ハートビート(2015年 アメリカ・ルーマニア)

ハートビート [DVD]
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アメリカ・ニューヨークのアップタウンにある古いレンガ造りのアパートの4階の部屋で、一人の青年がバイオリンを弾いています。青年の名は、ジョニー(ニコラス・ガリツィン)。イギリス・ロンドンに住むチェリストのサイモンが所有するこの部屋で一人で暮らしている、イギリス人バイオリニストです。バイオリニストと言っても、経済的にまだまだ余裕がある訳ではなく、生活のために地下鉄で演奏をしています。一方、ハドソン橋を渡っている一台のタクシーには、プロのバレエダンサーを目指すルビー(キーナン・カンパ)が母親と一緒に乗っています。ニューヨークにあるマンハッタン芸術大学ダンス学科への入学を控えているルビーは、バレエダンサーとしての才能を認められ、奨学金を得て、通学する事になっていました。タクシーがハドソン橋を渡り切り、マンハッタン芸術大学の前に到着すると、母娘はタクシーを降ります。「電話するのよ。大した用事がなくてもいいから。」母親は、目に涙を浮かべながらそう話すと、再びタクシーに乗り、去っていきました。ルビーは、涙をこぼしながら、母親を見送るのでした。



その後、ルビーは大学の校舎に入り、学長のマルコバ(マヤ・モルゲンステルン)との面談に臨みます。ルビーは、ダンス学科のC2クラスに入る事になりました。大学では、コンテンポラリーダンスを除く全ての授業に服装の規定があり、遅刻は厳禁。早速、翌日の午前9時に最初の授業が始まる予定になっています。ルビーは、コンテンポラリーダンスの授業に何を着るべきか、マルコバにアドバイスを求めますが、「想像力を働かせて」と言われるだけでした。こうして、ルビーは面談を終え、これから新生活を過ごすアパートに向かうため、地下鉄に乗ります。



ルビーの乗った車両が発車し、もう少しで駅のプラットホームを離れるところで、ルビーの視界に、ある男性の姿が入ってきます。男性は、プラットホームで、電子音を流しながらリズミカルにバイオリンを弾いています。バイオリンを弾いていたのは、ニューヨークのアップタウンにあるアパートで暮らしているジョニーでした。ルビーにとってはほんの一瞬の出来事でしたが、この時、まさか、これが、ルビーにとっても、ジョニーにとっても、運命の出会いであるとは、双方とも思っていませんでした。しばらくして、ルビーは、アパートに到着します。ルビーを出迎えたのは、同じダンス学科の1年先輩で、これからルームメイトとしてルビーと一緒に過ごす事になるジャジー(ソノヤ・ミズノ)でした。2人は、すぐに枕でお互いを叩き合ってふざけ合えるほど、意気投合します。



一方、ジョニーは、地下鉄の駅を出て、弁護士のニールに会いに行きます。ジョニーは、ニールの姿を見つけると、地下鉄の駅での演奏中に得たチップを全額手渡し、数日後にニールから連絡を貰う約束をして、アパートに戻ります。ジョニーがアパートに着くと、階段の踊り場で、アフリカ系アメリカ人の青年に声を掛けられます。声を掛けたのは、同じアパートの3階に住むヘイワード(マルクス・エマニュエル・ミッチェル)でした。ヘイワードは、ジョニーに仲間を紹介しようとしたり、おいしい料理が食べられる店を紹介したりと、何かと世話好きな様子。ジョニーは、ヘイワードに誘われるがままに、3階の部屋に入っていきます。そこには、ヒップホップダンスチーム「スイッチ・ステップス」のメンバーが大勢集まっていました。型にこだわらない、まさに、フリースタイルでダンスをするリック(イアン・イーストウッド)、「スイッチ・ステップス」で女神のような存在のアフリカ系女性メンバー・ポップタート(コンフォート・フェドーク)、まだまだあどけなさが残るオリー、料理や掃除が得意なクリスピー、髪が赤いのが特徴の女性メンバー・ジェット、ヘイワードの弟・ティップトー、そして、全てのジャンルのダンスをこなせるジャクソンが、ダンスの練習に汗を流していました。クリスピーがジョニーの姿を見つけると、ジョニーに近付き、自分で調理したイカフライをおすそ分けします。ジョニーが少々戸惑いながらイカフライを口に運ぶと、今度は、メンバー全員でパフォーマンスを披露します。ジョニーは、「スイッチ・ステップス」なりの最高のもてなしに、ただただ圧倒されるばかりでした。



翌日の早朝、ルビーは、ジャジーと一緒に大学へ登校します。大学に着くと、ルビーは、ジャジーから、プロのバイオリニストを目指す学生・カイル(リチャード・サウスゲイト)を紹介されます。ルビーはカイルの風貌に一目惚れしてしまいますが、ジャジーは、そんなルビーに、「(カイルは)クズ男よ。」と、忠告します。それからすぐに、いよいよ授業が始まります。最初は、クラムロフスキー(ポール・フリーマン)が教えるクラッシックバレエの授業です。ルビーは、初めての授業を前に、緊張していました。一方、ジャジーは、同じ授業を受けるエイプリル(アナベル・クタイ)の姿を見つけると、「(エイプリルは)完璧だから、嫌い。」と、呟きます。この日のクラッシックバレエの授業で、クラムロフスキーが指示したのは、胴体を軸にして回転するピケでした。クラムロフスキーは、子どもの頃に戦争を体験したのですが、その際、強制収容所に収容され、体を壊したため、杖が欠かせない状態にありました。しかし、授業で教え子に声を掛ける時は、体の弱さを全く感じさせない、実に大きな声を出していました。バレエダンスの授業の次は、ルビーが苦手なコンテンポラリーダンスの授業です。ルビーがコンテンポラリーダンスを苦手としている理由は、至ってシンプルで、これまでコンテンポラリーダンスに挑戦した事がなかっただけでした。授業中、ルビーは、パートナーを務める男子学生とぶつかりそうになります。授業を担当するオクサナ(ジェーン・シーモア)は、それを目撃し、ルビーに近付きます。ルビーは、オクサナに向かって、あれやこれやと言い訳をするのですが、オクサナには全く通用しませんでした。



この日の帰り、ルビーとジャジーは、一緒に帰宅しませんでした。ジャジーが、足にできたマメを治すための薬を買いに、薬局に立ち寄ってから帰る事にしたのです。ルビーは、一人で帰宅の途に就きます。大学の最寄りの地下鉄の駅まで来たルビーは、プラットホームに続く階段を降り、バイオリンを弾いていたジョニーの傍を通りかかると、さりげなくチップを渡します。お互いに何となく無言で見つめ合うと、車両が到着し、車内から全身黒ずくめの若者の集団が降りて来ます。若者たちは、居合わせた乗客をわざと大声で脅し、プラットホームで作業をしていた工事会社の作業員たちに喧嘩を売ったかと思うと、なんと、作業員たちを相手に、ダンスバトルを始めます。ジョニーも、その場を盛り上げようと、バイオリンをリズミカルに弾きます。



ダンスバトルを見守る人の中には、当然、スマートフォンで動画を撮影して、インターネットにアップする人がいて、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、動画をしっかりとチェックしていました。しかし、この動画に映る乗客たちの間を、何人かのスリが通り抜けていました。若い女性のバッグを強引に奪い、ルビーやその隣にいた人たちを突き飛ばし、ジョニーがルビーの体を起こしている間に、床に置いたままにしてあったジョニーのバイオリンを盗んでいきました。ジョニーは、バイオリンがなくなっているのに気付いた時、相当なショックを受け、駅を出ます。ルビーは、そんなジョニーの事が心配になり、後を追いかけます。ルビーは、ジョニーに追い付くと、良かれと思って、懸命にジョニーを励ましますが、励ます度にジョニーを怒らせてしまいます。なぜなら、ジョニーのバイオリンは、亡き祖父の形見だからです。ルビーは、バイオリンが違法に質屋で売られたのではないかと心配し、ジョニーと一緒に、近くの質屋に向かいますが、ジョニーのものらしきバイオリンはありませんでした。ルビーは、念のために、自身の連絡先が書かれたメモを質屋の主人に手渡します。



ジョニーには、バイオリンを盗まれた事の他に、もう一つ、心配な事がありました。何日経っても、ニールから連絡が来ないのです。いつまで経っても連絡が来ないと、アメリカで市民権を得た事を証明するグリーンカードを手にする事ができません。ジョニーは、この日まで何日も待ち続けましたが、とうとう待ち切れなくなり、以前にニールから受け取っていた名刺を手に、ニールの法律事務所へ乗り込みます。しかし、実際に訪ねてみると、法律事務所自体が架空であった事が分かります。確かに、ジョニーは、3か月も前から、ニールにグリーンカードの取得の事で相談をしていましたが、法律事務所の中に入らせてもらえた事は一度もなく、必ず、外で会っていました。ジョニーは、悔しさのあまり、建物の外に出て、ゴミ箱を蹴っ飛ばします。



同じ頃、大学の構内にいたルビーは、学生が使う楽器の修理を受け付ける窓口で、バイオリンを借ります。あくまで、バイオリンを盗まれてしまったジョニーを喜ばせるのが目的だったのですが、窓口で対応した男性から、「弦楽器&ダンスコンクール」が近々開催される事を教えてもらいます。もし、自分がジョニーと一緒に出場し、優勝すれば、ジョニーは、賞金で新たにバイオリンを買う事ができ、大学から奨学金が出て、さらに、学生ビザも取得できて、ジョニーにとって、まさに良い事ずくめではないかと考えたのです。ルビーは、ジョニーを説得するため、ジョニーの住むアパートへ向かいます。一方、ジョニーは、グリーンカードを取得できない事で、アメリカにずっと不法滞在している状態にある事が分かり、住んでいるアパートの部屋を追い出されるかもしれないという危機に陥っていました。すると、そこへ、ルビーが大学で借りてきたバイオリンを持って、訪ねてきます。早速、コンクールへの出場を提案するルビーでしたが、ジョニーは、常日頃から富裕層を嫌っている事から、「学校の施しは、要らない。エリート主義の学校も、気に入らない。」と、殻に閉じ籠ってしまいます…。



大学の授業でのクラッシックバレエやコンテンポラリーダンス、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルと、様々なジャンルの完成度の高いダンスを堪能できるこの映画。物語の後半では、アイリッシュダンスや社交ダンスも登場し、観る者としてはますますテンションが上がっていきます。ダンスの名シーンの数々を盛り上げるのは、ロンドン、パリ、ロサンゼルス、ニューヨークから集められた、世界最高峰に位置する62人のダンサーたちです。端役なのがあまりにももったいないくらいに、完成度の高いダンスで、観る者を魅了します。特に、印象に残ったのは、地下鉄の駅でのヒップホップダンスのバトルのシーンです。それぞれのチームが、4列から成る逆三角形のフォーメーションを作り、向き合うようにしてヒップホップダンスを披露するのですが、どちらのチームも圧巻の一言に尽きます。ダンスの様子を真正面から撮るカメラワークは、ダンサーたちの一糸乱れぬ動き、観る者に容赦なく迫ってくるような迫力が非常に伝わりやすく、見応えがあります。

ダンサーといえば、「スイッチ・ステップス」のメンバーたちも、忘れてはいけません。あらすじにも触れたように、どのメンバーも非常に個性が強いのですが、ダンスをする時の団結力は実に見事で、集団のあるべき姿とは何なのかを、改めて考えさせられました。各々の個性を重んじる事は非常に大事ではありますが、たとえ、個性が全然違っていても、いざという時に団結する事は、もっと大事なんですよね。



そして、数多のダンサーたちの中心に立って、さらにグレードアップしたパフォーマンスを披露しているのが、3人のメインキャストです。まず、ルビーを演じたキーナン・カンパは、この映画が女優デビュー作です。カンパは、17歳の時に、ロシアのサンクトペテルブルクにある世界的に有名なバレエ学校、ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学し、ロシア人以外では初めてディプロマを取得しました。その後、アメリカ人で初めて、ロシアの名門マリインスキー・バレエに入団。「ドン・キホーテ」や「ジゼル」等で、メイン・キャストを務めました。

ジャジーを演じたソノヤ・ミズノは、11歳の時から20歳の時まで、イギリスのロイヤル・バレエ学校でバレエを学びました。その後、ドレスデン国立歌劇場バレエ団やスコテッィシュ・バレエ団に在籍し、2015年に、映画「エクス・マキナ」で女優デビューしました。その翌年には、「ラ・ラ・ランド」にも出演しています。そんなカンパが演じるルビー、ミズノが演じるジャジーの2人が、大学のクラッシックバレエの授業を受けるシーンは、必見です。あくまで、バレエの公演ではなく、バレエの授業のシーンだと分かって観ているのに、体の軸の美しさや腕や脚の絶妙なカーブが全くぶれる事なく、見事に踊っているのを観ていると、「凄い」以外の言葉が出てきません。

また、ジョニーを演じたニコラス・ガリツィンは、2014年に映画"The Best Beneath My Feet"で俳優デビュー。イギリスでは非常に注目度の高い若手俳優ですが、俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしても活躍しており、自ら作詞もしています。劇中でバイオリンを演奏している時に、かなり自信に満ちた表情をしているのは、ミュージシャンとしてのキャリアがあってこそなのかもしれません。特に、電子音を取り入れた演奏の時は、本当に楽しくリズムに乗っているので、そう感じました。



監督を務めたのは、マイケル・ダミアン。俳優、ミュージシャン、映画監督と、多彩な顔を持っています。俳優としての代表作に、テレビドラマ「ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス」(1980年~1998年に出演。)が、ミュージシャンとしての代表作に、"Rock On"(1989年)が、そして、映画監督としての代表作に、「マーリー2 世界一おバカな犬のはじまりの物語」(2011年)が、あります。



さて、ルビーの前で殻に閉じ籠ってしまったジョニーですが、すぐに我に帰り、ルビーに謝ろうと、ある方法でルビーに近付きます。しかし、それも失敗に終わり、ジョニーは、今度こそルビーに誠意を見せようと、ルビーと一緒にコンクールに出場する決意をします。ちなみに、コンクールには、カイルも出場します。しかも、カイルと組むのは、なんと、エイプリル。この勝負に負けたくないジョニーは、ルビーの他に、「スイッチ・ステップス」ともタッグを組みます。勝つためなら手段を選ばないジョニー。果たして、このやり方は、吉と出るのか、凶と出るのか。いや、その前に、ジョニーには、未解決のあの問題が…。この物語は、一体どうなってしまうのでしょうか。

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