セールスマン(2016年 イラン・フランス)

セールスマン [DVD] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ
セールスマン [DVD] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ

イランの首都・テヘラン。「皆、逃げて!」、「早く外に逃げて!」1棟のアパートに住む女性が、住民たちを外に逃がそうとしています。アパート自体が、今にも壊れようとしているのです。女性の声を聞いた住民たちは、慌てて部屋から飛び出し、廊下では幼い子どもが泣いています。住民の一人・エマッド(シャハブ・ホセイニ)も、避難するよう、住民の男性から言われ、妻・ラナ(タラネ・アリドュスティ)を呼びます。ラナが慌てて玄関までやってくると、エマッドは、ラナと共に、大急ぎでアパートの外へ避難しようとします。しかし、エマッドは、アパートの階段を降りる途中で、「息子を運びたいの。」と、訴える住民の女性の声に気付いて、立ち止まり、手伝いをしに行きます。エマッドは、女性に「今、行くから。」と、手伝いをする約束をし、ラナに一人で避難するよう、伝えます。その後、エマッドは、女性の部屋に着くと、女性の息子で、寝たきりの状態にあるホセインを背負い、アパートの外に向かいます。外では、1機のショベルカーが土を掘っていました。

セールスマン [Blu-ray] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ
セールスマン [Blu-ray] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ

翌日、アパートの住民たちは落ち着きを取り戻していました。アパートからは、ガスの臭いがかすかにしていて、ラナは、「瓦礫の下に埋もれたかと思ったわ。」と、昨夜の出来事に憤りを抱いていました。ラナは、昨夜、アパートが壊れそうになった原因があのショベルカーである事を知っていました。一方、エマッドは、昨夜、避難している間に、自身のクレジットカードが何者かに盗まれていました。

セールスマン(字幕版) - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ, アスガー・ファルハディ, アレクサンドル・マレ=ギイ
セールスマン(字幕版) - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ, アスガー・ファルハディ, アレクサンドル・マレ=ギイ

エマッドは、学校で文学教師として働いていました。しかし、エマッドが一生懸命準備して行う授業は、生徒たちの心にあまり響いていませんでした。授業で、エマッドがリアリティーのある小説を紹介しても、生徒たちは、「人が牛になる事のどこにリアリティーが?」、「人はどうやって牛になるの?」と、人が牛になる事を非現実的にしか捉えなれないのです。エマッドは、「映画が見たいな」と、希望を口にする生徒に対し、「次回、(映画を)見せよう。」と、応じます。また、エマッドは、自身が文学教師の仕事の他に舞台演劇にも取り組んでいる事を知っている生徒から、次の公演の事を尋ねられます。エマッドは、アーサー・ミラーの小説が原作の舞台「セールスマンの死」の公演に、生徒たちを招待する事を約束します。すると、生徒たちは、ようやく笑顔を見せるのでした。

アーサー・ミラーⅠ セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫) - アーサー ミラー, 倉橋 健
アーサー・ミラーⅠ セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫) - アーサー ミラー, 倉橋 健

放課後、エマッドは、舞台の稽古に参加します。次の公演でセールスマンのウィリーを演じるエマッドは、淡々とした様子で役を演じます。因みに、この公演には、ラナも、リンダ役で出演する事になっていました。その後、稽古は順調に進んでいましたが、途中で、セールスマンの隣に住む娼婦ミス・フランシス役のサナム(ミナ・サダティ)の演技に対して、セールスマンの息子・ビフ役のシヤワシュ(メーディ・クシュキ)が思わず笑ってしまった事から、稽古場の雰囲気がぎくしゃくしてしまいます。シヤワシュは、サナムに謝罪しようとしますが、サナムは、稽古場まで連れてきた幼い息子・サドラ(サム・ワリプール)の手を引いて、帰ってしまいます。サナムが帰った後、シヤワシュは、笑ってしまった原因を周囲に打ち明けます。サナムは、「裸では外に出られない。」という台詞を言っていたのですが、きちんとコートを着た状態で言っていたので、台詞に説得力がなくて、つい笑ってしまったのです。シヤワシュは、スタッフたちからの忠告に従い、サナムを連れ戻しに行きます。



ある日、エマッドとラナは、あの壊れそうなアパートから引っ越したいと考え、3週間前に空家になったばかりだというアパートの一室を見学します。そこには、前の住民の荷物がまだ片付けられておらず、ラナが電気のスイッチを入れると、いきなり火花が飛び散りました。2人を案内したババク(ババク・カリミ)曰く、もうすぐこの部屋に引っ越す事ができるとの事で、2人の心はこの時点で決まりました。アパートの見学を終え、ババクと共に、地下の駐車場に降りた2人は、たまたま駐車場にいたシャフナザリを、ババクに紹介されます。シャフナザリは、2人が見学した部屋の隣に住んでいました。ババクは、シャフナザリを「最高の隣人だ。」と、称賛します。一方、シャフナザリは、2人の事を心配していました。実は、シャフナザリは、これまで、前の住民にあらゆる事で悩まされてきたのです。



後日、エマッドとラナは、見学した部屋に引っ越しました。しかし、2人には困った問題がありました。前の住民が未だに荷物を取りに来ないのです。ババクは、何度も電話を掛けますが、なかなか出てくれません。そこで、ラナは、自身の携帯電話で電話を掛ける事を申し出ます。一旦外に出て、携帯電話を手に取り、前の住民に電話を掛けるラナ。すると、その途中で、ババクが近付いてきて、「自分に代われ」と、ジェスチャーをしてきたため、ラナはババクに携帯電話を渡そうとします。すると、前の住民は、電話の向こうにババクがいるのを感じ、「(ババクに)理由は話した。」と、ラナに言って、電話を切ってしまいます。ババクは、現状を打破すべく、前の住民の荷物を廊下に出す事を決めます。荷物は、ソファー、大量の衣服、大量の靴と、とにかく作業に相当時間がかかりそうなくらいに多かったため、アパートの住民たちで協力し合って、廊下に運び出したのでした。



数日後、舞台「セールスマンの死」が上演されます。開演前、楽屋で衣装に着替え、髪をセットしていたエマッドは、前の住民の事が頭から離れないでいました。実は、前の住民が「荷物に触れたら、訴える。」と、エマッドを脅していたのです。そんなエマッドに、さらに悪い知らせが届きます。上演後に、検閲官が、「舞台の内容について、まだ問題が3か所もある」との理由で、劇場を訪ねてくるというのです。もし、エマッドが検閲官を説得できなければ、公演が中止に追い込まれてしまいます。エマッドの不安は尽きそうにありませんでした。一方、留守番をしていたラナは、掃除をしていました。その途中、ラナは、エマッドに電話を掛け、お使いを頼みます。そして、電話を切り、シャワーを浴びる準備に入ろうとすると、玄関のベルが鳴ります。ラナが洗面所の水道の蛇口を開けたまま、玄関の扉を開くと…。



その頃、「セールスマンの死」の公演を終えたエマッドは、スーパーに立ち寄り、お使いを済ませます。そして、アパートに辿り着き、扉の鍵を開けようとしますが、なぜか鍵が開きません。エマッドは、自室の真下に住む人に連絡し、鍵を開けてくれるよう、頼みます。そして、部屋に続く階段を上る途中で足元をよく見ると、そこには血液が付着した跡が、どこまでも続いていました。なんと、あまりにも信じ難い事に、血液の跡は、自室のシャワールームまで続いていました。そこにラナの姿はなく、既に病院に搬送されていました。



エマッドは、ラナが搬送された病院を訪れます。そして、ラナが治療を受けている部屋を見つけ、中に入ると、ラナは頭から出血した状態で仰向けになって眠っていました。エマッドの姿を見つけた看護師は、ラナの治療が終わるまで、部屋の外に待ってほしいと伝えます。病院の待合室には、シャフナザリと妻(エテラム・ブルマンド)の姿がありました。シャフナザリら曰く、詳細は分からないのですが、悲鳴が聞こえたとの事。妻は、シャフナザリに様子を見に行ってほしいと頼みましたが、シャフナザリは、エマッドとラナが夫婦喧嘩をしているのだろうと思い込んでいました。しかし、その後、誰かが慌てて階段を降りる音がして、事の重大さに気付いたといいます。エマッドは、犯人が誰なのかをシャフナザリらに尋ねますが、残念ながら、犯人の姿を見ていませんでした。



また、病院の待合室には、同じアパートの住民が他にも何人か駆けつけていました。「犯人が足を切ったらしい。」と、証言する初老の男性もいれば、ラナがシャワールームで倒れているのを発見し、ラナに服を着せて病院へ連れていってくれた若い女性もいました。さらに、犯人が足を切った事を証言した男性が、ある重大な証言をします。「もし、泥棒であれば、シャワールームに向かうのはおかしい。(荷物を取りに来ようとしない)前の住民は、ふしだらな商売をしていた。」と。つまり、犯人は、エマッドとラナが入居したのを知らずに、前の住民に会いに来て、シャワールームにいたラナを、前の住民と勘違いしたまま、暴力を振るったというのです。



幸い、ラナは、命に別状はなく、エマッドやアパートの住民たちに付き添われて、無事に帰宅します。エマッドは、警察やアパートの住民たちに協力してもらいながら、犯人を見つけ、罪を償わせたいと考えていました。しかし、ラナは、一人でいる事が怖くなり、夜に眠る事も怖くなったにも関わらず、事件を表沙汰にしたくなくて、シャワールームに付着している血液を洗い流してしまいます。これを機に、エマッドとラナの間には亀裂が入り、やがて、それが深くなっていくのです…。



第89回アカデミー賞外国語映画賞(現・国際長編映画賞)、第69回カンヌ国際映画祭脚本賞及び主演男優賞と、輝かしい受賞歴を持つこの映画は、アスガー・ファルハディ監督がメガホンを取りました。他の監督作品に、「彼女が消えた浜辺」(2009年)、「別離」(2010年)、「ある過去の行方」(2013年)等があります。ファルハディ監督は、「別離」でも、アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。



私は、映画全体の雰囲気が物静かだった事が、特に印象に残っています。キャストの台詞回しや雑踏にまぎれた人々の声、車のエンジン音が私の耳に強く響き続け、私はとても良い緊張感を保つ事ができたように思います。華やかな映画音楽、精巧なCG、大迫力のアクション等で映画の醍醐味を味わうのは、もちろん良い事なのですが、この映画のように、緊張感が漂う、物静かな雰囲気の映画に見入るのもまた、良い事だと思います。



ラナが受けた被害は、精神的なダメージがあまりにも大きいのですが、そんな彼女を支えるアパートの住民たちの温かさには、観ていて胸を打たれました。しかし、ラナの夫・エマッドは、犯人に対する苛立ちをどうしても抑えられず、たった一人で犯人を探し始めます。その過程は、誰がどう見てもやり過ぎな感じが否めません。そして、エマッドは、遂に犯人を見つけ、容赦なく尋問を進めるのですが、その手法は、犯人の切実な事情をまるで無視したものでした。犯罪被害者の理性の保ち方について、考えさせられる映画でした。

セールスマン [DVD] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ
セールスマン [DVD] - シャハブ・ホセイニ, タラネ・アリドゥスティ, ババク・カリミ, アスガー・ファルハディ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント