エニイ・ギブン・サンデー(1999年 アメリカ)

エニイギブンサンデー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
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アメフトのプロリーグ・AFFAのチームの一つであるマイアミ・シャークスは、最近、3連敗を喫し、試合の観客動員数が減少していました。シャークスのプレーオフまでの残り試合数はわずか3試合で、プレーオフ進出が危ぶまれていました。そんな中、シャークスは、ミネソタ・アメリカンズ戦を迎えます。試合の前半、背番号19のユニフォームを身に纏ったシャークスのクォーターバックで、過去にMVPを3度受賞した38歳のキャップことジャック・ルーニー(デニス・クエイド)が、アメリカンズの選手と激突し、その衝撃で倒れて動けなくなってしまいます。キャップは、心配して駆け寄ってきたチームメイトたち、チームドクターで外科医のハービー(ジェイムズ・ウッズ)に囲まれ、顔をしかめて、とてつもない背中の痛みに必死に耐えていました。しかし、ヘッドコーチのトニー(アル・パチーノ)は、「なぜ、ブロックをしない?」と、フィールドの外で愚痴り、取材に訪れていたマスコミも、キャップの身に起きた異変を見逃すまいと夢中でカメラのシャッターを切ります。その後、キャップは、どうにか自力で立ち上がり、背番号12のタイラーと交代します。ところが、タイラーも右膝を痛めて、倒れてしまいます。

やさしいアメリカンフットボール入門〈2012年度版〉
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そこで、トニーは、プロ選手となって5年目で、今シーズンからシャークスでプレーしている26歳のクォーターバック・ウィリー(ジェイミー・フォックス)を抜擢します。ウィリーは、フィールドに入ってすぐに、トニーから聞いた指示をチームメイトたちに伝えるのですが、緊張していたのか、その場で嘔吐してしまいます。その後、試合が再開され、ウィリーはアメリカンズの選手たちから兆発を受けますが、動じる事なく、正々堂々と彼らに立ち向かっていきます。しかし、ウィリーは、何を思ったのか、途中でトニーの指示した作戦を勝手に変えてしまいます。ウィリーのあまりにも突飛な行動に、トニーは勿論の事、チームメイトたち、そして、トニーを支えるコーチ・ニック(アーロン・エッカート)も、戸惑いを隠せませんでした。



試合は、ハーフタイムを経て、後半に突入します。ところが、後半に突入して早々に、ウィリーがアメリカンズの選手を殴り始めます。相手の顔が血だらけになるまで、容赦なく殴り続けるウィリー。この様子を見かねたトニーは、ウィリーに近付き、事情を尋ねます。ウィリー曰く、相手の動きが早過ぎてついて行けず、ついカッとなってしまったとの事。トニーは、もうクォーターバックの交代要員がいない事から、ウィリーがやる気をなくさないよう、懸命になって励まします。しばらくして、試合が再開されると、ウィリーはトニーの励ましのおかげで落ち着きを取り戻し、シャークスの選手になって以来初めて得点を挙げます。しかし、ウィリーの努力も空しく、シャークスはこの試合でも敗れ、連敗の記録が4に伸びてしまいました。



そんな中、カリフォルニア州知事が選挙の目玉公約として、宝くじの収益金でロサンゼルスにスタジアムを建設しようと考えている事が、シャークスの若きオーナー・クリスティーナ(キャメロン・ディアス)の耳に入ります。知事は、マイアミ市当局に圧力をかけていました。知事は、クリスティーナに、まず、シャークスを売却してもらい、そして、ロサンゼルスの新スタジアムを本拠地とする新チームを作ってもらおうとしていたのです。今なら、シャークスを2億5千万ドルで売却する事ができます。もし、新スタジアムが完成したら、シャークスの価値は、なんと、8億ドルに跳ね上がります。しかし、亡き父の後を継いで、シャークスのオーナーとなったクリスティーナは、父のシャークスに対する深い想いを考えると、シャークスを売却するなんて、とても考えられませんでした。



そこへ、トニーがクリスティーナを訪ねて来ます。あの4連敗を喫した試合をテレビで観戦していたクリスティーナは、シャークスがなかなか勝利を挙げられない現状を嘆き、シャークスがすっかり二流のチームとなってしまった事を正直に認めるようトニーに迫ります。しかし、トニーは、チームが弱くなった理由をフリーエージェントの制度のせいにします。クリスティーナは、チームを強化するためには、力の落ちたベテラン勢を引退させる事が大切だと訴えます。しかし、トニーは、各選手との絆が実に強く、契約を打ち切る勇気が出ません。やがて、両者の話し合いは激しい口論に発展してしまいます。



プレーオフまで残り2試合となっていたシャークスは、シカゴ・ライノスと対戦します。この日も、ウィリーはトニーの指示を無視する事に決め、チームメートたちに自ら作戦を指示し、その結果、見事に得点が入ります。テレビで観戦していたクリスティーナは、チームの活躍ぶりに大喜び。一方、またしても選手に勝手な事をされてしまったトニーは、ただただがっかりします。



そして、シャークスは、いよいよ、プレーオフ前としては最後の試合となるロサンゼルス・クルセーダーズ戦を迎えます。この日も、シャークスは、いつものように、クルセーダーズにリードを許していました。そんな中、シャークスの選手の一人が負傷したのがきっかけで、試合中にも関わらず、シャークスの選手同士で大喧嘩が始まり、トニーが仲裁に入ります。その後、大喧嘩が収まると、ウィリーがいつものように大活躍。シャークスは、久々に勝利を収める事ができました。試合後、シャークスの選手たちは、ロッカールームに戻ると、大歓声を挙げます。クリスティーナもロッカールームを訪れ、選手一人一人と握手して、労を労います。クリスティーナは、ウィリーと握手をした際に、ウィリーに口説かれますが、「選手とはデートしないの」と、はっきりとした口調で断るのでした。



シャークスの久々の勝利の立役者となったウィリーは、スター選手の仲間入りを果たします。マスコミから取材を受ける機会が増え、テレビCMに出演するようになり、街を歩けば次々にファンから声を掛けられ、数々のスポーツ雑誌の表紙も何度か飾りました。一方、キャップは、ウィリーの本業以外での活躍ぶりが気に入らず、プレーオフで自身が起用されるよう、黙々と練習に励んでいました。その熱意は人一倍すごく、トニーが体を休める事を勧める程でした。その頃、クリスティーナは、もし、シャークスがプレーオフに進んだ場合、満身創痍の状態にあるキャップではなく、若手のスター選手であるウィリーが起用される事を望んでいました。クリスティーナは、何としても自身の望みを叶えるため、ハービーに、キャップの怪我の治療をしないよう、頼み込みます…。



この映画でメガホンを取ったのは、オリヴァー・ストーン監督。ストーン監督は、シャークスの試合のテレビ中継で解説を務めるタッグ役で、出演もしています。実は、ストーン監督は、「プラトーン」(1986年)で爆死する司令官を演じたり、「ウォール街」(1987年)でトレーダーを演じたりと、監督と俳優を兼ねている映画が結構あります。俳優オリヴァー・ストーンの姿を見て楽しむのも、映画鑑賞の醍醐味ではないでしょうか。



また、映画監督オリヴァー・ストーンについても一つだけ触れたいのですが、この映画での映画監督としての魅力は、試合のシーンの音と映像の迫力を見事に表現している事です。選手のヘルメットとヘルメットがぶつかる瞬間のいかにも痛そうな音、絶え間なく続く観客の歓声、互いに挑発し合う選手たちのドスの利いた声、ハーフタイムのロッカールームで響く選手たちの大きな話し声や笑い声。時折、これらに、スローモーションの映像が合わさり、観る者により良い緊張感を与えています。



前半は、オリヴァー・ストーン監督の映画である事がいまいちピンと来なくて、シャークスの選手たちが淡々と試合を消化していくように感じていました。ストーン監督が、スポーツ映画を手掛ける事があまり多くないせいかもしれません。しかし、後半になると、登場人物たちの愚かさや悲しさが徐々に表れ、ストーン監督らしさが見えてきます。ジェイミー・フォックス演じるウィリーは、アメフトで力を付ける事で、アフリカ系アメリカ人の地位を高めたいと願い、アル・パチーノ演じるトニーは、長きにわたってアフリカ系アメリカ人の選手を数多く指導してきて、人種差別を一度もした事がないのをウィリーに理解してもらえず、爆発しそうな怒りを必死になって抑え、キャメロン・ディアス演じるクリスティーナは、どの選手が試合に出場したらチームが儲かるかだけを考えていて、商業主義を貫いているのは明らかです。しかし、この映画は、このままでは終わりません。上映時間2時間30分の間に、どのように物語が展開するのでしょうか。ご興味のある方は、ぜひご覧いただきたいと思います。

エニイギブンサンデー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
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ブルックリンの恋人たち(2014年 アメリカ)

ブルックリンの恋人たち スペシャル・プライス [DVD]
ブルックリンの恋人たち スペシャル・プライス [DVD]

アメリカ・ニューヨークのブルックリンで生まれ育った大学院生・フラニー(アン・ハサウェイ)は、モロッコの遊牧民について研究するため、半年前からモロッコに住み、人類学の博士号の取得を目指しています。ある日、フラニーの元に、作家である母・カレン(メアリー・スティーンバージェン)から突然、電話が入ります。フラニーの弟で、大学を中退して、ブルックリンでストリートミュージシャンをしているヘンリー(ベン・ローゼンフィールド)が、交通事故に巻き込まれて、サットン記念病院に入院したというのです。ある日の夜、とある地下鉄の駅の構内でギターの弾き語りをしていたヘンリーは、帰りにヘッドホンをしながら歩道を歩いていた時に、背後から来たタクシーに轢かれてしまったのです。フラニーは、カレンに頼まれて、急遽、帰国します。

ブルックリンの恋人たち スペシャル・プライス [Blu-ray]
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フラニーは、帰国するとすぐに、サットン記念病院へ直行します。そして、病院に到着し、ヘンリーの病室に入ると、カレンが、懸命に涙をこらえながら、昏睡状態のヘンリーを見守っていました。その後、フラニーは、主治医から症状について説明を受けます。ヘンリーは、頭蓋骨のもろい部分があまりにも強い衝撃を受けた事で、血腫ができてしまい、非常に危険な状態にありました。カレンは、「『道を歩く時は両側を見て』と注意してきたのに」と、結果的にヘンリーが交通事故に巻き込まれてしまった事に責任を感じていたのと同時に、この事故の一部始終がフラニーとヘンリーの今は亡き父の耳に入る心配がないという安心感が心の片隅にありました。

ブルックリンの恋人たち(字幕版)
ブルックリンの恋人たち(字幕版)

その後、フラニーは、病院を出て、ブルックリンにある自宅に帰ります。病院を出る前、フラニーは、カレンから、(「フラニーの自室が箱だらけで散らかっているため)ヘンリーの部屋を使ってほしい」と、頼まれていました。早速、フラニーがヘンリーの部屋に入ってみると、そこには、有名ミュージシャンのジェイムズ・フォレスター(ジョニー・フリン)のポスターがたくさん貼ってあり、なんと、ヘンリーとジェイムズのツーショット写真も大切に飾ってありました。また、ここには、ヘンリーの自作の曲が収録されたCDも置いてありました。フラニーは、CDケースからCDを取り出し、早速、再生します。CDから聞こえてきたのは、普段、多忙を極めているフラニーにあまり期待はしてはいないけれど、どうか初めての自信作を聴いてほしいというボイスメッセージ、そして、魂のこもった歌声でした。

ブルックリンの恋人たち(吹替版)
ブルックリンの恋人たち(吹替版)

ヘンリーの自作の曲を聴いたもの、どうしたらヘンリーの力になってあげられるのか、まだ答えを見出せないフラニー。翌日、フラニーは、ヘンリーの病室を訪れます。フラニーは、ぽろぽろと涙をこぼしながら、姉としての至らなさをヘンリーに謝り、昨日から溜めていた不安を病院のトイレで爆発させます。実は、フラニーは、半年前、モロッコに旅立つ前に、ヘンリーと大喧嘩をしていました。姉弟で大喧嘩をしてしまったのは、この時が初めてでした。フラニーは、ヘンリーが大学を中退した事を知り、「とんでもない過ちだ」と、ヘンリーの決断を責め立てました。もしかしたら、大喧嘩でのやり取りがヘンリーとの最後の会話になってしまうのだろうか。フラニーは、悔やんでも悔やみきれませんでした。

ブルックリン散歩BOOK
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その後、フラニーは、自宅に戻り、ヘンリーの部屋で1冊の小さな日記帳を見つけます。そこには、ヘンリーのジェイムズを敬う気持ちや自作の詩等がびっしりと書き込まれていました。さらに、このノートには、1枚のチケットが挟んでありました。それは、6月1日8時に開演予定のジェイムズのライヴのチケットでした。フラニーは、ヘンリーに代わって、ライヴを観に行く事にします。

21 地球の歩き方 Plat ブルックリン (地球の歩き方Plat)
21 地球の歩き方 Plat ブルックリン (地球の歩き方Plat)

ジェイムズのライヴは、フラニーが会場の観客スペースに着いたのとほぼ同時に始まりました。ステージに立ったのは、ジェイムズ1人だけでした。ジェイムズは、至ってラフな出で立ちで、ドブロ・ギター1本で、囁くように歌います。さらに、途中で美しい裏声を出したかと思うと、ドブロ・ギターを下ろして、今度はなんと、バイオリンの演奏を始めます。ジェイムズは、歌声の美しさといい、歌詞の世界観といい、楽器の演奏技術といい、観る者を惹きつける様々な魅力を持っていました。



ライブ終了後、ジェイムズは、観客からのサインや写真撮影の依頼に、気さくに応じていました。フラニーは、観客が作る行列には並びませんでしたが、観客が皆、帰宅の途に就いた後に、思い切って、ジェイムズに声を掛けます。フラニーは、緊張の面持ちで、ジェイムズを尊敬してやまない弟・ヘンリーが入院中である事、以前にヘンリーがジェイムズとのツーショット写真を撮ってもらった事、ヘンリーがジェイムズにファンレターを書いた事を伝え、ジェイムズにヘンリーの自作のCDを渡します。ジェイムズは、ヘンリーの容態を心配する気持ちをフラニーに伝え、CDを受け取るのでした。



翌日も、フラニーは、ヘンリーの病室を訪れます。この日も、ヘンリーは意識が戻っていませんでした。フラニーは、持参したパンケーキを食べさせようとしたり、しっかりと閉じている両方の瞼を強引に開けてみたりしましたが、どちらもあまり上手くいきませんでした。そんな時、ジェイムズがヘンリーのお見舞いに訪れます。フラニーは、まさかジェイムズと再会するとは夢にも思わず、思わず驚きの声を上げます。ジェイムズは、この日、カフェでコーヒーを2杯買い、しばらく通りを歩いていたら、たまたまサットン記念病院の近くを通りかかり、そして、昨夜、ライヴ後に、ヘンリーがこの病院に入院している事をフラニーから聞いていたのを思い出して、ヘンリーを見舞おうと思ったのです。ジェイムズは、2杯のコーヒーのうちの1杯をフラニーにプレゼントし、ヘンリーのCDを聴いた事、収録されていたヘンリーの自作の曲がとても気に入った事を伝えます。同じ曲を気に入っていたフラニーは、思わず笑みを浮かべ、もし、ヘンリーがジェイムズの感想を聞いたらきっと喜んでくれるだろうと思うのでした。



さらに、ジェイムズは、ヘンリーのために、「ここで、歌声を聴かせたい」とフラニーに申し出て、持ち歩いていたドブロ・ギターをケースから取り出します。フラニーが申し出を承諾すると、ジェイムズはヘンリーに届けとばかりに、ドブロ・ギターを弾きながら歌声を聴かせます。その間、フラニーは、ヘンリーの顔をじっと見つめ、ジェイムズの歌声がヘンリーに届いている事をただただ信じます。



歌を歌い終わったジェイムズは、その後、病室を後にし、フラニーは、病室の近くのエレベーターまでジェイムズを見送りに行きます。エレベーターが来るのを待つ間、フラニーは無意識にジェイムズを食事に誘います。ジェイムズの歌声に、ヘンリーだけでなく、自身も引き込まれてしまったが故の事なのかもしれません。ジェイムズは、全く迷う事なく誘いに応じます。これをきっかけに、フラニーとジェイムズは急接近するのですが、それは、2人にとって、わずか7日間の恋の始まりでした…。



この映画は、主人公が何か大きな目標に向かって進んでいく訳ではないので、観る人によっては単調な映画に思えるかもしれません。しかし、私は、様々な断片に癒される名作だと思いました。ブルックリンの夜景、名もなきニューヨーカーたちが住むアパートの部屋の家具やポスターにレコード、ジェイムズをはじめとするミュージシャンたちによるライヴハウスでの演奏、ライトが眩しく光るディスコで耳をつんざくようなディスコサウンドに合わせて踊る若者たち…。これらを目にすると、いつかニューヨークへ旅に出て、夜の街を散歩して、大人の階段を幾段か上がったような気分になりたくなります。



メガホンを取ったのは、この映画で監督デビューを果たし、脚本も手掛けたケイト・バーカー=フロイランド監督。「プラダを着た悪魔」(2006年)で、監督アシスタントを務めた人物です。フラニーを演じたのは、「プラダを着た悪魔」、「レ・ミゼラブル」(2012年)のアン・ハサウェイ。この映画の脚本に惚れこみ、フラニー役の他にプロデューサーも務めました。ハサウェイの顔の美しい輪郭とショートヘアとの組み合わせは最高で、いつまでも見つめていたくなりますよ。



ところで、なぜ、フラニーとジェイムズの恋がわずか7日間と決められているのでしょうか。そして、2人は、最終日を迎えた時に、どのようなフィナーレを迎えるのでしょうか。これらの答えを知りたい方は、ぜひこの映画を最後までご覧ください。因みに、私は実際にフィナーレを観ましたが、このフィナーレ、大好きです!いかにも映画らしくて大好きです!!

ブルックリンの恋人たち スペシャル・プライス [DVD]
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ぼくのエリ 200歳の少女(2008年 スウェーデン)

ぼくのエリ 200歳の少女 スペシャルプライス版 [DVD]
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スウェーデンの首都・ストックホルム近郊の町ヴェリングビー。真冬のある日の夜、この町では雪が深く降り積もっていました。少し長いブロンドヘアが印象的な12歳の少年・オスカー(カーレ・ヘーデブラント)は、この町に建つ集合住宅の一室で母親と一緒に暮らしていますが、この日はたった一人で留守番をしていました。そんな時、オスカーと同じ年齢の少女・エリ(リーナ・レアンデション)が、親子ほどの年齢差に見える男性・ホーカン(ペール・ラグナル)と一緒にタクシーから降りてきます。この日、エリとホーカンは、オスカーの住む部屋の隣に引っ越してきたのです。オスカーは、部屋の窓ガラスから、エリとホーカンが集合住宅の中へと消えていくのを見ると、窓ガラスとは反対の方向を向き、手に持っていたナイフで誰かを刺す動きをし始めます。「ブタの真似しろよ」、「鳴け」、「ブタめ」、「鳴いてみろ」、オスカーは、何らかの復讐を果たそうとしているようです。

ぼくのエリ 200歳の少女 [Blu-ray]
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翌日、オスカーは学校に登校します。オスカーは、授業と授業の合間に、学校の廊下で同級生にいじめられます。同級生の目から見て、オスカーの態度は、常に生意気に見えて仕方がないのです。オスカーは、いきなり、同級生から「何見てるんだ」と言われ、鼻の穴のあたりをグイッと持ち上げられ、「ブー」と、面白おかしく豚の鳴き真似をしてきます。同級生は、やりたい事を一通りやり終えると、「次は体育の授業だ」と言って、走り去っていきます。オスカーは、同級生に容赦なく心を傷付けられ、目をつむって、ひたすら悲しみに耐えるのでした。



一方、ホーカンが、何か化学物質らしきものを容器に詰めて、外出します。ホーカンが向かった先は、近くの小さな森でした。森に着いたホーカンは、しばらくの間何もせず、その場でじっと立っていました。すると、そこへ一人の男性が通り掛かります。ホーカンは、男性に時間を尋ねます。しかし、男性は、あいにく時計を持っていませんでした。残念ながら時間を知る事ができなかったホーカンは、化学物質らしきものが入った容器の先端を男性の口に当てて、中身を無理やり吸わせます。男性は、すぐに大声でもがき苦しみ、倒れて、その尊い命を失います。ホーカンが持っていた容器に入っていたのは、ハロタンガスでした。

ホーカンは、男性の遺体の両足を縛り、遺体を木の枝から逆さ吊りにして、ナイフで血管を切り、血液を完璧に抜きます。ホーカンは、淡々と作業を進めていましたが、そこへ散歩中の犬・リッキーが通り掛かり、雪の上に座ります。ホーカンは、リッキーの飼い主にこの事を知られたくなくて、慌てて逃げていきます。それから間もなくして、リッキーの飼い主の女性がようやくリッキーに追い付くと、目の前の光景にただただ驚きます。「置いてくるなんて」、「どうすればいいの」ホーカンは、帰宅すると、エリから画鳴り声で責められます。「何とか言え!」エリがさらに圧力をかけるように怒鳴ると、ホーカンは「すまない」と、蚊の鳴くような声で謝るのでした。



その頃、オスカーは、ナイフを持って集合住宅の外に出て、ナイフを1本の木の幹に刺したり抜いたりしていました。オスカーは、この木の幹をいじめてくる相手に見立てて、相手を刺す術を探っているのです。そんなオスカーを、ジャングルジムのてっぺんからじっと見つめる一人の少女がいました。ジャングルジムに上っていたのは、エリでした。エリは、オスカーの何とも物騒な行動を見て、「友達になれない」と言って、オスカーと距離を取ろうとします。オスカーは、初対面の相手からいきなりそう言われて、ショックを受けます。



翌日、オスカーが学校に登校すると、担任教師が神妙な面持ちで生徒たちに話をしていました。前日に、地元の小さな森で、男性がハロタンガスを使って殺害された事件について話をしていたのです。オスカーの同級生・コンニは、「犯人を見つけたら殺してもいい?」と、ジョークを飛ばしますが、ジョークは全く通用せず、担任教師に一喝されます。その後、休憩時間になると、オスカーはトイレにこもります。トイレの扉の向こうからは、「オスカー」、「子ブタちゃん」と、オスカーを呼ぶ同級生の声が聞こえてきます。オスカーは、人の気配がなくなるのを待って、トイレを離れるのでした。



オスカーが下校すると、母親が、新聞を読みながら、ハロタンガスが使われた事件に対して、憤りを露わにしていました。この集合住宅からわずか2駅先で発生したのですから、憤るのは無理もありません。オスカーは、しばらくの間、自室にこもります。「血を集める殺人鬼」、「ベイルートで大量殺人」、「抜き取られた被害者の血液」、オスカーは、これらのような新聞の衝撃的な見出しを切り抜いて、一枚ずつスクラップブックに糊付けするのが趣味でした。オスカーは、この日も、前日の事件の見出しをいつものようにスクラップブックに糊付けします。これらの見出しを新聞記者たちに書かせた張本人が、自身のすぐ傍にいるとは気付かずに。



その日の夜、エリは一人で外を歩いていました。しかし、エリは、気分が悪くなって、倒れてしまい、目の前を通り掛かった中年の男性・ヨッケ(ミカエル・ラーム)に助けを求めます。ヨッケは、エリの声に気付き、エリに近付いて、抱き抱えます。すると、次の瞬間、エリはいきなりヨッケに噛み付きます。どんなにヨッケが激しく抵抗しても、どんなにエリが返り血を浴びても、エリは、ヨッケの血液を最後の一滴まで吸い取りたいので、一度噛んだ場所をいつまで経っても離そうとしません。そして、ヨッケの命が尽きると、エリはようやく自身の体を起こします。実は、エリは、200年も前から人間の血液を吸い取って生きてきたヴァンパイアだったのです…。



皆さん、エリの正体がついに明らかになりましたね。エリの突然の行動に、間違いなく背筋が凍りますよね。スウェーデン・ヴェリングビーのいかにも底冷えしそうな一面の銀世界の中で、いきなりそんな事が起こったら、物凄く怖いですよね。原作は、スウェーデン出身の作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2004年に発表したヴァンパイア・ホラー小説「MORSE-モールス-」で、リンドクヴィストは、この映画の脚本も手掛けています。リンドクヴィストは、12年にわたってマジシャン、スタンダップ・コメディアンとして活動し、その後、作家としてデビューした、まさに異色の経歴の持ち主です。メガホンを取ったのは、スウェーデン出身のトーマス・アルフレッドソン監督。代表作は、「裏切りのサーカス」(2011年)です。



オスカーは、学校の中でも外でも、同級生からブタのように扱われていて、観ていて、本当に胸が痛みます。オスカーがいじめられるシーンはいくつも登場しますが、ストーリーの後半に、その極みと言えるシーンがあります。同級生・コンニが、2人の仲間に、1本の細い木の枝でオスカーを叩くよう、命じるのです。2人は、ボスのポジションにいるコンニの命令に背く訳にはいかないので、すぐに1人ずつ順番にオスカーの足や顔を木の枝で叩きます。1人目は、ずっと泣き顔で、手に力が入らず、2人目は、枝の先端でオスカーの頬を切り、頬から血が滲み出てしまいます。滲み出た血を目にしたコンニと2人の仲間は、オスカーの母親に叱られるのを恐れて、逃げてしまいます。一方、オスカーは一人で帰宅します。そして、母親に頬の怪我の事を尋ねられた際、母親に心配をかけまいと思って、「転んで怪我をした」と、嘘をつきます。この映画の舞台・スウェーデンでも、私たちが住む日本でも、このようないじめ、或いは、虐待において、被害者が事実を隠して明るく振る舞うのは、本当に残念でなりません。被害者がいじめや虐待の事実がないふりをし続けるのは、被害者の家族や友人にとって、幸せな事ではありません。家族や友人が一緒に悩み、苦しむ事こそが、幸せな事なのです。



上記に書かせていただいたように、オスカーは、エリと出会った時、エリから「友達になれない」と言われてしまい、ショックを受けます。しかし、時間が経つにつれて、2人は次第に心を通わせるようになります。この間の道のりは、オスカーがありのままのエリを受け入れられるか否かについて葛藤する日々と言えます。葛藤の日々のシーンは、どれも見応えがあるものばかりなので、私は、葛藤の日々がこの映画の一番の注目ポイントではないかと思いました。

ぼくのエリ 200歳の少女 スペシャルプライス版 [DVD]
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人生スイッチ(2014年 アルゼンチン・スペイン)

人生スイッチ [DVD]
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「おかえし」

モデルのイサベル(マリーア・マルル)は、とある広々とした空港で、見るからに重たい青のスーツケースを引っ張っています。イサベルは、ファッションショーに出演するため、搭乗を前にチェックインをしようとしていました。そして、航空会社の窓口に着くと、早速、手続きを始めます。イサベルは、事前に会社がチケット代を支払っていましたが、自身のアカウントでマイルを溜められるかどうかを、グランドスタッフに尋ねます。残念ながら、答えは「ノー」でしたが、イサベルは、何も反論する事なく、笑顔で3番ゲートへ向かいます。

こうして、イサベルが搭乗した便は無事に離陸します。備え付けの雑誌に目を通しているイサベルの隣には、クラシック音楽専門の音楽評論家・サルガード(ダリオ・グランディネッティ)が座っています。サルガードが何となくイサベルに声をかけたのがきっかけで、2人はしばらくの間、おしゃべりに花を咲かせます。イサベルは、サルガードの職業を知ると、かつて交際していた男性で、クラシック音楽を学んでいたガブリエル・パステルナークの事を思い出します。ガブリエルは、イサベルと交際していた時代に、自身が手掛けた音楽作品をサルガードに酷評された事がありました。

サルガードのすぐ前に座っていたレギサモン(モニカ・ビリャ)は、そんな2人の会話に耳を傾けていました。レギサモンは、ガブリエルの小学校時代の恩師でした。当時、レギサモンは、ガブリエルが家庭で問題を抱えていた事、まるで、生まれたばかりの赤ん坊のように泣き叫んでいた事を今でもよく覚えていて、留年が決まった時は、事実を告げるのにとても苦労しました。さらに、この便には、レギサモンの教え子であり、ガブリエルをよくいじめていたイグナシオ、ガブリエルが働いていた店で店長を務め、客と頻繁にもめるのを理由にガブリエルを解雇したという男性、さらには、かつて、ガブリエルを診察していた精神科医・ヴィクトールも搭乗していました。サルガードは、ガブリエルとゆかりのある搭乗客が多いのがあまりにも不思議に感じられ、座席から立ち上がって、「他に、ガブリエル・パステルナークを知っている人は?」と周囲に尋ねます。すると、搭乗客全員が、ガブリエルの事を知っていました。しかも、どの搭乗客も、自分でチケットを買った訳ではなく、親切にチケットを用意してくれた人物がいたというのです。さらに、客室乗務員の中に、ガブリエルは自身の同僚で、人となりをよく知っているという人物がいました…。

人生スイッチ(字幕版)
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「おもてなし」

土砂降りの雨が降る夜、人影もまばらなカフェに、一人の男性客が入ってきます。「お一人様ですか?」と尋ねるウェイトレス(フリエタ・ジルベルベルグ)に、男性客は、「君は算数が得意なんだな。」と皮肉って、席に座ります。ウェイトレスは、男性客にメニュー表を渡すと、厨房に入り、今にも溢れ出しそうな涙を懸命にこらえます。カフェの女性料理人(リタ・コルテセ)が「注文は?」と、ぶっきらぼうに尋ねると、ウェイトレスはこう言いました。「あいつは、故郷にいた男よ。」男性客の名は、クエンカ(セサル・ボルドン)。クエンカは、高利貸しの悪党で、ウェイトレスが暮らしていた家を競売にかけて、ウェイトレスの父親を自殺に追い込み、父親の葬儀からわずか2週間にウェイトレスの母親を誘惑しました。ウェイトレスは、クエンカから逃れるために母と一緒に引っ越しをしたのです。

料理人は、ウェイトレスの気持ちを察し、クエンカを賢く懲らしめる方法として、ネズミを退治するための薬剤・猫いらずをクエンカが注文した料理に入れる事を提案します。クエンカが猫いらずの入った料理を食べたら、わずか5分で心臓発作を引き起こすというのです。その後、ウェイトレスはクエンカから注文を受けます。クエンカが注文したのは、ポテトフライに、目玉焼き、そして、ダイエットコーラでした。厨房に戻り、怒りを露わにするウェイトレスの姿を見た料理人は、猫いらずの入った大きな缶を棚から取り出します。ウェイトレスは、まさか料理人が本当に猫いらずを使うとは思っていなかったため、思わず、「正気なの?」と確かめます。料理人は、正気で、クエンカを懲らしめる自信がありました。しかし、ウェイトレスは、猫いらずを拒みます。クエンカがもがき苦しんで死ぬ姿を想像すると、猫いらずを用いる勇気が出ないのです。

ウェイトレスは、再びクエンカに呼ばれます。実は、クエンカは、近々、市長選挙に立候補する予定で、ポスターの写真を何枚か見比べろというのです。「あんな悪党が政治家を目指すなんて、あり得ないとしか思えない。」ウェイトレスは、憤りを覚えながらも、顔が真面目過ぎるように見えるかどうかを尋ねてくるクエンカに、「いいと思う。」と返事をします。ウェイトレスが厨房に戻ると、料理人がポテトフライを作っていました。「刑務所も悪くないよ。」料理人は、刑務所に収監される事を全く恐れていませんでした。実は、料理人には逮捕歴があるのです。料理人は、改めて、猫いらずを取り出し、ウェイトレスに使うかどうかを尋ねます。ウェイトレスは、どう決断を下すのでしょうか…。

人生スイッチ(吹替版)
人生スイッチ(吹替版)

「パンク」

誰もいない山間部の高速道路で、サングラス姿の男性・ディエゴ(レオナルド・スバラーリャ)が真っ黒なベンツを運転しています。しばらくすると、ディエゴの運転するベンツは、たくさんのがらくたを屋根の上に積んだ、錆だらけの白い車に追い付きます。白い車は、当然、スピードが出ず、真っ直ぐ走る事ができません。ディエゴは思うように前に進めない事に苛立ちを見せ、やがて、我慢の限界に達すると、隣の車線に出て、白い車を追い越します。ディエゴは、窓ガラスを開けて、白い車を運転している坊主頭の屈強な男性・マリオ(ワルテル・ドナード)に向かって、「おい、ふざけんなよ、この田舎者!」と、叫びます。しかし、マリオは、ニヤリとするだけ。ディエゴは、さらに「バカ野郎!!」と叫び、白い車を追い越していきます。

その後、穏やかさを取り戻したディエゴでしたが、今度は、右側の後輪がパンクしてしまいます。ディエゴはスマートフォンで業者に電話をかけ、助けを求めます。しかし、業者がすぐにこの現場に駆けつけるには無理があります。ディエゴは、結局、車に備えつけてあったスペタタイヤを取り出し、自分でタイヤを交換します。すると、そこへ、あの白い車がやって来ます。マリオは、自力でタイヤを交換するディエゴを見て心配し、「どうした?」と声を掛けます。ディエゴは「お先にどうぞ。」と、マリオに道を譲ります。しかし、マリオは、ディエゴの親切心に従うのかと思いきや、再びディエゴの元に戻ってきて、なんと、ベンツのワイパーを容赦なく引きちぎります。マリオは、ディエゴに罵られた時の事をまだ忘れてはいなかったのです。ディエゴは、怒りに震えながら警察に通報するのをマリオに見られて、懸命に許しを乞うのですが、マリオの怒りは収まらず、窓ガラスをひびだらけになるまで力いっぱい叩き、そこにたっぷりと放尿し、挙句の果てに、「この腰抜けがっ!!」と罵られてしまいます。ディエゴは、とうとう怒りを抑えられなくなり、マリオに仕返しをすべく、ベンツを白い車に体当たりさせます。白い車の先にはガードレールがなく、見えるのは、流れの速い川だけでした…。

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)
アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

「ヒーローになるために」

ビルの爆破を担う解体職人・シモン(リカルド・ダリン)は、仕事の帰りにケーキを買います。この日は、娘の誕生日。娘は、シモンが、誕生日パーティーに食べるケーキを買ってくるのを心待ちにしていました。シモンは店員から渡されたケーキを手に、胸をワクワクさせながら、外に出ます。ところが、シモンが外に出ると、すぐそばに停めてあったはずの車が見当たりません。その代わり、アスファルトにレッカー車のイラストが描かれた紙が貼ってありました。いつの間にか、車がレッカー車に繋がれて移動してしまったのです。車を停めた場所の縁石の色は、駐車禁止区域である事を示す黄色ではなかったのに。

シモンは、タクシーに乗り、車を引き取りに行きます。しかし、シモンに応対した担当者の口調がキツく、シモンはつい文句を言ってしまいます。車を引き取るには、490ペソ(※日本円で約911円)が必要です。ケーキを360ペソで買ったばかりのシモンにとって、更なる出費は痛いです。シモンは、陸運局で不服申し立てができる事を担当者から聞かされます。しかし、シモンは、警察に落ち度があるとして、490ペソを払わない事をはっきりとした口調で告げ、「責任者のところに行って、車を返すよう言ってほしい。」と、頼み込みます。さらに、シモンは、この窓口に来る際に乗ったタクシーの代金も支払ってもらい、謝罪もしてもらうつもりでいました。しかし、担当者は苦笑いするだけ。次の順番を待つ人たちも、すっかり待ちくたびれていました。

シモンが帰宅すると、娘の誕生日パーティーは既に終わっていました。しかし、シモンは、娘に詫びる誠実さよりも、自身が警察に侮辱されたという悔しさの方が勝っていました。シモンは、キッチンで、妻・ビクトリア(ナンシー・ドゥプラア)に、担当者の対応の悪さをまくし立てます。常日頃から交通渋滞のトラブル、デモ行進への参加等と、夫の正義感に苦しめられる毎日を送っていたビクトリアは、ただただうんざりします。ビクトリアは、誕生日パーティーで首を長くしてケーキが届くのを待っていた娘の気持ちを考えようとしない夫に怒りをぶつけますが、それでも、本人の頭の中は、正義感を貫く事でいっぱいでした。その後、シモンは、陸運局に足を運び、取りあえず、490ペソを払いますが、警察の判断にはまだ納得がいかず、窓口で改めて抗議し、謝罪を求めます。しかし、担当者がすんなりと要望を受け入れるはずがなく、シモンは怒りを露わにします。担当者は警備員を呼びますが、シモンは、担当者の根性を試そうと、窓口のガラスをわざと消火器で割ろうとします。しかし、シモンは、駆けつけた警備員に取り押さえられ、警察に逮捕されます。翌日、会社の同僚が迎えに来てくれたおかげで釈放されましたが、前日の窓口でのやり取りは、幸か不幸か、新聞の1面に載りました。おまけに、会社から解雇され、ビクトリアからは三下り半を突きつけられてしまいました。しかし、シモンは…。



「愚息」

大富豪・モーリシオ(オスカル・マルティネス)を父に持つサンティアゴが、かなり動揺した表情で就寝中の両親を起こしています。サンティアゴは、モーリシオの名義の車で飲酒運転をした上に妊婦を轢いてしまい、母子共に助からなかったのです。テレビニュースでは、事故が大々的に報道されています。目を覚ましたモーリシオは、飲酒運転をしてしまったのか、それとも、マリファナを使用しているのかを問いただします。一方、母親は、ショックの余り、ただただ涙を流すばかりでした。その後、一家の元に顧問弁護士(オスマル・ヌニェス)が駆け付け、「家族の人生を台無しにされた」とリビングルームで憤るモーリシオや、モーリシオを懸命になだめる母親を遠ざけ、サンティアゴに事情を尋ねます。しかし、サンティアゴは、泣き崩れてしまっていて、とても話を聞ける状況ではありませんでした。

弁護士は、刑事裁判を乗り越えるため、一家と協力しながら、事故に至るまでのストーリーを懸命に練り上げます。その結果、なんと、この家で働く使用人・ホセ(ヘルマン・デ・シルバ)に、50万ドルで身代わりになってもらう事になったのです。やがて、検察官(ディエゴ・ベラスケス)が捜査のため、この家を訪れます。弁護士たちは、早速、練り上げたストーリーで乗り切ろうとしますが、検察官の目はそう簡単には誤魔化せません。検察官は、弁護士に司法取引を提案します。ただし、100万ドルと、何とも高額な金銭の支払いが条件です。しかも、検察官は、更なる必要経費の上乗せを要求します。弁護士から事情を聞かされたモーリシオは、「100万ドルを超える金額は、支払いたくない。」と言い出します。

やがて迎えた、サンテイアゴの身代わり・ホセの逮捕当日。逮捕にあたって、念入りに一家と打ち合わせをする弁護士。しかし、モーリシオは、あの100万ドルの他に、弁護士への報酬に50万ドルを支払ったり、ホセにマンションを与えたり、家の周辺に警備員を何人か配置したりと、何かとコストがかかるのを嫌がり、「金を払いたくない!」と、憤ります。そんな中、サンティアゴは、罪を告白したくてたまらない心境になります。しかし、サンティアゴが茨の道を歩むのをどうしても見たくない両親は、サンティアゴに罪の告白を断念するよう、説得します。家の外では、事故の被害者や遺族に寄り添う人々が抗議をしていました。果たして、ホセが身代わりとなるこの作戦は、上手く行くのでしょうか…。



「HAPPY WEDDING」

とある結婚式場では、アリエル(ディエゴ・ヘンティレ)とロミーナ(エリカ・リバス)の結婚披露宴が行われています。2人の思い出の写真のスライドショーが行われる中、いよいよ、アリエルとロミーナが入場します。ロミーナの父親は、将来、アリエルが浮気をしないかと心配で、2人が入場してすぐにアリエルに声を掛けて、浮気をしない事をアリエルに約束させます。また、ロミーナも、アリエルの浮気を心配していました。結婚披露宴の出席者の中に、なんと、アリエルの元恋人がいたのです。その後、ロミーナは、アリエルが元恋人と仲睦まじく話をしているのを目撃し、頭の中が不安でいっぱいになります。そして、テーブルに置いたままのアリエルのスマートフォンを手に取り、着信履歴にあった、ある番号にリダイヤルします。電話に出たのは、やはり元恋人でした。ロミーナは、怒りに震える余り、言葉を発する事ができませんでした。

その後、結婚披露宴は佳境に入り、アリエルとロミーナは出席者たちが見守る中、お互いの手を取り、ダンスをします。この時もロミーナの不安は消えず、思わずアリエルに真相を問います。アリエルは、最初は、元恋人の事を「ギターの先生だ」と答えていましたが、ロミーナは、アリエルが浮気を認めるまで諦めたくなくて、しつこく追い詰めていきます。やがて、アリエルは、真実が口から飛び出そうになるのを必死に抑えるように、答えが二転三転するようになり、そして、ついに、ロミーナと交際するようになった後も元恋人と寝ていた事を認めます。ロミーナは、ついに真相を引き出した安堵感と、自分を一途に愛してくれていない悲しさで、号泣してしまいます。アリエルの母親は、ロミーナの異変に気付き、アリエルのダンスの相手になる事を申し出ます。ロミーナは、アリエルだけでなく、アリエルの母親にも心の底から恨みを抱いていました。その後、ロミーナは、自身の父親とダンスを始めますが、気が晴れる事はなく、泣きながら式場の屋上へ行ってしまいます。屋上で、大声を上げて泣き続けるロミーナ。そんなロミーナを心配し、屋上まで追いかけてきた男性がいた。彼は、式場の料理人でした…。



このブログを開設して4年2か月になりますが、南米の映画をご紹介させていただくのは、今回が初めてです。この映画は、全部で6つのストーリーから成るオムニバス映画です。どれも、ブラックユーモアが溢れ、登場人物たちは、世の中に対して怒っている人々にとって良き代弁者でもあり、場合によっては、反面教師でもあります。メガホンを取ったのは、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレス出身で、アルゼンチンで、この映画のようなブラックコメディーの他に、ラブストーリー、SF、西部劇と、実に幅広いジャンルのテレビドラマや映画を手掛ける、ダミアン・ジフロン監督です。



この映画は、アルゼンチンの歴代興業収入記録第1位を樹立。入場者数は、アルゼンチン全土で、400万人を超えたそうです。2014年に、アルゼンチンの映画賞・スール賞で、作品賞をはじめとする最多10部門を受賞。同年、第67回カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に正式に出品されました。さらに、翌年の第87回アカデミー賞では、外国語映画賞にノミネートされました。



さて、この映画の6つのストーリーですが、この後、どう展開していくと思いますか?ヒントは、ズバリ、この映画のタイトル「人生スイッチ」にあります。人は、極地まで追い詰められると、禁断のスイッチを押したくなるもの。さあ、スイッチを押すか、否か。もし、押してしまったら、その人には、どんな運命が待ち受けているのでしょうか。

人生スイッチ [DVD]
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終電車(1980年 フランス)

終電車 Blu-ray
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1942年9月、フランス・パリ。フランスは、この時から遡る事2年前に、パリを含む北部がドイツ軍に占領されていました。占領された北部は占領地区と呼ばれ、占領されていない南部は自由地区と呼ばれていました。当時、国民は、昼間は、食料を求めて何時間も行列に並び、夜になると、気温が低くなるため、劇場や映画館に入って、暖を取っていました。どの劇場も、どの映画館も、常に暖を取りに来た人々で満席となるため、予約を取るのは困難でした。そして、夜11時以降は、外出が禁止されるため、人々は、終電車に乗り遅れないよう、細心の注意を払っていました。

終電車〔フランソワ・トリュフォー監督傑作選6〕 [DVD]
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パリにある劇場の一つ、モンマルトル劇場は、支配人のルカ・シュタイナー(ハインツ・ベネント)が、自身がユダヤ人である事を理由に、国外へ逃亡していました。ルカは、「アメリカへ行ったのではないか」と、世間で噂されていましたが、実際には、南米大陸に行っていました。とにかく、ルカにとって、国外への逃亡は、苦渋の選択だった事だけは確かでした。ルカがいなくなってしまった後、劇場は、妻のマリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)が取り仕切っていました。マリオンは、ユダヤ人俳優の雇用の問題や上演演目の検閲という問題と向き合いながら、劇場を守り続けていました。

終電車 - ARRAY(0xd7e6918)
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パリの街で、若手俳優のベルナール・グランジェ(ジェラール・ドパルドゥー)が、自身より年上と思しき女性・アルレット(アンドレア・フェレオル)に、「聞きたい事がある」と、声を掛けています。この場所の近くに住んでいるというベルナールは、アルレットに、時間を尋ねている訳でもなく、道に迷っている訳でもありません。たまたま、ベルナールが電話を掛けていたら、アルレットが通り掛かり、瞳の美しさや顔の表情に惹かれてしまったというのです。ベルナールは、「誤解しないでほしい」と言って、アルレットから信頼を得ようとしていますが、ベルナールのしている事は、どこからどう見てもナンパです。アルレットは、懸命にベルナールを払いのけようとしますが、ベルナールは、実に4年ぶりとなるナンパを成功させたくて必死です。ベルナールは、せめてアルレットの名前と電話番号を聞き出せたらと思い、ここで初めて自身の名前を名乗ります。しかし、アルレットはここで騙される訳がなく、「電話番号を伝える」と言って、フランスの時報の番号を伝え、ベルナールがメモをとっている間に、姿を消したのでした。



一方、同じパリの別の場所では、幼い少年・ジャコが一人で街を歩いていました。ジャコは、ルカとマリオンとの間に生まれた子でした。ジャコは、通りかかったドイツ兵に髪を軽く触られたところで、普段、ジャコの世話をしている女性に声を掛けられます。ジャコがドイツ兵に髪を触られた事を話すと、女性は、「家で髪を洗わないとね」と言って、ジャコの手を握ります。ジャコは、その瞬間、いきなり女性の手を振りほどき、走り出そうとしますが、すぐに女性に捕まってしまうのでした。



ジャコが女性と一緒にその場を去った後、同じ場所に、ナンパに失敗してしまったベルナールが通り掛かります。ベルナールは、目の前にあるモンマルトル劇場に入るところでした。しかし、残念ながら、正面玄関から入る事ができませんでした。次に、ベルナールは、裏にある管理人室の出入口から劇場に入ろうとします。しかし、ここも閉まっていました。しかし、管理人室には、灯りが付いています。誰かが中にいるのは間違いありません。ベルナールは、管理人室のガラス窓を叩き、一人の女性に、「劇場の方と約束している」と、声を掛けます。女性は、中でベルナールの髪を洗っていました。そう、この女性は、ジャコと一緒にいた、あの女性でした。女性は、「裏の楽屋から入って。」とベルナールに伝え、ベルナールは、ようやく楽屋から劇場に入る事ができました。楽屋の出入口には、ベルナールが約束をしていた男性・レイモン(モリス・リッシュ)の姿がありました。レイモンは、ベルナールを事務所に案内してくれました。



ベルナールは、途中、劇場の理事で、金銭の管理もしているメルラン(マルセル・ベルベール)とすれ違い、事務所に到着します。ベルナールは、案内された事務所の中で、マリオンが来るまで、しばらく待つ事になりました。ベルナールが客席の模型や劇場に出演した俳優の写真に夢中になっていると、マリオンがメルランと一緒に入ってきます。マリオンとメルランは、劇場に出演しているユダヤ人俳優・ローゼンの身分証や労働許可証の事で、口論になりかけていました。これまで、マリオンたちは、自分たちのコネを使ったり、偽物の身分証を発行したりして、ローゼンと契約をする事ができました。しかし、事情が変わり、これからはそういう訳にはいきません。メルランは、どうにかローゼンとの契約を延長できる方法を模索しますが、マリオンは、断腸の思いで、契約の打ち切りを決断します。メルランは、これ以上、自分の意見を押し通す事ができませんでした。このやりとりの一部始終を遠くから見つめていたベルナールは、ユダヤ人差別に抗議するため、モンマルトル劇場を去ろうとします。しかし、かねてからベルナールの評判の高さを知っていたマリオンは、その場で一方的にベルナールと契約を結んでしまいます。契約するにあたり、ベルナールは、契約書にサインをします。そこには、祖父母も両親もユダヤ人ではない旨が書かれてありました。



ベルナールは、早速、劇場の舞台で、女優・ナディヌ(サビーヌ・オードパン)らと一緒に、戯曲「消えた女」の稽古に臨みます。「消えた女」は、もともと、ルカが翻訳したノルウェーの戯曲で、ルカが自ら演出する予定でしたが、ルカがいなくなってしまったため、俳優のジャン=ルー(ジャン・ポワレ)が代わりを務める事になっていました。出演者たちが台本を片手に稽古を進めていると、そこへ、美術と衣装を担当する女性が入ってきます。女性は、街でベルナールにナンパされたアルレットでした。アルレットは、ベルナールの顔を見ると、ナンパされた時の記憶が一気に蘇り、怒りに満ちた表情を見せます。一方、ベルナールは、全く罪悪感が見られませんでした。



ところ変わって、パリ市内のホテル。マリオンは、このホテルの一室でルカと一緒に暮らしていましたが、ルカがいなくなった後も、引き続き一人で暮らしていました。この日、マリオンは、正面玄関から入ってすぐのところで、ベテラン脚本家・バランタンと再会します。バランタンは、マリオンに、「フロントに原稿を預けてあるので、読んで感想を聞かせてほしい。」と伝え、その場を去っていきます。マリオンは、早速、フロントで原稿を受け取りますが、フロント係の男性に別室に案内されます。ルカがパリにいない事をまだ知らない人たちから、ルカ宛に手紙が何通か届いていたのです。マリオンは、夫に代わって、手紙を受け取ります。その後、マリオンは、部屋に入ると、マリオンの下で働くメイドから、昼間に記者が写真撮影に来た事を聞かされます。メイドは、マリオンが不在である事を伝えましたが、記者は「スターの自宅」という特集に使える写真を撮るため、その場で一方的に写真撮影を始めようとしました。しかし、メイドが、マリオンから許可を受けた後で撮影をするよう伝えると、撮影を一切行わずに去っていきました。マリオンは、メイドの機転に感謝します。



翌日、ナディヌが「消えた女」の稽古に1時間も遅刻します。劇場の外で、「ナディヌに何かあったのではないか。」と心配していたレイモンは、ドイツ兵の運転する車で堂々と劇場に入ってきたナディヌの姿を見て、怒りを露わにします。客席でナディヌを待っていたジャン=ルーやマリオンも、レイモンと同じ感情を抱いていました。ナディヌは、ジャン=ルーから遅刻した理由を問われ、自身の置かれた状況を説明します。ナディヌは、朝はラジオの仕事、昼になると録音の仕事、日が暮れると、今度は国立劇場の仕事をしていました。さらに、木曜になると、子ども向けの演劇教室で子どもたちに演技を教えていました。どれも、仕事に繋がるコネを作るためでした。ナディヌは、解雇を覚悟しますが、幸いな事に解雇を免れます。



その日の夜。マリオンは、ランプを持って、たった一人で劇場の地下へ向かいます。そして、一枚の扉を開けると、そこには、一人の男性の姿がありました。その男性は、なんと、南米大陸にいるはずのルカでした。実は、ルカは、既に国外へ逃亡したのではなく、劇場の地下に潜んで、本当に国外へ逃亡できるチャンスを窺っていたのです。ところが、ある日、ルカがパリにいる事実が外に漏れてしまいます。「消えた女」の脚本の検閲をした批評家のダクシア(ジャン・ルイ・リシャール)が、わざわざ劇場を訪れ、マリオンにそう伝えたのです。これまで、マリオンが徹底的に秘密を守ってきたはずが、なぜ、こんな事になってしまったのでしょうか…。



メガホンを取ったのは、「大人は判ってくれない」(1959年)、「突然炎のごとく」(1961年)等で有名なフランソワ・トリュフォー監督。「終電車」は、トリュフォー監督最大のヒット作です。1980年に、第53回アカデミー賞で、外国語映画賞にノミネートされただけでなく、翌年の第6回セザール賞(※フランス映画界で、最も権威のある賞。)で、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、録音賞、編集賞、美術賞、音楽賞、男優賞(ベルナール役のジェラール・ドパルドゥー)、女優賞(マリオン役のカトリーヌ・ドヌーヴ)と、なんと、10冠を達成しました。



この映画を観て、印象に残ったのは、オープニングタイトルです。真っ赤に染まった画面が、とても鮮やかなんです。オープニングテーマ曲に使われているのは、1942年にリュシエンヌ・ドリールが発表したシャンソンの名曲「サンジャンの私の恋人」。哀愁漂うアコーディオンの音色と、恋い焦がれる男性に身も心も愛されたい女性の情熱を表現した歌詞が、真っ赤な画面にとてもよく合い、大人の女性たちの心を鷲掴みにします。この曲を聴くと、女性は、恋愛関係において、受け身である事に喜びを感じるのだという事を、再認識させられます。また、マリオンを演じたカトリーヌ・ドヌーヴのオーラも、印象に残りました。たとえ、パリがドイツ軍の占領下にあっても、舞台の上で生きる人間としてのプライドを無くさない女性を見事に演じ切っていました。毅然とした立ち姿や、ファッション、髪形から、物凄くオーラを感じました。



さて、ルカがパリに留まっている事が外に漏れてしまい、突然、命の危険に晒されるルカとマリオン。これによって、ベルナールは、影が薄くなってしまったように感じられますが、実は、そんな事はありません。ベルナールがモンマルトル劇場にやってきた一番の目的は、「消えた女」への出演ではなく、ある理由で、マリオンに近付くためだったのです。ベルナールは、目的を達成するために、必ず劇場の外で様子を見守る仲間のクリスチャン(ジャン・ピエール・クライン)の力を借りて、マリオンの人物像を調べていきます。マリオンに近付く理由とは、一体何なのでしょうか?また、ナディヌやアルレットも、誰にも言えない、ある秘密を抱えていました。ある日、マリオンは、この秘密を思わず目撃してしまいます。この時のマリオンの心境とは?さらに、「消えた女」の稽古中にナディヌの鞄が盗まれる事件が発生し、劇場の人たちはマリオンに警察へ通報する事を勧めます。しかし、マリオンは、ルカの事を考えると、警察の介入を受け入れる訳にはいきません。これらのような紆余曲折を経て、いよいよ、「消えた女」が開幕します。後半も、見どころ満載の映画です。ぜひ、最後まで楽しんでいただけたらと思います。

終電車 Blu-ray
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5パーセントの奇跡~嘘から始まる素敵な人生~(2017年 ドイツ)

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ DVD
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ドイツのギムナジウム(※ヨーロッパの中等教育機関)に通う、真面目で成績優秀な学生サリヤ・カハヴァッテ(コスティア・ウルマン)は、学業の他に、ドイツの湖畔に建つレストランで実習生として働いています。その働きぶりは、実に優秀で、先輩の後についてではありますが、給仕を任される程でした。ところが、ある日、そんなサリヤの順風満帆な日々に暗雲が立ち込めます。休日に、自宅で、スリランカ人の父、ドイツ人の母・ダグマール(シルヴァナ・クラパチ)、妹・シーラ(ニラム・ファルーク)と一緒に食事をしている時に、突然、視界がかすんだのです。別の日に、学校の授業で黒板の前に立った時も、手元にあった自筆のメモが読めず、授業を見守っていた教師から「ウケ狙いか?」と茶化されてしまいます。

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ Blu-ray
5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ Blu-ray

サリヤは、両親に付き添ってもらう形で、眼科を受診します。早速、医師が視力検査を行うのですが、どんなに大きな文字を示しても、どんなに大きなランドルト環(※視力検査で見かけるCのような形のもの)を示しても、サリヤは、全く見えません。検査の結果、サリヤは、先天性の疾患を抱えている事が分かります。先天性の疾患の合併症により、急激に網膜剥離が起こっていたのです。既に、視力の80%が失われ、視神経も損傷を受けているといいます。少しでも視力を残すには、手術が必要です。父は、あまりにも残酷な診断結果に耐えきれず、診察室を出ていってしまいます。ダグマールは、厳しい試練を課せられた息子を、ただただ抱きしめます。

数日後、サリヤは手術を受けます。手術の結果、サリヤは視力を5%だけ残す事ができました。しかし、サリヤは、これを機に、盲学校に転校する気はありませんでした。これまで通っていた学校に引き続き通い、卒業したら、ホテルで研修をしたいと考えていたからです。父は、サリヤに現実と向き合ってほしいと考え、自宅の本棚から本を1冊取り出し、適当にページを開いて、「声に出して、読んでみろ。」と要求します。サリヤは、全く読めず、悔しい想いをしますが、それでも盲学校に転校する気持ちにはなれませんでした。ダグマールは、そんなサリヤの姿を見て、改めて、彼の意思を尊重する決意をします。

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~(字幕版)
5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~(字幕版)

学校でも、数学の教師や同級生たちがサリヤを支えてくれました。数学の教師は、「(口頭での説明が)速かったら、言ってくれ。」と気遣い、サリヤの隣の席の同級生も、サリヤが板書を書き移すのに苦労しているのを目にすると、サリヤのノートに文字を大きく書いてくれました。サリヤが自宅に帰ると、シーラが教科書を朗読してくれました。ダグマールも、サリヤやシーラの労を労うべく、お菓子や水を持ってきてくれました。やがて、サリヤは、卒業試験の時期を迎えます。試験を受けた結果は、2.7。サリヤは、ギムナジウムの卒業資格を取得する事ができたのです。学校から帰ったサリヤは、努力ぶりを父に褒めてもらいたくて、早速、父に報告します。しかし、父は無表情で、ただ「おめでとう」と言うだけでした。サリヤは、父の表情はよく見えなくても、自身に対する関心のなさは見抜き、目に涙を浮かべて、自室に籠ってしまいます。



自室に籠ってしまったサリヤは、パソコンを使って、研修生を募集するホテルの求人に応募します。サリヤがホテルで働きたいのには、理由があります。サリヤは、14歳の時に父の故郷・スリランカを訪れたのですが、おじの勤務するホテルに泊まった際、言語、文化、宗教、服装も異なる宿泊客たちに、尊敬の気持ちを持って接するスタッフたちの姿に感銘を受け、それ以来、ホテルで働くのがずっと夢だったのです。ギムナジウムの卒業資格を取得した事は勿論、視覚に障がいがある事も正直に入力し、努力をアピールするサリヤ。しかし、結果は不採用でした。不採用を通知する手紙には、「応募者多数のため」と理由が書いてありましたが、実際は、障がい者を雇用するのに慎重になっているだけでした。「5つ星ホテルなど、非現実的です。電話の受付係やマッサージ師が向いていますよ。」中には、こう言って、サリヤに理解を求める人もいましたが、サリヤは、「障がい者だから、夢を見てはいけないのか?」と憤ります。



その後、サリヤは、ミュンヘンにある5つ星の老舗ホテル「バイエリッシャー・ホーフ」の研修生の求人に応募します。サリヤは、今度も、視覚に障がいがある旨を正直にパソコンに入力します。「バイエリッシャー・ホーフ」は、1841年創立の老舗ホテルで、客室数は340。ナイトクラブをはじめとするエンターテイメントは伝説と言える評判ぶりで、5店のレストランと、6店のバーは、食通たちをうならせています。まさに、サリヤにとって、夢の空間です。サリヤは、早速、自宅で面接の練習を始めます。サリヤは、シーラに面接官役になってもらい、「どんなお客様にも、丁寧な対応ができるか?」と尋ねてもらうと、シーラの顔を見ながら、「声の調子で、ご要望も分かります。」と笑顔で答えるのでした。

いよいよ、面接当日。サリヤは、ダグマールの運転する車で、シーラと一緒にミュンヘンの「バイエリッシャー・ホーフ」を訪れます。サリヤは、ダグマールやシーラに励まされ、一人で回転ドアを通り抜けます。そして、大勢の宿泊客にぶつからないよう、気を付けながら、フロントの傍の椅子に座っていた人事部長のフリート(アレクサンダー・ヘルト)に近付きます。その後、お互いに挨拶を済ませると、フリートは館内を案内してくれました。すると、背後から一人の青年が近付いてきます。この日、面接に1時間も遅れてしまったマックス(ヤコブ・マッチェンツ)です。マックスは、「トラックが市電に突っ込み、足止めを喰らっていた。」と言い訳します。フリートは、マックスの言い訳に呆れながらも、サリヤとマックスを案内する事に決めます。



フリートは、テラスを案内しながら、サリヤに、求人に応募した理由を尋ねます。サリヤは、夢中になって質問に答えますが、自身の気づかぬ間に、フリートとマックスが歩く方向を変えてしまい、サリヤがハキハキと独り言を言っているような状態になってしまいます。サリヤの姿が見えなくなった事に気付いたフリートは、「こっちだ」と声を掛けます。サリヤは、慌ててフリートたちの方に向かって走りますが、途中でつまづき、転びそうになります。マックスは、転びそうになっているサリヤに早めに気付き、さりげなく手を差し伸べ、サリヤは事なきを得ます。

その後、サリヤとマックスは、スイートルームを案内してもらいます。もし、2人が採用されたら、最初にハウスキーピングを学ぶ事になります。この後、一同は厨房へ向かいます。サリヤは、厨房の活気に圧倒されます。そんな時、フリートは、料理長のクローン(ミヒャエル・A・グリム)を2人に紹介します。紹介が終わると、サリヤは真っ先にクローンに握手を求め、クローンはそれに応じるのでした。そして、一同は最後にレストランへ。テーブルは15卓で、ディナーの時間帯は常に満席状態です。フリートは、研修生を人一倍熱心に育てる事で知られるレストランの責任者・クラインシュミット(ヨハン・フォン・ビュロー)を紹介します。この時、マックスは、サリヤが視覚障がい者である事に何となく気付いていました。サリヤも、マックスが前夜に酒を飲んで、酒の臭いをミントでごまかそうとしている事、着ている服に煙草の臭いが染みついている事に気が付いていました。一同がレストランを出た後、ようやく面接が行われ、その結果、2人とも研修生として採用されます。



初めての出勤日、サリヤはシーラに通勤経路の歩き方を教わりながら、出勤します。サリヤとシーラが集合場所となっている通用口の前まで来ると、大勢の仲間たちが、研修生生活の始まりを、今か今かと待っていました。サリヤも、シーラと別れた後、マックスと再会し、胸を高鳴らせます。そして、いよいよ、研修生生活が始まります。研修生たちは、人数が多いため、いくつかの班に分かれる事になっていました。研修生への教育を担当するリーディンガーは、研修生たちの前で、誰がどの班に所属するのかを順番に発表します。因みに、サリヤは、リーディンガーが自ら訓練を担当する班に所属する事になりました。同じ班には、ハンナ、ティム、イリーナ、ヤラ、そして、マックスがいました。その後、一同は客室へ移動し、ハウスキーピングの研修が始まります。まず、研修生たちは、ベッドメイキングの練習をする事に。最初にリーディンガーがシーツの角の畳み方を丁寧に教え、それから研修生たちが同じ作業を繰り返します。しかし、サリヤは、どんなに目を凝らしても、リーディンガーが見せる動きがほとんど分かりませんでした。

さらに、サリヤは、客室のドレッサーの鏡を、自ら持参した分厚いルーペで汚れが残っていないかどうか確かめながら拭いていた時に、マックスに不意に声を掛けられ、ルーペを使っている理由を尋ねられます。サリヤは、マックスの前でこれ以上健常者のふりをし続けるのは無理だと判断し、とうとう網膜剥離で視力が5パーセントしかない事を打ち明けます。マックスの反応は、…。



視力が落ちている事をまず最初にマックスに打ち明けるサリヤ。サリヤは、マックスの反応がどうなるのか、全く予想が付かなくて、心臓が飛び出そうになるくらいに緊張しているのではないかと思います。「もし、マックスと絶交する事になったら、どうしよう。」、「もし、『バイエリッシャー・ホーフ』を辞めなければならなくなったら、自分の後に続く障がい者がいなくなってしまう。」と、様々な不安に襲われている事でしょう。



さて、少々話が変わりますが、物語の展開からして、フィクションのように思えるこの映画、なんと、実話です!マルク・ローテムント監督が、サリヤ本人の自伝を基に映画化しました。ローテムント監督は、ドイツ映画界のヒットメーカーで、映画祭での受賞経験も豊富です。代表作は、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」(2004年)で、2005年に第78回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、同年に第55回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています。



では、この映画が実話に基づいている事を皆さんに知っていただいた上で、サリヤ・カハヴァッテがどういう人物なのか、ここでもう少し情報を補足したいと思います。サリヤ本人が実際に失明したのは、15歳の時。それ以来、彼は、盲目である事をなんと15年間も秘密にしていたそうです。その間、ギムナジウムを卒業し、ホテルで見習いとして働き、接客業と美食調理法においてキャリアを積みました。現在は、ドイツ・ハンブルクに住み、ビジネスコーチ、ドイツ語圏内の国々での講演活動、仏教徒としての修業、アーユルヴェーダ料理作りと、多忙な日々を送っています。



この映画を観て、印象に残ったのは、ほぼ全てのシーンでサリヤの視界が再現されている事です。残りわずか5%となったサリヤの視界は、光は感じられ、人や物の色は分かるのですが、人の体型や物の形は全く分からず、形を理解できない事がいかに日常生活に支障をきたすのかがよく分かりました。この状態で、仕事に就けない怖さから逃れるために健常者のふりをし続けるのは、かなり無理があると思いました。因みに、サリヤを演じたコスティア・ウルマンも、サリヤの視界を理解するために、特注のコンタクトレンズと訓練用のゴーグルを使って、撮影に臨んだそうです。



物語の後半では、サリヤの不安とは裏腹に、料理長のクローン、厨房で皿洗いの仕事をしているアフガニスタンからの難民・ハミード(キダ・コドル・ラマダン)、5歳の息子・オスカーを女手一つで育てながら、両親の農場を手伝い、「バイエリッシャー・ホーフ」の厨房に農作物を納めているラウラ(アンナ・マリア・ミューエ)など、様々な人たちがサリヤを助けてくれます。サリヤが働きやすくなるよう、各々が親身になって考えてくれる様子は、とても心が温かくなります。しかし、サリヤは、スタッフを人一倍熱心に育てる事で知られるレストランの責任者・クラインシュミットには、視覚障がいの事をどうしても打ち明けられません。クラインシュミットは、サリヤにとって、大ピンチを与える存在とも言えますし、一人の障がい者として本当に大切な事を教えてくれる存在とも言えます。私は、この映画に登場する脇役の中で、クラインシュミットが最も印象に残りました。ところで、サリヤは、マックスとはどうなるのでしょうか?その答えは、ぜひDVDで!

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~ DVD
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マネー・ピット(1986年 アメリカ)

マネー・ピット [DVD]
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ブラジル・リオデジャネイロで、ある年の差カップルの結婚式が行われています。新郎は、白髪のダンディーなアメリカ人弁護士ウォルター・フィールディングSr.(ダグラス・ワトソン)。新婦は、まだ少女の面影があるブラジル人・フロリンダ(ティッチー・アグバヤーニ)。真っ白なサンバの衣装に身を包んだ女性が神父の役割を担い、2人は誓いの言葉を述べます。そして、最後にキスを交わすと、大勢のダンサーが集まり、リズミカルな演奏に合わせて、サンバを踊り始めます。しかし、ウォルターSr.には、一つ残念な事がありました。アメリカ・ニューヨークでロックバンドをクライアントに持つ弁護士で、息子のウォルターJr.(トム・ハンクス)が参列してくれなかったのです。実は、ウォルターSr.は、ある事情で、お金を持ち逃げして、リオデジャネイロに渡りました。残されたウォルターJr.は、ウォルターSr.の後始末をする羽目になり、それ以来、父子は、折り合いが悪いのです。ウォルターJr.は、ニューヨークで派手な暮らしぶりを貫いてきたウォルターSr.を反面教師にして、月並みな男になる事をずっと目指してきました。

MONEY PIT
MONEY PIT

無事に結婚式を終えたウォルターSr.は、息子に絵葉書を送りました。絵葉書には、フロリンダとのツーショット写真を載せ、「ニューヨークに戻るつもりはない」とのメッセージを記しました。絵葉書を受け取った息子は、一流の弁護士として有名な自分の父が親子ほど年の離れた女性と生涯を共にする決意をしたのが、どうしてもだらしないように思えて仕方がありませんでした。彼の隣で絵葉書を見ていた、恋人でヴィオラ奏者のアンナ(シェリー・ロング)は、写真に写るフロリンダの顔を「美人よね」と言いながら見つめていましたが、彼は、フロリンダの事をとても良くは思えませんでした。



絵葉書が届いた日の翌日、ウォルターJr.は、アンナにプロポーズします。アンナは、ウォルターJr.を心から愛していました。しかし、アンナが望んでいるのは、あくまで事実婚でした。アンナは、一度離婚した経験があるため、婚姻届に縛られるのではなく、お互いにお互いを愛する気持ちさえあればいいと考えているのです。アンナは、ウォルターJr.との話し合いの末、結局、返事を保留する事にしました。ところが、アンナが返事を保留する決意をしたその瞬間、2人は、今まで聞いた事のない男性の声に気付きます。しかも、男性の数は1人ではありません。一体、何人の男性がこの建物に入ってきたのでしょうか?そして、何の目的で入ってきたのでしょうか?

そして、ついに、1人の男性が大勢の男性を引き連れて、ウォルターJr.とアンナがいる部屋の扉を開けます。大勢の男性が勝手に家財道具を置いていく中で、彼らを引き連れてきた男性はこう言いました。「名指揮者が戻ってくる。」名指揮者とは、アンナの元夫・マックス(アレクサンダー・ゴドノフ)の事。アンナが今から1年前に離婚した際、マックスは演奏旅行のためにヨーロッパへ旅立ち、アンナは、離婚から1年以内に新居を見つける約束で、マックスと暮らしたこのアパートに留まっていました。しかし、新たに、ウォルターJr.と交際するようになり、やがて、このアパートで同棲生活を送るようになりました。しかし、約束の1年が経過しても新居は見つからず、そんな中、マックスが帰国し、ウォルターJr.とアンナ、マックスの3人が、同じ屋根の下で生活しなければならなくなってしまいました。ウォルターJr.は、マックスが戻ってくる前に、自分たちがアパートを出ていく旨を男性に伝え、いったん、男性にアパートを出ていってもらいます。



しかし、ウォルターJr.には、すぐに新居を見つけられる自信がありませんでした。ニューヨークでは、お金持ちにとっても、そうでない人にとっても、住む場所を見つけるのは、とても大変な事。ウォルターJr.たちの場合は、後者です。しかし、ウォルターJr.には伝手がありました。ウォルターJr.の伝手とは、不動産屋で働く友人・ジャック(ジョシュ・モステル)の事。ウォルターJr.は、早速、ジャックに連絡を入れ、会う約束をします。一方、アンナは、所属するオーケストラの練習会場に向かっていました。ちょうど、集合時間ピッタリで練習会場に到着したアンナ。すると、そこへマックスがブロンドの長髪をなびかせて現れます。実は、マックスは、アンナが所属するオーケストラの指揮者。元夫婦が同じ場所にいるという状況に、当事者たちはもちろん、同じオーケストラのメンバーたちも、全く動揺する様子はありません。こうして、オーケストラの練習が静かに始まるのでした。



一方、ウォルターJr.は、指定されたビルの屋上でジャックと会っていました。ジャックは趣味のジョギングで汗を流していました。ジャックは、走りながらこう尋ねます。「金曜の夕方までに20万ドル作れるか?」ウォルターJr.は、「全財産はたけば、昼飯はおごれるかも。」と、答えます。すると、次の瞬間、ジャックが倒れ、救急搬送されてしまいます。幸い、ジャックは、救急車の中で横になると、症状が落ち着きました。実は、ジャックにとって、救急搬送は、この5か月間でなんと7回目。ジャックは、このパターンにすっかり慣れていました。ジャックは、横になったまま、一緒に救急車に乗ってくれたウォルターJr.を相手に商談を始めます。ジャックは、100万ドルもする家を20万ドルで売ろうと考えていました。ジャックが「20万ドル作れるか?」とウォルターJr.に尋ねたのは、こういう事だったのです。

その頃、アンナは、レストランでマックスと食事をしていました。離婚した事でアンナがすがすがしい気持ちになっているのに対して、マックスは離婚して1年が経ってもまだアンナに未練があり、復縁を望んでいました。しかし、今、アンナにはウォルターJr.がいます。しかし、アンナを諦めきれないマックスは、ウォルターJr.の事を「彼は音楽家じゃない」と、見下します。



ある日、ウォルターJr.はアンナと一緒に、ジャックが紹介してくれた家を見学しに行きます。そこは、昔ながらの大きな屋敷で、大きな庭があり、夫・カルロス(ジョン・ヴァン・ドリーレン)に先立たれた老婦人・エステル(モーリン・ステイプルトン)が一人で暮らしていました。エステルは、ウォルターJr.たちを温かく出迎えます。エステルは、「(家自体だけでなく)家財道具も売っていい。」と言ってくれました。しかし、この家は、老夫婦が長い間暮らしてきただけあって、老朽化していました。階段は、エステルが修理を先延ばしにしているうちにもろくなり、昇り降りするのがとても怖いくらいになっていました。やがて、夜になり、エステルはウォルターJr.たちを愛車に乗せて、最寄りの駅まで送り届けてくれました。その時、エステルが、奇妙な発言をします。「夫は金曜に送還されるから。」カルロスは既に亡くなっているはずのに、なぜ帰ってくるのでしょうか?アンナは、エステルと一緒に2階の寝室にいた時に、真相を教えてもらっているようなのですが。



駅で列車を待つ間、ウォルターJr.は、今日訪ねた家を甚く気に入り、購入する決意をします。アンナも、「(購入費用の)半分を出す。」と、賛成してくれました。アンナは、マックスと離婚した際に手に入れたお金から購入費用を用意するといいます。では、ウォルターJr.の方は、どうするのでしょうか。ウォルターJr.には、ジャックとは別に伝手がありました。その伝手とは、ウォルターJr.が弁護士として関わっている、10代にしてスーパースターの青年・ベニーでした。ウォルターJr.は、ベニーが住む豪邸を訪ね、「200万ドルを貸してほしい」と頼みます。最初は頑なに拒むベニーでしたが、ウォルターJr.が脅すような口調であれこれ恩を着せると、ようやく首を縦に振ります。こうして、ウォルターJr.たちは、エステルがカルロスと暮らした家を購入する事ができたのです。



しかし、実際にウォルターJr.たちが住み始めてみると、問題が次々に発覚します。玄関の扉は明かず、呼び鈴を鳴らそうとすると火花が飛び散り、アンナが寝室のベッドに寝転ぶと、体が完全に沈んでしまうだけでなく、沈んだ体の上に、剥がれた天井の一部が落ちてきます。アンナがバスタブの蛇口をひねると、水ではなく、ドロリとした泥が出てきます。クローゼットに取り付けてあるバーは、指一本触れただけで、いとも簡単に落ちてしまいます。また、ウォルターJr.は、階段の修理もしなければなりません。釘を打つ事に不慣れなウォルターJr.は、トンカチで釘を打つと、斜め向きに刺さったり、自身の指を刺してしまったりと、見るからに危なっかしい様子。2人の新生活は、前途多難のようです。しかし、この段階で発覚した問題の数々は、ほんのまだ序の口でした…。



この映画のタイトルになっている「マネー・ピット」とは、「金食い虫」の事。ウォルターJr.とアンナが新生活を始めたこの大きな新居は、正真正銘の欠陥住宅で、住めば住むほど修理費用が上がっていく、まさに、金食い虫です。この後、この新居では、キッチンで電線がショートしたり、バスタブが置かれた2階の床が抜け落ちたり、修理中の階段が跡形もなく崩れ落ちたりと、悪夢の連続です。幾度も悪夢に巻き込まれるウォルターJr.役のトム・ハンクスは、体を張った熱演で観る者を笑わせてくれます。物語の後半になると、階段や足場などで家中を滑り落ち、庭の下り坂を豪快に滑り落ちていくという、迫力あり、笑いありのシーンが、彼を待っています。



そんな笑いどころ満載のこの映画で製作総指揮を務めたのは、「ジョーズ」(1975年)、「E.T.」(1982年)のスティーヴン・スピルバーグ。「スピルバーグって、コメディー映画を作った事があるの?」と、驚かれる方がいらっしゃるかと思います。私も、この事実を知った時は、大変驚きました。こんなに笑いに徹したスピルバーグ映画は、今まで全く観た事がありませんでした。思わぬ掘り出し物を見つけた気分です。監督を務めたのは、リチャード・ベンジャミン。1975年に、「サンシャイン・ボーイズ」で、第33回ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞した俳優です。



この映画は、ウォルターJr.とアンナの新居で起きる悪夢に目が行きがちですが、他にも、注目ポイントがあります。アンナの元夫・マックスの抱く未練は、どうなるのでしょうか。また、夫・カルロスを亡くしているはずのエステルに、なぜカルロスが帰ってくるという確信があるのでしょうか。これらの答えは、ぜひDVDで!

マネー・ピット [DVD]
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暗黒街のふたり(1973年 フランス・イタリア)

暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]
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フランスには、ギロチンが2つ存在するといわれています。1つはパリにあるもの、もう1つはフランス国内の各地方を巡回するものです。フランスで保護司として働くカズヌーブ(ジャン・ギャバン)は、1946年から27年間、多くの不良少年を更生させてきました。そして、ずっと、法を信じて生きてきました。しかし、ある事件によって、法に裏切られてしまいました。まさか、こんな事が起こるなんて。

暗黒街のふたり ブルーレイ版 [Blu-ray]
暗黒街のふたり ブルーレイ版 [Blu-ray]

ある日、カズヌーブは、パリにある刑務所を訪れていました。10年前に銀行強盗の首謀者として逮捕され、ここで服役しているジーノ・ストラブリッジ(アラン・ドロン)の仮釈放を判事に求めるためでした。ジーノの刑期は、あと2年でした。しかし、判事や刑務所長は、「もう外に出す気かね。12年でも軽すぎる。」と反対します。ジーノは、非常に頭の切れる人物として知られ、判事たちは、ジーノがカズヌーブに取り入ったのではないかと心配しているのです。カズヌーブは、「恩赦の時期でもあり、ジーノを社会復帰させたい。」と、真っ向から反論します。カズヌーブは、社会を恨んでいるように思われているジーノにも、優しい一面があると分かっているのです。それに、既に職業訓練も受けており、妻・ソフィー(イラリア・オッキーニ)も、花屋を営む傍ら、毎週、面会に訪れ、家で夫の出所を待っています。しかし、どんなにカズヌーブが反論しても、判事たちの不安は払拭されません。カズヌーブは、27年間に及ぶ実績をアピールし、ジーノの社会復帰に責任を持つ事を宣言します。判事たちは、それでもまだ不安が残っていましたが、カズヌーブの言葉や実績を信じるしかありませんでした。

赦すことと罰すること―恩赦のフランス法制史―
赦すことと罰すること―恩赦のフランス法制史―

1週間後、ジーノは、カズヌーブの尽力で仮釈放されます。ジーノが刑務所の門を出ると、ソフィーが待っていました。ソフィーはジーノに駆け寄り、力いっぱい抱きしめ、キスをします。さらに、カズヌーブも車で迎えに来てくれていました。カズヌーブは、2人を車に乗せ、自宅に送り届けます。その背後には、ジーノの過去を知るマルセル(ビクトル・ラヌー)、ジャノらが車で後を付けていました。

保護観察とは何か: 実務の視点からとらえる
保護観察とは何か: 実務の視点からとらえる

ある日、マルセルは、ジーノに会うため、ソフィーが営む花屋を1人で訪れます。しかし、ソフィーは、ジーノに同じ過ちを繰り返してほしくなくて、マルセルを追い払おうとします。しかし、ジーノが建物の2階から降りてきて、マルセルに会います。そして、ジーノが外に出ると、マルセルの他に、ジャノ、そして、以前からジーノを尊敬していたという青年(ジェラール・ドパルドゥー)が待っていました。ジーノと一緒に銀行に押し入るのが夢だった青年は、早速、ジーノと手を組むべく、話を持ち掛けますが、ジーノは、毅然とした態度でこれを断ります。すると、青年は、ジーノをわざと刺激して、過去の考えを取り戻してもらう作戦に出ます。これには、さすがのマルセルも嫌悪感を抱き、青年を引き止めて、ジーノに謝るのでした。



そんな中、刑務所で、ある囚人が独房で首をつって亡くなっているのが見つかります。この囚人は、カズヌーブに仮釈放を求めていました。カズヌーブは、刑務所長と面会し、仮釈放すべきかどうかを話し合っていたところでした。彼の死を知った仲間たちは、刑務官たちを攻撃しようとします。刑務官たちは、銃を発砲して、事態の収拾に努めようとしますが、その場にいたカズヌーブに止められてしまいます。しかし、カズヌーブの制止もむなしく、囚人たちが暴徒化。彼らは、枕に火を付け、雄叫びを上げながら、刑務官たちに向かって投げ付けます。火は一気に燃え広がり、けが人が続出する騒ぎとなりました。



その日の夜、カズヌーブは、仕事が長引いてしまったため、遅い時間に帰宅します。家には、カズヌーブの妻、息子・フレデリック(ベルナール・ジロドー)、娘・イブリンの他に、ジーノとソフィーも来ていました。もともと、ここで夕食会が予定されていたのですが、カズヌーブの帰りが遅かったため、全員が先に夕食を食べていたのです。ジーノは、この日、刑務所で起きた事件について語り始めます。既に、新聞を通して、事件の一部始終を知っていたためです。カズヌーブは、定年まであと少しでしたが、この事件を機に、刑務所を辞める事を決意します。



その後、ジーノは、これ以上パリに住み続ける訳にはいかないと考え、パリから約45キロ離れた町・モーにある新聞の印刷工場で就職します。ある日、ジーノは、地元のレストランで、ソフィー、カズヌーブと一緒に食事をします。カズヌーブは、刑務所を辞める決意をしていましたが、フランスの南部にある町・モンペリエに転勤する事になりました。今度の勤務先は、刑務所ではないといいます。ジーノは、カズヌーブの決断を残念がりますが、「これからは、週末にモンペリエまで会いに行く。」と、カズヌーブに約束します。



次の週末、ジーノはソフィーと一緒に、車で、湖畔へピクニックに出掛けます。その帰り道、ジーノは、車を運転中に、事故に巻き込まれそうになります。ジーノの運転する車が、とてつもないスピードを出す対向車とぶつかりそうになったのです。ジーノはどうにか衝突を避ける事ができましたが、自身の運転する車がものすごい勢いで横転してしまいます。ジーノは横転した時の衝撃で重傷を負い、ソフィーは命を落としてしまいました。ジーノは、搬送先の病院の公衆電話からカズヌーブに電話を掛け、涙ながらに事故を報告します。数日後、ジーノは、ソフィーの葬儀を無事に済ませましたが、ソフィーの実家が事故の件でジーノを相手に裁判を起こしていたため、ここ数日、気持ちが落ち込んでいました。カズヌーブは、ジーノに、モンペリエへの移住を勧めます。カズヌーブは、最近、ぜひ自身の仕事をジーノに手伝ってもらいたいと考えていたのです。



ジーノは、モーの印刷工場を辞め、モンペリエに移住します。ジーノは、モンペリエでも印刷の仕事に就き、日曜日になると、家でレコードを大音量で聴いたり、イブリンの誘いでサイクリングに出掛けたりしていました。カズヌーブは、「ジーノはすっかり立ち直った。」と、安心していました。やがて、ジーノに、ルシー(ミムジー・ファーマー)という新しい恋人ができ、ジーノは同棲を考えるようになりました。しかし、ジーノは、自身の過去をいつ、どのようにルシーに話すべきか、悩んでいました。



そんなある日、ジーノは、毎月、給与明細を警察署に提示して、何も企んでいない事を証明しなければならなかったため、モンペリエの警察署を訪れていました。窓口の警察官が手続きを進めていると、ジーノは、かつて、自身を逮捕したゴワトロー刑事(ミシェル・ブーケ)と、偶然、再会します。あれから、ゴワトロー刑事は、警部に昇格していました。ジーノは、警察署に来た目的を正直に話し、給与明細も見せます。しかし、ゴワトロー警部は、仮釈放後、全く罪を犯していないジーノを、刑事ならでの長年の勘だけで、「何か悪い事を企んでいる。」と、勝手に思い込みます。そして、再び逮捕にむけて、動き出すのです…。



この映画では、フランスを代表する2人の俳優、アラン・ドロンとジャン・ギャバンが、「地下室のメロディー」(1963年)、「シシリアン」(1969年)に続く3度目の共演を果たしています。因みに、1976年にギャバンが亡くなったため、2人が共演したのは、この時が最後でした。監督及び脚本は、小説家、脚本家、映画監督と、多彩な顔を持つ、パリ生まれ、コルシカ島育ちのジョゼ・ジョバンニです。ジョバンニは、若かりし頃に、犯罪組織と関係し、フランスのファシズム政党・フランス人民党に所属していました。誘拐事件や窃盗事件、さらには、少なくとも3件の強盗殺人事件にも関与し、1度は死刑を宣告されるのですが、大統領恩赦により刑を免れ、出所したそうです。ジョバンニが、極めて珍しい人生経験をふんだんに活かして、この映画を作り上げた事がよく分かるエピソードです。



物語の前半は、ほぼ穏やかに時間が流れますが、後半になって、ゴワトロー警部が登場する事で、逃げ出したくなるような緊張感が突然生まれます。かつての犯罪者・ジーノに対する、ゴワトロー警部の思い込みの激しさがとにかく怖いです。「凶悪犯の性格は、一生治らない。凶悪犯全員に、それが当てはまる。」というゴワトロー警部の持論は、あくまで長年の経験で学んだ傾向に過ぎず、必ずしも全員に当てはまるとは限りません。傾向だけで物事を判断するゴワトロー警部は、危険人物です。ゴワトロー警部は、ジーノに近しい人物に次々と聞き込みを進め、ジーノを尾行するようになり、さらに、ジーノを刺激するためにルシーと肉体関係を結ぶ事を思い付き、いよいよ逮捕に踏み切るかに思われましたが…。続きは、DVDで。ドロン演じるジーノの孤独感、ギャバン演じるカズヌーブの正義感、そして、観る者に強烈な印象を与える、賛否両論真っ二つに分かれるであろうラストシーンを、ぜひご覧いただきたいと思います。

暗黒街のふたり HDリマスター版 [DVD]
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バチカンで逢いましょう(2012年 ドイツ)

バチカンで逢いましょう [DVD]
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カナダ・オンタリオ州。夫・ロイズルに先立たれたマルガレーテ(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は、ドイツ・バイエルン州から移り住んで以来、40年もの長い年月をロイズルと共に過ごしてきた家を離れる事になりました。娘のマリー(アネット・フィラー)が、「ママには、一人暮らしは無理。」と心配し、ロイズルとマルガレーテの思い出がたくさん詰まったこの大切な家を、あくまで親切のつもりで売り、自分たち一家が住むカナダ・ユーコン準州ホワイトホースの家に、マルガレーテを呼び寄せる事にしたのです。マルガレーテは、オンタリオ州で過ごす最後の日となったこの日、一人で山に登り、ロイズルに別れを告げました。マルガレーテは、マリー一家の家への引っ越しが終わったら、マリーたちと一緒にイタリア・ローマを旅行する事になっていました。その最大の目的は、マルガレーテが、バチカンでローマ法王・ベネディクト16世(トーマス・カイラウ)に謁見する事でした。マルガレーテがローマ法王に謁見すれば、マルガレーテは、長年背負ってきた心の重荷から解放されるのです。

翌日、マリーが、夫のジョー(ポール・バーレット)、2人の息子たち、そして、運送会社のドライバーと一緒に、マルガレーテを迎えにやって来ました。慈善団体に寄付する事になっていた荷物が次々にトラックに運び込まれていく間、マルガレーテは、庭で最後の水やりをし、マリーの息子たちは、トラックの幌の上に乗って遊び、マリーに叱られていました。やがて、荷物の運び出しが完了し、一行はいよいよホワイトホースへ向けて出発します。

しかし、一行がホワイトホースへ向かう途中、マリーの口から、あるとんでもない提案が飛び出します。なんと、マルガレーテが、老人ホームとは違うハイテク機能満載の「シニアの家」への入居をマリーから勧められたのです。もともと、マリー一家が住んでいる家はとても狭く、マリーは、新たに家族を受け入れる余裕がありませんでした。しかし、「ママに安全に暮らしてほしい」一心で、最初から強引に「シニアの家」に連れて行くと、きっと抵抗されてしまいます。そのため、マリーは、マルガレーテを刺激する事なく、マルガレーテに「シニアの家」に移ってもらえるよう、家の売却、「シニアの家」の手付金の支払い、引越しと、マリーなりに根回しをしてきたのです。マリーは、キャンセル待ちが多いこの施設に運良く入居できるチャンスが巡ってきた事、死亡者がまだ一人も出ていない部屋で過ごせる事、すでに手付金を支払っているので、すぐにでも入居できる事を、マルガレーテに喜んでほしいと思っていました。ジョーも、「新しい人生を楽しめますよ。」とマリーの援護射撃をします。マルガレーテは、マリー一家との同居が決まった時、マリーから「最初のうちは、一緒に暮らせるわ。」と聞かされていましたが、なぜ、マリーが「最初のうちは」と強調していたのか、この日になって、その理由がようやく分かったのです。

バチカンで逢いましょう [Blu-ray]
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その後、一行は、ホワイトホースにあるマリー一家の家に到着しました。マルガレーテは、与えられた自室でキリスト教の祭壇を作り、リビングルームへ向かいます。そこには、マリー一家の他に、息子のラインホルトが、恋人のシャンタルと一緒に来ていました。マルガレーテは、ラインホルトの恋人が、いつの間にか、ブレンダからシャンタルに変わっていた事に驚きの声を上げます。マリーは、その場の空気を察し、「そんな事を言ってはいけない」と、遠くから慌ててマルガレーテにサインを出します。しかし、時既に遅し。シャンタルは、ラインホルトが、自身と出会う前に別の女性と交際していた事実を知り、ラインホルトに詰め寄ります。しかし、2人はすぐに軌道修正します。ラインホルトは、既にシャンタルにプロポーズし、承諾をもらっている事をマルガレーテに打ち明けると、マルガレーテは、素直に祝福します。しかし、当の本人たちは、マルガレーテからの祝福よりもキスの方に夢中になっていました。

それにしても、なぜ、ラインホルトがシャンタルと一緒にこの場所に来ていたのでしょうか?実は、随分急な話ではありますが、2人は、間もなくここで、結婚式を挙げる事になっていました。マリーは、申し訳なさそうな表情で、マルガレーテに説明をし始めます。実は、マリーは、皆の予定が合わなくなって、ローマへの旅行を取り止めていたのです。ジョーは仕事で忙しく、2人の息子たちは旅行を理由に学校を休む訳にはいかず、それに、マルガレーテの誕生日にローマで予定していたラインホルトたちの結婚式も、旅行を取り止めてしまったがために、今からこの家で挙げなければなりません。マルガレーテは、かねてからの夢を奪われ、ショックを受けます。マリーは、マルガレーテの誕生日に渡す事にしていたプレゼントを一足早く渡して、マルガレーテの機嫌を取ろうとします。それは、ローマ法王からの祝福のメッセージが書かれた手紙でした。しかし、それは、マリーが便利なインターネットのサービス「バチカン・ドットコム」で手早く手に入れたもので、とても真心のこもったものではありませんでした。マルガレーテは、法王に直接会いたいと願いますが、マリーは、「それは、また今度の機会に」と、会話を一方的に打ち切るのでした。

バチカンで逢いましょう(字幕版)
バチカンで逢いましょう(字幕版)

翌朝、マリーたちの家に、マルガレーテの姿はありませんでした。「ローマへ行くわ。1週間で戻る。」マルガレーテは、置手紙を残し、たった1人でローマへ旅立ってしまったのです。最初に置手紙に気付いたのは、ジョーでした。ジョーは、すぐにマリーにその旨を知らせます。マリーは、慌てて、マルガレーテの部屋へ向かいますが、やはり姿はありませんでした。マルガレーテの飛行機のチケットは、マリーの2人の息子のうちの1人が、購入していました。支払いは、マリーのクレジットカードで済ませたといいます。息子たちは、なぜマリーが動揺しているのかが理解できません。マリーが家を購入した際、マルガレーテに金銭的な援助をしてもらっていたのを、息子たちはよく覚えているからです。それに、彼らは、「おばあちゃんは一人の立派な大人だから、一人で遠くへ旅行に行けるよ。」と、マルガレーテを信頼している様子。マリーは、「おばあちゃんは、大人じゃない。お年寄りなの。何にも分からないのよ。鳥の巣から出された、か弱いヒナみたいなものなのよ。」と、自身の母親を極端にお年寄り扱いします。ジョーや息子たちは、マリーが実の母親をヒナのようなか弱い生き物に例えるさまに、クスクスと笑います。マリーは、「笑い事じゃないわ。」と、憤るのでした。

一方、マルガレーテは、空港のトイレにいました。飛行機への搭乗を間近に控え、心臓の鼓動がいつもよりずっと大きくなっていました。マルガレーテは、心臓のあたりに右手を当て、気分を落ち着かせていました。そして、次第に気分が落ち着いてくると、いよいよ飛行機に搭乗し、一路、ローマへ向かいます。その頃、マリーは、携帯電話で電話を掛けながら車を運転していました。電話の相手は、マリーの娘・マルティナ(ミリアム・シュタイン)。マルティナは、ローマの厳格なカトリックの家庭で、子守として働いていました。しかし、マルティナはなかなか電話に出ません。なぜなら、恋人・シルヴィオ(ラズ・デガン)と2人きりでシャワーを浴びていたからです。そんな事など知る由もないマリーは、大至急、自身に連絡するよう伝言を残します。マルガレーテが迷子になったのではないか、或いは、お金を取られたのではないかと心配しているので、マルティナに無事を知らせてほしいのです。一方、マルガレーテは、無事にローマに到着し、市内をタクシーで移動していました。その表情は、とても晴れやかでした。マルガレーテは、タクシーの車内で法王の写真を見つけると、運転手に一言断ってから、写真を好きなだけもらいます。



こうして、マルガレーテは、これから滞在先となるマルティナのアパートに到着します。マルガレーテは、傾斜が急な階段をひたすら登り、マルティナの部屋の前にやって来ます。マルガレーテは、早速、ドアベルを鳴らします。しかし、玄関の扉を開けたのは、シルヴィオでした。シルヴィオは、マルガレーテに自分たちの邪魔をされたくなくて、一方的にドアを閉めます。ドアが閉まった後、マルティナはドアの外に誰がいるのかが知りたくて、ドアについている小さな窓をそっと覗き込みます。そこにいたのは、厳格なカトリック教徒であるマルガレーテでした。マルティナは、突然、頭の中が真っ白になります。今、マルティナの部屋の壁には、シルヴィオの趣味で、裸の女性のイラストがびっしりと描かれてあって、床も随分散らかっています。とても、マルガレーテに見せられない状態です。マルティナは、マルガレーテをがっかりさせないようにするため、ドアの外でマルガレーテに会います。そして、「お腹、空いていない?近くのレストランなんかどう?」とマルガレーテを食事に誘います。しかし、10時間もの長旅で疲れてしまったマルガレーテには、近くのレストランへ行く気力が残っていません。マルガレーテは、どうしても部屋の中で休ませてほしくて、強引にマルティナの部屋の中に入ります。そして、脇目も振らずに、奥の方にあるベッドルームへ向かい、ベッドの上に倒れ込んで、眠りにつくのでした。

その日の夜、マルガレーテは、冷蔵庫の中のものを物色していました。マルガレーテは、「空よりは、マシね。」と、1本の小さなペットボトルを持ち出します。この時、部屋では、電話のベルが鳴っていましたが、マルガレーテは電話に出ませんでした。また、マルティナは、仕事で外出中でした。実は、マルティナは、既に子守の仕事を辞めていました。仕事先のあまりの厳格な空気に耐えられなくなったのです。今、マルティナは、1軒の小さなライブバーでバーテンダーとして働いています。そのライブバーのステージに立つロックバンドのボーカルが、シルヴィオだったのです。その頃、マルガレーテは、部屋の中を探検していました。部屋中の壁という壁が白い布で覆われていたのが何となく気になったマルガレーテは、そのうちの1枚をそっとめくります。そこには、カトリック教徒が決して目にしてはいけないものが描かれていました。マルガレーテは、探検が終わると、今度は、部屋の掃除を始めます。掃除機の電源を入れ、無心に部屋の埃を取り除きます。そして、壁中に、法王の写真を貼っていくのでした。その後、マルガレーテは、マルティナの帰りを何時間も待ちました。しかし、マルティナは、いつまで経っても帰って来ません。マルティナは、結局、翌朝の6時に帰って来ました。マルティナの隣には、シルヴィオもいました。マルティナの事をずっと心配していたマルガレーテは、「一体、どこに行っていたの?」と、ただただ、その不安な気持ちをぶつけるのでした。



その後、マルガレーテは、マルティナと一緒に、近くのカフェで朝食を摂ります。マルティナは、ここで初めて、子守からバーテンダーに転身した事、バーテンダーに転身した後にシルヴィオと出会い、シルヴィオの部屋で同棲を始めた事を打ち明けます。そう、マルガレーテが滞在しているのは、シルヴィオとマルティナが同棲生活を送っている部屋なのです。マルガレーテは、シルヴィオはいつもベッドで寝ているのに、なぜ、マルティナはクローゼットの片隅で寝ているのかが分からず、マルティナの事を「かわいそうだ」と嘆きます。そうこうしているうちに、マルガレーテがバチカンへ向かう時間が訪れます。「会いに行くの、法皇さまに。これでやっと、ロイズルと仲直りができる。」マルガレーテは、胸をワクワクさせながら、カフェを後にします。

マルガレーテは、バチカンへ行くバスに乗り込みます。車内には、同じくバチカンに向かう途中の修道女が数多く乗っていました。マルガレーテは、修道女たちとの会話を心から楽しみました。そうこうしているうちに、バスは目的地に辿り着きます。マルガレーテがローマ法王庁の建物の中に入ると、自身と同じように法王からの祝福を望む人々の行列が長く続いていました。マルガレーテも列に並び、静かに順番を待ちました。そして、自身の順番がもう少しで来るという時になって、白杖をついていた視覚障がい者の男性・ロレンツォ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が、列の途中にある階段でつまづいてしまいます。マルガレーテは、ロレンツォの元に駆け寄り、なんと、自分の順番をロレンツォに譲ります。マルガレーテのすぐ後ろでずっと並んでいた若い父親は、まさかの展開に驚き、マルガレーテの順番が先なのか、それとも、ロレンツォの順番が先なのかがよく分からず、マルガレーテに怒りをぶつけます。マルガレーテは、そんな若い父親に、「恥を知りなさい。」と一喝し、最後列に並び直すのでした。

ところが、マルガレーテは、法王に会う事ができませんでした。カナダでマリーから贈られた法王からの手紙は、あくまで集団で謁見するためのもので、マルガレーテが長い列に並んでいたのは、政治家、教会の指導者、そして、いわゆるスーパースターと呼ばれる人たちに限られている個別謁見だったのです。しかし、だからと言って、マルガレーテががっかりする事はありません。毎週日曜日には法王が窓辺に立ちますし、毎週水曜日には一般向けの謁見もあります。マルガレーテは、次の水曜日に出直す事にしました。



バチカンを出て、ローマに戻ってきたマルガレーテは、ローマ法王庁で教えてもらったバイエルン料理の専門店「リセロッタ」で空腹を満たす事にします。道中、マルガレーテのすぐ横を、1台のベスパがかなりのスピードで通り過ぎていきます。そして、ベスパを運転していた男性は、その先に止めてあった乗用車の運転手とちょっとした言い合いになります。マルガレーテは、ベスパに乗っていた男性の顔に見覚えがありました。男性は、ローマ法王庁で順番を譲った、あのロレンツォでした。マルガレーテは、ロレンツォに声を掛けようとします。しかし、ロレンツォに近付いた瞬間、ロレンツォは前を向いて、どこかへ行ってしまいました。



やがて、マルガレーテは、「リセロッタ」に到着します。しかし、そこは、客が一人もおらず、バイエルン料理の知識に乏しい店主・ディノ(ジョバンニ・エスポジート)しかいません。しかも、注文した料理は、どれも焦げていて、とても食べられたものではありません。マルガレーテは、居ても立っても居られず、自ら厨房に入り、自ら注文した料理を自らの手で作り始めます。最初は、あまりの勝手な行動に怒り心頭だったディノでしたが、マルガレーテがローマに来て以来、ずっと馬鹿にされっ放しである事を聞かされた上に、「(焦げた料理を出して)私を毒殺するつもりなの?」と脅されると、何も言えなくなってしまいます。こうして、マルガレーテは、慣れた手つきで料理を作っていくのでした。その後、食事を終え、「リセロッタ」を出たマルガレーテは、ロレンツォが乗っていたベスパを偶然見つけ、タイヤの前輪を足で蹴ります。ロレンツォは、すぐそばでベスパの方を向いて立ち、その様子をしっかりと目に焼き付けていました。そう、実は、ロレンツォは健常者。視覚に障がいがあるというのは、真っ赤な嘘だったのです。



その後、ロレンツォは、「リセロッタ」の勝手口から厨房に入り、ディノに「何か食わせてくれ」と頼むと、ディノが持っていた、料理の残りが乗った皿をやや強引に奪い、それを食べ始めます。マルガレーテがディノの料理のまずさに耐え切れずに作ったものとは知らずに。ロレンツォは、ディノにこう尋ねます。「それで、店はいつ売るんだ?」ディノは、この店を売る気は全くありませんでした。幼い頃からずっと、ドイツ生まれの母親・リセロッタからこの店を継ぐよう言われ続け、大人になってから実際に継いだので、リセロッタの店に対する思いの深さを考えると、そんな気にはなれないのです。しかし、ロレンツォは、早くディノが店を売ってくれなければ、自身はおしまいだといいます。一体、ロレンツォは、何をどう困っているのでしょうか…。



この映画でメガホンを取ったのは、トミー・ヴィガント監督。代表作に、「飛ぶ教室」(2003年)があります。有名な少年合唱団を持つドイツのとある学校の寄宿舎を舞台に、過去に幾つもの寄宿舎で脱走を繰り返してきた少年が、優しい先生や寄宿生たちに恵まれるものの、やがて寄宿生と通学生との間に起こる抗争に巻き込まれていく映画です。



この映画の主人公・マルガレーテを演じたのは、マリアンネ・ゼーゲブレヒト。「バグダッド・カフェ」(1987年)で、アメリカ西部の砂漠を夫と共に訪れるドイツ人旅行者・ヤスミンを演じました。今回、ゼーゲブレヒトが演じたのは、「1に法皇さま、2に法皇さま、3に法皇さま。」といった感じの、敬虔なカトリック教徒。生真面目のさらに上を行くように見える女性ですが、物語の後半では、次第にお茶目な行動を取るシーンが増え、チャーミングの度合いが増したり、本性が見えるようになったりします。



この後、マルガレーテは、ひょんなことから、ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるロレンツォと不思議な間柄になります。そのきっかけとなるシーンでの、ジャンニーニの台詞回しは、絶品です。このシーンの時点で、観る者は、ロレンツォが詐欺師だと分かってはいるのですが、あまりにも弁が立つさまに、「お見事!」と言うしかありません。スーツの見事な着こなしやマルガレーテへの紳士的な接し方は、ちょいワル親父の正統派と呼べるものがありますが、それ以上に、台詞回しがとにかく凄かったです。さらに、「皆の予定が合わないから」と、ローマへ行く旅行を中止した張本人であるマリーも、いよいよ、ローマに乗り込みます。しかも、このシーンで、マリーが旅行を中止にした本当の理由が明らかになります。ヒントは、このシーンのジョーの台詞ですよ。そして、そして、マルガレーテがローマ法王、しかも、ベネディクト16世との謁見を望む本当の理由も、物語の終盤で明らかになります。なぜ、他の誰でもない、ベネディクト16世でなければならないのでしょうか。答えは、ぜひDVDで。

バチカンで逢いましょう [DVD]
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マネーモンスター(2016年 アメリカ)

マネーモンスター [AmazonDVDコレクション]
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リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)は、アメリカ・ニューヨークのテレビ局・FNNで生放送されている大人気の財テク番組「マネーモンスター」で司会を務める人物で、視聴者から「ウォール街の魔術師」と呼ばれていました。ある日、リーは、番組の生放送が始まる10分前になって、ディレクターのパティ・フェン(ジュリア・ロバーツ)から、ゲスト出演する予定だったアイビス・キャピタルのCEOウォルト・キャンビー(ドミニク・ウェスト)が、ある事情で出演できなくなってしまった事を聞かされます。キャンビーの代役として出演が決まったのは、同じ会社の広報担当役員ダイアン・レスター(カトリーナ・バルフ)で、ダイアンは中継で出演する事になりました。

マネーモンスター [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
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こうして、いつものように、「マネーモンスター」の生放送が始まります。なぜか、予め用意された台本には従わず、アドリブで話し続けるリー。その間、調整室でリーを見守っていたパティは、大きくて重たそうな段ボール箱を2箱抱えた青年カイル・バドウェル(ジャック・オコンネル)が、スタジオの後方で、リーの姿を覘き込んでいるのを見つけます。最初は、仕込みかと思っていたパティでしたが、実は、全然違いました。カイルは、突然、スタジオに侵入し、段ボール箱を置いて、「動くな!」と言い、銃を天井に向けて発砲したのです。

マネーモンスター (吹替版)
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パティは、カイルが銃を発砲してすぐに画面を切り、放送を中止しました。カイルはすぐにそれに気付き、パティに画面を元に戻すよう、要求します。パティは要求を拒みますが、彼女の判断は、かえってカイルを刺激してしまい、カイルはリーの首根っこを掴んで、「(リーを)撃ち殺す」と、パティを脅します。どうやら、カイルは、公共の電波を使って、社会にアピールしたい事があるようです。カイルは1人でカウントダウンを始め、カウントダウンが終わったタイミングで、リーを撃ち殺そうとします。しかし、もう少しでカウントダウンが終わるところで、パティは、画面を元に戻し、警備員を呼びます。こうして、リーは、命拾いをする事ができたのでした。

マネーモンスター (字幕版)
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カイルの一連の行動は、いつの間にか、全米で生放送されるようになります。リーは、カイルの命令で、2箱の段ボール箱のうち、1箱を開封します。そこには、爆弾付きのベストが1着入っており、リーは、すぐにこのベストを着用させられます。一方、パティは、カメラ、音響を除くスタッフ全員、そして、調整室にいる人たちのうち、スタッフ以外の人たちをスタジオの外に出させます。リーは、危険極まりないベストを着用させられた事で、パニック発作を起こしますが、動揺が激しいあまり、自身に置かれた状況を正しく理解できず、自身は心臓発作だと強く思い込んでいました。パティは、調整室からマイクを通して、リーを落ち着かせようとします。その頃、ニューヨーク市警は、FNNから通報を受け、何台ものパトカーを現場に向かわせていました。



カイルは、スタッフがほとんどいなくなったスタジオのドアに鍵をかけ、ようやくメッセージを発信します。「『マネーモンスター』は、俺から全てを奪った。知らん顔だ。誰も問いたださない。政府は何もしない。」と。さらに、カイルは、もう1つの段ボール箱に、リーが着用させられているのと同じベストが入っている事を明らかにします。これを着用するのは、アイビス・キャピタルだと言います。つまり、アイビス・キャピタルのCEOであるキャンビーが着なければならないのです。カイルは、今から4週間前に、「マネーモンスター」で、リーがおススメの銘柄としてアイビス・キャピタルの名を挙げた時、その安全性を自信たっぷりに語っているのを観て、リーの言う事をすっかり信じて株を投資したところ、アイビス・キャピタルの株が大幅に下落してしまい、なんと、自身の全財産である6万ドルも損をしてしまったのです。カイルは、パティに4週間前の番組の映像を探すよう、要求します。



一方、ニューヨーク市警の警察官たちが、FNNに到着します。それから間もなくして、緊急出動部隊も到着します。現場でニューヨーク市警の警察官たちを束ねるパウエル(ジャンカルロ・エスポジート)は、FNNの警備員に社屋の詳細な図面を用意するよう、協力を求めます。同じ頃、パティは、カイルが望んでいた映像を見つけます。パティも、スタジオに残っているリーも、まさか、あの放送の4週間後にこのような事件に巻き込まれるとは夢にも思わなかったため、今更ながら、少々大げさな演出を実行してしまった事を後悔するのでした。リーは、カイルに、「5分後に、(失ってしまった)6万ドルを用意する。」と、約束します。しかし、カイルは、自身が奪われたお金がそのまま戻ってくれば良い訳ではありません。カイルは、なんと、5分後に8億ドルを用意するよう、命じます。自身を含めた、被害者全員分の被害額を提示したのです。しかし、わずか5分で、そんな巨額のお金を用意する事はできません。リーは、ニューヨーク市警から交渉人が来るまでの間、どうにか時間を稼ぐしかありませんでした。



やがて、FNNに、ニューヨーク市警の交渉人・ネルソン(クリス・バウアー)が到着します。ネルソンは、リーとカイルがいるスタジオに声が聞こえるよう、手配をしてもらい、早速、交渉を始めます。しかし、カイルは、「警察に用はない。」と、再び発砲。パティは、反射的に音声を切ってしまいます。カイルが話したい相手は、あくまでキャンビーとリーの2人。しかし、キャンビーは出演を取り止めています。パティは、もう1度ダイアンに中継先から出演してもらうよう、スタッフに指示し、自身はアイビス・キャピタルに関する情報を集めます。



その頃、「マネーモンスター」への出演を取り止めたキャンビーは、実は、行方不明になっていました。アイビス・キャピタルは、キャンビーが出張先のスイスから帰りの飛行機に搭乗したところまでは把握していました。しかし、その後の足取りは、どの社員も全く知りませんでした。もともと、キャンビーが飛行機で移動している間は、社員たちは、本人と連絡が取れないようになっていました。この時、キャンビーが搭乗した飛行機は、とっくに、ニューヨークに着陸しているはずなのですが、なぜか、ずっと、飛行中のままになっていました。



最初、全米で報じられていたこの事件は、やがて、韓国・ソウル、アイスランド・レイキャビク、南アフリカ・ヨハネスブルクと、世界中で報じられるようにになります。そんな中、ニューヨーク市警の幹部たちは、FNNの外で作戦を練っていました。彼らは、時間をかけて話し合った結果、FNNの関係者全員を外に脱出させた上で、カイルを射殺する事を決めます。その頃、アイビス・キャピタルのCFO(最高財務責任者)・グッドロー(デニス・ボウトシカリス)は、スマートフォンで、ある人物と話をしていました。その相手とは、行方不明になっているはずのキャンビーでした…。



この映画でメガホンを取ったのは、「羊たちの沈黙」(1991年)や「フライトプラン」(2005年)で知られる女優ジョディ・フォスター。ストーリー展開の複雑さは、男性監督の作品に全く引けを取らないので、この映画の監督を女性が務めたと知った時は、本当に驚きました。これだけ複雑なストーリーを作り出せるのは、フォスターの女優としての長いキャリアや、彼女自身の頭の回転の速さ(※フォスターは、イェール大学を優秀な成績で卒業しています。)等、様々な要素があっての事ではないでしょうか。フォスターの監督作品は、この映画の他に、「リトルマン・テイト」(1991年)、「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ」(1995年)、「それでも、愛してる」(2011年)があります。



リー役は、「フィクサー」(2007年)、「マイレージ、マイライフ」(2009年)のジョージ・クルーニー。「マネーモンスター」の生放送中に、株を賢く増やす術を伝授するために、プロダンサーを従えてダンスをしたり、モニターに風刺的なイラストを積極的に映したりする姿は、リーが経済界での成功者である事をこれ見よがしにアピールしている印象が非常に強く、「株で大損をする人たちの怒りを買ってしまっても、仕方がない。」という説得力が十分にありました。パティ役は、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ノッティングヒルの恋人」(1999年)のジュリア・ロバーツ。リーを励まし続ける時の抑えた演技や、事件が早く解決しない焦りから来る瞬間的な怒りを見せる演技がとても印象に残りました。また、カイル役のジャック・オコンネルの鬼気迫る演技は、この映画が作り出す緊張感のほぼ100%を占めていました。相手が何を言ったら、激怒したり、銃を発砲したりするのかが、全く予想が付かないところに、無意識に震えがくるような怖さが感じられました。



カイルが、高圧的な物言い、いとも簡単に響かせる銃声で、スタジオという密室を支配する様子は、世界中で報じられますが、事件の解決の糸口は、なかなか見つかりません。リーは、あまりの物々しい雰囲気に、自分たちの様子がおそらく全米や海外で報じられているのではないかと考え、カイルの要望を叶えるべく、世界中の多くの視聴者を巻き込む、ある作戦を思い付きます。果たして、リーの賭けは、吉と出るか、それとも、凶と出るのか。答えが気になる方は、ぜひ、DVDで。

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ビッグ(1988年 アメリカ)

ビッグ [AmazonDVDコレクション]
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12歳の少年・ジョッシュ(デイヴィッド・モスコウ)は、自宅の自室で、ジュースを片手に、パソコンゲームに夢中になっています。その途中、キッチンから「ジョッシュ」と、母親(マーセデス・ルール)の呼ぶ声が聞こえてきます。実は、この日、ジョッシュは、ゴミ出しを頼まれていたのですが、ジョッシュはすぐにそうしたくても、できませんでした。どうしてもキリの良いところまでゲームを続けたかったのです。ジョッシュは、何度も繰り返し自分の名を呼ぶ母親に、適当に返事をしながら、ゲームを続けていました。そして、ジョッシュがパソコンの画面から少し目を離した隙に、ついにゲームオーバーに。こうして、ジョッシュは、ゴミ出しを済ませたのでした。

ビッグ 製作25周年記念版 [Blu-ray]
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ゴミ出しを済ませたジョッシュは、自宅には戻らず、そのまま外へ出掛けます。そして、道中、親友のビリー(ジャレッド・ラッシュトン)と合流して、一緒に雑貨店へお菓子を買いに行き、たわいもない話をします。すると、そこへ、別の親友・フレディの姉・シンシア(キンバリー・M・デイヴィス)がやって来ます。シンシアは、フレディとは違い、美人と称されるような少女で、常に大勢の友達が後ろからついて来ていました。シンシアは、ジョッシュたちの方を向いてニッコリ微笑むと、大勢の友達と一緒に雑貨店へ入っていきます。「(シンシアは)絶対君が好きだ。確かめてみるよ。」シンシアの微笑みを勝手にそう解釈したビリーは、ジョッシュに対し、シンシアとジョッシュの愛のキューピットになる事を誓います。



ある日の夜、ジョッシュは、父親、母親、生まれたばかりの妹・レイチェルと一緒に、移動遊園地に足を運び、ジェットコースターの前に来ていました。一行の目の前を走るジェットコースターは、物凄いスピードでコースを一回転していました。今まで見た事のないスピードに、最初は足がすくむジョッシュでしたが、そこに、シンシアが偶然来ているのを見つけると、シンシアに男らしさをアピールしたくなり、一人でジェットコースターに乗ろうと考えます。父親は、ジョッシュの内心を察して、「無理に乗らなくていいぞ」と、ジョッシュに声を掛けますが、ジョッシュの意志は変わりませんでした。

ジョッシュは、家族を観覧車の前で待たせ、ジェットコースターの順番を待つ行列を夢中で掻き分けて、シンシアの隣に滑り込みます。そして、ちょうど滑り込んだタイミングで、シンシアに声を掛けられます。ジョッシュは、ジェットコースターは生まれて初めてだというのに、シンシアにいいところを見せたくて、ついジェットコースターに乗り慣れているふりをしてしまいます。母親はジョッシュが緊張している事に気付かずに、笑顔でカメラのシャッターを切ります。

すると、シンシアとジョッシュが並んでいる位置に、一人の少年が近付き、シンシアに声を掛けてきます。少年の名は、デレク。既に車の運転ができる年齢になっているデレクは、以前からシンシアととても親しくしていました。つまり、デレクは、シンシアのボーイフレンドなのです。ジョッシュは、デレクが何者なのか、すぐに勘づき、落ち込みます。さらに、いよいよジェットコースターに乗る順番が近付いてきたタイミングで、ジョッシュが移動遊園地側によって予め決められていた身長に届かず、乗られない事が発覚してしまいます。こればっかりは、ジョッシュ本人の力ではどうにもできません。ジョッシュは、ジェットコースターに乗るのを諦めるしかありませんでした。



ジョッシュは、ショックを受けたまま、一人で遊園地の中を歩いていました。すれ違う人たちにぶつかる度に、自身の背の低さが嫌になるジョッシュ。しばらくすると、自身の目の前に、占い師の人形・ゾルターが入った、電話ボックスのような機械を見つけます。ジョッシュは、機械に書いてある通りに、25セントを入れますが、機械はうんともすんとも言ってくれません。ジョッシュは、ついイライラして、機械を力いっぱい叩きます。すると、突然、ゾルターの目が真っ赤に光り、何度も口を大きく開けたり閉じたりします。機械をよく見ると、25セントを入れる事の他にも、説明書きが幾つかありました。まず、「ゾルターの口に狙いを定めて」という指示に従い、機械に取り付けてある小さなハンドルを回して、道具をゾルターの口の位置まで移動させます。そして、ジョッシュは、「願いを言え」という指示に従い、迷う事なく、あの切実な願いを口にします。「大きくなりたい。」そう口にすると、ジョッシュは、ついに機械のボタンを押します。すると、ゾルターは、ジョッシュに1枚のカードを渡しました。そこには、「願いをかなえる」と書いてありました。その時、ジョッシュは、コンセントが抜けていたにもかかわらず、機械が作動していた事に初めて気付きます。ジョッシュは、この現象を不思議に思いながら、その場を後にします。



翌朝、ジョッシュは、学校に遅刻する事を心配する母親の声に目を覚まし、歯を磨くために、いつものように洗面台へ向かいます。ジョッシュが何となく鏡を覘き込むと、今まで見た事のない大人の姿が映っていました。その人は、昨日とは全く違う外見になってしまった、ジョッシュ(トム・ハンクス)でした。ジョッシュは、昨夜眠っている間に、なんと、30歳の男性の体になってしまったのです。背が急激に伸び、体中に筋肉が付いていて、顔にはうっすらと髭が生えていました。ジョッシュは、自分の身に何が起きたのかがさっぱり分からず、動揺します。そして、もう一度鏡を覘き込み、今度は、昨日までなかった胸毛を軽くさすります。すると、ジョッシュが洗面台にいる間に、ジョッシュの部屋に着替えを持ってきた母親が、洗濯物を持ってくるよう、声を掛けます。ジョッシュは、いつものように、「分かった」と返事をしますが、その声は、変声期が突然訪れたが故に、昨日よりグッと低くなっていました。母親は、てっきりジョッシュが風邪をひいたものと勘違いし、キッチンへ向かいます。ジョッシュは、部屋に戻り、母親が持ってきた着替えを着ようとしますが、子ども服なので、当然、サイズが合いません。ジョッシュは、父親の服をこっそり借りて、朝食を摂らずに、慌てて子供用の自転車に乗って、登校します。しかし、途中でふと我に帰り、母親に事情を説明すべく、いったん自宅に戻ります。しかし、母親は、大きくなったジョッシュを見て、泥棒だと思い込み、家の中を逃げ回ったかと思うと、キッチンでナイフを手に取り、ジョッシュに立ち向かおうとします。ジョッシュが何回も何回も事情を説明しても、母親には息子の話を聞く心のゆとりが全くありませんでした。



結局、ジョッシュは学校に遅刻してしまいます。学校に到着した時、クラスメートたちは体育の授業中で、体育館でバスケットボールをしていました。ジョッシュは、授業が終わるまで、体育館の倉庫に隠れます。しばらくして、授業が終わると、ビリーが後片付けをしに、倉庫に入ってきます。ジョッシュは、ビリーに声を掛けますが、ビリーはジョッシュをバスケットボールのコーチだと勘違いします。ジョッシュは、自分がジョッシュである事を信じてもらおうと、必死になって事情を説明します。ビリーは、ジョッシュをよく見ずに、ただただ動揺するだけでしたが、ジョッシュがビリーをフルネームで呼ぶと、ようやくジョッシュの方にきちんと振り向きます。この時、ビリーは、動揺のあまり、泣き顔になっていました。ジョッシュが、日頃からビリーと一緒に歌っていた歌を、ダンスをしながら熱唱すると、ビリーは落ち着きを取り戻しました。

わずか一晩の間にジョッシュの身に起きた事を理解したビリーは、ジョッシュの体を大きくさせた、あの機械をもう一度探せば、ジョッシュは元の体に戻るのではないかと考え、ニューヨークへ機械を探しに行く事を提案します。肝心の交通費は、ビリーがこっそり持ち出した、自身の父親のへそくりを使う事にしました。こうして、ジョッシュは、早速、ビリーと一緒にニューヨークへ向かうのでした。



ニューヨークに到着したジョッシュとビリーは、タイムズスクエアの歩道を歩いていました。娼婦や物乞いが数多いるところを抜けると、目の前には、「セントジェームズ・ホテル」と書かれた看板が掛けられたホテルが見えました。二人は、何となくこの名前に惹かれ、ここに宿泊する事にします。実際にフロントに行ってみると、そこには、煙草を口に加えた、ファンキーな服装の若い男性スタッフが宿泊客に応対していました。宿泊費は1泊17ドル50セントで、さらに、シーツ代として、10ドルを支払わなければなりませんでした。二人は、すぐにその場で宿泊代とシーツ代を支払い、部屋に案内してもらいます。案内された部屋は、ベッドも、カーテンも、テレビも、洗面台も、全て年季が入っていました。他の部屋からは宿泊客同士が激しい口調で喧嘩する声が聞こえ、外からは、銃の発砲音が聞こえ、子どもが宿泊するには、あまりにも危険でした。ジョッシュは、今まで聞いた事のない声や音に怯え、次第に母親に会いたくなって、ベッドの上で泣き崩れてしまいます。



翌日、ジョッシュとビリーは、ゾルターの入った機械を探し始めます。最初はホテルの近くのゲームセンターで探しますが、残念ながら、見つける事はできませんでした。そこで、二人は、役所に向かいます。二人が受付に聞いてみると、探している機械があるかどうかを調べてもらう事にはなったのですが、結果が分かるまで6週間もかかる事が分かります。ジョッシュは、「ずっと、30歳のままなのだろうか。」と落ち込みます。ビリーは、6週間も学校を休む訳にはいかないので、ニューヨークを離れなければなりません。一方、ジョッシュは、30歳の体のままで学校に通う訳にはいかないため、ビリーから「働いてみたら?」と、提案されます。ビリーは、ジョッシュの職探しに協力します。しかし、当然のことながら、ジョッシュには運転免許がなく、学校で手に職をつけた訳でもありません。その結果、ジョッシュが行きついたのは、おもちゃのメーカーである「マクミラン・トイズ社」の求人広告でした。おもちゃのメーカーなら、一人の子どもとして、おもちゃで遊んできた日々の経験を存分に活かせます。ジョッシュは、早速、面接試験を受けに、ビリーと一緒に「マクミラン・トイズ社」へ足を運びます…。



メガホンを取ったのは、映画監督の他に、映画プロデューサー、女優としても活躍したペニー・マーシャル。2018年12月に他界したばかりです。ペニー・マーシャルは、1986年に、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」で、映画監督としてデビュー。この他、映画監督としての代表作に、「レナードの朝」(1990年)、「プリティ・リーグ」(1992年)があります。兄は、「フォーエバー・フレンズ」(1988年)、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ニューイヤーズ・イヴ」(2011年)で監督を務めたゲイリー・マーシャルで、2016年7月に他界しています。



30歳の体のジョッシュを見事に演じ切ったのは、「めぐり逢えたら」(1993年)、「フィラデルフィア」(1993年)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)のトム・ハンクス。子ども特有の仕種を完璧に再現しています。体格は立派でも、心はあくまで子どものままなので、音の強弱を考えずに歌を歌ったり、食べ物を食べながらふざけたりする姿を全力で演じているのが、とてもコミカルに見えます。また、怖い物音に怯える姿を全力で演じているのも、実に見事です。ハンクスは、1988年に、この映画で、第46回ゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)主演男優賞を受賞しました。



この後、ジョッシュは、面接試験で嘘を並べ立てた結果、見事、「マクミラン・トイズ社」に採用されます。しかし、実際にジョッシュが入社してみると、「マクミラン・トイズ社」は、あれやこれやと問題が山積していました。ジョッシュは、社長のマクミラン(ロバート・ロッジア)、やり手の重役のスーザン(エリザベス・パーキンス)が温かく見守る中、この会社で、子どもとしての人生経験をどれだけ活かせるのでしょうか?また、面接試験でついた嘘の数々がバレてしまいそうな子どもらしい振る舞いの数々も、この映画の見どころです。続きが気になる方は、ぜひDVDで。

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ブルーム・オブ・イエスタデイ(2016年 ドイツ・オーストリア)

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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ドイツ南部・バーデン=ヴュルテンベルク州の州都・シュトゥットガルトにある州司法行政中央研究所。オーガニックフードをこよなく愛するバルタザール(ヤン=ヨーゼフ・リーファース)は、パグのガンジーを優しくなでるノルクス教授(ロルフ・ホッペ)の前で、シリアルを食べようとしたその瞬間、トト(ラース・アイディンガー)から責められます、「研究所を催事に貸すなんて。」と。バルタザールは、「貸すぐらい、いいだろ。」と言い返しますが、トトも、簡単には引き下がりません。「金儲けか?」バルタザールは、「自然食品のフェアだ。出展料は安くしてある。」と、自分のした事を正当化しようとします。トトは、バルタザールの気持ちがまるで理解できません。この研究所には、反ファシズムの写真、つまり、アウシュヴィッツ収容所の写真が飾ってあるのですから。

ブルーム・オブ・イエスタディ Blu-ray
ブルーム・オブ・イエスタディ Blu-ray

また、トトは、2年前から地道に準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議の責任者がバルタザールである事も、納得していませんでした。ノルクス教授は、責任者は自制できる者でなければならないと考え、責任者をバルタザールに決めたのですが、トトは、自分が自制できない人間と判断されてしまった事を受け入れられず、「下準備は良かった。」と、ノルクス教授やバルタザールにフォローされても、ちっとも嬉しくありませんでした。ノルクス教授は、ガンジーと一緒に、自身の机の方へ向かい、バルタザールは、トトに対して、ひたすら意見を述べ続けます。トトは、バルタザールの意見を聞けば聞く程、嫌悪感が増し、とうとう暴力を振るってしまいます。自身の机に戻ったノルクス教授は、トトがバルタザールを力いっぱい殴っている間に、気を失い、そのまま息を引き取ります。ガンジーは、ノルクス教授に近付き、静かに寄り添うのでした。



シュトゥットガルトの空の玄関口、シュトゥットガルト空港。トトの暴力によって鼻骨を骨折し、歯が1本抜けてしまったバルタザールは、ガンジーをバッグに入れて連れてきたトトに一緒に、ある女性が来るのを待っていました。その女性とは、アウシュヴィッツ収容所が建てられたポーランドの近代史を研究するフランス人研修生で、フランス語とドイツ語のバイリンガルであるザジ(アデル・エネル)でした。しかし、バルタザールは、トトの隣にいる事に耐えられなくなって、空港を出ていってしまいます。その後、残されたトトは、ガンジーを脇に抱えた状態で、ザジと会います。ザジは、トトと会った瞬間、トトに会えた事に大感激します。実は、ザジは、以前に、トトの著書「バルト三国の親衛隊情報部」を読んだ事があり、ずっとトトに会いたいと願っていたのです。



しかし、ザジは、この日、トトが運転した車がベンツだと知ると、突然、「タクシーで研究所に行く」と、言い出します。トトがベンツに乗っているのは、自身に対する嫌がらせだというのです。ザジの口調は、時間が経つにつれて、厳しさを増していきます。しかし、ザジは、自身の考えが大人げないのをよく分かっていました。ザジは、トトがノルクス教授を尊敬している事を知ると、急に人が変わったように安心します。それにしても、なぜ、ベンツの存在がザジの癪に障るのでしょうか?理由は、ザジの祖母・レベッカの壮絶な最期にありました。実は、レベッカが亡くなったのは、今のザジの年齢とほぼ同じ頃、第2次世界大戦の最中でした。レベッカは、第2次世界大戦時に、ベンツのガス・トラックの荷台に押し込められ、毒ガスによって、命を落としたのです。勿論、現代を生きるトトは、戦争に加担している訳ではないですが、トトと同じく現代を生きるザジは、現代においてベンツに乗る人を、第2次世界大戦の加害者に等しいと勝手に判断していました。しかし、歴史家であるトトは知っていました。ガス・トラックを製造していたのは、ベンツではなく、オペルだと。レベッカは、オペルが製造したオペル・ブリッツかマギルス・Dのどちらかで殺害されたはずで、ベンツが製造した車は、安楽死で亡くなった遺体を乗せるのに使われただけでした。



トトは、帰宅後、リビングルームで、アウシュヴィッツ会議の準備に没頭していました。飼育しているヤギが目の前に来ている事を、妻で獣医のハンナ(ハンナ・ヘルツシュプルング)に教えてもらうまで、没頭していました。トトは、40歳になった自身がザジを押し付けられた事を、思わずハンナに愚痴るのですが、ハンナは、これまでトトの仕事に関する愚痴を嫌という程聞かれていたため、とうとうヤギを連れて、リビングルームを出ていってしまいます。トトは、ハンナの後を追いかけますが、双方のやり取りは、口喧嘩に発展してしまいます。まだ幼い養女・ザラは、両親の良からぬ光景を、キッチンから見つめていました。ハンナは、ザラの姿に気付き、ようやく我に帰ります。そして、ザラを、ガンジーと一緒に、トトの母親の元に行かせて、改めて、トトの悩みに耳を傾けるのでした。



トトとザジは、空港を離れた後、中央研究所の研修生が寝泊まりする古びたゲストハウスに移動しました。向かい側には、ノルクス教授が生前住んでいた家が建っています。ベンツに乗る事をあんなに避けたがっていたザジは、タクシーに乗るのかと思いきや、実際には、ドラッグのディーラーが運転する車に乗せてもらいました。トトも、ガンジーと一緒に、ベンツに乗り、同じ場所までついてきました。到着後、ザジは、トトに対し、ドラッグのディーラーにも良い一面がある事を熱心に語ります。この時の目の輝きは、ベンツに乗る事に抵抗していた時とは、雲泥の差でした。しかし、研修生が皆、このゲストハウスで寝泊まりしている事をトトから聞かされると、ザジの表情が一変します。ザジは、ノルクス教授が向かい側の家で暮らしていた事を知ると、「ノルクス教授は、家で亡くなったのか?」と、トトに尋ね、トトから「研究所で亡くなった」と、教えてもらうと、ノルクス教授の最期の様子を熱心に尋ねます。ザジは、レベッカの壮絶な最期だけでなく、他の人の最期にも深い関心があるようです。



ところが、次の瞬間、ザジは、突然、「祖母の最期の話で、気を引いてしまった」と、泣き出してしまいます。空港にいた時、トトが、自身を半人前扱いしたのだと思い込み、思わずあのような行動を取ってしまったというのです。トトは、ザジの気持ちを落ち着かせるため、「ホテルに滞在してはどうか?」と提案しますが、ザジは、「ノルクス教授の家に行きたい。」と言い出します。そこで、トトは、ノルクス教授の墓に行く事を提案しますが、ザジは、あくまでノルクス教授の家に行く事にこだわります。「ノルクス教授の家の中に入れば、ノルクス教授はきっと喜んでくれる。」と信じ、「(自身も家の中で)ノルクス教授の存在を感じていたい。」と、いうのです。



結局、ザジは、トトの反対を押し切って、ノルクス教授の家に入ります。ザジは、トトの声に全く耳を貸さず、ノルクス教授の私物を興味深そうに眺めます。トトは、ついに説得を諦め、ノルクス教授が生前に集めたユダヤ人の写真に見入ります。しばらくして、トトは、ザジに呼ばれます。ザジが、3年前に、研修旅行でイスラエル・エルサレムの記念館に行った時の写真を、偶然見つけたのです。ザジは、「ノルクス教授は独身だったの?」と、トトに尋ねますが、トトは答えを知りませんでした。すると、ザジは、いきなり自身の恋人の存在を打ち明けます。名前はバルティといい、なんと、既婚者でした。トトは、バルティと言う名前に、何となく聞き覚えがありました。トトは、バルティが誰の事なのかを思い出そうとしますが、どうしても思い出せません。ザジは、「(バルティとの不倫を)周囲には秘密にしてほしい。」と、トトに頼み、さらに、トトに、バルティの写真を見せようとします。トトは、その写真には興味がなく、その場を離れようとしますが、次の瞬間、思わずつまづいてしまいます。ザジは、タイミング良くトトに近付き、バルティの写真を強引に見せます。しかし、写真に写っていたのは、なぜか、3歳の時のバルティでした。ザジは、「写真は、子どもの頃のものに限る。」と、最愛の男性の幼かった頃の姿に見入るのでした。トトから話を一通り聞いたハンナは、トトがザジに散々振り回された苦しみをようやく理解したかと思うと、すぐにトト公認の愛人に会いに行ってしまいます。



翌日、研究所に出勤したトトは、廊下の掲示板の前でザジと会い、前日の振る舞いが良くなかった事を詫びます。両者の関係は修復されたかに見えましたが、ザジがパリから持参した食べ物を研究員たちに配る旨を口にすると、トトの逆鱗に触れてしまいます。近代史を専門とする歴史家にあるまじき行為に思えたからです。やがて、ランチの時間になり、研究員たちは、ワーキングランチを始めます。バルタザール、アニータら、研究所の研究員たちは、ザジが持参した食べ物を美味しそうに食べますが、トトだけは、皆の前で堂々と食べ物を元の皿に戻します。バルタザールらは、トトの大人げない行動に異議を唱えます。その後、今度は、アニータから、ダイムラー・ベンツがアウシュヴィッツ会議のスポンサーになる可能性が高い事が報告されます。すると、ザジがまたしても空港で見せたような嫌悪感を露わにします。トトも、ザジの肩を持ち、ワーキングランチは不穏な空気に包まれてしまうのでした。



そんなある日、ノルクス教授が生前、アウシュヴィッツ会議のスポンサーになってくれるよう依頼し、承諾をもらっていた大女優のルビンシュタインが、ノルクス教授の訃報を受けて、スポンサーの辞退を申し出ます。因みに、ノルクス教授は、アウシュヴィッツ収容所からの生還者の一人であるルビンシュタインに講演も依頼しており、ルビンシュタインはそれも承諾していましたが、講演の方も辞退すべきかどうか考えていました。トトはザジと一緒にルビンシュタインの住む豪邸を訪れ、説得にあたりますが、ルビンシュタインは、ドイツ語を話そうとせず、アウシュヴィッツ収容所にいた時代の話をするのもとかく嫌がり、自身の美容整形の自慢をしたり、トトに結婚生活が上手く行っているかどうか根掘り葉掘り聞き出したりして、懸命に話を逸らそうとします。このままでは、アウシュヴィッツ会議の開催自体が危ぶまれてしまいます。トトは、最悪の事態を避けるべく、熱心に説得を続けるのですが…。



この映画は、2016年、第29回東京国際映画祭で、東京グランプリとWOWOW賞を受賞しました。メガホンを取ったのは、クリス・クラウス監督。孤独な女囚と、彼女の才能を見抜いた年老いた女性ピアノ教師が、音楽を通じて共鳴していくドイツ映画「4分間のピアニスト」(2006年)が有名です。クラウス監督は、自身の家族に、第2次世界大戦にまつわるダークな過去があると知り、大変なショックを受け、自らホロコーストの調査を重ねました。その際、加害者と被害者の孫にあたる人たちが、その歴史をジョークにしながら楽しそうに話している姿に触れたそうです。その人たちは、家族の歴史自体を忘れた訳でもなく、そこから来る深い心の傷が癒えた訳でもないのですが、クラウス監督は、彼らの未来を感じさせる心の豊かさに感銘し、この映画のアイデアが浮かんだのだそうです。登場人物の台詞は、正直言ってあまり品が良くない言葉遣いが目立ちますが、クラウス監督のこのようなチャレンジ精神は非常に素晴らしいと思いました。



この映画は、生真面目且つ人一倍短気なトトと、情緒不安定でいつ突拍子もない行動を取るのかが分からないザジの2人が映画全体を支配していますが、それをアコースティックギターのBGMが見事に和らげています。この映画は、音楽の力がなければ、ただただ奇妙なだけで、2時間余りに及ぶ上映時間が2倍にも3倍にも感じられたかもしれません。私は、この映画を通して、映画音楽の一つの役割を学ぶ事ができたように思います。



ところで、なぜ、トトは、こんなにも気が短いのでしょうか?その理由は、第2次世界大戦中にトトの祖父が取ってしまった、取り返しのつかない行動にありました。それは、どういう事なのでしょうか?また、トトの祖父がザジの祖母と面識があった事も、明らかになります。さらに、トトとザジの人間関係にまさかの変化が…。これらの詳細を知りたい方は、ぜひDVDをご覧いただけたらと思います。

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
ブルーム・オブ・イエスタディ DVD

デビルズ・バックボーン(2001年 スペイン)

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]

内戦が続く1930年代末のスペイン。12歳の少年・カルロス(フェルナンド・ティエルブ)は、1台の車に乗せられ、共和派の孤児院サンタ・ルチアにやって来ます。カルロスは、共和派の闘士だった父・リカルドを亡くした事をまだ聞かされておらず、リカルドの消息が分かるまでのほんの少しの間、ここに滞在する事になったのだと信じていました。着いて早々、カルロスは、敷地内に刺さったままの大型爆弾に、興味津々の様子。爆弾を触ったり、叩いたりする様子は、まさに怖いもの知らずです。この爆弾は、ここに落ちた後に、信管が人の手によって抜かれたため、カルロスのように、触ったり、叩いたりしても、爆発する心配は全くありませんでした。一方、サンタ・ルチアの教師たちは、カルロスが到着したのを知り、ガッカリを通り越して、呆れ返っていました。というのも、サンタ・ルチアは、人が予定通りに訪ねてこないのが日常茶飯事だからです。この場合は、本来であれば、アヤラとドミンゲスという2人の教師が来るはずだったのですが、アヤラは怪我で来られず、ドミンゲスも何らかの事情で来られなくなったようです。そんな時に、カルロスがやって来たのです。

デビルズ・バックボーン(字幕版)
デビルズ・バックボーン(字幕版)

しばらくの間、爆弾の傍で座って過ごすカルロス。ふと、建物の大きな扉に目をやると、一人の少年の幽霊が立っていました。しかし、幽霊はすぐに姿を消してしまいます。カルロスは建物の中がどうなっているのか、興味が湧き、建物に侵入します。すると、侵入してすぐに、背後から食べ物を乞う少年の声が聞こえてきます。声の主は、サンタ・ルチアで暮らす少年・ガルベスでした。ガルベスの隣には、彼の仲間である少年・フクロウもいました。皆がお互いに自己紹介をすると、カルロスは侵入していた建物を離れ、ガルベスたちと一緒にどこかへ向かうのでした。

スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)
スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)

サンタ・ルチアの院長・カルメン(マリサ・パレデス)は、カルロスを車で連れてきた男性に、抗議をしてました。今、サンタ・ルチアは、受け入れている子どもの数があまりにも多く、もうこれ以上の受け入れは無理なのです。男性は、カルロスの父・リカルドが共和派の闘士として立派に闘った事を話し始めて、逆にカルメンを説得しようとするのですが、カルメンは、「闘ったのは、私。リカルドは学究の人だわ。」と反論します。リカルドは、かつてこの施設にカルメンを遺し、信念を貫いたに過ぎなかったのです。彼女の使う義足は、内戦での闘いの壮絶さを如実に物語っていました。



しかし、カルメンには、カルロスの受け入れよりも、もっと心配な事がありました。もし、反乱軍がサンタ・ルチアについて調べたら、サンタ・ルチアが共和派の孤児院だと分かってしまうのではないかと心配していたのです。カルメンは、このような不安を抱えながら、子どもたちと向き合ってきましたが、とうとうサンタ・ルチアを離れる決意をし、武器代にと、男性に地金を10本渡すのでした。そんな時、アヤラが、予定より遅れて、サンタ・ルチアにやって来ます。敷地内で偶然、アヤラの姿を見つけたカルロスは、以前からアヤラを知っていたため、大喜びして、後を追いかけます。しかし、後を追って、門を開けると、残酷な事に、アヤラを乗せた車が遠くへ行ってしまいます。だんだん小さくなっていく車を、カルロスは泣きながら見つめていました。カルメンと、サンタ・ルチアの教師・カサレス(フェデリコ・ルッピ)は、小さく震えるカルロスの背中を見て、とうとうカルロスを受け入れる決意をします。



カルロスは、これから、孤児用の大部屋で寝起きする事になります。しかし、この大部屋は、利用されている形跡があまりありません。カルメン曰く、これまで多くの孤児たちがこの大部屋から逃げ出していったのが、その理由だとか。そんな大部屋でカルロスに与えられたベッドの番号は、12番。カルメンは、カルロスにロッカーの鍵を渡して、去っていくと、カルメンと入れ替わるように、大勢の孤児たちが入ってきます。一部の孤児たちは、カルロスの方を見ながら、ひそひそと話をします。これからカルロスが使う12番のベッドは、サンティ(フニオ・バルベルベ)が使っていたものだと。



サンタ・ルチアの敷地内に建つ1軒の家には、もともと孤児としてやって来た、管理人のハシント(エドゥアルド・ノリエガ)とコンチータ(イレネ・ビセド)の若いカップルが住んでいます。2人は、いつか結婚して、知り合いが全くいないグラナダで農場を始めたいと考えていました。ある日の晩、ハシントの仲間2人が訪ねて来ます。ハシントとコンチータは、彼らと夕食を共にします。夕食後、ハシントは、車で帰宅の途に就こうとする彼らを前に、「今夜、ひと仕事やってやる。」と宣言します。ハシントは、生活のために金塊を取りに来た人がいるとの情報を耳にしていて以来、何か危機感を覚えたのか、心が落ち着かずにいたのです。仲間たちは、「期待してるぜ。」とハシントを応援します。そのやり取りを見ていたコンチータは、ハシントの仲間たちに対し、嫌悪感を抱きます。ハシントは、少年時代、よく空を見上げて、こう思っていました。いつかこの地を出て行って、金持ちになり、この地の建物を買って、全部ぶち壊すのだと。その目的は、15年にも及ぶ自身の過去を消す事でした。



同じ頃、カルロスは、あの12番のベッドに横になっていました。しかし、カルロスは、なかなか眠れません。カルロスは、ベッドの側面に彫ってあった「サンティ」の文字を指でなぞりながら、「サンティ」と声に出して読んでいました。すると、どこかから、カルロスを呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスは、思わず上半身を起こし、身体全体を自身のベッドと隣のベッドとを遮るカーテンの方に向けます。そして、思い切ってカーテンを開けるのですが、そこには誰もいません。隣のベッドの寝具をどかしても、ベッドの下を覘いても、人の気配がありません。その時、水の入った瓶が倒れる音がしました。カルロスが立ち上がると、倒れた瓶から水がこぼれ、水で濡れた床には、人間の子どもの足跡がいつの間にかできていました。すると、そこへ物音に気付いた子どもたちが集まってきます。彼らは、カルロスが水をこぼしたのだと思い込み、カルロスに水を汲みに行かせようと考えます。カルロスは、自身を呼ぶ声の主を探ろうとしますが、それでも、彼らは、カルロスに水を汲みに行かせる事しか頭になく、なかなかその場を動こうとしないカルロスを臆病者扱いします。カルロスは、自身のやりたい事をいったん諦め、水を汲みに行く事にします。自身を「臆病者」と最初に呼んだ、リーダー格のハイメ(イニーゴ・ガルセス)と一緒に。



カルロスは、ハイメと一緒に井戸のある建物を目指します。各自、空になってしまった瓶を持ち、ゆっくりと歩を進めます。信管が抜いてある爆弾の前を通り、ハシントとコンチータが住む家の前も通り、井戸のある建物に辿り着きます。2人は、早速、水を汲みます。先にハイメが慣れた手つきで水を汲み、その後に、カルロスが慣れない手つきで水を汲みます。ところが、カルロスが水を汲んでいる途中で、井戸のすぐ傍にあったハサミが大きな音を立てて落ちてしまいます。ハシントとコンチータもハサミが落ちる音に気付き、ハシントが、一人で、井戸のある建物に向かいます。ハシントは、建物の出入り口にあるライフル銃を手に取り、人の気配がないかどうかを確かめると、壁面の一部を取り外します。そこには、見るからに重そうな扉がありました。ハシントは、手元にあった鍵を鍵穴に差し込むのですが、残念ながら、扉は開かず、まるで人が変わったかのように悔しさを爆発させます。その後、ハシントは外に出て、出入り口の扉と扉を太い鎖でつなぎ、さらに鍵をかけ、それまでずっと口に加えていた、火が付いたままの煙草を地面に投げ落とします。カルロスよりも先に水を汲んでいたハイメは、既に外に出ていて、爆弾の陰に隠れていたため、ハシントに見つからずに済みました。



一方、カルロスは、落ちてしまったハサミを慌てて片付け、水を汲んだ瓶を持って、建物からの脱出を試みます。ところが、再び、「カルロス」と呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスが、声の聞こえてくる方へ近付いていくと、そこには、茶色っぽく濁った水が今にも溢れそうになっている貯水槽がありました。さらに、突然、人の気配も。カルロスが人の気配のする場所へ恐る恐る近付くと、誰かがカルロスの肩にそっと手を置きます。カルロスが思わず振り向くと、その人は、「ギャアアア~~~~~ッ!!」と悲鳴を上げて、姿を消してしまいます。カルロスの手の指からは、不思議な事に血が滲み出てきました。さらに、同じ人の声で、「大勢死ぬぞ…。」という言葉も聞こえてきます。カルロスは、さすがに怖くなり、逃げ出そうとするのですが…。



この映画でメガホンを取ったのは、ギレルモ・デル・トロ監督。「パシフィック・リム」(2013年)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)と、最近、話題作を世に送り出している監督です。



この映画を観る前、私は、この映画の事をてっきりホラー映画だと思っていたので、「観ている途中で、怖さのあまり、ギブアップしないだろうか。」と、少し心配していました。しかし、実際に観てみると、全然違いました。この映画は、確かに、幽霊が登場しますが、悲鳴を上げたくなるシーンの連続ではないので、ホラー映画ではありませんでした。また、スペインの内戦の時代(1936年~1939年)の設定ではありますが、内戦の様子を描いたシーンはほとんどないので、戦争映画だと断定する事もできませんでした。



では、これは、どういうジャンルの映画なのでしょうか?私は、ミステリー映画だと思います。この映画には、ハシントとコンチータという若いカップルが登場します。ハシントは、15年にも及ぶ過去を消す事にこだわっていますが、実は、この映画のキーパーソンは、主人公のカルロスではなく、ハシントであると考えています。なぜなら、映画の後半で、ハシントの決して許されぬ心の闇が様々な形となって現れるからです。ハシント役のエドゥアルド・ノリエガの演技は、時間が経つにつれて、鬼気迫る演技がグレードアップしていくのが感じられ、カルロス役のフェルナンド・ティエルブよりも存在感が大きくなっていきます。ハシントの哀れな心の内に注目してみると、非常に見応えがある映画です。ご興味があれば、ぜひご覧いただきたいです。

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]


サイレント・ボイス 愛を虹にのせて(1987年 アメリカ)

※今回は、2019年5月12日に、BSの映画チャンネル・スターチャンネル1で放送されたものを鑑賞した上で、ご紹介しています。この映画のDVDやBlu-rayの販売情報を調べましたが、どちらも見つける事ができませんでした。何卒ご了承くださいますよう、お願い致します。


アメリカ・モンタナ州のとある片田舎に建つ家の庭で、12歳の野球少年・チャック(ジョシュア・ゼルキー)が、妹・キャロリンを相手に、キャッチボールをしています。キャロリンが、チャックの投げたボールを受けられず、走ってボールを取りに行くと、チャックは「もういいよ。」と声をかけ、キャッチボールを止めます。そして、キャロリンに、庭の木にぶら下がっている大きなタイヤを揺らすよう頼むと、真ん中の穴をめがけてボールを投げます。ボールは見事に穴を通過して、木の幹に当たります。チャックは、それが終わると、今度は、自身の野球仲間やキャロリンと一緒に、ある場所へ自転車で向かいます。一方、ある小さな飛行場では、戦闘機が着陸します。操縦席からパイロットのラッセル(ウィリアム・ピーターセン)が降りてくると、妻のパメラ(フランセス・コンロイ)が出迎えます。パメラは、ラッセルに「まだ、間に合うわ。」と言い、2人である場所へ向かいます。



チャックたち、そして、ラッセルとパメラが向かった先は、少年野球の試合が行われている野球場でした。ラッセルとパメラは、客席から試合を見守ります。2人が見つめるマウンドに立っていたのは、2人の息子であるチャックでした。チャックは、この試合にピッチャーとして出場するために、自転車で野球場にやってきたのです。両親やチームの期待に応えて、しっかりと打者を抑えたチャックは、チームメイトたちから祝福を受け、元気よくベンチに戻っていきます。ラッセルも、チャックに近付き、頑張りを褒めたたえます。



金曜日、チャックは家族、少年野球チームの仲間と一緒に、広い野原に来ていました。目的は、チャックが、自分で作った手作りロケットを仲間と一緒に発射させるためでした。チャックらが手作りロケットの発射の準備をしていると、一台の車が止まり、中から、ラッセルの知人で、アメリカ軍の予算の仕事に携わる国会議員のジョニー(デニス・リップスコーム)が降りてきます。ジョニーは、ラッセルやパメラとの再会を喜び、ラッセルやパメラも、ジョニーと久し振りに再会して、とても嬉しそうです。そして、いよいよ手作りロケット発射の時。手作りロケットは、カウントダウンの終わりと同時に勢いよく上昇し、パラシュートも無事に開きます。手作りロケットの発射は、こうして大成功に終わったのでした。



ジョニーは、チャックらの労を労うため、近くにある地下サイロを見せます。チャックらが最初に目にしたのは、「ミニットマンⅢ」と呼ばれるミサイルの発射装置でした。「ミニットマンⅢ」は、40トンもあるコンクリートのふたが閉まっており、中には、「バード」と呼ばれる長さ20メートルのミサイルが入っています。弾頭20メガトンの「バード」を発射する時は、固形燃料を用いて、32秒で吹き飛ばすのですが、その射程距離は11,000キロもあり、チャックは、ジョニーの説明を受けるだけで、その威力にショックを受けます。続いて、チャックらは、地下15メートルの場所にあるコントロール室のそばまで案内されます。この部屋にある制御装置を使うと、わずか20分でミサイルをソ連まで飛ばす事ができるといいます。しかし、ここは、巨大な命令系統の最終段階。大統領による命令でミサイルが発射されるのですが、実際には、そんな機会は滅多にありません。説明が終わると、一同は、コントロール室の傍を離れ、エレベーターに向かいます。



しかし、チャックだけは、じっと立ったままでいました。ジョニーは、チャックの異変に気付き、声をかけます。「パパの乗ってる戦闘機も、ミサイルを積んでる。核を積む時も、あるかもしれない。」チャックは、ミサイルや核兵器の恐ろしさをこの日、生まれて初めて知ったのです。ジョニーは、チャックの不安を和らげようとしますが、チャックは「(ジョニーから納得のいく説明が得られるまで)コントロール室の傍から離れたくない。」と言い出します。ジョニーは、12歳であるチャックが理解できるよう、かみ砕いて説明しますが、チャックには、単なる大人の言い訳にしか聞こえませんでした。



数日後、チャックは、野球の試合に出場するため、野球場に来ていました。チャックがベンチからマウンドを眺めていると、ラッセルが励ましにやってきます。ラッセルを見つめるチャックの目は、ジョニーからあの話を聞かされたばかりという事もあって、冷めていました。「老後(ラッセルが年を取ってからも)も仲良くしようね。」チャックは、一言だけ言って、マウンドに向かいます。しかし、チャックは、どうしても気力が湧いてきません。核兵器がこの世の中に存在しているかと思うと、悲し過ぎて、野球をやる気になれないのです。チャックの気力のなさに気付いたチームの監督は、なぜ、核兵器があるせいで、野球をやりたくなくなるのかが全く分かりません。ラッセルは、チャックと監督のやり取りを心配して近付き、チームメイトたちも心配になって集まってきます。監督は、ピッチャーをジェロームに交代しようとします。しかし、チームのエースであるチャックが投げないと、この試合で勝つ事ができないのをよく分かっているチームメイトたちは、「自分たちが恥をかくくらいなら、試合放棄をした方がいい。」と言い出し、監督はこれを受け入れます。チャックは、監督からも、チームメイトたちからも、信用を失い、さらに、その後、ラッセルを怒らせてしまいますが、自身としては、自力ではどうにもできない悲しみを、分かってほしかっただけなのです。



チャックの前代未聞の行動は、地元の新聞に掲載されます。その記事は、チャックの勇気ある行動を紹介している訳ではなく、あくまで風変わりな子どもの一人として紹介するもので、チャックの考えに共感する人は、少なくともチャックの身の回りにはなかなかいませんでした。しかし、中には、新聞社の意図とは逆に、チャックの行動を好意的に解釈する人もいました。プロバスケットボール選手のアメイジング(アレックス・イングリッシュ)です。この時、まだアメイジングの想いを知らなかったチャックは、下校中にスクールバスの車内で、同級生たちから「地球の終わりか?」と、からかわれていました。チャックが自宅に到着すると、上背があるアフリカ系アメリカ人の男性が庭でバスケットボールをしていました。その男性は、アメイジングでした。アメイジングは、あの新聞記事を読んで、居ても立っても居られず、忙しい合間を縫って、チャックに会いに来たのです。アメイジングは、どうしても野球をやりたいという気持ちになれないチャックに、バスケットボールのドリブルやシュートのコツを丁寧に教えます。チャックは、アメイジングのおかげで、少しだけ笑顔を取り戻す事ができました。



さらに、アメイジングは、ラッセルやパメラにも会い、清々しい笑顔である事を宣言します。なんと、チャックのように、自分もバスケットボールを一切止め、チャックの反核運動に協力するというのです。アメイジングは、もし、「核の全廃」が実現したら、また、バスケットボールをやりたいといいます。最近、ただでさえ、チャックの行動に戸惑っているラッセルは、チャックと行動を共にする仲間が突然、自身の目の前に現れ、さらに戸惑ってしまいます…。



この映画でメガホンを取ったのは、マイク・ニューウェル監督。代表作に、「フォー・ウェディング」(1994年)、「モナリザ・スマイル」(2004年)、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)があります。



一人の野球少年の穏やかな日々から始まったこの映画。しかし、少年が両親の知人からミサイルや核兵器について教わったのがきっかけで、突然、おとぎ話に豹変します。少年は、ミサイルや核兵器の恐ろしさのあまり、野球をやる気力を完全に失い、反核運動に力を注いでいきます。間もなく、彼に共感する仲間も現れ、彼らの行動は、順風満帆かに思われました。しかし、ある新聞記事をきっかけに、少年は、全米中から注目される事になり、少年の家族はひっきりなしに鳴る電話に出続けたり、玄関先までやってくる反核運動反対派の大人たちからの抗議行動に立ち向かったりする事で、次第に心が疲弊していきます。さらに、少年の仲間を襲う突然の悲劇がきっかけで、少年は、「格の全廃」を訴える手段として、自身の口を使って言葉を話す事を放棄し、筆談、または、自身の代わりに父親に話をしてもらう事で言葉を伝えるようになります。少年の沈黙の抗議は、一部の人間の怒りを買いますが、やがて、その努力が実る時が訪れます。具体的に何がどうなるのかは詳しく言えませんが、話が上手くでき過ぎている事だけは確かです。



途中から物語の展開がいかにもおとぎ話らしくなり、登場人物の行動や言動が極端にしか感じられなくなりますが、まだまだ反核運動に対して無理解な人が少なくなかったであろう1980年代のアメリカで、反核運動をテーマにした映画が作られたのは、日本人の一人として、とても嬉しかったです。また、「ローマの休日」(1953年)で知られるグレゴリー・ペックが物語の後半に出演しているのも、興味深かったです。DVDも、Blu-rayも、販売されていないのが非常に残念です。大事な販売情報をお伝えできず、本当に申し訳ございませんでした。





ハートビート(2015年 アメリカ・ルーマニア)

ハートビート [DVD]
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アメリカ・ニューヨークのアップタウンにある古いレンガ造りのアパートの4階の部屋で、一人の青年がバイオリンを弾いています。青年の名は、ジョニー(ニコラス・ガリツィン)。イギリス・ロンドンに住むチェリストのサイモンが所有するこの部屋で一人で暮らしている、イギリス人バイオリニストです。バイオリニストと言っても、経済的にまだまだ余裕がある訳ではなく、生活のために地下鉄で演奏をしています。一方、ハドソン橋を渡っている一台のタクシーには、プロのバレエダンサーを目指すルビー(キーナン・カンパ)が母親と一緒に乗っています。ニューヨークにあるマンハッタン芸術大学ダンス学科への入学を控えているルビーは、バレエダンサーとしての才能を認められ、奨学金を得て、通学する事になっていました。タクシーがハドソン橋を渡り切り、マンハッタン芸術大学の前に到着すると、母娘はタクシーを降ります。「電話するのよ。大した用事がなくてもいいから。」母親は、目に涙を浮かべながらそう話すと、再びタクシーに乗り、去っていきました。ルビーは、涙をこぼしながら、母親を見送るのでした。



その後、ルビーは大学の校舎に入り、学長のマルコバ(マヤ・モルゲンステルン)との面談に臨みます。ルビーは、ダンス学科のC2クラスに入る事になりました。大学では、コンテンポラリーダンスを除く全ての授業に服装の規定があり、遅刻は厳禁。早速、翌日の午前9時に最初の授業が始まる予定になっています。ルビーは、コンテンポラリーダンスの授業に何を着るべきか、マルコバにアドバイスを求めますが、「想像力を働かせて」と言われるだけでした。こうして、ルビーは面談を終え、これから新生活を過ごすアパートに向かうため、地下鉄に乗ります。



ルビーの乗った車両が発車し、もう少しで駅のプラットホームを離れるところで、ルビーの視界に、ある男性の姿が入ってきます。男性は、プラットホームで、電子音を流しながらリズミカルにバイオリンを弾いています。バイオリンを弾いていたのは、ニューヨークのアップタウンにあるアパートで暮らしているジョニーでした。ルビーにとってはほんの一瞬の出来事でしたが、この時、まさか、これが、ルビーにとっても、ジョニーにとっても、運命の出会いであるとは、双方とも思っていませんでした。しばらくして、ルビーは、アパートに到着します。ルビーを出迎えたのは、同じダンス学科の1年先輩で、これからルームメイトとしてルビーと一緒に過ごす事になるジャジー(ソノヤ・ミズノ)でした。2人は、すぐに枕でお互いを叩き合ってふざけ合えるほど、意気投合します。



一方、ジョニーは、地下鉄の駅を出て、弁護士のニールに会いに行きます。ジョニーは、ニールの姿を見つけると、地下鉄の駅での演奏中に得たチップを全額手渡し、数日後にニールから連絡を貰う約束をして、アパートに戻ります。ジョニーがアパートに着くと、階段の踊り場で、アフリカ系アメリカ人の青年に声を掛けられます。声を掛けたのは、同じアパートの3階に住むヘイワード(マルクス・エマニュエル・ミッチェル)でした。ヘイワードは、ジョニーに仲間を紹介しようとしたり、おいしい料理が食べられる店を紹介したりと、何かと世話好きな様子。ジョニーは、ヘイワードに誘われるがままに、3階の部屋に入っていきます。そこには、ヒップホップダンスチーム「スイッチ・ステップス」のメンバーが大勢集まっていました。型にこだわらない、まさに、フリースタイルでダンスをするリック(イアン・イーストウッド)、「スイッチ・ステップス」で女神のような存在のアフリカ系女性メンバー・ポップタート(コンフォート・フェドーク)、まだまだあどけなさが残るオリー、料理や掃除が得意なクリスピー、髪が赤いのが特徴の女性メンバー・ジェット、ヘイワードの弟・ティップトー、そして、全てのジャンルのダンスをこなせるジャクソンが、ダンスの練習に汗を流していました。クリスピーがジョニーの姿を見つけると、ジョニーに近付き、自分で調理したイカフライをおすそ分けします。ジョニーが少々戸惑いながらイカフライを口に運ぶと、今度は、メンバー全員でパフォーマンスを披露します。ジョニーは、「スイッチ・ステップス」なりの最高のもてなしに、ただただ圧倒されるばかりでした。



翌日の早朝、ルビーは、ジャジーと一緒に大学へ登校します。大学に着くと、ルビーは、ジャジーから、プロのバイオリニストを目指す学生・カイル(リチャード・サウスゲイト)を紹介されます。ルビーはカイルの風貌に一目惚れしてしまいますが、ジャジーは、そんなルビーに、「(カイルは)クズ男よ。」と、忠告します。それからすぐに、いよいよ授業が始まります。最初は、クラムロフスキー(ポール・フリーマン)が教えるクラッシックバレエの授業です。ルビーは、初めての授業を前に、緊張していました。一方、ジャジーは、同じ授業を受けるエイプリル(アナベル・クタイ)の姿を見つけると、「(エイプリルは)完璧だから、嫌い。」と、呟きます。この日のクラッシックバレエの授業で、クラムロフスキーが指示したのは、胴体を軸にして回転するピケでした。クラムロフスキーは、子どもの頃に戦争を体験したのですが、その際、強制収容所に収容され、体を壊したため、杖が欠かせない状態にありました。しかし、授業で教え子に声を掛ける時は、体の弱さを全く感じさせない、実に大きな声を出していました。バレエダンスの授業の次は、ルビーが苦手なコンテンポラリーダンスの授業です。ルビーがコンテンポラリーダンスを苦手としている理由は、至ってシンプルで、これまでコンテンポラリーダンスに挑戦した事がなかっただけでした。授業中、ルビーは、パートナーを務める男子学生とぶつかりそうになります。授業を担当するオクサナ(ジェーン・シーモア)は、それを目撃し、ルビーに近付きます。ルビーは、オクサナに向かって、あれやこれやと言い訳をするのですが、オクサナには全く通用しませんでした。



この日の帰り、ルビーとジャジーは、一緒に帰宅しませんでした。ジャジーが、足にできたマメを治すための薬を買いに、薬局に立ち寄ってから帰る事にしたのです。ルビーは、一人で帰宅の途に就きます。大学の最寄りの地下鉄の駅まで来たルビーは、プラットホームに続く階段を降り、バイオリンを弾いていたジョニーの傍を通りかかると、さりげなくチップを渡します。お互いに何となく無言で見つめ合うと、車両が到着し、車内から全身黒ずくめの若者の集団が降りて来ます。若者たちは、居合わせた乗客をわざと大声で脅し、プラットホームで作業をしていた工事会社の作業員たちに喧嘩を売ったかと思うと、なんと、作業員たちを相手に、ダンスバトルを始めます。ジョニーも、その場を盛り上げようと、バイオリンをリズミカルに弾きます。



ダンスバトルを見守る人の中には、当然、スマートフォンで動画を撮影して、インターネットにアップする人がいて、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、動画をしっかりとチェックしていました。しかし、この動画に映る乗客たちの間を、何人かのスリが通り抜けていました。若い女性のバッグを強引に奪い、ルビーやその隣にいた人たちを突き飛ばし、ジョニーがルビーの体を起こしている間に、床に置いたままにしてあったジョニーのバイオリンを盗んでいきました。ジョニーは、バイオリンがなくなっているのに気付いた時、相当なショックを受け、駅を出ます。ルビーは、そんなジョニーの事が心配になり、後を追いかけます。ルビーは、ジョニーに追い付くと、良かれと思って、懸命にジョニーを励ましますが、励ます度にジョニーを怒らせてしまいます。なぜなら、ジョニーのバイオリンは、亡き祖父の形見だからです。ルビーは、バイオリンが違法に質屋で売られたのではないかと心配し、ジョニーと一緒に、近くの質屋に向かいますが、ジョニーのものらしきバイオリンはありませんでした。ルビーは、念のために、自身の連絡先が書かれたメモを質屋の主人に手渡します。



ジョニーには、バイオリンを盗まれた事の他に、もう一つ、心配な事がありました。何日経っても、ニールから連絡が来ないのです。いつまで経っても連絡が来ないと、アメリカで市民権を得た事を証明するグリーンカードを手にする事ができません。ジョニーは、この日まで何日も待ち続けましたが、とうとう待ち切れなくなり、以前にニールから受け取っていた名刺を手に、ニールの法律事務所へ乗り込みます。しかし、実際に訪ねてみると、法律事務所自体が架空であった事が分かります。確かに、ジョニーは、3か月も前から、ニールにグリーンカードの取得の事で相談をしていましたが、法律事務所の中に入らせてもらえた事は一度もなく、必ず、外で会っていました。ジョニーは、悔しさのあまり、建物の外に出て、ゴミ箱を蹴っ飛ばします。



同じ頃、大学の構内にいたルビーは、学生が使う楽器の修理を受け付ける窓口で、バイオリンを借ります。あくまで、バイオリンを盗まれてしまったジョニーを喜ばせるのが目的だったのですが、窓口で対応した男性から、「弦楽器&ダンスコンクール」が近々開催される事を教えてもらいます。もし、自分がジョニーと一緒に出場し、優勝すれば、ジョニーは、賞金で新たにバイオリンを買う事ができ、大学から奨学金が出て、さらに、学生ビザも取得できて、ジョニーにとって、まさに良い事ずくめではないかと考えたのです。ルビーは、ジョニーを説得するため、ジョニーの住むアパートへ向かいます。一方、ジョニーは、グリーンカードを取得できない事で、アメリカにずっと不法滞在している状態にある事が分かり、住んでいるアパートの部屋を追い出されるかもしれないという危機に陥っていました。すると、そこへ、ルビーが大学で借りてきたバイオリンを持って、訪ねてきます。早速、コンクールへの出場を提案するルビーでしたが、ジョニーは、常日頃から富裕層を嫌っている事から、「学校の施しは、要らない。エリート主義の学校も、気に入らない。」と、殻に閉じ籠ってしまいます…。



大学の授業でのクラッシックバレエやコンテンポラリーダンス、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルと、様々なジャンルの完成度の高いダンスを堪能できるこの映画。物語の後半では、アイリッシュダンスや社交ダンスも登場し、観る者としてはますますテンションが上がっていきます。ダンスの名シーンの数々を盛り上げるのは、ロンドン、パリ、ロサンゼルス、ニューヨークから集められた、世界最高峰に位置する62人のダンサーたちです。端役なのがあまりにももったいないくらいに、完成度の高いダンスで、観る者を魅了します。特に、印象に残ったのは、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルのシーンです。それぞれのチームが、4列から成る逆三角形のフォーメーションを作り、向き合うようにしてヒップホップダンスを披露するのですが、どちらのチームも圧巻の一言に尽きます。ダンスの様子を真正面から撮るカメラワークは、ダンサーたちの一糸乱れぬ動き、観る者に容赦なく迫ってくるような迫力が非常に伝わりやすく、見応えがあります。

ダンサーといえば、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、忘れてはいけません。あらすじにも触れたように、どのメンバーも非常に個性が強いのですが、ダンスをする時の団結力は実に見事で、集団のあるべき姿とは何なのかを、改めて考えさせられました。各々の個性を重んじる事は非常に大事ではありますが、たとえ、個性が全然違っていても、いざという時に団結する事は、もっと大事なんですよね。



そして、数多のダンサーたちの中心に立って、さらにグレードアップしたパフォーマンスを披露しているのが、3人のメインキャストです。まず、ルビーを演じたキーナン・カンパは、この映画が女優デビュー作です。カンパは、17歳の時に、ロシアのサンクトペテルブルクにある世界的に有名なバレエ学校、ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学し、ロシア人以外では初めてディプロマを取得しました。その後、アメリカ人で初めて、ロシアの名門マリインスキー・バレエに入団。「ドン・キホーテ」や「ジゼル」等で、メイン・キャストを務めました。

ジャジーを演じたソノヤ・ミズノは、11歳の時から20歳の時まで、イギリスのロイヤル・バレエ学校でバレエを学びました。その後、ドレスデン国立歌劇場バレエ団やスコテッィシュ・バレエ団に在籍し、2015年に、映画「エクス・マキナ」で女優デビューしました。その翌年には、「ラ・ラ・ランド」にも出演しています。そんなカンパが演じるルビー、ミズノが演じるジャジーの2人が、大学のクラッシックバレエの授業を受けるシーンは、必見です。あくまで、バレエの公演ではなく、バレエの授業のシーンだと分かって観ているのに、体の軸の美しさや腕や脚の絶妙なカーブが全くぶれる事なく、見事に踊っているのを観ていると、「凄い」以外の言葉が出てきません。

また、ジョニーを演じたニコラス・ガリツィンは、2014年に映画"The Best Beneath My Feet"で俳優デビュー。イギリスでは非常に注目度の高い若手俳優ですが、俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしても活躍しており、自ら作詞もしています。劇中でバイオリンを演奏している時に、かなり自信に満ちた表情をしているのは、ミュージシャンとしてのキャリアがあってこそなのかもしれません。特に、電子音を取り入れた演奏の時は、本当に楽しくリズムに乗っているので、そう感じました。



監督を務めたのは、マイケル・ダミアン。俳優、ミュージシャン、映画監督と、多彩な顔を持っています。俳優としての代表作に、テレビドラマ「ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス」(1980年~1998年に出演。)が、ミュージシャンとしての代表作に、"Rock On"(1989年)が、そして、映画監督としての代表作に、「マーリー2 世界一おバカな犬のはじまりの物語」(2011年)が、あります。



さて、ルビーの前で殻に閉じ籠ってしまったジョニーですが、すぐに我に帰り、ルビーに謝ろうと、ある方法でルビーに近付きます。しかし、それも失敗に終わり、ジョニーは、今度こそルビーに誠意を見せようと、ルビーと一緒にコンクールに出場する決意をします。ちなみに、コンクールには、カイルも出場します。しかも、カイルと組むのは、なんと、エイプリル。この勝負に負けたくないジョニーは、ルビーの他に、「スイッチ・ステップス」ともタッグを組みます。勝つためなら手段を選ばないジョニー。果たして、このやり方は、吉と出るのか、凶と出るのか。いや、その前に、ジョニーには、未解決のあの問題が…。この物語は、一体どうなってしまうのでしょうか。

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顔のない天使(1993年 アメリカ)

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1968年夏、アメリカ・メイン州の避暑地。雲一つない晴天となったこの日、ある競技場のトラックで、真っ白な軍服に身を包んだ12歳の少年・チャールズ(ニック・スタール)が、同じ格好の大人たちの肩の上に座り、手を大きく振っています。まさに、チャールズがかねてから抱いていた夢が叶った最高の瞬間です。客席では、母・キャサリン(マーガレット・ホイットン)が我が息子の姿を見て、号泣しています。異父妹・メグ(ギャビー・ホフマン)も、大声を上げて喜んでいます。しかし、異父姉・グロリア(フェイ・マスターソン)は、弟の方が優秀だと思い知り、ずっと妬いていました。

顔のない天使 [Blu-ray]
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やがて、チャールズの夢の時間はあっという間に終わりを迎えます。チャールズは、グロリアやメグと一緒に、キャサリンの運転する車の後部座席に座り、帰宅の途に就きます。その後、車が港の近くまで来ると、メグは、カーラジオから流れるお気に入りの曲を「もっと大きな音で聞きたい」と言い出します。しかし、グロリアは「くだらないわ。」と言い切り、キャサリンに「何とか言ってよ。」と、援護射撃を求めます。すると、キャサリンは、すぐにカーラジオの電源を落としてしまいます。メグはすぐに反発しますが、キャサリンにとって、それは痛くも痒くもありませんでした。こうして、一家が乗った車は、港に停泊しているカーフェリーの中へと入っていくのでした。



カーフェリーでの移動中、メグは、カーフェリーに近付いてくる鳥たちに餌をやり、チャールズはすぐそばで時折しかめっ面をしながら立っていました。メグは、すぐに兄のしかめっ面に気付いて、兄をたしなめ、それが済むと、今度は、すぐそばにいる中年の男性に声を掛け、愛嬌を振りまきます。その理由は、キャサリンの次の結婚に相応しい相手を自身の力で探し出すためでした。チャールズは、そんな妹の行動に眉をひそめます。キャサリンが、道楽のような感覚で、何度も結婚と離婚を繰り返しているのを、チャールズはよく理解しているのです。実は、チャールズは、キャサリンの3番目の夫にあたる、亡き父・エリックと同じように、アメリカ軍の士官になる事を夢見ていました。最近、士官学校の入学試験を受験し、残念ながら不合格になってしまいましたが、8月になったら再び受験し、合格したら、入学して、寮生活を送るつもりでいました。しかし、チャールズの学力の低さを理解しているつもりになっているキャサリンは「士官学校がファシストだから」と、チャールズが士官を目指すのを反対していました。



チャールズは、この日も、カーフェリーのデッキで、キャサリンから士官学校の入学試験の受験を改めて反対され、怒りのあまり、キャサリンが運転していた車のボンネットのふたを足で凹ませ、さらに、タイヤをパンクさせます。それが済むと、今度は、後方に止めてある1台の車に近付きます。車の中には、ジャーマン・シェパード・ドッグがいたのですが、ジャーマン・シェパード・ドッグは、チャールズが車の中を覘き込むのと同時に、牙をむいて大声で吠え始めます。しかし、車の後部座席から、「静かにしろ!」と飼い主らしき男性の声が聞こえてきます。男性の名は、マクラウド(メル・ギブソン)。マクラウドは、この町では滅多に姿を現さない事で有名な怪人として知られる男性でした。チャールズがマクラウドの方を見ると、マクラウドも、チャールズの気配に気付き、チャールズの顔を見つめます。マクラウドの顔には、右半分のほぼ全てを占めるほどの、大やけどの痕がありました。チャールズは、ジャーマン・シェパード・ドッグとマクラウドの両方の威圧感に怯えてしまい、震える声で謝って、その場を去ったのでした。



ある日、チャールズは、士官学校の入学試験の勉強に集中しようと思い、外出します。しかし、外に出てすぐに、メグが後ろから自転車に乗って追いかけてきます。「チャールズが入学試験に合格できないのでは。」と心配し、「私が勉強を教えてあげる。」と、チャールズに申し出たのです。目上の人間であるキャサリンやグロリアが学力を疑うのならともかく、そうではないメグまで同じように疑うなんて、チャールズにとっては屈辱でしかありません。チャールズは、足早に港へ向かう事で、メグからの申し出をかわすのでした。



チャールズが港に着くと、3人の仲間たちがボートに乗って近付いてきます。3人は、これから「バケモノ海岸」でいつものように泳ぐといいます。3人に泳ぎに誘われたチャールズは、どうすべきか少し迷いますが、結局、ボートに乗り込みます。ボートが出港してすぐに、メグが、「一緒にボートに乗りたい。」と、港から4人に訴えますが、「バケモノ海岸」が少年たちの大切な遊び場であるため、断られてしまいます。メグは、「女性差別だ!」と憤り、品格を疑われるような言葉を次々に4人にぶつけるのでした。



その後、ボートに乗った4人は、無事に「バケモノ海岸」に到着。そして、全員で岩場に座って、井戸端会議を始めます。4人は、女の子とは何か、「バケモノ海岸」を天国にする方法、そして、チャールズがカーフェリーの中でマクラウドを目撃した事などについて、語り合います。4人がマクラウドについて語り合っていた時、どこかから物音が聞こえてきます。皆で物音のする方へ向かってみると、突然、ジャーマン・シェパード・ドッグが目の前に現れます。とにかく勢いよく吠えるジャーマン・シェパード・ドッグに驚く一同。岩場の奥には一軒家があり、マクラウドと思しき男性が2階のバルコニーから外を眺めています。実は、このジャーマン・シェパード・ドッグは、マクラウドの飼い犬「ミッキー」だったのです。チャールズたちは、慌ててボートに乗り込み、「バケモノ海岸」を後にします。チャールズは、士官学校の入学試験の勉強にと、教科書を持ち込んでいましたが、うっかりして「バケモノ海岸」に置いてきてしまいます。チャールズは「バケモノ海岸」を出発してすぐにそれに気付きましたが、3人の仲間たちは、聞く耳を持ってくれませんでした。



結局、チャールズは、3人と別れ、1人で教科書を探しに「バケモノ海岸」へ戻ります。幸い、チャールズは、岩場で教科書を見つける事ができました。チャールズは、安堵感からか、岩場に座り込んでしまいます。しばらくの間、海を眺めていると、背後から男性の声が聞こえてきます。「何してるんだ。どうした?いつからここにいる?」チャールズが後ろを振り向くと、そこには、レインコートを着て、1頭の馬に乗った、マクラウドの姿がありました。マクラウドは、チャールズを、自身の家に連れていきます。



マクラウドの家には、興味深いものがたくさん飾ってありました。カラスやフクロウの剥製、人間の顔を彫った彫刻、そして、時計をかたどったディベート大会の優勝トロフィー等が大切に置かれていました。チャールズが優勝トロフィーに見入っていると、マクラウドが、温かい飲み物の入ったマグカップを持って、ミッキーと一緒に近付いてきます。チャールズは、勝手に優勝トロフィーに見入ってしまった事を謝り、優勝トロフィーのプレートに書いてあった内容について尋ねます。「バレット高校の教師だったんですか?」マクラウドは、突然、触れられたくない過去に触れられてしまい、動揺しますが、チャールズに飲み物を渡すと、ミッキーの名を呼び、どこかへ行ってしまいます。マクラウドが動揺してしまった事で、チャールズがマクラウドと会う事はもう二度とないかに思われました。しかし、マクラウドが元高校教師である事を知ったチャールズは、マクラウドが士官学校の入学試験の勉強を手伝ってくれるかもしれないと前向きに考え、再びマクラウドの家を訪ねます。しかし、実際にマクラウドがチャールズに行わせたのは、森の中で穴を掘らせたり、自身の家の中で作文の練習をさせたりと、入学試験に直接関係のない事ばかりでした。マクラウドがこうしたのには、れっきとした理由がありました…。



イザベル・ホランドの同名タイトルの小説が原作のこの映画は、「マッド・マックス」シリーズや「リーサル・ウェポン」シリーズで知られる俳優メル・ギブソンが友人でプロデューサーのブルース・デイヴィと共同で設立したプロダクション「アイコン・プロ」の、記念すべき第1作目の映画です。ギブソンは、この映画で監督デビューを果たしただけでなく、マクラウド役で出演もしています。因みに、この他にギブソンが監督を務めた映画は、「パッション」(2004年)、「ハクソー・リッジ」(2016年)等があります。



この映画のポイントは、2つあります。1つは、ギブソン演じるマクラウドの特殊メイクです。顔の右半分のほとんどが大やけどの痕になっているのですが、色は肌色一色で、マクラウドとすれ違う人々が皆、無意識に見入ってしまう、小さめにごつごつした表面は、マクラウドが体験した暗い過去の凄まじさを見事に表現していて、とても印象に残りました。



そして、もう1つは、主人公・チャールズとその家族の持つ野暮ったさです。全ての根源は、何度も何度も結婚を繰り返し、言葉遣いもかなり酷い母・キャサリンにあります。もし、キャサリンの言葉遣いが酷くなければ、メグが何の悪気もなく言葉遣いを真似る事はなかったと思いますし、もし、キャサリンが、学力の足りなさを理由に、仕官を目指すチャールズを馬鹿にしなければ、グロリアがキャサリンに同調する事はなかったと思います。チャールズも、最初は、母譲りの言葉遣いが印象的で、キャサリンから学力のなさをしつこく指摘されますが、ある日、マクラウドと出会い、カオスと評されても仕方がない家庭環境から脱しようと、マクラウドの協力を得ながら懸命に仕官を目指します。そんなチャールズに、グロリアは、物語の終盤で、ある衝撃的な告白をし、チャールズをはじめとする家族だけでなく、町中の人々をも大混乱させます。この大混乱を、チャールズはどう乗り越えていくのでしょうか。結末が知りたくなった方は、ぜひこの映画をチェックしてみてはいかがでしょうか?

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ブレックファスト・クラブ(1985年 アメリカ)

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1984年3月24日土曜日午前7時、アメリカ・イリノイ州にあるシャーマー・ハイスクールの図書室に、5人の生徒が集まってきます。クレア(モリー・リングウォルド)は、「授業をサボって、買い物に出掛けただけなんだから。」と、学校の前まで送ってくれた父親に慰められています。数学部、ラテン語部、物理部を掛け持ちしていて多忙なブライアン(アンソニー・マイケル・ホール)は、またしても補習授業に出席する事になってしまったのをガミガミ責めてくる母親に「(補習授業は)今日こそが最後だ。」と、断言します。レスリング選手のアンドリュー(エミリオ・エステヴェス)は、「男は悪さをするものだ。運が悪かったんだ。」と言ったかと思うと、「(レスリングの名門の大学に入学しても)奨学金を借りられなくなるかもしれないぞ。」と脅してくる父親に嫌悪感を抱いています。ジョン(ジャド・ネルソン)は、筋金入りの問題児で、この日は、サングラスをかけて、たった一人で登校しました。同じくたった一人で登校したアリソン(アリ・シーディ)は、誰とも目を合わせたがらず、爪を噛む癖がかなり酷い様子です。5人は、学校から、この日に補習授業を受けるよう命じられていました。そして、5人が図書室にそろってすぐに、補習授業を担当するバーノン先生(ポール・グリーソン)がやって来ます。9時間にわたる長い補習授業の始まりです。

ブレックファスト・クラブ 30周年アニバーサリー・エディション ニュー・デジタル・リマスター版 [Blu-ray]
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補習授業で5人に課せられたのは、「自分とは何か」というテーマで、1000語以上の作文を書く事でした。5人が課題に取り組んでいる間、バーノン先生は、ドアが開いたままの隣室から監視をするといいます。しかし、5人は、それぞれ色々なやり方で抵抗します。クレアは、些細な理由で補習授業を受ける事に異議を唱え、ジョンは、両足を机の上に乗せたまま、バーノン先生を馬鹿にし、アリソンは、大きな音を立てて爪を噛み、ブライアンは、あれやこれやと御託を並べ、どの生徒も全くやる気が見られません。特に、ジョンは、バーノン先生が隣室へ行った後、トイレで用を足すふりをしたり、「クレアを孕ませる」と、冗談を口にしたり、「アンドリューとクレアはデキているのか?」と茶化したりと、とにかくやりたい放題。やがて、補習授業は、バーノン先生が図書室にいないのをいい事に、ジョンが仕切るおしゃべりタイムと化します。



さらに、ジョンは、隣室にいたバーノン先生が席を外した隙に、隣室の扉のねじを勝手に外し、扉を閉じてしまいます。これには、さすがの4人もジョンをたしなめます。やがて、バーノン先生が隣室に戻ると、異変に気付き、5人全員を問いただします。ところが、信じ難い事に、4人はなぜかジョンをかばいます。これを機に、5人の間には、友情が芽生えます。しかし、5人共、肝心の作文に取り組む気配はありませんでした。



その後もずっと、5人は、作文に目を向けようとしません。全員で熟睡したり、アリソンは絵を描いたり、ジョンはストレス発散に図書室の蔵書を破り続けたりと、5人の悪行は、エスカレートするばかりでした。ところが、一心同体であるかに思われた5人の心は、少しずつ、1対4の構造になっていきます。ジョンが、4人の事やそれぞれの親の事を容赦なく馬鹿にしたためでした。特に、クレアに対しては、勝手に処女だと思い込み、性行為の手順を事細かく説明して、面白がる始末。アンドリューは、次第にそれに耐えられなくなり、ジョンの体を抑え込みます。そして、二度とクレアに嫌がらせをしないよう、約束させるのでした。



午前11時30分、ランチの時間が近付いてきましたが、5人は相変わらず作文に手を付けません。時間を潰すアイデアは既に尽き果てており、誰もが退屈しています。ジョンは、この状態を脱すべく、映画「戦場にかける橋」で流れる曲「クワイ河マーチ」を口笛で吹き始めます。すると、他の4人も、ジョンにつられて、同じ曲を口笛で吹き始めます。しかし、その直後、バーノン先生が図書室に戻ってきます。30分間のランチの時間になったためです。5人は、バーノン先生の姿を見て、慌てて口笛を止めます。バーノン先生が図書室でランチを食べなければならない旨を告げると、5人は、「食堂でランチを食べるんじゃないんですか?」、「脱水症状が心配です。ミルクが欲しいです。」等、次々に文句をぶつけます。



「ああでもない。こうでもない。」とバーノン先生に文句を言い続けた5人でしたが、結局、最初に言われた通りに、図書室でランチを食べます。アンドリューとブライアンはサンドイッチとクッキーを、クレアは寿司を、アリソンは大量のグラニュー糖とスナック菓子を挟んだサンドイッチを机の上に置きます。因みに、飲み物は、皆が希望したミルクではなく、缶入りのコーラでした。しかし、ジョンだけは、なぜかランチを食べ始める気配がありません。さらに、家族の仲があまり良くない事を自ら一人芝居で説明すると、4人に信じてもらえず、ジョンは、その腹いせで図書室の備品を壊し始めます。4人は、さすがに「言い過ぎてしまった。」と、罪悪感を抱きます。



ランチの後、5人は、バーノン先生の姿が見えないのを確かめてから、図書室を出て行きます。そして、バーノン先生が職員室に入っていくのを確認した上で向かった先は、ジョンのロッカーでした。ジョンは、ロッカーの扉を開け、なんと、マリファナの入った包みを取り出します。5人は、ロッカーを離れ、図書室へ戻ろうとしますが、戻る途中で、バーノン先生に見つかりそうになります。こうして、図書室から一時的に離れている事がバレてはいけない5人と、そんな事に気付かず、のんびりと廊下を歩くバーノン先生による、スリル満点の駆け引きが始まるのです…。



ジョンのロッカーからマリファナが出て来て、空気が一段と悪い方向に変わってしまったかに思われますが、この空気は、まだまだ序の口です。この後、5人の悪行はますますグレードアップし、バーノン先生の怒りもまた、ますますグレードアップしていき、補習授業は、もはや崩壊状態となります。



監督は、1980年代にアメリカ映画界で青春映画の名手として活躍したジョン・ヒューズ。「すてきな片想い」(1984年)、「フェリスはある朝突然に」(1986年)等が有名です。



この映画を観て、「これは、なかなか興味深いなあ。」と思ったのは、最初の段階で、補習授業に出席する5人の生徒の名前が明らかにならない事でした。ジョンだけは、補習授業が始まる直前に明らかになりますが、アンドリュー、ブライアン、クレアの3人は、映画が始まって20分が過ぎた頃に、ようやく1人ずつ分かってきます。因みに、アリソンの名前が明らかになったのは、映画が始まって、1時間が経過した頃でした。この意図とは、何なのでしょうか?私は、5人の中で、ジョンが中心的な存在である事を強く印象付けるためではないかと思います。なぜなら、ジョンがバーノン先生に叱られる時は、必ず他の4人がかばっていますし、劇中で起こるトラブルのほとんどは、ジョンがきっかけを作っているからです。この映画は、彼の暴れっぷりなしでは、学園系エンターテイメントとして、成立しないのではないでしょうか。



しかし、この映画は、ただ5人が暴れ回るだけではありません。物語の後半になると、5人がそれぞれ抱える心の闇が次第に明らかになっていきます。その過程で、5人は、作文のテーマである「自分とは何か」を、淡々と、時には涙を流しながら、語っています。バーノン先生が掲げた理想とは別の形ですが、5人は、補習授業のスタート地点をきちんと覚えていたのです。この映画は、実は、学園系エンターテイメントでもあり、真面目な青春映画でもあります。ぜひ、ヒューズ監督が描いた見事な緩急と、生徒役を演じた俳優たち、女優たちのエネルギーを堪能していただきたいと思います。

ブレックファスト・クラブ [DVD]
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グラン・ブルー完全版~デジタル・レストア・バージョン~(1988年 フランス)

グラン・ブルー 完全版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]
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1965年、ギリシャ・キクラーデス諸島。8歳のフランス人少年・ジャックは、一人で地中海に飛び込み、海の生き物たちと戯れていました。しばらくして、海から上がったジャックは、近所に住む2人の少年たちから、「ジャック、海で何かが光ってる。早く来て。海の底に沈んでいるんだ。」と言われ、少年たちと一緒に海へ戻ります。しかし、ジャックが海を覘いてみると、生き物の姿が見当たらず、コインが海の底に沈んでいました。2人の少年たちは、どちらが先にコインを見つけたかで言い争いを始めてしまいます。ジャックは、2人をなだめ、自分を含めた3人でコインを分け合う事を提案します。しかし、2人が納得しなかったため、今度は、コインで何かを買い、買ったものを分け合う事を提案します。2人は、それを聞いて、ようやく納得してくれました。

ところが、ジャックたちがコインを取ろうとしたその時、イタリア人の少年エンゾが、弟のロベルトら大勢の仲間を引き連れて現れ、ほんのわずか6秒でコインを横取りしてしまいます。エンゾは、手に入れたコインをジャックに見せつけると、なんと、コインを海に戻してしまいます。そして、「6秒以内で拾えたら、これはお前のものだ。」と言って、ジャックにコインを取りに行かせようとします。しかし、ジャックはこれを頑なに拒みます。エンゾは、早々と諦め、仲間と一緒にその場を去るのでした。

エンゾたちが去った後、これまでのやり取りをすぐそばでずっと見守っていた神父が、ジャックに声を掛けます。「あれは、コインではないかね?」ジャックは、すぐに「コインです。」と答え、「拾いますか?」と神父に尋ねます。神父は、「貧しい人のためにな。」と、ジャックにコインを取りに行く事を勧めます。ジャックは、すぐに海に潜り、コインを見つけますが、神父はその間にいなくなってしまいました。そして、ジャックは、ふと目が覚めます。コインの話は、現実ではなく、ジャックが見た夢だったのです。

グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン- Blu-ray
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ジャックは、父親(クロード・ベッソン)、そして、伯父のルイ(ジャン・ブイズ)と一緒に、1艘の小さな船に乗り込みます。同じ頃、海の近くの岩場では、エンゾが1人で釣りをしていました。ジャックの父親は、既に、ジャックの母親と離婚し、ダイバーとして働いていました。ジャックの母親は、離婚を機に、アメリカに帰国してしまったため、残されたジャックの父親は、ダイバーのように命の危険と隣り合わせの仕事をする事で、多額の生活費を稼がざるを得なくなってしまいました。ジャックは、船の上で海に潜る準備を進める父親を、心配そうな顔で見つめています。父親は、それを見て、「心配するな。海では人魚が助けてくれる。」と言って、ジャックを安心させ、海に潜っていきました。その後も、海に潜る父親を見守るジャックに、ルイは驚くような話を聞かせます。なんと、ルイは、以前に人魚を見た事があって、見た場所も覚えているというのです。しかし、ジャックは、大人の期待通りに、人魚を見た場所を尋ねてはくれず、ルイはがっかりしてしまいます。その代わり、ジャックが尋ねたのは、自身の両親が離婚した理由でした。

その最中、海に潜っていた父親にアクシデントが起こります。父親が吸っていた大事な空気が、突然、水中に漏れ、息ができなくなってしまったのです。父親は、ジャックの名を何度も呼び、助けを求めます。ジャックは、父親の声に気付き、自身も海に潜ろうとします。しかし、自分で酸素を取り込めない状態で海に潜るのはあまりにも危険なため、ルイに止められてしまいます。ジャックの声は、次第に涙の混じった金切り声に変わっていきます。しかし、ルイも、近くで異変に気付いたエンゾも、父親を助けに行く事は出来ませんでした。



1988年、イタリア・シチリア島。一人の青年が、助けを求めて、街を走り回っています。しばらくすると、一人の男性が助けに応じてくれる事になりました。この男性は、幼い頃に、ジャックからコインを横取りしたエンゾ(ジャン・レノ)でした。エンゾは、ロベルト(マルク・ドゥレ)を呼び、一緒に海の近くまで行きます。すると、突然、スーツ姿の男性が、2人の前に現れます。街を走り回っていた男性は、このスーツ姿の男性から頼まれて、助けてくれる人を探していたのです。スーツ姿の男性は、会社の命令で難破船の遺留品、特にモーターを回収していました。ダイバーを潜らせたところ、波で船が傾き、ダイバーは船の中に閉じ込められてしまったのです。エンゾは、スーツ姿の男性に対して、報酬として1万ドルを貰う約束をした上で、依頼を引き受けます。エンゾは、潜水服に着替え、早速海に潜ります。そして、船の中に入り、慎重に探し回ったところ、ダイバーを見つけ、無事に救出。約束通り、1万ドルを手にしたエンゾは、ロベルトに、1万ドルを使って、自身の少年時代の親友・ジャックを探すよう、命じるのでした。



南米・ペルー、アンデス山脈の海抜4,319メートルのところにあるラ・ラーヤ駅。アメリカ・ニューヨークに住む保険会社の調査員・ジョアナ(ロザンナ・アークエット)は、大きな荷物を抱え、この駅に降り立ちます。ジョアナは、この地にある氷原で発生した事故について調査をするため、この駅から少し離れたところにあるローレンス博士(ポール・シュナール)の研究所を訪れる事になっていたのです。駅の前では、ローレンス博士の助手と名乗る男性がジョナアを迎えに来ていました。ジョナアは、男性が運転する雪上車に乗り、研究所に向かいます。その後、一面の銀世界と化した目的地に到着したジョアナは、ようやくローレンス博士と対面します。

そして、ジョアナが窓の外にふと目をやると、潜水服姿の男性が、分厚い氷が解けかけた湖に潜ろうとしていました。男性は、少年時代に父親を海でのアクシデントで亡くしたジャック(ジャン・マルク・バール)でした。ジャックは、潜水中の人間の体の状態を研究しているローレンス博士にこうして協力しているのです。ジャックは、これから湖に落ちたトラックから研究機材を回収するところでした。しかも、信じ難い事に、ジャックは素潜りをしようとしています。ジョアナは、ローレンス博士がジャックを命の危険に晒しているような気がしてなりませんでしたが、ジャックは、酸素ボンベがなくても冷水に耐えられる、ごくまれな身体能力の持ち主である事から、心配は無用でした。

その後、ジョアナは、湖から上がったジャックの元に、淹れたてのホットコーヒーを持っていきます。ジャックは、全く疲れておらず、ジョアナの顔を見て、「イルカ顔だね。」と冗談を言える程でした。ジョアナは、ジャックの目力が気になってしまい、何も言い返せませんでした。翌朝、ジャックがジョアナの元を訪ねてきます。目的は、ジョアナにプレゼントを渡す事でした。そのプレゼントとは、イルカが乗ったスノードームでした。ジャックは、スノードームを手渡すと、すぐにその場を去っていきます。



フランス南部・コートダジュール。久々にフランスに帰国したジャックは、クラウン、ダージリンら、ジャックとの再会を心待ちにしている数頭のイルカが泳いでいる施設に向かいます。そして、イルカたちとの再会を果たすと、ペルーで買ったお土産を1つずつ渡していきます。お土産を渡し終えると、ジャックは、イルカたちが泳いでいるプールに飛び込み、一緒に泳ぎを楽しみます。その後、施設を離れたジャックは、自身のトレーニングのため、あるトレーニング施設に向かいます。ジャックは、潜水服を着て、酸素ボンベを身に付け、トレーニング用のプールに飛び込みます。

しばらくして、水中から顔を出すと、プールサイドにエンゾが立っていました。エンゾが会いにやってきた理由は、ただ1つ。10日後に控えたイタリア・シチリア島のタオルミナで開催される無呼吸潜水の選手権にジャックを招待する旨を、直接伝えるためでした。しかし、ジャックは弱気になっていました。以前から、エンゾが世界チャンピオンである事を知っているためです。しかし、エンゾは、ジャックに精神的に強くなってほしいと願っていました。タオルミナでの選手権で一緒に戦い、自身を負かす事でジャックに自信を付けてほしかったのです…。



ジャックの少年時代がモノクロ映像で、現代がカラー映像で構成されているこの映画で監督を務めたのは、「レオン」(1994年)、「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」(2011年)、「マラヴィータ」(2013年)等を手掛けた、リュック・ベッソン監督。ベッソン監督は、10代からダイビングに親しみ、イルカに魅せられたダイバーの物語を作るのが長年の夢だったそうで、その夢を叶えるべく、主人公・ジャックのモデルである伝説のダイバー、ジャック・マイヨールの協力を得て、物語を作り上げました。



この映画のオリジナル版は、1988年に本国フランス及び日本で公開されました。劇場公開された当時、フランスでは、ハイティーンから絶大な支持を集め、特に、パリでは、187週連続上映という大記録を打ち立てました。年数でいえば、劇場公開から4年弱ぐらいの間、ずっと映画館で上映されていた事になるでしょうか。日本ではとても考えられない社会現象です。因みに、今回ご紹介している「完全版~デジタル・レストア・バージョン~」が日本で公開されたのは、それから22年後の2010年の事でした。



ジャン・マルク・バール演じるジャックは、女性の心を掴む術はよく知りませんが、イルカの気持ちや、海に潜る時の喜びならよく知っているピュアな心の持ち主。ロザンナ・アークエット演じるジョアナが目力の虜になってしまったように、女性を惹きつける目力の強さが印象的です。口で何か知的な事を語るよりも、目力の強さの方が、男性としての魅力が断然伝わりやすいと思います。そのため、ほとんど地味な衣装ばかり着ているのも、あまり気になりません。逆に、派手な衣装ばかりを着ていて、ドスの利いた物言いが印象的なのは、ジャン・レノ演じるエンゾです。因みに、エンゾにも実在のモデルがいます。イタリア人ダイバーのエンゾ・マイオルカです。この映画でジャン・レノが演じたエンゾは、何となく近寄り難いけれど、ジャックを心から心配する一面があり、どこか憎めません。また、母親の愛情にめっぽう弱いのも、観ていて面白いです。また、ロザンナ・アークエット演じるジョアナは、至って庶民的なキャラクターです。面白い時は豪快に笑い、食べ物を食べる時は、背中を少し丸めて一度に大量に口に運びます。しかし、物語の後半では、男性の心にグッと来るような優しい一面も見せます。観ていて、非常に親近感が湧く女性です。



ここで、ジャックがずっと愛し続けたイルカについて少し触れたいと思います。この映画では、イルカが何度も登場しますが、その中でも、私が特に気に入っているのは、ジャックがコートダジュールで再会した、クラウン、ダージリンをはじめとするイルカたちです。ジャックからお土産を貰う時に見せる笑顔がとにかくカワイイですし、ジャックからの呼びかけに、まるで人間のように絶妙な間で返事をしていて、イルカの賢さを改めて感じましたし、ジャックと一体となって泳いでいる時も、思わず同じ体験をしたくなってしまいました。



この後、エンゾからイタリア・シチリア島タオルミナでの無呼吸潜水の選手権に招待されたジャックは、戦いに挑む決意をします。しかし、物語はまだまだ終わりません。上映時間は2時間48分にも及びます。選手権が終わった後も、ジャック、エンゾ、それぞれの向上心は止まるところを知りません。また、ペルーでジャックと知り合ったジョアナも、ニューヨークに帰った後、あのジャックの目力がどうしても頭から離れません。3人は、良い方向へ向かっているように見えますが、実は、…。続きが気になる方はぜひチェックを。

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ワン・フロム・ザ・ハート(1982年 アメリカ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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ある年の7月3日、アメリカ・ラスベガス。アメリカ独立記念日を翌日に控えたこの日、旅行代理店「パラダイス」の前を、一獲千金を夢見る大人たちが大勢行き交っています。「パラダイス」のショーウィンドーの中では、女性社員・フラニー(テリー・ガー)がそんな大人たちに目を向ける事なく、展示物の入れ替え作業に気持ちを集中させていました。その後、作業が終わり、ショーウィンドーの中でニューヨークの町並みが出来上がると、フラニーは、抱え切れないくらいの数の荷物を抱え、車で帰宅の途に就きます。自宅に到着したフラニーは車を降り、一度にすべての荷物を運ぼうとしますが、玄関の扉に着く前に、幾つか落としてしまい、それに気付かぬまま、中に入っていきます。すると、そこへ1台の車が通りかかります。車を運転していたのは、一人の若い男性でした。男性は、フラニーが落とした荷物が風に吹かれて転がっているのを目にし、車から降りて、ざっと拾い集め、フラニーの自宅に持っていきます。この男性の名は、ハンク(フレデリック・フォレスト)。実は、ハンクは、フラニーの恋人であり、なんと、ここでフラニーと一緒に暮らしているのです。翌日の7月4日は、5年前に2人が出会った記念日。2人は、記念日の前に、お互いにプレゼントを渡します。フラニーはタヒチ・ボラボラ島旅行の往復航空券を、ハンクは自分たちが住む自宅の譲渡証書を、それぞれ渡します。

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しかし、そんな幸せな時間も束の間、2人は口論を始めてしまいます。付き合い始めたばかりの頃は、お互いにお互いの事でときめいていたものですが、出会いから5年も経つと、それぞれ自分磨きを面倒臭がってしまい、やがて、付き合っている事に飽きてしまうのです。この年の初め、フラニーはハンクの親友・モー(ハリー・ディーン・スタントン)と、ハンクはモーの恋人・ジャンと、キスをしていました。フラニーは、その頃から「ハンクとの恋はもう終わった。」と考えていましたが、この口論をきっかけに、「今度こそ、この恋は終わりよ。」と破局を確信し、車に乗って、出て行ってしまいます。

ワン・フロム・ザ・ハート(エクスパンディッド・ヴァージョン) - ARRAY(0x11210730)
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フラニーが出て行った後、ハンクが最初に取った行動は、モーの自宅を訪ねる事でした。目的は、勿論、フラニーがモーとキスをしてしまった理由を知る事でした。モーは、「あくまで、新年の挨拶として、キスをしただけだ。」と釈明しますが、ハンクは、全く信じようとはしません。しかし、ハンクも、モーの恋人・ジャンを相手に、同じ事をしているため、人の事をどうこう言える立場ではありません。ハンクは、逆に、ジャンとキスをしたいきさつについてモーから尋ねられると、何も言えなくなり、帰ろうとしますが、すぐに引き返して、モーに謝罪したのでした。同じ頃、フラニーは、「パラダイス」の同僚で親友のマギー(レイニー・カザン)の元に身を寄せていました。



フラニーは、マギーの元に身を寄せて間もなく、「パラダイス」のショーウィンドーで、再び展示物の入れ替えをしていました。今度は、タヒチの青空と海が広がる景色を作っていました。その途中、フラニーは、「パラダイス」の前を通りかかったタキシード姿の男性・レイ(ラウル・ジュリア)に声を掛けられます。フラニーは、タヒチに1度も行った事がありませんが、レイは、何度か行った事がありました。また、レイは、ショーウィンドーで作業に打ち込むフラニーを以前からよく見かけていました。レイは、「パラダイス」の近くにある店でピアノを弾き、歌を歌う事もあると言います。レイは、フラニーを店に招待しようとしますが、この日、フラニーはマギーと一緒にショッピングに出掛ける約束をしていました。しかし、レイの猛アタックには勝てず、店の連絡先が書かれたマッチ箱を受け取ってしまいます。フラニーは、レイと一旦別れ、マギーと一緒にショッピングに出掛けます。レイと別れた瞬間、フラニーは、横に並んで歩いていたハンク、モーと偶然すれ違います。しかし、お互いにすれ違った事に、4人共、気付いていませんでした。



その後、街を歩いていたハンクとモーは、街角で写真撮影に臨んでいたサーカス団のダンサー・ライラ(ナスターシャ・キンスキー)に一目惚れします。ライラも、2人をじっと見つめていましたが、ライラが2人のうちのどちらに関心があるのかはよく分かりませんでした。しかし、その後、ライラは、仕事のやり方を巡って、自身の父親と口論になってしまいます。ハンクは、ライラと父親の口論には全く関心がなく、ライラの美貌にますます惚れるばかり。そして、ライラが一人になったタイミングを見計らって、ライラに声を掛けます。そして、喫煙者であるライラに「ライターの火を貸してほしい。」と求められると、快くライターに火を付けて、差し出します。さらに、ライラの体の美しさを褒めたたえると、ライラの口から「9時にフリーモント・ホテルで」との言葉が。ハンクは、迷わず首を縦に振るのでした。



レイと一旦別れたフラニーは、マギーと一緒に、「パラダイス」の近くにあるショッピングモールを訪れ、後でレイと会う時に着るドレスを選んでいました。一方、ハンクも、後で「フリーモント・ホテル」でライラに会う時に着るスーツを買うため、モーと一緒に、同じショッピングモールに来ていました。両者がこのショッピングモールでバッタリ会う事はありませんでしたが、フラニーが、身支度のために、ハンクが一人で暮らす自宅に戻った時は、ハンクが背後から声を掛けてきました。フラニーは、手早く身支度をしますが、ハンクは、フラニーがこれからどこへ出掛け、何をするのかが、気になって仕方がありませんでした。そして、ハンクは、自宅を離れようとするフラニーを背後から抱きしめますが、フラニーは、ハンクの腕を力いっぱい振りほどき、出て行くのでした。



一路、レイの待つ店に向かうフラニー。ところが、その道中、「葉巻に火を付けたい」と声を掛けてきた高齢の男性に、うっかりして、マッチ箱を渡してしまいます。フラニーは、店の名前も住所もよく覚えておらず、ただラスベガスの街を彷徨うしかありませんでした。一方、ハンクは、ライラと約束した通り、「フリーモント・ホテル」に来ているのかと思いきや、そうではなく、同じくラスベガスの街を彷徨っていました。その後、フラニーは、レストラン「トロピカル」の前までやって来ます。すっかりヘトヘトになっていたフラニーは、店の中に入っていき、店のオーナー(アレン・ガーフィールド)に、空いているテーブルに案内されます。フラニーが着席して、しばらくすると、レイが通り掛かります。レイは、できたての料理で両手がふさがっている状態で店内を歩き回っていました。実は、フラニーがずっと探していた店は、この「トロピカル」だったのです。レイは、ここでピアノを弾いたり、歌を歌ったりしているのですが、実は、それらをさせてもらえる機会はあまりなく、勤務時間のほとんどをウェイターの仕事に費やさなければなりませんでした。レイは、仕事の手を休め、フラニーの隣の席の客が注文した料理をフラニーのテーブルに置き、フラニーの席の向かい側に座って、なんと、デートを始めてしまいます。レイの身勝手な行動は、当然、すぐにオーナーに見つかってしまい、レイは、「トロピカル」を解雇されてしまいます…。



この後も物語は続きますが、物語の後半の必見ポイントは、歌とダンスです。この後、レイとフラニーは、「トロピカル」にある、誰もいないラウンジへ行き、2人っきりの時間を楽しみます。レイは、ここで初めてピアノの弾き語りをします。レイのピアノの弾き語りは、とても味わい深いものがあり、オーナーがレイを解雇した事を後悔するのではないかと思うくらいでした。次に、レイはフラニーと一緒にタンゴを踊りますが、最初に2人が動き出した瞬間から最後までずっと引き込まれてしまい、時間が凄く短く感じました。そして、タンゴを踊り終えた2人は、ラスベガスの街に出て、町中の若者たちを巻き込んで、ダイナミックに踊ります。観ていて、私の心の中でテンションがグングン上がるのを感じました。また、ハンクが「フリーモント・ホテル」で会う事になったライラも、艶かしい表情でハンクを誘惑するように歌ったり、美脚を存分に活かしてダンスをしたりと、大活躍します。物語の後半は、まさに見せ場の連続で、観ていて凄く楽しくなります。



監督は、「地獄の黙示録」(1979年)、「ランブルフィッシュ」(1983年)のフランシス・フォード・コッポラ。「ワン・フロム・ザ・ハート」は、コッポラ監督の映画の中では大変珍しい、物腰の柔らかいタイプの映画です。コッポラ監督の通常のイメージがしっかり染みついている映画ファンにとって、この映画は、かなり実験的な造りに見えるかもしれません。



当時、この映画は、最初から最後まで、コッポラ監督が所有していたスタジオ「ゾーイトロープ・スタジオ」で撮影されました。屋内での撮影は天候に左右される心配がないとは思いますが、普段、スタジオでの撮影とロケの両方が上手く組み合わさっている映画を観る事に慣れている私としては、スタジオの中で、「建物の外」という設定でセットが組まれ、撮影が行われた事に、何となく違和感を感じました。



違和感といえば、この映画はミュージカル映画であるにもかかわらず、ハンク役のフレデリック・フォレストも、フラニー役のテリー・ガーも、劇中ではほとんど歌っていません。実際に劇中に登場する曲のほとんどを歌っていたのは、シンガーソングライターのトム・ウェイツと、カントリー歌手のクリスタル・ゲイルです。ウェイツがハンクの心情を、ゲイルがフラニーの心情を、それぞれ歌っています。私は、プロの歌手が役の気持ちを代弁している事に、戸惑いを覚えました。何事も、プロの歌手に任せれば良しという訳ではないと思います。この映画は、大変残念な事に、興行的に大失敗し、コッポラ監督は、「ゾーイトロープ・スタジオ」の売却を余儀なくされたそうです。ひょっとしたら、劇場公開当時に映画館に足を運んだ人たちも、私と同じ事、或いは、私とは別の視点で何かを感じたのかもしれません。もし、ご興味があれば、ぜひご覧いただけたらと思います。

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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アルフィー(1966年 イギリス)


アルフィー (1966) [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2010-05-28

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イギリス・ロンドンのイースト・エンドにあるアパートで、整理整頓を全くせずに暮らすアルフィー(マイケル・ケイン)は、この日の夜も、そんな暮らしをしているとはとても思えないほど、スーツを見事に着こなし、「映画を観に行く」と夫に嘘をついてきたという若い人妻・シディ(ミリセント・マーティン)を助手席に乗せて、自身の愛車を運転していました。しばらくして、アルフィーは、誰もいない小道に愛車を停めると、窓ガラスが曇っているのをいい事に、恥ずかしがる彼女を押し倒します。シディは、アルフィーの強引さの虜になっていますが、アルフィーはというと、そこまでの感情を抱いていません。ただ、紳士のふりをして、シディの悩みに耳を傾けるのみ。アルフィーは、正真正銘のプレイボーイなのです。


アルフィー~ベスト・オブ・ヴァネッサ・ウィリアムス
マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
1996-12-09
ヴァネッサ・ウィリアムス

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アルフィーが次に訪ねたのは、こちらもアルフィーの虜になっている女性・ギルダ(ジュリア・フォスター)の住むアパート。アルフィーは、ギルダに「結婚の意志はない。」と伝えてあるのですが、ギルダは、そんなアルフィーの気持ちをよく理解していました。ギルダは、アパートの玄関の扉を叩く音が聞こえると、アルフィーが来てくれたと思い、扉を開けます。しかし、扉の向こうにいたのはアルフィーではなく、知人で、2階建てバスの車掌をしているハンフリー(グレアム・スターク)でした。ハンフリーは、この日、ちょうど仕事が終わったところで、寂しくてここに立ち寄ったのです。しかし、ギルダは、ハンフリーに構っている暇はありません。ハンフリーは、それを知ると、早々とギルダのアパートを後にします。すると、そこへアルフィーが到着します。アルフィーは、ハンフリーの姿を見逃しませんでした。なんと、自身がギルダのアパートに入った後、わざとギルダに対して嫉妬心を抱いてみせたのです。「ハンフリーと行き違った。デキてるのか?」と。普段、アルフィーは、このように、鋭い観察眼と巧みな話術で、数多くの女性たちを惹きつけているのです。そんなある日、ギルダは、アルフィーとの子どもを身籠っている事が分かります。それでも、アルフィーには結婚の意志がなく、ギルダはシングルマザーになる決意をします。やがて、ギルダは男の子を出産、男の子はマルコムと名付けられます。アルフィーは、「ギルダと深入りし過ぎてしまった」と反省するだけ。しかし、だからといって、ギルダと別れた訳ではありませんでした。



アルフィーは、シディ、ギルダの他にも、多くの女性と関係を持っていました。クリーニング店のマネージャー、フットケアサービスの治療医、ボディービルで留守がちな彼氏と付き合っているという女性と、次から次へと女性たちを惹きつけていました。しかし、ギルダとマルコムが住むアパートを訪ねる事を忘れてはいませんでした。ある日、ギルタとマルコムに会いに行ったアルフィー。アルフィーは、ずっと、ある事が気になっていました。ギルダは、妊娠中、マルコムを自分で育てるつもりがなく、大富豪の養子にしたがっていたのですが、実際に、マルコムが生まれてみると、マルコムの事が愛おしくなり、養子に出すのを嫌がるようになったのです。アルフィーは、ギルダの気持ちが変わってしまったのが許せませんでした。アルフィーは、ギルダの気持ちが元に戻るよう、言葉巧みにギルダを説得します。ギルダの経済力のなさを容赦なく責めたら、きっと大丈夫だと信じるアルフィー。しかし、アルフィーが立てた作戦は、ギルダの怒りを買ってしまいます。それでも、アルフィーは攻撃の手を緩めようとしませんでした。

結局、ギルダはマルコムを手放しませんでした。ギルダは、ビール工場で働き始め、働いている間は知人にマルコムを預けました。一方、アルフィーは、あれだけ言いたい放題言いながら、いつの間にか、父性に目覚めていました。週末になるとマルコムの良き遊び相手になったり、「自分の体は、自分一人だけのものではない。」と考えるようになって、ある日、健康診断を受けたりしました。そんなある日、ギルダは、仕事の休憩時間に、ハンフリーと会います。ハンフリーは、ギルダとの結婚をすでに決意しており、この日、ギルダに、亡き母の形見である結婚指輪を渡そうとします。しかし、ギルダは、ハンフリーとの結婚を躊躇していました。ハンフリーが、アルフィーの血を引くマルコムを心から愛してくれるかどうか、心配だったのです。

その日の夜、アパートでアイロンがけをしていたギルダは、マルコムを寝かしつけて、一休みしていたアルフィーに、「ハンフリーと今週2度、昼間に会ったの。」と告白します。アルフィーは、自分が気付かぬ間にギルダが別の男性と二人っきりになっていた事に、腹を立てます。そして、「話の内容を知りたくない。」と言ったかと思うと、急にハンフリーの狙いを知りたがります。ギルダは、ハンフリーが自分と結婚したいと考えている事、結婚するかどうかはアルフィーと相談してから決めようと考えている事を説明します。しかし、アルフィーは、なぜギルダが自分に相談する必要があるのか、不思議でした。しかし、ギルダは、週末だけとはいえ、アルフィーと家族のような関係を築いている以上は相談する必要があると考えていました。マルコムには、週末だけ会う実の父親ではなく、血の繋がりはなくても、毎日会える父親が必要だったのです。そのためには、愛してはいないが尊敬はしているハンフリーと結婚した方がいいのではないかと思ったのですが、なかなか、決断できずにいたのです。アルフィーは、怒りが収まらず、とにかく怒りに任せて、ギルダとハンフリーの結婚に賛成し、アパートを出て行ってしまいます。



ある日、アルフィーは、顧客であるパブの経営者一行と一緒に競馬場へ行く事になっていましたが、その前に呼吸器科のクリニックに立ち寄ります。健康診断でレントゲン写真を撮った際に、医師の診察の必要が生じたのです。診察の結果、アルフィーは、肺に影がある事が分かります。診察した医師(エレノア・ブロン)は、アルフィーに休養を勧めます。アルフィーは、「これから、競馬場へ行かなければならない。」と反抗しますが、医師はこれを一蹴します。因みに、この時、アルフィーの頭の中には、ギルダを愛する気持ちは微塵もありませんでした。というのも、ギルダから、ハンフリーとの結婚を報告する手紙が届いたからです。実は、アルフィーは、手紙を受け取った後、ギルダに会いに行っていました。ギルダは、アルフィーに会うのを拒みましたが、アルフィーの声に気付いたマルコムがアルフィーを呼び始めたため、仕方なく、マルコムをアルフィーに会わせたのです。しかし、ギルダは、アルフィーがマルコムに触れないよう、警戒していました。アルフィーは、ギルダの事をすっかり諦めているように見えますが、実は、全く違っていたのです。

最初は、医師からの入院の勧めに反抗していたアルフィーでしたが、結局、入院します。しかし、面会に訪れる人は全くいませんでした。ある日、看護師・カーラ(シャーリー・アン・フィールド)が、アルフィーの病室に入って来ます。カーラは、アルフィーの注射と称して、ベッドの周囲を衝立で囲むと、靴を脱ぎ始めます。実は、アルフィーは、入院後、カーラに惹かれ、見事に誘惑する事に成功していたのです。一方、アルフィーと同室の入院患者・ハリー(アルフィー・バス)は、妻・リリー(ヴィヴィアン・マーチャント)が、遅刻しがちではありましたが、週に1回、面会に来てくれていました。ハリーは、リリーが来るのが、いつも待ち遠しい様子でした。この日も、リリーは、少し遅刻してハリーに会いにやって来ます。2人の隣では、いつまでも衝立が立てられていて、2人は困惑するばかりでした。



翌月、アルフィーは退院します。入院生活は実に6か月に及びました。アルフィーは、迎えに来てくれた知人から、ロンドンの観光名所・タワーヒルで観光写真を撮影する仕事を紹介してもらいます。物欲しそうな女性がウヨウヨいるから、アルフィーにピッタリだというのです。実際に、アルフィーがこの仕事に就いてみると、なかなか簡単には写真を撮らせてもらえません。アルフィーが何となくカメラを構えると、夫と一緒にいた中年女性・ルビー(シェリー・ウィンタース)の姿が写っていました。夫は、写真に写るのを嫌がりますが、ルビーはまんざらでもない様子。アルフィーは、テムズ川の前でルビーに立ってもらい、彼女の服装を綺麗に整え、シャッターを切ります。その後、アルフィーは、ルビーに住所と電話番号を尋ね、ルビーはそれらが書かれたメモをそっと渡します。その後、アルフィーは、この仕事を辞めて、運転手の仕事に転職します。



ある日、アルフィーは、入院中であるハリーを見舞います。病院には、リリーの姿もありました。ハリーは、汽車で病院に来たというリリーに、「アルフィーに、車で家まで送ってもらったらどうか?」と提案します。リリーは、アルフィーに「申し訳ない。」と思いながらも、ハリーの提案を受け入れます。アルフィーは、リリーを車の助手席に乗せて、病院を後にします。道中、少々やつれた表情のリリーを見ていたアルフィーは、次第にリリーの美貌に惹かれていきます。気が付けば、2人は川に浮かぶボートに乗って、お互いに見つめ合っていました。そして、ボートを降りると、アルフィーはリリーと唇を重ねるのでした。



数日後、アルフィーは、仕事中に、20歳くらいとおぼしき少女・アニー(ジェーン・アッシャー)がヒッチハイクをしているのを見かけ、彼女の持つ初々しさに心を奪われます。アニーは、1台のトラックに乗せてもらい、アルフィーは後を追いかける事にします。やがて、トラックは道路沿いに建つ食堂に立ち寄ります。アルフィーも同じ食堂に立ち寄り、車から降りると、わざとトラックの荷台のひもを緩めます。そして、食堂の中に入ったアルフィーは、「トラックの荷台のひもが外れかけている。」と、トラックの運転手・フランク(シドニー・タフラー)に伝えます。すると、フランクは外へ様子を見に行き、その隙に、アルフィーは、アニーに近付きます。アニーが、ある事情で、何の当てもないロンドンで心機一転、人生をやり直そうとしているのを知ると、アルフィーは、なんと、アニーを自身のアパートまで連れて帰ってしまいます。アニーは、そのまま、アルフィーと同居する事になりました。アニーは、毎日、丁寧に床掃除をするような真面目な性格でした。ある日の晩、アルフィーは、そんなアニーの心の殻を破る目的で、彼女の処女を奪おうとします。しかし、彼女の脳裏に、別れた彼氏・トニーの事が浮かんでしまい、結局、失敗に終わってしまいます。アルフィーを拒んだアニーは、急に罪悪感に苛まれ、泣き出してしまいます。アルフィーは、アニーの姿に思わず胸が痛み、アニーにキスをするのでした。



次の日曜日、アルフィーは、一人である場所へ向かいます。そこでアルフィーを待っていたのは、アルフィーが写真撮影の仕事で出会ったルビーでした。アルフィーから見て、ルビーは、他の若い女性たちと違い、「愛してる?」と尋ねてこないので、心が安らぐ存在でした。アルフィーは、いつの間にか、若い女性と一緒にいる事に疲れてしまっていたのです。そんなある日、アルフィーは、1軒のパブで、見覚えのある男性と再会します。男性は、アニーをトラックの助手席に乗せていた、フランクでした。フランクは、アニーを口説いたアルフィーに憤りを覚えていました。フランクがアルフィーに殴りかかったのをきっかけに、パブの中は大乱闘に発展。アルフィーは、隙を見て、パブから脱出するのでした。

帰宅後、アルフィーは、顔に青あざができている事をアニーに指摘され、逆上します。さらに、着たい服が洗濯されたのにまだ乾いていない事に怒り、自身が買った肉でアニーがステーキパイを作った事に怒り、そして、怒りに任せて、アニーがつけている日記を本人に内緒で読んでいる事を告白してしまいます。アニーは、勝手に禁断の園に踏み入ったアルフィーに対して激しい憤りを覚え、荷物をまとめて、出て行きます。アルフィーは、すぐに我に帰り、アニーを探しに行きますが、アニーを見つける事は出来ませんでした。



翌日、アルフィーの元をリリーが訪ねてきます。実は、この時、リリーは、アルフィーの子どもを身籠っていました。勿論、ハリーはこの事実を知らず、リリーは、ハリーにバレてしまう前に中絶しなければなりませんでした。しかし、イギリスでは、妊娠28日目以降に中絶の手術を受けると、懲役7年の刑に処せられます。リリーが刑を逃れるには、病院に頼らない方法を選択せざるを得ませんでした…。



マイケル・ケイン演じる主人公・アルフィーの、何ともだらしがないプレイボーイ像、そして、最初から最後まで非常にテンポ良く話す狂言回しとしての仕事ぶりが印象的なこの映画は、ビル・ノートン原作の舞台劇が映画化されたものです。1966年に、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞、歌曲賞にノミネートされています。メガホンを取ったのは、ルイス・ギルバート。007シリーズのうち、「007は二度死ぬ」(1967年)、「私を愛したスパイ」(1977年)、「ムーンレイカー」(1979年)と、計3作で監督を務めています。音楽を手掛けたのは、ジャズ・サックス奏者のソニー・ロリンズ。とんでもないプレイボーイの物語を、上品な大人の雰囲気にしています。また、2004年には、アメリカ・ニューヨークを舞台にした、ジュード・ロウ主演のリメイク版が制作されました。



主人公・アルフィーは、ありとあらゆる女性を口説き、肉体関係を結ぶ場合がほとんど。こんなにも多くの女性を口説き続けて、アルフィーは、最後にどうなりたいのか、私は観ていて、全く分かりませんでした。しかし、アルフィーがアニーと別れてしまったあたりから、アルフィーの人生は、音を立てて崩れていきます。アニーとの別れ、リリーの望まぬ妊娠、息子・マルコムとの再会、ルビーによるまさかの行動と、アルフィーがしてきた事の重大さが、ひしひしと伝わってきます。これらの展開を経て、アルフィーはどうなっていくのでしょうか。



最後に、エンドロールについて触れたいと思います。エンドロールには、アルフィーら登場人物のモノクロ写真が登場します。水色一色のレタリング(文字の形や色のアレンジの事)との相性がとても良く、本当にカッコいいです。エンドロールで使われている曲は、バート・バカラックが作曲し、シェールが歌ったテーマ曲「アルフィー」です。私は、1996年に日本のテレビドラマのテーマ曲として使われた、ヴァネッサ・ウィリアムスによるカヴァーしか知らなかったので、シェールによるものを聴くのは、今回が初めてでした。シェールの歌声は、ヴァネッサ・ウィリアムスに負けず劣らず大人っぽい雰囲気で、大人への階段をまた1歩上がった気にさせてくれます。ご興味のある方は、ぜひ両者の聴き比べをしてみてはいかがでしょうか。


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