イル・ポスティーノ(1994年 イタリア)


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イタリアの小さな島で年老いた父親と暮らす内気な男性・マリオ(マッシモ・トロイージ)の元に、アメリカに移住したガエターノとアルフレードから絵葉書が届きます。そこには、アメリカの経済的な豊かさを実感している事や、「いつかは車を買いたい」という夢が記されていました。マリオは、彼らのアメリカ生活が羨ましくて仕方がない様子でした。自分は、アメリカではなく、イタリアの小さな島で暮らしているから、水不足は当たり前。将来就きたい仕事に関しても、若かりし頃の父親のように、漁師にはなりたくない。マリオは、自身の生活のあらゆる事が嫌になっていました。父親は、そんなマリオの将来を心配していました。「アメリカでも、日本でもいいから、仕事をしてほしい」と願っていました。


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マリオは、自転車に乗り、近所の映画館へニュース映画を観に出掛けます。この日、ニュース映画で流れたのは、世界的に有名な南米・チリ出身の詩人パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)がローマに到着した時の様子でした。ローマのテルミニ駅には、パブロを崇拝してやまない大勢の記者、作家、インテリが殺到し、パブロを心から歓迎していました。パブロは、独特の思想が原因で、チリ政府から追放されていました。実は、パブロは、共産主義者だったのです。政治家を志すコジモ(マリアーノ・リギッロ)は、パブロが島民たちに、共産主義の思想を植え付けるのではないかと心配していました。しかし、イタリア内務省は、パブロを崇拝する人々から強固な抗議を受け、チリ政府による国外追放要求を保留にしました。こうして、パブロは、マリオが暮らす島に滞在する事になったのです。ただし、パブロは、島に滞在している間は、警察の許可を貰わずに島の外に出る事はできませんでした。


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マリオは、映画館からの帰りに、ある募集広告を目にします。それは、近所の郵便局が作成した郵便配達人(ポスティーノ)の募集広告で、応募条件の箇所には、「要・自転車」と書いてありました。ある日、マリオは、郵便配達人の仕事に応募するため、郵便局を訪れます。郵便局長のジョルジョ(レナート・スカルパ)から、仕事の内容の詳しい説明があったのですが、ジョルジョ曰く、島にカラ・ディ・ソットという町があり、そこで暮らす住民の中で、唯一文字の読み書きができる人物の元へ郵便物を届けなければならず、その人物が、なんと、パブロだというのです。郵便局には、わずか2日間で、世界中から山のような数のパブロ宛ての手紙が届いていました。郵便配達人は、給料が極めて安く、配達先の人たちからチップを受け取らないと、生活が成り立ちません。マリオの場合は、配達先が1軒しかないので、あまりチップに期待できませんでしたが、マリオは、何の不満もありませんでした。こうして、マリオは、郵便配達人として働く事になったのです。



数日後、マリオは、初めてパブロの滞在先へ郵便物を届けに行きます。遂に、あのニュース映画で観たパブロに会う事ができ、感激で胸がいっぱいの様子のマリオ。一方、パブロは、淡々とした表情で郵便物を1つずつ確認しています。すると、そこへ、パブロの名を呼ぶ女性の声が。パブロは、妻・マチルデ(アンナ・ボナイウィート)と一緒に、島に滞在していたのです。マリオは、別れ際にパブロからチップをもらい、その場を後にします。



ある日、マリオが注文していたパブロの詩集がナポリから届きます。マリオは、ある事を考えていました。パブロ本人に(その詩集に)サインをしてもらい、給料が入ったら、それをナポリへ持っていき、道行く若い女性たちに見せようと考えていたのです。ジョルジョは、「郵便配達人が頼み事をするのは禁じられている」と、パブロからサインを貰おうとしているマリオに釘を刺しますが、マリオの心の中には、罪悪感が全くと言っていい程ありませんでした。そして、郵便物が1つもない日に、わざわざパブロの滞在先に詩集を持参し、本当にサインをしてもらったのです。





しかし、マリオはサインの内容に不満がありました。パブロのサインを書いてもらったまでは良かったのですが、マリオの名前は書いてもらえなかったのです。これでは、ナポリで若い女性たちにサインを見せた時に、自分がパブロ・ネルーダと面識がある事を証明できません。「どうにかして、パブロにサインを書き直してもらえないだろうか」と考えるマリオ。たまたま同じ詩集を持っていたジョルジョは、そんなマリオに自分のを渡し、ジョルジョの名前入りのサインをしてもらうよう頼みます。しかし、マリオは、既にサインをしてもらっているものをジョルジョに押しつけ、ジョルジョが持っていたものにマリオの名前入りのサインをしてもらおうと考えます。しかし、当然ながら、マリオの考えは、ジョルジョには通用しませんでした。



