ビッグ(1988年 アメリカ)

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12歳の少年・ジョッシュ(デイヴィッド・モスコウ)は、自宅の自室で、ジュースを片手に、パソコンゲームに夢中になっています。その途中、キッチンから「ジョッシュ」と、母親(マーセデス・ルール)の呼ぶ声が聞こえてきます。実は、この日、ジョッシュは、ゴミ出しを頼まれていたのですが、ジョッシュはすぐにそうしたくても、できませんでした。どうしてもキリの良いところまでゲームを続けたかったのです。ジョッシュは、何度も繰り返し自分の名を呼ぶ母親に、適当に返事をしながら、ゲームを続けていました。そして、ジョッシュがパソコンの画面から少し目を離した隙に、ついにゲームオーバーに。こうして、ジョッシュは、ゴミ出しを済ませたのでした。

ビッグ 製作25周年記念版 [Blu-ray]
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ゴミ出しを済ませたジョッシュは、自宅には戻らず、そのまま外へ出掛けます。そして、道中、親友のビリー(ジャレッド・ラッシュトン)と合流して、一緒に雑貨店へお菓子を買いに行き、たわいもない話をします。すると、そこへ、別の親友・フレディの姉・シンシア(キンバリー・M・デイヴィス)がやって来ます。シンシアは、フレディとは違い、美人と称されるような少女で、常に大勢の友達が後ろからついて来ていました。シンシアは、ジョッシュたちの方を向いてニッコリ微笑むと、大勢の友達と一緒に雑貨店へ入っていきます。「(シンシアは)絶対君が好きだ。確かめてみるよ。」シンシアの微笑みを勝手にそう解釈したビリーは、ジョッシュに対し、シンシアとジョッシュの愛のキューピットになる事を誓います。



ある日の夜、ジョッシュは、父親、母親、生まれたばかりの妹・レイチェルと一緒に、移動遊園地に足を運び、ジェットコースターの前に来ていました。一行の目の前を走るジェットコースターは、物凄いスピードでコースを一回転していました。今まで見た事のないスピードに、最初は足がすくむジョッシュでしたが、そこに、シンシアが偶然来ているのを見つけると、シンシアに男らしさをアピールしたくなり、一人でジェットコースターに乗ろうと考えます。父親は、ジョッシュの内心を察して、「無理に乗らなくていいぞ」と、ジョッシュに声を掛けますが、ジョッシュの意志は変わりませんでした。

ジョッシュは、家族を観覧車の前で待たせ、ジェットコースターの順番を待つ行列を夢中で掻き分けて、シンシアの隣に滑り込みます。そして、ちょうど滑り込んだタイミングで、シンシアに声を掛けられます。ジョッシュは、ジェットコースターは生まれて初めてだというのに、シンシアにいいところを見せたくて、ついジェットコースターに乗り慣れているふりをしてしまいます。母親はジョッシュが緊張している事に気付かずに、笑顔でカメラのシャッターを切ります。

すると、シンシアとジョッシュが並んでいる位置に、一人の少年が近付き、シンシアに声を掛けてきます。少年の名は、デレク。既に車の運転ができる年齢になっているデレクは、以前からシンシアととても親しくしていました。つまり、デレクは、シンシアのボーイフレンドなのです。ジョッシュは、デレクが何者なのか、すぐに勘づき、落ち込みます。さらに、いよいよジェットコースターに乗る順番が近付いてきたタイミングで、ジョッシュが移動遊園地側によって予め決められていた身長に届かず、乗られない事が発覚してしまいます。こればっかりは、ジョッシュ本人の力ではどうにもできません。ジョッシュは、ジェットコースターに乗るのを諦めるしかありませんでした。



ジョッシュは、ショックを受けたまま、一人で遊園地の中を歩いていました。すれ違う人たちにぶつかる度に、自身の背の低さが嫌になるジョッシュ。しばらくすると、自身の目の前に、占い師の人形・ゾルターが入った、電話ボックスのような機械を見つけます。ジョッシュは、機械に書いてある通りに、25セントを入れますが、機械はうんともすんとも言ってくれません。ジョッシュは、ついイライラして、機械を力いっぱい叩きます。すると、突然、ゾルターの目が真っ赤に光り、何度も口を大きく開けたり閉じたりします。機械をよく見ると、25セントを入れる事の他にも、説明書きが幾つかありました。まず、「ゾルターの口に狙いを定めて」という指示に従い、機械に取り付けてある小さなハンドルを回して、道具をゾルターの口の位置まで移動させます。そして、ジョッシュは、「願いを言え」という指示に従い、迷う事なく、あの切実な願いを口にします。「大きくなりたい。」そう口にすると、ジョッシュは、ついに機械のボタンを押します。すると、ゾルターは、ジョッシュに1枚のカードを渡しました。そこには、「願いをかなえる」と書いてありました。その時、ジョッシュは、コンセントが抜けていたにもかかわらず、機械が作動していた事に初めて気付きます。ジョッシュは、この現象を不思議に思いながら、その場を後にします。



