ブルーム・オブ・イエスタデイ(2016年 ドイツ・オーストリア)

ブルーム・オブ・イエスタディ DVD
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ドイツ南部・バーデン=ヴュルテンベルク州の州都・シュトゥットガルトにある州司法行政中央研究所。オーガニックフードをこよなく愛するバルタザール(ヤン=ヨーゼフ・リーファース)は、パグのガンジーを優しくなでるノルクス教授(ロルフ・ホッペ)の前で、シリアルを食べようとしたその瞬間、トト(ラース・アイディンガー)から責められます、「研究所を催事に貸すなんて。」と。バルタザールは、「貸すぐらい、いいだろ。」と言い返しますが、トトも、簡単には引き下がりません。「金儲けか?」バルタザールは、「自然食品のフェアだ。出展料は安くしてある。」と、自分のした事を正当化しようとします。トトは、バルタザールの気持ちがまるで理解できません。この研究所には、反ファシズムの写真、つまり、アウシュヴィッツ収容所の写真が飾ってあるのですから。

ブルーム・オブ・イエスタディ Blu-ray
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また、トトは、2年前から地道に準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議の責任者がバルタザールである事も、納得していませんでした。ノルクス教授は、責任者は自制できる者でなければならないと考え、責任者をバルタザールに決めたのですが、トトは、自分が自制できない人間と判断されてしまった事を受け入れられず、「下準備は良かった。」と、ノルクス教授やバルタザールにフォローされても、ちっとも嬉しくありませんでした。ノルクス教授は、ガンジーと一緒に、自身の机の方へ向かい、バルタザールは、トトに対して、ひたすら意見を述べ続けます。トトは、バルタザールの意見を聞けば聞く程、嫌悪感が増し、とうとう暴力を振るってしまいます。自身の机に戻ったノルクス教授は、トトがバルタザールを力いっぱい殴っている間に、気を失い、そのまま息を引き取ります。ガンジーは、ノルクス教授に近付き、静かに寄り添うのでした。



シュトゥットガルトの空の玄関口、シュトゥットガルト空港。トトの暴力によって鼻骨を骨折し、歯が1本抜けてしまったバルタザールは、ガンジーをバッグに入れて連れてきたトトに一緒に、ある女性が来るのを待っていました。その女性とは、アウシュヴィッツ収容所が建てられたポーランドの近代史を研究するフランス人研修生で、フランス語とドイツ語のバイリンガルであるザジ(アデル・エネル)でした。しかし、バルタザールは、トトの隣にいる事に耐えられなくなって、空港を出ていってしまいます。その後、残されたトトは、ガンジーを脇に抱えた状態で、ザジと会います。ザジは、トトと会った瞬間、トトに会えた事に大感激します。実は、ザジは、以前に、トトの著書「バルト三国の親衛隊情報部」を読んだ事があり、ずっとトトに会いたいと願っていたのです。



しかし、ザジは、この日、トトが運転した車がベンツだと知ると、突然、「タクシーで研究所に行く」と、言い出します。トトがベンツに乗っているのは、自身に対する嫌がらせだというのです。ザジの口調は、時間が経つにつれて、厳しさを増していきます。しかし、ザジは、自身の考えが大人げないのをよく分かっていました。ザジは、トトがノルクス教授を尊敬している事を知ると、急に人が変わったように安心します。それにしても、なぜ、ベンツの存在がザジの癪に障るのでしょうか?理由は、ザジの祖母・レベッカの壮絶な最期にありました。実は、レベッカが亡くなったのは、今のザジの年齢とほぼ同じ頃、第2次世界大戦の最中でした。レベッカは、第2次世界大戦時に、ベンツのガス・トラックの荷台に押し込められ、毒ガスによって、命を落としたのです。勿論、現代を生きるトトは、戦争に加担している訳ではないですが、トトと同じく現代を生きるザジは、現代においてベンツに乗る人を、第2次世界大戦の加害者に等しいと勝手に判断していました。しかし、歴史家であるトトは知っていました。ガス・トラックを製造していたのは、ベンツではなく、オペルだと。レベッカは、オペルが製造したオペル・ブリッツかマギルス・Dのどちらかで殺害されたはずで、ベンツが製造した車は、安楽死で亡くなった遺体を乗せるのに使われただけでした。



