人生スイッチ(2014年 アルゼンチン・スペイン)

人生スイッチ [DVD]
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「おかえし」

モデルのイサベル(マリーア・マルル)は、とある広々とした空港で、見るからに重たい青のスーツケースを引っ張っています。イサベルは、ファッションショーに出演するため、搭乗を前にチェックインをしようとしていました。そして、航空会社の窓口に着くと、早速、手続きを始めます。イサベルは、事前に会社がチケット代を支払っていましたが、自身のアカウントでマイルを溜められるかどうかを、グランドスタッフに尋ねます。残念ながら、答えは「ノー」でしたが、イサベルは、何も反論する事なく、笑顔で3番ゲートへ向かいます。

こうして、イサベルが搭乗した便は無事に離陸します。備え付けの雑誌に目を通しているイサベルの隣には、クラシック音楽専門の音楽評論家・サルガード(ダリオ・グランディネッティ)が座っています。サルガードが何となくイサベルに声をかけたのがきっかけで、2人はしばらくの間、おしゃべりに花を咲かせます。イサベルは、サルガードの職業を知ると、かつて交際していた男性で、クラシック音楽を学んでいたガブリエル・パステルナークの事を思い出します。ガブリエルは、イサベルと交際していた時代に、自身が手掛けた音楽作品をサルガードに酷評された事がありました。

サルガードのすぐ前に座っていたレギサモン(モニカ・ビリャ)は、そんな2人の会話に耳を傾けていました。レギサモンは、ガブリエルの小学校時代の恩師でした。当時、レギサモンは、ガブリエルが家庭で問題を抱えていた事、まるで、生まれたばかりの赤ん坊のように泣き叫んでいた事を今でもよく覚えていて、留年が決まった時は、事実を告げるのにとても苦労しました。さらに、この便には、レギサモンの教え子であり、ガブリエルをよくいじめていたイグナシオ、ガブリエルが働いていた店で店長を務め、客と頻繁にもめるのを理由にガブリエルを解雇したという男性、さらには、かつて、ガブリエルを診察していた精神科医・ヴィクトールも搭乗していました。サルガードは、ガブリエルとゆかりのある搭乗客が多いのがあまりにも不思議に感じられ、座席から立ち上がって、「他に、ガブリエル・パステルナークを知っている人は?」と周囲に尋ねます。すると、搭乗客全員が、ガブリエルの事を知っていました。しかも、どの搭乗客も、自分でチケットを買った訳ではなく、親切にチケットを用意してくれた人物がいたというのです。さらに、客室乗務員の中に、ガブリエルは自身の同僚で、人となりをよく知っているという人物がいました…。

人生スイッチ(字幕版)
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「おもてなし」

土砂降りの雨が降る夜、人影もまばらなカフェに、一人の男性客が入ってきます。「お一人様ですか?」と尋ねるウェイトレス(フリエタ・ジルベルベルグ)に、男性客は、「君は算数が得意なんだな。」と皮肉って、席に座ります。ウェイトレスは、男性客にメニュー表を渡すと、厨房に入り、今にも溢れ出しそうな涙を懸命にこらえます。カフェの女性料理人(リタ・コルテセ)が「注文は?」と、ぶっきらぼうに尋ねると、ウェイトレスはこう言いました。「あいつは、故郷にいた男よ。」男性客の名は、クエンカ(セサル・ボルドン)。クエンカは、高利貸しの悪党で、ウェイトレスが暮らしていた家を競売にかけて、ウェイトレスの父親を自殺に追い込み、父親の葬儀からわずか2週間にウェイトレスの母親を誘惑しました。ウェイトレスは、クエンカから逃れるために母と一緒に引っ越しをしたのです。

料理人は、ウェイトレスの気持ちを察し、クエンカを賢く懲らしめる方法として、ネズミを退治するための薬剤・猫いらずをクエンカが注文した料理に入れる事を提案します。クエンカが猫いらずの入った料理を食べたら、わずか5分で心臓発作を引き起こすというのです。その後、ウェイトレスはクエンカから注文を受けます。クエンカが注文したのは、ポテトフライに、目玉焼き、そして、ダイエットコーラでした。厨房に戻り、怒りを露わにするウェイトレスの姿を見た料理人は、猫いらずの入った大きな缶を棚から取り出します。ウェイトレスは、まさか料理人が本当に猫いらずを使うとは思っていなかったため、思わず、「正気なの?」と確かめます。料理人は、正気で、クエンカを懲らしめる自信がありました。しかし、ウェイトレスは、猫いらずを拒みます。クエンカがもがき苦しんで死ぬ姿を想像すると、猫いらずを用いる勇気が出ないのです。