翌朝、ジョッシュは、学校に遅刻する事を心配する母親の声に目を覚まし、歯を磨くために、いつものように洗面台へ向かいます。ジョッシュが何となく鏡を覘き込むと、今まで見た事のない大人の姿が映っていました。その人は、昨日とは全く違う外見になってしまった、ジョッシュ(トム・ハンクス)でした。ジョッシュは、昨夜眠っている間に、なんと、30歳の男性の体になってしまったのです。背が急激に伸び、体中に筋肉が付いていて、顔にはうっすらと髭が生えていました。ジョッシュは、自分の身に何が起きたのかがさっぱり分からず、動揺します。そして、もう一度鏡を覘き込み、今度は、昨日までなかった胸毛を軽くさすります。すると、ジョッシュが洗面台にいる間に、ジョッシュの部屋に着替えを持ってきた母親が、洗濯物を持ってくるよう、声を掛けます。ジョッシュは、いつものように、「分かった」と返事をしますが、その声は、変声期が突然訪れたが故に、昨日よりグッと低くなっていました。母親は、てっきりジョッシュが風邪をひいたものと勘違いし、キッチンへ向かいます。ジョッシュは、部屋に戻り、母親が持ってきた着替えを着ようとしますが、子ども服なので、当然、サイズが合いません。ジョッシュは、父親の服をこっそり借りて、朝食を摂らずに、慌てて子供用の自転車に乗って、登校します。しかし、途中でふと我に帰り、母親に事情を説明すべく、いったん自宅に戻ります。しかし、母親は、大きくなったジョッシュを見て、泥棒だと思い込み、家の中を逃げ回ったかと思うと、キッチンでナイフを手に取り、ジョッシュに立ち向かおうとします。ジョッシュが何回も何回も事情を説明しても、母親には息子の話を聞く心のゆとりが全くありませんでした。



結局、ジョッシュは学校に遅刻してしまいます。学校に到着した時、クラスメートたちは体育の授業中で、体育館でバスケットボールをしていました。ジョッシュは、授業が終わるまで、体育館の倉庫に隠れます。しばらくして、授業が終わると、ビリーが後片付けをしに、倉庫に入ってきます。ジョッシュは、ビリーに声を掛けますが、ビリーはジョッシュをバスケットボールのコーチだと勘違いします。ジョッシュは、自分がジョッシュである事を信じてもらおうと、必死になって事情を説明します。ビリーは、ジョッシュをよく見ずに、ただただ動揺するだけでしたが、ジョッシュがビリーをフルネームで呼ぶと、ようやくジョッシュの方にきちんと振り向きます。この時、ビリーは、動揺のあまり、泣き顔になっていました。ジョッシュが、日頃からビリーと一緒に歌っていた歌を、ダンスをしながら熱唱すると、ビリーは落ち着きを取り戻しました。

わずか一晩の間にジョッシュの身に起きた事を理解したビリーは、ジョッシュの体を大きくさせた、あの機械をもう一度探せば、ジョッシュは元の体に戻るのではないかと考え、ニューヨークへ機械を探しに行く事を提案します。肝心の交通費は、ビリーがこっそり持ち出した、自身の父親のへそくりを使う事にしました。こうして、ジョッシュは、早速、ビリーと一緒にニューヨークへ向かうのでした。



ニューヨークに到着したジョッシュとビリーは、タイムズスクエアの歩道を歩いていました。娼婦や物乞いが数多いるところを抜けると、目の前には、「セントジェームズ・ホテル」と書かれた看板が掛けられたホテルが見えました。二人は、何となくこの名前に惹かれ、ここに宿泊する事にします。実際にフロントに行ってみると、そこには、煙草を口に加えた、ファンキーな服装の若い男性スタッフが宿泊客に応対していました。宿泊費は1泊17ドル50セントで、さらに、シーツ代として、10ドルを支払わなければなりませんでした。二人は、すぐにその場で宿泊代とシーツ代を支払い、部屋に案内してもらいます。案内された部屋は、ベッドも、カーテンも、テレビも、洗面台も、全て年季が入っていました。他の部屋からは宿泊客同士が激しい口調で喧嘩する声が聞こえ、外からは、銃の発砲音が聞こえ、子どもが宿泊するには、あまりにも危険でした。ジョッシュは、今まで聞いた事のない声や音に怯え、次第に母親に会いたくなって、ベッドの上で泣き崩れてしまいます。



翌日、ジョッシュとビリーは、ゾルターの入った機械を探し始めます。最初はホテルの近くのゲームセンターで探しますが、残念ながら、見つける事はできませんでした。そこで、二人は、役所に向かいます。二人が受付に聞いてみると、探している機械があるかどうかを調べてもらう事にはなったのですが、結果が分かるまで6週間もかかる事が分かります。ジョッシュは、「ずっと、30歳のままなのだろうか。」と落ち込みます。ビリーは、6週間も学校を休む訳にはいかないので、ニューヨークを離れなければなりません。一方、ジョッシュは、30歳の体のままで学校に通う訳にはいかないため、ビリーから「働いてみたら?」と、提案されます。ビリーは、ジョッシュの職探しに協力します。しかし、当然のことながら、ジョッシュには運転免許がなく、学校で手に職をつけた訳でもありません。その結果、ジョッシュが行きついたのは、おもちゃのメーカーである「マクミラン・トイズ社」の求人広告でした。おもちゃのメーカーなら、一人の子どもとして、おもちゃで遊んできた日々の経験を存分に活かせます。ジョッシュは、早速、面接試験を受けに、ビリーと一緒に「マクミラン・トイズ社」へ足を運びます…。



メガホンを取ったのは、映画監督の他に、映画プロデューサー、女優としても活躍したペニー・マーシャル。2018年12月に他界したばかりです。ペニー・マーシャルは、1986年に、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」で、映画監督としてデビュー。この他、映画監督としての代表作に、「レナードの朝」(1990年)、「プリティ・リーグ」(1992年)があります。兄は、「フォーエバー・フレンズ」(1988年)、「プリティ・ウーマン」(1990年)、「ニューイヤーズ・イヴ」(2011年)で監督を務めたゲイリー・マーシャルで、2016年7月に他界しています。



30歳の体のジョッシュを見事に演じ切ったのは、「めぐり逢えたら」(1993年)、「フィラデルフィア」(1993年)、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)のトム・ハンクス。子ども特有の仕種を完璧に再現しています。体格は立派でも、心はあくまで子どものままなので、音の強弱を考えずに歌を歌ったり、食べ物を食べながらふざけたりする姿を全力で演じているのが、とてもコミカルに見えます。また、怖い物音に怯える姿を全力で演じているのも、実に見事です。ハンクスは、1988年に、この映画で、第46回ゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)主演男優賞を受賞しました。



この後、ジョッシュは、面接試験で嘘を並べ立てた結果、見事、「マクミラン・トイズ社」に採用されます。しかし、実際にジョッシュが入社してみると、「マクミラン・トイズ社」は、あれやこれやと問題が山積していました。ジョッシュは、社長のマクミラン(ロバート・ロッジア)、やり手の重役のスーザン(エリザベス・パーキンス)が温かく見守る中、この会社で、子どもとしての人生経験をどれだけ活かせるのでしょうか?また、面接試験でついた嘘の数々がバレてしまいそうな子どもらしい振る舞いの数々も、この映画の見どころです。続きが気になる方は、ぜひDVDで。

ビッグ [AmazonDVDコレクション]
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ブルーム・オブ・イエスタデイ(2016年 ドイツ・オーストリア)

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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ドイツ南部・バーデン=ヴュルテンベルク州の州都・シュトゥットガルトにある州司法行政中央研究所。オーガニックフードをこよなく愛するバルタザール(ヤン=ヨーゼフ・リーファース)は、パグのガンジーを優しくなでるノルクス教授(ロルフ・ホッペ)の前で、シリアルを食べようとしたその瞬間、トト(ラース・アイディンガー)から責められます、「研究所を催事に貸すなんて。」と。バルタザールは、「貸すぐらい、いいだろ。」と言い返しますが、トトも、簡単には引き下がりません。「金儲けか?」バルタザールは、「自然食品のフェアだ。出展料は安くしてある。」と、自分のした事を正当化しようとします。トトは、バルタザールの気持ちがまるで理解できません。この研究所には、反ファシズムの写真、つまり、アウシュヴィッツ収容所の写真が飾ってあるのですから。

ブルーム・オブ・イエスタディ Blu-ray
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また、トトは、2年前から地道に準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議の責任者がバルタザールである事も、納得していませんでした。ノルクス教授は、責任者は自制できる者でなければならないと考え、責任者をバルタザールに決めたのですが、トトは、自分が自制できない人間と判断されてしまった事を受け入れられず、「下準備は良かった。」と、ノルクス教授やバルタザールにフォローされても、ちっとも嬉しくありませんでした。ノルクス教授は、ガンジーと一緒に、自身の机の方へ向かい、バルタザールは、トトに対して、ひたすら意見を述べ続けます。トトは、バルタザールの意見を聞けば聞く程、嫌悪感が増し、とうとう暴力を振るってしまいます。自身の机に戻ったノルクス教授は、トトがバルタザールを力いっぱい殴っている間に、気を失い、そのまま息を引き取ります。ガンジーは、ノルクス教授に近付き、静かに寄り添うのでした。



シュトゥットガルトの空の玄関口、シュトゥットガルト空港。トトの暴力によって鼻骨を骨折し、歯が1本抜けてしまったバルタザールは、ガンジーをバッグに入れて連れてきたトトに一緒に、ある女性が来るのを待っていました。その女性とは、アウシュヴィッツ収容所が建てられたポーランドの近代史を研究するフランス人研修生で、フランス語とドイツ語のバイリンガルであるザジ(アデル・エネル)でした。しかし、バルタザールは、トトの隣にいる事に耐えられなくなって、空港を出ていってしまいます。その後、残されたトトは、ガンジーを脇に抱えた状態で、ザジと会います。ザジは、トトと会った瞬間、トトに会えた事に大感激します。実は、ザジは、以前に、トトの著書「バルト三国の親衛隊情報部」を読んだ事があり、ずっとトトに会いたいと願っていたのです。



しかし、ザジは、この日、トトが運転した車がベンツだと知ると、突然、「タクシーで研究所に行く」と、言い出します。トトがベンツに乗っているのは、自身に対する嫌がらせだというのです。ザジの口調は、時間が経つにつれて、厳しさを増していきます。しかし、ザジは、自身の考えが大人げないのをよく分かっていました。ザジは、トトがノルクス教授を尊敬している事を知ると、急に人が変わったように安心します。それにしても、なぜ、ベンツの存在がザジの癪に障るのでしょうか?理由は、ザジの祖母・レベッカの壮絶な最期にありました。実は、レベッカが亡くなったのは、今のザジの年齢とほぼ同じ頃、第2次世界大戦の最中でした。レベッカは、第2次世界大戦時に、ベンツのガス・トラックの荷台に押し込められ、毒ガスによって、命を落としたのです。勿論、現代を生きるトトは、戦争に加担している訳ではないですが、トトと同じく現代を生きるザジは、現代においてベンツに乗る人を、第2次世界大戦の加害者に等しいと勝手に判断していました。しかし、歴史家であるトトは知っていました。ガス・トラックを製造していたのは、ベンツではなく、オペルだと。レベッカは、オペルが製造したオペル・ブリッツかマギルス・Dのどちらかで殺害されたはずで、ベンツが製造した車は、安楽死で亡くなった遺体を乗せるのに使われただけでした。



トトは、帰宅後、リビングルームで、アウシュヴィッツ会議の準備に没頭していました。飼育しているヤギが目の前に来ている事を、妻で獣医のハンナ(ハンナ・ヘルツシュプルング)に教えてもらうまで、没頭していました。トトは、40歳になった自身がザジを押し付けられた事を、思わずハンナに愚痴るのですが、ハンナは、これまでトトの仕事に関する愚痴を嫌という程聞かれていたため、とうとうヤギを連れて、リビングルームを出ていってしまいます。トトは、ハンナの後を追いかけますが、双方のやり取りは、口喧嘩に発展してしまいます。まだ幼い養女・ザラは、両親の良からぬ光景を、キッチンから見つめていました。ハンナは、ザラの姿に気付き、ようやく我に帰ります。そして、ザラを、ガンジーと一緒に、トトの母親の元に行かせて、改めて、トトの悩みに耳を傾けるのでした。



トトとザジは、空港を離れた後、中央研究所の研修生が寝泊まりする古びたゲストハウスに移動しました。向かい側には、ノルクス教授が生前住んでいた家が建っています。ベンツに乗る事をあんなに避けたがっていたザジは、タクシーに乗るのかと思いきや、実際には、ドラッグのディーラーが運転する車に乗せてもらいました。トトも、ガンジーと一緒に、ベンツに乗り、同じ場所までついてきました。到着後、ザジは、トトに対し、ドラッグのディーラーにも良い一面がある事を熱心に語ります。この時の目の輝きは、ベンツに乗る事に抵抗していた時とは、雲泥の差でした。しかし、研修生が皆、このゲストハウスで寝泊まりしている事をトトから聞かされると、ザジの表情が一変します。ザジは、ノルクス教授が向かい側の家で暮らしていた事を知ると、「ノルクス教授は、家で亡くなったのか?」と、トトに尋ね、トトから「研究所で亡くなった」と、教えてもらうと、ノルクス教授の最期の様子を熱心に尋ねます。ザジは、レベッカの壮絶な最期だけでなく、他の人の最期にも深い関心があるようです。



ところが、次の瞬間、ザジは、突然、「祖母の最期の話で、気を引いてしまった」と、泣き出してしまいます。空港にいた時、トトが、自身を半人前扱いしたのだと思い込み、思わずあのような行動を取ってしまったというのです。トトは、ザジの気持ちを落ち着かせるため、「ホテルに滞在してはどうか?」と提案しますが、ザジは、「ノルクス教授の家に行きたい。」と言い出します。そこで、トトは、ノルクス教授の墓に行く事を提案しますが、ザジは、あくまでノルクス教授の家に行く事にこだわります。「ノルクス教授の家の中に入れば、ノルクス教授はきっと喜んでくれる。」と信じ、「(自身も家の中で)ノルクス教授の存在を感じていたい。」と、いうのです。



結局、ザジは、トトの反対を押し切って、ノルクス教授の家に入ります。ザジは、トトの声に全く耳を貸さず、ノルクス教授の私物を興味深そうに眺めます。トトは、ついに説得を諦め、ノルクス教授が生前に集めたユダヤ人の写真に見入ります。しばらくして、トトは、ザジに呼ばれます。ザジが、3年前に、研修旅行でイスラエル・エルサレムの記念館に行った時の写真を、偶然見つけたのです。ザジは、「ノルクス教授は独身だったの?」と、トトに尋ねますが、トトは答えを知りませんでした。すると、ザジは、いきなり自身の恋人の存在を打ち明けます。名前はバルティといい、なんと、既婚者でした。トトは、バルティと言う名前に、何となく聞き覚えがありました。トトは、バルティが誰の事なのかを思い出そうとしますが、どうしても思い出せません。ザジは、「(バルティとの不倫を)周囲には秘密にしてほしい。」と、トトに頼み、さらに、トトに、バルティの写真を見せようとします。トトは、その写真には興味がなく、その場を離れようとしますが、次の瞬間、思わずつまづいてしまいます。ザジは、タイミング良くトトに近付き、バルティの写真を強引に見せます。しかし、写真に写っていたのは、なぜか、3歳の時のバルティでした。ザジは、「写真は、子どもの頃のものに限る。」と、最愛の男性の幼かった頃の姿に見入るのでした。トトから話を一通り聞いたハンナは、トトがザジに散々振り回された苦しみをようやく理解したかと思うと、すぐにトト公認の愛人に会いに行ってしまいます。



翌日、研究所に出勤したトトは、廊下の掲示板の前でザジと会い、前日の振る舞いが良くなかった事を詫びます。両者の関係は修復されたかに見えましたが、ザジがパリから持参した食べ物を研究員たちに配る旨を口にすると、トトの逆鱗に触れてしまいます。近代史を専門とする歴史家にあるまじき行為に思えたからです。やがて、ランチの時間になり、研究員たちは、ワーキングランチを始めます。バルタザール、アニータら、研究所の研究員たちは、ザジが持参した食べ物を美味しそうに食べますが、トトだけは、皆の前で堂々と食べ物を元の皿に戻します。バルタザールらは、トトの大人げない行動に異議を唱えます。その後、今度は、アニータから、ダイムラー・ベンツがアウシュヴィッツ会議のスポンサーになる可能性が高い事が報告されます。すると、ザジがまたしても空港で見せたような嫌悪感を露わにします。トトも、ザジの肩を持ち、ワーキングランチは不穏な空気に包まれてしまうのでした。



そんなある日、ノルクス教授が生前、アウシュヴィッツ会議のスポンサーになってくれるよう依頼し、承諾をもらっていた大女優のルビンシュタインが、ノルクス教授の訃報を受けて、スポンサーの辞退を申し出ます。因みに、ノルクス教授は、アウシュヴィッツ収容所からの生還者の一人であるルビンシュタインに講演も依頼しており、ルビンシュタインはそれも承諾していましたが、講演の方も辞退すべきかどうか考えていました。トトはザジと一緒にルビンシュタインの住む豪邸を訪れ、説得にあたりますが、ルビンシュタインは、ドイツ語を話そうとせず、アウシュヴィッツ収容所にいた時代の話をするのもとかく嫌がり、自身の美容整形の自慢をしたり、トトに結婚生活が上手く行っているかどうか根掘り葉掘り聞き出したりして、懸命に話を逸らそうとします。このままでは、アウシュヴィッツ会議の開催自体が危ぶまれてしまいます。トトは、最悪の事態を避けるべく、熱心に説得を続けるのですが…。



この映画は、2016年、第29回東京国際映画祭で、東京グランプリとWOWOW賞を受賞しました。メガホンを取ったのは、クリス・クラウス監督。孤独な女囚と、彼女の才能を見抜いた年老いた女性ピアノ教師が、音楽を通じて共鳴していくドイツ映画「4分間のピアニスト」(2006年)が有名です。クラウス監督は、自身の家族に、第2次世界大戦にまつわるダークな過去があると知り、大変なショックを受け、自らホロコーストの調査を重ねました。その際、加害者と被害者の孫にあたる人たちが、その歴史をジョークにしながら楽しそうに話している姿に触れたそうです。その人たちは、家族の歴史自体を忘れた訳でもなく、そこから来る深い心の傷が癒えた訳でもないのですが、クラウス監督は、彼らの未来を感じさせる心の豊かさに感銘し、この映画のアイデアが浮かんだのだそうです。登場人物の台詞は、正直言ってあまり品が良くない言葉遣いが目立ちますが、クラウス監督のこのようなチャレンジ精神は非常に素晴らしいと思いました。



この映画は、生真面目且つ人一倍短気なトトと、情緒不安定でいつ突拍子もない行動を取るのかが分からないザジの2人が映画全体を支配していますが、それをアコースティックギターのBGMが見事に和らげています。この映画は、音楽の力がなければ、ただただ奇妙なだけで、2時間余りに及ぶ上映時間が2倍にも3倍にも感じられたかもしれません。私は、この映画を通して、映画音楽の一つの役割を学ぶ事ができたように思います。



ところで、なぜ、トトは、こんなにも気が短いのでしょうか?その理由は、第2次世界大戦中にトトの祖父が取ってしまった、取り返しのつかない行動にありました。それは、どういう事なのでしょうか?また、トトの祖父がザジの祖母と面識があった事も、明らかになります。さらに、トトとザジの人間関係にまさかの変化が…。これらの詳細を知りたい方は、ぜひDVDをご覧いただけたらと思います。

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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デビルズ・バックボーン(2001年 スペイン)

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
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内戦が続く1930年代末のスペイン。12歳の少年・カルロス(フェルナンド・ティエルブ)は、1台の車に乗せられ、共和派の孤児院サンタ・ルチアにやって来ます。カルロスは、共和派の闘士だった父・リカルドを亡くした事をまだ聞かされておらず、リカルドの消息が分かるまでのほんの少しの間、ここに滞在する事になったのだと信じていました。着いて早々、カルロスは、敷地内に刺さったままの大型爆弾に、興味津々の様子。爆弾を触ったり、叩いたりする様子は、まさに怖いもの知らずです。この爆弾は、ここに落ちた後に、信管が人の手によって抜かれたため、カルロスのように、触ったり、叩いたりしても、爆発する心配は全くありませんでした。一方、サンタ・ルチアの教師たちは、カルロスが到着したのを知り、ガッカリを通り越して、呆れ返っていました。というのも、サンタ・ルチアは、人が予定通りに訪ねてこないのが日常茶飯事だからです。この場合は、本来であれば、アヤラとドミンゲスという2人の教師が来るはずだったのですが、アヤラは怪我で来られず、ドミンゲスも何らかの事情で来られなくなったようです。そんな時に、カルロスがやって来たのです。

デビルズ・バックボーン(字幕版)
デビルズ・バックボーン(字幕版)

しばらくの間、爆弾の傍で座って過ごすカルロス。ふと、建物の大きな扉に目をやると、一人の少年の幽霊が立っていました。しかし、幽霊はすぐに姿を消してしまいます。カルロスは建物の中がどうなっているのか、興味が湧き、建物に侵入します。すると、侵入してすぐに、背後から食べ物を乞う少年の声が聞こえてきます。声の主は、サンタ・ルチアで暮らす少年・ガルベスでした。ガルベスの隣には、彼の仲間である少年・フクロウもいました。皆がお互いに自己紹介をすると、カルロスは侵入していた建物を離れ、ガルベスたちと一緒にどこかへ向かうのでした。

スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)
スペイン内戦―老闘士たちとの対話 (講談社現代新書 603)

サンタ・ルチアの院長・カルメン(マリサ・パレデス)は、カルロスを車で連れてきた男性に、抗議をしてました。今、サンタ・ルチアは、受け入れている子どもの数があまりにも多く、もうこれ以上の受け入れは無理なのです。男性は、カルロスの父・リカルドが共和派の闘士として立派に闘った事を話し始めて、逆にカルメンを説得しようとするのですが、カルメンは、「闘ったのは、私。リカルドは学究の人だわ。」と反論します。リカルドは、かつてこの施設にカルメンを遺し、信念を貫いたに過ぎなかったのです。彼女の使う義足は、内戦での闘いの壮絶さを如実に物語っていました。



しかし、カルメンには、カルロスの受け入れよりも、もっと心配な事がありました。もし、反乱軍がサンタ・ルチアについて調べたら、サンタ・ルチアが共和派の孤児院だと分かってしまうのではないかと心配していたのです。カルメンは、このような不安を抱えながら、子どもたちと向き合ってきましたが、とうとうサンタ・ルチアを離れる決意をし、武器代にと、男性に地金を10本渡すのでした。そんな時、アヤラが、予定より遅れて、サンタ・ルチアにやって来ます。敷地内で偶然、アヤラの姿を見つけたカルロスは、以前からアヤラを知っていたため、大喜びして、後を追いかけます。しかし、後を追って、門を開けると、残酷な事に、アヤラを乗せた車が遠くへ行ってしまいます。だんだん小さくなっていく車を、カルロスは泣きながら見つめていました。カルメンと、サンタ・ルチアの教師・カサレス(フェデリコ・ルッピ)は、小さく震えるカルロスの背中を見て、とうとうカルロスを受け入れる決意をします。



カルロスは、これから、孤児用の大部屋で寝起きする事になります。しかし、この大部屋は、利用されている形跡があまりありません。カルメン曰く、これまで多くの孤児たちがこの大部屋から逃げ出していったのが、その理由だとか。そんな大部屋でカルロスに与えられたベッドの番号は、12番。カルメンは、カルロスにロッカーの鍵を渡して、去っていくと、カルメンと入れ替わるように、大勢の孤児たちが入ってきます。一部の孤児たちは、カルロスの方を見ながら、ひそひそと話をします。これからカルロスが使う12番のベッドは、サンティ(フニオ・バルベルベ)が使っていたものだと。



サンタ・ルチアの敷地内に建つ1軒の家には、もともと孤児としてやって来た、管理人のハシント(エドゥアルド・ノリエガ)とコンチータ(イレネ・ビセド)の若いカップルが住んでいます。2人は、いつか結婚して、知り合いが全くいないグラナダで農場を始めたいと考えていました。ある日の晩、ハシントの仲間2人が訪ねて来ます。ハシントとコンチータは、彼らと夕食を共にします。夕食後、ハシントは、車で帰宅の途に就こうとする彼らを前に、「今夜、ひと仕事やってやる。」と宣言します。ハシントは、生活のために金塊を取りに来た人がいるとの情報を耳にしていて以来、何か危機感を覚えたのか、心が落ち着かずにいたのです。仲間たちは、「期待してるぜ。」とハシントを応援します。そのやり取りを見ていたコンチータは、ハシントの仲間たちに対し、嫌悪感を抱きます。ハシントは、少年時代、よく空を見上げて、こう思っていました。いつかこの地を出て行って、金持ちになり、この地の建物を買って、全部ぶち壊すのだと。その目的は、15年にも及ぶ自身の過去を消す事でした。



同じ頃、カルロスは、あの12番のベッドに横になっていました。しかし、カルロスは、なかなか眠れません。カルロスは、ベッドの側面に彫ってあった「サンティ」の文字を指でなぞりながら、「サンティ」と声に出して読んでいました。すると、どこかから、カルロスを呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスは、思わず上半身を起こし、身体全体を自身のベッドと隣のベッドとを遮るカーテンの方に向けます。そして、思い切ってカーテンを開けるのですが、そこには誰もいません。隣のベッドの寝具をどかしても、ベッドの下を覘いても、人の気配がありません。その時、水の入った瓶が倒れる音がしました。カルロスが立ち上がると、倒れた瓶から水がこぼれ、水で濡れた床には、人間の子どもの足跡がいつの間にかできていました。すると、そこへ物音に気付いた子どもたちが集まってきます。彼らは、カルロスが水をこぼしたのだと思い込み、カルロスに水を汲みに行かせようと考えます。カルロスは、自身を呼ぶ声の主を探ろうとしますが、それでも、彼らは、カルロスに水を汲みに行かせる事しか頭になく、なかなかその場を動こうとしないカルロスを臆病者扱いします。カルロスは、自身のやりたい事をいったん諦め、水を汲みに行く事にします。自身を「臆病者」と最初に呼んだ、リーダー格のハイメ(イニーゴ・ガルセス)と一緒に。



カルロスは、ハイメと一緒に井戸のある建物を目指します。各自、空になってしまった瓶を持ち、ゆっくりと歩を進めます。信管が抜いてある爆弾の前を通り、ハシントとコンチータが住む家の前も通り、井戸のある建物に辿り着きます。2人は、早速、水を汲みます。先にハイメが慣れた手つきで水を汲み、その後に、カルロスが慣れない手つきで水を汲みます。ところが、カルロスが水を汲んでいる途中で、井戸のすぐ傍にあったハサミが大きな音を立てて落ちてしまいます。ハシントとコンチータもハサミが落ちる音に気付き、ハシントが、一人で、井戸のある建物に向かいます。ハシントは、建物の出入り口にあるライフル銃を手に取り、人の気配がないかどうかを確かめると、壁面の一部を取り外します。そこには、見るからに重そうな扉がありました。ハシントは、手元にあった鍵を鍵穴に差し込むのですが、残念ながら、扉は開かず、まるで人が変わったかのように悔しさを爆発させます。その後、ハシントは外に出て、出入り口の扉と扉を太い鎖でつなぎ、さらに鍵をかけ、それまでずっと口に加えていた、火が付いたままの煙草を地面に投げ落とします。カルロスよりも先に水を汲んでいたハイメは、既に外に出ていて、爆弾の陰に隠れていたため、ハシントに見つからずに済みました。