トトは、帰宅後、リビングルームで、アウシュヴィッツ会議の準備に没頭していました。飼育しているヤギが目の前に来ている事を、妻で獣医のハンナ(ハンナ・ヘルツシュプルング)に教えてもらうまで、没頭していました。トトは、40歳になった自身がザジを押し付けられた事を、思わずハンナに愚痴るのですが、ハンナは、これまでトトの仕事に関する愚痴を嫌という程聞かれていたため、とうとうヤギを連れて、リビングルームを出ていってしまいます。トトは、ハンナの後を追いかけますが、双方のやり取りは、口喧嘩に発展してしまいます。まだ幼い養女・ザラは、両親の良からぬ光景を、キッチンから見つめていました。ハンナは、ザラの姿に気付き、ようやく我に帰ります。そして、ザラを、ガンジーと一緒に、トトの母親の元に行かせて、改めて、トトの悩みに耳を傾けるのでした。



トトとザジは、空港を離れた後、中央研究所の研修生が寝泊まりする古びたゲストハウスに移動しました。向かい側には、ノルクス教授が生前住んでいた家が建っています。ベンツに乗る事をあんなに避けたがっていたザジは、タクシーに乗るのかと思いきや、実際には、ドラッグのディーラーが運転する車に乗せてもらいました。トトも、ガンジーと一緒に、ベンツに乗り、同じ場所までついてきました。到着後、ザジは、トトに対し、ドラッグのディーラーにも良い一面がある事を熱心に語ります。この時の目の輝きは、ベンツに乗る事に抵抗していた時とは、雲泥の差でした。しかし、研修生が皆、このゲストハウスで寝泊まりしている事をトトから聞かされると、ザジの表情が一変します。ザジは、ノルクス教授が向かい側の家で暮らしていた事を知ると、「ノルクス教授は、家で亡くなったのか?」と、トトに尋ね、トトから「研究所で亡くなった」と、教えてもらうと、ノルクス教授の最期の様子を熱心に尋ねます。ザジは、レベッカの壮絶な最期だけでなく、他の人の最期にも深い関心があるようです。



ところが、次の瞬間、ザジは、突然、「祖母の最期の話で、気を引いてしまった」と、泣き出してしまいます。空港にいた時、トトが、自身を半人前扱いしたのだと思い込み、思わずあのような行動を取ってしまったというのです。トトは、ザジの気持ちを落ち着かせるため、「ホテルに滞在してはどうか?」と提案しますが、ザジは、「ノルクス教授の家に行きたい。」と言い出します。そこで、トトは、ノルクス教授の墓に行く事を提案しますが、ザジは、あくまでノルクス教授の家に行く事にこだわります。「ノルクス教授の家の中に入れば、ノルクス教授はきっと喜んでくれる。」と信じ、「(自身も家の中で)ノルクス教授の存在を感じていたい。」と、いうのです。



結局、ザジは、トトの反対を押し切って、ノルクス教授の家に入ります。ザジは、トトの声に全く耳を貸さず、ノルクス教授の私物を興味深そうに眺めます。トトは、ついに説得を諦め、ノルクス教授が生前に集めたユダヤ人の写真に見入ります。しばらくして、トトは、ザジに呼ばれます。ザジが、3年前に、研修旅行でイスラエル・エルサレムの記念館に行った時の写真を、偶然見つけたのです。ザジは、「ノルクス教授は独身だったの?」と、トトに尋ねますが、トトは答えを知りませんでした。すると、ザジは、いきなり自身の恋人の存在を打ち明けます。名前はバルティといい、なんと、既婚者でした。トトは、バルティと言う名前に、何となく聞き覚えがありました。トトは、バルティが誰の事なのかを思い出そうとしますが、どうしても思い出せません。ザジは、「(バルティとの不倫を)周囲には秘密にしてほしい。」と、トトに頼み、さらに、トトに、バルティの写真を見せようとします。トトは、その写真には興味がなく、その場を離れようとしますが、次の瞬間、思わずつまづいてしまいます。ザジは、タイミング良くトトに近付き、バルティの写真を強引に見せます。しかし、写真に写っていたのは、なぜか、3歳の時のバルティでした。ザジは、「写真は、子どもの頃のものに限る。」と、最愛の男性の幼かった頃の姿に見入るのでした。トトから話を一通り聞いたハンナは、トトがザジに散々振り回された苦しみをようやく理解したかと思うと、すぐにトト公認の愛人に会いに行ってしまいます。



翌日、研究所に出勤したトトは、廊下の掲示板の前でザジと会い、前日の振る舞いが良くなかった事を詫びます。両者の関係は修復されたかに見えましたが、ザジがパリから持参した食べ物を研究員たちに配る旨を口にすると、トトの逆鱗に触れてしまいます。近代史を専門とする歴史家にあるまじき行為に思えたからです。やがて、ランチの時間になり、研究員たちは、ワーキングランチを始めます。バルタザール、アニータら、研究所の研究員たちは、ザジが持参した食べ物を美味しそうに食べますが、トトだけは、皆の前で堂々と食べ物を元の皿に戻します。バルタザールらは、トトの大人げない行動に異議を唱えます。その後、今度は、アニータから、ダイムラー・ベンツがアウシュヴィッツ会議のスポンサーになる可能性が高い事が報告されます。すると、ザジがまたしても空港で見せたような嫌悪感を露わにします。トトも、ザジの肩を持ち、ワーキングランチは不穏な空気に包まれてしまうのでした。



そんなある日、ノルクス教授が生前、アウシュヴィッツ会議のスポンサーになってくれるよう依頼し、承諾をもらっていた大女優のルビンシュタインが、ノルクス教授の訃報を受けて、スポンサーの辞退を申し出ます。因みに、ノルクス教授は、アウシュヴィッツ収容所からの生還者の一人であるルビンシュタインに講演も依頼しており、ルビンシュタインはそれも承諾していましたが、講演の方も辞退すべきかどうか考えていました。トトはザジと一緒にルビンシュタインの住む豪邸を訪れ、説得にあたりますが、ルビンシュタインは、ドイツ語を話そうとせず、アウシュヴィッツ収容所にいた時代の話をするのもとかく嫌がり、自身の美容整形の自慢をしたり、トトに結婚生活が上手く行っているかどうか根掘り葉掘り聞き出したりして、懸命に話を逸らそうとします。このままでは、アウシュヴィッツ会議の開催自体が危ぶまれてしまいます。トトは、最悪の事態を避けるべく、熱心に説得を続けるのですが…。



この映画は、2016年、第29回東京国際映画祭で、東京グランプリとWOWOW賞を受賞しました。メガホンを取ったのは、クリス・クラウス監督。孤独な女囚と、彼女の才能を見抜いた年老いた女性ピアノ教師が、音楽を通じて共鳴していくドイツ映画「4分間のピアニスト」(2006年)が有名です。クラウス監督は、自身の家族に、第2次世界大戦にまつわるダークな過去があると知り、大変なショックを受け、自らホロコーストの調査を重ねました。その際、加害者と被害者の孫にあたる人たちが、その歴史をジョークにしながら楽しそうに話している姿に触れたそうです。その人たちは、家族の歴史自体を忘れた訳でもなく、そこから来る深い心の傷が癒えた訳でもないのですが、クラウス監督は、彼らの未来を感じさせる心の豊かさに感銘し、この映画のアイデアが浮かんだのだそうです。登場人物の台詞は、正直言ってあまり品が良くない言葉遣いが目立ちますが、クラウス監督のこのようなチャレンジ精神は非常に素晴らしいと思いました。



この映画は、生真面目且つ人一倍短気なトトと、情緒不安定でいつ突拍子もない行動を取るのかが分からないザジの2人が映画全体を支配していますが、それをアコースティックギターのBGMが見事に和らげています。この映画は、音楽の力がなければ、ただただ奇妙なだけで、2時間余りに及ぶ上映時間が2倍にも3倍にも感じられたかもしれません。私は、この映画を通して、映画音楽の一つの役割を学ぶ事ができたように思います。



ところで、なぜ、トトは、こんなにも気が短いのでしょうか?その理由は、第2次世界大戦中にトトの祖父が取ってしまった、取り返しのつかない行動にありました。それは、どういう事なのでしょうか?また、トトの祖父がザジの祖母と面識があった事も、明らかになります。さらに、トトとザジの人間関係にまさかの変化が…。これらの詳細を知りたい方は、ぜひDVDをご覧いただけたらと思います。

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