ウェイトレスは、再びクエンカに呼ばれます。実は、クエンカは、近々、市長選挙に立候補する予定で、ポスターの写真を何枚か見比べろというのです。「あんな悪党が政治家を目指すなんて、あり得ないとしか思えない。」ウェイトレスは、憤りを覚えながらも、顔が真面目過ぎるように見えるかどうかを尋ねてくるクエンカに、「いいと思う。」と返事をします。ウェイトレスが厨房に戻ると、料理人がポテトフライを作っていました。「刑務所も悪くないよ。」料理人は、刑務所に収監される事を全く恐れていませんでした。実は、料理人には逮捕歴があるのです。料理人は、改めて、猫いらずを取り出し、ウェイトレスに使うかどうかを尋ねます。ウェイトレスは、どう決断を下すのでしょうか…。

人生スイッチ(吹替版)
人生スイッチ(吹替版)

「パンク」

誰もいない山間部の高速道路で、サングラス姿の男性・ディエゴ(レオナルド・スバラーリャ)が真っ黒なベンツを運転しています。しばらくすると、ディエゴの運転するベンツは、たくさんのがらくたを屋根の上に積んだ、錆だらけの白い車に追い付きます。白い車は、当然、スピードが出ず、真っ直ぐ走る事ができません。ディエゴは思うように前に進めない事に苛立ちを見せ、やがて、我慢の限界に達すると、隣の車線に出て、白い車を追い越します。ディエゴは、窓ガラスを開けて、白い車を運転している坊主頭の屈強な男性・マリオ(ワルテル・ドナード)に向かって、「おい、ふざけんなよ、この田舎者!」と、叫びます。しかし、マリオは、ニヤリとするだけ。ディエゴは、さらに「バカ野郎!!」と叫び、白い車を追い越していきます。

その後、穏やかさを取り戻したディエゴでしたが、今度は、右側の後輪がパンクしてしまいます。ディエゴはスマートフォンで業者に電話をかけ、助けを求めます。しかし、業者がすぐにこの現場に駆けつけるには無理があります。ディエゴは、結局、車に備えつけてあったスペタタイヤを取り出し、自分でタイヤを交換します。すると、そこへ、あの白い車がやって来ます。マリオは、自力でタイヤを交換するディエゴを見て心配し、「どうした?」と声を掛けます。ディエゴは「お先にどうぞ。」と、マリオに道を譲ります。しかし、マリオは、ディエゴの親切心に従うのかと思いきや、再びディエゴの元に戻ってきて、なんと、ベンツのワイパーを容赦なく引きちぎります。マリオは、ディエゴに罵られた時の事をまだ忘れてはいなかったのです。ディエゴは、怒りに震えながら警察に通報するのをマリオに見られて、懸命に許しを乞うのですが、マリオの怒りは収まらず、窓ガラスをひびだらけになるまで力いっぱい叩き、そこにたっぷりと放尿し、挙句の果てに、「この腰抜けがっ!!」と罵られてしまいます。ディエゴは、とうとう怒りを抑えられなくなり、マリオに仕返しをすべく、ベンツを白い車に体当たりさせます。白い車の先にはガードレールがなく、見えるのは、流れの速い川だけでした…。

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)
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「ヒーローになるために」

ビルの爆破を担う解体職人・シモン(リカルド・ダリン)は、仕事の帰りにケーキを買います。この日は、娘の誕生日。娘は、シモンが、誕生日パーティーに食べるケーキを買ってくるのを心待ちにしていました。シモンは店員から渡されたケーキを手に、胸をワクワクさせながら、外に出ます。ところが、シモンが外に出ると、すぐそばに停めてあったはずの車が見当たりません。その代わり、アスファルトにレッカー車のイラストが描かれた紙が貼ってありました。いつの間にか、車がレッカー車に繋がれて移動してしまったのです。車を停めた場所の縁石の色は、駐車禁止区域である事を示す黄色ではなかったのに。