一方、カルロスは、落ちてしまったハサミを慌てて片付け、水を汲んだ瓶を持って、建物からの脱出を試みます。ところが、再び、「カルロス」と呼ぶ声が聞こえてきます。カルロスが、声の聞こえてくる方へ近付いていくと、そこには、茶色っぽく濁った水が今にも溢れそうになっている貯水槽がありました。さらに、突然、人の気配も。カルロスが人の気配のする場所へ恐る恐る近付くと、誰かがカルロスの肩にそっと手を置きます。カルロスが思わず振り向くと、その人は、「ギャアアア~~~~~ッ!!」と悲鳴を上げて、姿を消してしまいます。カルロスの手の指からは、不思議な事に血が滲み出てきました。さらに、同じ人の声で、「大勢死ぬぞ…。」という言葉も聞こえてきます。カルロスは、さすがに怖くなり、逃げ出そうとするのですが…。



この映画でメガホンを取ったのは、ギレルモ・デル・トロ監督。「パシフィック・リム」(2013年)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)と、最近、話題作を世に送り出している監督です。



この映画を観る前、私は、この映画の事をてっきりホラー映画だと思っていたので、「観ている途中で、怖さのあまり、ギブアップしないだろうか。」と、少し心配していました。しかし、実際に観てみると、全然違いました。この映画は、確かに、幽霊が登場しますが、悲鳴を上げたくなるシーンの連続ではないので、ホラー映画ではありませんでした。また、スペインの内戦の時代(1936年~1939年)の設定ではありますが、内戦の様子を描いたシーンはほとんどないので、戦争映画だと断定する事もできませんでした。



では、これは、どういうジャンルの映画なのでしょうか?私は、ミステリー映画だと思います。この映画には、ハシントとコンチータという若いカップルが登場します。ハシントは、15年にも及ぶ過去を消す事にこだわっていますが、実は、この映画のキーパーソンは、主人公のカルロスではなく、ハシントであると考えています。なぜなら、映画の後半で、ハシントの決して許されぬ心の闇が様々な形となって現れるからです。ハシント役のエドゥアルド・ノリエガの演技は、時間が経つにつれて、鬼気迫る演技がグレードアップしていくのが感じられ、カルロス役のフェルナンド・ティエルブよりも存在感が大きくなっていきます。ハシントの哀れな心の内に注目してみると、非常に見応えがある映画です。ご興味があれば、ぜひご覧いただきたいです。

デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション [DVD]


サイレント・ボイス 愛を虹にのせて(1987年 アメリカ)

※今回は、2019年5月12日に、BSの映画チャンネル・スターチャンネル1で放送されたものを鑑賞した上で、ご紹介しています。この映画のDVDやBlu-rayの販売情報を調べましたが、どちらも見つける事ができませんでした。何卒ご了承くださいますよう、お願い致します。


アメリカ・モンタナ州のとある片田舎に建つ家の庭で、12歳の野球少年・チャック(ジョシュア・ゼルキー)が、妹・キャロリンを相手に、キャッチボールをしています。キャロリンが、チャックの投げたボールを受けられず、走ってボールを取りに行くと、チャックは「もういいよ。」と声をかけ、キャッチボールを止めます。そして、キャロリンに、庭の木にぶら下がっている大きなタイヤを揺らすよう頼むと、真ん中の穴をめがけてボールを投げます。ボールは見事に穴を通過して、木の幹に当たります。チャックは、それが終わると、今度は、自身の野球仲間やキャロリンと一緒に、ある場所へ自転車で向かいます。一方、ある小さな飛行場では、戦闘機が着陸します。操縦席からパイロットのラッセル(ウィリアム・ピーターセン)が降りてくると、妻のパメラ(フランセス・コンロイ)が出迎えます。パメラは、ラッセルに「まだ、間に合うわ。」と言い、2人である場所へ向かいます。



チャックたち、そして、ラッセルとパメラが向かった先は、少年野球の試合が行われている野球場でした。ラッセルとパメラは、客席から試合を見守ります。2人が見つめるマウンドに立っていたのは、2人の息子であるチャックでした。チャックは、この試合にピッチャーとして出場するために、自転車で野球場にやってきたのです。両親やチームの期待に応えて、しっかりと打者を抑えたチャックは、チームメイトたちから祝福を受け、元気よくベンチに戻っていきます。ラッセルも、チャックに近付き、頑張りを褒めたたえます。



金曜日、チャックは家族、少年野球チームの仲間と一緒に、広い野原に来ていました。目的は、チャックが、自分で作った手作りロケットを仲間と一緒に発射させるためでした。チャックらが手作りロケットの発射の準備をしていると、一台の車が止まり、中から、ラッセルの知人で、アメリカ軍の予算の仕事に携わる国会議員のジョニー(デニス・リップスコーム)が降りてきます。ジョニーは、ラッセルやパメラとの再会を喜び、ラッセルやパメラも、ジョニーと久し振りに再会して、とても嬉しそうです。そして、いよいよ手作りロケット発射の時。手作りロケットは、カウントダウンの終わりと同時に勢いよく上昇し、パラシュートも無事に開きます。手作りロケットの発射は、こうして大成功に終わったのでした。



ジョニーは、チャックらの労を労うため、近くにある地下サイロを見せます。チャックらが最初に目にしたのは、「ミニットマンⅢ」と呼ばれるミサイルの発射装置でした。「ミニットマンⅢ」は、40トンもあるコンクリートのふたが閉まっており、中には、「バード」と呼ばれる長さ20メートルのミサイルが入っています。弾頭20メガトンの「バード」を発射する時は、固形燃料を用いて、32秒で吹き飛ばすのですが、その射程距離は11,000キロもあり、チャックは、ジョニーの説明を受けるだけで、その威力にショックを受けます。続いて、チャックらは、地下15メートルの場所にあるコントロール室のそばまで案内されます。この部屋にある制御装置を使うと、わずか20分でミサイルをソ連まで飛ばす事ができるといいます。しかし、ここは、巨大な命令系統の最終段階。大統領による命令でミサイルが発射されるのですが、実際には、そんな機会は滅多にありません。説明が終わると、一同は、コントロール室の傍を離れ、エレベーターに向かいます。



しかし、チャックだけは、じっと立ったままでいました。ジョニーは、チャックの異変に気付き、声をかけます。「パパの乗ってる戦闘機も、ミサイルを積んでる。核を積む時も、あるかもしれない。」チャックは、ミサイルや核兵器の恐ろしさをこの日、生まれて初めて知ったのです。ジョニーは、チャックの不安を和らげようとしますが、チャックは「(ジョニーから納得のいく説明が得られるまで)コントロール室の傍から離れたくない。」と言い出します。ジョニーは、12歳であるチャックが理解できるよう、かみ砕いて説明しますが、チャックには、単なる大人の言い訳にしか聞こえませんでした。



数日後、チャックは、野球の試合に出場するため、野球場に来ていました。チャックがベンチからマウンドを眺めていると、ラッセルが励ましにやってきます。ラッセルを見つめるチャックの目は、ジョニーからあの話を聞かされたばかりという事もあって、冷めていました。「老後(ラッセルが年を取ってからも)も仲良くしようね。」チャックは、一言だけ言って、マウンドに向かいます。しかし、チャックは、どうしても気力が湧いてきません。核兵器がこの世の中に存在しているかと思うと、悲し過ぎて、野球をやる気になれないのです。チャックの気力のなさに気付いたチームの監督は、なぜ、核兵器があるせいで、野球をやりたくなくなるのかが全く分かりません。ラッセルは、チャックと監督のやり取りを心配して近付き、チームメイトたちも心配になって集まってきます。監督は、ピッチャーをジェロームに交代しようとします。しかし、チームのエースであるチャックが投げないと、この試合で勝つ事ができないのをよく分かっているチームメイトたちは、「自分たちが恥をかくくらいなら、試合放棄をした方がいい。」と言い出し、監督はこれを受け入れます。チャックは、監督からも、チームメイトたちからも、信用を失い、さらに、その後、ラッセルを怒らせてしまいますが、自身としては、自力ではどうにもできない悲しみを、分かってほしかっただけなのです。



チャックの前代未聞の行動は、地元の新聞に掲載されます。その記事は、チャックの勇気ある行動を紹介している訳ではなく、あくまで風変わりな子どもの一人として紹介するもので、チャックの考えに共感する人は、少なくともチャックの身の回りにはなかなかいませんでした。しかし、中には、新聞社の意図とは逆に、チャックの行動を好意的に解釈する人もいました。プロバスケットボール選手のアメイジング(アレックス・イングリッシュ)です。この時、まだアメイジングの想いを知らなかったチャックは、下校中にスクールバスの車内で、同級生たちから「地球の終わりか?」と、からかわれていました。チャックが自宅に到着すると、上背があるアフリカ系アメリカ人の男性が庭でバスケットボールをしていました。その男性は、アメイジングでした。アメイジングは、あの新聞記事を読んで、居ても立っても居られず、忙しい合間を縫って、チャックに会いに来たのです。アメイジングは、どうしても野球をやりたいという気持ちになれないチャックに、バスケットボールのドリブルやシュートのコツを丁寧に教えます。チャックは、アメイジングのおかげで、少しだけ笑顔を取り戻す事ができました。



さらに、アメイジングは、ラッセルやパメラにも会い、清々しい笑顔である事を宣言します。なんと、チャックのように、自分もバスケットボールを一切止め、チャックの反核運動に協力するというのです。アメイジングは、もし、「核の全廃」が実現したら、また、バスケットボールをやりたいといいます。最近、ただでさえ、チャックの行動に戸惑っているラッセルは、チャックと行動を共にする仲間が突然、自身の目の前に現れ、さらに戸惑ってしまいます…。



この映画でメガホンを取ったのは、マイク・ニューウェル監督。代表作に、「フォー・ウェディング」(1994年)、「モナリザ・スマイル」(2004年)、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)があります。



一人の野球少年の穏やかな日々から始まったこの映画。しかし、少年が両親の知人からミサイルや核兵器について教わったのがきっかけで、突然、おとぎ話に豹変します。少年は、ミサイルや核兵器の恐ろしさのあまり、野球をやる気力を完全に失い、反核運動に力を注いでいきます。間もなく、彼に共感する仲間も現れ、彼らの行動は、順風満帆かに思われました。しかし、ある新聞記事をきっかけに、少年は、全米中から注目される事になり、少年の家族はひっきりなしに鳴る電話に出続けたり、玄関先までやってくる反核運動反対派の大人たちからの抗議行動に立ち向かったりする事で、次第に心が疲弊していきます。さらに、少年の仲間を襲う突然の悲劇がきっかけで、少年は、「格の全廃」を訴える手段として、自身の口を使って言葉を話す事を放棄し、筆談、または、自身の代わりに父親に話をしてもらう事で言葉を伝えるようになります。少年の沈黙の抗議は、一部の人間の怒りを買いますが、やがて、その努力が実る時が訪れます。具体的に何がどうなるのかは詳しく言えませんが、話が上手くでき過ぎている事だけは確かです。



途中から物語の展開がいかにもおとぎ話らしくなり、登場人物の行動や言動が極端にしか感じられなくなりますが、まだまだ反核運動に対して無理解な人が少なくなかったであろう1980年代のアメリカで、反核運動をテーマにした映画が作られたのは、日本人の一人として、とても嬉しかったです。また、「ローマの休日」(1953年)で知られるグレゴリー・ペックが物語の後半に出演しているのも、興味深かったです。DVDも、Blu-rayも、販売されていないのが非常に残念です。大事な販売情報をお伝えできず、本当に申し訳ございませんでした。