やがて、マリオは、配達の際に、隠喩とは何か、詩に余計な説明は要らない事など、パブロから詩の手ほどきを受けるようになります。また、パブロが手を汚していた時に、マリオがパブロに代わって、郵便物を開封した事もありました。マリオとパブロは、すっかり、師弟関係とも、親友同士とも言えるような関係になっていたのです。



ある日、パブロは、海岸を散策していました。すると、そこへマリオが郵便物を届けにやって来ます。パブロは、いつも水が足りなくて困っている事をマリオに打ち明けます。島で使われる水は、月に1回、タンカーによって運ばれてくるのですが、島に届いて1か月も経たないうちに貯水槽が空になってしまうのです。パブロは、マリオに抗議する事の大切さを説きます。「強い意志で改革に成功する人々もいるのだ」と。しかし、この言葉が後にマリオの人生に大きな影響を与える事になるとは、まだ誰も想像できませんでした。



そんなある日、マリオは、島にある飲食店を訪れ、一人でテーブルサッカーゲームをしていた女性・ベアトリーチェ(マリア・グラッツィア・クチノッタ)に一目惚れします。しかし、ベアトリーチェの叔母で、この飲食店を営むローザ(リンダ・モレッティ)は、マリオに対し、強い警戒心を持っていました。もし、マリオがベアトリーチェと恋仲になったら、つい魔が差して、ベアトリーチェの体に触れたくなってしまうのではないかと思っていたのです…。



この映画に登場するパブロは、実在の人物です(1904年~1973年)。チリで、詩人の他に、外交官、政治家としても活躍していましたが、1948年に自身が所属していた共産党がビデラ政権によって非合法化され、国外への逃亡を余儀なくされました。亡くなる2年前の1971年には、ノーベル文学賞を受賞しています。パブロは、1950年代に、イタリアのナポリ湾に浮かぶカプリ島に身を寄せていたのですが、この映画は、チリ出身の作家アントニオ・スカルメタがその時代の話を基にして執筆した小説が原作となっています。



マリオ役のマッシモ・トロイージは、1953年2月19日にイタリア・カンパニア州ナポリ県で生まれました。キャバレーをはじめとする舞台で経験を積み、その後、才能が認められて、イタリア国内で喜劇俳優、脚本家、映画監督として活躍していました。しかし、トロイージは、もともと心臓が弱く、この映画の撮影が行われた頃には、即刻手術を受けなければならない状態にありました。トロイージは、そんな深刻な状態にもかかわらず、手術日を延期して、体力の衰えと闘いながら撮影に臨んでいましたが、撮影の途中で倒れ、1994年6月4日、クランクアップからわずか12時間後に、41歳の若さで亡くなりました。実際にトロイージがマリオを演じている時の顔色を観たり、台詞回しを聴いてみたりすると、人生を切り開いていく若者を、命を削るようにというか、最後の力を振り絞って演じていたのがよく分かります。



パブロ役のフィリップ・ノワレは、そんなトロイージの演技を真正面から受け止める立場でした。両者の演技を漢字1文字で例えるなら、シンプルな意見ではありますが、トロイージの魂の演技が「動」で、ノワレの落ち着いた演技が「静」ではないでしょうか。ノワレが演じたパブロは、お洒落を楽しみ、蓄音機でレコードをかけ、妻・マチルデと過ごす時間を大切にし、心を静めて詩を紡いでいるように見えて、内に秘めている共産主義者としての闘志をさりげなく見せる様子が、実に見事でした。



さて、マリオは、ベアトリーチェに一目惚れしてしまいましたが、2人の目の前に立ちはだかる壁は、ローザだけではありません。果たして、2人は立ちはだかる壁の数々にどう立ち向かっていくのでしょうか?また、「強い意志で改革に成功する人々もいるのだ」というパブロの言葉は、マリオの人生にどのような影響を与えるのでしょうか?大きな驚きや小さな驚きが、あなたを待っていますよ。ぜひ、ご覧になってはいかがでしょうか?


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この記事へのコメント

アールグレイ
2018年12月15日 05:48
丁寧な解説に、忘れていた細部を思い出し、感動を新たにしています。18年前に観ました。好きな映画の一つです。
こんなにも細部まで理解できたなら、もっともっと感動するのではないかと思いました。
2018年12月15日 11:55
アールグレイさん、こんにちは。

18年前にご覧になっていたんですね。「イル・ポスティーノ」は、観る者をジワリと感動させてくれますよね。

あまりにも有名な映画の名シーンを堪能するのは勿論素敵な事ですが、もっとたくさんの人たちに知ってほしい映画の細部に感動するのは、もっと良いですよね。

だから、映画鑑賞は楽しいんですよ~!

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