ルージュの手紙(2017年 フランス)

ルージュの手紙 [DVD]
ルージュの手紙 [DVD]

フランス・パリ郊外。クレール(カトリーヌ・フロ)は、とある病院に勤務するベテラン助産師であり、たった1人の息子・シモン(カンタン・ドルメール)を、外科医を目指す医学生に育て上げた49歳の真面目なシングルマザー。しかし、クレールの勤務する病院は、建物の老朽化と収益の悪化を理由に、近々閉鎖される事が決まっていました。同僚の中には、助産院の開業を勧めてくれる人もいますが、まだ、閉鎖後の進路は決まっていませんでした。ある日、クレールが仕事でヘトヘトになって帰宅すると、留守電メッセージが2件入っていました。1件は、シモンからで、「今日は帰らない。」というシンプル且つ寂しい気持ちにさせられるメッセージ。そして、もう1件は、ベアトリス・ソボレフスキ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と名乗る年老いた女性からでした。「アントワーヌ・ブルトンを捜しているの。」クレールは、2度と聞きたくなかった声を久しぶりに聞き、思わず驚いてしまいます。アントワーヌ・ブルトンとは、クレールの父の事。クレールと同じように真面目な性格で、若かりし頃には競泳の選手として活躍し、オリンピックに出場した経験があります。ベアトリスは、ある事情で、アントワーヌの娘であるクレールに電話をかけなければならなくなり、電話帳で電話番号を調べたのです。ベアトリスは、留守電メッセージの中で、自身の電話番号を教え、「(クレールに)会いたい」と、強く願っていました。

ルージュの手紙(字幕版)
ルージュの手紙(字幕版)

クレールは、メモ用紙にベアトリスの名前と電話番号を記したものの、気が重くて仕方がありません。実は、ベアトリスは、クレールの血の繋がらない母にあたるのですが、真面目な性格のクレールとは正反対のタイプの女性。非常に自己中心的で、酒とタバコとギャンブルをこよなく愛するのです。ベアトリスが、突然、クレールの前から姿を消したのは、30年も前の事。それ以来ずっと、音信不通の状態が続いていたため、クレールは、ベアトリスに対して、かなりの不信感を抱いていました。その間、これはベアトリスが姿を消して間もない頃だったのですが、アントワーヌが、サンジェルマン大通りの近くにあった自宅で自ら命を絶ってしまいました。所有していた銃を使って、自身の心臓を撃ち抜いたのです。最初に遺体を発見したのは、当時まだ10代だったクレールでした。死の翌日には新聞に訃報が掲載され、今も、ウィキペディアで「アントワーヌ・ブルトン」と検索すると、アントワーヌの死までのいきさつがきちんと書かれてあるのです。

不幸にする親 人生を奪われる子供 (講談社+α文庫)
不幸にする親 人生を奪われる子供 (講談社+α文庫)

クレールは、メモ用紙と自宅の電話の受話器を手に取りますが、気が重くて、ついため息が出てしまいます。しかし、大事な要件の可能性があるため、取りあえず、電話をかけます。その結果、クレールは、取りあえず、ベアトリスと会う約束をする事ができました。数日後、クレールは、パリにあるベアトリスのアパルトマンを訪ねます。ベアトリスが住む部屋の玄関の扉には、「ドクター・メシュラニー 歯科医」とあります。この部屋の本当の主は、ベアトリスの友人で、レバノン・ベイルート出身のレイモン。母国で続いていた内戦が終結した後、パリにあるこの部屋を売却しないまま、帰国してしまったのです。クレールが扉を開いて、中に入ると、「こっちよ。廊下の先。」と、遠くからベアトリスの声が聞こえてきます。クレールが言われた通りに歩を進めると、バスローブをだらしなく羽織ったベアトリスが洗面台で顔を洗っていました。



ベアトリスが顔を洗い終わったその瞬間、電話が鳴ります。電話をかけてきたのは、ベアトリスと同じアパルトマンの最上階の部屋に住むローランド(ミレーヌ・ドモンジョ)でした。ベアトリスは、どうやらローランドから借金をして、かなり返済が遅れているようです。ベアトリスが電話を切った後、クレールは何から話していいのかが分からず、なんとなく、ベアトリスが、かつて、アルゼンチンのブエノスアイレスに移住した事について、何か質問をしようとします。しかし、ベアトリスは、ブエノスアイレスにあまりいい思い出がないのか、移住した事自体を忘れたふりを貫きます。また、ベアトリスは、クレールの顔をさりげなく見て、10代までしか知らないクレールの顔の事を「昔から老け顔だったわよね。」と、思ったままに言います。ベアトリスは、30年の歳月が経過しても、相変わらず自由奔放な暮らしを送っているようです。



