リンドも、ジューンの母親と同様、中国で辛い生活を送っていました。中国の山間地で生まれ、4歳の時には、15歳になったら許婚と結婚する事を双方の母親が勝手に決め、結婚間近になると、実の母親から預かり者のように扱われていました。母親が、ただ、「嫁ぐ娘を手放したくない」という感情を持たないように、気を付けていただけなのです。その後、リンドは結婚し、一緒に暮らしてきた肉親は、中国の南部に移住しました。結婚式当日、リンドは初めて夫と対面します。驚くべき事に、夫は、リンドより年下の、まだまだ幼い少年でした。その後、リンドは、一人の嫁として、夫、義母に懸命に尽くしていました。しかし、いつまで経っても義母には努力を認められていませんでした。理由は、リンドが子宝に恵まれなかった事でした。義母の望みは、孫を抱く事、しかも、男の子を抱く事でした。義母は、普段のリンドの努力を認めないだけでなく、暴言を吐いたり、平手打ちをしたりして、リンドに辛く当たっていました。リンドは、義母の理不尽な行動に耐えきれなくなり、とうとう嫁ぎ先を出ていきます。夫は、既に妊娠中だった女性とすぐに再婚し、男の子が誕生。義母は、悲願だった孫息子を抱く事ができたのです。



リンドがアメリカに移住してから授かった娘・ウェバリーは、交際を続けてきたリッチ(クリストファー・リッチ)との結婚を間近に控えていました。しかし、ウェバリーは、リンドの事がずっと心に引っかかっていました。なぜなら、リンドがリッチの事をなぜか信頼していなかったからです。ウェバリーは、幼い頃、チェスの名人で、雑誌"LIFE"の表紙を飾る程の天才でした。リンドは、そんな娘を誇らしく思っていました。しかし、ウェバリーは、娘の自慢をし過ぎる母が嫌で嫌でたまらなくて、「チェスを辞めたい」と本気で考えていました。しかし、ウェバリーは、チェスの呪縛からなかなか逃れられませんでした。その後も、チェスの試合に出場していたウェバリーでしたが、急激に実力が衰えていきました。「チェスを辞めたい」と一度は本気で考えた事がウェバリーに与えた影響は、思いの外、大きかったのです。結局、ウェバリーは、名人の座に返り咲く事なく、チェスを辞めてしまいます。この頃から、2人は何かと意見が衝突してしまうようになったのです。



インインも、悲しい過去を背負っていました。インインは、16歳の時に運命の人と出会い、結婚。間もなく、息子を授かります。しかし、夫は、有名な女性歌手と肉体関係にありました。夫は、インインと出会う前からずっと、プレーボーイだったのです。夫は妻子がいる身であるにもかかわらず、夕食の時間に帰宅する事はありませんでした。時には、朝帰りをする事もありました。インインは、そんな夫の帰りをひたすら待つ毎日を送っていました。そして、何日も帰りを待ち続けていたある日、夫がようやく帰宅します。夫の隣には、あの女性歌手がいました。インインを指さして、「あの人、誰?」と尋ねる彼女に、夫は、なんと「娼婦だ。」と答えます。インインは堪忍袋の緒が切れ、自分で皿を割ってしまいます。そして、割ってしまった皿の欠片を手に持ち、夫の体を傷付けようとしたのですが、結局、できませんでした。

その後、インインは、浴室で息子の沐浴をさせていました。この時、インインの頭の中は、自身の青春を夫に捧げてしまった事を後悔する気持ちでいっぱいになっていて、息子の事を考える余裕は全くありませんでした。そんな時、息子がインインの手から滑り落ち、浴槽の底へと沈んでしまいます。インインは、息子の命の危険に全く気付かず、自身の事を考え続けていました。そして、ようやく異変に気付いた時には、息子は既に命を落としていました。数年後、インインは、アメリカに移住します。そして、再婚し、娘・リーナ(ローレン・トム)を授かったのです。



リーナは、息子の死後、すっかり自信をなくしていたインインに似て、気弱な性格に育ちました。リーナは、落ち込む事が多々あったインインを、幼い頃から心配していました。リーナが何を聞いても、インインの表情は固まったままで、何も答えようとしませんでしたが、ただ、一度だけ、「中国で酷い結婚生活を送った。」と教えてくれた事がありました。



やがて、インインの症状は、ある程度ではありますが回復し、今度は逆にリーナの心配をするようになりました。ある日、インインは、結婚したリーナの新居を訪れます。リーナは、インインが自分の新居を見てくれたら、安心してくれるだろうと思っていました。しかし、実際には、その逆で、心配が尽きませんでした。リーナの夫・ハロルド(マイケル・ポール・チャン)は、本当に真面目なのだろうか。冷蔵庫に貼ってあるメモには、一体何と書かれているのか。リーナが何度「大丈夫」と言って、安心させようとしても、インインは不安でたまりませんでした。本当は、リーナは、自分らしさを奪われているのではないか。インインは、そう思っていました。インインの予感は、皮肉な事に的中していました。リーナの結婚生活は常に「対等」を追い求めるものでしたが、実際にはそうはいかなかったのです。家事は上手く折半していましたが、生活費の折半については、会社の社長であるハロルドの収入がリーナの7倍もあった事から、度々揉めていたのです。インインは、リーナの苦しみを察し、リーナに別居を勧めます。今、リーナは、新しい恋人との生活を楽しんでいます。

※「ジョイ・ラック・クラブ(1983年 アメリカ)・後編」へ続きます。

後編は、https://watch-movie.at.webry.info/201904/article_5.html





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フェリスはある朝突然に(1986年 アメリカ)


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アメリカ・シカゴ。ある朝、高校卒業を2か月後に控えていたフェリス(マシュー・ブロデリック)は、いつまでも自宅の自室で寝ていたため、母・ケイティ(シンディ・ピケット)に起こされます。しかし、フェリスは、目は覚ましますが、体調不良を訴え、起き上がろうとしません。本人曰く、熱はないのですが、お腹が痛いとの事。ケイティは、父・トム(ライマン・ウォード)を呼び、どう対応したらいいのかを相談します。トムはフェリスの症状を実際に確かめようとしますが、その時、フェリスは、突然、「テストがあるから」と言い出します。妹・ジーニー(ジェニファー・グレイ)は、フェリスたちの話し声に気付き、部屋に近付きます。ケイティは、フェリスの体調不良をジーニーに説明しようとしますが、ジーニーは「真に受けてるの?」と、ケイティに質問します。ジーニーは、フェリスが仮病である事を見抜いていたのです。しかし、フェリスは学校を休み、トムも、ケイティも、職場に向かいます。そして、ジーニーも、兄を甘やかす両親に不満を抱きながらも、学校へ向かうのでした。


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フェリスは、両親が家を出るとすぐに、テレビの電源を入れ、音楽をかけ始めます。そして、体調不良のふりをしていた自分をまんまと信じてしまった両親の愚かさを口にします。フェリスが仮病で学校を休むのは、今学期だけでなんと、9回目。フェリスが仮病を使うコツは、手を汗ばんだ状態にする事と、両親に「熱はない」と訴える事でした。もし、「熱がある」と訴える相手が、心配性な性格の母親だったら、必ず本人を病院へ連れて行き、仮病がバレてしまうからです。フェリスは、これまで、ありとあらゆる病名を使ってきたので、次は肺を吐いてしまった事にしておくしかありません。フェリスは、晴天の日は、学校に登校するのではなく、一日中、思う存分遊ぶ事が大事だと考えていました。人生は短い。学校での勉強に人生の貴重な時間を費やすなんて勿体ない。とにかく遊びを優先させないと、絶対に後悔してしまう…。





その後、フェリスは、自宅のプールでバカンス気分を味わっていました。しばらくすると、フェリスは、退屈し始めたのか、友人のキャメロン(アラン・ラック)に電話をかけ、自宅に招こうとします。しかし、キャメロンは、心臓病のため、本当に体調がよくありませんでした。それにもかかわらず、フェリスは、それを全く信じようとはせず、「早く車で迎えに来い。その程度では死なないよ。」と無神経な言葉をぶつけるのでした。



一方、ケイティの職場に、一本の電話が入ります。フェリスの学校の学生部長エド・ルーニー(ジェフリー・ジョーンズ)からでした。ケイティは、学校に欠席の連絡を入れ忘れていた事に気付きますが、問題はそれではありませんでした。エドは、フェリスの欠席日数があまりにも多いのを心配して、ケイティに電話を入れたのです。エドは、フェリスが常に学業を軽んじている事に気付いていました。フェリスは、今月だけ勉強を頑張ればいいという訳ではありませんでした。フェリスは、この日の時点で、留年がほぼ決定している状態にあったのです。ケイティは、可愛い息子が留年の危機にある事も、今学期だけで9回も仮病で学校を休んでいる事も、気が付いていませんでした。



そんな深刻な内容の電話の途中で、フェリスの欠席日数が入力されていたエドのパソコンに突然、異変が起きます。フェリスの欠席日数が何者かによって、9日から2日に変えられてしまったのです。犯人は、フェリスでした。以前、フェリスが「車がほしい」と両親にねだった時に、車の代わりに買ってもらったパソコンを使って、遠隔操作を行い、仮病による欠席7回分を帳消しにしてしまったのです。突然の事で頭の中が混乱するエドに、ケイティは「息子は本当に病気なんです。」と伝えます。「仮病を使う子どもは少なくないが、我が息子に限って、絶対にそんな事はない。」と、ケイティはフェリスを心から信じていたのです。



一方、学校内は、フェリスの話題で持ちきりでした。同じ学校に通うジーニーに仮病の真相を確かめようとする生徒もいれば、フェリスに電話をかける生徒もいました。フェリスを「サボりの師匠」と崇拝する生徒もいました。中には、フェリスが腎臓疾患と闘っているという噂を鵜呑みにする生徒もいました。勿論、エドは、このような事態を許す訳にはいきません。しかし、エドの秘書・グレイス(エディ・マックラーグ)は、フェリスのカリスマ性を素直に認めていました。運動部に所属し、バイクが好きなオタクで、尻軽で、チャラい。そんなフェリスを、学校で一番の人気者だと認めていたのです。



学校中が自分の事で持ちきりだとは知らないフェリスは、まだ電話中でした。まだキャメロンの説得にあたっていたのです。「もし、今度の仮病が学校にバレたら、留年が決まってしまう。」だの、「お前のために学校を休んだのに。」だのと、とにかく、あの手この手で、説得を続けるフェリス。しかし、キャメロンの意志は揺るぎません。フェリスは、最終手段として、「15分で来なければ、絶交だ。」と脅します。しかし、小学生の時からフェリスをよく知るキャメロンにとって、この台詞はすっかり聞き飽きたものでした。フェリスは、キャメロンを脅した後、トムからの電話に出て、再び体調が優れないふりをし始めます。その後、フェリスは、キャメロンへの説得をついに断念したかに思わましたが、なんと、自ら車を運転して、キャメロンに会いに行こうとします。しかし、「やっぱり、キャメロンが自分を訪ねてくれるのが筋だ」と思い、車には乗らずに、怒りを爆発させるのでした。



一方、学校では、フェリスの同級生・スローン(ミア・サラ)が、授業中に看護師・フローレンス(ヴァージニア・ケイパーズ)に呼び出されます。スローンの父・ジョージから学校に、スローンの祖母が亡くなったという連絡が入ったのです。エドは、グレイスから、スローンの祖母の訃報を聞かされるのですが、学校に電話を入れたのは、ジョージではなく、フェリスではないかと疑います。なぜなら、フェリスとスローンが一緒に歩いているのを、グレイスに度々目撃されていたからです。すると、そこへジョージから電話が入ります。エドは、声の主がジョージではなくフェリスだと思い込み、フェリスをギャフンと言わせようとします。ところが、電話中に、なんと、フェリスから電話が入ります。エドが疑っていた声の主は、本当にジョージだったのです。エドがフェリスからの電話に出ると、フェリスは「もし、宿題が出たら、妹に伝えて。」と言って、電話を切ります。エドは、ジョージに対してあまりにも失礼な言動を貫いていた事に気付き、顔面蒼白に。エドはただただ平謝りするばかりでした。



しかし、エドが平謝りしていた相手は、ジョージではありませんでした。実は、ジョージになりすましていたキャメロンだったのです。フェリスは自宅からエドに電話をかけ、キャメロンは、結局、フェリスの熱意に根負けして、フェリスの自宅を訪れて、ジョージになりすまして電話をかけ、スローンに至急帰宅するよう伝えていたのです。フェリスは、パリッとしたスーツに身を包み、キャメロンの演技をじっと見つめていました。しかし、キャメロンは次第に罪悪感を覚え、上手く嘘が付けなくなります。フェリスは、そんなキャメロンに対してイライラを募らせ、強引に電話を切ります。自分たちがまんまと騙された事に気付いていないエドとグレイスは、電話が切れた後も、しばらくの間、慌てふためくのでした。



キャメロンは、これ以上フェリスに関わりたくないと思い、帰宅しようとしますが、フェリスが言葉巧みに説得したため、思い止まります。その後、フェリスとキャメロンは、ある場所に向かいます。そこには、1台のスポーツカーがありました。1961年式グランドツーリング。イタリアの名車です。それは、キャメロンの父にとって、命よりも大事な車で、父が3年掛けて修復したものでした。フェリスも、キャメロンも、この車に乗って、スローンを迎えに、学校へ向かうつもりでいました。しかし、いざ車を目の前にすると、キャメロンは、父の気持ちをよく知るだけに、こっそり盗んで乗り回す事に抵抗を覚えます。しかし、フェリスには、そんな想いは関係ありません。ジョージになりすまして、エドを騙すためにわざわざスーツを着てきたのですから。フェリスは、キャメロンの制止を無視して、運転を始めてしまいます。そして、すぐに戻ってきて、「人生、楽しもうよ。」とキャメロンに声をかけます。キャメロンは、罪悪感が消えないまま、助手席に乗り込むのでした…。



「フェリスはある朝突然に」は、日本では知る人ぞ知る映画という位置付けをされている印象がありますが、本国アメリカでは人気が根強い映画です。1990年には、シチュエーション・コメディ(スタジオに、一般の観覧の人たちのために座席を設け、撮影するテレビドラマ)としてテレビドラマ化されています。監督・脚本は、ジョン・ヒューズ。「すてきな片想い」(1984年)や「ブレックファスト・クラブ」(1985年)等、青春映画に定評がある監督です。しかし、2009年に、心臓発作により、59歳の若さで亡くなっています。非常に残念でなりません。



この映画の特徴は、登場人物の役割分担がはっきりしている事です。フェリスは、物語の中で、狂言回しの役割も担っている主人公。最初に両親を仮病で騙すシーンで、カメラに向かって、両親の騙されやすさをクールに語り、物凄い狡賢さを強烈に印象づけています。フェリスの父・トムと母・ケイティは、何度も何度もフェリスに騙されているのに、なぜか全く気付きません。逆に、フェリスの狡賢さに疑問を抱くのは、妹のジーニー、友人のキャメロン、学校の学生部長・エドです。ジーニーは、フェリスに騙される事は全くなく、絶えず怒りの炎を燃やしています。キャメロンは、フェリスの行動に疑問を抱き、それを本人にぶつけますが、小学校時代からの付き合いで、情があるせいか、結局はフェリスと行動を共にしてしまいます。そして、エドは、ジーニーと同様、絶えず怒りの炎を燃やしていますが、気が付けば、フェリスが仕掛けた罠に必ずはまってしまいます。物語がとても分かりやすいのは、何よりも、これらのはっきりとした役割分担のおかげなのです。



物語の後半では、フェリスとキャメロンが、イタリアの名車・グランドツーリングに乗って、学校へ向かい、至急帰宅しなければならないはずのスローンと合流します。学校の玄関で、スローンの父・ジョージが迎えに来るのを、スローンと一緒に待っていたエドは、(自身がスローンと別れた後に)スローンがジョージと思われる人物に駆け寄り、親子同士とはとても思えない、大胆なキスをしているのを目撃し、フェリスがジョージになりすましている事に気付きます。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるエドを、フェリスの妹・ジーニーが偶然、目撃するのですが、ジーニーは、大人を騙す事に相変わらず何の抵抗もない兄を改めて軽蔑します。



そして、エドを騙す作戦を見事に成功させたと思い込んでいるフェリス、キャメロン、スローンの3人は、シカゴの市街地へドライブ旅行に出掛けます。フェリスは、旅行が始まって早々、キャメロンの制止を振り切り、見知らぬ人を買収して、グランドツーリングに好き放題に乗ってもらいます。その後、3人は、ウィリス・タワーから外の景色を眺め、シカゴ証券取引所の一角で結婚観について語り合い、超高級レストランで食事を楽しむために大人の客になりすまし、さらに、リグレー・フィールドで、メジャーリーグのシカゴ・カブスの試合を観戦し、シカゴ美術館で美術鑑賞も楽しみます。劇中、「スター・ウォーズ」のテーマ曲や、ビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」等の往年の名曲がこの映画を彩ります。この旅行は、3人に何をもたらすのでしょうか?ご興味のある方はぜひ。


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パトリオット・デイ(2016年 アメリカ)


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2013年4月14日の夜、アメリカ・ボストン。ある事件の容疑者・ハロルドの自宅に、警察が突入しようとしています。ボストン警察殺人課の刑事・トミー(マーク・ウォールバーグ)は、何度も玄関の扉をノックしますが、返事はありません。トミーは、遂に扉を蹴破り、数人の警察官と一緒に突入します。トミーたちは、すぐにハロルドを発見。ほぼ裸の状態のハロルドは、怯えながら、トミーたちに無実を訴えます。しばらくして、警視総監のエド(ジョン・グッドマン)も現場に駆けつけます。その時、トミーは、ハロルドに対して、事情聴取を行っていました。トミーは、エドの姿を見つけると、「自分は下っ端ではありません。こんな仕事はご免です。」と訴えます。しかし、エドは「自業自得だ。」と訴えを一蹴します。実は、トミーは、「捜査官を蹴って、停職になったらしい」と警察官の間で噂になっていました。トミーは、今、こうして、(本人曰く)事件現場で下っ端の仕事をしているので、停職ではないのですが、何らかの問題行動を起こしたのは、間違いないようです。ボストン・マラソンのスタートの5時間前の事でした。


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午後10時16分、ジェシカ・ケンスキー(レイチェル・ブロズナハン)は、仕事を終えて、夫のパトリック・ダウンズ(クリストファー・オシー)の待つ家に帰宅します。ジェシカは、帰りに、夕食に食べるためのピザを買っていました。ジェシカの首元には、パトリックが全く見た事がないネックレスが光っています。これは、ジェシカが、仕事中に、年老いた男性・フラナガンから、亡き妻の形見として贈られたものでした。フラナガン曰く、がんのステージ4で入院していた妻が、生前、フラナガンからジェシカに渡してほしいと願っていたとの事。ジェシカは、フラナガンとも、妻とも、あまり面識がなかったのですが、フラナガンの気持ちを真正面から受け止める事が大切と考え、ネックレスを受け取ったのです。ジェシカとパトリックは、ワインを注いだグラスを片手に乾杯し、ピザを美味しそうに頬張るのでした。明日は、4月15日。ボストン・マラソンが開催される、愛国者の日(パトリオット・デイ)です。





午後11時28分、マサチューセッツ工科大学。ロボット工学を専攻している女子学生・リーが、研究室で、仲間たちと一緒に作業に没頭しています。そこへ、巡回中だった警察官のショーン(ジェイク・ピッキング)が、物音に気付いて、研究室に入ってきます。ショーンは、製作中のロボットに興味を示したり、リーと一緒に、近々予定されているザック・ブラウン・バンドのコンサートの話をしたりします。ショーンとリーは、とても仲睦まじい様子でした。



日付は変わり、2013年4月15日午前0時55分、トミーの自宅。トミーは、この時間になって、ようやく帰宅します。トミーは、妻・キャロル(ミシェル・モナハン)が既に静かに寝ていたため、起こしたくはなかったのですが、キャロルは、トミーが立てた物音に気付き、目を覚ましてしまいます。トミーは、「翌朝に出勤するための身支度をしていた」と説明し、睡眠の邪魔をしてしまった事を謝ります。そして、一人でリビングルームのソファーに座り、小さな瓶ビールの栓を開け、勢いよく飲むのでした。



夜が明けて、午前6時34分、ボストン・マラソンのスタートの3時間前。ランニングウェアに身を包んだ中国人の青年・ダン(ジミー・O・ヤン)が、スマートフォンのテレビ電話を使って、買ったばかりの黒のベンツを映しています。まだピカピカの愛車を見せている相手は、母国で暮らす両親でした。若い女性にモテたくて買ったのですが、両親は、ただただ息子の労をねぎらうのでした。



午前7時8分。イスラム教徒の若い母親・キャサリン(メリッサ・ブノワ)は、幼い娘に「何か飲む?」と尋ね、娘と一緒にキッチンに向かいます。その途中、キャサリンは、無造作なヘアスタイルの義弟ジョハル・ツァルナエフ(アレックス・ウルフ)が、一人でシリアルを食べながら、パソコンで動画を観ているのを見かけます。ジョハルが観ていた動画は、イスラム過激派組織のメンバーが何人も映っているものでした。



一方、トミーは、自宅の地下のトレーニングルームにいました。トミーは、前夜に扉を蹴破った際に膝を痛めており、トレーニングマシーンを使って、膝の痛みを和らげようとしていたのです。その後、トレーニングルームを出て、キッチンに向かうと、キャロルが警察の制服を用意し、無線のバッテリーも取り替えてくれていました。トミーは、この日、交通誘導係として、ボストン・マラソンのゴール地点・ボイルストン通りに立つ事になっていました。トミーは、「誰も蹴らないでね。」と釘を刺すキャロルに見送られ、出勤するのでした。



午前7時54分、ボストンから西へ11キロの距離にあるウォータータウン。ウォータータウン警察巡査部長のジェフ・ピュジリーズ(J・K・シモンズ)は、自宅のベッドルームで、ベッドで横になっている妻にあれこれ話し掛けながら、身支度をしていました。それが終わると、ジェフは、車に乗って、近所のドーナツ店へ朝食を買いに行きます。この日も、ジェフは、お気に入りのブルーベリーマフィンを買います。ジェフは、「マフィンをくれ」の一言でブルーベリーマフィンだとすぐに気付いてくれた女性店員のティーシャに感謝します。


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午前8時42分、ボイルストン通り。ボストン・マラソンに出場する警視正のビリー(ジェームズ・コルビー)は、トミーの姿を見つけ、声を掛けます。ビリーは、「喜べ。ゴール地点の担当だぞ。」と、トミーを喜ばせたかと思うと、「ヘマをするなよ。」と釘を刺します。トミーの口からは、本格的な仕事の復帰のチャンスをもらった感謝の言葉が出てくる事はありませんでした。ビリーは、少々がっかりし、スタート地点のホプキントンに向かいます。一方、トミーは、膝が酷く腫れてきたのを感じ、キャロルに電話をかけて、大きめのサポーターを持ってきてもらうよう頼みます。



一方、ジョハルの家では、あまり大きくないリュックサックに圧力鍋を懸命に押し込んでいる男性がいました。ジョハルの兄で、キャサリンの夫でもあるタメルラン(セモ・メリキッゼ)です。ジョハルは、何かを企んでいる様子のタメルランの姿を、怯えながら、じっと見ていました。なぜなら、これから、自身もタメルランに協力しなければならないからです。タメルランは、ジョハルを抱きしめ、ジョハルの心の中にある罪悪感をなくそうとするのでした。



午前9時46分、ホプキントン。ビリーや、優勝候補のレリサ・デシサ選手等、様々なランナーがスタートの瞬間を待っています。そして、発生して間もない銃乱射事件の犠牲者への黙とうが26秒間行われ、黙とうが終わった瞬間、いよいよ第117回ボストン・マラソンがスタートします。エリート選手の集団から走り始めたこの大会は、例年通り、順調に進んでいるように思われました。しかし、ボイルストン通りには、誰もが考えられなかった悪夢が潜んでいたのです…。



メガホンを取ったのは、「ハンコック」(2008年)、「バトルシップ」(2012年)のピーター・バーグ監督。原案、脚本も、バーグ監督が務めています。この映画の魅力は、伏線です。ここまで、様々な立場の人物が登場しますが、「どうして、この人が、物語に関係があるの?」と思われるような人物が含まれているように感じられるかもしれません。しかし、全員が伏線です。大なり小なり物語に関係があります。物語の後半に欠かせない人ばかりなのです。前半で、一人一人のシーンをしっかり目に焼き付けておくと、後半の全てのシーンで見応えを感じる事ができますよ。



もう一つの魅力は、臨場感あふれるカメラワークです。ボストン・マラソンの前夜から早朝にかけての人々の何気ない日常、ボストン・マラソンのスタート直前の出場者たち、トミーをはじめとする警察官たちや客席に集まった人々の熱気、そして、テロが発生した時の人々の逃げ惑う姿、倒れたままのカメラが映し出す、血で真っ赤になった被害者の手足。どれも、実際のニュース映像やドキュメンタリー映像を上回る臨場感があり、観る者が本当にボストンにいるような錯覚を起こしてもおかしくありません。ここまで生々しさを感じる映画は、観た事がありません。テロというものがいかに悲惨なのかを伝える時は、言葉だけで伝えるよりも、この映画のような一切妥協のない映像を見せる方がずっと説得力があると思いました。



映画の最後には、登場人物(本人)のインタビュー映像が登場します。残念ながら、トミー本人の姿を見る事はできなかったのですが、ジェシカ、パトリック、ジェフ、ビリー、ダンと、本人たちの生の声は、臨場感あふれる映像に凄みを加えていました。そして、テロ事件を乗り越えた力強さを感じました。


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アメリカのとある保育園では、子どもたちが両親の職業について順番に発表しています。「ママはお医者さん」、「パパは運転手」と、子どもたちは、次々に発表していきます。その中には、「ママは先生」と答えた少年・マックス(ジャスティン・クーパー)がいました。「パパは?」と保育士から尋ねられたマックスは、しばらく考えた後に「ライアー(嘘つき)」と答えます。保育士が思わず「ライアー?」と聞き返すと、マックスは、「裁判所で裁判長とお話するの」と、説明を付け加えます。マックスの父親のフレッチャー・リード(ジム・キャリー)は、弁護士。仕事中のフレッチャーは、困難な依頼も、そうではない依頼も全て引き受け、常に負け知らずで、法廷を離れると、誰に対しても好印象を与えていました。しかし、ここに挙げた頼れる人物像は、どれも、お得意の嘘によって作り上げられたものでした。


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一方、常に多忙なフレッチャーが来るのを、首を長くして待っている人たちがいました。フレッチャーの元妻・オードリー(モーラ・ティアニー)とマックスです。オードリーは、既に待ちくたびれているマックスを優しく元気づけていました。すると、そこへ、フレッチャーが愛車に乗ってやって来ます。マックスは大喜びして、フレッチャーに近付きます。フレッチャーは、たっぷりのサービス精神で、マックスと一緒にはしゃぎます。オードリーは、到着が遅れた理由をフレッチャーに尋ねますが、フレッチャーはジョークで笑わせようとするばかりで、真相は分からずじまいでした。オードリーは、これからフレッチャーがマックスと一緒にプロレスを観に出掛ける事を知ると、呆れ返ってしまいます。すると、そこへ、7か月前からオードリーと交際しているジェリー(ケイリー・エルウェス)が、フレッチャーと同じく、愛車に乗って、やって来ます。ジェリーは、近いうちにボストンに引っ越す予定でした。フレッチャーは、元妻が別の男性と交際をしている事実に、ショックを隠せませんでした。


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その後、フレッチャーは、プロレスの試合会場に行く前に、マックスと一緒に、自身のオフィスに立ち寄ります。オフィスに着いたフレッチャーは、マックスの手を引きながら、受付の女性や、同僚のピート(S.W.フィッシャー)、ランディ(ベン・レモン)らにジョークを飛ばします。しかし、秘書のグレタ(アン・ヘイニー)からは、耳の痛い話ばかり聞かされます。フレッチャーが翌日に控えていたマックスの5歳の誕生日をすっかり忘れ、グレタが気を遣って、フレッチャーの代わりにプレゼントを買ってくれていた事、判事に提出する書類がまだ完成していない事、フレッチャーの母親から掛かってきた電話を5週連続で無視している事、上司のミランダ(アマンダ・ドノホー)との面会をのらりくらりと断っている事など、数え出したらキリがありませんでした。



すると、そのミランダが、なんと、フレッチャーの元を訪ねてきます。ミランダは、フレッチャーに、急を要する、少々面倒な仕事を依頼しなければならなかったのですが、フレッチャーにあの手この手で逃げられていました。フレッチャーがしなければならない仕事とは、文書の作成でした。弁護の依頼をしてきたサマンサ(ジェニファー・ティリー)の証言を、大至急、文書にまとめなければならないのです。サマンサは、なんと、ケネス(クリストファー・マイヤー)をはじめとする7人の男性と浮気をしてしまい、夫・リチャード(エリック・ピアポイント)から離婚を切り出されてしまった人物でした。しかし、サマンサの証言は、驚くべき事に、全てが嘘でした。



一方、オードリーは、ジェリーと一緒に、レストランでディナーを楽しんでいました。その途中、オードリーは、ジェリーからプロポーズされます。さらに、ジェリーは、オードリーやマックスにも、ボストンに来てほしいと願っていました。しかし、オードリーは、すぐに返事ができませんでした。自身の離婚後も、マックスとフレッチャーがずっと大の仲良しのままだったからです。



翌日の早朝、フレッチャーは、自宅で、ミランダから依頼された仕事を必死にこなしていました。しばらくすると、そこへ、マックスが眠い目をこすりながらやって来ます。マックスの姿を見つけたフレッチャーは、「ハッピー・バースデー!」と祝福し、自身に代わってグレタが買ってくれたプレゼントを、あたかも自身が買ってきたかのように楽しそうな顔で渡します。プレゼントの中身は、マックスの好きな野球のセットでした。マックスは、グローブやロサンゼルス・ドジャースの帽子などを手に取り、大喜び。「ぼくは野茂だ。パパは、ホセ・カンセコだよ。」しかし、フレッチャーは、山のような量の仕事を優先させなければならず、せっかくの誕生日を父子一緒に過ごすのは全くもって不可能でした。結局、マックスは、オードリーやジェリーと一緒に誕生日を過ごす事になりました。



フレッチャーは、マックスと過ごす時間を泣く泣く削った事で、どうにか文書を完成させます。そして、オフィスへ向かい、ミランダ同席の下、サマンサと面会します。最初は、ミランダやフレッチャーに嘘の証言をしてしまった事に罪悪感を覚えるサマンサでしたが、フレッチャーは、そんなサマンサに、「あなたは仕事人間の犠牲者だ」と自信を持たせます。すると、サマンサはフレッチャーに飛びつき、片手をフレッチャーの臀部までゆっくりと伸ばしながら、お礼を言い、その場を去っていきます。その後、ミランダもフレッチャーに近付き、フレッチャーの仕事ぶりを褒めた上で、いきなり、フレッチャーの唇を奪うのでした。



一方、マックスはというと、誕生日パーティーの真っ最中でした。オードリー、ジェリー、そして、たくさんの友だちに囲まれ、幸せそうなマックス。マックスは、バースデーケーキのロウソクの火を吹き消す前に、オードリーから、願い事を1つだけ考えるよう、促されます。この時、マックスが願ったのは、フレッチャーが1日だけ嘘をつかない事でした。マックスは、自身の大切な誕生日にもかかわらず、仕事を優先したフレッチャーの事を裏切り者だと思っていたのです。マックスは、願い事を心の中で唱えると、ロウソクの火を一気に吹き消します。



この瞬間、フレッチャーは、全く嘘をつけない長い1日が始まります。早速、自身の唇を奪ったミランダに本音をぶつけて、激怒させてしまうフレッチャー。今まで、誰に対してもほとんどジョークしか言ってこなかったのに、なぜ、急に、自分の意に反して、正直な気持ちが口をついて出て来てしまうのか、フレッチャーは、原因が全く分かりませんでした。そして、この正直さのせいで、フレッチャーは、様々な場面で騒動を巻き起こしていくのです…。



ここまで、ジム・キャリー演じるフレッチャーは、大き過ぎる程の声のトーンでコミカルなトークを披露し、やり過ぎなくらいの動きであちらこちらを走り回ります。特に、ジャスティン・クーパー演じる息子のマックスに対しては、父子の絆を保つのに必死になっているのがよく分かります。しかし、ここで満足するのは、まだ早いですよ。マックスがバースデーケーキのロウソクの火を吹き消した瞬間、それらは、何十倍にも、何百倍にもアップします。まさに、ここから、ジム・キャリーの本領発揮です。限界の限界まで、両目と口を開き、ひたすら観る者を笑わせ続け、「最後はどうなるのか」と、期待を抱かせてくれます。



メガホンを取ったのは、コメディー映画の名手であるトム・シャドヤック監督。エディ・マーフィ主演の映画「ナッティ・プロフェッサー」シリーズで有名です。シャドヤック監督は、映画監督、脚本家、プロデューサー、コメディアンと、多彩な顔を持ち、ジム・キャリーとは、「エース・ベンチュラ」(1994年)、「ブルース・オールマイティ」(2003年)でも、タッグを組んでいます。



物語の終盤、フレッチャーは、ある事がきっかけで、遂に我に帰ります。そのシーンでのフレッチャーのキャラクターの切り替えは、実に見事で、思わずホロリとさせられます。コメディー映画は、笑わせてくれるシーンの数々よりも、実は、こういうホロリとさせられる瞬間が、見応えがあるのだという事を改めて感じました。笑いあり涙ありの、この正統派コメディー映画で、平成のラスト1か月間を楽しく過ごしてみてはいかがでしょうか?


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アメリカ・オクラホマ州オクラホマシティー。かつてはバレエダンサーだったディーディー(シャーリー・マクレーン)が、ラジオをかけながら、たった一人で、忙しそうに家事をこなしています。ラジオから流れていたのは、ニューヨークを練習拠点にしているアメリカ・バレエ団がオクラホマシティーで開催する予定の公演の案内でした。この日、ディーディーは、家族で外出する予定になっていました。ディーディーと同じく、元バレエダンサーの夫・ウェイン(トム・スケリット)、長女・エミリア(レスリー・ブラウン)は、ディーディーの事を全く気にかけず、リビングルームで、ラジオから流れる音楽に合わせて、バレエの真似事をしています。長男のイーサン(フィリップ・サンダース)はというと、庭に出て、一人で、バレエのジャンプの真似をしています。そして、次女のジャニーナ(リサ・ルーカス)は、キッチンで果物を頬張りながら、ディーディーに向かって、ネックレスのダメ出しをしていました。このネックレスをディーディーにくれたのは、ディーディーのバレエダンサー時代からの親友・エマ(アン・バンクロフト)でした。エマは、バレエ一筋に生きるために、結婚という道を選ばず、今も、アメリカ・バレエ団の公演で活躍を続けていました。


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こうして、ディーディー一家は車に乗り込みます。向かった先は、オクラホマシティーにある劇場でした。一家は、アメリカ・バレエ団の公演を観に出掛けたのです。終演後、ディーディーは、劇場の舞台裏で、公演に出演したフレディ(スコット・ダグラス)と再会します。さらに、ディーディーは、アメリカ・バレエ団の主宰者・アデレイド(マーサ・スコット)、世界的な振付師・マイケル(ジェームズ・ミッチェル)との再会も果たします。そこへウェインも合流し、ウェインも、ディーディーと同じように、アデレイドやマイケルとの再会を喜びます。さらに、ディーディーとウェインは、舞台で打ち合わせ中だったエマとも再会を果たします。その様子を背後から見ていたエミリアは、ディーディーに手招きされ、エマと再会します。実は、エマは、エミリアの名付け親。エマは、ディーディーやウェインだけでなく、エミリアにとっても非常に大切な存在なのです。エミリアには、エマのような立派なバレエダンサーになるという夢がありました。



ある日、イーサンは、オクラホマシティーにある、ロジャース・バレエ学校を訪れます。ここは、ウェインが経営し、自ら講師を務めるバレエ学校です。ディーディーも、受付窓口のスタッフとして働いています。この日、イーサンは、学校の野球部の試合に出場した帰りに、ここに立ち寄ったのです。普段、イーサンにとって、野球はただの退屈な時間。イーサンは、ただ、ウェインのバレエレッスンを受けてみたくて、このバレエ学校を訪れたのです。ディーディーは、あまり野球を楽しめていないイーサンを心配していましたが、イーサンにとって、そんな事はどうでもいい事でした。しかし、イーサンがここにやって来た時、ウェインによるバレエレッスンは既に開始時間を過ぎていました。イーサンは、残念ながら、念願だったバレエの指導を受ける事ができず、帰宅の途に就くしかありませんでした。



一方、エミリアは、かねてから抱いていた夢を叶えるべく、アメリカ・バレエ団付属バレエ学校の入学試験を受けます。結果は、見事合格。しかし、エミリアは、入学の意思をバレエ団側に伝えていませんでした。エミリアにとって、念願だったアメリカ・バレエ団への入団は、人生の大きな節目。それ故に、じっくりと考えてから、バレエ学校への入学をするか否かを決めたいというのです。家族は皆、なぜ、エミリアが返事を保留にするのか、よく理解できませんでした。特に、ディーディーは、(エミリアを含めた3人の子どもたち全員に言える事なのですが)エミリアには、オクラホマシティーに一生留まってほしいとは、全く考えていませんでした。しかし、エミリアが入学を躊躇する本当の理由は、一つの恐怖心でした。もし、本格的にバレエダンサーへの道を歩み始めたら、何かを犠牲にして生きていかなければならないのではないかと思っていたのです。エミリアは、何を犠牲にするのが具体的に分かっていませんでしたが、とにかく何らかの恐怖心を抱いているのは確かでした。しかし、ウェインが「今、自分がしたいのは何?」と、エミリアに問うた事で、エミリアは迷いが吹っ切れます。



こうして、エミリアは、ニューヨークにあるアメリカ・バレエ団付属バレエ学校に入学し、本格的にバレエダンサーへの道を歩み始めます。ディーディーも、何かと妬みの多い世界に足を踏み入れた娘を心配し、エミリアに同行します。エミリアは、来る日も、来る日も、教室のバーにつかまり、バレエの基本的な姿勢を徹底的に頭に叩きこむ日々を送ります。やがて、右足の親指の付け根にタコができ、それでも、エミリアは懸命にレッスンに励みます。ディーディーは、そんなエミリアの努力ぶりに、尊敬の念を抱きます。やがて、イーサンも、奨学金を得て、エミリアと同じく、ニューヨークでバレエを学ぶようになります。通学時には、ディーディーが付き添っていましたが、イーサンは、それが恥ずかしくてたまりませんでした。



ある日、エマは、若手振付師のアーノルド(ダニエル・レヴァンス)が手掛ける新作バレエの本番に向け、練習に励んでいました。しかし、練習の途中、エマは、ある振付に込められた意味が分からなくなり、アーノルドに尋ねます。アーノルドは、「抽象的な作品だから、ただ踊るんだ」と答えるだけ。「敢えて、振り付けの一つ一つに何の意味も込められていない作品に自分が携わる事に、何の意味があるのか」と疑問を抱いたエマは、アーノルドに降板を申し出ます。さらに、エマは、「作品はスターのものじゃない」と、追い打ちをかけるような事をアーノルドから言われ、その場で、次回作でエミリアに白羽の矢を立てる事を提案して、その場を去ってしまいます。エマは、自分がいつも貪欲な姿勢でバレエと向き合っている事を、アーノルドのような若者に理解してもらえなかったのが、ショックでたまりませんでした。



その後、エマは、ディーディー、エミリア、イーサンが暮らす自宅を訪れます。しばらくの間、ディーディーに愚痴を聞いてもらうエマ。すると、そこへ、エミリアが帰ってきます。さらに、そこへ、アデレイドも訪ねてきます。エミリアは、次回作に自身が主演する事をエマから教えてもらいます。そして、アデレイドは、エマに、「エミリアの指導役をやってみては?」と提案。エマは、まさかの提案に驚きの表情を浮かべますが、提案を快諾します。しかし、これがきっかけで、エミリアは、バレエダンサーとして、茨の道を歩んでいく事になるのです…。



監督を務めたのは、ハーバート・ロス。「フットルース」(1984年)、「摩天楼はバラ色に」(1987年)などが有名です。ロスには、バレエダンサー、振付師の経験があり、「愛と喝采の日々」は、ロスの人生経験が存分に活かされている映画と言えます。それがよく分かるのが、物語の終盤の手前ぐらいに登場するバレエの公演のシーンです。およそ10分に及ぶこのシーンで、公演の出演者たちは、ひたすら優雅に踊り続けます。一切の妥協のない仕上がりのせいか、私は、およそ10分間、全く退屈する事なく、楽しめました。映画のワンシーンである事を忘れてしまうくらいに見入ってしまい、むしろ、時間が短く感じられました。



物語の後半、女性たちは、それぞれ波乱の展開を迎えます。エミリアは、ある男性と恋に落ちるのですが、実は、それは、波乱万丈の半生の入り口に過ぎません。この後、幾つもの荒波が彼女を待ち受けています。展開の一つ一つが彼女の人格にどう影響を及ぼしていくのか、必見です。そんなエミリアの母・ディーディーは、エミリアの心の拠り所であるべきなのですが、ある男性と再会し、次第にエミリアとの心の距離が長くなっていくという、胸が苦しくなる展開が待ち受けています。果たして、母子の距離は、縮まるのでしょうか?また、恋に生きるのではなく、バレエに一生を捧げているかに見えるエマは、秘密の恋に細やかな幸せを見つけていました。それは、一体何なのでしょうか?



バレエのシーンの美しさは勿論、見どころですが、女性たちの心の葛藤は、それ以上に強い印象を観る者に与えてくれます。因みに、この映画の原題は、"THE TURNING POINT(ザ・ターニング・ポイント)"です。結婚を選ぶ生き方で良かったのか、結婚をしない生き方で良かったのか、若者が道半ばで恋をするのは良い事なのか、この映画は、女性の人生のターニングポイントについて、色々と考えさせられるものがありました。今、人生の分岐点に立ち、悩んでいる女性が観たら、物語に共感できるのではないだろうかと思いました。


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アメリカ・ロサンゼルスにある野外劇場、ハリウッド・ボウル。歌手のCCこと、セシリア・キャロル・ブルーム(ベット・ミドラー)は、この日の夜、この劇場のステージでコンサートを開く事になっていて、ステージ上で最終調整を行っていました。CCは、コーラスの透き通るような声、うっとりするような楽器の音色に合わせ、伸びやかな声で、実に気持ち良さそうに歌っていました。ところが、その最中に、1枚のメモがCCの元に届きます。CCは、メモに目を通すや否や、顔色を変え、大急ぎである人物の元へ向かいます。ある人物とは、サンフランシスコに住む唯一無二の親友のヒラリー・ホイットニー(バーバラ・ハーシー)でした。

大急ぎでロサンゼルスの空港に着いたCCは、サンフランシスコ行きの便が、霧のため、現地に着陸できない事を知ります。しかし、緊急事態の最中にあるCCに、そんな切実な事情は通用しません。「サンフランシスコに霧がかかっていても、現代の技術力があれば、必ず無事に着陸できるはずじゃないのか」と思ったのです。CCは、サンフランシスコで自分を待ってくれるヒラリーのために、一刻も早く、サンフランシスコに着きたいだけなのです。それでも、空港側は、危険を冒す真似をする訳にはいきません。CCは、「このままでは埒が明かない」と、飛行機での移動を断念し、レンタカー会社で車を借りて、サンフランシスコに向かう事にします。


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CCがヒラリーと知り合ったのは、1957年。お互いに11歳の時でした。アトランティック・シティの広いビーチに遊びに来た少女・ヒラリー(マーシー・リーズ)は、迷子になっていました。そんな彼女に救いの手を差し伸べたのが、当時、「ピンカース子どもショー」のスターだったCC(メイム・ビアリク)でした。まだ11歳にもかかわらず、煙草を吸っていたCCは、「一服する?」とヒラリーに声を掛けます。しかし、当然の事ながら、ヒラリーは煙草になんて興味がありません。

サンフランシスコの郊外にあるアサートンに住むヒラリーは、観光でアトランティック・シティを訪れていたのですが、土地勘がないのは勿論、自身が宿泊しているホテルの名称も覚えていませんでした。ヒラリーは、途方に暮れて、しくしくと泣くしかなかったのです。CCは、「(ホテルの建物が)大きいか、それとも、小さいか?」、「(ホテルの)宿泊料が高いか、それとも、安いか?」、「(ホテルには)噴水とプールがあって、ロビーにスカした楽団がいるか?」と、次々にヒラリーに質問をぶつけ、ヒラリーの宿泊先が「マルボロ・ブレンハイム」だと突き止めます。CCは、ヒラリーを「マルボロ・ブレンハイム」まで送っていくつもりでしたが、「ピンカース子どもショー」の楽屋を飛び出したCCを探していた母・レオナ(レイニー・カザン)に見つかってしまいます。



こうして、「ピンカース子どもショー」が上演されているテントに戻ったCCは、レオナ、ショーを主宰するピンカース、前夜に公演を鑑賞して、CCのパフォーマンスに興味を持ったというハリウッドのスカウトのメルマン、そして、CCについて来たヒラリーの前で、一人でパフォーマンスに臨みます。CCは、いつも通りに落ち着いてパフォーマンスを行う事ができ、ほっと一安心します。しかし、この後、ショーの共演者で、「逆立ちのアイリス」の異名を持つアイリスも、同じくパフォーマンスに臨む事を知り、突然、焦ります。「普段、アイリスに負けたくない一心で努力しているのに、もし、これで、アイリスがメルマンにスカウトされてしまったら、自分はどうしたらいいのだろうか」と。CCは、不安な気持ちでアイリスのパフォーマンスを見つめます。そして、両者によるパフォーマンスの結果、アイリスがスカウトされ、映画に出演する事になりました。CCが受けたショックは、計り知れないものがありました。どんなにレオナが慰めても、CCの心の傷はそう簡単には癒えません。CCは、レオナの提案で、自宅のあるニューヨークのブロンクスに、母子で一緒に帰る事にします。



CCは、ブロンクスに帰る前に、ヒラリーと一緒に、近くの遊園地へ遊びに行きます。大きなボックス型の写真機に入った2人は、子どもらしくワイワイとはしゃぎながら写真を撮ります。そして、機械の受け取り口から、数枚のモノクロ写真が出てくると、ヒラリーは、写真の裏面に自身の住所を書いて、CCに手渡します。その後、2人は、「マルボロ・ブレンハイム」へ向かいます。敷地内のレストランで、一緒にチョコソーダを飲むためでした。レストランの豪華な装飾に戸惑い、自身がドレスコードに引っかかっているのではと心配になるCCでしたが、ヒラリーはCCの手を取り、空いているテーブル席へ向かいます。その後すぐに、1人のベテランのウェイターが2人の元に近付き、「お子様は困ります」と言うと、ヒラリーは、父と一緒に「マルボロ・ブレンハイム」に宿泊している旨を伝えます。すると、ウェイターは納得した様子で注文を聞いてくれました。ヒラリーは、大変裕福な環境の下で生まれましたが、幼い頃に母を亡くしており、それ以来、父が男手一つで育ててくれていました。ヒラリーが母を亡くしている事を知ったCCは、思わず言葉を失います。すると、そこへヒラリーの叔母がやって来ます。ヒラリーの亡き母の代わりである叔母は、ヒラリーがどこかへ行ってしまったと思い、ずっと探していたのです。結局、CCとヒラリーは、チョコソーダを口にする事ができませんでした。



ヒラリーがCCと一緒に撮ったモノクロ写真の裏に自身の住所を書いたのを機に、2人は文通を始めました。お互いに、近況、コンプレックス等を正直に書きました。こうする事で、2人は友情を深めていったのです。やがて、2人は大人になり、ヒラリー(バーバラ・ハーシー)はスタンフォード大学に入学しましたが、父の具合があまり良くなく、CCと会う事が難しい状況にありました。一方、CC(ベット・ミドラー)は、自身の21歳の誕生日にリオナがフロリダ州マイアミに移住したため、ニューヨークで一人暮らしを始めましたが、なかなかオーディションに合格できない日々が続き、ナイトクラブでジャズシンガーとしてステージに立って、生活費を稼いでいました。しかし、ナイトクラブのオーナーのハリーから、給料を前借りしなければならない程、経済的に大変苦しい状況にありました。



そんなある日、ヒラリーが、CCに会いに、ジャズクラブを訪れます。最初、ヒラリーが帽子を目深に被っていたため、CCは、ヒラリーが目の前にいるとは気付かなかったのですが、ヒラリーが帽子を取ると、ようやくヒラリーだと気付き、2人は再会を喜び合います。この時、ヒラリーは、大学を卒業して、弁護士になり、人権協会で働いていましたが、富裕層のお嬢様として生活する事に疲れ、家を飛び出したのです。CCは、ヒラリーの一大決心に理解を示し、しばらくの間、ヒラリーと一緒に生活する事に決めます。生まれて初めてCCのアパートに足を踏み入れたヒラリーは、CCの自由気ままな暮らしぶりに感動し、涙をこぼすのでした。



翌日、CCは、ウサギの着ぐるみを着て、出掛けていきます。オーディションへの挑戦、ジャズクラブでの仕事の他に、近所の家々を訪ねて、歌を披露する仕事もしていたのです。その途中、CCは思わぬチャンスを手に入れます。たまたま訪れた場所の1つが、小劇団「ファルコン」を主宰する演出家ジョン・ピアース(ジョン・ハード)が住むアパートで、ジョンに歌の才能を認められ、新作ミュージカルのオーディションの事を教えてもらったのです。CCは、迷わずオーディションの話に飛びつきます。



金曜日の夜、新作ミュージカルのオーディション当日。CCは、会場である「ファルコン劇場」の客席に座り、オーディションの順番を待っています。CCに与えられた役は、死刑囚の看守役でした。しかし、CCは、この役があまり気に入らず、ジョンに配役の変更を申し出ますが、申し出は通りませんでした。CCは、自身がブロンドヘアである事を少しだけ恨みました。しかし、CCは、オーディションに見事合格。しかも、演じる役は主役です。CCは、早速、人権協会の事務所を訪れ、ヒラリーに報告します。



やがて、新作ミュージカルの開幕日が訪れます。「ファルコン劇場」には、ヒラリーはじめ、多くの観客が訪れ、主役を務めるCCは、堂々とした姿勢で歌を歌い上げます。観客は、スタンディングオベーションで、CCら出演者の労をねぎらいます。また、演劇評論家たちも、新聞紙上でジョンの手腕やCCの実力を高く評価します。新作ミュージカルは、大成功したのです。

しかし、CCは不機嫌な顔をしていました。ジョンが、ヒラリーと2人きりで、楽しそうに話をしているのを目撃したためです。ジョンは、ヒラリーと親密になる前に、主役のCCの労をねぎらうのが先だというのに。そんなCCの気持ちに気付いていないヒラリーは、その日の夜、ジョンと一夜を共にします。しかし、ヒラリーとジョンは恋に落ちたのではありません。ヒラリーが、男女2人きりのロマンティックな雰囲気にどうしても勝てず、ジョンに体を委ねただけだったのです。



その後、ヒラリーは、病状が悪化した父の看病に専念するため、人権協会を退職し、父の元に帰ります。やがて、ヒラリーは、父の弁護人を務める弁護士のマイケル(ジェームズ・リード)と結婚。専業主婦になり、主婦業や慈善事業で忙しい日々を送るようになります。一方、CCは、「ファルコン劇場」を去り、ミュージカル「シズル」に出演する事になりました。「シズル」のストーリーは明らかに下品なのですが、その分、高額な報酬が約束されていました。ヒラリーは、報酬にこだわるCCの事を心配し、手紙でCCに忠告しますが、結局、聞き入れてもらえませんでした。しかし、CCは、「ファルコン劇場」を去ったからといって、ジョンと縁が切れた訳ではありませんでした。なんと、ジョンと恋に落ち、結婚したのです。CCは、結婚後も、「シズル」への出演を続け、仕事は順調そのものでした。しかし、ジョンとの仲は…。



この映画は、アイリス・レイナー・ダートの小説を原作としており、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ニューイヤーズ・イヴ」(2011年)で知られるゲイリー・マーシャル監督がメガホンを取りました。CC役のベット・ミドラーは、歌、ダンス、演技と、終始、大奮闘しているだけでなく、製作にも名を連ね、そして、主題歌「愛は翼にのって」も歌っています。この曲は、1982年に、ジェフ・シルバーとラリー・ヘンリーによって作られた曲で、ロジャー・ウィッテカー、シーナ・イーストン、ルー・ロウルズらによって歌い継がれてきました。1989年には、ミドラーが歌ったものがシングル化され、全米ヒットチャートで1位を獲得しました。1990年には、第32回グラミー賞で、最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞しています。



ヒラリー役のバーバラ・ハーシーも、ミドラーに負けてはいません。劇中、CCとヒラリーによる大喧嘩のシーンが何度も登場しますが、ヒラリーは、CCの容赦ない怒りを真正面から受け止め、それを2~3倍の大きさにして返しています。大喧嘩になるいきさつは、どれも些細なものですが、両者共に全く遠慮せずに感情をぶつけ合うのは、お互いにお互いを傷付けないよう気遣って、遠回しな言い方に徹したり、お互いを無視したりするよりかはずっとマシで、観ていてとても気持ちが良く、友情の大きさがうかがえます。



また、メイム・ビアリク演じる11歳の時のCCが「ピンカース子どもショー」のテントでパフォーマンスを披露するシーンも、とても良かったです。CCが11歳の設定だとはとても思えないほど、パフォーマンス全体の完成度が高くて、本当に驚きました。全く物怖じしないですし、歌声には程良い力強さがありますし、音程も完璧でした。大人びた感じの歌詞を口にしている時も、子どもが無理に背伸びをしている感じを全く出さず、きちんと自分のものにしていて、本当に凄かったです。こんなに質の高い子役には、なかなかめぐり会えませんよ!



この後、CCとジョンの仲は、少しずつこじれていきます。CCが、女優、歌手として大成功を収めていく一方、ジョンは、CCがますます自身から遠のいていくような淋しさを覚えるようになります。そして、ヒラリーですが、専業主婦になって、茨の道を脱したかに見えますが、実は、まだ、茨の道の中間地点にいました。一体どうなってしまうのでしょうか。


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1983年、ソビエト(現・ロシア)・モスクワ。「バラック G2」と呼ばれる建物に、1台の黒い車が入っていきます。この車の後部座席に座るアメリカの女性ジャーナリスト・スコフィールド(ベッツィー・ブラントリー)は、ここで暮らす男性、ガイ・ベネット(ルパート・エヴェレット)にインタビューを行う予定になっていました。スコフィールドは、車を降りると、ガイの身の回りの世話をしている男性の出迎えを受け、ガイの自宅の中へと案内してもらいます。そして、しばらくの間、ガイを待っていると、ガイが車椅子に乗って姿を現します。お互いに挨拶を済ませると、すぐに、インタビューが始まります。実は、ガイは、生まれも育ちもソビエトではありません。ガイは、イギリス人で、しかも、特権階級の家庭で生まれ育った人物なのです。ガイ曰く、名声を求め、わざわざイギリスからソビエトに亡命した元スパイなのだとか。なぜ、ガイは、イギリスの非常に恵まれた環境を捨てて、ソビエトに渡ったのでしょうか。


英国パブリック・スクールへようこそ!
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石井 理恵子

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時は遡り、1930年代のイギリス。当時、ガイは、「パブリック・スクール」と呼ばれる、全寮制の男子校に在籍していました。最終学年への進級を間近に控えていたガイは、学校の生徒が運営する自治会のエリートメンバー「ゴッド」に選ばれる事になっていました。ガイが「ゴッド」に選ばれると、礼服を着る際に、色の付いたチョッキを着る事が許されます。そして、将来、外交官、パリ駐在大使と、エリートコースを歩む事が約束されていました。ガイには、トミー・ジャド(コリン・ファース)という、同じ学校に在籍する親友がいました。ジャドは、ソビエトの革命家・レーニンを心から敬う共産主義者でした。ジャドは、エリートコースを歩む事を夢見るガイを冷ややかな目で見ていましたが、2人の友情は見事に保たれていました。



ある夏の日、校内では、ある追悼式典が行われていました。それは、第一次世界大戦の際、出征し、戦死した卒業生たちを追悼する式典でした。会場には、多くの兵士たちが並び、生徒たちや聖歌隊の子どもたちが歌を歌っていました。式典に出席していたガイは、自身とは別の寮で暮らす生徒、ジェームス・ハーコート(ケイリー・エルウェイズ)の顔の美しさが何となく気になっていました。一方、この大切な式典をサボる2人の生徒がいました。2人は、誰もいない、体育館の更衣室で性行為に夢中になっていました。しかし、その最中に、寮の舎監がそれを目撃してしまい、生徒たちは、舎監に見られてしまったショックで、舎監は、見てはいけないものを見たショックで、それぞれ動揺してしまいます。



また、この日は、親元を離れて暮らす生徒たちにとって、待ちに待った面会日でした。生徒たちは、卓球をして遊んだり、本を開いて勉強したりして過ごし、中には、はしゃいだり、テーブルの上に飛び乗ったりと、幼い子どもたちのように、暴れ回っている者もいました。そんな中、舎監に目撃されてしまった生徒の一人が、代表のメンジース(フレデリック・アレクサンダー)に呼び出されます。生徒が足を運んだのは、誰も来ていない教会でした。教会を静かに歩く生徒の姿を、ガイは、双眼鏡を使い、自室の窓から興味津々の様子で見つめていました。



しかし、あの出来事の件は、いつの間にか、校長の耳に入り、生徒は自ら命を絶ってしまいます。メンジースをはじめとする寮の代表たちは、彼の死を2度とあってはならない事だと認識はしていましたが、どの寮にも、大なり小なり、スキャンダルが存在しているものだと諦めていました。彼らにできる事は、校内で祈祷会を開いて、同性愛の否定を誓う事しかありませんでした。



次の土曜日、ガイは、母親のイモージェン(アンナ・マッセイ)と一緒に、パーティーに出席します。道中、母子は、自ら命を絶った生徒の話題を口にしていました。ガイも、イモージェンも、生徒の死を残念に思いつつも、同性愛の存在を否定していました。その後、2人は会場に到着し、ガイは、イモージェンの再婚相手で、イギリス軍の大佐・アーサー(ジェフリー・ウィッカム)と対面します。アーサーは、「全寮制の学校を中退して、社会勉強をすべきだ」と、ガイに冗談を言います。ガイは憤りを覚え、「人を殺すとか?」と言い返し、イモージェンに声を掛けて、一緒にその場を去ります。イモージェンは、アーサーに失礼な態度を取ったガイをたしなめますが、ガイはイモージェンに向かって、「(学校での)10年間の努力が水の泡となってしまう」と怒りをぶつけるのでした。



同じ日の夜、ガイは、クラウンホテルのレストランで、ジェームスと食事をします。実は、数日前に、ガイがジェームスにこっそりとメモを渡す形で、ジェームスを食事に誘っていたのです。食事中、ガイは、今は亡き父親の話をし始めます。父親は、ガイが14歳の時に、突然、心臓病で亡くなりました。ガイは、父親の最期の様子を淡々と語ります。ガイが当時の様子を淡々と振り返られるのには、理由がありました。父親の下品な振る舞いが嫌いだったからです。そして、1人になってしまった母親は、初婚の時と同じく、下品な振る舞いの男性を選んで、再婚してしまったのです。



その後、寮に戻ったガイは、寝室のベッドに横になりますが、なかなか眠れませんでした。真夜中になっても、まだまだ眠れそうにありません。ガイは、今まで味わった事のない、幸せな感情に支配されていたのです。ガイは、真夜中にもかかわらず、勉強中だったジャドの部屋を訪ねます。ガイは、酔いが回っていたせいか、突然、ジャドの事を「トミー」と呼び、「純愛にめぐり逢えた」と告白します。ガイをそういう気持ちにさせた相手は、他でもない、ジェームスでした。実は、ガイは、表向きは同性愛を否定していますが、本当はそうではなかったのです。ガイも、自ら命を絶った、あの生徒と同様に、同性愛が周囲に知られるのを酷く恐れていたのです。



ある日、メンジースは、ガイが卑猥な言葉で男性への恋心を口にしているところを目撃し、たしなめます。自ら命を絶った生徒の件で、デヴェニッシュ(ルパート・ウェインライト)が親の命令で退学し、軍国主義者として有名なファウラー(トリスタン・オリヴァー)が寮長に就任し、さらに、ガイも責任ある立場に近付いていたからです。ガイは、いつの間にか、寮の中での出世争いに巻き込まれていたのです。ジャドもまた、同じ争いに巻き込まれそうになりますが、そんなくだらない争い事には、これっぽっちも興味がありませんでした。そこで、メンジースは、何としてもジャドを幹事にすべく、ガイにジャドを説得するよう頼みます。ガイには、ジャドを説得する自信がなかったのですが、「言う事を聞かないと、お前は代表になれないぞ」とメンジースから脅されてしまいます。しかし、ガイは、脅しに屈しまいと、あの手この手でメンジースに刃向かおうと決めます。寮自体の閉鎖的な環境に、嫌気がさしてしまったのです…。



この映画は、実際にイギリス全土を騒がせたスパイ事件の中心人物であるガイ・バージェスをモデルにした、1981年初演の舞台劇を映画化したものです。1984年に、第37回カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞しています。バージェスは、スパイ集団「ケンブリッジ・ファイヴ」のメンバーで、1951年にソビエトに亡命しています。因みに、この映画の原作にあたる舞台劇には、ガイを演じたルパート・エヴェレットやジャドを演じたコリン・ファースが出演しており、2人は、舞台劇に続いて、映画にも出演しました。ファースが映画に出演したのは、この時が初めてだったそうです。



また、ガイやジャドが在籍するパブリック・スクールにもモデルが存在します。これまで、イギリスの数多くの王族や貴族が在籍した「イートン校」です。劇中に登場するパブリック・スクールは、「イートン校」に負けないくらいの気品が漂っています。しかし、それと同時に、生徒の出世争い、同性愛の無理解、上級生の威圧感など、現代とは全く正反対の悪しき文化が厳しく守られていたのが印象に残りました。パブリック・スクールの生徒を演じた俳優たちの美貌が印象に残る方もいらっしゃるかもしれませんが、私は、それよりも、これらの悪しき文化の方が印象に残り、「これらを反面教師にして、生きていかなければならない」と、改めて感じました。


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