シモンは、タクシーに乗り、車を引き取りに行きます。しかし、シモンに応対した担当者の口調がキツく、シモンはつい文句を言ってしまいます。車を引き取るには、490ペソ(※日本円で約911円)が必要です。ケーキを360ペソで買ったばかりのシモンにとって、更なる出費は痛いです。シモンは、陸運局で不服申し立てができる事を担当者から聞かされます。しかし、シモンは、警察に落ち度があるとして、490ペソを払わない事をはっきりとした口調で告げ、「責任者のところに行って、車を返すよう言ってほしい。」と、頼み込みます。さらに、シモンは、この窓口に来る際に乗ったタクシーの代金も支払ってもらい、謝罪もしてもらうつもりでいました。しかし、担当者は苦笑いするだけ。次の順番を待つ人たちも、すっかり待ちくたびれていました。

シモンが帰宅すると、娘の誕生日パーティーは既に終わっていました。しかし、シモンは、娘に詫びる誠実さよりも、自身が警察に侮辱されたという悔しさの方が勝っていました。シモンは、キッチンで、妻・ビクトリア(ナンシー・ドゥプラア)に、担当者の対応の悪さをまくし立てます。常日頃から交通渋滞のトラブル、デモ行進への参加等と、夫の正義感に苦しめられる毎日を送っていたビクトリアは、ただただうんざりします。ビクトリアは、誕生日パーティーで首を長くしてケーキが届くのを待っていた娘の気持ちを考えようとしない夫に怒りをぶつけますが、それでも、本人の頭の中は、正義感を貫く事でいっぱいでした。その後、シモンは、陸運局に足を運び、取りあえず、490ペソを払いますが、警察の判断にはまだ納得がいかず、窓口で改めて抗議し、謝罪を求めます。しかし、担当者がすんなりと要望を受け入れるはずがなく、シモンは怒りを露わにします。担当者は警備員を呼びますが、シモンは、担当者の根性を試そうと、窓口のガラスをわざと消火器で割ろうとします。しかし、シモンは、駆けつけた警備員に取り押さえられ、警察に逮捕されます。翌日、会社の同僚が迎えに来てくれたおかげで釈放されましたが、前日の窓口でのやり取りは、幸か不幸か、新聞の1面に載りました。おまけに、会社から解雇され、ビクトリアからは三下り半を突きつけられてしまいました。しかし、シモンは…。



「愚息」

大富豪・モーリシオ(オスカル・マルティネス)を父に持つサンティアゴが、かなり動揺した表情で就寝中の両親を起こしています。サンティアゴは、モーリシオの名義の車で飲酒運転をした上に妊婦を轢いてしまい、母子共に助からなかったのです。テレビニュースでは、事故が大々的に報道されています。目を覚ましたモーリシオは、飲酒運転をしてしまったのか、それとも、マリファナを使用しているのかを問いただします。一方、母親は、ショックの余り、ただただ涙を流すばかりでした。その後、一家の元に顧問弁護士(オスマル・ヌニェス)が駆け付け、「家族の人生を台無しにされた」とリビングルームで憤るモーリシオや、モーリシオを懸命になだめる母親を遠ざけ、サンティアゴに事情を尋ねます。しかし、サンティアゴは、泣き崩れてしまっていて、とても話を聞ける状況ではありませんでした。

弁護士は、刑事裁判を乗り越えるため、一家と協力しながら、事故に至るまでのストーリーを懸命に練り上げます。その結果、なんと、この家で働く使用人・ホセ(ヘルマン・デ・シルバ)に、50万ドルで身代わりになってもらう事になったのです。やがて、検察官(ディエゴ・ベラスケス)が捜査のため、この家を訪れます。弁護士たちは、早速、練り上げたストーリーで乗り切ろうとしますが、検察官の目はそう簡単には誤魔化せません。検察官は、弁護士に司法取引を提案します。ただし、100万ドルと、何とも高額な金銭の支払いが条件です。しかも、検察官は、更なる必要経費の上乗せを要求します。弁護士から事情を聞かされたモーリシオは、「100万ドルを超える金額は、支払いたくない。」と言い出します。

やがて迎えた、サンテイアゴの身代わり・ホセの逮捕当日。逮捕にあたって、念入りに一家と打ち合わせをする弁護士。しかし、モーリシオは、あの100万ドルの他に、弁護士への報酬に50万ドルを支払ったり、ホセにマンションを与えたり、家の周辺に警備員を何人か配置したりと、何かとコストがかかるのを嫌がり、「金を払いたくない!」と、憤ります。そんな中、サンティアゴは、罪を告白したくてたまらない心境になります。しかし、サンティアゴが茨の道を歩むのをどうしても見たくない両親は、サンティアゴに罪の告白を断念するよう、説得します。家の外では、事故の被害者や遺族に寄り添う人々が抗議をしていました。果たして、ホセが身代わりとなるこの作戦は、上手く行くのでしょうか…。



「HAPPY WEDDING」

とある結婚式場では、アリエル(ディエゴ・ヘンティレ)とロミーナ(エリカ・リバス)の結婚披露宴が行われています。2人の思い出の写真のスライドショーが行われる中、いよいよ、アリエルとロミーナが入場します。ロミーナの父親は、将来、アリエルが浮気をしないかと心配で、2人が入場してすぐにアリエルに声を掛けて、浮気をしない事をアリエルに約束させます。また、ロミーナも、アリエルの浮気を心配していました。結婚披露宴の出席者の中に、なんと、アリエルの元恋人がいたのです。その後、ロミーナは、アリエルが元恋人と仲睦まじく話をしているのを目撃し、頭の中が不安でいっぱいになります。そして、テーブルに置いたままのアリエルのスマートフォンを手に取り、着信履歴にあった、ある番号にリダイヤルします。電話に出たのは、やはり元恋人でした。ロミーナは、怒りに震える余り、言葉を発する事ができませんでした。

その後、結婚披露宴は佳境に入り、アリエルとロミーナは出席者たちが見守る中、お互いの手を取り、ダンスをします。この時もロミーナの不安は消えず、思わずアリエルに真相を問います。アリエルは、最初は、元恋人の事を「ギターの先生だ」と答えていましたが、ロミーナは、アリエルが浮気を認めるまで諦めたくなくて、しつこく追い詰めていきます。やがて、アリエルは、真実が口から飛び出そうになるのを必死に抑えるように、答えが二転三転するようになり、そして、ついに、ロミーナと交際するようになった後も元恋人と寝ていた事を認めます。ロミーナは、ついに真相を引き出した安堵感と、自分を一途に愛してくれていない悲しさで、号泣してしまいます。アリエルの母親は、ロミーナの異変に気付き、アリエルのダンスの相手になる事を申し出ます。ロミーナは、アリエルだけでなく、アリエルの母親にも心の底から恨みを抱いていました。その後、ロミーナは、自身の父親とダンスを始めますが、気が晴れる事はなく、泣きながら式場の屋上へ行ってしまいます。屋上で、大声を上げて泣き続けるロミーナ。そんなロミーナを心配し、屋上まで追いかけてきた男性がいた。彼は、式場の料理人でした…。



このブログを開設して4年2か月になりますが、南米の映画をご紹介させていただくのは、今回が初めてです。この映画は、全部で6つのストーリーから成るオムニバス映画です。どれも、ブラックユーモアが溢れ、登場人物たちは、世の中に対して怒っている人々にとって良き代弁者でもあり、場合によっては、反面教師でもあります。メガホンを取ったのは、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレス出身で、アルゼンチンで、この映画のようなブラックコメディーの他に、ラブストーリー、SF、西部劇と、実に幅広いジャンルのテレビドラマや映画を手掛ける、ダミアン・ジフロン監督です。



この映画は、アルゼンチンの歴代興業収入記録第1位を樹立。入場者数は、アルゼンチン全土で、400万人を超えたそうです。2014年に、アルゼンチンの映画賞・スール賞で、作品賞をはじめとする最多10部門を受賞。同年、第67回カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に正式に出品されました。さらに、翌年の第87回アカデミー賞では、外国語映画賞にノミネートされました。



さて、この映画の6つのストーリーですが、この後、どう展開していくと思いますか?ヒントは、ズバリ、この映画のタイトル「人生スイッチ」にあります。人は、極地まで追い詰められると、禁断のスイッチを押したくなるもの。さあ、スイッチを押すか、否か。もし、押してしまったら、その人には、どんな運命が待ち受けているのでしょうか。

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