ベアトリスは、タバコを口に加えながら、まだ朝であるにも関わらず、ウィスキーを一緒に飲む事をクレールに提案します。クレールは、ウィスキーの入った瓶とグラスを取りにキッチンへ行き、ベアトリスのいる寝室に持っていきます。ベアトリスは、瓶をやや強引に奪い、グラスに注ぎます。クレールは、なぜアントワーヌの近況を知りたいのか、なぜ自分に会いたかったのかを尋ねます。ベアトリスは、こう答えました。「私はガンなの。」実は、ベアトリスには、医師をしているギャンブル仲間がおり、診察と検査の結果、脳腫瘍と診断されたのです。しかも、既に手遅れの状態だといいます。クレールは、「そんな事ないわ。必ず乗り越えられる。」と励ましますが、ベアトリスは、今後、症状が進んだ時に、記憶喪失や体の麻痺が起こるのではないかと恐れていました。



その後、ベアトリスとクレールは、近所のカフェを訪れます。ベアトリスはパスタと赤ワインを注文しましたが、クレールは何も注文しませんでした。2人は、お互いに近況を尋ね合います。ベアトリスに子どもがいない事、クレールが助産師として働いている事、クレールの息子・シモンが医学生となり、外科医を目指している事など…。その中で、クレールは、ベアトリスにアントワーヌの死を打ち明けます。普段、新聞にもインターネットにも関心がないベアトリスは、アントワーヌの死までのいきさつや死後にそれが新聞に載った事などを知り、さすがにショックを受け、目に涙を浮かべます。そして、30年前にアントワーヌとの仲がギクシャクしてしまった事を後悔します。ベアトリスは、アントワーヌの墓を訪ねたいと願いますが、アントワーヌの墓は最初からありません。アントワーヌの遺体は火葬され、その遺灰がクレールの実母のものと一緒にセーヌ川に撒かれたため、墓が作られていないのです。クレールは、アントワーヌの死までのいきさつを語り終えると、ベアトリスに会う用事を済ませたとして、席を立ちます。その時、ベアトリスは、アントワーヌが生前にくれたエメラルドの指輪を指から外して、クレールに渡します。その後、自宅に戻ったクレールは、指輪をサッと外して、寝室の引き出しに投げ入れるのでした。



数日後、仕事を終えたクレールが帰路に就こうとすると、受付に花束が届いていました。送り主は、ベアトリスでした。花束の大きさは、ベアトリスの昔とちっとも変わっていないわざとらしさをそのまま表しているようでした。クレールは、花束を自転車に乗せて病院を出ると、途中で川辺に止まり、花束を手に取って、あっさりと川に投げ捨ててしまいます。



その後、クレールは、以前から借りている家庭菜園に立ち寄り、畑仕事をします。すると、そこへシモンが、恋人で医学生のリュシーを連れて、やってきます。シモンは、夏休みになったら、お金をたくさん稼ぐべく、友人の父親が開業している美容整形外科の病院でアルバイトをする予定で、ボトックスやコラーゲンの注入の仕方を学ぶつもりでいます。シモンは、ダイビングスーツに着替え、目の前を流れる川へ泳ぎに行きます。この時、シモンが今やりたい事を初めて知ったクレールは、「まともな医療じゃないわ。」と、呆れるのでした。



しばらくして、クレールは、家庭菜園の敷地内にある小屋の前で、シモン、リュシー、そして、同じ家庭菜園を借りている男性・バロンに代わって畑仕事をしている息子で、普段は大型トラックの運転手をしているポール(オリヴィエ・グルメ)の4人で、食事をします。その席で、クレールは、リュシーがシモンの子どもを身籠っている事を知らされます。シモンも、リュシーもまだ大学生ですが、2人共、既に親になる覚悟ができていました。最初、クレールは、少し戸惑いますが、次第に幸せな気分が高まり、思わず涙を流します。



同じ頃、ベアトリスは、病院で主治医の診察を受けていました。その結果、症状はあまり進行していませんでしたが、主治医から、同じ病院で化学療法を受けるか、ベルギーのルーヴェンにある病院で新療法に可能性をかけるか、選択を迫られます。ベアトリスは、その場で後者を選択します。診察中は気丈な態度を貫くベアトリスでしたが、病院を出た後に、突然、大きな不安が押し寄せてきます。「頭に穴を開けられて、血を抜き取られてしまう。」、「2度と目を覚まさないかもしれない。」、「手術を受けられる日まで、10日も待たなければならない。」ベアトリスは、ある人物に電話をかけずにはいられなくなり、気が付けば、電話の相手に次から次へと不安を吐き出していました。「今夜、ウチに泊まりに来て。すごく怖いの。」ベアトリスが涙を目に浮かべながら頼んだ電話の相手とは、クレールでした…。



この後、クレールは、ベアトリスに対して30年にわたる積年の恨みを抱いているにも関わらず、再びベアトリスに会いに行ってしまいます。大抵の人なら、余程嫌な相手から何かを頼まれたら、断る人が大多数を占めるように思うのですが、クレールは、会いに行ってしまったのです。物語自体がフィクションだからこうするしかないのでしょうが、それにしても、クレールは本当に真面目で、困っている人をどうしても放っておけないという感情には、勝てないようですね。しかし、この再会がきっかけで、クレールとベアトリスの人間関係は、少しずつですが、奇跡の雪解けが見られるようになります。その過程は、この映画の一番の見どころではないかと思います。



監督及び脚本を務めたのは、「ヴィオレット―ある作家の肖像―」(2013年)のマルタン・プロヴォ監督。主人公・クレールを助産師という設定にしたのは、ある人物に感謝の想いを伝えるためでした。プロヴォ監督は、1957年にフランス西部ブルターニュ半島の西端に位置する港湾都市・ブレストで誕生したのですが、その際、自身に輸血の必要が生じ、当時、取り上げてくださった助産師が自ら血液を提供し、命を救ってくださったそうです。プロヴォ監督が母親からこの事実を教えてもらったのは、この映画の製作のわずか2年前の事で、教えてもらってすぐに助産師を探したのですが、残念ながら、手掛かりが見つからず、再会は叶わなかったそうです。そこで、プロヴォ監督は、助産師を主人公にしたこの映画を制作する事で、感謝の気持ちを伝えようと心に決めたのです。



クレールを演じたのは、「家族の気分」(1996年)、「大統領の料理人」(2012年)、「偉大なるマルグリット」(2016年)のカトリーヌ・フロ。常に地味な出で立ちで、真面目一辺倒なベテラン助産師を程良く演じていました。しかし、フロ演じるクレールの見どころは、ベアトリスとの人間関係だけではありません。1人の息子を育て上げた母としての誇りや、家庭菜園仲間のポールとの人間関係にも、ぜひ注目していただきたいです!



ベアトリスを演じたのは、「シェルブールの雨傘」(1964年)、「ロシュフォールの恋人たち」(1966年)、「終電車」(1980年)のカトリーヌ・ドヌーヴ。クレールとは対照的なキャラクターをドヌーヴの持ち味と上手く融合させ、何とも魅力的です。柄が大きくて、眩しい色合いの野暮に見えやすい服を上品に着こなし、ギャンブルに熱中するシーンも、タバコをふかしながら慣れた様子でトランプを扱う様子がとてもクールです。しかし、もっと魅力的なのは、ベアトリスの繊細さを表現する演技です。クレールからアントワーヌの死を知らされた時の動揺ぶりや、主治医から、化学療法か、ベルギー・ルーヴェンでの新療法かのどちらかを選ぶよう迫られた後のかなりの困惑ぶりなどに、たとえ嫌われやすいタイプでも、思わず助けたくなるような人間臭さがよく表れていて、とても印象に残りました。



母と娘の人間関係に悩む皆さん、親戚や職場、ご近所など、大の苦手な人間との向き合い方に悩む皆さん、ぜひ、この映画をご覧になって、参考になさってはいかがでしょうか。思い切って、嫌な人間関係を絶つのも時には大切ですが、他に何かいい方法が見つかるかもしれませんよ。

ルージュの手紙 [DVD]
ルージュの手紙 [DVD]

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント