バチカンで逢いましょう(2012年 ドイツ)

バチカンで逢いましょう [DVD]
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カナダ・オンタリオ州。夫・ロイズルに先立たれたマルガレーテ(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は、ドイツ・バイエルン州から移り住んで以来、40年もの長い年月をロイズルと共に過ごしてきた家を離れる事になりました。娘のマリー(アネット・フィラー)が、「ママには、一人暮らしは無理。」と心配し、ロイズルとマルガレーテの思い出がたくさん詰まったこの大切な家を、あくまで親切のつもりで売り、自分たち一家が住むカナダ・ユーコン準州ホワイトホースの家に、マルガレーテを呼び寄せる事にしたのです。マルガレーテは、オンタリオ州で過ごす最後の日となったこの日、一人で山に登り、ロイズルに別れを告げました。マルガレーテは、マリー一家の家への引っ越しが終わったら、マリーたちと一緒にイタリア・ローマを旅行する事になっていました。その最大の目的は、マルガレーテが、バチカンでローマ法王・ベネディクト16世(トーマス・カイラウ)に謁見する事でした。マルガレーテがローマ法王に謁見すれば、マルガレーテは、長年背負ってきた心の重荷から解放されるのです。

翌日、マリーが、夫のジョー(ポール・バーレット)、2人の息子たち、そして、運送会社のドライバーと一緒に、マルガレーテを迎えにやって来ました。慈善団体に寄付する事になっていた荷物が次々にトラックに運び込まれていく間、マルガレーテは、庭で最後の水やりをし、マリーの息子たちは、トラックの幌の上に乗って遊び、マリーに叱られていました。やがて、荷物の運び出しが完了し、一行はいよいよホワイトホースへ向けて出発します。

しかし、一行がホワイトホースへ向かう途中、マリーの口から、あるとんでもない提案が飛び出します。なんと、マルガレーテが、老人ホームとは違うハイテク機能満載の「シニアの家」への入居をマリーから勧められたのです。もともと、マリー一家が住んでいる家はとても狭く、マリーは、新たに家族を受け入れる余裕がありませんでした。しかし、「ママに安全に暮らしてほしい」一心で、最初から強引に「シニアの家」に連れて行くと、きっと抵抗されてしまいます。そのため、マリーは、マルガレーテを刺激する事なく、マルガレーテに「シニアの家」に移ってもらえるよう、家の売却、「シニアの家」の手付金の支払い、引越しと、マリーなりに根回しをしてきたのです。マリーは、キャンセル待ちが多いこの施設に運良く入居できるチャンスが巡ってきた事、死亡者がまだ一人も出ていない部屋で過ごせる事、すでに手付金を支払っているので、すぐにでも入居できる事を、マルガレーテに喜んでほしいと思っていました。ジョーも、「新しい人生を楽しめますよ。」とマリーの援護射撃をします。マルガレーテは、マリー一家との同居が決まった時、マリーから「最初のうちは、一緒に暮らせるわ。」と聞かされていましたが、なぜ、マリーが「最初のうちは」と強調していたのか、この日になって、その理由がようやく分かったのです。

バチカンで逢いましょう [Blu-ray]
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その後、一行は、ホワイトホースにあるマリー一家の家に到着しました。マルガレーテは、与えられた自室でキリスト教の祭壇を作り、リビングルームへ向かいます。そこには、マリー一家の他に、息子のラインホルトが、恋人のシャンタルと一緒に来ていました。マルガレーテは、ラインホルトの恋人が、いつの間にか、ブレンダからシャンタルに変わっていた事に驚きの声を上げます。マリーは、その場の空気を察し、「そんな事を言ってはいけない」と、遠くから慌ててマルガレーテにサインを出します。しかし、時既に遅し。シャンタルは、ラインホルトが、自身と出会う前に別の女性と交際していた事実を知り、ラインホルトに詰め寄ります。しかし、2人はすぐに軌道修正します。ラインホルトは、既にシャンタルにプロポーズし、承諾をもらっている事をマルガレーテに打ち明けると、マルガレーテは、素直に祝福します。しかし、当の本人たちは、マルガレーテからの祝福よりもキスの方に夢中になっていました。

それにしても、なぜ、ラインホルトがシャンタルと一緒にこの場所に来ていたのでしょうか?実は、随分急な話ではありますが、2人は、間もなくここで、結婚式を挙げる事になっていました。マリーは、申し訳なさそうな表情で、マルガレーテに説明をし始めます。実は、マリーは、皆の予定が合わなくなって、ローマへの旅行を取り止めていたのです。ジョーは仕事で忙しく、2人の息子たちは旅行を理由に学校を休む訳にはいかず、それに、マルガレーテの誕生日にローマで予定していたラインホルトたちの結婚式も、旅行を取り止めてしまったがために、今からこの家で挙げなければなりません。マルガレーテは、かねてからの夢を奪われ、ショックを受けます。マリーは、マルガレーテの誕生日に渡す事にしていたプレゼントを一足早く渡して、マルガレーテの機嫌を取ろうとします。それは、ローマ法王からの祝福のメッセージが書かれた手紙でした。しかし、それは、マリーが便利なインターネットのサービス「バチカン・ドットコム」で手早く手に入れたもので、とても真心のこもったものではありませんでした。マルガレーテは、法王に直接会いたいと願いますが、マリーは、「それは、また今度の機会に」と、会話を一方的に打ち切るのでした。

バチカンで逢いましょう(字幕版)
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翌朝、マリーたちの家に、マルガレーテの姿はありませんでした。「ローマへ行くわ。1週間で戻る。」マルガレーテは、置手紙を残し、たった1人でローマへ旅立ってしまったのです。最初に置手紙に気付いたのは、ジョーでした。ジョーは、すぐにマリーにその旨を知らせます。マリーは、慌てて、マルガレーテの部屋へ向かいますが、やはり姿はありませんでした。マルガレーテの飛行機のチケットは、マリーの2人の息子のうちの1人が、購入していました。支払いは、マリーのクレジットカードで済ませたといいます。息子たちは、なぜマリーが動揺しているのかが理解できません。マリーが家を購入した際、マルガレーテに金銭的な援助をしてもらっていたのを、息子たちはよく覚えているからです。それに、彼らは、「おばあちゃんは一人の立派な大人だから、一人で遠くへ旅行に行けるよ。」と、マルガレーテを信頼している様子。マリーは、「おばあちゃんは、大人じゃない。お年寄りなの。何にも分からないのよ。鳥の巣から出された、か弱いヒナみたいなものなのよ。」と、自身の母親を極端にお年寄り扱いします。ジョーや息子たちは、マリーが実の母親をヒナのようなか弱い生き物に例えるさまに、クスクスと笑います。マリーは、「笑い事じゃないわ。」と、憤るのでした。

一方、マルガレーテは、空港のトイレにいました。飛行機への搭乗を間近に控え、心臓の鼓動がいつもよりずっと大きくなっていました。マルガレーテは、心臓のあたりに右手を当て、気分を落ち着かせていました。そして、次第に気分が落ち着いてくると、いよいよ飛行機に搭乗し、一路、ローマへ向かいます。その頃、マリーは、携帯電話で電話を掛けながら車を運転していました。電話の相手は、マリーの娘・マルティナ(ミリアム・シュタイン)。マルティナは、ローマの厳格なカトリックの家庭で、子守として働いていました。しかし、マルティナはなかなか電話に出ません。なぜなら、恋人・シルヴィオ(ラズ・デガン)と2人きりでシャワーを浴びていたからです。そんな事など知る由もないマリーは、大至急、自身に連絡するよう伝言を残します。マルガレーテが迷子になったのではないか、或いは、お金を取られたのではないかと心配しているので、マルティナに無事を知らせてほしいのです。一方、マルガレーテは、無事にローマに到着し、市内をタクシーで移動していました。その表情は、とても晴れやかでした。マルガレーテは、タクシーの車内で法王の写真を見つけると、運転手に一言断ってから、写真を好きなだけもらいます。



こうして、マルガレーテは、これから滞在先となるマルティナのアパートに到着します。マルガレーテは、傾斜が急な階段をひたすら登り、マルティナの部屋の前にやって来ます。マルガレーテは、早速、ドアベルを鳴らします。しかし、玄関の扉を開けたのは、シルヴィオでした。シルヴィオは、マルガレーテに自分たちの邪魔をされたくなくて、一方的にドアを閉めます。ドアが閉まった後、マルティナはドアの外に誰がいるのかが知りたくて、ドアについている小さな窓をそっと覗き込みます。そこにいたのは、厳格なカトリック教徒であるマルガレーテでした。マルティナは、突然、頭の中が真っ白になります。今、マルティナの部屋の壁には、シルヴィオの趣味で、裸の女性のイラストがびっしりと描かれてあって、床も随分散らかっています。とても、マルガレーテに見せられない状態です。マルティナは、マルガレーテをがっかりさせないようにするため、ドアの外でマルガレーテに会います。そして、「お腹、空いていない?近くのレストランなんかどう?」とマルガレーテを食事に誘います。しかし、10時間もの長旅で疲れてしまったマルガレーテには、近くのレストランへ行く気力が残っていません。マルガレーテは、どうしても部屋の中で休ませてほしくて、強引にマルティナの部屋の中に入ります。そして、脇目も振らずに、奥の方にあるベッドルームへ向かい、ベッドの上に倒れ込んで、眠りにつくのでした。

その日の夜、マルガレーテは、冷蔵庫の中のものを物色していました。マルガレーテは、「空よりは、マシね。」と、1本の小さなペットボトルを持ち出します。この時、部屋では、電話のベルが鳴っていましたが、マルガレーテは電話に出ませんでした。また、マルティナは、仕事で外出中でした。実は、マルティナは、既に子守の仕事を辞めていました。仕事先のあまりの厳格な空気に耐えられなくなったのです。今、マルティナは、1軒の小さなライブバーでバーテンダーとして働いています。そのライブバーのステージに立つロックバンドのボーカルが、シルヴィオだったのです。その頃、マルガレーテは、部屋の中を探検していました。部屋中の壁という壁が白い布で覆われていたのが何となく気になったマルガレーテは、そのうちの1枚をそっとめくります。そこには、カトリック教徒が決して目にしてはいけないものが描かれていました。マルガレーテは、探検が終わると、今度は、部屋の掃除を始めます。掃除機の電源を入れ、無心に部屋の埃を取り除きます。そして、壁中に、法王の写真を貼っていくのでした。その後、マルガレーテは、マルティナの帰りを何時間も待ちました。しかし、マルティナは、いつまで経っても帰って来ません。マルティナは、結局、翌朝の6時に帰って来ました。マルティナの隣には、シルヴィオもいました。マルティナの事をずっと心配していたマルガレーテは、「一体、どこに行っていたの?」と、ただただ、その不安な気持ちをぶつけるのでした。



その後、マルガレーテは、マルティナと一緒に、近くのカフェで朝食を摂ります。マルティナは、ここで初めて、子守からバーテンダーに転身した事、バーテンダーに転身した後にシルヴィオと出会い、シルヴィオの部屋で同棲を始めた事を打ち明けます。そう、マルガレーテが滞在しているのは、シルヴィオとマルティナが同棲生活を送っている部屋なのです。マルガレーテは、シルヴィオはいつもベッドで寝ているのに、なぜ、マルティナはクローゼットの片隅で寝ているのかが分からず、マルティナの事を「かわいそうだ」と嘆きます。そうこうしているうちに、マルガレーテがバチカンへ向かう時間が訪れます。「会いに行くの、法皇さまに。これでやっと、ロイズルと仲直りができる。」マルガレーテは、胸をワクワクさせながら、カフェを後にします。

マルガレーテは、バチカンへ行くバスに乗り込みます。車内には、同じくバチカンに向かう途中の修道女が数多く乗っていました。マルガレーテは、修道女たちとの会話を心から楽しみました。そうこうしているうちに、バスは目的地に辿り着きます。マルガレーテがローマ法王庁の建物の中に入ると、自身と同じように法王からの祝福を望む人々の行列が長く続いていました。マルガレーテも列に並び、静かに順番を待ちました。そして、自身の順番がもう少しで来るという時になって、白杖をついていた視覚障がい者の男性・ロレンツォ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が、列の途中にある階段でつまづいてしまいます。マルガレーテは、ロレンツォの元に駆け寄り、なんと、自分の順番をロレンツォに譲ります。マルガレーテのすぐ後ろでずっと並んでいた若い父親は、まさかの展開に驚き、マルガレーテの順番が先なのか、それとも、ロレンツォの順番が先なのかがよく分からず、マルガレーテに怒りをぶつけます。マルガレーテは、そんな若い父親に、「恥を知りなさい。」と一喝し、最後列に並び直すのでした。

ところが、マルガレーテは、法王に会う事ができませんでした。カナダでマリーから贈られた法王からの手紙は、あくまで集団で謁見するためのもので、マルガレーテが長い列に並んでいたのは、政治家、教会の指導者、そして、いわゆるスーパースターと呼ばれる人たちに限られている個別謁見だったのです。しかし、だからと言って、マルガレーテががっかりする事はありません。毎週日曜日には法王が窓辺に立ちますし、毎週水曜日には一般向けの謁見もあります。マルガレーテは、次の水曜日に出直す事にしました。



バチカンを出て、ローマに戻ってきたマルガレーテは、ローマ法王庁で教えてもらったバイエルン料理の専門店「リセロッタ」で空腹を満たす事にします。道中、マルガレーテのすぐ横を、1台のベスパがかなりのスピードで通り過ぎていきます。そして、ベスパを運転していた男性は、その先に止めてあった乗用車の運転手とちょっとした言い合いになります。マルガレーテは、ベスパに乗っていた男性の顔に見覚えがありました。男性は、ローマ法王庁で順番を譲った、あのロレンツォでした。マルガレーテは、ロレンツォに声を掛けようとします。しかし、ロレンツォに近付いた瞬間、ロレンツォは前を向いて、どこかへ行ってしまいました。



やがて、マルガレーテは、「リセロッタ」に到着します。しかし、そこは、客が一人もおらず、バイエルン料理の知識に乏しい店主・ディノ(ジョバンニ・エスポジート)しかいません。しかも、注文した料理は、どれも焦げていて、とても食べられたものではありません。マルガレーテは、居ても立っても居られず、自ら厨房に入り、自ら注文した料理を自らの手で作り始めます。最初は、あまりの勝手な行動に怒り心頭だったディノでしたが、マルガレーテがローマに来て以来、ずっと馬鹿にされっ放しである事を聞かされた上に、「(焦げた料理を出して)私を毒殺するつもりなの?」と脅されると、何も言えなくなってしまいます。こうして、マルガレーテは、慣れた手つきで料理を作っていくのでした。その後、食事を終え、「リセロッタ」を出たマルガレーテは、ロレンツォが乗っていたベスパを偶然見つけ、タイヤの前輪を足で蹴ります。ロレンツォは、すぐそばでベスパの方を向いて立ち、その様子をしっかりと目に焼き付けていました。そう、実は、ロレンツォは健常者。視覚に障がいがあるというのは、真っ赤な嘘だったのです。



その後、ロレンツォは、「リセロッタ」の勝手口から厨房に入り、ディノに「何か食わせてくれ」と頼むと、ディノが持っていた、料理の残りが乗った皿をやや強引に奪い、それを食べ始めます。マルガレーテがディノの料理のまずさに耐え切れずに作ったものとは知らずに。ロレンツォは、ディノにこう尋ねます。「それで、店はいつ売るんだ?」ディノは、この店を売る気は全くありませんでした。幼い頃からずっと、ドイツ生まれの母親・リセロッタからこの店を継ぐよう言われ続け、大人になってから実際に継いだので、リセロッタの店に対する思いの深さを考えると、そんな気にはなれないのです。しかし、ロレンツォは、早くディノが店を売ってくれなければ、自身はおしまいだといいます。一体、ロレンツォは、何をどう困っているのでしょうか…。



この映画でメガホンを取ったのは、トミー・ヴィガント監督。代表作に、「飛ぶ教室」(2003年)があります。有名な少年合唱団を持つドイツのとある学校の寄宿舎を舞台に、過去に幾つもの寄宿舎で脱走を繰り返してきた少年が、優しい先生や寄宿生たちに恵まれるものの、やがて寄宿生と通学生との間に起こる抗争に巻き込まれていく映画です。



この映画の主人公・マルガレーテを演じたのは、マリアンネ・ゼーゲブレヒト。「バグダッド・カフェ」(1987年)で、アメリカ西部の砂漠を夫と共に訪れるドイツ人旅行者・ヤスミンを演じました。今回、ゼーゲブレヒトが演じたのは、「1に法皇さま、2に法皇さま、3に法皇さま。」といった感じの、敬虔なカトリック教徒。生真面目のさらに上を行くように見える女性ですが、物語の後半では、次第にお茶目な行動を取るシーンが増え、チャーミングの度合いが増したり、本性が見えるようになったりします。



この後、マルガレーテは、ひょんなことから、ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるロレンツォと不思議な間柄になります。そのきっかけとなるシーンでの、ジャンニーニの台詞回しは、絶品です。このシーンの時点で、観る者は、ロレンツォが詐欺師だと分かってはいるのですが、あまりにも弁が立つさまに、「お見事!」と言うしかありません。スーツの見事な着こなしやマルガレーテへの紳士的な接し方は、ちょいワル親父の正統派と呼べるものがありますが、それ以上に、台詞回しがとにかく凄かったです。さらに、「皆の予定が合わないから」と、ローマへ行く旅行を中止した張本人であるマリーも、いよいよ、ローマに乗り込みます。しかも、このシーンで、マリーが旅行を中止にした本当の理由が明らかになります。ヒントは、このシーンのジョーの台詞ですよ。そして、そして、マルガレーテがローマ法王、しかも、ベネディクト16世との謁見を望む本当の理由も、物語の終盤で明らかになります。なぜ、他の誰でもない、ベネディクト16世でなければならないのでしょうか。答えは、ぜひDVDで。

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